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魔石職人の冒険記  作者: 川島 つとむ
第六章  魔石の可能性
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地竜の卵

登場人物 ロップソン=ロプ(台詞表記) ジャド=ジャド(台詞表記) ニイナ=ニナ(台詞表記) ミリアナ=ミア(台詞表記) レイセモルス=レイ(台詞表記) 小林幸=幸(台詞表記) ミーリス=ミリ(台詞表記)

 アースドラゴンが生息している谷は、冒険者の間ではそれなりに知られているのでそこへとやって来ていた。ただこの谷に住んでいるアースドラゴンの数は多く、都合よく卵を採ることができるかどうかはわからない。それに親ドラゴンも退治しておかなければ、後々町までドラゴンがやって来る可能性もある。

 そしてもっとも最悪な事態としては、群れ全体が町まで追って来た場合だった。たった一体のドラゴンでさえ、討伐には危険が付きまとい中堅どころすら敬遠するドラゴンが、群れで町に入って来たとしたら町などひとたまりもないだろう。それだけではなく、そのドラゴンが通って来たルートに他の村や町があった時など、どれだけの被害があるかわかったものではない。

 そんな訳で、僕らが狙うアースドラゴンはなるべく他のドラゴンの巣から離れた場所にあり、討伐数を最小限にできるところでこちらに有利な状況で戦える地形でなければいけない。後は時間との勝負になるが、血の匂いや戦闘の物音などで他のドラゴンがやって来ないうちに撤収することができればばっちりだ。

 そう考えると、この追加の依頼はかなり難易度が高い。まあその分報酬はかなり高くなるそうだけれど、命と釣り合う金額かと言われれば、結構微妙なところだと思えた。


 ジャド「とりあえず偵察に出よう。ニイナだけだときついだろうから、俺とサチさんも来てくれると安心だな」

 ロプ 「それなら僕がジャドの代わりに行くよ。その方が臨機応変に対応できる」

 ジャド「そうしたらマギーが動かせないぞ」

 ロプ 「ニイナ、マギーを草とかで隠せないか?」

 ニナ 「できるよ!」

 ミリ 「ぱっと見で発見されないようにしたらいいのだろう? それでいいのなら私がやっておこう。偵察に行ってくれ」

 ジャド「ミーリス、できるのか?」

 ミリ 「一応先生に教えてもらっている。完璧に出来るとまでは言えないが、人間相手じゃないなら十分だと思う」

 ロプ 「わかった。じゃあ行って来るよ。まずは狙えそうな巣を探すことと、卵があるかの確認だな?」

 ジャド「ああ、頼んだ」

 ミア 「三人とも、気を付けてくださいね」

 ニナ 「任せて!」


 それぞれに挨拶を交わし、ニイナを先頭にして移動を開始した。そんな僕らの後ろから残ったメンバーの声が聞こえた。


 ミリ 「じゃあ、少し離れた場所で不自然にならないように、葉っぱの付いた枝を集めてくれ」

 ジャド「了解」

 ミア 「わかりました」

 レイ 「わかった」


 向こうは大丈夫そうだな。


 ロプ 「大気よ我が身を守れ、ウィンドシールド。多分これで、音や匂いがドラゴンに漏れることは無いと思うぞ」

 ニナ 「了解! じゃあ進むね」

 幸  「ジュウジホウコウニドラゴンガイマス、カズハイッパイ」

 ニナ 「一杯いるんだったら別の所がいいね」

 ロプ 「だな。確か洞窟とか、岩の隙間なんかに巣を作っているはずだ」

 ニナ 「分かった。適当に見て回るね」

 ロプ 「ああ」


 ちょこまかと動き回るニイナに何とか付いて行き、僕達でも何とかなりそうなアースドラゴンの巣を探して大体一時間程かかってよさそうな場所を見付けた。念の為に卵があるかどうかも確認してみたけれど、そっちもちゃんとある。ここなら条件にぴったりだな。


