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角が有る者達  作者: C・トベルト
幕間の物語 シティと果心のハロウィーン
83/303

第84話 幕間の物語 シティと果心の『大切な』ハロウィーン

シティと果心の『怖ーい』ハロウィーン


『私を月まで連れてって』


注意!


トベルト「さあ注意だ!

この物語は皆常識に囚われない、気をつけろ!

そしてこの物語をここまで読んでくれてありがとう!」


注意、終了。




ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


今、観客は凄い熱気に包まれていた。

黒山羊が登場した事で、観客達はもの凄い盛り上がっているからだ。


観客「黒山羊選手、凄いなー!!」

観客「あんな素材、見た事ないよ!ああ、俺は特撮オタクになろうかな♪」

観客「きゃ~~!

 あんな怖いの見た事な~~い!!!」

観客「早くコンテスト終わらないかな~♪」

観客「もう優勝は黒山羊で決まりだろ?」

観客「今更他の奴が出て来ても、全然驚けないぜ、はっはっはっはっはっ!!」


舞台裏まで届く、黒山羊への熱い声援。

これを聞いて、舞台裏で待機している選手が震え上がらない訳がない。 


選手「どうしよ、私可愛い服で着ちゃった…」

選手「俺も愛すべきキャラの服で来たけど、これじゃ盛り上げられないよ…」

選手「黒山羊のインパクトは凄かったからな。

この後で『俺の服は最高!』なんて言えないよ…」

選手「俺…棄権しようかな…」

選手「俺も…」


どんどん自信を失う選手達。

その中でシティは…動けなくなっていた。


シティ(どうしよう…皆、諦め始めてる。

い、今なら…私が辞めるって言っても、誰も私を責めないよね…?)


完全に心は萎縮し、普段のシティでは決して聞けない弱音を吐いていた。それ程までに彼女は緊張していたのだ。

 逃げたい。逃げたい。こんな怖い所から逃げたくて仕方ない。


シティ(果心が用意した服…凄い自信があるみたいだけど…肝心の私が自信なければ,何の意味もないじゃない。

 こんなの、もう、嫌だよぉ…。)


シティは俯いて、何も見られなくなっていく。

そして、遂にシティは言ってしまう。


シティ「わ、私…棄権す」「皆、何を諦めているんだ?」シティ「る…」


しかしシティのセリフは誰かのセリフによって止められる。シティは思わず顔を上げた。

そこには他の人と同じフードを被り、マスクで顔を隠した選手が立っていた。


「俺達はここに来るまで、沢山の苦労と準備をしてきたじゃないか。

それなのに、あんな山羊一匹の為に諦めるのか?勿体無さすぎだろ?」

選手「だ、だけどあんな凄いインパクト、俺達の服にはないぞ…」

選手「僕等の服じゃ、皆を驚かせられない」

選手「もうコスプレは怪物に負けてしまうんだ…」


一人の選手の声を、数人の選手が口を塞ごうとする。シティはじっと、その人を見つめた。


「そうか?

あのケシゴというパンダを思い出してみろ、あいつは見た目はアホだが自己PRで盛り上げたじゃないか。

お前らにはないのか、自分がどうしてその服を作ったのかという理由と、今着ている服に対する誇りが…ないのか?」

選手「それは…」


数人の選手達は萎縮して声が出せなくなる。

その後ろでシティは、マスクの裏で目を大きく見開いていた。


シティ(この声…。まさか、ダンク?

いや、少し声が違う…。

彼は誰?)


