結界強化
登場人物 ロップソン=ロプ(台詞表記) 小林幸=幸(台詞表記) 鹿島雄二=鹿島(台詞表記) 佐竹寿美=佐竹(台詞表記) 武田亮二=武田(台詞表記)
次の結界については、キーワード無しで近付く者にはパラライズの魔法が飛ぶようにして、魔道具が破壊された時には音と振動で、どこの魔道具が壊れたのかを知らせるって感じでいこうと思う。後は前回、一箇所が壊れると結界が崩れてしまったので、一つ壊れても維持されるようにしよう。
さて、これだけの機能を付け加えるとしたら、魔石が幾つ必要になるのだろう? 元々の結界に使っていたメンタルバーストは闇属性なので、まずはここで魔石は一個いる。次にパラライズの魔法は風属性の電撃になるので、風の魔石かな。音で知らせるのも風属性でいいので、ここは共有できそうなのでこの二つの魔法で魔石が一個。後は振動が土属性になるのでこれで三つ目かな。
後は一箇所壊されても大丈夫なように、魔道具の数を前回の五個から八個くらいに増やして、二・三個破壊されても結界の維持に問題が出ないようにしてみる。
結界だけで、必要魔石がかなりの数になりそうだから、しばらくは別の武器を作るのもきつそうだね。まあ開発と構想自体は先に進めておけるだろうけれど、実際に作り始めるのは先になりそうだった。
僕の方はひとまず結界の構想を組み立てて、魔石の補充待ちって感じの作業になったのだけれど、鹿島さん達は重機が来るまでの間に、今まであった金網にブルーシートを取り付けて、敷地内部を見られないような対策をしていた。
壁で無いのでシートをめくれば中が丸見えになってしまうし、木などに登られたら中は丸見えになるので、ほんとに応急処置にしかなっていないのだけれどね。
その作業が終わると、どの位置に堀を作るのかの会議をして、敷地内の地図に書き込んだりして、重機が来次第直ぐに作業が開始できるように準備をしていた。
そして幸さんは特にすることもなく僕の側にいたのだけれど、精神力の回復をする為に睡眠を摂っていたら、よく眠れるようにとアロマキャンドルとかいう匂いがするロウソクとかを持って来てくれた。
一般冒険者向けの即熟睡、即覚醒する魔道具とか、いいかもしれないな~って思ったよ。まあ今は関係なくて、戻れなければ役に立たない物だけれどね・・・・・・
それぞれが、それぞれの作業を始めて五日目、僕は結界用魔道具を八個完成させることができたので、早速それを金属で囲い、地下深くに埋める作業を始めることになった。
魔道具を囲う為に選ばれた金属は鉛。それ単体では衝撃に弱いということで、魔道具を鉛で幾重にも囲い、それをさらに鋼で作った箱の中に入れる念の入れようだった。ちなみに、実験ではちゃんと結界の魔法は発動していたので、逆に言えば敵からの魔法も届くということだと思われる。
まあ、物理的ダメージじゃ無ければってことなんだろうけれどね。懸念があるとしたら、地属性の座標による攻撃。これなら障害物を無視した攻撃が可能になる。
これも実験をしたので、多少なら耐えることができるのを確認した。その多少の時間で音と振動を出してもらって、相手の襲撃を感知するって感じになるかな。
そんな感じの魔道具を、こっちの世界の重機で細長い穴を開けて、そこに入れて埋めることになった。仕上げに各魔道具をリンクさせて結界を作動させて、とりあえずの防衛は完成した。
鹿島 「もう一度くらいは襲撃があると思っていたのだが、結局来なかったな」
佐竹 「そうですね。タイミングとしては、作業中など絶好の機会だったと思いますが・・・・・・」
幸 「もう襲撃なんて嫌ですよ!」
鹿島 「まあ来ないなら来ないで、よかったじゃないか」
幸 「ホッとしました」
ロプ 「しかし、この結界でも、まだ、突破して、来るとなると、打つ手が、無くなりそうです」
鹿島 「確かにな」
佐竹 「それこそシェルターの中での生活になりますね」
幸 「それって軟禁ですよ・・・・・・」
