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角が有る者達  作者: C・トベルト
第二章 悪魔から知恵を授かったソロモン
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第92話 朧、初めてのお使い


パー「結局、『ゴブリンズ』の説明については何もしませんでしたか。

ダークめ、もしやゴブリンズの手先なのかもしれませんぞ?」


古びた店『palette』

果心はパーに先程ダークと話した事を説明していた後、パーが最初に話した言葉はそれだった。

果心は椅子に座り、水の入ったコップを傾けながら話を聞いていた。因みに今はドイツ軍の軍服を着ている。


パー「それにこの店もどこまで信用できるのやら…」

『あぶないあいつ怪しい』

『もしかしたら果心様をたぶらかすかもしれませんねぇ』

『果心様が危険な目に会う前に儂が守らねば』


パーは自在に塵や埃を操る魔術が使える。その塵を使い、パーの心中が文字となって果心の周囲をぐるぐると回っているのだ。

果心はそれを全く気にせず、何処か虚ろな調子でうなずいていた。


果心「そうね、説明にしても隠している事も多いみたいだし、どこまで信用して良いのやら」

パー「ならば、一刻も早くナンテ・メンドールに会うのです。

ゴブリンズは我等の敵であり、ナンテ・メンドールは一人でその集団と戦っているのです!」

果心「…でもどこにいるのか、分からないわ。

ナンテ・メンドールを信用したくても姿が見えなければ意味がない」


果心は傾いた水をじっと見つめている。


果心「とりあえず今できる事は、町の様子を確認する事。パーは塵を集めなさい。

ここはいつ何が起きてもおかしくないわ」

パー「かしこまりました」

朧「お?

街の様子を見たいのか!」


二人の間に割って入ったのは砂がはいった小さなビンの中の二枚貝、朧だ。

朧は魔力で作られた龍であり、その核はこの貝である。

夜の間だけ龍の姿を出す事ができる。

そしてその状態でのみ、この龍はある特性を持つ事ができる。


朧「我は夜の間なら何処にでも現れ何処にも消える事ができる!

それ、つまり…!」


ビンから金色の龍が現れ、その姿がどんどん半透明になっていく。

そして薄い状態でニヤリと笑った。


朧「我は誰にも気付かれずあちこちを移動出来るのだ、よ!」

果心(私の探知魔法を使えば街の様子を探るくらい…いや、よしましょう。

あの龍半透明でも分かる位どや顔してるわ)

パー(すっげぇどや顔。

元教師の儂としては教え子の頑張りを認めてやりたい。

認めてやりたいから黙りたくなってしまう!)

朧(我の頑張りを果心様に見せるチャンス!

ふんすふんす!)


しばらく微妙な間が流れる。

そして諦めたように果心がポツリと一言呟く。


果心「……分かったわ」

朧「ウッシャーーーー!!

見てろよパー!我の方が素晴らしい事を証明してやるからな!」

パー「あ、ああ…」(ああ…。

子どもラブな儂や常識で計れない果心様のツッコミになると思ったのになぁ…)


果心とパーが苦笑いしている前で朧の姿がみるみる消えていく。

そして、ビンの中の貝が輝き二人の目に果心とパーが映る。


朧「我の目と二人の目を一時的に同調させて貰う!

これで儂から見た情報をダイレクトに伝えられるぞ!

また声も聞けるようにしよう!

なんて気心!なんて配慮!

我素晴らしいだろ?だろだろ?」

果心「あ、ありがとう…」

パー(なぐりてー)


二人が残念な子を見る目で見ている事に気付かないまま、朧は夜の街へ飛び出していった。



アタゴリアン港町〜住宅街〜


アタゴリアンの住宅街は少し古い家が連なっているが、どの窓も厳重に封印され、木で出来た扉はそのほとんどに傷がついている。

そして戸口は何故か赤い染色が施されていた。

朧(何だこの家…)


朧がポツリと呟くが、その声を聞く者は誰もいない。

存在を限りなく薄くされた今、この龍の声を聞く事が出来る者はいない…筈だが、不意に果心の声が朧の頭に響いてくる。


果心『もしもし朧ー?

聞こえるー?』

朧(おおっ!?

果心様の声が聞こえる!?)

果心『さっきのままだと会話ができないからね。

会話できるよう改造したわ』

朧(果心様…)

果心『あと、家の近くに行かない方がいいわ』

朧(へ、何故です?)

果心(その戸口、赤く染められてるでしょう。

それは雄鶏の血を使って作られた強力な結界よ。

存在が希薄になっている今の貴方では危険よ。

早く別の場所に…)

?「ウワアアアアア!!」


果心の言葉を遮るように男性の叫び声が夜中の住宅街に響き渡る。

朧は家に近づかないよう上昇して空から叫び声の元へ飛んでいく。


そして朧の眼に飛び込んだ光景は、空を飛んでいる兵士だった。


兵士「いだだだだっ!

離せ!離せェーー!」

朧(なんだ?

空飛びながら痛がってる?)

果心『違うわ。

両耳に何かいる!』


良く見れば、両耳に青い肌の小さな人型の怪物が、兵士の耳を引っ張ってぶら下げているのだ。

いや、耳だけではなく手や足にも小人の怪物が兵士の服を掴みゲラゲラ笑いながら遥かに大きな巨体を吊り上げている。


果心『あれは、ピクシー!?

…いや、牙が見えるからドクシーだわ。

おかしい、ドクシーは自然の妖精なのになんでこんな街中に…?』

朧(そ、それより果心様!

あいつ助けないと!

あのままだと耳引き千切られて死ぬぞ!?)

果心『……待ちなさい、朧』

朧(果心様!?)

