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角が有る者達  作者: C・トベルト
第二章 悪魔から知恵を授かったソロモン
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第95話 楽しい楽◇い旅の為に準備を◆よう!

〜ゴブリンズ・アジト〜

朝食の後、アイは用事があるからと出掛けていき、ススは白山羊から美味しい食事の作り方を学び、黒山羊は門番に戻り、ダンクは『ちょっといってくる』と言って何処かへ出掛けた。


アジトに残ったのはシティ、ルトー、メル、そしてユーだ。


シティ「さて、メル。

この子にアジトの案内をしなさいな」

メル「え、僕が?」

シティ「だってあんた達が一番ユーと年が近いでしょ?」

メル「そ、そうだけど…」

ルトー「それにメルは普段あんまり出掛けてないじゃん。

その能力のせいでさ」

メル「あ…」


メルの能力は『一度見た能力を自分の能力にする能力』。

ゴブリンズアジトがある迷宮島は能力者の楽園であり、メルがその中を一時間歩けば何百人の能力をコピーしてしまうのだ。

ダンクの魔法でもその能力を封印する事はできず、

メルはこの一週間アジトの外を出てはいなかった。

だからと言って、メルは子どものお守りをするわけにはいかない。

メルは頭を使い必死に反論しようとする。


メル「だ、だけどまだ僕だって知らない所が」

シティ「さーて今日も電柱を振り回さないと!

朝ごはん食べたら電柱の素振り100回、これは基本よね〜」

ルトー「僕は僕で新しい機械作らないと、僕の能力は『影が薄い』って言われちゃう!」


だがメルの抵抗を聞く前に二人は何処かへ行ってしまった。

反論しようとするメルの言葉は宙に消え、ぽかんと口を開けるメルだけが残る。

しかしそのメルの服をくいくい、とユーが引っ張った。


ユー「メルー、パパのアジト案内してくれるの?」

メル「あ、アハハ…先ずは訓練室からね…」


メルは力なく笑いながら、小さな女の子と一緒にゴブリンズアジトを案内していなった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


〜訓練室〜。


壁一面が鏡張りの訓練室には大量のジム用品が設置してある。

元は軍事施設なのだから当然と言えば当然だが、今はシティが使用していた。

大量の鉄パイプを自分の周りで回転させているのだ。


メル「シティさん…何をしてるの?」

シティ「何って訓練よ訓練。

こうやって電柱を操っているの」


シティはそう言いながら今度は鉄パイプでお手玉を始める。

メルにはそれで何が鍛えられるのか全く分からなかった。

しかし子ども心に擽られ、ユーが楽しそうに笑った。


ユー「すごいすごい、シティちゃん凄ーい!」

シティ「ふふーん凄いでしょー!

私は誰より強いのよー!

…あ、そうそう、朝はゴメンね」

ユー「え?」

シティ「ユーちゃんのパパ電柱で殴っちゃってさ!

さっきは私もびっくりしてたのよ。もうしないから許して、ね」

ユー「……………。

うん!」


ユーはニコッと笑い、メルの服を強く引っ張り出口に向かう。


ユー「ありがとねシティーちゃん!

メル、さあ早く行くよー!」

メル「ま、待ってよユーちゃん!」


とててと歩くメルとユーがなんだか可愛らしくて、シティは思わず微笑む。


シティ「あーあ、ガラにも無い事しちゃって…。

明日は雨が降るわね、絶対」


そう言いながら、シティは鉄パイプを横に重ねてダルマのような塔を立てていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


〜団らん部屋〜。


普段はアイ達がゲームしたり駄弁ったりして過ごす部屋だ。

メルはまだ見たことがないが、たまに誕生日会をやるらしい。

ただダンクはいつ生まれたのか分からないので生きているか誕生日会の日程はかなり適当だ。


ユー「ペケペケボックスにプレ・ステーションに…何この赤いオモチャ?サングラスみたい」

メル「僕も良く分からないんだけど、ルトー君は『これはっ!超レア物だ!』って騒いでいたなぁ」

ユー「ユー、ゲームは苦手だな〜」

メル「じゃあ今度僕が教えるね。

これでもゲームは得意なんだ」

ユー「うん、その時は宜しくね!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



〜コンピューター・ルーム〜


かつてゴブリンズの軍事情報が詰まった部屋だったが、今ではルトーがパソコンをいじり様々な機械を開発する為の部屋になっている。


ルトー「…(カタカタカタカタ)」

メル「…」ユー「…」

ルトー「…(カタカタカタカタ)」

メル(なんか集中してるし、もう出ようか)

ユー(コクコク)

ルトー「おい、二人共…」

二人「「ギャアアア喋ったああああ!!」」

ルトー「驚き過ぎだぁ!

