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角が有る者達  作者: C・トベルト
太陽の命と月の命。
74/303

第75話 日食パート 夢でも見れない大サーカス



アイ「ハァァァ!?ゴブリンズと警察が手を組んだあああ!?」

シティ「ハァァァ!?

ドラゴンや邪神と戦ったああ!?」


情報を共有したアイとシティが驚きのあまり同時に叫ぶ。

それを遠目に見ながら、ダンクは現古の怪我を魔法で治していた。


ダンク「これで良し、俺が見えますか?」

現古「おお、見える…ありがとうよ、ダンク殿。

すっかり語尾も無くなったわい」

ダンク「そ、そうですか…(語尾ってなんだ?)」


その近くではハサギがノリにもう何度目にもなる質問を訪ねていた。


ハサギ「ノリ…本っ当に警察辞めてないんだな!?裏切って無いんだな!?」

ノリ「ハサギさん、大丈夫ッス。ボクがハサギさん置いて何処かへ行かないッス」

ハサギ「うう…本当だな?

本当なんだな?」

ノリ「当然ッス」

ハサギ「の、ノリイイイ!」

ケシゴ(ノリ、男だよな?

なんか長年連れ添った夫婦に見えるのは気のせいか?)

ペンシ(もしかしてノリの奴……………………オカマ?)


その向こうでは、メルがルトーの宇宙服を脱がしていた。


メル「……これで大丈夫かな?」

ルトー「あーやっと宇宙服脱げた……良かったー!」


150キロもある宇宙服は非常に脱ぎづらいのだが、メルの腕力強化能力のお蔭で簡単に脱ぐ事ができた。


メル「ああ、やっと宇宙服から抜けだすことができた。

もうこんな服着ないぞ、絶対に」

女生徒1「ルトーきゅん!ルトーきゅんは何処!」

女生徒2「ルトーきゅん怖かったよおお!だから抱きしめさせてよおお!」

メル「宇宙服装着っ!」


メルは一瞬で宇宙服を装着し、女生徒達からの目を誤魔化した。


メル「……ルトー君」

ルトー「はっはっはっ、何かねメル君、この怪人ルトラーに何か用かね?」

メル「怪人ルトラー!?」


そして、そこから少し離れた所ではススとサイモンが話し合っている。


サイモン「そうか…彼等は死んだのか…」

スス「隊長…ごめんなさい、私…」

サイモン「大丈夫だ…こうなっていた事だって予想してなかった訳じゃない…」


サイモンは寂しそうにススに答える。そして笑顔を作り、ススに話しかけた。


サイモン「そうだ、良いものがある」

スス「?」


サイモンがポケットから取り出したのは黒いUSBだ。

それはススが見た事もない、珍しいUSBだった。


スス「それは?」

サイモン「…能力者軍部隊隊長にはこの特殊な記録媒体が支給される。

この記録媒体には今までの部隊活動全ての記録が残されている。

…これを君に渡そうと思う。」


サイモンはUSBをススに渡そうとする。しかしススは首を横に振った。


スス「ま、待って下さい。

それは隊長にとって大切な物ですよね?わ、私は」

サイモン「いいや。君が持っていてくれ。

…この中にはセキタやスミーのメッセージも込められている」

スス「…!!」


ススの顔色が変わる。それを好機とみたのか、サイモンは無理矢理USBをススの掌に持たせた。

ススは抵抗する事なく、じっとUSBを見つめる。


スス「…この中に、セキタのメッセージが…?」

サイモン「私はもう聞いてしまった。

…次は君が聞く番だ。スス救護兵。返事は?」

スス「…サー」


ススはUSBを握りしめ、ポケットに入れる。

その次の瞬間、背後から声が聞こえてきた。縷々家学園の生徒、カイルだ。


カイル「…ねえ、ススさん」

スス「ん?」

カイル「貴方、結局ゴブリンズ何ですか?」

スス「あ…」


ススはハッと気付く。

まだゴブリンズ=悪人の状況は変わってないのだ。

もしここで『はい、ゴブリンズです』と言えばまたドンパチの原因になるかもしれない、しかし下手に嘘を付いてもバレたら大変だ。


スス(ど、どうしよう…そうだ、下手に嘘を付くから駄目なんだ!