兵士「だ、誰か助け…」


その瞬間、強力な光線が兵士を掠める。

ピクシーは驚いて兵士から離れ、兵士は石畳の上に落ちる。

落下によりダメージを受けたが、両耳はちゃんと兵士にくっついていた。


兵士「が…がは…」

朧(い、今の光線は…?)


朧が見た先には、ライが立っていた。

白いアーマーは灰色に変化し、巨大なバズーカからは煙が上がっている。


ライ「大丈夫か!?」

兵士「すまねえ、恩に着る」

ライ「話は後だ!

早く住宅街に逃げるぞ!

あそこなら結界を恐れてピクシーも入れねえ!」

兵士「分かった!」


二人は急いで住宅街へ走り出す。

しかし住宅街への道には誰かが立っていた…それはフードを深く被った人間だ。


果心『あれは…ダーク?』

ダーク?「おっと待てよ兵士達。

まだ遊び足りないようだぞ?」

兵士「邪魔だ!」


兵士は何も言わず、ポケットに収納していた銃、M9を取りだしフードの中の頭目掛けて撃ち込む。

放たれた弾丸はフードの中に入り、頭を隠したフードが吹き飛んだ。


兵士「急げ、早くしないと殺される!」

ライ「ああ!」


そして二人は崩れ落ちる人間のそばを駆け抜け住宅街に入ろうとして…兵士の左腕が掴まれる。


兵士「え?」


兵士は思わず振り帰る。

掴んだのはローブを着た人間だ。

頭を撃たれた筈の人間が兵士の腕を掴んだのだ。

そして兵士は思い切り引っ張られる。

兵士の眼に映るのは、フードがはずられ、美しい金髪が見えるという事だけ。

それしか理解出来ないまま、兵士は頭から叩きつけられた。


兵士「ぐわっ!」

ライ「な!?

なんだてめえ、なんで撃たれたのに死なねえんだ!?」

「…お前達『科学側』には、決して分からんさ」

ライ「ああ!?」


男は掌を兵士の顔に向ける。

その掌から大量のムカデが現れた。


兵士「ひっ!?」

「喰え」


その掌から現れたムカデが兵士の体を食い散らかそうと落ちていく。

しかし兵士もまた掌をムカデに向けると…掌から長刀が出てきて落ちたムカデ達を貫いた。


「!?」

兵士「させるか、よ!」


兵士は長刀を握り、目の前の腕を切り裂く。

そして無理矢理立ち上がり距離を離していく。


兵士「あ、危ない…死ぬかと思った」

「……能力者、か?」


ローブを着た男は腕を切り落とされたにも関わらず冷静な口調で喋る。


ライ(い、今のはマジでビビった…)

兵士「答えろ!

貴様は誰だ!?」

「俺の名か…」


ローブを着た男は振り返り、二人にその顔を見せる。

金髪で少し痩せた青年の顔だった。

青年は余裕たっぷりに喋る。


「俺の名はダンス。

ダンス・ベルガード。

…魔法使いだよ」


果心「ダンス・ベルガードですって!?」


朧の目線越しに見ていた果心は思わず立ち上がる。

何故なら、その青年には見覚えがあるからだ。

いつかのコスプレパーティー会場で、果心はその顔を見ている。


パー「果心…様?」

果心「馬鹿な…馬鹿な…!

あり得ないわ…あり得るわけがない…」


コスプレパーティーで、その男は自らの名をダンス・ベルガードと呼んでいた。

ある国を守る事ができず、世界中の魔術を学ぶために悪魔と契約しその体と引き換えに魔術を得た、

今ではミイラの姿をした魔術師。

仲間には違う名で呼ばれていた、ゴブリンズの魔術師。


果心「『色鬼』ダンクが何故ここに!?

ライは同じゴブリンズの筈なのに敵対してるの?」


果心は声を震わせて叫ぶ。

そして視線の中のダンスは腕を切り落とされたにも関わらず、楽しそうな笑みを浮かべていた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




ある飛行機内、エコノミークラス。

エコノミークラスはまるで個室のようになっており、その中にはハサギ、ノリ、ペンシ、ケシゴの四人が話し合っていた。


ハサギ「驚いたぜ、まさかお前の正体が国際警察だったなんてよ。

なあケシゴ」

ケシゴ「悪いな。

ハサギの噂は聞いていたから、少し実力を試したくて…」

ペンシ「うむ。

馬鹿者ではないことが証明されたぞ、喜べ貴様等!」

ハサギ「…俺の実力を試したくて警察に…?

まさかケシゴとペンシ、凄い地位があったりする?」

ハサギ「さて、どうだろうな?」(ニヤニヤ)

ペンシ「ふはははは!

私達は別にそこまで偉くないぞ!」

ノリ(嘘ッス嘘ッス絶対嘘ッス!!

偉くなきゃこんな豪華な飛行機のエコノミーをタダで乗らせて貰えるわけ無いッス!)

ハサギ(ハサギです。

部下だと思ってた人が実は自分よりスゲー偉い人でした死にたい)


ノリとハサギは二人の笑みを見て落ち込む。


ハサギ「…ノリ。

俺には隠し事しないでくれよ」

ノリ「(ギクッ)は、ハサギさん!

だ、だだだだだ大丈夫ッス!

ボクはいつでもハサギさんに隠し事なんてしないッス!」

ハサギ「その言葉、すげー身に染みるなー。

ありがとよ、ノリ」

ノリ「ハハハハハ…」

(ボクのバカアアアア!!!

いま、今なら言えたんじゃないかアアア!!!)


いとおしそうに微笑むハサギと激しく落胆するノリに全く気にせず、窓の外に目を向けていたペンシが叫ぶ。


ペンシ「そろそろ到着するぞ!

WGPの本部がある国、『迷宮島(メイズ・アイランド)』に!」


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