ゾンビが芋虫で吸血鬼がコウモリで
ゾンビって芋虫みたいだ。
横たわってビクビクウニウニ動く、緑色の糞袋。
あーあーうーうー言う姿は赤ちゃんみたい。芋虫は虫の赤ちゃんだし、やっぱり芋虫に似てる。
でも、芋虫はやがて蝶になる。ゾンビは芋虫から、素早い芋虫になる。乳首とか腹の辺りから本物の芋虫みたいに脚みたいなのが生えてくる。
そうなると逃げるのも一苦労。そこまで速いわけじゃないけど、いっぱいいるし、逃げるのは大変。
因みにここは病院で、わたくしは病院の出入り口付近にある、大きな水槽のメンテナンスに来た熱帯魚屋さんです。
病院に来て水槽のフィルターやら何やらの掃除やら定期メンテナンスやらに集中してたら、なんだか大変なことになっていた。
キャー!!
ギャー!!
うわー!!
ガラガラガッシャーン!!
ゔー!!
あー!!
ガブガブ!!
うーうー!!
あーあー!!
うー!!あー!!
うー!!あー!!
多分最初に誰かが緑色のゲロを吐いて、芋虫になって、その後次々にいろんな人が芋虫になって、芋虫を心配して近付いた人が芋虫に噛まれて、芋虫になって、芋虫は共食いしたりして、おお、怖い。
芋虫にならなかった人はぼく以外にも結構いるみたい。でも、みんながみんな、逃げるのに必死って感じ。
わたしも芋虫から逃げて走ってる間に、どこかわからないところで一人になってた。
何で、出入り口のところの近くにいたのに外に逃げなかったんだろって後悔した後に思い出す。
あ、出入り口、何かシャッター降りてたな。走ってる時に見た窓もシャッター降りてた。あ、ダメじゃん。閉じ込められてる。
走るのにも疲れたな。身体も火照ってきた。
目の前に休むのに丁度良いところがある。霊安室。……。鍵かかってるかな。
ガチャ。
あ、開いた。
嬉しい。
ひんやり。
暗い。
前が見えない。
ドア閉めちゃったから、光が入らない。
暗い。
座り込むと、床も壁もひんやり。
ヒタヒタ。
ヒタヒタ。
ヒタヒタ。
あー。
うー。
あー。
痛い。
痛い。
肩がヌルヌルする。
痛い、噛まれた。
おれは、
すぐに立ち上がると、霊安室を出る。ドアを閉める。肩を見るとあたしの血と緑の異臭液。最悪だ。もうすぐ、わたしは芋虫になっちゃうんだ。他の人みたいに。嫌だ。芋虫になっちゃう。どうせなら魚が良い。海水なんてわがまま言わないから、ねえ、ママ、ぼくは淡水でもかまわないから魚が良いよ。嫌だよ。嫌だ。イヤ。あっ。
あっ。
あぁ。
あー。
あ……。
君は誰。
「アンタ奴らに噛まれたんか?」
わたくしの目の前にはいつの間にか黒髪赤目の美少年が。服装は学ラン。年は高校生くらい。髪の毛短い。
「あはっ、は。芋虫に、噛まれ、ちゃったんだ」
「はあ? 芋虫? ああ、ゾンビのことか。やっぱ、その鮮やかな緑の、ゾンビに噛まれたんやな」
「ふ、ふふ、あは、」
嫌だよ。芋虫にはなりたくないよ。
「あ、はは、あ、あ、あ、は」
「な、なんや。笑ながら泣きよって、キショいで」
「嫌だッ!!!!」
「わっ、」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、芋虫は、イヤ、やだ、わぁああん」
ズビッ。すずっ。
「や、やめえ!! 僕に抱きつかんといて! 汚い!」
「いもむじになりだくないよぉッ!!!」
「ゾンビ噛まれたんやろ!! 諦めえや!!」
「やだーーー!!! 魚! 魚がいい!!」
「ざけんなッ!!!」
ドッ。
うぐっ。
「ゲホッ、ヒュ、ウッ、ハヒッ、ウッ、ゲホゲホ……」
彼がおれを蹴った。綺麗に鳩尾に入って呼吸が、くるし、。げほげほ。
痛いよ死んぢゃう、
「ご、ごめっ……アンタが発狂しよったから、ごめんな」
絶対に許さない。
「……。あんさアンタ、ゾンビに、芋虫になるのがいやなんやったら、コウモリはどおや?」
「けほっ、ふっ、ンッンッ、……コウモリ?」
「そ、コウモリ」
「さかな……魚が良い……」
「アンタ見かけによらんとワガママやな……。じゃあ、アンタに用ないわ……さいなら」
美少年が立ち去ろうとする。のをぼくは足を引っ張って止めた。美少年は転けた。
ベチャ!
