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魔石職人の冒険記  作者: 川島 つとむ
第四章  再開する冒険
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幸の冒険

登場人物 ロップソン=ロプ(台詞表記) ジャド=ジャド(台詞表記) ニイナ=ニナ(台詞表記) ミリアナ=ミア(台詞表記) レイセモルス=レイ(台詞表記) 小林幸=幸(台詞表記) ミーリス=ミリ(台詞表記)

 幸  「ロップソン、私も一緒に冒険に行きたい」


 みんなで騒いだ翌日の朝、幸は突然そんな事を言い出した。


 ロプ 「おそらく、思っている以上に危険だと思うよ。向こうと違ってほんの少しの油断やミスで、簡単に命を落とす事もあるし、こっちが油断なんかしていなかったとしても、僕達なんか一瞬で殺されても不思議じゃないような化け物だってこっちの世界にはいるんだ。慣れていない幸が冒険に来ても、うまく対応する事もできないと思う」

 幸  「それはわかっているけれど・・・・・・」

 ロプ 「まずは一歩ずつ、幸はこっちの言葉もまだうまく扱えていないんだがら、まずはそこからにしよう。もし幸が本気なんだとしたなら、冒険者養成学校へ通うべきだが言葉が喋れないんだったら、そこにも通えないからね」

 幸  「わかった。がんばるよ!」


 何とか納得してもらえた。しかしこのぶんだとほんとに冒険者になろうとするかもしれない。とすると幸の冒険者としての職は何が合っているのだろうか? 今までモンスターを見た事もなければ戦いも経験していない女性で、おそらく体もこちらよりもひ弱だと思われる。

 まず間違いなく前衛のような、直接敵と戦う職業は駄目だろうな。そして元々魔力が無い世界の住人なので魔法系の職業も無理だろう。

 そうなると、盗賊が一番可能性としては高いかもしれないな。戦闘ができない盗賊・・・・・・しかもニイナと被っているし・・・・・・

 僕達のパーティーに入るのは厳しいかもしれないな・・・・・・

 後は僕の渡した魔道具で魔法を扱ったりとか、そういうので戦うくらいだろうけれど万能ではないので、別の武器になりそうな魔道具を作らないといけないかもしれない。

 まあ当面やりたい事もないし、防御用の魔道具と攻撃用の魔道具の開発でもしてみる事にしよう。

 今日のところは冒険へと出かける事にしてギルドへとやって来た。


 ロプ 「おはよう~」

 ミア 「おはようございます」

 ニナ 「おっは~」

 ミリ 「おはよう」


 レイはまだ来ていなくて、ジャドは依頼を見ているって感じだね。雑談ついでに幸の事も聞いてみるかな?


 ロプ 「幸も冒険について来たいって言っていたんだが、みんなはどう思う?」

 ミア 「サチさんですか・・・・・・女の子ですし、歓迎しますよ」

 ニナ 「そうじゃなくて、付いて来られるかって事だよね?」

 ミリ 「見た限りでは普通に一般人だったな。冒険者には向いていないと思う」

 ミア 「やってみなければわかりませんよ。本人のがんばり次第ではないでしょうか?」

 ロプ 「幸は今まで争いのない所で住んでいたんだ。そんな人間が冒険にでるのは無謀だと思うが、できる職業といったらおそらく戦闘をしない盗賊くらいじゃないかと思うんだがどうかな?」