鹿島 「実際あそこならゴーレムの侵入も防げたからな。無い話ではないだろう」
佐竹 「そうならない為にも、早期発見早期撃退の対策も、練っていく必要がありそうですね」
鹿島 「ここは戦場じゃないから、相手が攻撃して来るまでは、こっちから手が出せないけれどな~」
ロプ 「いろいろと、面倒ですね」
鹿島 「まあ、お前さんの世界より、複雑なんだろうよ」
幸 「その代わり、普通の生活では豊かで安全ですよ」
鹿島 「だな。いろいろなルールに縛られてはいるが、普段は平和そのものだ」
佐竹 「私達は少し暇ですけれどね」
鹿島 「俺達が暇なのはいいことなんだよ」
幸 「いつもお疲れ様です」
鹿島 「まあそこはお互い様だな。ロップソンみたいな生産者もいなけりゃ、世の中うまく回っていかないからな~」
ロプ 「そろそろ、次の作業に、入りますね」
鹿島 「お、次は護衛が使う為の武器の開発だったか?」
ロプ 「はい。まだ構想も、出来ていませんが・・・・・・」
佐竹 「がんばってください」
ロプ 「わかりました、鹿島さん達も、がんばってください」
鹿島 「おー。まあこっちはただ、体を動かすだけだけれどな~」
今回の襲撃で、一人暮らしは危険だって話になったので、研究所内の以前いた部屋が再び僕の部屋になり、それと共に新たに僕用の工房が用意された。そこでひとまずは一般人でも魔法を扱えるような、魔道具を開発するようにする。
実験は一般人代表として幸さんに手伝ってもらって、キーワードで魔法が発動するようにした。
こっちには魔法が存在しないので意志の力で操るとか、そういうのは難しいということが実験でわかり、だから魔法の追尾機能は魔道具任せとなることになった。
誘導性がかなり落ちてしまうのだが、もうこれは仕方がないところだろうね。何度か魔法の誘導について説明してみたのだけれど、そもそも撃ち出した魔法が自分の意志で自由に動くというイメージを、こっちの世界の人間では意識することもできないようだった。
これは、結局のところ魔道具が魔法を撃っているだけで、自分の力を使っていないって意識にあることも、原因かもしれない。人は自分の力ならば、ある程度認識できるのだけれど、まったくの未知の力になると、どうしていいのかもわからなくなるものだからな~
そんな訳で、キーワードによって一度撃ち出された魔法は、魔道具によって多少の誘導を受けて飛んで行くって感じのものになった。
開発した属性は六種類。例えば火の属性ならば、ファイアアロー。水属性ならば、アクアブリット。風属性ならば、ウィンドカッター。一つに付き一つの魔法が発動可能にしてある。
これは初期の魔法なのだが、上位の魔法を設定すると魔石の消耗が激しくなる為に、これだけにしてみた。バンバン魔法を使われると、魔石の生成が追いつかなくなるからね。
さて、次はレーザーソードだったかな? 魔法の撃ち合いでは、ゴーレムとまともに戦えないと思うので、こっちがメインになると思っている。ただ、剣の形に魔法を固定するっていうのは、アニメとかSFの世界の話なんじゃないかな? そんなのどうやって作るんだよ・・・・・・
とりあえず悩んでいても仕方がないので、火を起こす魔法を使い、それを剣の形に無理やりしてみることにした。
ロプ 「燃えろ、ファイア」
本来のファイアは、掌の上でぽつんと炎を揺らすだけなんだけれど、今回は剣の様な形を一応取っている。結構やればできるものだな~ 剣先は威力不足なのか無くなっちゃってるけれど・・・・・・
まあそこはいいや、とりあえず適当な石を用意してもらって、試し斬りして見ることにした。
ロプ 「幸さん、試し切りして、みたいので、石とか、用意して、もらえますか?」
幸 「はい、ちょっと待っていてくださいね」
そう言って工房を出て行って、三十分程してからフォークリフトと呼ばれている乗り物に、石を乗せて戻って来た。これも元の世界に帰れたら作りたいな。
石を工房の隅に置いてもらって早速攻撃してみることにした。
ハッ!
