新たな仲間
登場人物 ロップソン=ロプ(台詞表記) ジャド=ジャド(台詞表記) ニイナ=ニナ(台詞表記) ミリアナ=ミア(台詞表記)
ジャド「さてさて、依頼の確認の前に、まずは自己紹介から始めますか~」
ロプ 「おい、どういうことだ?」
ジャド「うん? さすがにこれから先も二人だけっていうのは、きついこともあるだろう? ここらでパーティーメンバーを増やしてみようって思ってな」
ロプ 「こっちの事情は説明してあるんだろうな? 僕は生産だぞ?」
ジャド「まあ、こっちはお前がいない間に、普通の冒険をしているってことだ。別に問題ないぞ」
ロプ 「じゃあ僕は、必要があればパーティーに入るって形ってことか?」
ジャド「まあ、ぶっちゃけるとそうだな。お前が生産している間に俺達は、冒険して強くなっているよ」
ロプ 「確かに、普通に足手まといになるかもしれないから、いてもいなくてもいいのか」
ジャド「俺としては、お前にはずっとパーティーに入っていて欲しいところだけれどな。まあお前は自分の活動があるから、そこまでは言わん」
ロプ 「まあ、納得済みならいいよ。待たせてすまない。僕はロップソン聞いていたと思うが生産なので、そんなに冒険はしないと思うが、よろしく」
冒険者ギルドで依頼を受ける為に待ち合わせの場所に行くと、こんなやり取りがあって、二人の少女を紹介されたところだった。僕はとりあえずジャドに説明を求めた後、二人に対して自己紹介をした。
ジャド「紹介はちゃんとしろよな。一応こいつはこんなでも、冒険者としては魔法使いだ。よろしくしてやってくれ」
ニナ 「はあ、じゃあ私は、ニイナです。職業は盗賊、よろしく」
ミア 「わ、私は、ミリアナと言います。職業は神官、よろしくお願いします」
ロプ 「よろしくな」
もう一度二人に挨拶をしておいた。まあ第一印象はあまりよくはなかったと思うが、どちらかというと僕は臨時のパーティーメンバーって感じだろう。
ジャド「この二人は、つい最近冒険者養成学校を卒業したばかりの新米さんだ、気が付いた事があったらどんどん言ってやってくれ」
ロプ 「あー、もうそんな時期だったか。混んでいるなって思ったら、そういうことだったんだな」
ジャド「まあそういうことだ、ここで時間を食っても仕方ないから、とっとと依頼を受けて移動しよう。後はロップソンのサインで依頼の受注は出来るぞ」
ロプ 「あ、わりいな直ぐサインするよ」
そう言うとジャドに出された依頼書を確認もしないでサインした。それくらいには信用が出来る幼馴染だったので、ここは時間を優先する。
ジャド「じゃあ、依頼を通して来るから待っていろ」
ロプ 「ああ」
ニナ 「わかったわ」
ミア 「お願いしますね」
僕らはそれぞれに返事を返して戻って来るのを待った。
だけれど初対面の、それも女の子相手に話す話題もないので、そのまま話しかけることもなく、切り札以外の武器の案が何かないか、頭の中で考えながら待つことにする。目の前にいた二人は、ちょっとそわそわしている様子だったのだけれど、まあ気にしないでおこう。
臨時とはいえ、これからはどんどん足手まといだと言われそうな存在になっていくと予想される。それなら早急に、何かの魔道具を作り出さないとまずいのかなって思ってしまったのだ。
そうだな、さしあたっては僕の魔法威力の小ささが問題かな? 直接の武器は作れないとしても、ブーストするような魔道具なら、そこまで大変ではないかもしれない。うん、この線でちょっと考えてみよう。
ジャド「依頼受けて来たぞー。早速移動しよう。ロップソン案内してくれ」
僕がぶつぶつ言いながら待っていると、ジャドが戻って来てそう言った。
それを受けた僕は、一時考えるのをやめるとマギーを停めてある場所まで案内した。さすがにギルド前に堂々と置いておくのは迷惑だと思ったので、少し離れたところに停めてある。