付くなら徹底的に付かないと…よし!)「カイル君!」

カイル「?」

スス「じ、実は……」

カイル「実は?」

スス「実は私達、サーカスの一座何です!」

カイル「ええ!?本当なんですか?」


カイルが目を丸くして驚く。

ここで止まればまだカイルが疑うだけで終わったのだが、ススは徹底的に嘘を付くと決めてしまった。


スス「も、勿論よ!

私達はサイモン先生に頼まれて、君達にサーカスを見せに来たの!」

カイル「えええ!」

サイモン「そ、そうなんですか!?」

スス「そう・なん・です!」


サイモンはあまりに唐突な嘘に巻き込まれ、思わずあんぐりと口をあける。

しかし、ススの嘘はまだ止まらない。


スス「わ、わ、私達『ネクストラウンドサーカス』はサイモン先生に頼まれて、今までテントを貼ってたの!

でもパー校長に不許可でやっちゃったから大激怒しちゃったのよ!だから私達の事を…えーっと…犯罪者呼ばわりして追い出そうとしたの!」

カイル「そ、そうか、だからパー校長あんなに怒ってたんですね!?

実弾入りの銃渡したのも、そんな理由があったからなんだ!」


カイルもカイルでどこか抜けているのか、納得しちゃ行けない所で納得している。

疑っていればそこで止まれたものを変に信じてしまったが故に、ススの嘘はもう止められない。


スス「そ、そうそう!

そうなの!で、でもサイモン先生が説得(物理)でパー校長から許可を貰ったの!」

カイル「そうなんですか!

それじゃサーカス見れるんですね!」

スス「ゑ?」


※ゑ=『え』、と読む。


カイル「俺サーカス見るの初めてなんです!うわあ楽しみだなあ」

スス「えーと、その、」


ススはチラッと目線で隊長に訴える。助けてくれと。

しかしサイモンはそんな気遣いには気付かず、あるいは気付かないフリなのかニコッと笑い、


サイモン「私も楽しみにしてますよ。

カイル君、ススのサーカスは本当に素晴らしいです。

かつて私の部下にも何人も彼女のファンがいましたしね」

カイル「へぇ、凄いや凄いや!」


カイルはすっかりススの嘘を信じきってしまい、ニコニコと笑顔を振り撒いている。

対してススの笑顔はすっかり固まり、冷や汗がだらだらと流れている。


スス(ど、ど、どうしよう…と、とりあえずアイに報告しよう…)

「じゃ、じゃあ私メンバーを呼んでこれからサーカスの準備してくるね…」

カイル「頑張って下さい!

俺達も生徒集めてきますから!」


カイル少年は何も知らずに手を振った。


スス「ど、どうしよう…」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


アイ「いいよー、だいじょぶだいじょぶ」

スス「え、大丈夫なの!?」


ススがアイに正直に話した所、意外にもアイは2つ返事でサーカスをやることを了承してくれた。

断るだろうと考えていただけにススは思わず聞き返す。


スス「だ、大丈夫なの、リーダー…?」

アイ「ああ、大丈夫だ!

