凸凹コンビ
登場人物 ロップソン=ロプ(台詞表記) ジャド=ジャド(台詞表記)
第一章 凸凹コンビ
ロプ 「むか~しむか~しあるところに・・・・・・」
ジャド「どうしたんだ、突然に。でもって誰に対して話している?」
ロプ 「いや、あまりにも暇でさ、つい口を突いて出てしまった」
ジャド「はあ、それなら何か作ったらどうだ? 普段から世界をあっと驚かせるような魔道具を作るんだって、よく言っていたじゃないか」
ロプ 「ああ、それなんだがな~。いいアイデアが、なんも浮かばんのだよね~」
ジャド「それなら、失われた技術の再現とかでもいいのでは? 例えばこの日本刀ってやつとか。これ、何で同じ金属なのに、こんなにスパスパと金属が斬れるのかね~」
ロプ 「しらないよ、ていうか、この切れ味で、魔法の武器じゃないっていうのが、理解できん。金属自体に何か秘密でもあるのかと思って調べてみても、どこにでもある金属だったしな」
ジャド「はあ、じゃあ、同じく失われた技術で、自分の存在能力を知る魔法とかはどうだ? 何でも、未来についてもわかるとかそんな話もあった気がするが? 将来は魔法を極めることが出来るとか、王様になるとか」
ロプ 「そっちは眉唾っぽいな。そんな魔法、占いくらいのものしか存在しない。どうせ、占い師が自分の価値を高める為に何かしらの噂でも、ばら撒いたんじゃないのか?」
ジャド「まあ、その未来視を確実にする魔道具が出来たら、確実に大金持ちだろうがな」
ロプ 「占い師から、暗殺者を仕向けられたりしてな」
ジャド「なら、その魔道具で運命を変えたらいいじゃないか」
ロプ 「その時点で未来が変わっているのなら、その魔道具は失敗しているじゃないか」
ジャド「うん? ああ、確かにそうだな。じゃあ、この魔道具は作る価値もないかもしれないな~」
ロプ 「だな。そしてそんなものの技術が失われたとしても、まあどっちでもいいってことだ」
ジャド「はあ~。あっ! じゃあこっちは確実にあったといわれている技術で、その場の風景を一瞬で絵にする技術はどうだ? こっちなら原理とか追求したら、確実に作れるんじゃないか?」
ロプ 「ああ、それな、作ったらだめだって言われている。無視して研究している連中が、反乱軍として捕縛されたって話を聞いたことがあるぞ。商業ギルドで、確かそんなこと言っていたよ」
ジャド「ふ~ん、ならなんでそんな技術が昔にはあったのかね~。何かしらの問題が出て来て、技術が封印されたのかな?」
ロプ 「噂だけれど、その技術を使うと、罪を犯すようになるんだとさ」
ジャド「洗脳装置か、悪魔の技術だったか!」
ロプ 「しらね。まあ、なんにしても、作るなって言われている技術だから、研究もしたらだめだろうな」
ジャド「やっぱ、オリジナルな物を作るのが一番だな」
ロプ 「そうだな~。そのアイデアが出てこないんだけれどな!」
ジャド「ドヤ顔で、情けないこと言うのは、やめろよ・・・・・・」
そう言って毎回律儀にも突っ込みを入れて来るのは、近所で幼馴染のジャドだ。どうせ幼馴染なら、可愛い女の子がよかったよ・・・・・・
ジャド「とにかく、ギルドの更新期限まであと一ヶ月しかないんだから、何か成果を出さないと、商業ギルドから脱退になっちゃうぞ?」
ロプ 「わかっているよ・・・・・・あ、じゃああれを再現しよう! マッピングシートってやつ。あれなら確かアサシンバジリスクの革があれば、再現するのは簡単そうだ!」
ジャド「いやいや、その革を用意するのはどうするんだ。俺達の実力じゃあ返り討ち確実だろうし、冒険者に素材の収集を頼むのも、莫大な依頼料がいるぞ?」
ロプ 「お前が日本刀を欲しがるから、研究資金が底をついたんだろうが~」
ジャド「いやいやロップソンが、研究して製造技術を再現するとか言ったからついでにって話じゃないか」
