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前半

 

 平和の象徴であるハトが飛んでいく。雀の声は転がり、そよ風が揺らす木々の音。そんなのどかな青空の下。子供たちの笑い声が広がる公園の横をフット&ポンのGreat学園の制服を着たメガネの少女が大きなバスケットを抱えて歩いていた。しきりに小石を蹴りながら

 

「だるい、何で学校とかあるんだよ……」


 とぼやいている。


「そりゃ、義務教育だからだろ」


 不意にバスケットの中から妙に通る高い声がした。


「そうだけどさ……」

「だから、そんな馬鹿げた耳を揺らしてないで、しっかり勉強し、『The fish』で魚を買ってくるんだ。さあ、走れ――!」


 やけに偉そうなバスケットである。そんな、バスケットに向かって少女は、


「いや、それは同じだろ。てか、『The fish』ってなんだよ。あたしは、『Carrot city』に行くし。今日バーゲンなんだよ」


 と鋭く切り返した。


「なんだって」


 少女、うささんの言葉にバスケットは悲痛な声で叫んだ。そして、少しでも抵抗しようと大きくゆれる。


「それはないぞ、悪党め!」

「だって、あたしは魚いらないしー。にんじんがいいだもん!!」


 うささんは、ビバにんじん!!と叫びながら手をぶんぶんと振り回した。そのため、バスケットが揺さぶられる。


「うっ、ううう……このウサ耳めが!!その耳に、石を詰めてやる」

「はっは、まいったか。ネコ耳やろうが」


 2人(?)が互いに言っている悪口は、比喩でも嘘でもない。まぎれもない事実だ。うささんには、物心ついた頃からうさぎの耳が生えていた。それが一体何なのか、自分になにが起こったのか、全く分からない。

 ただ、もし何かが関係するとしたら―

 うささんの頭にちらりと光が駆け巡る。

 大きなビンとメス、両親の叫び。そして、赤、赤緋緋朱朱朱紅紅紅あかあかアカアカ...


「ん、どうしたんだい」


 突然ぼうっとして動かなくなったうささんに向かってバスケットは疑問を持ちながら言った。


「ん、あぁ」


 ぼうっとしていたうささんの意識は、バスケットの怪訝な声によって戻される。


「い、いやさ、君の耳は変だなーっと思って」


 うささんは首をふり、バスケットの蓋を開ける―

 次の瞬間、なにかを引っ掻くような「ばっり」という音がしてうささんの手に血がにじんだ。


「痛って!なにすんだよネコさん」

「それはこっちのセリフだ。気安く触るんじゃない。料金をとるぞ」


 バスケットから、ひょいとネコ耳の少女が顔を出した。ハンカチで念入りにうささんの手を引っ掻いた爪を拭いている。

 うささんが「生きている美人」なら、ネコさんは「死んでいる美人」だ。身長は135未満と小さく、手足は細く、血色もかなり悪い。その上、髪は床に付くくらい長い。そのせいか、パッと見たときにアンティーク人形のような印象を受ける。もしくは、死体のような...


「何だ、人の顔をじろじろ見て。気味が悪い。」

「いや、いつみても童g…」


 うささんが童顔と言うのを察したのだろう。すごいスピードでうささんの顔に手がとんだ。そう、ネコさんは童顔なのだ。そううえ小さいなんてロリのかたまりじゃないか。なのに…とうささんは手を握り締める。本当に残念だ。外見だけなら、今すぐどっかのテレビ局に送りつけたいぐらいなのに。目が大きく怖くなるほど空ろなせいか、まるで死体のような雰囲気だ。その上、髪の毛はもつれ合って大変なことになっている。ああ、本当に残n...


「君!!どうしたんだい、そんなにほっぺたを殴られたのがショックだったのかい!おーい」

「……はっ」

「なんなんだい」


 ネコさんは呆れる。

 ちなみに、うささんは一見大人びているが、メガネを取るとあどけない顔をしている。二重の大きな目がそうさせるのだろう。まるで、ファンタジックに空を飛んでいきそうな外見である。「生きている美人」とはこういうところだ。スタイルもよい。本人は気づいていないが。ただ、そのファンタジックな外見は、滲み出る狂乱な雰囲気でクラッシュする。少し―いや、かなり『おてんば』なのである。それこそ、犯罪級に。