シティは見上げる。

自分より少し背の高いこの選手。その背丈はダンクとほぼ同等だという事を。

その選手はまた喋り始めた。


「そうか…ないのか、ならば俺を見るがいい。

そして、思い出してみろ、

自分がそれを作るためにどれだけ苦心し、笑い、楽しんできたのかを」

司会『それでは次の選手、ドウゾ~~!!』


ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


一人の選手が舞台に向かって歩いていく。

誰もそれを引き留められない。


選手「あ、あいつ誰なんだ…?」

選手「確か次の選手は、…『デイズ・クラッカー』だったよな…」

選手「僕だよ、デイズ・クラッカーは」

選手「え?てことは…?」


シティ「あれは…誰なの…?」


ポツリと呟くシティの言葉に、

答えられる者は誰も居なかった。




舞台では、フードを被った人が司会者に近付いていた。


司会『サア、コンテストを再開デス!

それでは、次の選手…。

『デイズ・クラッカー』選手!』

「司会よ…すまない、俺は『デイズ・クラッカー』ではない」

司会『エ?』

「俺はデイズ・クラッカーじゃないんだ」


バサア、とフードとマスクが宙を舞う。

現れたのは、金髪の青年だ。

何処の学校の制服だろうか、服の端に金色の線が伸びている。

短い金髪はサラサラと綺麗な髪で まるでモデルのようでした。目は青く、とても澄んだ瞳だ。

左手には厚い本を抱えており、題名は『Dance』と書かれていた。

果心がハッと気付く。


果心「あ、あれは…まさか…」

「観客の皆、すまない。俺は『デイズ・クラッカー』ではない。

…俺の名は、ダンス・ベルガードだ。」

司会『エエト、ダンス・ベルガード…選手デスか?』

ダンス「そうだ、俺も一応登録はしてある。

本当はもっと後なんだが、クラッカー選手に頼んで今出させて貰ったのだ。」

クラッカー「…嘘つきめ」


観客「なんだなんだ?」

観客「何考えているんだあいつは?」

観客「きっと優勝出来ないと悟って、馬鹿なパフォーマンスに出たんたろうよ」

観客「はは、馬鹿な奴。」


ペンシ(そうか…?

いや、そうは見えん。)

白山羊(随分不思議な雰囲気の人ですね。

何を考えてあの場に出たのでしょう?)

ガーナ(あの人、どこかで見た事が…)

果心「…へえ」


観客はバカな奴だと嘲笑い、四人の女性は眉をひそめる。


司会『ソウデスカ、順番を変わってモライマシタか…。

ま、いいデショウ。

それではダンス・ベルガードさん、自己PRをお願いシマス。』

ダンス「ありがとう。

それでは俺の名から、俺はダンス・ベルガードだ。魔法を学んでいた。アタゴリアン王国にあるサン・ジェルマン魔法学校の7年生だ。

専攻として『魔術理論』を取っていた」


観客「おいおい、あいつキャラ紹介をし始めたぞ?」

観客「アタゴリアン王国?

アニメにそんな名前の国あったかな?」

観客「なんか変な奴が出たな」


あまり真剣に話しを聞かない観客達。

ダンスは話を続ける。


ダンス「アタゴリアン王国は魔術を扱う国だが、世界で本物の魔術を扱う国は少なかった。

このままではアタゴリアン王国は魔術を捨てなければいけない。

俺は国を救うため、世界を歩き回って魔術を広めようとした。

…だが、それは徒労に終わった」


選手「おいおい、舞台裏ではあんなに熱演しといて、何語ってんの?」

選手「楽しいコンテストを白けさせたいのか、あいつは?」

選手「ウゼエな。

 さっさと消えろよ」


グチグチ悪口を言う選手達。

しかし、シティとケシゴは同時に気付く。


シティ(アタゴリアン王国に…魔術!

まさか!)

ケシゴ(魔法を使える、だと?

まさか、あいつは!)


ダンス「魔術を世界に広める事はできず、王国は魔術を廃止し、魔法学校も魔術師も消えてしまった。

それでも魔術を世界に広めようと苦心し、その結果自らの体さえも魔術の為に犠牲にした」


全く唐突に始まった暗い話し。

誰もそれについて行けず、冷たい目線を相手にぶつける。


観客「あ~、早く終われ終われ、

暗い話しなんて聞きたくない」

観客「あいつ、馬鹿じゃないのか、

なんで司会止めないんだよ」



観客も選手もグチグチと悪口を言う。

しかし黒山羊は顔を険しくした。


黒山羊「メ?