全く、今から僕が案内するからついてきな!」


ルトーは二人を引っ張り、コンピューター・ルームの様々な所を案内・説明した。

ルトーは本当に機械いじりが好きでパソコンの使い方からパソコンの組み立て方、更には何故かお茶を淹れてくれるパソコンまで紹介してくれた。


ルトー「お茶を淹れる機能はマジ便利なんだよ!

固くなった体が温かいお茶を飲むとジュワーっとほぐされて、元気が戻るんだ!」

メル「凄いね、うん。

所でルトー君は宿題やった?」

ルトー「うぐ…!

だ、だだだだ大丈夫だ!

勿論、大丈夫だとも!大丈夫なんだ!大丈夫!」


ルトーはガクガク震えながら必死に大丈夫大丈夫と繰り返していた。

メルの言う宿題とは、縷々家学園の宿題の事だ。

果心の一件の後、メルとルトーは一週間に2、3度学校に通う事になった。

新校長、現古文々斎の計らいにより、メルとルトーは学校に通える事を許可したのだ。

ただし、普段通えない分宿題の量はかなり多い。

元から学校で優等生だったメルはつつがなくこなしているが、

学校に通った事の無いルトーは最初こそ頭を抱えていたが、

今では嫌々言いながら宿題をこなすようになっている。

本人曰く『新しい世界が見えるのは楽しいから』だそうだ。

ルトーのコンピューター・ルームガイドも終わり、二人は部屋を出ようとする。


ルトー「メル、ユー!

次は面白いゲーム作るから、対戦しようぜー!」

メル「良いけど、今度も勝つからねー!」

ルトー「次は絶対俺が勝つ!」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



〜中庭〜。


中庭に入ろうとした二人だが、鍵がかかっている事に気付く。

そして扉の端にこんな掛札が置いてあった。



「『中庭は現在お化けが出るので閉鎖します…ススより』?

ススさん、そこまでお化けが嫌なのか」

「中庭には入れないの?」

「そうみたいだね…鍵がかかってるし、しかしススさんも怖がりだなぁ」

ユー「メルはお化け怖くないの?」

メル「僕?僕はお化け怖くないや」

ユー「そうなの?」

メル「うん。

さ、ユーちゃん、次の場所に行こうか」


メルはユーを次の場所に案内しようと手を伸ばす。

しかしユーは手を伸ばさず、同じ質問を繰り返した。


ユー「…お化け、怖くないの?」

メル「?

うん、僕はお化け怖くないよ?

実物を見た事は無いし襲いかかってきたら怖いけど…。

でも、お化けだからって怖がる必要は無い気がするんだ」

ユー「そっか…。

うん、そうだよね!

行こうよメル!早く色んな場所に行きたい!」


ユーはぱぁっと明るい笑みを浮かべ、メルを先ほどより強く引っ張る。

メルは少し慌てつつも、ユーと一緒に廊下を走って行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



〜キッチン〜。


ゴブリンズのキッチンには様々な器具や料理の為の道具が置かれている。

大量の銀色の調理器具の奥でススと白山羊が料理を作っていた。


メル「やあススさ」

スス「白山羊、この鍋には何を入れればいいの!?」

白山羊「とりあえずタバスコ入れなさい!

後はキムチ、ワサビ、スパイスを大量に!

できれば卵の殻も入れましょう、大量に!大量によ!」

スス「分かったわ!

そうだ、隠し味にコチュジャンとワイン入れましょう!

よーし、あともう一息よ!」

白山羊「鍋よ、全てを作り上げよ!

我が主が泣いて喜ぶ料理を作たまえ!」

スス「ゴブリンズの変人共が感激する料理よ、我等の手で生まれたまえ!」

スス&白山羊「「コ・ノ・ウ・マ・ミ・ハ・ラ・サ・デ・オ・ク・ベ・キ・カ!!」

メル「……。

次の場所に行こうか」

ユー「……うん」


メルとユーはそっとキッチンから離れた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



昼食時、美味しそうなサラダを皆で食べ始めようとした時アイがアジトに帰ってきた。

そして皆を収集し、こう叫んだのだ。


アイ「皆、明日アタゴリアン港町に旅行に行くぞ!」

スス「ええ!?