サーカスだろ?宴みたいに盛り上がって皆で楽しもうじゃないか!はっはっはっ!」

スス「あ、ありがとうリーダー!」

アイ「あっはっはっはっはっ」(そうさ、宴だ。悔しさなんて忘れよう!ススが俺達守るために嘘付いたんだ!そう考えればゴブリンズ乗っ取られたとか俺立場ないとかなんでサーカス?とかそんな細かい事気にする必要なんて)


そこまで考えた所でアイから笑顔が消え、体育座りしてブツブツと呟くようになった。


アイ「ドウセオレナンテドウセオレナンテドウセオレナンテドウセオレナンテ」

スス「み、みんなー!集合、急いで集合してー!!」


ススが急いで全員を呼び出し、シティの蹴りを喰らうまでの間、アイはブツブツと呟いていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


やろうと決めれば頑張るのがゴブリンズである。

どんどん緊張感がなくなっていくように見えるがその実、彼等にゴブリンズだと気付かれればこの1日はトラウマになってしまうのだ

その結果、また銃を持って撃ち殺す、なんて事になりかねない。

だが、『あくまでサーカスの余興だった』という事にすればそのトラウマは全て消える。

このサーカスは非常に重要な存在なのだ。

そしてゴブリンズの中心でアイが叫ぶ。


アイ「それじゃあ役割を決める!

っと、この中で芸人、サーカスの経験があるものは?」

スス「はい」

ダンク「はい」

ケシゴ「はい」

アイ「スス、ダンク、ケシゴっと…ケシゴ!?

何でお前いるんだよ!」

ケシゴ「何でって、サーカスやるんだろ?

ならば、俺のような猛獣使いも必要じゃないか」


ケシゴはさも当然のようにアイに話しかける。

唖然とするアイに、ハサギが小声で囁く。


ハサギ「アイ、悪いがこのサーカス、俺達も入れさせてくれ」

アイ「はあ、何でお前らまで?」

ハサギ「警察が犯罪者と共に行動したとバレるのは嫌なんだ…」

アイ「今回お前ら警察らしい事してねえじゃねえか!」

ハサギ「ま、まあとにかく!

そんな訳で頼む!」

アイ「あーはいはい。

じゃあサーカス経験がありそうなススが番組を指揮してくれ。

俺はサーカスの事は良く分からない」

スス「任せて。私も頑張るわ!

じゃあ先ずはダンク!」

ダンク「ん?何だ?」

スス「貴方は裏方!

魔術でサーカスを盛り上げて!

後、何かサプライズに使えそうな魔術があるかしら?」

ダンク「…そうだな、故郷の魔術で一つ、いいのがある。

その魔術をトリにさせていいか?」

スス「トリ?最後にやるの?」

ダンク「ああ、かなり魔力と呪文と時間を必要とするからな。

何、その分楽しい事が起きるから気にするな」

スス「そう…じゃあ、宜しく頼むわ」

シティ「私はどうしようかしら」

スス「シティは、そうね…私と一緒に…ごにょごにょごにょ」

シティ「ふむふむ…宴会芸をすればいいのね!任せて!」

スス「うん、頑張って!」


ススとシティは楽しそうに笑う。

それから、ハサギ達の方に向き直った。


スス「ハサギさんとノリさんは人員整理をお願いします。

サーカスが盛り上がった時、客がリングに乗る事だってありえるわ」

ハサギ「あ、ああ…」

ノリ「分かったッス…」

スス「ペンシさんは武術の天才ですよね。

その能力で演武を見せる事は出来ますか?」

ペンシ「大丈夫だ!

私の演武、とくと見せてやる!」

スス「よかった…」

アイ「……」


ススは楽しそうに笑い、アイとハサギは顔をしかめた。


アイ「……ススの奴、何だか楽しそうだな」

ハサギ「お前の下に居る時より、楽しそうだな」

アイ「……そうかもな」

ハサギ「あ?」


ハサギはじろりとアイを見る。

アイは真っ直ぐススを見ていた。


アイ「お前ら警察と違って、俺達ハブられ者だからな。

ゴブリンズに入る前の事なんて、俺は今まで興味無かったし」


ススはゴブリンズや警察に平等に仕事を伝えている。

そしてその表情は、楽しそうに笑っている。


アイ「だからと言って……」

ハサギ「自首するか?」

アイ「…ふん」

スス「ハサギさん!話を聞いてますか!」

ハサギ「ああ、聞いてるぞ」

スス「やれやれ……いいですか。

先ずは」


ススはゴブリンズと警察、2つの組織と一緒にサーカスを見せようとしていた。

メルはそれを学校の生徒達と共に眺めていた。

不意に誰かの声が聞こえる。

振り替えると白山羊が立っていた。その後ろでは


白山羊「主……」

メル「白山羊…白山羊!?