異常エネルギー、探知!

奴…何者!?」


ダンスの突然の独白を、司会者は止めようとしなかった。代わりに一言尋ねる。


司会『…ナゼ、今その話を?』

ダンス「それは簡単な理由だ。

今この姿は、当時の姿のコスプレだからだ。

そしてこれが…」


ダンスは左手に持った本を上に放り投げる。

本は空中で開き、様々な言語で書かれた紙がダンスの頭上に降り注いだ。

紙はダンスの姿を覆い隠し、地上に落ちた紙は舞台に溶けるように消えていく。


司会『!?』


そして紙が全て消えた時、その場に立っていたのはダンス・ベルガードではない。

上半身を包帯で覆い隠し、下半身には緑のズボンを履いた、ミイラのような人が立っていた。


「これが昔、魔術を広めようとして失敗した、哀れな男のなれの果てだ。

名はダンク。しがない奇術師だよ。」


観客「な…?」

選手「へ……?」

司会『変身、した…?』


観客、選手、司会。

三者は全員同じ顔をした。四人の女性も、パンダも黒山羊も全員凍り付く。


ただ一人、シティだけは思わず叫んだ。


シティ「だ、ダンク!!??」


司会『ダンク選手!?

ダンス選手では………!?

まさか、あなたがダンス・ベルガード選手だったのですか…?』

ダンク「そうだよ。

俺はこの通りミイラのコスプレをしているが、それだけじゃつまらないと思って『普通の人間』のコスプレをしていたんだ。

ちなみに、ダンス・ベルガードはその時の名前だ」

(本当は、ただ昔の自分を魔法で作り出しただけなんだけどな)


ミイラ姿のダンクはニヤリと笑う。

対して観客達は打って変わってザワザワとざわついている。


観客「な…さっきの金髪が、コスプレ!?二段コスプレなんてありか!?」

選手「嘘だろ…見分けが全然つかなかった!

 まさか人の姿が偽物だなんて!どんな技術を使ったんだ!?」

観客「ミイラの姿もかなりカッコいいぞ!」

選手「だ、だまされた…!」


そしてそれは、選手も同様だった。

全員ざわめき、どよめき、動揺している。


選手「に、二段コスプレ…!」

選手「あの話しは、二段コスプレを活用するために使ったのか!!」

選手「わ、分かんなかった。

あの人間の姿がコスプレだなんて、全然気づかなかった…!」

選手「やられた…!

こんな演出の仕方が、あるなんて…!」


そしてざわめきはやがて、賞賛または悔しさに変化する。


観客「す、凄い…」

観客「ダンク選手…凄いぞ」

観客「凄い…」

観客「ダンク、凄いぞー!」

観客「ダンクー!」

観客「ダンクー!」


ダンクー!ダンクー!凄いぞー!ダンクー!ダンクー!


賞賛は徐々に歓声に昇華され、

そして。


ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


会場を大きな歓声が包み込んだ。

それはダンクのコスプレを、素晴らしい物だと皆が認めた瞬間だった。


司会『素晴らしい!素晴らしいコスプレをありがとうダンク選手!あなたの奇術の腕はとても素晴らしいデス!

起きろフーディーニ、仲間が来たぞ!!』




選手「く、くそ!!

このままあいつに言い負かされてたまるか!」

選手「次は俺だな!!

あんな奴等に負けてたまるか!」 

選手「頑張れよー!応援してるぞー!!」


選手も明るさと強さを取り戻し、先程の暗い雰囲気は全く無くなっていた。


シティ(み、皆さっきと様子が違う…。

私も何だか、頑張れそうな気がしてきた…)


シティは自分の右手を見つめ、それをギュッと握る。


シティ(そうよ!