 ほんとに、こんな狂乱な子に育って……とネコさんはため息をつく。


「とにかく『The fish』へ行くんだ!」

「それは、あとだよ。てか、また髪が…」


 そう言って、うささんはどこからかブラシを取り出しネコさんの髪をとかしはじめた。


「ふん。全くなんて邪魔な髪だ。切ってしまいたいよ。」


 ネコさんは髪を手でいじりながら(もっとボサボサになった)ぼやく。うささんはその姿をみて大きなため息をついた。そのまま、平和な時間が過ぎていく。しばらくして、


「そういえば……」


 とネコさんが声をかけた。


「ずっと気になっていたのだが、その箱は何だ。弁当か」


 ネコさん指さした先は、うささんの片手。そこには弁当サイズの四角い箱が抱えられていた。


「ああ、これ」


 うささんは、箱をネコさんの方にやり、にっこりと笑うと楽しそうに、


「―爆弾だよ」


 あらゆる意味で爆弾発言をした。


「…へ?」

「いやさ、授業がつまらなすぎてさぼってつくっちゃった」


 ついついやってしまったとうささんは、「子供が勉強をさぼって遊んじゃった」というノリで言う。


「全く君という奴は!あれほど授業をさぼるなと言っておいたのに」

「だって、あのハゲの授業つまらんもん。君も本読んだり、毒の調合したりしてたくせに」

「私は授業を受けなくてもいいのさ」


 彼女は教室に入ったことさえない。


「なんだよそれ、じゃあ言うなよ!!」

「……話がずれた。じゃあ、その爆弾は君のなんだね」


 すっと目と話をそらしネコさんは問う。


「もちのろんさ」

「ふむ、ちょっと見せてくれ」


 ネコさんは箱を受け取り、慎重に蓋を開けた。中身は、色とりどりで、たこウィンナーや卵焼き、ブロッコリーにハートの海苔が付いたおにぎりが詰まっていた。まるで、新婚夫婦の愛妻弁当のようだ


「ふむ、これはまた変わった外見だな。どこに爆弾があるんだい」

「この1つ1つが小型爆弾なのさ…ってなわけないじゃん!かして」


 そう言ってうささんは弁当をひったくり、まじまじと見た。


「ん、これ爆弾じゃねーよ。ただの弁当じゃん!!」


 そして、すっとんきょな声をあげる。


「じゃあ君は爆弾をつくるつもりで弁当をつくったのか。不器用な奴め」

「ちげぇよ、きっと誰かが盗んだんだ!!」

「は?それは大変なことなんじゃないのかい!?」

「ああ、そーとー大変だ。しかぁし!!何とあたしはあの爆弾に発信器を付けていたのさ!」


 そういって、うささんはポケットから小さなモニターをだし、見た。


「なんだいその無駄クオリティーは……」


 ネコさんは呆れながらモニターを覗き込む。ちかちかと小さな点が点滅していた。


「なんか、すごいスピードじゃないかい」

「……変だなって、こっちに向かってきてるよ!」


 2人がキョロキョロしていると、その瞬間。2人の横を電車が通った。モニターの点も遠くへ動く。それは、電車を凝視していた2人の目にはゆっくりと映った。そして、その眼は


「いたね……」

「……ああ」


 黒い箱を掲げる少年の姿を捉えた。





 とある電車の中、女顔の少年と小さなガキが揺られていた。この2人、いつもくっついている学校の名物コンビで、皆からは「チビーズ」と呼ばれている。女顔な植木は神のような動きでゲームをしていて、小さな猫杉はその隣、退屈そうな顔をしていた。植木は、電車内のせいかイヤホンを付けている。しかし、一応猫杉がいることを配慮してか猫杉側のイヤホンは外していた。ちなみに、このゲームソフトは2日前に発売されたばかりだが、植木は真面目に学校へ行っているのにもかかわらず、すでにラスボス前だという。アイテムもほぼ完ぺきだ。