なぜここにいるの!?」

白山羊「主、聞きたい事があります」


白山羊はメルの問いを無視して尋ねる。

メルはその問いを無視する事が出来ない。


メル「その……それは…」

白山羊「ダンクから話を聞きました。ゴブリンズに入ったそうですね。

貴方がしている事は我等の一族への反逆です。それを理解しているのですか」

メル「!」


その言葉はメルにとって最も重い言葉だ。

カスキュアが吐いた傷付けるだけの言葉より、その問いの意味を知る事の方がずっと重かった。

それの意味から逃げるように白山羊は尋ねる。


メル「…白山羊さんは、知っていたの?」

白山羊「…はい。

私はドリーム・メロディ・ゴートによって造られましたから。

そして万が一の為、傲慢計画を代わりに執行する者としてプログラミングされていましたから」

メル「……」


メルは白山羊から一瞬、目を逸らしそうになる。

しかし、逃げてはいけないと思い前を向いた。


メル「……そうだ。

僕は、一族に背いた。

人を不幸にするのが許せなかったからだ。

もう僕は果心達の敵で一族の敵だ」


白山羊はじっとメルの言葉を聞いていた。

そして、手をゆっくりと動かし、メルの頭の上に乗せた。


メル「!」

白山羊「そうですか。

もしメルが果心の仲間に戻りたいと言えば、私はどうすればいいか分かりませんでした。

何故なら、私も裏切り者だからです」

メル「え?」


メルは顔を上げようとするが、頭を抑えられて白山羊の顔は見えない。


白山羊「私もゴブリンズに入ったのです。

貴方達が結界の外で戦っている間、シティというゴブリンズの一人に『人を道具扱いしてはいけない』と諭されて」

メル「ええ!?」


メルの頭から手が離れる。

そしてメルは白山羊の顔を見た。

機械でできている筈の白山羊の顔は、少しだけ微笑んでいた。


白山羊「だから私も、貴方の気持ちが少しだけ分かります。

……大変でしたね。主。

ですが、貴方は一人じゃありません。

この白山羊、そして黒山羊。

如何なる時も貴方の……仲間でいたいと思います」

メル「白山羊……」


黒山羊「メエェェ!!

サーカス、開始!」


黒山羊が叫び、白山羊とメルが同時に振り向く。


白山羊「さあ見ましょう。

私達の仲間が、どんな存在なのかを」



7月7日、8時00分。

物語の最後の幕を下ろす為のサーカスが始まる。



アイ「レディースエーンドジェントルメーン!

本当はゴブリ……じゃなかった、ネクストラウンドサーカスへようこそ!

楽しい楽しいショーの始まりでーす!」


ネクストラウンドサーカス

〜ゴブリンズ風芝居劇〜


パチパチパチ、と生徒達が拍手をする。

生徒達が見つめるそこは校庭に丸い円の線で書かれただけの舞台だ。

しかし舞台全体をスポットライトが照らしていて、遠くで見ている人にもやっている事が良く見えた。


パチ パチ パチ パチ パチ パチ


拍手と共にスポットライトがアイを照らし、アイが恭しく一礼を始める。

しかし生徒達はスポットライトがどこにあるのか分からない。

実は魔法で作られたスポットライトなのだが、誰もそれを気にする人はいないのだ。


アイ「 レディースエーンドジェントルメーン!

本当はゴブリ……じゃなかった、ネクストラウンドサーカスへようこそ!