ダンクみたいな根暗ミイラが目立って私が目立たないなんて、有り得ない!!

見てなさいよ、ダンク!

私の輝き、見せてやる!)


シティは舞台を去りゆくダンクを睨みつけた。


ダンク(……………)


ダンクは誰にも気づかれないよう、周囲を見渡す。観客席では ガーナがダンクを見つめ、舞台裏で選手が盛り上がっている。


ダンク(これで、大丈夫だな。

ガーナちゃんに正体はバレないし、あいつらは舞台を楽しむ事が出来る。

………………………………………頑張れよ、人間)


ダンクは大きな歓声に右腕を振って応えながら、静かに舞台を去っていった。







小休止の間。お茶でもどうぞ(^^)/旦~








そのころ観客席では、小さな事件が起きていた。

ペンシが大量の腕に抑えられているのだ。


ペンシ(な、なんだこれはー!!

は、離せ!

私は奴らを捕まえるんだー!)

果心「口を封じてごめんなさい。

でも、あなた達にこの舞台を邪魔されたくないの。少し静かにしていてね。」


果心がニコッと笑う。

その隣では両足、両腕、腹、口を地面から生えた細長く肌白い腕で抑えられたペンシがジタバタと暴れている。


ペンシ(は、離せ…!)

果心「ダメよ。

アナタはダンクを捕まえようとしている。

悪いけど、コンテストを邪魔する人は許さないわ。」

ペンシ(何故だ!?

何故貴様がこんな事をする!!

貴様もゴブリンズの仲間か!?)


ペンシは顔を抑えられたまま、果心を凄い形相で睨みつける。

普通の人なら震え上がりそうな顔をみても、果心は全く笑みを崩さずに答える。


果心「いいえ違うわ。

私は月が大好きなのよ。」

ペンシ(つ、月だと…!?)


果心はふぅ、と一息ついて天井を見上げる。

暗い天井と、小さな照明が目に映る。


果心「そう、私は月が大好きなのよ。

真っ暗で冷たい夜の世界を照らす、儚くて優しい光を放つあの月が。」


果心はフッと笑い、天井にある小さな照明に向けてググ~ッと手を伸ばす。


果心「あんなに小さくて可愛らしいのに、触る事は決して出来ない。

太陽の光を使い、太陽が隠れなければ美しく輝けない偽物の光が、私は大好き…。

捕まえたくなるほどにね。」


果心はギュッと掌を握り、そしてすぐに開く。

当然中には何もない。


果心「でも捕まえるのは許されない。

あの月は、それを求める者の頭上でこそ最も輝いて見えるのよ…」

ペンシ(何がいいたい!)


ペンシは睨みつけ、果心は笑う。

二人は対極の表情でお互いを見つめていた。


果心「別に…。

ただあの舞台も、舞台に立つものも全て、私が大好きな月だと言うこと。

あの舞台に立つものはみな、それぞれの悩み苦しみを抱えながら、それでも輝こうと頑張っているわ。

それをあなたは踏み潰そうとしているのよ。

それがどれだけ罪深い事か…一度暗闇に閉じ込めて身を持って教えてあげましょうか?」


ズル、ズルズルズル…。


腕が地中に沈んでいく。

ペンシが座っていた椅子も地中に沈み、ペンシの片足が地中に沈んでいく。


ペンシ(!!)

果心「暗い暗い世界に心を喰らわれ、

一片の希望も失いなさい…」


ペンシが脱出しようと必死にもがくが、腕は離れない。それを果心は楽しそうな、それでいて邪悪な表情で見ている。


「そこまでだ」


カチャリ


その果心の後頭部に、銃が突きつけられた。

銃を突きつけたのはケシゴだ。

パンダ服を脱ぎ捨て、変わりに普段から着こなしている茶色のトレンチコートを羽織っている。

顔にはサングラスをかけているが、左手でサングラスの縁を掴み何時でもとれる状態にしている。


ケシゴ「俺の部下を離して貰おうか」

果心「…邪魔しないでよ、若造ボーイ

楽しんでいる途中なんだから」

ペンシ(ケシゴ…!)