 ニナ 「じゃあ、私がミリアナ達を連れて来るよ」

 ロプ 「わかった、道中気を付けろよ」

 ニナ 「ドラゴンの縄張りに来るモンスターなんていないって」

 ロプ 「いやいや、はぐれやもっと上位のモンスターだっているんだから、警戒はして行けよ」

 ニナ 「確かに。じゃあ行って来る!」


 そう言って、ニイナは元気よく走って行った。


 ロプ 「大丈夫かな?」

 幸  「もう立派な冒険者だもの。大丈夫ですよ」

 ロプ 「まあ見た目はまだまだ子供っぽいけれどな」

 幸  「それ、本人の前では言っちゃ駄目だよ」

 ロプ 「ああ、わかっているって」


 風の守りがあるから、多少の雑談をしても、相手に気付かれることはない。もっと上位のドラゴンになってくると、魔力を感じ取ってやって来るやつもいるらしいけれど、アースドラゴンはそこまでは優秀ではないらしい。

 まあ、おかげで警戒しながらもこうやって幸と雑談していられるんだけどね。

 ジャド達を待つこと四十分くらい。こっちはその間随分とのんびりさせてもらった。これから戦闘っていうのにいい意味で緊張がほぐれた感じだな。ドラゴンは丁度岩が重なって洞窟っぽくなったところに巣を作っていて、卵を守っている雌が巣で座わり雄がその周りでうろついている。今のところそれ以外目だった動きはない。


 ジャド「なかなかよさそうな所だな。さてどう対処するかだが・・・・・・まずは卵から引き離してからじゃないと、戦闘の最中に割れるかもしれん。そうだだ雄の方はレイが相手してなるべく巣から引き剥がしてくれ。雌は俺とミーリスで、できるだけ卵に被害が出ないように押さえよう」

 ロプ 「一体ずつ倒して行くってことだな?」

 ジャド「ああ、雄が倒れるまでは俺達で雌を押さえておく」

 ミリ 「了解だ」

 レイ 「やってみよう」

 ジャド「それじゃあ、準備はいいか?」

 ニナ 「いつでもいいよ!」

 ミア 「がんばります!」


 みんなが気合を入れる中、僕は幸に指示を出しておく。


 ロプ 「アースドラゴンは、火属性に弱いから、今回は火属性の攻撃で対応した方が良いかもしれない」

 幸  「大丈夫。相性の訓練も受けたから」

 ロプ 「さすが発明王、抜かりないな~」

 幸  「えっと、バグ君はあまり属性について詳しくないみたいで、属性の攻撃法方は用意してくれたんだけれど、相性自体はレイシアさんが教えてくれたの」

 ロプ 「あー、そうなんだ・・・・・・。発明王っていっても何でも分かるわけではないってことか」

 幸  「レイシアさんが言うには、バグ君は相性を気にしないでも大体相手が倒せたから、教える必要を感じなかったんだって」

 ロプ 「は? っという事は、発明王はやっぱり魔導師級の魔法使いなのか?」

 幸  「実力とかはよく知らないけれど、レイシアさんは手も足も出ないくらい強いって自慢してたかな」

 ロプ 「ほへ~。あの最高峰の冒険者っていうレイシアさんが、勝てないっていうのか・・・・・・相当な実力者だな。よくそんな人が無名のままでいられたもんだ」

 幸  「でも、発明王って本当は他の人の名称なんでしょう? バグ君は自分の情報をなるべく漏らさないように行動していたらしいよ」

 ロプ 「はー、それはまた勿体無いことを。まあドラゴンなら、名誉とかはいらないのか。光物は好きそうだしそれで正体を隠して、商売だけしていたのかもな~」

 幸  「どうなんだろう? そもそもあそこはお金を必要としていない感じだったから、レイシアさんの為に稼いでいたって感じに見えたよ」


 ぐっ、つくづく差を感じる。同じ魔道具を作る者として、ここまで格が違って来るともう段々比べること自体が間違いだって思えて来る。見習わなくちゃっていう想いはあるのだが、全然追付ける気がしない。やっぱ僕では近付く事さえ無謀なのかな~


 ジャド「お~い、お二人さん。そろそろいいかな?」

 ロプ 「ああ、悪いな。いつでもいいぞ」

 ジャド「行くぞ!」

 ロプ 「大気よ我が身を守れ、ウィンドシールド」


 ジャドが走り出した瞬間、その他のドラゴンに気付かれないように、風でここの一体を覆う。所詮は一時凌ぎなのだがこれで多少は時間も稼げるだろう。

 隣ではおそらく雄と思われるドラゴン、巣の周りにいてうろうろしている方を幸が狙撃していた。それにより侵入者に気付いたアースドラゴン達だが、雄の方がこちらの方へと走り出そうとしているのが見えた。


