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角が有る者達  作者: C・トベルト
第二章 悪魔から知恵を授かったソロモン
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第91話 潜入アタゴリアン

〜アタゴリアン港町から少しはなれた海の上〜



人型「俺の名はライ。

ゴブリンズ、『雷鬼』のライだ。

ナンテ・メンドールには会いたかったんだよ、

奴は俺達の敵なんだからよぉ!

ヒヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」


四方を水の壁に囲まれ、身動きが取れない状態でライと言う名の人型の何かは笑う。


果心「ゴブリンズですって…?」

(ちなみに現在スーツに着替えました)

パー「ば、馬鹿な…!

ゴブリンズは五人だけの筈だ!

その面妖な姿といい、貴様、何者だ!」

ライ「ヒヒャヒャヒャヒャ!!

ゴブリンズが五人だけ?

ああ、お前らまさかあの『ゴブリンズもどき』の事を言ってるのかぁ!」

果心「ゴブリンズもどき…?」

ライ「教えてやるよ」


ライは首をぐにゃ、とかしげながら楽しそうに話す。


ライ「今から何年も前の事だ。

五十年続いた戦争が終結し、能力者はようやく自分の国に戻り、普通の暮らしをする事が出来るようになった。

だが、戦争が終結しても世界が平和になったわけではない。

いやむしろ、あの戦争により紛争がさらに激化するようになった。

だから、ゴブリンズは傭兵として再度戦場に身を投じる事になったんだ」


ライは終始楽しそうに話している。

対象的に果心は冷えた口調で語る。


果心「では貴方達はゴブリンズの全てを受け継いだ、というわけですね?」

ライ「それ以上だ。

このパワードスーツも、かつて『猛毒英雄』と呼ばれた男に使われた特殊なスーツ、『ポイズンヒーロー』の技術を応用して作られた…」


そこで何故かライは変なポーズを取る。


ライ「『ライジング・ヒーロー』!!

これで俺は更に無敵になれたのだ!ヒヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

果心「…成る程。

色々と納得したわ」

(こいつはゴブリンズの何もかも受け継いではいない。

ただ戦争の勝利を忘れる事ができない、戦争屋。

……今まで戦ってきたゴブリンズとは、全然違う存在)


果心は指をパチン、と鳴らす。

するとライを囲んでいた海の壁が沈んでいき、壁は元の海に戻っていく。


ライ「?」

果心「もう貴方に興味を無くした。

さっさと何処かへいきなさい」

ライ「あ?

ちょっと待て、俺はてめえの事なにも聞いてねえぞ?」

果心「…貴方に教えるほど、私は高名じゃないの。

死にたくなければ失せなさい」


バリバリバリ!!


突如、ライのパワードスーツから青白い電流が走る。

そしてその電流は全てバズーカへ収縮していく。


ライ「てめぇ、立場分かってんのか?

俺は傭兵だ。貴様みたいな部外者を見逃すわけにはいかねえんだよ。

…駄々こねないで喋ってくれないかなぁ?」

果心「喋りません。

貴方みたいなガキに話す事なんて一つもないわ」

ライ「よしわかったてめえは俺達の敵だ殺す」


ライは果心達に向けてバズーカを向ける。

しかしその瞬間、まるで待ったをかけるかのように通信が入る。


《メーデーメーデー!

ポイント628ーBにピクシーの集団を発見!

近くにいる兵は至急行動し、ピクシーを排除せよ!

メーデーメーデー!》


しばらくライはバズーカ越しに果心を睨み付けていたが、しぶしぶバズーカを下ろす。


ライ「…ちっ、邪魔が入った。

もう一度会ったら殺してやる」


ライはそれだけ言うと、港町の方へ飛んでいった。

残された三人はふぅーっと溜め息をつく。


パー「果心様。

世界に認められない事をしているとは言え、敵は多いですね」

果心「まさか第一町人が傭兵とはね…これからどうしましょうか」

朧「我はホテル泊まりたいぞホテル!

そしてどんな飯食ってるのかみたい!」

果心「でも、この町はどうやら紛争地帯みたいね。

下手なホテル選べば殺されてしまうわ」

パー「『ゴブリンズ』もいるみたいですし、できれば無用な戦いを避けたい所ですな。

ナンテ・メンドールには簡単には出会えなさそうですし、どうすればいいのやら…」


ノープランで外国に来た旅行者のように途方に暮れる二人と1匹。

すると、果心の耳に誰かの声が聞こえてくる。


【こっちだ。

こっちへ来い。

丘の向こうにある、『palette』と書かれた看板のある店がある。

そこまで来るんだ】


果心「………どうやら、ガイドがいるみたいね」

パー「?」

果心「朧!

丘の向こうまで飛びなさい!

そこで私達を待っている者がいるわ!」

朧「り、了解!」


果心の指示通りに金色に輝く龍は空を飛ぶ。

小さな石が一つあるだけの丘を飛び越え、一番最初に目に入る古びた店の前に到着する。

その店の看板には『palette』と書いてあった。


果心「…ここね」

パー「果心様?一体ここに何が…?」

果心「静かに!

朧は姿を消して!」

朧「あ、ああ…」


果心の言葉に従い、朧の姿は消えていく。

朧はパーの持っている小さなビンの中の二枚貝に魔力の大部分を詰め込んでいる。

そのため朧の龍の姿は夜の間、何処にでも現れ何処でも消える事ができるのだ。


パー「喫茶店パレット…随分寂れた店ですな。

果心様、ここに何が…?」


パーが果心の方に振り返る。

しかし果心は既に店の中へ入っていった。

パーも慌てて店の中に入っていく。



古びた店『palette』。


明かりもなく、埃が舞い散る店の奥、外套(マント)を着た人間が立っている。

果心はその人間の前で立ち止まる。


果心「……貴方は誰?」


暗闇と深く被ったフードのせいで顔は見えない。

姿形からして中肉中背の人間である事くらいしかわからない。


果心「…そうね、私の名前から名乗りましょう。

私の名前は果心林檎よ。

後ろにいる老人はK・K・パーと呼ぶわ」

パー「…」


パーは何も言わず、小さく頭を下げた。果心はマントの人物を睨み付ける。


果心「貴方は何者?

