ドラゴンと特訓
登場人物 ロップソン=ロプ(台詞表記) ジャド=ジャド(台詞表記) ニイナ=ニナ(台詞表記) ミリアナ=ミア(台詞表記) レイセモルス=レイ(台詞表記) 小林幸=幸(台詞表記) ミーリス=ミリ(台詞表記)
幸のパーティーへの歓迎会をギルドでおこなって騒いだ後、僕達は家に帰って来た。工房の設備があらかた揃って来たので、刀の製作を始めながら幸と話をする事にする。
ロプ 「予想以上に凄かったな。レイシアさんの所でどんな事をしていたんだ?」
幸 「えっとね。初めは基礎体力を付けようっていって、一杯運動させられたかな? それとモンスターの気配を感じ取れって言われて、運動している間中殺気をぶつけられて凄く怖かったよ」
ロプ 「殺気か、レイシアさん程の人に殺気を出されたら、そりゃあ怖いよな」
幸 「いえ、レイシアさんは大抵見ていただけで、一緒にお話したりお茶に誘われたりって感じだったよ」
ロプ 「ということは、幸を特訓してくれていたのは発明王か」
幸 「えっと、ドラゴンの子供だったよ。ペットって感じじゃなかったんだけれど・・・・・・どういう関係なんだろう?」
ロプ 「へー、ドラゴンに特訓してもらうなんて、聞いた事がないな。ドラゴンって人間の言葉がわかるのか?」
幸 「テレパシーというか念話? 頭の中に直接話しかけて来たよ」
ロプ 「相当上位のドラゴンかもしれないな。ところで、装備だけじゃなくてそんな特訓までしてもらって、代償とかなかったのか? それとも今後冒険で貯めたお金を支払うとかか?」
幸 「えっと一応タダではないって話なんだけれど、レイシアさんのお友達になることが訓練してくれる交換条件だって言ってたよ。そんなのでいいのかなって思ったんだけれど、たまに私の世界の料理でも教えてくれれば十分だって言ってた」
ロプ 「そんなので、訓練して装備ももらってっていうと、なんだか悪い気がするな・・・・・・」
レイシアさんと友達にって事なら、僕の作ったお茶セットとか持っていってもらえれば、多少の恩返しにならないかな? レイシアさん程の実力と、発明王もいるなら僕程度の発明品は玩具みたいな物だろうけれど、一応感謝の気持ちってことで持って行ってもらおう。
そう思い一度作業を中断して幸と一緒に商業ギルドへと向った。受付の人に軽く挨拶をしてから販売課の方へと移動して、お茶玉とクッキーなどレイシアさんが喜びそうなものを二人で選んで購入する事にした。
ロプ 「向こうの電子レンジみたいなものと思ったらいいよ。この板の上に乗せると温められて出来立てのクッキーみたいになるんだ」
幸 「へー、面白いね! 確かにこれならレイシアさんも、喜びそうだよ」
ロプ 「それならいいな~。一応温めた後のクッキーなんかは商業ギルドの料理開発課の人達が試食してくれたから、味はいいと思うよ」
幸 「どれも食べてみたい気がする。迷うね」
ロプ 「とりあえず、今回数種類だけ買って行って、気に入ってもらえたら次の時は違うのを買って行けばいいんじゃないかな?」
幸 「そうだね、そうしてみるよ」
ロプ 「まずはプレーンなやつを買って行ったらどうだ? これが一番初めに開発したやつなんだよ」
幸 「わかった、じゃあこれと他にもいくつか買ってみるね」
そんな感じでプレーン以外に五種類くらいのクッキーとお茶玉を購入して家に戻って来た。買って来たそれらを魔道具のティーポットと加熱板と共に箱に詰めていく。後は次にレイシアさんの所へ遊びに行く時に持って行ってもらえばいいだけだな。
そう思っていると、幸はそわそわして言って来た。
幸 「せっかくだし、今からちょっと遊びに行って来るよ」
ロプ 「もう夜になるよ。今から行くと帰りが遅くなって危険だ」
幸 「大丈夫! 一応夜間訓練もしてもらったから! なるべく早めに帰るようにするね。それじゃあ行って来ます~」
ロプ 「気を付けて~」
心配ではあるものの、幸の行動を縛り付けるのはどうかと思い、見送る事にした。こっちはこっちで刀を作る作業もあるしね。
夜、お土産を持って帰って来た幸と、早速話を聞きながらお土産を食べていたのだけれど・・・・・・お土産のケーキというものに思わず絶句してしまった。
ロプ 「なあ幸・・・・・・ほんとにレイシアさんはあのクッキーで喜んでくれたのか?」
