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角が有る者達  作者: C・トベルト
第二章 悪魔から知恵を授かったソロモン
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第88話 ススの懺悔とほらあ話

早朝、ゴブリンズ内・トレーニングルーム。

ススは能力を使い、全速力で走っていた。

ススの能力は『一時間に一度、弾丸より早く走る能力』。

その力を使った状態で、トレーニングルームを何周もしている。

あまりの速さと踏み込む力に、頑丈に作られたトレーニングルームが振動している。

普段は運動器具もあるのだが、現在は片付けている。

ススが全速力で走ると風圧で運動器具が吹き飛んでしまうからだ。


スス「く……能力…解除…」


ススは能力を解除し、脚力をもどす。

それと同時に一気に疲労感が彼女を襲い、ススは思わず大の字で寝てしまった。

息を少しずつ整え、体をゆっくりと起こす。


スス「足りない……。

これじゃ、この程度で疲れてるんじゃ、足りないわ…」


ススは先日の学校での戦いを思い出す。

K・K・パーという老人には手が出せず、アイと一緒に戦ってようやく勝つ事ができた。

しかしその後の月龍…いや、朧と言う名の龍にはなすすべもなく、更に生徒達に銃を向けられた時も、ススは怖くて動く事が出来なかった。


スス(あの時、私がもっと強ければ…リーダーを守る事ができた。

いや、リーダーだけじゃない…)


ススの脳裏に焼き付いた記憶。

それは昔の仲間、第8888番隊、通称拍手部隊。

最強の能力者、シンプル・サイモンを中心にした兵士達。

ススはそれにメディックとして隊に加わっていたが、

敵軍の秘密実験を偶然目撃してしまった事で戦闘になり、

敵も味方も全員死んでしまった。


今の仲間にはシティやダンク等、強い仲間が沢山いる、しかし前回の戦いではスス一人ではどうにもできない事態が多すぎた。

今後もそんな事態が起きた時、一人で戦えるようススは強くなる事を決めたのだ。



スス(…でも、まだ弱い。

弱い私は、誰も守れないのだろうか…そんなの、嫌だよ…)


ススの三本のナイフには亡くなった兄弟の名前が彫られている。

その内の一つ、『Smee』と書かれたナイフをススは強く握りしめていた。


スス(スミー…!

私、弱いよ…どうすれば強くなれるの…?

教えてよ…私を助けて、お姉ちゃん…)


広いトレーニングルームの端で、ススは祈るようにナイフを強く握りしめていた。

この祈りを姉に聞いて欲しくて、誰にも見えないようにぎゅっと握りしめていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ススはトレーニングルームを出た後、中庭に来ていた。

まだ早朝なので日は弱く、涼しい風が中庭に流れ込んでくる。

それは体を動かしたススにとって最高に気持ちのいいものだった。


スス(…ふぅ。

少しここで涼んでおかないと)


ススはベンチに座り、目線を目の前の花畑に向けている。

花畑は様々な花が咲き誇り、色とりどりの美しさを見せている。


スス(…。

この花畑を作ったの、リーダーなんだよね。

花やりが趣味なんて、少し不思議だと思ったけど…こうして落ち着いて見ると、とても良いわね)


風が吹き、緑の波がうねる。

周囲には誰もおらず、穏やかな時間が流れる。

それはススの焦りや不安を落ち着かせ、次第にススはある思い出を思い出していく。


スス「そういえば…リーダーと初めて出会ったのもこの中庭だったっけ。

確か、ゴブリンズが解体される日に放送が聞こえてきて『自由を知りたい者、俺についてこい。中庭で待っている』みたいな放送を聞いちゃって、すぐ行動しちゃったわ。

私、あの時拍手部隊を失った悲しみで一杯だったから、何かにすがり付きたかったのかな?