何故私達をここに?」


マントの人物は何も言わず、トントンと人差し指で自分の頭を叩く。


【すまない。

俺は訳あって、これでしか喋れない】

果心(テレパシー!?

それも魔術を介した…つまり、貴方も魔術師という事…?)

【そうだ】


マントの人物はこくり、とうなずく。


果心「……私もテレパシーを使った方がいいかしら?」

【いや、君は喋って欲しい。

このテレパシーは一方通行だ。

……受信はできない】

果心「わかったわ」


果心もまた小さくうなずく。

そしてパーに目配せした。


パー「……失礼。

少々夜風に当たってきます」


パーは踵を返し、店を出る。

それを確認してから果心はマントの人物に振り返った。


【俺の名はダーク。

この国の魔術を研究する者だ】

果心「……まだ魔術師がこの世にいたなんて驚きね。

数百年も昔に魔術は滅んだと聞かされたけど」

ダーク【確かにそうだ。

だが、事情が変わった。

……それが君をここに導いた理由でもある】

果心「どういう事?」


マントの人物は数歩歩き、果心に近付く。


ダーク【この国は数十年も前から、魔術が復活していた。

復活させたのはナンテ・メンドール。

考古学者である彼はこの港町が元は魔術を多用した国である事を知り、

独学で魔術を研究、現在では様々な実験を行っている】

果心「魔術の研究を…?

数百年前に滅んだ技術を、今更使うなんて……」

ダーク【……。

ナンテ・メンドールは魔術を行使し、『命』を研究し始め、そして様々な幻想種を作り上げた。

さっきのワイバーンもその一種だ。

君の読み通り、あれはキメラ(人工獣)だよ】


ダークはゆらりと動き、果心から数歩離れる。


果心「さっきの傭兵は何?

ナンテ・メンドールの首を欲しがっていたみたいだけど……」

ダーク【奴等は、ある男に命令されて暴れまわっているんだ。

この国の魔法の技術と……何かを狙ってな】

果心「何か?」

ダーク【すまないな。

それは俺にも分からない】

果心「ある男、とは?

なぜそんな含ませた言い方をするの?」

ダーク【……それは、答えられない……】


ダークは一瞬頭を下げるが、すぐに頭を上げて果心に一歩近付く。


ダーク【君に頼みたい事がある。

ナンテ・メンドールに会って……魔術の研究を止めるよう伝えて欲しいのだ】

果心「……」


果心はしばらく目を閉じたが、笑みと共に目を開けた。


果心「無理ね。

私に彼の研究を止める事はできない。

彼は私の為に研究してるのだから、私にそれを止める事はできないわ…」


それを聞いたダークは頭を横に降る。

おそらく断る事を既に予期していたのだろう。もう一度聞こえてきた声にいささかの感情の変化も感じられなかった。


ダーク【……この店をやろう。

元は宿屋として使われた店だ、奥にはベッドが幾つか置いてある。

この町ではもう誰も漁をしていない。シードラゴンに喰い殺されるからな。

……だからこそ、誰も近づかないここは君達にとっての安全地帯となる。

……それに、君の従者は塵や埃を操れるのだろう?

掃除の時間はかからない筈だ】

果心「!

何故、パーの術の事を知ってるの?」


果心は眉をひそめた。

パーがこの町に来るまで、一度も使用していない筈だ。

だがこのダークというマントの(おそらく)男ははっきりとパーの術を言い当てた。

ダークは一瞬だけうつむく。


ダーク【……。

君の事も幾つか知っている】

果心「!?」

ダーク【君が使う魔術、おそらくアタゴリアン王国の魔術を使っているだろう。

あの金色の龍を見て分かった。

ナンテ・メンドールが滅んだ技術に目を付けたのも、それが理由か】


ダークの最後の言葉は果心に訊ねる、というよりはただ自分で確認するような言葉だった。

果心は今が好機とダークに質問を重ねてくる。


果心「そこまで知っているなんて…… 貴方一体、何者なの?

なぜ私達に協力を?」

ダーク【俺はこの港町のガイド。

それ以上でもそれ以下でもない 。

……だが、ガイドは報酬を欲しがるものだ。

俺の望みは2つある】

果心「……何が望み?」


ダークは一歩、果心から離れていく。


ダーク【1つは、この町の平穏。

もうこの町に、争いを起こさないで欲しい。

……そしてそれができるのは、君だけだ】

果心「……もう1つは?」

ダーク【君の希望が見たい】


ダークはまた一歩、果心から離れる。

そして両手を広げた。


ダーク【俺が今話せるのはここまでだ。

後は君次第… 】

果心「待ちなさい、まだ話は…」

ダーク【俺に見せてくれ。

君の希望を…】


バシュ、と音を立ててダークは消えていく。

そして部屋には、果心が残されただけとなる。


果心「いない……。

それより、あいつの最後の言葉…」


【俺に見せてくれ。

君の希望を…】


果心「……。

私に希望なんてない。

私は、まだあの灼熱の世界を歩き続けているのよ…。

私の希望は、大罪計画による全人類が私と同等の力を持つ、それしかないわ…。

それしか…それしか私の渇きは癒せない…」



果心の言葉は闇に溶け、何処かへ消えていく。

その言葉が誰に届いたのか分からないまま…果心は誰もいない闇をしばらく見つめ続けていた。

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