専属鍛冶師
登場人物 ロップソン=ロプ(台詞表記) ジャド=ジャド(台詞表記) ニイナ=ニナ(台詞表記) ミリアナ=ミア(台詞表記) レイセモルス=レイ(台詞表記) 小林幸=幸(台詞表記) ミーリス=ミリ(台詞表記)
翌日みんなが起き出して来た時間はお昼辺りで、みんなで昼食を食べた後に食料の買出しをしてからのんびりと家に帰る事になった。
途中マギーを止めてお茶会をしたり、夜には野営をしたり・・・・・・そういえば、マギーに乗るようになってから、野営する事がかなり減ったなって思う。日本には、キャンピングカーと呼ばれる移動式の家があったな・・・・・・野宿するより便利そうなので、今度開発してみるのも悪く無さそうだと思いながら眠りに付く。
人数が多いと報酬額は下がるけれど、野営の時は見張りの時間が少なくなって、しっかり休憩が取れるな。そんな事を思いつつ朝食の後マギーを走らせて、昼少し手前辺りでギルドまで帰って来る事ができた。
ジャドが代表して依頼完了の報告へ向ったので、こっちは昼食の為の席を取りに行き、ジャドの分も含めて注文をする。ホクホクした顔で戻って来たところを見ると、報酬はしっかり準備されていたようだな。そして結構いい金額だったに違いない。
報酬の分配は後のお楽しみとして、まずは運ばれて来た料理を食べる事にした。
ロプ 「その様子だと、結構いい額になったみたいだな。今七人いるが等分で分けてもいい額になりそうか?」
ジャド「ああ、さすがに二百五十体近くも倒せば、こんな額にもなるんだな~って思ったぞ」
ニナ 「楽しみだね! 何買おうかな~。武器はロップソンさんが作ってくれたやつがあるから、防具でもそろえようかな~」
ミア 「じゃあ私も何か、服でも買おうかな。私の場合、防御力は変わらないだろうし、普段着用のお洒落な物を買いたいかも」
レイ 「装備を作ってもらえるのなら、かなりお金に余裕ができますね。私もたまには女の子らしい物でも探して見ようかな」
ミリ 「装備か。私もロップソン殿に作っていただきたい。今以上の性能になるのならいいけど・・・・・・そこはどうかな?」
ロプ 「そうだな、今の剣が普通の店売りのなら、オーダーメイドになってちょいと魔道具を仕込めば断然性能は上がりそうだけれどな。ミリアナに作った鞭みたいに魔法の威力を強化できるようなものと、剣自体にも魔法の属性を乗せる感じかな。もし作るとしたら、ジャドとどっちを優先するべきだ?」
ジャド「そうだな。俺の場合は攻撃力よりは防御力って感じだから、ミーリスの武器を作るなら、そっちを優先してくれていいと思うぞ」
ロプ 「どうする? しばらく時間はかかると思うが作るか?」
ミリ 「できればお願いしたい。魔法の威力も上がるとなれば、この先がかなり楽になりそうだからな」
ロプ 「わかった。後で家の方に来てくれるか? 作る武器の情報を集めておきたい」
ミリ 「お手数おかけする」
ロプ 「ジャドが言っていた防御力ってのは、何か作って欲しい物があったのか?」
ジャド「ああ、今回の戦いでさすがにこの小さな盾ではきついなって思ったんだよ。マギーもあるし予備の大型の盾も欲しいかなって思ってな。まあ時間がある時にでもよろしく頼む」
ロプ 「了解した」
ニナ 「専属の生産者がいるって、なんだか凄く贅沢だよね」
ミア 「普通は勇者だとか、有名な人くらいでしょうね」
ロプ 「専属っていっても一緒に冒険しているから、作っている時間なんか限られるけれどな。そう考えると趣味の生産って感じなのか?」
ジャド「急いで作る必要もないから、できているって感じだろうな。有名人相手にのんびりなんて、していられないだろうしな~」
ニナ 「冒険しながら作ってたら、怒られちゃうね」
レイ 「確かに、遊んでないでさっさと作れとか、言われますね」
ミリ 「私の武器は今ある武器でも十分だから、そこまで急がなくてもいいかな」
ロプ 「ああ、無理はしないから安心してくれ。寝坊はしそうだけれどな・・・・・・」
ミア 「そこはもう仕方ないですよね」
レイ 「サチさんがいるので、その心配はしなくてもいいかもしれませんよ」
ニナ 「確かに」
ジャド「さて、そろそろみんな食べ終わったな。報酬を分配するぞ」
そう言ってみんなに配られた金額は、通常の緊急クエストの二倍近い金額だった。七人で分けてそれなのだから、今回の報酬額がどれほど高額であったのかが、よく理解できる。さすがにあれだけの危険の中で攻略しただけはあったと思ったよ・・・・・・