石に当たった瞬間に、剣先が石を避けるように歪んだよ・・・・・・現象を確認してみる為に、もう一度突き刺すように動かしてみると、岩を火であぶっている感じだね。
幸 「ふにゃふにゃですね」
ロプ 「根本から、違う、感じだね」
物理的に存在している剣は、ちゃんとその重さや質量があるが、これには実態が無い陽炎のようなもので、石を叩いたっていう手応えみたいなものがまるで感じられなかった。紙とかなら燃えるのだろうね。でも石には意味は無さそうだったよ・・・・・・
ロプ 「ビームソードなんて、SFな話、無理じゃないかな?」
幸 「私、何かヒントになりそうな資料でも集めてきます!」
ロプ 「お願いします・・・・・・」
幸さんが用意してくれた資料はアニメや小説、映画などの設定資料で、実用性というよりは発想の転換や、妄想のような実現不可能って感じの話が多かった。
使えるアイデアであるかどうかはこの際置いておいて、それらを読み込んで何かしらのアイデアが出て来ないかと考えることにしてみた。
実際の話し、魔法はこの設定資料にあるほど万能のものではなく、明確にできることとできないことに別れている。それらを合わせて考えると、ほぼ全ての設定が使い物にならなくなる程であった。そこに来て、僕は魔法使いとしては未熟者であるので、さらに選択肢が狭くなって来る。
だからその劣る部分をこちらの世界の知識で補うように考えていった。工房にパソコンといういろいろな情報を調べることができる機械を用意してもらい、自分の発想を現実化する為の手段を探していく。
そうして集めていった知識の中で、一際気になったのはどれだけ硬い物でも、水が削り取っていくというものである。これを応用できれば、石でできたゴーレムであっても斬れるかもしれない。
問題は、そこまでの高圧縮な水流を作り出せるものかどうかになってくるな。まあ、そこが魔法と科学の融合次第って感じだと思うけれどね~
こちらが高圧縮水流ブレードって感じの物を開発し始めて数日後、対ゴーレム用に製作されていた堀が完成したみたいだった。これは人が乗るくらいなら問題ないのだが、ゴーレムのような重い重量のある物が乗ると落とし穴のように落ちる仕掛けになっているのだそうだ。
敷地内に進入されて、召喚されてしまえばそれまでって感じではあるものの、保険としてはまずまずのものになったかもしれないね。
みんなの作業も落ち着いて、手が空く者も多くなりそうだったので、先に一般人でも発動可能な魔道具を渡して訓練してもらうことにした。使い減りしてしまってまた後で作らないといけなくなるとは思うのだけれど、いきなり本番で使うよりはいいんじゃないかな?
ロプ 「属性に、合わせた、キーワードが、あるので、好きに、振り分けるなりして、欲しい。後で、意見なんか、あったら、言ってくれ」
キーワードと、属性に関しては紙に書いたメモを渡すことにした。
鹿島 「これで俺達にも、魔法が使えるのか~。楽しみだな!」
佐竹 「鹿島さんは火で決まりでしょうね」
鹿島 「お、性格的なものか? それなら佐竹は土にしろよ」
佐竹 「それは地味って言いたいのですか?」
鹿島 「どっしりしているって事だ、悪い意味じゃない。落ち着いているって言いたかったんだ、こっちに魔法を撃とうとするな!」
じゃれ始めた二人に、ちゃんと危険だと言っておいた方がいいのかな?
ロプ 「一応、攻撃魔法が、どの程度の、威力か、わからないが、ゴブリンくらいなら、死ぬくらいの、威力は、あると思うよ」
幸 「危険ですね」
鹿島 「配る前に、ちょっと威力調査をしておいた方がよさそうだな」
佐竹 「ですね。下手をすれば、銃器よりも危険な物かもしれませんよ」
鹿島 「だな。とりあえず了解した。こっちは俺達の方で話を進めておく。何かあれば相談に行く」
ロプ 「わかりました」
幸 「では私達は、開発の続きですね! コーヒーでも入れますよ」
ロプ 「どうもです」
二人と別れて、開発を再開させる。
構造上の問題により、今の圧縮流水ブレードは、剣って感じじゃ無くなった形の物へと変化していた。魔道具の媒体となる筒で、科学の力を応用したピストンにより水を圧縮。先端部分に開けられた穴より噴出された水流が大きく弧を描いて、媒体の後ろの穴からピストンの中へと戻って、再び圧縮されるという感じで作られていた。
その為、携帯していても銃刀法違反とやらで、捕まる事はないと思われる物になりそうではあるのだけれど、剣とは違う戦い方の訓練は必要になりそうだった。
この形状の武器は実際に存在するのかどうか、パソコンで調べてみたところ、近い物を発見することができた。乾坤圏という武器が近いようだった。調べれば何でも出て来るパソコンは凄いなって思いつつも、こんな変わった形状の武器も、この世界には存在しているということにも驚いたよ。
