第90話 ゴブリンズの朝食
ゴブリンズアジト・食堂
アイとシティとユーが食堂に到着した時、そこにはススとダンクとメルが既に座っていた。
ススは少し暗い表情だ。
ダンク「二人ともおはよー」
スス「…おはよ、リーダー」
メル「リーダーさん、シティさん、おはようございます!」
シティ「おはよー!」
アイ「お、みんなおはよう。
…ってなんだ、スス?
顔を青ざめて、なんか不味いもの食ったのか?」
五人は挨拶を交わし、その後ろからユーが小さくお辞儀する。
スス「朝から幽霊みたら誰でもこうなるわ」
アイ「幽霊?
中庭に出たのか?」
スス「ええ、そうなの…あれ?
なんで中庭に幽霊がいるって?」
アイ「あー、まあ幽霊いるからなあ」
ススの問いにアイはあっけらかん と答える。
あまりにあっさりと答えたのでススは非常に驚いた。
スス「幽霊いるの!?」
アイ「いやここは昔軍の基地だったんだし、普通にいるぞ。
ほらそこに髪の短い女のれ」
い、と言い切る前にアイの顔にススの拳がめり込んだ。
スス「いーなーいー!!
幽霊なんて非科学的なモノ、この世にいるわけないでしょ!」
アイもめり込んだ拳を引き剥がし、反論する。
アイ「はあ!?
つい先日まで龍だの邪神だの見てた癖に霊は否定するっておかしくないか?」
スス「おか・しく・ない!
ここには幽霊なんていない!いないったらいないの!」
ワナワナと震わせる手でバンバンと机を叩く。
それを止めるようにシティが話しかけた。
シティ「私としては幽霊いて欲しいなー」
スス「中庭にいるらしいわよ。
めー私絶対中庭に行かないからね!」
白山羊「お早うございます皆さん。朝ごはんができましたよ」
スス「あ、白山羊さん。
お早うございます」
白山羊「ススさん、お早うございます。
今日も良い天気ですね」
スス「そうね、お化け一匹いない良い天気だわ」
白山羊とススは楽しそうに会話する。
家事が趣味の白山羊と、ゴブリンズの会計をやりくりするススは非常に仲が良く、アジトに来てから数日でとても仲良くなった。
その理由の1つとして、『食費は全部ゴート家が支払う』がある事は二人だけの秘密である。
白山羊「朝は1日の活力の源。
ですから今日はたくさん出しましたわ」
スス「何を出したの?」
白山羊「先ずはコーヒーにシリアルに果物、マーマレードジャムにパン」
アイ「ふーん。……『先ず』?」
白山羊「次に目玉焼き、ベーコン、ソーセージ」
メル「がっつり系があるけど…次って?」
白山羊「最後にベイクドビーンズ、ハッシュドポテトにトマトのソテー、プディングにスコーン。
…それぞれ一人前ずつ七人分作りましたわ」
白山羊は家事・教育のアンドロイドであり朝食は得意である。
アイは少し凍りついた笑顔を白山羊に向ける。
アイ「……いっぱいあるなあ…」
白山羊「朝は1日の活力。
これくらい食べなきゃ後がもちませんよ」
アイ「ああ…」
ルトー「ただいまー」
元気な掛け声と共にルトーが食堂に入る。
タオルを首に巻き、縷々家学園のジャージを着ていた。
朝、犬の散歩をするとき必ずこの服を着ているのだ。
ルトー「お、朝ごはん一杯あるー!やったー!」
スス「ルトー、お早う」
ルトー「ススお早う」
アイ「ルトー、お早う」
ルトー「バカリーダー、お早う」
アイ「バカじゃないぞ!
