お茶会
登場人物 ロップソン=ロプ(台詞表記) ジャド=ジャド(台詞表記) ニイナ=ニナ(台詞表記) ミリアナ=ミア(台詞表記) レイセモルス=レイ(台詞表記)
ジャド「邪魔するぞー」
僕がウッドマンの調整をしていると、ジャドがやって来た。
ロプ 「よう~」
ジャド「冒険の方は行けそうなのか?」
ロプ 「後は納品するだけだから、問題ないと思う」
ジャド「よし、なら明日は早速冒険者ギルドの方に来てくれ。ところでこいつは戦闘もするのか?」
ロプ 「いや、こいつは荷物運び用だな。扱うのにコツがいるから、目の前に敵がいるとうまく操作できないと思う」
ジャド「何だ、中々良さそうなゴーレムだと思ったんだがな~」
ロプ 「残念ながら、こいつは自力で動かないから、ゴーレムではないな。とりあえずウッドマンって呼んでる」
ジャド「安直なネーミングだな。まあいいや、これはマギーに積むのか?」
ロプ 「いや荷台を連結する時に、乗せていく感じかな? 多分普段は活躍しないだろうしね」
ジャド「いつか動いているところも見てみたいものだな」
ロプ 「まあそのうちに機会も出て来るよ」
ジャド「まあそうだな。その時を楽しみにしておこう」
ジャドはそう言って帰って行った。しばらく後にウッドマンの調整を終了し、これでこいつは完成とする。
後は納品用にティーポットと、過熱の板を量産しておこう。自分達用のお茶玉と保存食も用意するけれど、こっちは技術自体をギルドに売ったので、納品する必要はない。
明日冒険に行くので、その時にでも使おうと思って用意してみたのだ。
あー、ついでに、回復ポーションとかそっちも、本来の錬金術を使って用意しておくかな。そんな感じで冒険の準備をしてその日は過ぎて行った。
ロプ 「おはようー」
ミア 「おはようございます」
レイ 「おはよう」
冒険者ギルドに来てみると、ミアとレイがいた。今日の僕は昨日しっかり寝られたこともあり、遅刻しないで来られたようでホッとしていた。それはさておき、せっかくなのでお茶を振舞うとしようかね。
ロプ 「まだみんな揃っていないことだし、僕の作っていたお茶をご馳走するよ、どれがいいかな?」
そう言って、いくつもあるお茶玉を取り出して、どれがどの味なのかを説明していく。二人が選んでいる間に、木を削って作られたカップを人数分と、ティーポットを用意する。使い方の説明もかねて、自分用にお茶を作って見せると、ほ~って感じでこっちを見ていたのがわかった。
レイ 「ではこちらので、お願いします」
レイが選んだのは、健康茶といわれるお茶玉だった。カップにお茶玉を入れてもらって、そこにお湯を注ぐ。一口それを飲んだレイは・・・・・・
レイ 「確かにお茶ですね」
そう呟いて、不思議そうにカップの中身を見ていた。
ミア 「では私はこれで、お願いします!」
ミリアナも急いでカップの中にお茶玉を入れて差し出して来たので、直ぐにこっちにもお湯を注ぐ。ミリアナが選んだものは高級茶だった。
ミア 「うわー、凄いです。こんなにお手軽なのに、高級感が損なわれていないだなんて・・・・・・ロップソンさん、さすがですね!」
ロプ 「味に関しては、商業ギルドで共同開発になったからできたことかな。料理開発課の人達が試飲して、味を確かめてくれたから、種類も一杯増やせたしね」
レイ 「なるほど」
ミア 「さすがプロって感じですね~」
ロプ 「そうだな。僕はそこまでお茶に詳しくなかったから、さすがに一人ではここまでの物は作れなかっただろうしな~」
レイ 「普段冒険者は忙しいので、たまにはこういう時間もいいものですね」
ミア 「ですよね! これからはいつでもお茶が楽しめそうなので、嬉しいです」
ロプ 「初めはどこから手を付けていいのか、迷っていたんだけれど、うまくできてよかったよ」
ミア 「生産の方は、なんだかんだと言いながら、最後まで作ってしまうので尊敬しますよ」
レイ 「確かに、私などは作るより壊すばかりですから、恥ずかしいばかりです」
ミア 「レイさんは、料理とかはしないのですか?」
レイ 「恥ずかしながら、今までやったことがありません。剣ばかり振り回していました」
ロプ 「まあ、まったくやったことがないっていうのもどうかとは思うが、案外やってみればうまく行くかもしれないよ」
ミア 「そうかもしれませんね」