 ミア 「それなら手先が器用ならできそうですね」

 ニナ 「でも私がいれば必要ないね。パーティーに盗賊が二人って聞いた事がないよ」

 ミリ 「だな。普通に足手まといになるだけだと思う」

 ロプ 「まあ、どちらにしてもこれから言葉を教えて、来年度の学校に通ってって感じになると思うから、順調に行ったとしても三年後くらいの話だと思うけれどな」

 ニナ 「その頃には私達はベテランだね!」

 ロプ 「だな~」

 ミア 「今でさえ差が大きいのに、サチさんには辛そうですね」

 ニナ 「でも、しっかり訓練してもらわないと、こっちも困るからね~」

 ミア 「それはわかりますけれど・・・・・・私達のパーティーに入るには少々難しそうですね」

 ミリ 「そうだな」

 ロプ 「やっぱ、無理があるよな~」

 ミア 「こればかりは仕方がない」

 レイ 「おはよう」


 僕らがそんな話し合いというか、幸の話をしているとレイがやって来た。僕らはそれぞれに挨拶を済ませて、さっきの続きの話をする。


 レイ 「こればかりはサチさんのがんばり次第でしょうね。努力次第では、学校へ通いながらこちらのパーティーに参加する事もできると思いますし」

 ミア 「確かに、多少実力が足りなくてもみんなでフォローしていけば、行けないこともなさそうかも」

 ニナ 「実際どうなるかは、その時次第だね。学校卒業していても、初めはうまくできないし」

 ミリ 「確かに」

 レイ 「確かに」

 ジャド「盛り上がっているようだが、そろそろクエストに行くぞ。サインしてくれ」

 ロプ 「あいよー」


 ジャドが持って来た依頼は、ワイバーンの討伐らしい。相手は空を飛び回るので厄介そうな依頼だな。だからか、今回の依頼はこれだけみたいだ。

 それぞれに依頼を確認して、サインをしていく。クエスト内容そのものとかに意見は特に無さそうだった。


 ロプ 「僕とミーリスがワイバーンを地面に落として、ジャドとレイで押さえ込み、ニイナとミリアナが支援しながらみんなでって感じかな?」

 ミリ 「それがいいパターンだろうが、今回巣を作っているワイバーンとあるから、何体いるかは現地に行かなければわからないかもしれないな」

 ロプ 「複数なら落ちたやつをみんなに相手してもらって、僕とミーリスでワイバーンを牽制して、各個撃破って感じがいいかもしれないな」

 ミリ 「そうだな」


 戻って来たジャドと一緒にマギーで現地まで移動する間に、大体の流れを打ち合わせする。

 実際のワイバーンとの戦闘は、四体のワイバーンがいたにもかかわらず、そこまで苦労する事無く退治する事ができた。苦労した点は、空を飛び回るワイバーンに攻撃を当てるのが難しく、こちらに向って襲い掛かって来るワイバーンに攻撃魔法を撃って回避したところを狙ってスパイダーネットで絡め取るという方法で、初めの一体を倒す事ができた。

 後続のワイバーンは、仲間を助けようと突撃して来たやつをそれぞれにスパイダーネットで落としていって、順番に倒せたよ。

 そこそこ早めに討伐が終わったけれど、他のクエストを受けるには中途半端な時間だったので、今日はこのまま分配をして解散する事になった。

 帰り道、ジャドには少し幸の冒険者になるという話しを聞いてもらう事にすると、幸もまじえて話をしてみようという事になった。


 ロプ 「ただいま~」

 ジャド「お邪魔するぞ~」

 幸  「オカエリナサイ。ジャドサン、イラッシャイ」

 ロプ 「幸の冒険者にって話を聞いてもらう為に、来てもらったんだ」

 幸  「ヨロシクデス」

 ジャド「結論から言えば、かなり厳しいと言えるな。まず俺達パーティーは既に小型のならドラゴンを倒せる程の力を付けている。そこにモンスターを見た事もない人が参加するっていうのは、まず不可能だ。これがクエストの護衛対象なら話は変わるんだがな~。まあ、はっきりと言えば足手まといになるって事だな」

 ロプ 「まあそうなるよな~。向こうにあった物語の中の世界なら、世界を渡ると特別な力がもらえるって話だけれど、そういうのもないんだろう?」

 幸  「エエ、ナイデス」

 ジャド「なら今からがんばって、冒険者になれたとしてもパーティーは別になる可能性の方が高いな」

 ロプ 「やっぱ、そうなるよな~。魔道具で底上げしても駄目かな?」

 ジャド「どの程度の底上げができるかによるかもしれないが、それでも学校に二年通ってから別のパーティーで慣れてもらってって感じで三年くらいは見ておかないと駄目じゃないかな?」

 ロプ 「やっぱ、厳しいな~」

 幸  「ソウデスカ・・・・・・ソウダンニノッテクレテ、アリガトウ」

 ジャド「申し訳ないが、こればかりはな~」

 ロプ 「なんかできないか、魔道具を考えてみるよ。でき上がったらまた相談に乗ってくれ」

 ジャド「あいよ~。じゃあ俺は帰るな。サチさんも、またな」


 そう言って帰って行った。

 やっぱりそううまく事は運ばないものだな~ でも、調合師が薬を使って戦うとか、そういう記録もあるそうなので、何かしらの方法があると思う。幸の場合は向こうの世界の技術を使った魔道具で戦うのが一番じゃないかって気がするので、やっぱり僕の発明次第って感じじゃないかな?