幸 「うん。喜んでいたよ。バグ君は加熱板の方に興味があったみたいだけれどね」
ロプ 「バグ君?」
幸 「子供ドラゴンの名前だって」
ロプ 「へー、それにしても、このケーキめちゃくちゃ美味いんだけれど・・・・・・ほんとにあのクッキーでいいのか?」
幸 「素朴な味って言っていたけれど、美味しいとも言っていたよ?」
そりゃこんな美味しいものを毎日のように食べていたら、他の食事なんか素朴に思えるよな・・・・・・レイシアさんの暮らしている環境は、何もかもが桁外れだと思った方がいいのかもしれない。
そう考えると、装飾品なんかを送ったとしても、大して喜ばれない可能性の方が高い気がする・・・・・・なるほど、それだと交換条件で金銭とかそういうのを要求しないっていうのは、当然ともいえるな。
彼女にとってお金とは、もはやそこまでの価値がないものと考えておいた方がいい。クッキーも、おそらくは味を気に入ってくれたのではなく、加熱板で暖めて食べるというその嗜好の方に、喜んだと考えた方がいいだろうな。
発明王相手に追いつこうというのは無謀ではあるが、驚いてもらえたり感心されるような贈り物を考えるのがいいかもしれない。そんな事を考えながら、今日の作業は終わりにした。
翌日ギルドで受ける事になったクエストは最近鉱山に住み着いたロックジャイアントで、鉱夫達が鉱山内部に取り残されているそうなので、早期救出が望まれるという、緊急クエストであった。
ロックジャイアントは鉱山の入り口に陣取っていて、中で仕事をしていた鉱夫達が外に出られなくなっているというが、内部の休憩所に保存食などがあり、今のところ持ちこたえているそうだった。
ロックジャイアントの数は六匹で、入り口には必ず一体が残り他のジャイアントが周囲に餌を漁りに移動する事もあるそうだ。
ロプ 「いいんじゃないか」
ミリ 「緊急なのでいい報酬になるし、相手も手頃かと思う」
レイ 「問題ないです」
みんな問題無さそうなので、サインして早速鉱山へ向けて出発する事になった。
今回マギーを運転しているのは幸である。本来は魔力が無ければ動かないのだけれど、指輪を使って僕の魔力を流し込んで操作できるようになった。運転技術そのものは、向こうの世界で車を運転していた為に、わりとあっさりと動かし方を習得してしまったよ・・・・・・
まあおかげでこのパーティー内で二人が運転できるようになったので、いざって時に有利になるだろうね。例えば移動するのに何日もかかるような時でも、交代で運転するとかできるかな。
まあそんな感じで鉱山がある山の裾野までやって来た。
ジャド「じゃあここからは警戒して進むぞ。話ではロックジャイアントは歩き回っているそうだからな」
ミア 「はい」
ニナ 「はい」
レイ 「先に歩き回っている奴を探しますか?」
ロプ 「必ず歩き回っているとは限らないと思うがな」
ジャド「まずは真っ直ぐ鉱山の入り口へと向おう。途中で歩き回っているやつを見付けたら殲滅しながら進む。入り口について数が合わない場合は、周辺調査をして倒すって感じでいいと思う」
ミリ 「それがいいだろうな」
ロプ 「だな」
ジャド「よし、じゃあ進むぞー」
ここから鉱山の入り口までは、大体徒歩で三時間くらいだと思われる。その間警戒しながら移動になるのだけれど、隊列はニイナとレイが先頭で、真ん中にミリアナと幸と僕、しんがりでジャドとミーリスが続いていた。
ここら辺りはまだ周りに木々が生えていて森の中って感じだけれど、あと一時間も進めばごつごつした岩肌の地形が鉱山の入り口まで続く事になるだろう。つまり、森から鉱山入り口までは隠れるところもない為に、敵に発見されるという事だった。
できればロックジャイアントは歩き回っているらしいので、この森にいるうちに何体か倒して数を減らしておきたいところだね。多数のジャイアントと真正面から戦うのは、結構大変だからな~
そんな事を考えていたら、幸が声を上げた。
幸 「イチジノホウコウニ、イッタイ。ジュウイチジノホウコウニ、イッタイ。ウッテイイ?」
ジャド「うん? ああ、やってくれ」
幸 「ジャア、ウチマス」
そう言って銃器を立ったまま構えたと思うと一時の方向と言った方に二回攻撃をして、その後十一時と言った方向にも二回攻撃をしたようだった。