楽しい楽しいショーの始まりでーす!」


パチパチパチ、と生徒達が拍手する。アイは心の中で冷や汗を流した。


アイ(き、緊張するなあ…)「先ずは我がサーカスの花を紹介しましょう!

サーカス1のナイフ使いにして、ジャグラー!

シャンソンも得意な我がサーカス自慢の〜〜〜スス嬢〜〜!!」


ススがアイの声に導かれ、舞台に上がりポーズを取る。

いつの間にか褐色肌の顔には道化師の象徴でもあるホワイトフェイスの化粧が施されていた。


アイ「さあ、スス嬢!

今日は何をするのかな?

お、何か出したぞ……ナイフだ!」


右手には柄に英語の文字が彫られた三本のナイフ。

ススは手始めにその三本のナイフをジャグリングして見せた。

一本のナイフを上空に投げ、もう一本のナイフを投げたと同時に最初に投げたナイフを掴む。


カイル「わあ…」


くるくると回転する刃渡り20センチのナイフを左手から上空に、そして右手で柄を掴んでキャッチする。

そしてそのナイフは右手から左手へ渡されていった。


生徒達の一人が怖い、と息を呑む。ススはニコッと笑い、ナイフを投げた次の瞬間体を回転させる。


カイル「!」


回転したせいで手元はブレ、ナイフをキャッチする瞬間を見逃しそうになる。

しかしススは落下するナイフを簡単に掴み、また放り投げた。


アイ「凄いぞ、スス嬢!

回転しながらジャグリングとはやるじゃないか!

さあ今度はどんな凄い技を見せてくれるのか!?(怪我しないでくれよ、スス…)」


アイは観客達を沸かせる言葉を言いながら、内心でススを気遣う。

しかしアイはそれを絶対ススに見せようとしなかった。

ススもまたナイフのジャグリングに集中し、その集中を途切れさせる事はない。

更にススはナイフを取りだし、四本、五本、六本、七本とジャグリングするナイフの数を増やしていく。

生徒達が緊張しながらススのジャグリングを見ているのを視界の隅に置きながら、ススの心の中には緊張と喜びで満たされていた。


やがてススのジャグリングに、ナイフ以外の物…銀色の球体が出てくる。


ナイフ六本に対し球体一個。

ナイフ五本に対し球体二個。

ナイフ四本に対し球体三個。


そして、全てのナイフが銀色の球体にすり替わった時、七個の球体をススが掌に納まる。

それを見たアイが声を上げる。


アイ「さあ皆さん、見てください!

ホワイトフェイスのスス嬢が球体を夜空に向けて投げますとォ!」


ススが思い切り銀色の球体七つを一斉に放り投げると、突如七つの電柱が現れた。

そして七つの電柱が空中で回転し、七つの球体を空に向けて打ち上げていく。


クルミ「ああ、何あれ!?

電柱!?」

アイ「おおっとぉ!

何と空中から突如現れた電柱がボールをホームラン!

新しい北斗七星が誕生してしまったぞぉ!」


アイの言葉を聞きながら、半分以上の生徒達は空を見上げて、残りの生徒達は「あれー?ボールが落ちてこないぞー?」と言わんばかりに首を傾げるジェスチャーをするススを見ていた。


アイ「ススの大事なボールを撃ったのは誰だぁ〜?

俺は答えを知ってるぞ、出てこいシティー!」

シティ「わ〜〜い!」


シティが楽しそうに笑い、電柱の上に乗りながら舞台の上を飛び回る。

周りが闇に包まれている為に、シティの姿が出たり消えたりするのだ。


シティ「きゃーははー!!

なにこれ、たーのしー!!」

アイ(俺もあれぐらい暢気に楽しめたらな〜)「やいやいシティ、ダメじゃないか!ススのジャグリングのボールがお星様になってしまったぞ!」

シティ「ええー、私悪くないよー!

ボールが来たらホームラン!常識でしょー?」

アイ「そうは行かない、謝らないなら謝らせてやる!