ロプ 「二人共、これで移動するから乗り込んでくれ」
ミア 「え、でもこれってなんですか? 馬車にしては馬がいないし、形も何か変だし・・・・・・」
ジャド「説明は後だ、まずは乗ってくれ」
促がされて二人が乗り込むと、僕は今回の依頼の詳細を知らないのでとりあえずどこに向うのかを教えてもらい、マギーの操作をすることにする。説明とかは、ジャドに任せておけばいいだろう。
後ろでジャドが説明を終えるのを待ちながら、僕はマギーの操作をしていた。
ロプ 「それで今日は、どんな依頼なんだ?」
ジャド「ああ、お前の切り札の威力の確認と素材集め、後はパーティーの連携などもチェックしたいから、ジャイアントエイプの討伐依頼だ。討伐そのものはロップソンに任せて、俺達は援護かな。仕留め切れないようだったら、俺達で倒す。森の中には、ロックタートルがいるらしいので、こっちは俺達が戦う予定だ。そっちはロップソンが支援して、倒したら素材を集めてくれていいよ」
ロプ 「ふむ、理解した。丁度良さそうな依頼があったな」
ジャド「だろ! 幸先良さそうだ!」
ニナ 「それにしても、このマギーって快適だね。それに速いし」
ミア 「うわー、ほんとだ、もう森が見えて来たよ。普通なら乗合馬車でも二日はかかる距離だったのに、凄いですね」
二人がそう言って、興奮していた。
ロプ 「開発するのに、結構時間がかかったし、維持するのもそこそこ大変だけれどな」
ニナ 「へー、凄いね」
なんだか、棒読みでそう感想を言っていた。
ミア 「ニイナそんな言い方、失礼だよ」
ニナ 「えー、そうかな?」
ロプ 「二人は仲がよさそうだけれど、前々からの知り合いとかか?」
ミア 「はい、学校に行っていた時も同じパーティーで活動していました」
ニナ 「だよ~」
ジャド「その時のパーティーは、二人じゃなかったんだろう? 他のやつとそのまま冒険とかしようって話にはならなかったのか?」
ミア 「いえ、そういう話もありましたが・・・・・・」
ニナ 「他に男子が三人いたんだけれど、このまま一緒っていうのがなんとなくしっくり来なかったんだよ」
ロプ 「しっくり来なかった? 連携とか下手だったのか?」
ニナ 「そうね、それもあるけれど、やっている事もガキだなって感じで、考え方とかもあまり合わないかなって」
ジャド「そういうのはよくあるよな。このパーティーではうまくいければいいんだが、とりあえずは慣れてくれ」
ミア 「はい」
まあそんな感じで話していると、その会話の少し後に森の手前まで辿り着いた。
ジャド「さて、みんな準備はいいか? 早速出発するぞ~」
そう言って、ジャドは森の中へと入って行く。隊列はジャドが先頭で、僕がしんがりだった。
ジャド「ウルフ発見、数九匹、ミリアナを中心に円陣を組め、来るぞ」
森に入ってわりと直ぐだった。僕達はウルフとの突発的遭遇戦に突入する事になった。
ジャドが的確な指示を出し、僕達は直ぐに陣形を変える。ニイナはちゃんと戦えるのか、ちょっと不安ではあるが、今は信じるしかないな。
ロプ 「焼き尽くせ、ファイアアロー」
この手の動物は、後手に回ると厄介なので、僕は早々に先手を撃たせてもらう。ただ僕の力では、そうたいしたダメージを与えることが出来ない為、火属性魔石の力を借りて、魔法の数を増やすことにした。
魔道具として組み込まれていない魔石は、こうして普段足りない僕の力を補う為に利用することが出来る。まあせいぜいが範囲の拡大、魔法の数の拡大くらいだけれどもね。
それはともかく、僕が火の矢を五つに増やして、それぞれのウルフへとぶつけると同時に、ジャドが突撃をかける。
ウルフに僕達と戦うのは危険だと思わせないと、あっという間にやられかねないから、ここは初撃に痛い思いをさせなければいけない。