発砲音がしないから、全然攻撃しているって感じがしないな~
幸 「オワリマシタ」
ジャド「ああ、そうか。案内してくれるか?」
幸 「アッチデス」
ニイナが幸の指差す方向へと進んで歩き出したので、みんながそちらへと移動して行った。そして辿り着いたところには確かに急所の心臓と頭を撃ち抜かれた、ロックジャイアントが倒れていた。この分だともう一体もしとめられているだろうな~
ロプ 「幸、相手の位置がよくわかったな。しかも正確に狙撃できているし」
幸 「ええ、冒険者になるのなら先に情報を掴む訓練をして、スキルを習得しろって言われたの」
ロプ 「情報を掴むスキル?」
幸 「うん、敵感知ってスキルみたい。私に対して友好的じゃない存在の位置がわかるってスキルだって」
ロプ 「何か凄く便利なスキルだな。幸はそれを覚えたのか?」
幸 「一杯殺気を浴びて何とか習得できたよ。ただこのスキルだと味方とか、私の事をなんとも思っていない存在はわからないけれどね」
ロプ 「敵の位置がわかるだけ、便利だよ」
ニナ 「ねえねえ、私達にもわかる言葉で話してよ」
ロプ 「悪い悪い。友達に鍛えてもらって敵の位置がわかる技を習得したんだと」
ニナ 「それって私のなんとなく何かいるってわかるやつかな?」
ロプ 「どうなんだろうな? おそらく同じようなものじゃないかな?」
ミリ 「いや、別物だと思った方がいい。サチ殿の場合、モンスターの位置を正確に掴んでいたと思われるので、ジャド殿やニイナ殿のなんとなくというものより、精度が高いと思われる」
レイ 「確かに、なんとなくでここまで正確に急所は狙えないですね。まったく違う技と思った方がいいかと」
ミア 「サチさん、凄いです!」
ジャド「話は後にして、先に進むぞー」
ロプ 「そうだな。詳しい事は帰りにマギーの中でもいいし、ギルドに帰ってからでもできるからな」
ミリ 「そうだったな。緊急クエストというくらいなのだから、鉱山の中の人を早く助けねば」
ニナ 「急ぎだったね」
もう一体の討伐部位も回収して、鉱山の入り口に向けて移動を開始した。残りのロックジャイアントは後四体、このパーティーならてこずる事はあったとしても、余程の不運が重ならない限りは問題なく倒せるだろうと思われた。
森を出てこちらから鉱山の入り口が見える所を進んでいると、鉱山入り口からロックジャイアント達もこちらへと走って来るのがわかった。その数は四体でこれを倒せば依頼は完了となりそうだね。
幸 「ウチマスカ?」
ジャド「あー、じゃあ頼む」
幸 「ハイ」
立ったまま銃器を突進して来るロックジャイアントの方へと向けて、引き金を引いていく。
先頭を走って来るロックジャイアントの胸に穴が開いたと思ったら、数歩歩いた後に頭を撃ち抜かれて倒れた。後続のロックジャイアントが混乱したように走る速度を緩めたところ、次のロックジャイアントも撃ち抜かれて倒れて行く。唖然としている間に、残りも倒れて戦闘は終わってしまったんだけれど・・・・・・
ロプ 「なあジャド、幸がいればこれって無敵じゃないか?」
ジャド「俺らいらないな・・・・・・サチさんが足手まといになるとか言っていたのは、なんだったんだ?」
ニナ 「やる事ないね」
ミリ 「とりあえず鉱夫達を助けに行きましょう」
ジャド「そうだな。俺とロップソンで行って来るから、討伐部位を回収してからこっちに来てくれ」
ニナ 「わかったよ」
まあ、残りのメンバーなら問題ないか。ジャドに付いて鉱夫達の所へと向った。
ジャド「ロックジャイアントは無事に討伐しました。もう安全ですよ」
鉱夫 「助かった・・・・・・」
中に入ってしばらく進むと見えて来る休憩所には、鉱夫達が二十人はいた。少ない食料で食いつないでいたと思われ、みんなやつれてしまっている。ジャドと目配せしてとりあえず持っている水と携帯食料を分けて配ってからみんなと合流する為に移動する事にした。
みんなと合流した後、みんなにも持っていた食料と水を分けてもらって、鉱夫達を近くの町まで護衛する事にする。冒険者としてはお金にもならない行動だけれど、こういうところで冒険者に対する見る目が変わる事があるので、できれば助ける方がお互いの為でもあるのだ。まあ善意からの行動でないのは心苦しいけれどね。