ロプ 「お前がもう少し強い戦士だったらな~ 宝の持ち腐れだな」
ジャド「酷い!」
そう言いつつも僕達の目標は決まって、アサシンバジリスクをどうやって二人で倒そうかと、いろいろと考えることになった。ちなみに依頼するだけのお金がないので、自分達で採って来るのは決定事項だった。
ほんとは、モンスターがいる場所に行って戻るだけでもお金がかかるので、今の僕達には厳しいところである。それでも急がないと期限が来てしまうので、選択の余地はなさそうだった。悲しい事だ・・・・・・
僕がまず第一に用意したのは、石化対策の魔道具だった。これがなければそもそもが、バジリスクと戦えないのだ。
効果は一度だけ身代わりで石化を肩代わりしてくれる。使い捨ての魔道具だ。
正直なところを言えば、使い捨てにするにはコストが高く付き過ぎて、他の方法があるのならそちらにしたかったところだ。錬金術の方には、石化耐性を上げる薬があるらしいのだが、高級品過ぎてそちらの方も僕達には手が出せない。
中級くらいの冒険者には、買えるくらいの値段だという話なのだけれど、僕達では採算が合わないのだった。
まあそんな話になるのなら、そもそもが初心者が相手をするモンスターではないのだけれどね。使い捨ての魔道具で挑む意味は、自分で作れば少しはコストが少なくて済むというものだった。
ロプ 「あー。今回無事に切り抜けられたら、素材の鉱石集めに協力してくれ」
ジャド「そうだな、いざって時のストックは、多い方がいいと思うしな。いいぞ」
今使っている鉱石は、他の金属よりも魔力の通りがよくて、おかげで僕の魔石製作の力との相性がいいのだ。でもってこの魔石に方向性を持たせることで、さまざまな効果を及ぼす魔道具を作り上げる才能があった。
まあおかげで依然失われた技術だったコンロという魔道具を一部再現できたのだけれどね。作った本人とされる人が、まだ生きているかもしれないのに、何故失われた技術なのかは商業ギルドの闇の中だ。
本人がそのことに対して何も言わないので、どうにもならない。
以前公式に誰かの技術を奪ったのではないかとかいう疑惑をかけられ、公開裁判がおこなわれたことがあったのだそうだが、神官の真偽を見分ける魔法を使った質疑応答で、技術を奪ったわけではなく、本人の意思で仲介していたに過ぎないという結論になったようだった。
ようは発明王と呼ばれていたのだけれど発明者は別にいて、その人と接触できない為に技術が失われたという結末だったようだ。死んだのだという話もある。
それにしても、発明王の名誉を断ったというその人は一体何者なのだろう。
それは結局のところ語られることはなかった。
さて、それはともかく石化対策だけではまだ足りない。アサシンバジリスクは周りの風景に溶け込み姿が見えないので、忍び寄られてやられるという話だった。なるべくならば、アイテムを消費しないで倒したいので、敵を先に発見する魔道具が必要になってくるだろう。
ロプ 「なあ、ジャドは目以外で敵とかを探すとしたら、どうやって探す?」
ジャド「うーん、香水とかの匂いはどうかな?」
ロプ 「匂いか、アサシンバジリスクに匂いとかってあるのかな?」
ジャド「たぶんそんなのがあるなら、姿消していてもばれるな」
ロプ 「まあ、だよな~」
これじゃあ意味がないな。いっそうのこと相手に動いてもらって、それで相手の位置を探るか。名付けて囮作戦。何かいけそうだな。
ロプ 「なあ、幻覚みたいなもので相手を誘き寄せて、相手に先に動いてもらうのなら何とかいけるかな?」
ジャド「相手が目で獲物を追っていれば、それでいけそうだな」
ロプ 「あれ? あいつらって、目で見ているんじゃないのか?」
ジャド「体温って可能性があるじゃないか。後は匂いかな」
ロプ 「ぐっ、どれだ!」
ジャド「モンスターの生態なんか、俺達にわかる訳がない。冒険者ギルドでちょっと聞いて来るよ」