幸いにも、長年コンビを組んでいただけにジャドはそれを把握していて、即座に怯んでダメージを受けていたウルフに、斬り付けて行った。一連の動作が終わると、ウルフのうちの三匹が地面に倒れていた。
ここでニイナも動いてくれていれば、もう一匹は確実だったんだけれど、まあ初心者には難しい判断だろうね。そしてその中途半端なダメージに、ウルフに迷いが生じたのがわかった。
ロプ 「焼き尽くせ、ファイアアロー」
ここで出し惜しみするほど、状況はまだこちらに有利ではないと判断して、僕は再び魔法を使う。
今度は魔石を使わないで、僕本来の力で魔法を拡大。ウルフのうちの三匹に火の矢が当たる。それを受けて、ジャドと、今度はニイナも走った。
そしてジャドが二匹、ニイナが一匹を倒すことに成功すると、さすがに不利を悟ったウルフの生き残りが逃げ出した。
ジャド「追撃はいらないぞ。ウルフの討伐じゃないからな」
ということで、逃げるウルフはそのまま追わない。
初パーティーでの戦闘で緊張していたのか、新米二人があきらかにホッとしていた。
敵はウルフ以外にもいるかもしれないので、警戒を解くには早いんだけれど・・・ まあ二人は慣れていないので、仕方ないんだろうな。
その分ジャドが警戒しているみたいなので、今はよしとしておこう。
ロプ 「せっかくだから、革と牙と爪を取って行こう。少し待ってくれ」
僕が素材を集めている間に、二人も気合を入れ直すだろう。
ジャド「な、こいつは生産だと言っていたが、使える奴だろう?」
ミア 「はい、まさかこんなに的確に動けるとは思っていませんでした」
ニナ 「私ももう少し一般人だ、みたいなイメージだと思ったけど。普通に冒険者だよね」
ミリアナが素直な感想を言っているのに対して、ニイナは、中々に厳しい意見をくれたよ。まあ、僕自身が生産だって言ったせいでもあるんだけれどな。
ジャド「まあ、生産で合ってはいるんだけれどな。こんなのでも冒険者として結構長い間、俺と組んで依頼をこなして来ている。実力がともなっていないところもあるだろうけど、冒険者としての経験はちゃんとした先輩だよ」
ロプ 「何か余計なことが聞こえた気もするが、まあ少しは戦えるよ。普通の冒険者に劣るのは確かだけれどな」
ニナ 「これで劣っているって言うの?」
思わずって感じに呟く。
ロプ 「ああ、普通だったらウルフくらい、魔法の一撃で倒していてもおかしくはないぞ。だから僕は、冒険者ではベテランにはなれないな」
ジャド「まあその実力を、魔道具で埋めて欲しいところだけれどな~」
ロプ 「いいアイデアがあれば、そうするさ。残念ながら、今のところは難しいな」
会話の間も、収集をしていた僕は、準備いいぞとジャドに合図を送る。
ジャド「よし、じゃあ移動再開だ!」
ニナ 「はい」
ミア 「はい」
ジャドの合図で再び森の中を移動して行く。
ウルフとの戦闘から、一時間以上は森の中を歩き、ふとジャドが止まれとハンドサインで合図を送って来た。僕はジャドの視線の先を見て、目標のジャイアントエイプを確認して準備を始める。
切り札として用意していた魔道具、水属性の氷の爆発を秘めたそれを取り出す。
ジャドがやれと合図をして来たので、僕は迷いなく魔道具を投げた。
ヒュオ
間にある木を避けて見事誘導された魔道具は、爆発の音にしては奇妙な音を立てて弾けた。ジャイアントエイプの腹には大きな穴が開いていて、声も出さずに絶命したことが確認できた。
ジャド「さすがに切り札にというだけあって、威力は確かだな。予想していたよりも威力はあったと思うけれど、どうだ?」
ロプ 「ああ、ドラゴンに通じるとまでは言えないが、十分な威力だと思うよ」
ジャド「じゃあ討伐部位を回収したら、お前の方のテストは終了だな」
ロプ 「だな。いい結果だったから、満足できたよ」