出てこーい、おーしおきーにーん、ペンシー!」

ペンシ「でやー!」


叫び声と共にいつの間にか柔道服に着替えたペンシが舞台に現れる。


ペンシ「シティ!

ボールを返して貰おう!」

シティ「きゃーははー!

やーだよー!」


空に飛んで逃げるシティを追いかけるペンシ。

舞台の端でくるくる回る彼女達。

しかしその中心ではススが「うわーん悲しいよー」とジェスチャーしている。

それがあまりにコミカルで、楽しそうで、生徒達から次第に笑い声が聞こえてくる。

その声は舞台の上に立つ者の自信となり、アイは心の中でガッツポーズをしていた。


アイ(よし、行けるぞ!)



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ダンク(く…不味い!

魔力が足りない!)


ダンクは最後の魔術を成功させるため、様々な魔術を行使していた。

しかし先程強力な魔術、『復元(リライア)』を発動した為に今回の魔術を使う為に魔力が足りないのだ。


ダンク(何とかしないと…でもどうすれば!)


その時、ダンクの体を何かが包み込む。

それは魔力。強力な魔力がダンクの体に染み込んでいくのだ。


ダンク(なんだ…魔力が充填されて…?)

『力を貸して上げる』


不意に、背後から女性の声が聞こえてくる。


ダンクは後ろを見ずに訪ねた。

今やっている魔術を行使するために集中したいからだ。

背後の声は答えた。


『今回の黒幕、果心林檎よ』

ダンク(何だと!?)

果心(振り向かないで。今の魔術が完成出来なくなるわ)

ダンク(…チッ!)


ダンクは魔術を操りながら舌打ちをする。

そしてイライラを隠すように果心に訊ねた。


ダンク(何故だ…何故俺達に手を貸そうとする?敵なんだろう?)

果心『…あなたに手を貸すわけじゃないわ。

私は、有る物が見たいだけよ』

ダンク(有る物?)

果心『貴方達の希望。

私は私の希望を否定されたけど、貴方の希望を知らない。

だから、それを知りたくて貴方に魔術を貸しているのよ』

ダンク(…そうか。

まあ、礼は言っとく)


ダンクは魔術を練り上げていく。

舞台では何故か宇宙服姿のルトーと、猛獣使いのケシゴが戦っていた。


果心『…ダンク、貴方に一つだけ教えなければいけない事がある』

ダンク(何だ?)

果心『我々が次に目指すのは、アタゴリアン港町よ』

ダンク(何!?

アタゴリアンだと!?)


ダンクは思わず魔術の行使を止めて果心の方に振り返りそうになる。

しかし自分の立場を思いだし、すんでの所で振り返るのを止め魔術を行使していく。


果心『フフフ、貴方にとっても、因縁のある場所じゃない?』

ダンク(…アタゴリアンを知ってるとは、何を考えてやがる!)

果心『フフフ…。

行ったじゃない、希望を見たいだけよ。他意は無いわ』


ダンクと果心は魔術を練り上げていきながら、火花を散らしていた。

やがて舞台では最終局面に入る。

アイが皆にこう呼び掛けているのだ。そしてこれがダンクへの合図でもある。


アイ「よし皆、ボールをお星様から返して貰えるよう大声で叫ぼう!行くぞ!」

アイ&生徒達「お星様〜〜!!

ボールを返して〜〜!!」


ダンク「よし、今だ!

アタゴリアン王国、最高魔術!