バカと言うやつがバカなんだ!」
ルトーとアイ、いつも通りのやり取りをして椅子に座る。
それと同時にメルが部屋に入った。
メル「皆さん、お早うございます」
全員「おはよーう」
メルが座る皆の後ろを通り、一番奥の席に座る。
そして顔を上げた所で初めてユーと顔を合わせた。
メル「え…女の子…?」
スス「どこどこー?私には女の子の幽霊なんて見えないわー?」
メル「幽霊!?」
シティ「その子生きてるわよ、スス」
スス「え、ホントに!?
ホンとのほントのホんトに生きてる女の子!?」
シティ「何で声かけないのかなーと思ってたら、幽霊扱いしていたのね…」
ルトー「ええ、この子幽霊じゃないの!?」
シティ「ルトーまで!?」
ユー「ふふーん。
私のこーとーいんぺーじゅつに皆騙されたよーね!
私凄い!パパ誉めて〜!」
アイ「ただ幽霊と誤解されてただけだろ…うわ!」
アイの胸ぐらをススが両手で掴み、ギロリと睨み付けている。
スス「リーダー?
『パパ』ってどういう事なのかしら?」
アイ「あ、いや…この子が勝手にそう言っているだけで別に…」
ユー「パパ…?(涙うるうる)」
アイ「あ、いやー、そうじゃくてだな!
この子はえーと、えーと!」
スス「えーと?」
アイ「あ!
この子は俺の子なんだ!ペリカンか何かが運んでくれて」
スス「…ぶっ潰す!!」
アイ「ギイイヤアアア!!!」
メル「あ、あわわわ!
二人とも落ち着いて!」
そして始まる、ドタバタ劇。
ススが追いかけ、アイが逃げる。
シティはその様子を見てゲラゲラ笑い、メルはそれをオロオロしながら見守る。
ルトーはモグモグとご飯を食べ。ダンクは一言叫ぶ。
ダンク「早く朝ごはんたべるぞ!!」
全員「いただきます!!」
多少変化はあっても本質は変わらない、それがゴブリンズの日常であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
同時刻・〜真夜中〜
その日、海の中で泳ぐ魚は皆驚きを隠せず、岩の中に隠れていた。
その理由は海の上を金色に光る龍が飛んでいたからだ。
その背には老人と若い女性が乗っている。
老人はスーツを、女性は赤いチャイナ服を着ている。
金色の龍は少し低い声で背に乗る二人に話しかけた。
朧「果心様ー。
K・K・パー。
あと少しでアタゴリアン港町に到着するよー」
その言葉を聞いた果心は頭につけたゴーグルを輝かせながら、不敵に笑う。
果心「ついに来たわ……アタゴリアン!!」
朧「果心様!
なぜ我の上に乗って飛ぶのだ!
我はヒコーキに乗ってみたかったのだぞ!」
果心「すまないな朧。
だがこれから行く場所、では時間がかかりすぎる。
朧に乗って行くのが一番の近道なのだ」
朧「…そうか。
我が一番早いのか」
朧は金色に輝く体をくねらせながら空を飛ぶ。
果心は少し微笑みを見せた後、後ろに乗っているパーに声をかける。
果心「パー、大丈夫か」
パー「ふふ、まだまだですよ…。
それより果心様!
ナンテ・メンドールの事で少々お話があります!」
果心「…なんだ?」
パー「ナンテ・メンドールは非常に扱いにくい性格の男!
ゆえにこの『ナンテ・メンドール取り扱い説明書』をお渡ししておきます!」
果心「と、取り扱い説明書…?」
パーは紙束を塵で作った袋に入れ、果心に渡す。
果心が袋から取り出した紙束は非常に厚かった。
果心「なんだこの説明書は…?」
パー「奴はその名の通り、非常にめんどくさい奴でして、自分で作ったルールに従わない奴は絶対話をしようとはしないのです」
果心「なんて面倒な…ハッ!」
・ナンテ・メンドールに言ってはいけない事その1
彼の前で『なんて面倒な奴』とは絶対言ってはいけません。
いいか、絶対だぞ?絶対いっちゃダメだぞ?何がなんでもだめだからね?