まあ実在する武器に近いなら、うまく扱ってくれるだろう。そう思って安心して開発を続行することにした。
その後数日に渡って研究開発をおこなって、何とか開発に成功した、流水乾坤圏を持って、早速鹿島達の元へと出向く事にした。
ロプ 「訓練中お邪魔します~」
幸 「お邪魔します~」
幸さんはフォークリフトで小ぶりの岩を運んで付いて来ていた。試し斬りする為の岩である。
鹿島 「ようお二人さん、いらっしゃい」
佐竹 「岩を持って来たということは、開発に成功したので?」
ロプ 「剣では、ないのですが、一応、接近戦用の、武器としての、開発が、終わったやつを、持って来ました」
鹿島 「ほう、どんな感じになったのか、見せてくれるか?」
僕達のやり取りに、周りで魔法の扱いを訓練していた警備の人達も集まって来る。
ロプ 「予想と、違うと、思われるので、あまり、がっかりは、しないでくださいね」
鹿島 「了解、とりあえずどんな物か見せてくれ。問題は威力だから、感想は二の次でいい」
ロプ 「わかりました」
幸 「岩は、ここら辺りでいいかしら?」
ロプ 「いいですよ。では、始めます」
幸さんが離れたので、早速筒に取り付けたスイッチをスライドさせてオンにする。本来ならば、魔力を流し込んで発動って感じにしたかったのだけれど、こっちの人達には魔力が無いからね。
おおーーっ
スイッチを入れると直ぐに水が噴出して大きく円を描いて流れ始める。その武器を岩へと叩き付けて行った結果、ぶつかった瞬間に一瞬の負荷がかかったような柔らかい衝撃が起き、水の中で腕を振るうような粘質な抵抗を感じながらも岩を斬りながら腕を振りぬくことに成功した。金属の場合はどうなのか、まだ試していないのだけれど、一応ストーンゴーレムなら、これで斬れると思われる。
おおおおーーーっ!
騒然となる周りの中、鹿島さんと佐竹さんが近くにやって来た。
鹿島 「レーザーソードじゃないのには驚いたが、威力は確かじゃないか!」
佐竹 「これは実際に使うとなると、訓練が必要でしょうね。後危険そうなのでいきなり使うのは、やめた方がいいかもしれません」
鹿島 「それはこっちで考えればいいことだ。まずは開発おめでとう。対抗手段ができた事の方が重要だろう」
佐竹 「確かに、おめでとうございます。そしてお疲れ様でした」
ロプ 「ありがとう、ございます。それと、訓練用の、代わりの、道具ですね。そっちも、こちらで、作りますよ」
鹿島 「それはありがたいな」
佐竹 「この武器は、どれくらい用意したらいいのでしょうか?」
鹿島 「そうだな、全員必要って感じではないな。そうなると、チームに二つくらいが妥当かな?」
佐竹 「そうですね、それくらいあればいいかもしれません」
鹿島 「ならロップソン、そいつを十個作ってくれるか?」
ロプ 「ええ、いいですよ。これを含めて、十個、ですか?」
鹿島 「含めないで十個あると嬉しいかな」
ロプ 「わかりました」
幸 「剣の形ではないのですが、大丈夫なのですか?」
鹿島 「逆に剣の形にできなかったってことは、開発が難しいってことだろう? 後々に剣の形にできればいいが、無理なら無理で、このまま扱うさ」
佐竹 「今は敵への対抗手段を用意するのが先ですからね」
鹿島 「そういうことだ、贅沢は言っていられないってことだよ」
幸 「なるほど」
ロプ 「じゃあ、訓練用の物も、合わせて、早速、量産して、みますね」
鹿島 「頼む!」
かなり特殊な形状になってしまったけれど、とりあえず問題になることもなく量産することになった。必要数が十個ということは、鹿島さん佐竹さんがそれぞれ持っていって、チームは四チームってことになるのかな、一チーム何人だろう? 六人くらいと見ておいて訓練用の道具は二十六個くらい作ればいいかもしれないな。
足りないようだったらまた作ればいいしね。
とりあえず、訓練を先にしてもらう為に、訓練用の道具を複数作り出す。筒の部分にわかりやすくスイッチも付けて、水の部分は細い竹を円状にして大体の大きさがわかるようにした物を二十六個作り出す。
ロプ 「幸さん、この訓練用の、道具を、届けて、来てください」
幸 「わかりました。では行ってきますね」
ロプ 「よろしく~」
さて、じゃあこっちは魔道具自体の量産を始めていきますか~ 気合を入れて、魔道具を生産していった。
そういえば、合計で十一個になると、二人と四チーム、一個余る気がするな。予備なのかな?
不思議に思うが、まあいいかって思うことにした・・・・・・