 ミア 「ストロング。アジリティ」


 ドラゴンへと走って行くレイとニイナに奇跡の力が降り注ぐ。ミリアナが強化の魔法を使って支援したようで、レイはドラゴンを押さえなければいけないので力を強化し、ニイナは素早く動けるように敏捷を強化したと予想する。

 そしてまだ勢いに乗っていないドラゴンの前に走り込んで行ったレイが、盾で何とか鼻先を叩いて押し止めていた。まだ動き出したばかりだったので、そこまで勢いが付いておらず何とか間に合ったようだな。補助魔法も効いたのかもしれない。

 おっと、こんなところでのんびり見学してる場合じゃないな。レイが受け止めてくれたこの機会に、こちらもがんがん攻めて行こう。


 ロプ 「燃え盛れ炎よ、ファイアランス」

 ミア 「はっ!」


 隣では幸も攻撃に参加していて、かなり痛そうなダメージを与えて行っていたので、その傷を広げるように魔法を誘導する。それに続くように繰り出されたミリアナの攻撃は、どんな効果かよくわからないものだったが、前に使っていた神罰より上位のダメージ系の力みたいだった。

 本来、魔法使いとはまったく系統の違う奇跡の力である神聖系の魔法は、呪文も技名とかも特に必要としない。こっちからすれば魔法名を言ってもらえると、今何をしているのかがわかりやすくて助かるのだけれどね。

 その神官の使う魔法の発動条件は、普段から神への感謝を忘れず祈りを捧げ、必要な時に強い意思を持って力を行使しようという意思を持つことだったかな? だから、神官の奇跡は魔法使いとは根本から違っている。まあ、神様から力を借りているだけだからね。魔法使いで近いものといえば召喚魔法みたいなものだろう。

 その代わり信仰が乱れると神様から借りられる力も薄れるとか聞くし、疑いを持つとまず間違いなく力を失って奇跡を起せなくなるそうだ。後は神の意に沿わない者も力を貸してもらえないらしい。やっぱりちょっと扱いにくい力だよね。

 まあそんな事を考えているうちに、ニイナもがんがん攻め続けて雄のドラゴンを倒す事ができた。

 早速属性を変えることができるようにしたのが役に立ったみたいだな。それに、ちゃんと日本刀を使いこなせているようで、見ていて安心できた。


 ロプ 「ジャド、こっちに下がってくれ!」

 ジャド「了解!」


 次は雌を倒すのだが、その前に卵から離さなければ卵が割れてしまうかもしれない。死に際に卵を守ろうと倒れこまれでもしたら、せっかくの苦労が水の泡となる。

 ジャドが下がるのと、幸が誘き寄せる為に狙撃したことで、雌も巣から離れてこちらへと向かって来た。雄がやられて後がないと悟ったのだろう。どうやらうまくいきそうだ。

 その後はジャドとレイがドラゴンを押し止めてくれたので、先程と同じ手順で攻撃を仕掛け、無事に怪我をする事無く討伐することに成功した。

 みんなにはそのままドラゴンから回収できそうな素材を集めてもらい、こちらは幸を連れて荷台を取りに向かう。幸は相変わらずこういう血なまぐさい作業は苦手なようだったので、僕の護衛として付いて来ている。

 ニイナがジャドを連れて来る時に荷台を途中まで持って来てくれていたので、それを持ってドラゴンの巣へ移動すると、まずは卵を乗せて割れないように固定し、みんなが解体したドラゴンの素材をできるだけ乗せてウッドマンを使って荷台を引っ張って撤収する事にした。

 ちなみに、ウッドマンは僕にしか操作できないから、ジャドが運んで来る時には荷台の上に乗っていた。芯の部分には金属を使っているけれど、殆どの部分は木材を使っているので、重量はかなり押さえられている。なので、こいつは思っている程は重くない。

 まあ荷台に乗せていればって感じではあるけれどね。

 荷台には車輪が付いているものの、山道で動かすにはかなり力がいる。そこに鉱石などを乗せる事も考えていた為、荷台には本体も含めて乗せた物の重量を軽減する仕掛けが施されている。おかげでジャド達も軽々と荷台を引っ張って来ることができていた。