 防御系の魔法も使えるようになった事だし、まずは戦闘のさいに危険を防ぐ為の魔道具から開発して行こうと思う。指輪で使う防御魔法じゃなくて、レザーアーマーとかに組み込もうかと考えている。今はまだ構想だけだけれどね~


 翌日は幸を教会へと送った後、学校に勉強をしに行った。授業内容としては支援と防御魔法の呪文を教えてもらって、その効果を習うだけなのだけれど、これを覚えていないといざって時に魔法が使えないからね。戦いの幅を広げる為ってのもあるけれど、幸の安全を確保する為にも必要な授業だった。

 午後からは工房内の設備を整える為に生産活動をしていく。こっちの作業内容は決まっているので、幸用の装備をどうしようか考えながら作業していた。

 幸はこちらでできた友達がいるらしく、遊びに行っているという話だった。教会の知り合いだろうか? そのうち紹介してくれるって話なので、まあとりあえずは楽しんでもらえればいいかなって思う。友達ができれば、いろいろと会話とかもすると思うので、会話の練習にも丁度いいからね。

 幸も段々とこちらの世界に馴染んで来て、僕も工房を使いやすいように設備を増やしつつ、ジャド達との冒険に出かけること数週間。

 朝食の席で幸からお願いをされた。


 幸  「ねえロップソン、私も冒険に連れて行ってくれない?」

 ロプ 「それは、学校に行って技術を習ってからって話になっただろう? いきなり行くのは危険過ぎる」

 幸  「でも私の場合は、学校で習うような技術を身に付けても生かしきれないよ。魔法だって使えないしね。だから友達に私に合った武器を作ってもらったの。それで戦って行きたいって思っているんだけれど、駄目かな?」

 ロプ 「いつの間にそんな事をしていたんだ・・・・・・その友達って一体、誰なんだ?」

 幸  「今はまだ合えないんだって。だからもう少し待って欲しい」

 ロプ 「とりあえず、リーダーのジャドに話してみよう。冒険者になるのなら、冒険者として登録もしないといけないしね」

 幸  「わかった」


 朝食の後、幸を連れて冒険者ギルドへとやって来た。幸をみんなのところへと送った後、挨拶もそこそこ依頼を選んでいるジャドに話をしてみる。


 ジャド「一度、サチさんの言っている彼女に合った武器っていうのを見せてもらって、戦い方も教えてもらうのがいいかもしれないな。話だけ聞いていてもわからないだろう?」

 ロプ 「確かにそうだな。登録はどうする? 確かめてからの方がいいかな?」

 ジャド「冒険者として通用するのかどうか、ギルドにも判定してもらうのがいいかもしれないな。俺達もそれを見させてもらえば手間は省けそうだ」

 ロプ 「わかった、じゃあ先に冒険者として登録してもらおうか」

 ジャド「だな。依頼は登録できたらお試しの軽いやつにしよう。駄目だったら家に送って行ってやるのがいいかもしれないな」

 ロプ 「だな。それで頼む」

 ジャド「まあ、戦力が増えるならそれはそれで嬉しい事さ」

 ロプ 「なるべく危険な事はしないで欲しいんだがな~」

 ジャド「本人の意思を無視して閉じ込める訳にもいかないだろうさ」

 ロプ 「そうだな」


 みんなに状況を説明して、幸の冒険者登録を済ませる事になった。


 ギルド「ではここに必要事項を書き込んでください」


 そう言って差し出された書類に、幸が不慣れな文字を書き込んでいく。それを受け取ったギルド員が首を傾げた・・・・・・


 ギルド「あの、職業ガンナーとありますが、これはなんですか?」

 幸  「エット・・・・・・」


 ガンナー。向こうの世界には銃器と呼ばれる武器があったな。確かに幸には馴染みがあって扱いやすいかもしれない。それに遠距離攻撃になるからモンスターと直接戦わなくて済むのもいいところだと思ったよ。それはさておき、受付の人に説明をしないといけないな。


 ロプ 「すみません、銃器という武器が存在するのですが、それを使った専門職です。特殊職として登録お願いできますか?」

 ギルド「はあ、わかりました。とりあえずそのように登録をしますが、その銃器という物はどういったものですか?」

 ロプ 「近い物だとボウガンですね。それの特殊形態です」

 ギルド「わかりました、ではこちらにお願いします」


 案内されて移動したところは、弓の試射場であった。二十メートルくらいは離れた場所に的が三つあり、それを撃ってもらうようだね。

 そして幸が取り出して来た銃器は、向こうでライフルと呼ばれている物に近かった。近いだけで、同じでないのは見て直ぐわかったよ。デザインはどちらかといえば、こちらの世界のものだね。

 そしてギルド員の指示した的に向って、即座に発砲しては的のど真ん中を射抜いている幸を見て、確かにこれなら戦力になるだろうと思った。

 命中した的はど真ん中から抉られた様に消し飛んでいて、当てる技術も凄いと思うのだけれど、その破壊力もまた凄いと思えた。ただ、こうやって的を撃つのと実際にモンスターを撃つのとではかなり違いがあると思うのだけれど、そこはクエストに行ってみないとなんとも言えないだろうね。