ジャド「今回の依頼はかなり疲れただろうから、今日を含めて三日ほど休息にしようと思うが、それでいいか?」
ニナ 「いいで~す」
ミア 「わかりました。私もゆっくりしたかったので、助かります」
レイ 「装備のメンテナンスもしたいし。まとまった休みがあった方が嬉しいですよ」
幸 「ワタシモ、ノンビリシタイデス」
ミーリスは頷いて同意していたので、みんなそれでよさそうだな。もちろん僕としては生産に打ち込めるので、歓迎だった。
ジャド「じゃあこれで解散にするから、みんなゆっくり疲れを癒してくれ~。お疲れ~」
ロプ 「お疲れ様~。じゃあミーリスは一緒に来てくれ」
ミリ 「わかった」
みんな早速それぞれに挨拶をして解散して行ったので、幸は当然として隣の家に住んでいるジャドとミーリスを連れて我が家までマギーで移動する事にした。
ロプ 「さてと、作る武器だが日本刀みたいな物にするか、それとも今の剣と同じ感じの方がいいのか、どっちがいいかな?」
ミリ 「使い慣れている、今のような剣の方がいいと思うが、どうなんだろうな・・・・・・」
ジャド「ロップソン、今の剣に少し錘を追加してやってくれるか。初めは剣の根元に、次は剣先で頼む」
ロプ 「わかった。剣を貸してくれるか?」
ミリ 「ああ」
借りた剣に錘を巻くと、ミーリスに返した。
ジャド「じゃあ軽く振り回してくれ」
ミリ 「ああ」
振ったり突いたり、いろいろと動かした後、錘を剣先に移動させた後、また振り回してみる。
ジャド「物足りなかったり、もっと重くしてみたいとか、そんな感じはあったか?」
ミリ 「剣先が重くなった方が、しっくり来たかな。もう少し重くてもいいかと思ったよ」
ジャド「それならレイと同じで、バスターソードみたいな剣でもよさそうだな。ロップソンそんな感じでちょっと模擬剣作れるか?」
ロプ 「ちょっと待ってくれ、廃材でそれっぽくしてみる」
あり合わせの材料で、出来るだけ今の剣と似たような重さでバスターソートっぽくしたててみる。多少不恰好なのは、許して欲しい感じだね。しばらく待ってもらう間、幸がお茶を入れてくれたのでそれを飲んでいてもらい、出来上がった物で素振りしてもらう。
ちょっと立体的になってしまっているので、空気抵抗とか違うだろうが、まあそこは仕方ないだろうな・・・・・・大体の形が決まれば、仮武器を作ってそれで調整してもらうしかないだろう。
ジャド「どうだ?」
ミリ 「少し扱いにくいかもしれないな。両手なら大丈夫なのだが、片手で扱うには少々きつそうだ」
ジャド「今後、両手で扱ったりしそうか?」
ミリ 「どうだろうな。今までは片手を空けておいた方がやりやすかったからな。あまり使わないと思う」
ジャド「ふむ。じゃあ両手は無しで、ロングソードって感じがいいかもな。一応両手でも持てるように、柄を伸ばしてみるといいかもしれんが」
ミリ 「いや、かえって引っかかって邪魔になりそうだから片手でお願いする」
ジャド「じゃあ普通にロングソードでいいかもしれないな」
ロプ 「わかった、じゃあ一度大体の形ができたらもう一度試してみてくれ。それで調整してから作り始めるよ」
ミリ 「よろしく頼む」
ジャド「それじゃあとりあえず解散かな?」
ロプ 「ジャドの盾はいいのか?」
ジャド「まだ自分でもよくわからんから、店でいろいろ持たせてもらって来るよ」
ロプ 「わかった。じゃあまたな~」
ジャド「またな~」
ミリ 「お邪魔した。お手数かけるが、よろしく頼む」
やっぱりこういう時に直ぐ形を作れるような魔道具が欲しいな。金属粉でも集めて形を作るとか、日本で見付けた水銀を魔法とかで固定させるとか何かしらの方法で、自由に形や重さを変えられる素材みたいな物とかを作れないものだろうか? とりあえず、試作的なロングソードを作りながら、構想を練ってみる事にした。
思い付いた魔道具は、金属の粉を用意してそこにイメージした形、重量になるように金属の粉を分布させた後、水を流し込み固めて形を固定するといった物だった。ただの普通の水では重量が軽くなり過ぎる為に、素材を自分でも把握できていない不思議なスキルで変化させた物を使っている。見た目は黒い液体っぽいのだけれど、油では無さそうだし金属でもない感じの、ただ重いだけの黒い水って感じだった。