 まあ、軽減しているだけなので、重い物を乗せればウッドマンでも使わないと動いてくれなくなるけれどね。

 そんな感じでなるべく急いで竜の巣を後にした僕らは、マギーの隠してある場所まで撤収してひとまずは荷台をマギーに連結した後、広い場所まで移動して一泊する準備をする。

 今回卵を輸送するにあたり、念の為ドラゴンが追って来ないかどうかを確かめる為に、そこまで離れない場所で一泊して安全を確かめるのが冒険者としては常識だった。

 これを怠ったが為に、後々町までドラゴンがやって来たら僕らは確実に死刑にされるからな~。最後まで油断はできない。


 ジャド「怪我も無く、上手くこなせたようでよかったな~」

 レイ 「ですね。さすがにここまで上手くできるとは思っていませんでしたよ」

 ニナ 「私達も成長したってことだよ! もう上級冒険者の仲間入りじゃない?」

 ミア 「中堅どころもそろそろ卒業でしょうか」

 ロプ 「何かそこまで長いことパーティーを組んでいた気がしないのに、みんな随分と強くなっていたな~。何か僕だけ魔道具で底上げしているのが恥ずかしくなるよ」

 幸  「ア、ソレナラワタシモデスヨ」

 ジャド「いやいや、二人は殆ど一般人だから、それでいいって。十分過ぎる程の戦力だしな」

 ミリ 「確かに、二人とも申し分ない」

 ミア 「そうですよね。今でも生産者だとか一般人だとか言われると、嘘のように思えますよ」

 レイ 「初めてパーティーに入った時もそれで驚きましたね」

 ニナ 「懐かしいな~」


 そうやってみんなが想い出話をするけれど、本当にほんの少し前までみんな学校を卒業したばかりの初心者だったから、それがもう上級冒険者だとか嘘のように感じるよ。どんな成長速度だよって言いたいな。


 ロプ 「あー、ところでみんな。お金の貯まり具合はどんな感じだ?」

 ニナ 「うん? そうだね、ザックザクって感じ?」

 ミア 「そうですね。正確なところはわかりませんが、もう十年くらい仕事しなくても大丈夫なくらいは蓄えがあるかもしれませんね」

 レイ 「私だけじゃなかったのですね」

 ミリ 「凄いですね。私はそこまでではないと思いますが、かなり余裕はあります」

 ジャド「あー、ひょっとして張り切り過ぎたか?」

 ロプ 「どうやらそのようだな。まあこっちは軍資金が豊富で研究し放題になるから嬉しいがな」


 そういえば結構な頻度で冒険に出たりしたからな~ 本来ならもっと生産活動をして、その合間にぽつぽつ冒険しようって感じだったと思うけれど、ニイナとミリアナが学校を卒業したてでお金を稼がなくてはいけなかったから、そこからひっきりなしに冒険するようになったのか?

 まあ、みんなそれなりに強くなれたし、いいペースなのかもしれないな。

 今後はもう少しのんびりでもいい気はするが・・・・・・

 みんなで雑談していると、辺りが暗くなってきたので僕らは夕食の準備をすることにした。とはいってもメインの料理担当が幸で、他の者は足りない食材などを集めたり材料を切ったりしただけなんだけれどね。

 そうしてできたごった煮のような料理は、なかなかに美味しい出来だった。肉は贅沢にドラゴンの肉をつみれ状にして鍋に投入されていた。

 事前に軽く湯がかれていたり香草が入ったりしていて変な臭みは無く、つみれに加工したことで硬さも無くなっている。

 スープ自体も、これは日本にあった醤油ベースに味噌が入っていて、いろいろ煮込んだ結果いい出汁が出ていて美味しかった。ちょっと味が濃い気もしたんだけれど、これは幸の好みで日本ではお手軽に調味料が手に入るから、自然と濃い味が好きになるのだろうな。まあ効き過ぎて味を損なっているわけじゃないので、普通に美味しいと思える。

 これに慣れると、後々の食生活が物足りなくなってきついけれどね。こっちの世界に帰って来られた時は苦労したものだ・・・・・・。昔とまったく同じ食生活なはずなのに、何だこの食べ物はって思わず吐き出しそうになった程だった。