ロプ 「わるい、任せた!」
やっぱ、思い付きで作らないで相談しておいたのは正解だな。これで目で見ているって思い込んで魔道具を作っていたら、現地で死んでいたかもしれない。余裕があったら、いろいろなパターンで魔道具を作れるんだけれどな~
しばらく待っていると、ジャドが帰って来た。
ジャド「ロップソン、聞いて来たぞ~ どうやら目は多少見えている程度で、メインは体温なんだってさ」
ロプ 「ほ~。聞いて来てもらってよかったよ。じゃあそれで魔道具を作って囮作戦だな」
ジャド「あ、それはいいけれど、動いていても見えにくくないかな?」
ロプ 「そっちは、空気の振動で敵の位置を把握できる魔道具を作る予定だ」
ジャド「おー。対策ばっちりだな!」
ロプ 「まあ、空気の流れを察知できるけれど、慣れるのに特訓はいるかもしれないな」
ジャド「じゃあ、そっちは移動しながらの方が、時間の浪費がなくなるな」
ロプ 「ふむ、余裕があれば移動方法も、何か考えたいな」
ジャド「いっそ、移動用の魔道具の研究でいいのでは?」
ロプ 「それも手だな・・・・・・でも、どこから手を付けるべきかわからんな~」
ジャド「次の研究対象だろうな」
ロプ 「それがいいかもしれない」
僕らはそうまとめると、早速移動を開始した。何しろ、そこまで時間の余裕はないのだから、さくさく行かないと途中で期限が来てしまう。
僕は目的地近くまで乗合馬車に乗って移動する間に、マッピングシートに施す魔法の研究をおこなった。おこなうといっても、ようは頭の中で魔法イメージを構築する作業なので、集中さえ出来ればどこにいてもできる作業だった。
ジャドから見たら、ずっと馬車の中で唸っていたそうで、他の客に迷惑をかけたなって思う。まあだからといって、やめはしなかったけれどね。こっちは期限が近くて、気にしている余裕はないのだ!
目的地周辺の村についた僕達は、休むことなくそのまま現地へと向かった。
そして出来るだけアサシンバジリスクの縄張りの外の方、死角がなさそうな場所で待機して囮作戦を発動させる。火の魔法を応用した人型の囮が、人が歩いているかのように動いて、ゆっくりと進んでいったり戻ったりを繰り返す。
敵の反応はまだない。
相手の縄張りぎりぎりだからか、多少は時間がかかるかもしれないな。
あまり奥に踏み込むと、複数に囲まれる可能性があるので、僕達はひたすら待つしかないのだった。
この囮では駄目なのかなと思い始めた頃、ジャドが反応を示した。
魔石に余裕がない為に、敵の位置を把握する魔道具を持っているのはジャドだけなので、僕はその動きで敵の位置を推測するしかない。まあ実際に戦うのはジャドだけなので、こちらは見ているしかないのだけれどね。それでも、何かがあった時は、魔法支援をするつもりだった。
なんとなくだけれど、近くで動いている者がいる感じがする。時々、風景が歪むところがあるのだ。目を凝らしても、直ぐにわからなくなるので、はっきりとした位置が特定できない。
ジャドのやつうまく出来るのかな? そう思っているとアサシンバジリスクが、囮に向って石化攻撃を仕掛ける為に素早く動き出した。
ここまで激しく動かれると、さすがに位置が特定できる。
そしてその瞬間を待っていたかのように、ジャドが斬り付けていた。アサシンバジリスクは突然現れた敵に驚き、攻撃を避けれなくて負った傷の苦痛で暴れだすが、そこにジャドがさらに追撃を加えると徐々に弱っていき、そのまま倒れた。
ジャド「よっしゃ!」
うまくいったと歓声を上げている。
ロプ 「あー。お喜びのところ申し訳ないが、革を採りに来たのにそんなにズタズタにされては、使えるところが減るんだがな~」
ジャド「な! お前なあ、この強さの敵をしとめるのに、俺達じゃあちっとばかり荷が重いっていうのに、そんな余裕あると思っているのかよ?」