「よし、もう少しでラスボスだ!」

「お前早いな……何時間してんだよ」


 植木の言葉に猫杉はうんざりした顔で言った。


「んー、まだ11時間くらいだよ。てか、今いいとこなんだから黙ってってよ」


 そう言って、植木はゲームの世界へ戻る。1人放置された猫杉は


「ちぇ……暇じゃんか」


 とつぶやき、足をブラブラとさせた。その後、3分ほどはキョロキョロしたりして黙っていたが、


「あ、そうだ」


 沈黙に耐えられなくなったのか、横に置いていた自分のカバンをあけ、弁当箱をかかげる。


「見ろ!すげーだろ!てめーの分もあるぞ」


 とふんぞり返った。しかし、植木はあちらの世界へ出発したっきり帰ってこない。しばらくは、そのまま止まっていたが、


「……ああ、何か目にほこりが」


 そっと涙を拭きながら弁当箱にロゴを書き出した。



 そんなとき、これまたとあるビルでは―

 やけに暗くした部屋の中で、マフィアの密会があっていた。


「大変ですボス!ボスが買った小型爆弾が日本で盗まれたそうです!」

「なんだと!!どこのどいつだ」

「分かりません。きっと『お風呂に入ったフラミンゴ団』ですぜ!」

「そ、それは大変だ。至急、我らが『お風呂なんか腐っちまえ団』も行かねばならねぇだよ」

「どんな箱なんですかい」

「黒くて、プラスチック製。弁当ぐれぇの大きさで、ワシのイニシャルがついておる」

「ボスの名前っていうと……」

「吉宗・神・ナンジャッキーじゃよ。代々由緒正しき名前だべや」

「おー、さすがボス。立派な名前だ」

「んだ。母、スワンベルナ・神・ナンジャッキーがつけてくれただよ」

「ボス、ジェット機の準備が整いました。ただいま、部下に呼びかけ捜索中です」





「君。もしあの箱が君のものだとして、なぜ一般人が持っているんだよ」


 冷ややかな声でネコさんは言う。


「えーと……。あっ思い出した。ここへ来る前、『にこにこマート』のカウンターで一休みしたんだよ。その時に、5分……いや、10分くらいカウンターの上に置いておいたんだっけ。」


 ぽけーとした顔でうささんは答える。


「それって、カウンターの上に置いてていいものなのかい」

「ん?いいんじゃね、だれも取らないでしょ」


 ぽけーとした顔にきょとんとした表情が加わりうささんは言う。すると、下を向いていたネコさんがうささんを見て急ににっこりと笑った。


「どうしたんだよ、急に笑顔になって。昨日のフィーバータイムでも思い出したか?」

  ※フィーバータイムとは、ネコさんのためにうささんが大量の魚料理を作ることを指す。


「……、このドアホウサミミクレイジーペケがぁぁぁぁ」

 

 その瞬間、小さな体のどこから出たのか不思議なくらいの大きな声がネコさんの中から飛び出した。うささんの耳はキーンと耳鳴りがし頭ががんがんしている。


「……もういきなり大声だすなよ……」


 うめくうささん。


「どーして、そんなに危ないものをぽんと置いておくんだい。トイレに3回土下座しろ!!」


 地味にいやな罰である。


「危ない!?どこがだよ。世の中爆弾なんかポッケに1つだろ」


 うささんは心底わけがわからないというような顔を浮かべた。


「その認識がそもそもおかしいんだ馬鹿者!」

「なんてこった!」


 はじめて知ったと言わんばかりの驚きようである。


「とにかく追うぞ……」


 それだけ言ってネコさんは倒れた。怒り疲れたのだ。そう、彼女の体力は一般人の5分の1にも満たないのである。そのため、普段は少し歩けば倒れるためいつもはうささんの抱えるバスケットで移動している。


「おいおい……」


 うささんは呆れながらネコさんをバスケットからだしおぶった。ちょうど駅が見えてきたためである。そこで、300円ロッカーにバスケットを預ける。バスケットだと邪魔になるからだ。


「さあ、ジョギングするか」


 そして、うささんは猛スピードで走りだした。びゅんびゅんとジェット機のような音がして近くのものが飛ばされていく。ネコさんはうささんの背中にすっぽりと収まるため見事に風から身を守られているようだ。