 後、銃器を撃っていて気になったのがこの銃器、向こうの世界のような発砲音がしないので凄く静かだった。

 確か向こうの銃器はパンパンと音が鳴り響くはずだったのだが、この銃器は火薬という粉を使っていないのかな? これなら後方から撃っていたらどこから撃っているのか、わからないだろうね。それどころか、どうやって攻撃されているのかも不明かもしれないな~

 ともあれ、幸は正式に冒険者として認められる事になったようだ。それを受けて、ジャドも依頼を探しに行ってくれる。


 ジャド「さて、それでは今回の依頼はサチさんとの連携も含めて確認したいので、この依頼に行きたいと思う」


 そう言って出して来たのは、リザードマン退治であった。学校ではさまざまな戦いを学ぶのに丁度いい敵として、またこの強さのモンスターからは油断できないとして、冒険者になれるかどうかの目安として考えられている敵である。

 少人数での参加ではないので、リザードマンの集落を排除するっていうこのクエストも、そこそこにいい選択かと思われた。


 ロプ 「腕試しにはいいんじゃないかな」

 ミリ 「もしサチ殿にはきつくても私達で対応できるし、改めて皆の連携もチェックできていいかと思う」

 ミア 「がんばってサポートしよう」

 ニナ 「何かあったらフォローは任せて!」

 レイ 「私も問題無さそうです」

 幸  「エット、ヨロシクオネガイシマス」

 ジャド「よし、じゃあサインして早速移動しよう~」


 それにしても、結構な大人数になったものだな。そう思いながらもリザードマンの集落まで移動した。


 ジャド「さて、サチさんは遠距離メインだよな? なら最初は好きに動いてくれ、寄って来た敵はこちらで処理する」

 幸  「ワカッタ」


 そう言って幸は、ある程度集落に近付いてマントにすっぽりと包まれるようにして座り込んだ。その瞬間幸の姿が見えなくなる・・・・・・


 ロプ 「え?」


 みんなが不思議に思っているうちに、前方の遠くからかすかな声が聞こえて来た。といっても距離にして三百メートルは離れている為に、かすかに聞こえるだけなのだが、リザードマン達が騒いでいるのだろうという事だけはわかった。

 そのまま静かな殺戮が繰り返されて、五分もしないうちに動くリザードマンは一体もいなくなっていた・・・・・・

 圧倒的であった・・・・・・おそらく狙いを外した攻撃はなかったのではないかと思われる。

 討伐部位の回収もある為に集落へと向ったのだけれど、ほぼ全てのリザードマンの急所が一撃で打ち抜かれていた。これは怖過ぎるだろう・・・・・・見えないスナイパーから一方的に撃たれるとか、恐ろし過ぎるよ・・・・・・


 ジャド「ははっ・・・・・・凄い戦力が来たものだな・・・・・・」

 ニナ 「それ、私にも使わせてくれない?」

 幸  「ゴメンナサイ。コノジュウハ、ワタシニシカ、ウテナイヨウニ、セッテイサレテイルソウデス」

 ニナ 「なーんだ。つまんないの・・・・・・いいな~。私もそれ欲しいよ」

 幸  「ゴメンネ」

 ニナ 「まあいいよ」

 ロプ 「一応、生きている奴がいないか、撃ちもらしがいないか警戒しながら回収しよう」

 ジャド「そうだな。回収したら集落は燃やして次のやつらが住まない様にするぞ~」


 衝撃から立ち直ったのか、ジャドが指示を出し始めた。さすがの幸も、討伐部位を集める作業は気持ち悪いようで後ろを向いて見ないようにしていた。

 まあ、それくらいは仕方ないだろうね。こっちだと野生のウサギとか捕まえて食べるけれど、向こうは捌いた後の肉しか見かけなかったからね。さすがに慣れていないとこういうのは無理だろうな~

 それにしてもこのマント、ひょっとして魔道具か? 何気に下に着ているレザーアーマーも、無駄に凝った作りしていて凄いな。この格好で出て行っても、貴族で通用しそうな程デザインも質もよさそうだった。これ、友達になったっていう人が作ったのか? 魔道具って話ならもしかすると・・・・・・発明王か!


 ロプ 「なあ幸。もしかしてこっちで知り合いになったっていう友達って、発明王なのか?」

 幸  「発明王? よくわからないけれど、レイシアさんの知り合い? 友達なのかな? ペットではないだろうけれど・・・・・・よくわからないよ」

 ロプ 「そうか・・・・・・」


 レイシアさんの関係者なら、発明王の可能性は高いかもしれない。レイシアさんとブレンダ女王は、同級生だったって話だからな。まあ、あまり詮索はしない方がよさそうだな。


 ジャド「よし、じゃあ撤収だー。次ぎ受ける依頼からは、普通のにするからな」

 ニナ 「はーい」

 ミア 「わかりました」


 幸の初依頼はこんな感じで終わった。


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