ロプ 「それはわかっているんだけどな。追撃なら頭にすればいいだろう? 何でお腹にするんだよ・・・」
ジャド「だって、早く倒さないと怖いじゃないか!」
凄い説得力だった! 確かにこいつの姿を見た瞬間、これ倒せるのかって思ったくらいには怖かった。
ロプ 「わかったよ、じゃあもう文句は言わん。革を剥ぐのを手伝ってくれ」
ジャド「了解だ! ちなみに、こいつの肉って食えるのかな?」
ロプ 「あれ、ギルドでついでに聞いて来ればよかったんじゃないか?」
ジャド「いや、今思いついたから・・・・・・」
ロプ 「予想だけど、こいつは毒がある。又は普通に不味い」
ジャド「なんとなくわかった。そこらで野生の動物でも捕まえようぜ」
ロプ 「ああ、そうしよう」
僕らは欲をいうのなら、もう一匹くらい倒したかったのだけれど、そうそう幸運にも恵まれないかもしれないので、危険を避けて、こいつの革だけを回収して撤収することにした。
その日から、僕は早速マッピングシートの開発研究を始める。
焦る気持ちを抑え、まだ時間はある、まだ一週間あるから大丈夫、期限は後三日。明日までに開発したらいける。
気が付くと、今日が期限だった。
ロプ 「あれ~? まだ時間があると思っていたのだけれどな・・・・・・」
ジャド「いやいや、がんばっていたのはわかっていたけどさ、普通に時間過ぎたぞ」
ロプ 「嘘だ~!」
僕は魂からの叫びを上げた・・・・・・そして商業ギルドには、石化の身代わり魔道具を提出することにした。提出した僕も、ギルドもなんともいえないやり取りの後、審査の人はこう言って来た。
ギルド「なんというか、一年の研究成果が、これっていうのは納得いきませんが、次はいい物をお願いしますね」
僕は裏の声をはっきりと聞いたよ、次は認めねー
ロプ 「はい」
裏の声に負けて、素直に了承したよ。
ジャドにも言われたこともあり、今度こそいい物を開発しようとして、マッピングシートを引き続き研究しようと、まずはオリジナルの性能を調査することにした。
そしてわかったことは、何でこんなぺらぺらの革でそこまでの機能があるの? 思わずそう言いたい程の性能だった。
魔力を使って自分で描いて行くのかと思えば、自分の周囲を探査して自動で描き上げていくのだとか・・・・・・
はっきり言おう、どんな技術を使えばそんな超技術の魔道具が作れるのですかね!
開発者に文句を言いたい気分になって来たよ・・・・・・
僕にできたのは、せいぜい自分で魔力を流して革に模様を浮かび上がらせるだけだった。
一応これでも、メモ書きみたいなものを残すくらいの性能はあるのかもしれないけれど。魔石が寿命になれば、ただの革に戻ってしまう。そしてその時点で、書かれていた内容は消えてしまう。使えね~
ロプ 「なあ、ジャドや。発明王に技術を渡していたやつって、どんな化け物?」
ジャド「さあな~。その質問には、商業ギルドは完全な黙秘なんだろ。下手に探りを入れようとしたやつは、消されたって話まであるって聞いた」
ロプ 「うへ~。一つ理解できたことは、これは僕には無理だ! ってことだな!」
ジャド「ぺらぺらの革なのにな」
ロプ 「よく考えたら、ぺらぺらにそんな機能を持たせた時点で、僕には無理だったんだよ。だって魔石組み込まないと、魔道具完成させられないじゃん」
ジャド「だな!」
時間を盛大に無駄にした気分だった・・・・・・まあ、商業ギルドの脱退は逃れられたので、よかったんだけれども。
その数日後、マッピングシートに変わる物として、移動を早くする為の魔道具の構想から始めることにした。
イメージとしては、馬の変わりに魔石を組み込む。完成したら馬が失業してしまうなと笑っていたのだけれど・・・・・・乗合馬車の重量は、半端なく重かった。馬さん、今までご苦労様でした、これからもよろしくお願いします。
思わず馬を尊敬してしまったよ!