☆×50
果心「…この言葉、守れた人いないだろ」
パー「…お察しの通りです。
そして聞いた人は殴り飛ばされ処刑されました」
果心「……」
パー「……」
龍の背の上でしばらく沈黙する二人。
十秒経過し、二十秒経過し、三十秒経過した所で龍が二人の方をちらりと向いた時、果心が爆発した。
果心「バカなのかぁーーっ!!
そいつバカなのかぁーーーっ!!」
パー「お、落ち着いて下さい果心様!
アイツは『憤怒』の研究者、常に怒りを持たねば憤怒を研究できないという事らしく」
果心「だからって!!
こんな幼稚なルール作る必要、全く無いじゃないかぁーーーーぁあっ!(ドップラー効果)」
怒りのあまり朧の背にバシバシと紙束を叩きつける果心。
朧(痛い…)
果心「ええい、私は帰るぞ!
そんな奴の顔など見たくもない!」
パー「落ち着いて下さい果心様!
あと少しで到着ですから!」
果心「何ぃー!」
朧「む。
本当だ、陸地が見えてきた」
朧の声に果心が振り向くと、小さな港町が見えてきた。
果心「あれが、アタゴリアン港町…」
パー「左様でございます。
ナンテ・メンドールは考古学者としてこの町に住んでる筈ですよ」
果心「アタゴリアン…」
果心の脳裏に、ダンクと言う名の魔術師の姿が思い出される。
果心(私が知っている限り、アタゴリアンは昔は魔法の聖地とまで呼ばれた場所だった筈。
しかし科学が普及し、人々の関心は魔法より科学の方に移り、魔法は衰退し、消滅したという。
今は寂れた港町と化しているけど、
ナンテ・メンドールの奴…まさか、魔法に手を出していない…よね?)
GYAOOOO!!
不意に、怪物の叫び声が聞こえてくる。
それは港町から少し外れた丘の方からだ。
果心「な、何!?」
全員が目を向けると、そこにいたのはドラゴンであった。
朧の細長い姿とは違い、緑色のゴツゴツとした肌に細長いドラゴンの頭、コウモリのような翼、ワシのような足を持ち、矢尻のようなトゲを尾に付けたドラゴンが、悠々自適に丘の上を飛んでいる。
パー「ドラゴン!?」
果心「いや、あれは…ワイバーンよ!」
朧「ワイバーン!?」
果心「キメラの一種ね…コウモリの翼にワシの足、トカゲの尾に龍の頭…間違いないわ」
パー「な、何故ワイバーンがここに!?
今は科学の時代ですぞ!な、何故!?」
果心「…まさか、ナンテ・メンドール…!」
朧「おぉ、我が同族があそこに…今行くぞ、我が同族〜♪」
果心「朧!?何処へ行くのです!」
朧がゆらりと、ワイバーンの方へ飛んでいく。
するとワイバーンから少し離れた所で光線が見えた。
朧「え?」
ズドオオオオオオオン!!
朧のすぐ脇を光線が突き抜けていき、瞬く間に遥か後方へ飛んでいった。
朧「今のは、一体…?」
果心「ふむ…」
果心はパチン、と指を鳴らす。
すると朧の周囲に小さな石が幾つも出現し、周りを浮遊し始める。
朧「?」
果心「私特製の防御魔法よ。
姿は小さいけど色々便利なの」
GYAOOOO!!
ワイバーンは咆哮した後、ギロリと丘の方を睨み付ける。
そこには人型の何かが立っていた。
全身は真っ白い鎧みたいな金属で覆われ、顔が見えない。
しかし背中には小さな四角い箱が装備されている。
だが、一番彼らの目を引き付けたのは左手に持っている、三メートル以上はある巨大なバズーカだ。
持ち主を越えた大きさを持つ巨大なバズーカはワイバーンをしっかりと捕らえていた。
ワイバーンが再び咆哮し、口から何かが見える…火炎だ。
人型の何かも背中からエンジンを噴出し、飛翔する。
果心「ひ、飛翔した?