顔から。
「ッ!!! 何すんや!!!」
美少年が赤い鼻を押さえながらこっちを向く。キッ睨む顔も整ってますね。
「芋虫はイヤだ……コウモリもイヤだ……魚、魚が良いんだ……」
「んなん知らんわ!」
「……でも、芋虫よりコウモリのが、まだ……マシだ……」
「ふん、なら、しゃーないな。アンタんこと助けたるわ」
美少年は四つん這いに近い形でコッチに来た。そして、おれの頬を両手で包む。顔と顔が近い。まるでチューみたいだとわたくしは思いました。したことないけど。
美少年は左手を頬から肩に滑り落とすと、そのまま、口を開き迫ってきた。口には牙がついてる。そのままーー。
ぼくの首筋に食らいついた。
あいたたたたた!
「いっ、痛い! 痛いよ! や、やめ、あああああアアァ!!!」
ジュルジュル。
美少年がおれの血を吸ったり戻したりしてる。うわ、うわうわうわ、とんでもない、とんでもないぞこれは。
「うるはいで、ひょっほひふはにし」
「アアァ! 吸いながら喋らないでェ!」
ゾワゾワしちゃうよ。
「ン。これくらいでええやろ」
「何、何なの、は、キ、君ど変態?」
「ちゃうわアホ! 僕は吸血鬼やっちゅうに!」
「は? 吸血鬼? 鬼? コウモリじゃなかったの?」
「アンタ察し悪いな。芋虫なんて表現するからこっちもそれに合わせただけや。ほら、吸血鬼ってコウモリになるやろ。あれ? それはバンパイヤやっけか? ……ま、ともかく、アンタはもうゾンビになることはないで。僕の吸血鬼のウイルスのが強いからな。ワクチンみたいなもんやと思ってや」
「そうなんだ……」
あたし吸血鬼になっちゃったんだ……。
「それよりも何でこんなパンデミックになっとんや? いくら僕の吸血鬼ウイルスのが強いっつったって完全に感染した人を元に戻すんは無理やで。また別の機械とか、なんか技術とかが必要なんや」
「へえ……そんなんだ……」
美少年の話は難しくてよく分からない。魚とかヒーターとかろ過装置で例えてくれればわかるんだけど。
「とりあえず、外でて助けてもらおか」
「無理だと思う……」
「え? なんでや」
「なんか、出入り口とか窓とかシャッター下ろしてあったし、閉じ込められたっぽい。芋虫いっぱいいたし……」
「そ、それは困ったな……でも、いつか食料用の輸血パックは尽きるし、外に出な死んでまう。そんなんいややで僕」
そんなの、わたしだって嫌だよ。
「なんかしらの突破口があるかもしれんし、それ探そうや」
「えー……」
動きたくなぁい。
「あはは、従ってもらわな困るで? アンタは僕の眷属になったんやからな」
「なにそれ」
「まあ、僕の体液を定期的にもらわなあかんってことやわ」
うわ。
「エロ漫画みたいだ……」
「……。……。はぁ?! キショイこと言わんといてくれる?! アンタ助けるためやで、しゃーないやろ! キんモッ! とにかく行くで! もうキショイこと言うなや!」
「はい、ご主人様」
「やめえや!」
こうして、わたくしは吸血鬼の眷属となったのです。