ロプ 「はっきり言って、この重量を魔石で動かすには、馬車の中を魔石だらけにしないとだめじゃないかな!」
ジャド「それでいいっていうと、馬車に爆弾を積んで、敵地にドカーンとか?」
ロプ 「お、それ採用!」
ジャド「おいおいおい、魔王軍もいなくなって、平和になったとたんに兵器開発って、世界に喧嘩でも売るつもりなのか?」
ロプ 「ごめん、冗談が過ぎた」
ジャド「まあいいけどよ」
ロプ 「それにしても、これも企画倒れになりそうだな」
ジャド「まあ、俺からしたら、やる前から無理だって感じだったけれどな」
ロプ 「いやいや、何を言っていますかね、人間なせばなるだよ君」
ジャド「うん? 何か思いついたのか?」
ロプ 「複数の魔石が必要になって来るんだけれどな。一応思いついたことは思いついた」
ジャド「ほー、お手並み拝見と行こうか」
その日からしばらく、僕は乗合馬車に魔石を組み込んで、動かす為の魔法構築に精を出した。数日後ジャドを呼び出して、最初の試験をおこなうことになる。
ロプ 「まだ試験運転もしていないんだけれどな」
ジャド「ちょ、せめて一回くらいは試験をしろよ!」
ロプ 「いや何かあったら、お前にも収拾を手伝ってもらいたくてな」
ジャド「はあ、まあわかったよ、お前は非力だから止められないってことだな」
ロプ 「ぐっ、わかっているのならはっきり言うなよな・・・・・・まあいい、試験開始するぞ!」
ジャド「ああ、きやがれ!」
ロプ 「お前は、何と戦うんだよ・・・・・・」
ジャド「馬車と?」
ロプ 「馬はないけどな!」
ジャド「ドヤ顔していないで、さっさと始めろよ」
ロプ 「あいよ~」
僕は魔石に魔力を流し込んで、乗合馬車を動かした。
初動に少し鈍さがあったものの、すぐに馬車が動き出す。そして速度がどんどんと増していった。僕は慌てて停止命令を出すものの、止まらない!
ジャド「ちょっと待てや!」
ジャドはジャンプして正面から逃げ出した。結局馬車は家の壁にぶつかって停止する・・・・・・
ロプ「なあ、これって一応成功か?」
僕はジャドに聞いてみると・・・・・・
ジャド「まあ、早く動くっていうところは、クリアってところじゃないか? 動き出したら最後、崖があっても止まらないけれどな!」
ロプ 「崖怖! 確かにそれは、動く棺桶だな」
ジャド「だな、集団自殺にはもって来いだ」
ロプ 「戦争終わって平和になったのに、また物騒な物を作ってしまったよ」
ジャド「次は、止まれるように作ってくれ」
ロプ 「考えてみるよ。次は逃げないで、止めてくれよな」
ジャド「無茶言うな」
そう言うと、ジャドは家に帰って行った。
ふむ、何とか動かすことには成功した、でも止めるのはどうしたらいいのか・・・・・・アイデアが浮かばないな・・・・・・
しばらくの間悩み続けた。地面に杭みたいな物を刺して止めるとか考えたのだけれど、それだと道がズタズタになるし、車輪を固定して回転しないようにすると、馬車がゴロゴロと転がる結果になる。
一人で考えていても良い方法が思い浮かばなくて、翌日ジャドと雑談交じりに一緒に考える事にしてみた。
ロプ 「まさか速く走らせることより、止める方が難しいとは、思いもよらなかったな」
ジャド「だな。ちなみにこれで終わり? 打つ手無しでこれも開発中止になるのか?」
ロプ 「いや、走るのはうまく出来た。まだ中止にする判断は早過ぎる。アイデアがまだないけれど、もう少し粘ってからだな」
ジャド「完成したら、今年は楽ができそうなのにな」