 最近はもう慣れたけれど、その分幸には申し訳ないと思ったものだよ。


 ニナ 「何これ、めっちゃ美味い!」

 ミア 「美味しいです、サチさん。作り方を教えてもらえませんか?」

 幸  「イイデスヨ」

 ミア 「ありがとうございます」

 レイ 「私にも教えてもらえますか?」

 ミリ 「それなら、私も」

 ジャド「おいおい、そもそもこれって、異世界の材料が無いと作れんだろうが」

 ニナ 「そうなの?」

 ロプ 「さっき味噌と醤油を味付けで使っていたな。後は塩とかが結構必要だぞ」

 ミア 「それって確か、サチさんの国にしかない調味料って言っていましたね」

 ジャド「だから作り方を習っても、無理だろうが」

 幸  「マッタクオナジアジハムリデスガ、コチラノザイリョウダケデモオイシクツクルホウホウガアリマスヨ」

 ジャド「そうなのか?」

 ロプ 「魔道具でも使うのか?」

 ジャド「おいおい、なんでもそっちに持って行くなよ」

 ロプ 「いやすまん。発明王なら何でも美味しくするような魔道具くらい作れるかと思ってな」

 幸  「イチオウリョウリノシカタハ、バグクンガオシエテクレタンダソウデスヨ」

 ニナ 「確かバグ君って人が発明王なんだったっけ?」

 ミア 「何でもできるなんて、凄い人ですね」

 幸  「オイシイオヤツトカモツクッテクレルソウデ、レイシアサンガスゴクウレシソウデシタ」


 段々幸の顔を見ているのが辛くなって来るな。どうせ僕は幸に満足してもらえるような環境を作ってやれないよ・・・・・・

 その後女性陣は料理教室を始めてしまったので、僕とジャドはちょっと離れたところでぽつんと座って話していた。


 ジャド「サチさんの料理を食べてると、凄く美味しいんだがこっちの料理がまずくて食べられなくなるんだよな」

 ロプ 「ああ、それわかるぞ。まだ自分の家で作った料理なら納得できるが、他所に食べに行くって行動が疑問に思える。お金を出して料理を頼んだのに、出て来たものが不味い飯とか皿をひっくり返したくなったよ」

 ジャド「なるほど。そりゃわからんでもないな」

 ロプ 「そう考えると、幸は相当こっちの料理で苦労していそうで、申し訳ないって感じたよ」

 ジャド「それで野菜作りなのか?」

 ロプ 「ジャドにはわからないだろうが、向こうの野菜は何の調理もしないで生のまま食べても美味しいんだ」

 ジャド「は? 青臭いだろ、そんなの」

 ロプ 「いや、もぎたての野菜はどれも美味しかった。僕が味わった中では不味かったり青臭かったものはないな。苦いって言われている野菜ですら、こっちの野菜程じゃなかったんだからな」

 ジャド「ようは素材からして違っているってことだな?」

 ロプ 「ああ、それだけじゃない。向こうでは魚や肉、卵すら生のままで食べられていた」

 ジャド「おいおいどこの野生児だよ。そんなに調理が面倒だったのか?」

 ロプ 「だから違うって。それだけ食材が全般的に新鮮で、調味料が必要ないくらいに美味しいんだよ」

 ジャド「そんな所から来たら、そりゃあこっちの料理は口に合わないよな」

 ロプ 「戻って来た時なんか、しばらく自分達で作ったの料理しか食べられなくなったな」

 ジャド「自分達のは食べられたのか?」

 ロプ 「いろいろと工夫したからな。贅沢に香辛料とかを一杯使ったりしたのもあるが、レイシアさんの援助もあったからな」

 ジャド「大変だったんだな」

 ロプ 「まあな」

 ジャド「じゃあしばらくは野菜の栽培なんだな」

 ロプ 「ああ、たまになら冒険に出てもいいかなって思っているよ」

 ジャド「了解、じゃあ程々にしておこう。その間に防具とかも頼めるか?」

 ロプ 「そうだな、そっちはやろう。しかし女性用の防具とか作ることになるってのは、ちょっと考えていなかったな。先にジャドの鎧を作らせてもらってもいいか? 少しでも慣れておきたい」