三人でお茶を飲んで一息ついていると、ニイナがやって来た。
ニナ 「あー、みんなで楽しそうなことをしている! 私も混ぜて!」
朝からニイナは元気一杯だな~ そう思いながらも、お茶玉を見せて、どれがどの味なのかの説明をして行く。そして選んだお茶玉をカップに入れてお湯を注いだものを、ニイナの前に置いた。ちなみに選んだものは紅茶だった。
ニナ「おーーー」
感想みたいなものはなかったけれど、表情を見れば感動したって感じなのでよしとしよう。
ロプ 「ところでニイナは、料理とかできるのか?」
ニナ 「チッチッチ。今時女は料理を作るものなんて、流行らないんだよ~」
ロプ 「ってことは、作れないんだな?」
ニナ 「違う、作れないんじゃなくて、作らないんだよ!」
ロプ 「いや、作れよ・・・・・・」
ミア 「野営の時にでも、交代で料理をして、それぞれの腕でも見ておきますか?」
レイ 「やったことがないので、それはちょっと・・・・・・」
ロプ 「じゃあ、もしそれをするならレイは一番最後で、みんなの料理の準備を見て覚えるといいかもしれないな。壊滅的に駄目だっていうなら、他の人に任せるのがいいが、作れるのなら覚えて置いて損は無いと思うよ」
ミア 「そうですね。何事もチャレンジです!」
ニナ 「一応少しは作れるよ・・・・・・。そんなにうまくないだけで・・・・・・」
ロプ 「僕やジャドも一応は作れるが、味は普通だからそんなに心配するな」
ミア 「やっぱり料理できるのですね」
ロプ 「まあ冒険者には必要な技能だろう」
レイ 「やっぱり作れないとだめですか・・・・・・」
ロプ 「だめではないが、みんなが倒れて動けない時に慌てるよりは、作れた方がいいと思うよ」
ミア 「確かに、何があるかわかりませんし、できた方がいいですね!」
レイ 「なるほど。では機会があればがんばってみたいと思います」
ニナ 「がんばれ!」
ジャドが来るまで、そんな感じの雑談をしながらゆっくりとお茶を味わった。
ジャド「おはよーって早速お茶会始めているのか、俺のも適当に作っておいてくれ、依頼を選んで来る」
ロプ 「わかった」
何でもかまわないという話だったので、ブレンド茶の玉をカップに入れて、お湯を注いだ物を隣の席に置いておいた。ジャドはあまり濃いお茶は飲まなかった気がする。
そういえばこのお茶玉って、何回使えるのか調べていなかったな。みんなには、それも試してもらった方がいいかもしれない。
ロプ 「少しいいかな?」
三人が楽しそうに喋っていたけれど、申し訳ないが、検証に付き合ってもらおう。
ミア 「なんでしょうか?」
ミリアナが代表して返事をしてくれた。
ロプ 「このお茶玉なんだが、何回使えるのかっていうのを調べていなかったんだ。なのでこいつは捨てないで、何回か使い回してみて欲しいんだがいいかな?」
ニナ 「何だそんなことか、別にいいよ~」
レイ 「そうだな、問題ない」
ミア 「はい、大丈夫ですよ。じゃあ一杯お茶の時間を作らないとですね!」
複数回使えるようなら、お茶玉専用ケースみたいな物も、作ってみるといいかも知れないな~
ジャドが帰って来るまで、僕はそんな事を考えていた。
ジャド「待たせたな、今回はこれなんてどうだろうか」
席についたジャドは依頼表を机に置くと、自分用に用意されたお茶を飲みながらそう言った。依頼の内容は森に出没する何者かの調査と、危険の排除という依頼だった。これって、難易度がわからないんじゃないのかな?
ロプ 「相手が特定されていないものは、危険じゃないのか?」
ジャド「まあそうだが、何時も何時でも相手がわかっているっていう状況は、判断力の低下を招きかねない。不意の強敵にも対応できないと冒険者はやっていけないからな」
ロプ 「まあ、言いたい事はわかるんだけれどね。まだこういうのは早い気がするな」
ニナ 「ロップソンさんが、いない間に私達も強くなったんだよ。だから大抵のモンスターなら大丈夫だよ!」
ミア 「そうですね。一度大物にも挑んでみましたが、無事に討伐することができましたので、よほどの相手でない限りは、何とかできると思いますよ」
ジャド「そういう訳だ、お前の切り札もあることだしな」
ロプ 「レイも賛成か?」
レイ 「私は、がんばるだけです」
ふむ、まあみんながやる気ならばいいのかな?