とりあえずそれを使ってロングソードを作ってみる事にする。まずは手元の魔道具にイメージを伝えて、金属の粉の入った箱の中で核となる魔道具を内包した、ロングソードを作り出し固形化させる。今回の魔道具を二つに分けた理由としては、手元の魔道具の大きさが少し大きい為に、一つだけにすると柄の部分が持ちにくくなったりしそうだったからだ。
その為に手元の魔道具で操作して、実際の造形されたロングソードは別の核となる小さな魔道具の周りに作られるように設定してみた。
一応試しに出来上がったロングソードを振り回してみるが、持ち手の柄の部分は実際の柄を使った方がいいかもしれないな。見た目はそれっぽいが変にざらついていてそれでもって氷の冷たさがあって、振り回すのには向いていなさそうだった。
一度解除した後、刀身部分だけを生成して予備の柄の部分を付けた物で振り回してみる。一応はイメージした通りの物だと思っていいかもしれないな。ちょっと好奇心に駆られて、そこら辺りの金属を叩いてみたところ、あっさりと粉々になってしまった為にやはり偽物だなって思ったよ。サンプルとしての造形でしかない為に、強度は脆かったね・・・・・・
模造刀を作る為の魔道具を開発していて、結構な時間を使ってしまった為に、今からミーリスを呼び出すだけの時間が無さそうだと考え、ジャドの刀の作製をする事にした。そもそもが、どこにいるのかもわからないしね。明日にでも顔を出してもらえればいいだろう。
作業をしていると、たまに幸が様子を見にやって来るので、適度に休憩を挟みながら作業を進める。幸は友達のところにも顔を出しに行っているらしく、何かとても美味しいデザートをお土産に貰って帰って来ていた・・・・・・
普段からこのレベルの食べ物を食べていたり、友達になってくれればそれでいいと言って凄い技術の武器を作ってくれたりと、次元がまるで違う世界の人達を満足させられるような何かって、僕に渡す事ができるものなのだろうか・・・・・・何だが幸がお土産を持って帰って来る度に、打ちのめされそうになるな・・・・・・さすが本家の発明王だ・・・・・・
ちょっと凹みながらも作業を続け、ジャドがいるであろう時間に家にお邪魔すると、ミーリスを呼び出してくれるように頼み、再び日本刀の作成を進める事にした。
翌朝、やって来たミーリスに早速ロングソードの模造刀を渡して具合を確かめてもらう。
ロプ 「注意点としては、そいつは壊れやすいからどこかにぶつけないでくれ。掃除が大変なんだ」
ジャド「新しい魔道具か・・・・・・便利だな~」
ミリ 「気を付けよう」
少し振り回した後、もう少し先端に重さが欲しいとか、全体的に軽くして欲しいとか、微調整を聞いていって最終手にちょっと細身のロングソードの形に落ち着いた。
ジャドが最後に少し振り回してみて、いいバランスだなっていっていたので、これで作り始める事にする。ついでにこれとほぼ同じ感じで、作りを日本刀っぽい感じの物を作り出して試してもらう事にした。
ロプ 「バランスは同じで片刃になっているんだが、こっちの刀だとどうか振ってみてくれ」
ミリ 「わかった」
ちょっと振り回した後、感想を言って来る。その間にジャドがその刀を受け取って振り回していた。
ミリ 「やっぱり片刃だと扱いが難しいな。それに少しそっているのも今までと違ってやりにくそうだ」
ロプ 「一応説明しておくと、その刀だと叩き斬るというよりは、撫で斬るという攻撃方法になるのだが、鎧とか着ててもスパって斬れる様になるみたいだぞ。突きでも盾とか貫通するそうだ。その分作るのに時間は必要なんだけれどな。片刃になるが、背中で叩くと打撃武器として使えるからまあそこは使い手の好みでもあるんだろうな」
ミリ 「なるほど。性能としてはちょっとよくなるって事なのだな」
ロプ 「ああ。ジャド、ちょっとお前の持っている日本刀で試し斬りしてやってくれるか?」
ジャド「ああ、いいけれど斬ってもいい金属片とかあるか?」
ロプ 「ちょっと準備するから待っててくれ」
廃材からいらない金属の塊を出して来て、万力という器具で固定する。
ロプ 「これで行けそうか?」
ジャド「ちょっと分厚そうだが、まあ日頃の成果を試すチャンスだな。やってやろう」
ミリ 「こいつは下手すれば剣の方が欠けるぞ。無理はしないようにな」
ジャド「まあ無茶はしないさ。見ててくれ」
さすがに気軽に斬りかかったりできないのか、深呼吸を繰り返して気合を入れていく。お茶を持って幸がやって来たのだが、場の雰囲気を察して静かにしていた。
ハッ!