ペンシがケシゴを見つめる。果心は顔をケシゴに向けないまま、話しかける。


果心「こいつが悪いのよ。

こいつが舞台の邪魔をするから、私が躾てやってるの。それに何か問題が?」

ケシゴ「…。

俺の部下の非は詫びる。その責任は俺がとる。

だが、俺の部下を傷つける事は決して許さない」

果心「へえ、どう許さないのかしら?」


ズルリ、と更にペンシの体が沈む。

銃口をゴリッと頭に押さえつける。

ケシゴは額から汗を流して、

果心は笑みを崩さない。

だが、その笑みに先程の邪悪さは無かった。


果心「……。

まあ、いいわ。今回は許してあげる。

あなたの必死さに免じてね。

でも、一つだけ忠告するわ」


果心はクルリと振り返り、ケシゴのサングラスを奪う。

ケシゴの眼は『恐怖の魔眼』と呼ばれる特殊な眼で、その眼を見たもの全てを震え上がらせる。恐怖で支配させる。ケシゴにとって、最強の武器と呼べる存在だった。


だが、果心林檎は全く笑みを崩さず微笑み続け、更にケシゴの眼をじっと見つめている。


ケシゴ「……!」

果心「淑女レディーと話す時は、サングラスを外しなさい。

…目線の見えない男はモテないわよ」


果心はフワリと空を飛び、ケシゴの後ろを飛ぶ。

ケシゴが目線を追うと、果心は壁に向かって飛び、壁の中に消えた。


バララララ、とペンシを掴んでいた腕がはずれ、全て地中に戻る。

それと同時に椅子もペンシの脚も地上に戻された。

ペンシは急いでケシゴに駆け寄ろうとする。


ペンシ「戻った…ケシゴ!」

ケシゴ「見るな!!」

ペンシ「!」


しかしケシゴの罵声に、ペンシは思わず体を竦ませる。

ケシゴは予備のサングラスを取り出してかけ直した。

そして急いで壁を見る…が、果心の姿は何処にもいなかった。


ケシゴ「…」

ペンシ「け、ケシゴ…大丈夫か?」

ケシゴ「ああ、叫んですまない。ペンシは?」

ペンシ「私は大丈夫…だが、あの女、何者だ?」

ケシゴ「分からん。

…だが、とても恐ろしい奴だ」


ケシゴは何もない壁を睨みつけ続けた。

次は無いぞと脅すように…。




ーーー舞台裏。

司会からの声を待つシティの背後から、果心がお化けのように現れてくる。


果心「ばあ!」

シティ「わ、果心!?

なんで壁から出て来たの!?」


全く突然に、果心が壁から現れた。

シティはびっくりして思わず殴りかかりそうになるが、果心だと分かると行動を止め、マスクを外して驚いた表情を見せる。

果心はクスクス笑う。


果心「シティが心配で来ちゃった♪

そろそろ出番だけど、大丈夫かしら?」

シティ「え?う~~ん、さっきは随分緊張したけど、今はドンと来い、って感じかな?」


シティもまた、クスクスと楽しそうに笑う。


果心「それは良かった。

私が精魂込めて作った服だもの、優勝は間違いないわ」


果心は豊満な胸に手を載せて、えへんと胸を張る。

シティはフッと笑った。


シティ「…ありがとね、果心」

果心「?」

シティ「私は、これでも自分がどんな人間かぐらいは理解しているからさ…。

あんまり一緒に行動してくれる人、いないんだよね。なのにこんな私に一緒に遊んでくれて、こんな綺麗な服まで…本当にありがとう」


シティはフードを被ったまま、ペコリと頭を下げた。


そのあまりに衝撃的な行動に、果心林檎は思わず後ろに転ぶ…というより倒れる。

どんがらがっしゃん、と派手な音がした。


果心「……………あ、頭をあげなさいよ、シティ…。

わ、わた、私はそんな、その、そういうの、なれてないから……。」


果心はあたふたと慌てふためいている。

シティはニコッと笑う。


シティ「ビックリした?