ロプ 「そうだな。それでもって採用されて技術が売れれば、生活が安定する!」
ジャド「開発資金も必要だからな~。いっそ自分が戦える物を作れば、モンスター退治で稼げるんだけれどな」
ロプ 「その為には開発資金がいるな!」
ジャド「それを稼ぐ為にモンスターを・・・・・・矛盾するな」
ロプ 「そもそも僕はお前と違って、生産者だ。戦闘は僕の担当ではない」
ジャド「せめて、冒険者を雇えるだけの財力があればね~」
ロプ 「はあ~。移動魔道具の完成を、がんばるしかないな・・・・・・」
さらに数日悩み続けた僕は、やっと解決方法を見付けた。止まる時に風の幕を作り出し、それで馬車を押して止める。僕達は、試験運転の為に街道へと移動した。
ロプ 「ここなら壁がないから存分に実験できるぞ」
ジャド「まあ、見ていてやるからがんばれよ~」
ロプ 「何言っているんだ、お前も乗れよ」
ジャド「いやいや、その馬車ゴロゴロ転がり過ぎて、ボロボロになっているじゃないか。そんなのに乗りたいなんて、思えないぞ」
ロプ 「実験に失敗はつきものだ! さあ一緒に!」
ジャド「爽やかに言っても、嫌だね。見ていて安全そうなら乗ってやるから、行って来いよ」
ロプ 「チッ、根性なしが。まあいい、行って来る」
僕は犠牲者仲間の入手に失敗して、しぶしぶ馬車に乗り込んだ。自分でも、まず初めは失敗するんだろうなという予感はあったのだ。だからこそ、苦労を分かち合いたかったのだが、断られてしまっては仕方がない。
前と同じで動き出す時は鈍く、一旦動いてしまえば驚く程軽く馬車が走り出した。
直ぐに馬に全力で走らせるよりも速く移動していたのだけれど、揺れが凄過ぎだな・・・・・・
気持ち悪くなって来たので、早々に馬車を止めることにすると。馬車は急停止したように止まってくれたのはいいのだが、内臓が浮遊するような感覚に、僕は耐え切れずに街道脇でリバースしてしまった。
気分が悪く、街道に転がって休憩をすること一時間くらいかな? ジャドが走ってこちらに来ているのが見えた。
ジャド「よう、遅いから心配したぞロップソン。その様子だと、どうやら失敗って感じだな。移動速度自体は凄かったみたいだけれどな」
ロプ 「半分は成功だ。このままでは使えないってだけで、調整すれば、何とかなりそうな感じだよ」
ジャド「ほー、それは楽しみだな。ぜひ完成させて欲しいものだよ」
ロプ 「ああ、じゃあ戻ろうか。乗ってくれ」
僕は起き上がりながら馬車へと向かう。
ジャド「おい、それってまだ調整が出来ていないって、言ったばかりじゃねえか!」
ロプ 「ああ、スピードを出すと僕みたいに気分悪くなると思うが、ゆっくり動かす分には大丈夫だろうよ」
ジャド「なるほど、そこが調節不十分ってところなんだな」
ロプ 「そういうことだ。だから馬車と同じか、それよりゆっくりと動かすよ」
ジャド「それだけでも、馬が必要ないぶん立派な移動用の魔道具だな」
ロプ 「まあ、魔石が消耗するまではだけれどね。あー、それで思い出した。魔石を作る為の鉱石を補充に行かないと、こいつには結構な量を使わないといけなそうなんで、先にそっちを終わらせよう」
ジャド「了解。じゃあ、いつ行く?」
ロプ 「大体の目処がついたし、そこまで急ぎじゃないよ」
ジャド「わかった、そうだな、明後日でいいか?」
ロプ 「いいよ。じゃあ明後日、よろしく頼む」
僕らは家までこのボロボロになった馬車で帰還した。馬がいないのに動く馬車に、町の住民は物珍しそうに見ていたよ。