あれはなんなの?」
パー「…儂にも分かりませぬ」
果心もパーも唖然としながら相手の行動を見ていた。
ワイバーンは火を吐き人型を焼き尽くそうとするが、
人型はそれをギリギリでかわし、バズーカをワイバーンの顔に向ける。
そして、なんの躊躇もなくバズーカの銃爪を引いた。
GUWAAAAA!!!
バズーカから発射されたのはこれまたばかでかい光線だ。
あまりにでかいのでワイバーンが避ける事もできず光線に飲まれ咆哮を上げる。
しかし次の瞬間ワイバーンの姿は消えていた。
三人は確信する。
あの人型が、ワイバーンを殺したのだと。
果心「…なんなの、この戦いは…?
まるでSFにしかでてこなさそうなロボットが、ファンタジーにしかでてこなさそうなワイバーンを殺すなんて…!」
朧「わ、我の同族を殺すなんて…!」
パー「そ、それより早く逃げないと!奴がこっちに来る前に!」
「もう来ているぜ」
パーが冷や汗をだらだら流しながら、ゆっくりと振り返る。
そこには先程ワイバーンを滅したバズーカが自分を狙っていた。
そしてそのすぐしたには人型の何かが狙っている。
パー「ギャアアア!!」
人型「黙れ!
貴様ら、何しにここへ来た!
さっさと言わなきゃ殺す!」
パー「実に分かりやすい脅迫!」
果心「…。
私達は只の観光客よ。貴方が何者で何を目的としてあの翼竜を殺したか知らないし知る気もないわ」
ジャコン!!
果心の目の前に巨大なバズーカが突きつけられる。
人型「普通銃の向こう側に立っている人間は、反対側の人間の命令に従うものだぜ?」
果心「あら、そうなの?
なら貴方は私に従わなければいけないわね」
人型「あ?」
果心「私の弾丸は既に放たれている」
人型「!?」
突如人型の周囲に小さな石が幾つも現れる。
そしてそれは高速で人型の周りを飛び回り、何度も傷付けていく。
人型はバズーカを落としそうになり、離さないよう両手でしがみつく。
人型「ぐ!が!がは!」
果心「『永遠に旅する小石』。
防御と伏兵攻撃が可能な私のお気に入り魔術の1つ。
…もう1つおまけしておくわ。
『葦津姫の蒼富士』」
海がうねり、潮の流れが急激に変化し渦巻きを作る。
その渦巻きは水の壁となって人型を閉じ込めた。
人型「!?」
果心「はい、動きを止めたわ。
少しでも水の壁に触れなさい、水圧に飲まれて高速で海に叩きつけられるわよ?」
人型「な、なんだこいつ…!
海を操れるのか!?
貴様、何者だ!?」
果心「世界最強の魔術師よ」
パー(さらっと言っちゃいますか果心様…)
人型は思わず叫ぶ。
果心はフッと笑い、人型にこう語りかけた。
果心「さて、とりあえず自己紹介と行きましょうか。
私は果心。ナンテ・メンドールに会いに来たの」
人型「ナンテ・メンドール…だと?」
果心「ええ。
貴方は?」
人型「ナンテ・メンドール……ナンテ・メンドール…ヒヒャヒャヒャ…」
果心「?」
人型「ヒヒャヒャヒャヒャヒャ!!
まさか、貴様ナンテ・メンドールに会いたかったのか!?
実は俺もなんだよ!」
果心「…?」
人型は突如、ゲラゲラと楽しそうに笑う。しばらく笑った後、ヘルメットを外した。
人型「俺の名はライ。
ゴブリンズ、『雷鬼』のライだ。
ナンテ・メンドールには会いたかったんだよ、
奴は俺達の敵なんだからよぉ!
ヒヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」