あんな変人だったなんて、気付きもしなかったなぁ」


ススは意識を内側に向け、あの時の事を思い出そうとる。

しかしその瞬間、誰かの声が聞こえた。


『ごめんなさい』


スス「だれ?」


ススは目を開け、思わず振り返る。しかし、そこには誰もいない。

気のせいかな?と思い顔を前に向けると、目の前の花が全部枯れていた。


スス「え、なんで花が…?」


『ごめんなさい』


また、声が聞こえた。

今度は警戒し辺りを見渡す。

すると、ススは一本の木を見つけた。

枯れ果てた一本の木。

近くの看板には『血染め桜。

近づかないでね』と書かれている。


その血染め桜は不思議な事に木全体が青白く輝き、そして血のような匂いが次第にススの鼻に届く。


スス「え、な、なんなの…」


血のような匂いは中庭に充満し、中庭に咲く花は皆枯れ果てていく。

しかし血染め桜は更に青白く発光し、だんだん枝から青々とした葉が無数に生えてくる。

まるで映像を早送りするようにどんどん葉が育ち、増えていき、小さな赤い蕾が現れる。

その瞬間、ススの周囲から声が聞こえてきた。一人だけじゃない。

男性の声、女性の声。老人の声。子どもの声。

沢山の人の声が、中庭全体から聞こえてきたのだ。言っている言葉はみな同じ、


『ごめんなさい』『ごめんなさい』『ごめんなさい』『ごめんなさい』『ごめんなさい』『ごめんなさい』『ごめんなさい』『ごめんなさい』『ごめんなさい』『ごめんなさい』『ごめんなさい』『ごめんなさい』『ごめんなさい』『ごめんなさい』


スス「ぅ……あ……!?

に、逃げなきゃ!」


ススは本能的に危険を察し、急いで出口を探し、走り出す。

そして出口にたどり着いた瞬間、中性的な声がススの耳に入る。


『ごめんなさい。

いつもあなた達の側にいるからね』


その声を聞いた瞬間、ススの中の何かがとんだ。


スス「キィヤアアアアアアアアアアア!!!!

来ないでええええエエエエエエエエ!!!!」


その叫び声を聞いて、部屋から飛び出したのは体が包帯でできた男、ダンクだ。


ダンク「スス、どうした!?」

スス「ギャアアア!!

こっちにもお化けエエエ!?」


ススは本能的に拳を握りしめて、本能的にダンクの懐に近づき、本能的に力を込め、本能的に腹部に狙いを定めた。


ダンク「え、スス?

ちょ、ちょっとま」

スス「吹き飛べエエエエ!!!」


ドガァン!!


ダンクは思い切り腹部を殴られた。

しかしダンクの体は包帯で出来ているためダメージは無い。

代わりに包帯でできた上半身が吹き飛び、ダメージを受けてない下半身だけがススの前で立ち塞がる形となる。

その光景は余りに異様で、ススは更にパニックに陥った。


スス「ギイヤアアアアア!!

上半身吹っ飛んだアアアア!」

ダンク「いや俺包帯だから上半身吹っ飛ばされても別に」

スス「シャベッタアアア!!

ブッツブウウス!!!」

ダンク「す、スス!?

ま、待て…待ってくれエエエエ!!!」


この後、騒ぎを聞き付けたシティが二人の頭にタライを落とすまでこのやり取りが続いたそうな。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



アイ「ふわぁ〜…。

朝、か」


アイはいつも通り目を覚ます。

そして、窓を開けて大きな声で叫んだ。


アイ「今日も頑張るぞー!

おー!」


アイの部屋はアジトの五階部分にある。

そこから窓を開けると、遠くの景色が良く見えた。

普段どおりの陸地、普段どおりの海、普段どおりの空。

そして、誰かが歩いているのも見えた。


アイ「ん、誰だあれ…」


アイは目を細めてジーっと見つめる。近付いてくるのはどうやら女の子のようだ。

女の子もアイに気付いたようで、こちらに向けて手を振る。

そして、こう叫んだ。





「パパァーーーっ!!

おはよーーーーーっ!!」





こうして、物語は多くの想いと謎と混乱を抱えたまま動き出す。

角が有る者達と、夢を忘れた者達が紡いでいく物語が、今始まるのであった。


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