町まで鉱夫達を送り届けると、町の人から歓迎されて感謝の印にと食事を用意されたので、とりあえず保存食を失った分は頂いていく事にした。
鉱夫の人数に対して保存食の数が圧倒的に少な過ぎて、ミリアナが持っていたお茶請けのクッキーを全部提供する事になってしまったから、その分は食べさせてもらわないとって感じだね。今日は泊まって行ってくださいっていうのは丁重に断ったよ。食事の後に出発したら夜にはギルドに辿り着けるだろうからね。
まあそんな感じで帰りは僕が運転をして、後ろでみんなは幸のスキルについて話をしていた。できればみんなも覚えたいらしいのだけれど、聞いた話では無理そうだね。
スキルを習うのは僕も興味があったので、幸の話を聞いていたのだけれど、習得方法が自分達だけでは難しそうだった。仲間を殺気のこもった目で見るっていうのがそもそも僕達にはできない。試しているようだけれど、視線に全然殺気が無いと言っていたよ・・・・・・
それを複数用意するっていうのだから、できるとすれば実践での習得だろうな。まあ実践だとそんな余裕はなくなるだろうけれど・・・・・・
そんな話から次の話題は、今後のクエストへと移って行った。
ジャド「今日のクエストでわかった事は、サチさんはソロでかなり高ランクのクエストがこなせそうだという事だ」
ロプ 「だな。今後受けるクエストの話だろう?」
ジャド「ああ、普通にクエストを受けていたら今日みたいに、サチさんが全部敵を倒して俺達の出番がなくなると思う」
ニナ 「あー、確かにそうだね」
ミア 「サチさん、凄く強かったです!」
ミリ 「ジャイアントは二発で倒せていたけれど、もっと強い敵に挑むか複数の敵と戦うクエストを受けるのがいいかと思う」
レイ 「ですね。後はパーティーの人数も増えて来ましたので、複数個所に別れて行動するような依頼もいいかもしれませんね」
ジャド「なるほどな。パーティー内で誰と誰を組ませるのかとか、そういう作戦なんかも考えておくといいかもしれないな」
ロプ 「強制的にバラバラにされたりとかも想定したら、誰と組んでもいいように考えておくのもいいかもな。ダンジョンには落とし穴とかあるから、想定道理になるとは限らないからな」
ミア 「確かにそうですね。私は一人になったらちょっと自信がありません」
ジャド「まあ余程の事が無ければ一人にはならないだろう」
ギルドの前まで着いたので話は一旦ここで終わり、報酬を分配した後は解散する事になった。ゆっくりするには時間が遅くなったから今日はお開きだ。今後の話として十分な意見もでていたしね。
ジャド「じゃあまた明日な~」
ミア 「またです」
ニナ 「待ったね~」
レイ 「失礼します」
ミリ 「お疲れ」
ロプ 「お疲れ~」
幸 「オツカレサマデシタ」
挨拶も終わり家に帰って来た。
幸 「これでいつも一緒にいられるね」
ロプ 「というより、強くなり過ぎてソロでがんがん行けそうなんだけど」
幸 「教えてもらったのは戦う方法だけだから、冒険者としての判断は難しいだろうって言ってたよ」
ロプ 「あー、確かに今まで戦う事なんかなかったから、戦闘での判断は難しいか。余裕がある時はいいけれど、とっさの時は厳しいって事だな」
幸 「うん。何でもかんでも出来ると思わないようにって言われたわ」
ロプ 「そうなると力はベテラン、冒険は初心者って感じか。これまたアンバランスだな~。まあ一緒に行動していたら、そのうち慣れてくるかもしれないがな~」
幸 「そうだね。元々一緒に冒険したいから、戦い方を教えてもらったんだから、私はこれでいいけれどね」
ロプ 「問題はパーティーでの扱いだな。ちょうどいいクエストがあればいいけれど、そうじゃなければそうだな・・・・・・当面僕とのペアで活動して行くっていうのもありかな?」
幸 「私はどちらでもいいよ。ロップソンに任せる」
ロプ 「あいよ。まあジャドとも話して考えてみるよ。さて、今日はこのまま休もうか。さすがに今から生産するには時間が遅過ぎるしね」
幸 「はーい」
それにしても、自分の手で幸の装備を作りたかったな。そこだけが悔しいと思う。まあだけれども、僕がやっていたらどちらにしても一緒に冒険とかは難しかったと思うので、これでよかったのかもしれないな。悔しいけれど・・・・・・




