第85話 夢を見る事を忘れた者達
プロローグONE
『夢を見る事を忘れた者達』
2079年 10月中旬。
キヨミズ公園、紅葉の季節。
紅葉やイチョウが赤く黄色く染まり、公園を鮮やかに染め上げていく。
公園を利用する人々は皆一度は地面に落ちた葉と、赤く染まった木々を見て季節を感じていた。
しかし、その公園の端に植わっている枯れ木には誰も近づかない。
その枯れ木はかつて、『血染め桜』と呼ばれていた。
この公園のどの秋の木よりも赤く染め上がっていた。
しかし今は、細い枝しか存在しない。
鳥も近づかない枯れた木、それが血染め桜だ。
しかし、公園を理由をするものは誰も知らない。
かつてその桜には、誰もが恐れ敬う力が存在する事を。
喫茶店 パレット
漁師や買取り業者がざわめく喫茶店で、マントを来た青年が店の隅のテーブルで朝食をとっていた。
その青年の目には、一仕事終えた漁師達の声が聞こえてくる。
漁師1「おい、お前知ってるか?」
漁師2「何をだ?」
漁師1「この前海で拾った男、魔術を学ぶんだとよ」
漁師2「はぁ!?
あいつ魔術学校に通う気かよ!
金が沢山ある人間しか通えないだろ!?」
漁師1「それがよ、その男魔法を独学で学んでたらしいんだ。
その情報交換の取引として、学校の生徒になったんだとよ」
漁師2「ケッ、学校側の奴等、取引がへたくそ過ぎるだろ?
俺ならそんな怪しい奴海に投げ返すぜ」
漁師1「バカ、お前そんな事いうなよ…」
そう言って漁師は一瞬、マントを来た青年の方に視線を向ける。
青年は朝食を食べるのに夢中で、漁師の方に目を向けていなかった。
漁師1「ふぅ、あいつ、魔術学校の奴等だぜ?」
漁師2「あ、あぶねぇ…。
バレたら殺される所だったぜ、
あ、その男、名前は何て言うんだ?」
漁師1「確か…」
カタン、と音を立てて青年が立ち上がる。
そして漁師の側を通りすぎ、支払いをすまして店に出た。
漁師2はふぅ、と一息ついた。
漁師2「あぶねぇぜ、アイツ」
漁師1「だから嫌なんだよ、マント組は。
何をしているかさっぱりだ」
青年は喫茶店を出た後、坂道を歩いていく。
しばらく歩いていると青年の前にボロボロの服を着た子ども達が路地裏から現れた。
子ども「兄ちゃん!」
子ども「兄ちゃん、私達に魔法見せてよ!
ね、お願いだから見せてよ見せてよー!」
青年「…………」
青年は何も言わず立ち尽くし、子ども達は面白がってマントを引っ張っている。
しかし、その子ども達を誰かが引っ張った。
男性と女性、どうやらこの子ども達の親だ。しかし服は子どもと同じボロボロの服を着ている。
父親「馬鹿野郎、何をしているんだ!」
母親「申し訳ありません……申し訳ありません!」
子ども「とーちゃん、この兄ちゃん魔法使いだよ!魔法見せてくれるんだよ!」
父親「バカ!
早く頭を下げろ!」
母親「申し訳ありません!無知な子どもです!どうかお許しください!どうか……どうか!」
青年は何も言わずに一生懸命頭を下げた人達から踵をかえし、坂道を上ろうとしていく。
その後ろで、「ありがとうございます!ありがとうございます!」と必死に頭を下げる声が聞こえていた。
青年はぎりぎりと握り締めた右手をマントの中に隠しながら坂道を上る。
そして、一言呟いた。
「……いつか、必ず…… 」
誰に対して言った言葉だか分からないその言葉は、空に飛んで消えていった。
メル「はっ!」
メルは目を覚ます。
そして、いそいで時計を確認する。
ホログラムで出来た時計は今の時間を写し出した。
2069/7/23/5・25/天気、晴れ
メル「2069年……2069年、だよね?
あれは、あの景色は、一体誰の景色なんだろう?」
メルは夢を見ることが出来ない少年だ。
大罪計画の一端で改造された彼は、他者の記憶を夢としてみる事が出来るテレパス能力を持っていた。
ダンクのお陰でテレパスを制限する事に成功したものの、完全に消す事は出来なかったのだ。
その為、メルがみる夢は誰かが体験した出来事なのだ。
メル「……また、夢じゃない夢を見たんだ……。
僕はいつになったら、本当の夢を見れるんだろう?」
メルは小さく呟きながら、ベッドから起き上がる。
そして部屋を見渡した。
そこは個室、というにはとても広かった。
アイが用意した個室を白山羊が見た所、
「これじゃ狭すぎます!息苦しいじゃないですか!」
とアイに怒鳴り散らし、代わりにこの広い個室?(元は会議室)を使用する事になったのだ。
メル(僕としてはこっちで寝る方が息苦しいんだけどな……)
そして、そこまで考えた所である事に気付く。当たり前のようで、凄い事実に。
メル(……そっか。
もう、僕は普通の少年じゃないんだ。
世界を走り回る犯罪集団、義賊ゴブリンズ…。
その一員に、僕はなったんだ)