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角が有る者達  作者: C・トベルト
第二章 悪魔から知恵を授かったソロモン
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第89話 こんにちはユーちゃん、俺がパパなの!?

「パパァーーーっ!

おはよーーーーーっ!!」


少女の高らかな一言で、氷鬼アイは凍りついた。


アイ「…はぁ?

パパ?」


アイはパチクリとしながら少女を見つめる。

遠くにいる少女はアジトにどんどん歩いていく。


アイ(……パパ……。

多くの言語において父親などの意。多数の言語(関係のないものであっても)で唇音と開母音を具えた単語が「父親」や「母親」の意味をもつ。

バイ、ウィキ先輩より引用…)


アイは眉をひそめ、キョロキョロと辺りを見渡す。


ゴブリンズアジトは、大量のゴミ山の中に偽造された建造物であり、周囲は金属ゴミしかない。

それもすべて先代ゴブリンズが作り上げた偽造のゴミ山であり、一般人は誰も近付けないようになっている。

しかし、この少女は偽造された筈のアジトの入り口に向けて真っ直ぐ走り出していた。

その時、アイはあることに気づく。


アイ「あ、そっちは黒山羊がいるぞ……パパ、まさかパパとは黒山羊なのか?」


今は黒山羊という戦闘アンドロイドがアジトの入り口を守ってくれているはずだ。

虎を片手で引きずり落とす程の腕力を持った強力なアンドロイドだ。

しかも話が通じる相手じゃない。

下手すればあの子は一瞬で肉塊になる。

アイは金属の手で頬を掻いた後、


アイ「……黒山羊に殴られる前に連れ戻すか」


と一言呟き、五階の部屋の窓から飛び降りた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


黒山羊「む……貴様、何者?」


アジトの入り口では黒山羊が座りながらぎろりと睨む。

見た目はサバトの雄山羊に酷似しており、機械で出来た右腕が無ければ完全に神話の生き物として見られただろう。

そんな怖い存在に、白いワンピースを着た少女はニコニコ楽しそうにしながら近付く。

目の色は緑色で丸い瞳。髪は長髪で触るとふわっとしていそうだ。

また顔つきは幼いものの、その笑みには悪戯心が垣間見えている。


少女「サーバートさん♪あっそびましょー♪」

黒山羊「メ?サバト?」

少女「うん!

貴方、サバトの牡山羊でしょ!

ユーは物知りなんだから!」

黒山羊「め、メェ?

……貴様、何者?」

少女「あははっカッコいいー!

角触らせて〜!」

黒山羊「め、メメ!?

角、触る、禁止!我、近付く、禁止!」

少女「その禁止は無効になりました〜♪角さわらせて〜!」

黒山羊「メェ〜!

角、角、駄メェ!」


アイ「……なにやってんだお前ら」


アイは冷めた目付きで二人を見る。

3メートルもある黒山羊が、その半分しかない背丈の少女に好き放題遊ばれている。

黒山羊はじたばたと暴れながらアイに助けを求める。


黒山羊「メッ!メッ!

我、触る、禁止!アイ!我、救助!」

少女「やーだー!つーのーさーわーらーせーろー!」

黒山羊「メエエエエ!!」


アイが来ても二人は変わらずじゃれ合っている。

アイは一度小さく溜め息をついた後、二人に近付く。


アイ「……まぁ、朝から肉塊見るような事にならなくて良かった。

ほれおじょーちゃん、早くその山羊から離れな。

意外と危険だから」

黒山羊「意外!?」


そして、左手でひょいとワンピースを掴み少女を持ち上げた。


少女「あん!パパ、離してよ!」

アイ(あ、俺がパパなんだ……)

「はいはい、俺はあんたのパパじゃないんだから、さっさと自分の家にお帰りー」

少女「ここがユーの家なんだよ!

家に入れてよパパ!」

アイ(どうしよう……パパと聞く度に背筋が震える)


パパ、と呼ばれる事に慣れてないアイはなるべく鉄面皮で対応する。


アイ「はいはい……ユーって誰?」

少女「ユーは私の名前だよ!

ユーだよ、ユ・ウ・!

パパが付けた名前でしょ!」

アイ「残念ながら俺はユーなんて子は知らん、とっとと帰りな」


そう言いながらアイはぽいっと放り投げようとする。

しかし、すすり泣く声が聞こえた。

チラッと見るとユーがボロボロと涙を流している。


ユー「ひぐっひぐっ、パパが…パパが私の事、忘れるなんて……」

アイ「はいはい、悪いけど俺は鬼なんだ。泣く子に容赦は」

ユー「うわああああああん!!

パパが忘れたあああ!!