ジャド「それじゃあお次は、ロックタートルだな」
そう言うと、僕達は向かう先を変えて移動を開始した。
ニナ 「その奥の手、いいな~。私も使いたいよ」
ロプ 「そう言ってもらえるのは嬉しい評価なんだが、残念ながらこれは魔力を使って誘導するからな。ミリアナになら使えると思うが、そもそもが数を用意できないんだ。わるいな」
ジャド「そうだぞー。だから切り札って言うんだ」
ニナ 「何だ~。うまく行かないね」
ロプ 「そうだな、中々うまいこと進んでくれないよ」
話しながら移動すると、目標を発見した。
ロックタートルはとても硬いが動きは鈍く、素人でも攻撃が避けられる。そのかわり噛み付かれたら離れない強靭な顎がある為、うまく連携しなければ危険性は結構高い相手だった。僕は魔法を温存して、適当に拾った木の棒でロックタートルを牽制してみんなの支援をする。
ニナ 「えい、やあー」
ニイナが接近戦をするのを、ジャドと僕が支援する。ミリアナは神官なので、魔法をなるべく温存したいところだけれど、今回は使ってもらう。
ミア「神罰」
彼女達の訓練もあるのだけれど、僕達の方からも彼女達に合わせていかなければ、連携はうまくなっていかない。まあ、これは時間のかかることなので、慣れるまではじっくりやっていった方がいい。彼女達が、他のパーティーに行かなければだけれどね。
それはさておき、やっぱり彼女達は初心者みたいで夢中になると、周りが見えないこともある。
僕達が危なそうな敵を適当に相手してやりながら、大体十匹くらい倒した後町に戻ることにした。もちろん素材として、甲羅などを取って来たよ。
ジャド「学校以外でパーティーを組んでみて、どうだった? 知らない年上の男性もいるし、やっぱりやりにくかったか?」
帰りのマギーの中で、ジャドがそう聞いていた。意外と気配りできるやつだな。
ニナ 「そうね、緊張してうまく出来ないこともあったと思う」
ミア 「私も、まだ慣れていない感じがしました」
まあ、初日だし直ぐに馴染める方が特殊だろうな。これからずっと命を預ける仲間だとしたら、それこそ慎重に見極めていかないといけないだろうしね。
ジャド「まあ、このパーティーでいいよって話なら、これから徐々にでも慣れてくれればいいさ」
ロプ 「僕はたまにしか参加しないと思うけれどな~」
僕はそこを忘れるなよって感じで、会話に口を挟んでおいた。
ミア 「ロップソンさんは、何で冒険者の方に集中しないんですか? 商業ギルドではそんなに儲けがよくないのでしょう?」
ロプ 「ジャド、言ったのかよ・・・・・・まあいいか、お前達が冒険者初心者なら、僕は生産者初心者なんだよ。いきなりベテランのように稼げる方がおかしい。それと、冒険者の素質は僕には無い。せいぜい末端の冒険者くらいの実力だよ」
ニナ 「見ていた感じ、ベテランって思うほど息が合っていたように思えたけど?」
ロプ 「そこは長年の付き合いだから、息が合うのは当然だな。実力の方に関しては、ウルフを一撃でしとめられない魔法使いには価値がないよ、おそらくジャド以外に声をかけても誰もパーティーには入れてくれないさ。伸びしろがあれば、また話は違ってくるかもしれないがな」
ニナ 「そうかな? あれだけ出来たら凄いって思えるのに」
ロプ 「そのうちにわかって来るんじゃないのか? ジャドに手助けされて、やっと一人前って感じで戦っているだけだからな。魔法使いは、攻撃が成功したら一発逆転してくれるって感じじゃなければ、体を張って敵から守られる価値がない職業だよ」
ミア 「そういうものかしら?」
ロプ 「そのうち、本物の魔法使いとかに会う機会もあるだろう。その時にわかると思うよ」
僕はそう締めくくった。こういうのは実際に見てなるほどって思わないと、わからないものかもしれない。