 車で40分かかる距離をうささんは約10分で走破した。






「やったー、とうとうボスを倒したよ!」


 植木は電車内ということを忘れて叫んだ。周りの人がちらちらと見てくるのなんかお構いなしだ。そんな中、猫杉はイニシャルをつけ終わり、シートに寄りかかって寝ていた。


「ふー、やっほー。いえーい」


 とてもうるさい。周りもかなり迷惑そうだ。


「うっ」


 猫杉は、時折体をビクっとさせている。その上、眉間にしわがより始めた。


「よっしゃー」

「うっるせぇよ!!」


 とうとう猫杉は叫んだ……と思いきやすぐに寝息が聞こえだす。寝言だったようだ。


「どんな夢みてんだろ……」

「……川っ……すご……だろ」


 寝言は続いている。それに、微笑みが加わった。と、2人が乗っていた電車が急停車。植木は手すりにつかまり事なきことを得たが、寝ていた猫杉はぴょーんと効果音がでそうな感じで床に投げ出された。


「恐るべしナショウの法則!」

「……慣性カンセイだこの馬鹿」


 猫杉は頭を打ったのか抑えながら立ち上がりつつ言う。寝起きのせいか機嫌が最悪だ。やけに立派な書体で書かれたイニシャル「N・Y」のついた弁当箱はシートに置かれたままである。それを見ている男が1人。


「……見つけた」


「まったくお前はバカな奴だ。チビなうえ女顔で……」

「う!そんなことないやい。猫杉のほうがチビだろ!」


 そんな男に全く気付かず、やいやいと言い合いをしているチビーズ。そんな2人を見た男は、


「フラミンゴ団の手下は斬新だな……。うちもあんな新人を入れてみるか……」


 とびっくりしながらつぶやいた。



「ふげー、疲れたよ」


 こちらはすっごく疲れた顔をしているうささん。ネコさんも疲れた顔で「そうだな」と同意している。


「……って、いや君何もしてないだろ!」

「ウサ・カーは乗り心地が悪いんだよ」

「ウサ・カーってなんだよ!!人を乗り物みたいに言うなよ!」

「車だろう!?何をいっているんだい」


 心外だ、と言う顔のネコさん。それに対し、うささんはそれこそウサギの如く跳ねて攻撃する。


「いや、ちげぇよ、バカ!」

「お、見ろ。何か来たぞ。あれじゃないか」


 ネコさんは向かってくる電車を指さしてうささんに問う。


「人の話を聞け―!!」


 2人でぎゃんぎゃん(というよりうささんが)言っている間に、電車が着いたようだ。人がどんどん降りてくる。


「おーし、確認だ」


 2人は喧嘩を止め、電車をじろじろ見だした。2人の少女がそろって必死に降りてくる人を凝視している姿はいささかシュールだったが本人たちが気づいていないのでよしとしよう。しばらくして、うささんがお目当てのものを見つけた。


「お!あの少年らが持ってる手提げに入ってるやつじゃない?ほら、ちらちら見えてる」

「む?」


 ネコさんもそちらに視線を向ける。そして、眉をひそめた。


「君、なんだいあの男は。The・不審者って感じだぞ」


 ネコさんの視線は少年らの後ろからこそこそとついていく男にあった。なんじゃそらとうささんもネコさんの視線をたどる。そして、盛大に吹き出した。確かにその男は『The・不審者』だったのである。黒ずくめの服装にサングラス。ご丁寧にマスクまでしている。その上、怪しい行動も加わる。これでは、不審者ですと周りに言っているようなものだ。