ロプ 「わかった。いつもより慎重に行くことにしよう」
ジャド「よし! じゃあサインしてくれ」
こうして僕達は、森へと移動を開始した。お茶玉は水分を含んでしまったので、取り出して羊皮紙に包んで持っていくことにした。
ロプ 「それで今回の依頼で、参考になりそうな情報とかは何かないのか?」
ジャド「依頼して来た村人達の話が少しあるくらいかな。最初の犠牲者は木こりをしていた者だったらしい。帰って来ないと心配して森に入って行った村人共々、戻って来なかったそうだ。その後、村で猟師をしている者が様子を窺いに向ったのだが、その人も帰って来なかった為、森を立ち入り禁止にしてギルドに依頼を出すことになったらしい」
ロプ 「それは、何だがやばそうだろう?」
ジャド「ああ、強敵だな」
ロプ 「何か嫌な予感がするんだがな~」
ジャド「それなら無理に戦闘することなく、まずは相手を確かめて後は逃げよう。一旦引き上げてからちゃんとした対策をするか、俺達には無理だと判断したら、ギルドに情報を伝えることで依頼完了としようか」
ロプ 「まあ、そこら辺りが妥当かもしれないな」
ジャド「という訳だ、今回は相手の調査をメインとして、できるだけ戦闘は控えるようにしよう。もちろん倒せるようなら、倒すぞ」
ニナ 「はい」
ミア 「はい」
レイ 「わかった」
僕達は打ち合わせを終わらせた後、森へと入って行った。
ジャド「まずは木こりが消えたという話だから、伐採場へ向うぞ」
ロプ 「ああ」
森自体には、特に変わったところがないように思える。これだけならただの森って感じなんだがな~。森に住む大物ってどんなやつなんだか。
周りを警戒しながら進んでいると、僕は薬草を見付けた。
ロプ 「ジャド、少し待ってくれるか?」
ジャド「どうかしたのか?」
ロプ 「いや申し訳ないが、貴重な薬草を見付けた。せっかくなので採取して行きたい」
ジャド「直ぐすむだろう、いいぞ」
ロプ 「わるいな」
そう言って素早く薬草を回収して、隊列に戻る。ジャドはそれを確認してから再び進みだした。
ジャド「それはめったに取れない物なのか? それとも金額的なものか?」
ロプ 「どっちもかな。高級ポーションの材料になったり、上位の薬の素材とかでも使われるんだ。こんなところで手に入るなんて、意外だったよ」
ジャド「へ~、普通は別のところに生えているものなのか?」
ロプ 「そうだな、一説には魔力が濃いところで育つって話だから、特定の場所で取れるって訳じゃないんだよ」
ジャド「巡り会わせってことか」
ロプ 「そうだな。一度取れれば、また見付かる可能性はあるんだけれどね。どれくらいで育つかが、わかっていないそうだ」
ジャド「それは確かに高級そうだな。それ売るのか?」
ロプ 「いや何かの時の素材として確保しておく」
ジャド「ふむ、じゃあ任せよう」
ロプ 「ああ、あまりこいつの出番はない方がいいだろうけれどね」
ジャド「薬の出番か、確かに使わない方がいいな」
僕達はそんなやり取りをして、先に進んだ。今のところは何も変わった感じがしない普通の森だった。
ジャド「ここが伐採所だな。みんな手がかりになりそうなものを探してみるぞ」
ロプ 「だな」
ニナ 「了解」
ミア 「了解」
レイ 「了解」
僕達は、あまり離れ過ぎない程度に散って、手がかりがないかを調べ始めた。
ロプ 「何か、周りの木や土が黒く変色しているところがあるな」
ジャド「焼け跡か?」
ロプ 「いや、炭になっている感じじゃないな。硬さとかも変わっていないから、ほんとに色が黒くなっているって感じかな?」
ジャド「汚れではないな」
黒くなっているところを少し削って、内部を探ってみる。そこまで深いところまでは変色していないみたいだけれど、木の中まで何かしらが染みているって感じで色が変わっているのがわかった。
ロプ 「触ると黒くなるモンスター? 聞いたことがないな」
ジャド「確かに知らないな」
その後も調べて回ったのだけれど特に異常は見当たらず、僕らは森の中心に向けて調査を続行することになった。
どれくらい進んだ頃だろうか? ジャドが止まれと指示を出した。それと同時にみんな周りを警戒する。微かに何かが歩いているのだろう、草の揺れる音が聞こえた気がした。