 ジャド「金属鎧になるとレイくらいか。革鎧がニイナとミーリスで、ローブはミリアナだろう? お前は革鎧の方がいいのか?」

 ロプ 「そうだな。今までならローブ系だろうが、動きやすいタイプの革鎧の方がいいだろうな」

 ジャド「一応ミリアナも、革鎧にするか聞いておこう」

 ロプ 「ああ、頼む。多分彼女は神官だから、ローブで決まりだと思うぞ」

 ジャド「見た目はな。だが俺達は冒険者だからな、中に仕込むくらいはやってもいいかと思うぞ」

 ロプ 「確かにそうだな。それで生死を分ける事になることも、考えておいた方がいいか」

 ジャド「そういうことだ」


 そのままなし崩し的に最初の見張りをすることになり、僕らは交代で見張りをして野営した後ギルドへと戻って来た。ドラゴンは追って来る気配がなかったので、後は帰って卵を渡せば依頼の達成になる。ついでに、ドラゴンの素材も売れるので、後日その報酬が追加で手に入ることになった。

 翌日、なんやかんやと結構な美味しい仕事になったおかげで、またお金に余裕ができたなと思いつつ、野菜の研究を再開させる。

 手順としては、僕が錬金合成で何かしらの種の合成に成功したら、それを幸が魔道具を使って成長させ、実った実を収穫する。この時食べられる実かどうかわからないから、安全確認に魔法で探知してから二人で味を評価して行く手順になっていた。

 その結果をデータとしてまとめて行けば大体の傾向みたいなものが見えて来るはずだ。

 早速錬金していくつか成功しているのかどうか不明な種が完成して、幸がそれを庭に作った即席の畑に植えて成長させていると・・・・・・


 キャア~~~


 庭から悲鳴が聞こえて来た。

 慌ててそちらに向かった僕は、植物が意思を持って幸に襲い掛かっているのを見て慌てて魔法を使う。


 ロプ 「荒れ狂う風よここに、ウィンドカッター」


 幸に巻きつこうとしている触手をまとめて切り払った後、幸をモンスター化した植物から引き離して魔法で焼き払う。


 ロプ 「焼き尽くせ、ファイアアロー」


 幸い根を張って地面から養分を吸い上げているようだったので、距離さえ離れればそれ以上襲われる事はなく簡単に倒すことができたけれど、まさか錬金合成でモンスター化するなんて予測さえしていなかった。

 それより幸が怪我をしているみたいなので、その治療を済ませることを優先する。

 とげのあるプラントタイプのモンスターらしく、今だ刺さったままになっているそれらを抜いて行く。幸は発明王から貰った装備を身に付けることで自然回復力を上げて、怪我を癒したようだった。僕のリングもあるのでそれで直ぐに怪我は治ったみたいだな。


 ロプ 「すまない、こんな危険な事に巻き込んで」

 幸  「大丈夫、直ぐ助けてくれたし。仕方ないよ」

 ロプ 「この方法はモンスター化する事もあるんだな。考えが及ばなかったよ」

 幸  「私も、考えもしなかったから。だから実験するんでしょう?」

 ロプ 「まあそうなんだが、次からやる時は手間だと思っても、何があっても大丈夫なように準備してからにしないと駄目だな」

 幸  「そうだね」


 目の前で幸が怪我をしたのを見て、絶対に危険が無いという状況はないのだと思い知った。

 そう考えると今回は大事に至らなかったものの、もっと酷い怪我をすることも考えておかなければいけなかったと反省する。まずは安全の確保が最優先だろうな。


 ロプ 「しばらく野菜の研究は保留にしよう」

 幸  「え? 私のせいで・・・・・・」

 ロプ 「あ、違うよ。そうじゃなくて野菜より先にやっておきたい事ができただけだ。優先して研究したいものが出来たから一時的にそっちを先に研究する」

 幸  「何かごめんね」

 ロプ 「いや、こっちこそ痛い想いさせてごめんな。次は安全をしっかり考えてがんばろう」

 幸  「うん」


 まずは幸以外もそうだけれど、ちゃんと装備を整えること。その上で怪我をしたと仮定して、回復手段を用意しようと思った。ミリアナがいれば癒してもらえるかもしれないが、ミリアナがお手上げになったり怪我をしたのがミリアナ自身だった場合は、僕らには助ける手段がなくなる。その為の対策をしようと考えた。

 怪我をしない為の準備は後鎧の作製だが、それでも重症となった場合は何か用意しておきたい。僕も発明王の慎重さを少しでも見習わなくてはな~


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