「おお、やばいね。」


 うささんの笑いはまだ止まらない。


「うむ、傑作だな」


 そのまま見ていると、男は2人の少年の後ろを歩いていたが、2人がトイレに行くとスマホをいじりながら待ち、2人が出てくるとまた後ろを歩きだした。

 怪しい。とにかく怪しい。


「ストーカーかな」


 今度は電話をしながら2人の後ろをついていく。


「よし、盗み聞きをしよう。」

「いや、さすがのあたしの耳もここまでうるさいと無理だよ」


 うささんは耳を触りながら言った。ここは駅だ。周りは、降りた人や待っている人たちの声でザワザワしている。


「大丈夫。集中しろ。カクテルパーティー効果だ」



 ~ネコさんによるどっからどう聞いても科学的な科学講座~


 ウ「なんか来た!まじか、いきなりだな」

 ネ「静かにしろ」バシッ

 ウ「いてっ」

 ネ「では、今から『カクテルパーティー効果』を説明する」

 ウ「……おー。(なんなんだよ)」

 ネ「カクテルパーティー効果とは、カクテルパーティーのような雑音で満たされている場所でも会話が成り立つというものだ。」

 ウ「ほうほう、そいつはすごいな。てか、『カクテルパーティー』ってなんだよ」

 ネ「ヨーロッパやアメリカでよくあるパーティーで、カクテルを飲みながらぎゃいぎゃい騒ぐいというものだ大事な社交の場なのさ」

 ウ「そりゃあ、ヨーロッパやアメリカらしいパーティーだな」

 ネ「私は、カクテルはあんまり好きじゃないのだけどね」

 ウ「え、どうして」

 ネ「ワインのほうが好きなのさ」

 ウ「ネコさん、子供がワインなんてダメだよ。(こいつマジでばぁさんかよ)」

 ネ「ウィスキーボンボンとかは食べないのかい」

 ウ「だーかーらー、子供はダメだって。(ま、食べたことあるけど)」

 ネ「……」

 ウ「それに、チューハイのほうがおいしいよ。(全く君は常識を考えろよ)」

 ネ「……最後のやつ、本音と建前が逆だぞ……」



 ~盗み聞き始め~

『ボス。「風呂に入っているフラミンゴ団」の刺客を発見しやしたぜ』

『おお、よくやった。で、どこ?』

『それが、少年が持ってるんです』

『な、なんだと!?』

『それもひょろひょろした少年ですぜ……』

『なんてこった……』

 ~盗み聞き終わり~


「君、聞いたかい!あの少年らはマフィアの刺客らしいぞ、びっくりだな!」


 ネコさんは心底驚いた顔をして言った。


「本当だよ。あんなにちっさいのにさ」


 でも、そういえばこいつ中学生で爆弾をつくってるんだよな、うささん。ネコさんはうなずくうささんの笑顔を見て考えたが口には出さない。それが、社会で生きていくうえで大切なのだ。

 とりあえず、男と少年を目で追ってみると、3人は電車に乗るらしく改札を通っている。


「ふむ、ついていくかい?」


 ネコさんのいたずらっぽい言葉に、ウサさんはこぶしを上に突き上げ答え……


 ドンっ!


 その瞬間、変な男にぶつかり鈍い音がした。やけにフローラルな香りのする男である。しかも、ピンクの鳥が刺繍されたコートを着ていた。


「あ゛てめぇどこ見て歩いとんじゃボケェ」

「あ゛!?いや、それはてめぇだろ」


 売られた喧嘩は買う。それがうささんである。ちなみに、そんな彼女のモットーは“バレなきゃなんでもやっていい”だ。その上、決めゼリフを遮られて不機嫌であった。


「こっちは立ち止まっていんのにわざわざぶつかってくるたぁ、セクハラか!?こちとら純粋な女子なんでねぇ。今すぐ『チカンだ』と叫んでもいいんだぞ?わかったらさっさと失せろ。てめぇみたいなちっせー男にメンチ切られても怖くねぇし。」


 いや、警察に捕まったら少年院いきになるぞ、君は。とネコさんは思う。うささんのスカートの中を盗撮した人はさぞショッキングな映像を見ることになるだろう。『まあ、平和ボケしている人には「なにこれ?」で終わるだろうけどな……全く最近の若者は戦争の大変さを知らないから困る』道行く人々は、ネコ耳の少女が平和ボケした若者の行く末を案じているなどつゆにも思わない。

 さて、うささんの言葉を受けた男は舌打ちをして去って行こうとした。ついでにガムも吐き捨てていく。

 これだから最近の若者は(ry とネコさんはため息を1つ。どこからか試験管を取り出した。中は白い粉である。だらしなく歩く男の背中にかけようとしたが背が届かない……。


「全く、なんてやつだ」

「いや君の身長が足りないだけだろ」


 うささんは笑いながら試験管を取り、蓋をとると男に向かって投げた。見事にモヒカンに突き刺さり、粉がさらさらとこぼれていく。ナイスコントロールである。


「さあ、ずらかろうぜ」


 2人(正確に言うと、走っているのはうささん)は走り出した。背後から男の笑い声がし出す。


「笑い薬?」

「そうさ。いいじゃないか、笑うと、皆がハッピーだ」


 その理屈は分からんでもないが、少し間違っている。


「とにかく君、急げ。電車が出てしまう。マフィアVSマフィアの戦いを見るんだろ」


 ネコさんの言葉に今度こそうささんはこぶしを上げて応じた。


「もちのろんさ!」


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