キン
気合の声と共に、金属を割ったような音が工房の中に響いた。一瞬剣が折れたのかとも思ったが、金属の塊を見ると斜めに斬り飛ばされていて、破片が床に転がっていた。
ジャド「やったぜ! どうだ、腕が上がっただろう?」
ロプ 「おー、準備しておいてなんだが、凄いな! やっぱり叩いていたら折れてたと思うか?」
ジャド「この分厚さだろう? 多分普通の剣のつもりで叩き付けていたら確実に折れていただろうな」
幸 「オチャ、ドウゾー」
ジャド「あ、サチさんありがとう、もらうよ」
ミリ 「いただきます。凄いですね、これが日本刀ですか・・・・・・」
ロプ 「前は作れなかったが、今ならおそらく作れると思うぞ」
ミリ 「もしよろしければ、普通のロングソードの後で作ってもらってもいいかな? 順番としてはジャド殿の後でかまわないので」
ジャド「そうだな、いきなりメイン武器が慣れない物に変わると困るし、ロングソードはあった方がいいかもしれないな。慣れるのにしばらくかかるしな」
ロプ 「なるほど、確かにいきなりではきついな。わかった、ちょっと出来上がる時期はわからなくなるが、いずれって事でいいかな?」
ミリ 「よろしくお願いする」
こちらの用件が終わったので、ジャドとミーリスは幸とお土産に貰って来たデザートを食べながら雑談をしていた。こっちは早速ロングソードの作製にかかったので、加工音でどんな雑談をしているのかわからなかったが、まあみんなと楽しそうに話しているので、こちらにも大分馴染んで来たかなって思い安心できた。
まだこちらの世界に来てそこまで日も経っていないので、片言しか喋れない事が苦痛になっていないか心配ではあったんだよね。レイシアさんという友達もできた事が、幸にとってもいい結果になったのかもしれないな。
作業の合間、幸の様子を見てそんな事を思った。
幸 「ロップソン、ご飯だよ~」
ロプ 「はいよ。もう夜か・・・・・・結構進んだな~」
幸 「完成したの?」
ロプ 「いやいや、もう少しバランス調整に時間がかかるかな。その後で刃を研いで完成って感じだから、明日一杯はかかる」
幸 「そうすると、二日で完成? 十分早いね」
ロプ 「日本の技術のおかげだな。前なら最低でも二・三週間はかかっているよ」
幸 「へー、やっぱり大変なんだ」
ロプ 「手作業だったからね。さて準備して行くから待ってて」
幸 「うん」
作業着を着替えて手を洗い、幸のところへと移動する。日本で衛生の大切さを学んだので、今では服を着替えているけれど、昔ならそのままの格好でご飯を食べていたな。まあ日本人程柔な体じゃないからそこまで気を付ける必要はないのだろうが、今は幸がいるのであまり不衛生にはしていられない。
体調を崩されると困るからね。これでも多少は気にしたりしているのだ。
幸 「昔はどんな感じで剣を作っていたの?」
ロプ 「えっと、まずは鉱石を溶かして金属の塊を作っておくんだ。それをハンマーで叩いて伸ばしていって、大体の形を作って行くんだけれど・・・・・・この作業だけで二・三日はかかっていたかな。今は日本の機械を参考に作ったやつで、熱した金属を熱いまま簡単に剣の形に叩き延ばせるかな。今日はその作業と伸ばした後、剣の形に整えるのとのバランス調整が多分今日中に終わると思う」
幸 「その時点でもう早いんだね」
ロプ 「ああ。で、明日からの作業は刃の部分の削り込みだな。昔はこの削る作業で一週間、刃が斬れるほどに研く作業でさらに一週間はかかる感じかな。今回はグラインダーっていう機械を参考に作った物があるから、それで一気に刃を研く作業に移れると思う。実際にいけるかどうかは、ちょっとやってみないとわからないけれどね」
幸 「凄い進歩だね」
ロプ 「生産に関してだけでいえば、日本に飛ばされたのは運がよかったな。向こうで幸達に出会えた事も幸運だったよ。ありがとうな」
幸 「いえいえ、役に立てて嬉しいよ」
そんな雑談をしながらご飯を食べ、残りの調整作業をして眠る事にした。
翌日は予定通り、調整の終わった剣の刃の部分の削り出しと研き作業を黙々と続けて、もう直ぐで夜といった時間にほぼ作業を完成させる事ができた。後は魔石を組み込み、柄を取り付けて鞘を作製していくと、どっぷりと日が暮れていた。
二日で剣が完成するとか、昔では考えられなかったな~。感慨深く思いながら片付けをして寝る事にした・・・・・・