うわああああああん!!!」

アイ「ちょ、ちょっと、泣くな!」


アイに服を掴まれた状態でユーはわんわんと泣き出す。

あまりにも大声で泣くのでアイの声が聞こえない。


アイ「こ、こらな『うわああああああん!!うわああああああん!!うわああああああん!』」


鼓膜が震える程の泣き声はアジトにまで浸透し、ある人物の耳に入る。

それに気付かないアイはユーを宥めようと降ろし、肩を軽く叩く。


アイ「落ち着け、落ち着くんだ、ユー!落ち『うわああああああん!うわああああああん!うわああああああん!うわああああああん!うわああああああん!』」


アイの鼓膜はビリビリ震え、自分の手を押さえたくなる。

しかしパニック状態のアイはそんな事する余裕も無い。

とにかく落ち着かせようと、ユーの肩を揺する。


アイ「『うわあああ「落ち着け」あああん!うわああああ「わかった、わかったから!」ああん!うわあああああ「黙ってくれげぶぉ!!」あん!』」

ユー「…………あれ、パパ?」


ユーはキョロキョロと辺りを見渡す。そこには電柱に沈められたアイの姿があった。


アイ「むぎゅー」

ユー「パ……パパ!」

?「触ってはいけない!」


ピタッとユーの体がとまり、声の聞こえた方……上の方を見る。

するとそこには青い長髪の女性が空飛ぶ電柱に腰掛けて微笑んでいた。


シティ「ハァ〜イ♪

リーダー、女の子泣かしちゃ駄目でしょ」

アイ「だからって電柱で潰すなよ…」

シティ「まあまあ、加減したから痛くないでしょ?」

アイ「まぁ……な!」


アイは思い切り電柱を殴り飛ばした。

電柱は呆気なく吹き飛び、地面に刺さる。

どうやら潰されるギリギリの所で電柱を浮かせていたようだ。


シティ「今度女の子泣かしたらビルが飛んでくると思いなよ……大丈夫?」

ユー「うん!お姉ちゃんありがとう!」

シティ「そう、良かった」

アイ(シティが誰かに優しくしてるだと……?明日は電柱の雨が降るな)


アイは心の中でツッコミを入れる。その頭の上にタライが落ちてきた。


グアン!


アイ「あだっ!

何すんだよ!」

シティ「今、絶対心の中で『シティが優しいなんてあり得ない』と思ったでしょ」

アイ「い、いやあソンナコトカンガエルワケ」

シティ「……ビル、一本追加♪」


シティはニッコリ笑い、アイの上空に巨大なビルが二つ出現した。

しかも壁にはでかでかと『オシオキ用』とピンク色の文字でかかれている。


アイ「ギョエエエエエ!!」

シティ「いっぺん潰れなさい!」

ユー「パパ、危ない!」


この時、シティはアイを叩き潰す気は無かった。

ただふざけた事を二度と考えないよう、脅かしたつもりだった。アイもそれは理解していた。


ユー「パパ……パパ!」


しかし、この小さな少女にそれを理解する事は出来なかった。

パパが危険な目に会っている事以外は理解出来なかった。

だから、少女のこの行動を誰も理解する事は出来なかった。


ユー「えい!」


バゴン!バゴン!


少女が叫んだ瞬間、十階建てのビルが二つ、あっさりと砕けた。

それも何の前触れもなく、アイの目の前で文字通り粉砕されたのだ。


アイ「……え?」

シティ「……へ?」


アイとシティ、二人が全く同じ意味の少し違う言葉を出す。

しかし、最も驚いたのはユーだ。


ユー「……え?ええ?

何、何で壊れたの?え?」

アイ「シティ……今、何をしたんだ?」

シティ「わ、私は何も……あれ?

何で私の可愛いビルが一瞬で壊れたの?」

ユー「……。

パパ!」


二人が混乱する中、ユーがアイに飛び込み、体をぎゅっと抑える。


アイ「うお!?」

ユー「パパ!

大丈夫?怪我はない?」

アイ「あ、ああ…大丈夫だ…」

ユー「良かった!

パパ、大好き!」


ユーはニコニコ笑いながら、アイをぎゅうう、と抱きしめている。

アイは右の義手で自分の頬をかきながら、シティに話しかける。


アイ「…とりあえず、朝ごはん食べてから考えよう…離れないみたいだし」

シティ「…そうね、アジトに戻りましょ」


こうして、アイとシティはユーと名乗る少女を連れたままアジトへ向かっていった。



しかし、その時誰も気付かなかった。

先ほどのビル粉砕により、黒山羊が破片に潰され動けなくなっている事を。

黒山羊は一人呟く。


黒山羊「メェェェ…我、救助…救助ぉ…」


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