アイ、アタゴリアンに旅行に行くの!?」

シティ「ちょっと急過ぎない?」

アイ「大丈夫大丈夫、この通りチケットもあるぜ」


アイは銀色の手に持っているチケットを皆に見せた。


シティ「フー♪

なんか良く分からないけど、旅行は大好きだからいっか〜♪」

ルトー「でも何でまた急にアタゴリアンに?

何かあるの?」

アイ「なんたってアタゴリアンには……」


ざ……ザザザ……。


パー「…憤怒計画は、外国で行われるそうだ。

確か…『◇◆◇◆◇◇』という寂れた港街だ。だが何をする気なのかは儂も知らん」


ザザザザザザザザザザザザザザ、

ザザザザザザザ!


メル「……アイ?」

アイ「あ、ああ…何、アタゴリアンにはとても良い温泉があるらしいからな。

明日アタゴリアンにひとっぷろ浴びに行くぞ!」

スス「明日!?

ちょっと急すぎ……」


ザザザザザザザザザザザザザザ!

ザザザザザザザ!


◇◆◇「良いか、皆は遅れてやって来てくれ。

今◇◆◇◆◇◆に行くのは◆◇なんだ…」


ザザザザザザザ!ザザザザザザザ!ザザザザザザザザザザザザザザ!


スス「……」

メル「スス?」

スス「あ、良いわねアタゴリアン!

明日早速行きましょう!」

メル「明日、てそんな…まだ準備とかしてないのに…」


ザザザザザザザ!ザザザザザザザ!ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!


◇◆◇「◆◇◆◇◆◇には◆◇◆が◆◇ある。◆◇◆◇に◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇」


ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!



メル「…ま、今日中にやればいいか。

うん、がんばろー…」

シティ「んー?

皆どうしたの?何か変よ?」

アイ「…どうしたのって?

どうもしてないよ。

それよりお前達も準備しろよー」

シティ(…………)「せんせー!

バナナはオヤツに入りますかー?」

アイ「入らないよー!」

シティ「よし何か変な気がしたのは気のせいね。

今の答えで理解したわ、うんうん」

ルトー「何を理解したの!?」

白山羊「バナナはオヤツに入らないんですか…!?

旅行に持っていくオヤツにバナナ入れられない!」

ルトー「白山羊もあんまり深く気にしちゃいけないからね?

…やれやれ、後で観光スポットとか調べとくか」


何気に一番楽しみにしている14歳の男の子、ルトー。


アイ「よーし!

皆、準備を始めるぞー!」

全員「オー!!」


アイ達の乾杯に合わせ、全員が叫ぶ。

しかしそのはじで、ユーが一切の感情を無くした顔で皆を見ている事に誰も気付かなかった。

それに気づかないアイは全員に「諸君は先に食べてくれたまえー」と言い残し、食堂を後にする。

そして向かったのは中庭だ。

自前の鍵を使い、なんなく中庭に侵入する。


〜中庭〜


中庭は酷い惨状だった。

アイが趣味で育ててきた花は皆枯れてしまい茶色く変質している。

もはや死の世界となった中庭の中をアイは一直線に歩いていき、やがて目的地で止まる。

アイが顔を上げると、そこには枯れた大木が植えらていた。

幹には刃物で切られた後が幾つかあり、その下に2つの名前が彫られていた。

傘のマークの下に『アイ』と『ユウキ』の字。

まるで恋人同士が永遠の愛を誓うかのような甘酸っぱい思い出の印を、銀色の手がそっと撫でる。


アイ「…血染め桜。

お前もアタゴリアンに行くか?」


血染め桜、と呼ばれた大木の枝が、風もないのに揺れていく。

それを見たアイは微笑んだ。


アイ「そうか、お前も行くのか

それじゃ枝を一本折らせてもらうぞ」


そう言うと、アイは手を伸ばし血染め桜の枝の一本を掴み枝を折る。


「パパ、ここにいたの?」


アイが振り返ると、そこにはユーが立っていた。

生きた花が一輪もない枯れ果てた中庭で、アイ、ユー、そして血染め桜という唯一の存在が今揃った。


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