そしてそれは、唐突に僕達の目の前の空間に姿を現した。二足歩行でどこか人間を思わせる衣類を巻き付けた化け物。ゾンビにしては、動きにギクシャクとしたところはなくて、パーツも余分な物がついていたり、でこぼこしていたりする見た事のないものが目の前に現れた。
そいつは周囲を窺ったと思ったら、僕達の方へと顔を向けニタリと笑った気がした。何故だかわからないが、やばいと思った。
ロプ 「逃げよう!」
ジャド「同感だ! みんな撤退!」
ロプ 「後ろを気にせず、全力で走れ!」
ミア 「はい!」
僕らは一斉に走り出した。だが明らかに怪物の方が足は速い。逃げられないのがわかった為、切り札を三つ引っ張り出すと、怪物に向けて投げた。
今回は撤退戦になるので相手の機動力を落とそうと、足を狙ったのだけれど効果はどうだろうか? 走りながらも後ろを確認すると、切り札が当たった爆音がして、その中から殆ど無傷といえる化け物が出て来るのがわかった。その足には多少の傷がついていて、攻撃を受けたことが理解できる。
ということは、僕ではやつを倒すことができないってことだった。
ロプ 「やつには切り札は通用しないようだ!」
ジャド「まずいな、とにかく全力で逃げろ!」
ダメージでの妨害が意味を成さない為、次に目くらましの煙幕で時間を稼ぐことにする。
ロプ 「大地の怒りをここに、アースボム」
土煙を巻き上げ視界を悪くした隙に木を利用して、相手から隠れて移動しようという作戦だったのだが、相手が速度を上げて、土煙を突破してこちらに迫って来るのがわかった。
切り札や魔法での目くらましとか、余分な動作をしてしまった為に、最後尾になってしまった僕に怪物が迫って来た。
これは逃げ切れない、そう確信できてしまった。
怪物の腕が大きく振り上げられて、それが振り下ろされるのを、ただ呆然と見ていることしかできない。
ジャド「ロップソン!」
ガッ!
そんな僕との間に、ジャドが盾を構えて割り込んで来た。
とっさの行動だったようだけれど、ちきんと受け流すことができたのか、相手の攻撃が地面をえぐっているのが視界に入った。しかしこちらはその振り下ろされた攻撃の威力を、完全には受け流せなかったようで、二人でもつれるように吹き飛ばされ、背後の大木に叩き付けられていた。
ジャドと木に挟まれた僕は、直ぐに動くことができなくなった。
ジャドも衝撃が大きかったのか、動けないようだ。
そこへ怪物が走り込んで来る。今度こそレイ達の支援も間に合いそうになかった。
ここまでか、そう半分諦めたように怪物を睨み付けていると、視界に白い動物が映った。怪物の左後方、白い動物は多分白馬だと思う。
その白馬から女性が降りたと思った瞬間、女性が弾丸のような速さで怪物の懐にまで飛び込んだのが、動きが止まった瞬間にわかった。
瞬間移動? そう勘違いしそうな速さにビックリしている間に、女性が腰に差していた剣を抜き放っていて、怪物の上半身が宙を舞っているところが見て取れた。
女性が立ち上がって剣を腰に戻す所を見て、彼女の武器が日本刀であることが確認できる。しかしその日本刀は僕の知っているどの日本刀よりもみすぼらしい、装飾がされていない質の悪そうなものであった。こんな武器で、あれほどの攻撃が出せるものなのかと、呆然と女性を見詰めた。
その視線の中で女性はこちらを気にも留めずに立ち去ろうとしていた。
ロプ 「あの助けてくれて、ありがとうございました」
何とかそう感謝を伝えると初めてこちらに視線を向けた女性は、軽く頷くことで答えて馬の方へと移動して行ってしまった。そこで改めて気付く事があった。
白馬がユニコーンと呼ばれている上位の幻獣であること、その幻獣の側にゴールドドラゴンの子供が飛んでいることに。
女性は、緊急依頼のヒュドラ退治の帰りに、水晶のところで出会ったあの女性だったようだ。
直ぐに移動してしまって、それ以上会話をすることはできなかった。
ロプ 「生きているか?」
ジャド「何とか大丈夫だ。腕が上がらないから治療はして欲しいところだがな」
僕達がそう言っていると、ニイナ達が駆け寄って来るのが見えた。