でも、どうしても一言言いたくてね」

果心「し、シティ…。

わ、私は、その、えと…」


対して果心林檎、パクパクと口を開けたり閉じたりしている。


司会『楽しいコンテストも、次の選手で最後!

シティ選手の入場デ~~~ス!!!』


ワアアアァァァァァァァ!!!


照明のライトで輝く舞台の方から司会者の声が聞こえる。


シティ「あ………

それじゃあ、いってくる!

輝く私を見ていてね!」


シティはその舞台に向かい、しっかりした足取りで舞台に向かって歩いていった。

ほかの選手はもう、いない。

舞台裏に残ったのは、へなへなと情けなく倒れた果心林檎ただ一人…。


果心「………シティ、私こそあなたに礼を言わなければならないわ」


果心は暗い舞台裏から、光輝く舞台を見つめていた。


果心「何故なら私は恐ろしい魔女で、自分の都合の為に世界をねじ曲げようとする罪深い存在だからよ」


果心はたった一人で立ち上がる。


果心「そんな私を、あなたは友達だと言ってくれた。それは心の底から嬉しい。

シティ、あなたはまるで蝶のような人。

自由で勝手気ままで、行動力があって…。

そんなあなたが私を友達と言うなら、

その言葉を信じて、あなたと一緒に喜び合いたい。あなたを抱き締め、あなたの喜びを受け止めたい。」


果心は舞台に向かって、その中にいるシティに向かってゆっくり右手を伸ばす。


果心「でも、それは出来ない。

あなたが信じられないからじゃない。

…私があまりに罪深いから、

その罪を全て終わらせるその時まで、

私は他人を『友達』と言う事は許されない。」


手をギュッと握り、開く。

当然、中には何もない。


果心「あなたは、月よ。

私が出来ない事をしてのける、美しい月。

あなたが月である以上、私が触る事は許されない」


果心はその右手を胸に当てる。

そして、舞台に背を向け、先程自分が通り抜けた壁に向かって歩き始める。


果心「…だから、私はここから去らないと…。

さようなら、シティ…」





「果心!!!」


果心は、立ち止まる。

果心は、振り返る。

果心は、見てしまう。


そこには、シティが立っていた。

虹色の光沢が施された、身体のラインが分かる薄く、綺麗なドレスを着て、背中に80センチはある鮮やかで美しい蝶の羽が装飾されている。

羽の模様も、まるでステンドグラスのように輝き、しかし自己主張はせずシティの後ろで輝いている。

そしてシティの青い髪の上には蝶の頭についている触覚が付いたカチューシャを着けている。

見れば誰でも振り返る、その姿。

あまりにも美しいその姿に、作った筈の果心が止まってしまう。


シティ「果心!!!

あなたがいないと、私は一人で舞台に立てないの!お願い、来てちょうだい!」

果心「あ、いやその、私参加してないし、魔女だし、

罪深いし…」

シティ「何言ってるの!?この服を作ってくれたのはあなた…私にコンテストに参加するよう励ましてくれたのもあなた…。

だから、私は果心と一緒に出たいの!

ほら、一緒に行きましょう!」

果心「あ、や、わ!」


シティは果心の手を掴み、舞台へ向かって駆け抜けていく。

 その時、果心は小さく呟いた。




果心「シティ…………………………………………………………………………ありがとう」

シティ「ん?」 

果心「何でもないわ。

 さあ、私を月まで連れてって!!」

シティ「ええ!!」


二人は微笑みながら、輝く舞台へと向かって走り出していった。



ワアアアアアアァァァァ!!!


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