『オーボン・パレード』!!」



ダンクが叫ぶのと同時に夜空から何かが聞こえてくる。

生徒達は全員耳をすまして聞いた。


カイル「なんだろう?この音?」

クルミ「笛のような音が聞こえるわ」

イワン「歌が聞こえるぞ…これは…?」


ダンクの魔術がどんなものなのか、誰も聞いてない。

しかしその歌が何なのか知っているのはススだった。

彼女は思わず呟いてしまう。


スス「これは…この歌は…『ケイシー・ジュニア』!?」



♪ケイシー・ジュニアが来るぞ♪

♪サーカスが、来るぞ♪

♪丘を越えて、やって来るぞ♪

♪聞こえるかい、聞こえるぞ♪


ミユ「楽しい音楽…」

ユラ「久しぶりに聞いたわ、この軽快な音楽…」

ギード「やって来るぞ…サーカスが!」


♪シュシュポポウキウキ 走る♪

♪お待たせしました 皆さん♪

♪楽しい時がはっじまる♪

♪さぁゆこうよ サーカスだ♪


そして夜空の中から現れたのは、大きな赤い汽車。

汽車はゆっくりと降下していき、やがて舞台の上空で空中停止する。

スポットライトは舞台から運転席の方に傾いた。

そして運転席から一人の男性運転士がボールを持って舞台に降りてくる。

胸のプレートには『Casey Jons』と書かれていた。


ケイシー「やあ、ボールを落としたのは君かい?」


ススがペコペコと頭を下げながらボールを返してもらう。

そして、ケイシー・ジョーンズはニコニコ笑いながらこう言った。


ケイシー「良かった。

それじゃあ皆でておいで、サーカスの始まりだ!」


その一言を皮切りに、乗客席からたくさんのピエロやダンサーや猛獣使いや火吹き男や石喰いにパフォーマー、ナイフ使いに歌手や芸術家や画家や果ては漫画家までが一斉に出てきた。


観客は唖然とし、ゴブリンズも唖然とする。

その舞台裏では、ダンクがニヤリと笑っていた。


ダンク「アタゴリアン王国最高魔術の一つ、『オーボン・パレード』。

亡くなった世界中のエンターテイナーを汽車に乗せて国中を周りたくさんの芸を見て夜を過ごす。

最高の魔術の一つだ」


へなへなと崩れ落ちながら、ダンクは笑う。後ろを振り返ると果心の姿はどこにも居なかった。

ダンクは寂しそうに笑う。


ダンク「……。

行かなきゃいけないのかな?

我が故郷、アタゴリアン王国に」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


それから始まるのは沢山のエンターテイメントだった。


ススが精一杯考えたサーカスを遥かに凌駕する手品や芸の数々に、皆驚いたり喜んでいた。

ススもしばらくその中で彼等と一緒に笑っていたが、やがてある人物を見つける。

それは、ススの親族…ネクスト・ラウンドサーカスのメンバー達だった。

彼等を見つけたススはボロボロと涙を流しながら、彼等に駆け寄り、抱きしめていく。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



幕が降りていき、その前に燕尾服を着た一人の男性が歩いてくる。


男性は恭しく一礼をすると、静かに語り始めた。


「久しぶりの方、またははじめましての方、こんばんは。語り部です。

これにて角が有る者達、第二部は終わりとなります。

サーカスは楽しいですね。

幕が降りた今でも、彼等が騒いでいる声が聞こえてきます。

皆様はサーカスやショーに見に行った事はありますか?

劇や舞台を見たことはありますか?

世界は今、戦争やいじめなど悲しい事ばかりが起きています。

嘆く事もあります。絶望する事もあります。立ち止まり、前が見えなくなることもあります。

楽しかった事なんて一つもない…そんな事を言う人だっているでしょう。

その時、もし宜しければ、様々な物語を思い出して下さい。

どんな物語にも力があります。メッセージがあり、それはきっとだれかの希望に変化していきます」


そこまでいって、燕尾服を着た男は懐中時計を取り出した。

そしてわざとらしく驚き、


「すいません。

私とした事が色々話し込んでしまいました。

ここからは第二章についてお話しましょう。

貴方は血染め桜を知っていますか?次回は血染め桜を中心に物語が進みます。

そして、ゴブリンズには新メンバーが加わり、物語は更に…ドダバタしていくでしょう。

それでは皆様、その時をお楽しみにして待っていて下さい」


第一章 完




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