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角が有る者達  作者: C・トベルト
太陽の命と月の命。
72/303

第73話 日食パート 最後の戦いは守るべき者達と。

パァン、と乾いた破裂音が結界内に響き渡る。


スス「リーダー!」

メル「アイさん!」


アイは冷や汗を垂らしながらも二人の声に応える。


アイ「俺は大丈夫だ!

だが、今のはどういう事だ!」


アイは校舎の近くに集まっている生徒達を睨み付ける。

生徒は皆怯えた表情をしていた。


生徒1「怖い」生徒2「怖いよ」生徒3「銃でも怯えないなんて」生徒4「やっぱり戦い慣れしてるんだ」生徒5「アイ先生、怖い」生徒6「危険だよ」

「君はなんて恐ろしい人物なんだ、アイよ」


生徒達の間から、男性の声が聞こえる。アイは叫んだ。


アイ「誰だ!」

「儂かね?君は儂を忘れたのか?

この縷々家学園校長の、K・K・パーを!」


アイの前に現れたのはK・K・パーだ。右手にはの小銃が握られている。


アイ「…パ、パー?

なぜそこに?」

パー「君こそ何をやっているのかね、アイ研修生よ。

生徒に楽しい事を教える教師になるのではないかね?」

アイ「それは…って、おい、なんだ、その銃は?

さっき撃ったのはお前か!?」

パー「ん?ああ、そうだ。

いい銃だ…反動が軽いが、その分扱いやすい。

女の子の力でも撃てる程にな」


パーは楽しそうに右手に持つ銃を見せびらかし、左手のマイクを口に近付ける。

そして学園の壁に取り付けてあったスピーカーからパーの大きな声が聞こえてきた。


パー『我が縷々家学園生徒諸君、見るが良い!

あれが君達を騙して学園に侵入し、我々を危険な目に合わせた最低最悪の犯罪者集団、ゴブリンズだ!』

生徒1「ゴブリンズ…」生徒2「ゴブリンズ」生徒3「アイ先生が犯罪者」生徒4「そんな、信じられない」


生徒達がざわざわと騒ぎ始める。

そして、とても冷たい目線が三人に向けられていた。


スス「な、何なのこれは、何で皆私達をそんな目で見ているの?」

アイ「パーの奴、今回の騒動を全部俺達のせいにする気だ。

ふざけやがって」


アイはパーに向かって歩き出そうとするが、また乾いた破裂音が聞こえ、アイの足元に穴が開く。


パー『動くな悪人。

腐ったミカンの分際で我が学園をぐしゃぐしゃにしおって。

貴様らのせいで、見ろ、現古文々斎が酷い怪我をしてしまったじゃないか』


パーがアイの向こう側を見る。

そこには両腕が変な方向に曲がり、左目からおびただしい量の血を流して倒れている現古文々斎の姿があった。


アイ「現古先生、元に戻ったのか!」

パー『犯罪者の癖に先生呼ばわりするんじゃない!』


パーは再度拳銃を構える。

だが、アイはパーを睨み付けた。


アイ「…いい加減にしろよ、パー。

全部お前達がやった事だろうが。

平和な学校を化け物の巣窟にしたのも、生徒を魚人に変えたのもお前達だろうが!」

パー「魚人?

何の事だ?誰か覚えているかね?」


パーは生徒達の方に振り返るが、ざわざわざわめくだけで誰一人として手を上げようとはしなかった。

アイは果心が魚人化した時の記憶を消していた事を思い出し、小さく舌打ちする。


アイ「ち…果心め、生徒の記憶を消したのはこの状況に持っていく為かよ。

あいつらが魚人化した記憶が無きゃ、なんでも言ったもん勝ちじゃないか」

メル「り、リーダーさん…どうしよう」


メルはオロオロとしながらアイに話しかける。

アイはパーを睨み付けたまま答えた。


アイ「こういう状況は、集団で罵倒し始めたら確実におしまいだろうな…何を言った所で聞く耳持たないだろう。

全く、復讐で殺そうとするな酷い話だ」

スス「グサッ」


アイの何気ない一言はススの心に突き刺さる。


アイ「復讐で人殺した所で何の意味もないぐらい考えろよ、て話だ。

聖人じゃないから恨まれるのは構わないけどさ、悪人だからって石投げたりナイフで刺して良いわけないだろ」

スス「グサグサッ」


ススの心にアイの容赦ない言葉が突き刺さる。


メル「…ススさん」

スス「そ、そうよね〜!

復讐で人殺しとか、嫌なだけよねー!」


ススは冷や汗だらだら流しながらアイに近付く。


スス「り、リーダー…早く逃げよう!

このままここに居たっていい事なんかひとつも…えっ!」

アイ「いや、そうしたいんだけどな」


ススに力無く笑いかけるアイ。

その腹部には小さな穴が開き、血がだらだらと流れていた。


スス「リーダー!」

アイ「結界がまだ完全に解けてない上にススは力を使ったし俺は左腕を龍に喰われたせいで、

逃げる事も戦う事も出来ないんだ…グゥゥゥ!」


今まで我慢していた痛みが一気に襲ってきたのか、アイは右手で傷口を抑えながら踞る。


スス「リーダー!」

パー『皆、良く見ろ!

あれがお前達を殺そうとした悪人、アイだ!

奴は先生としてこの学校に侵入し、我々全員を拉致、そして我々を生け贄に邪神を呼び出し不老不死になろうとした!

なんて悪人なんだろうなぁ!』

生徒1「アイ先生…」生徒2「酷い、酷いよ」生徒3「僕達を騙してたの」生徒4「最悪だよ…最低最悪だ」生徒5「この悪人め!」

生徒6「最低、このグズ集団め!」


生徒達のざわめきが徐々に罵倒に変化していく。

ススはアイをかばうように前に立ち声をあらげて叫ぶ。


スス「止めて!

リーダーは今怪我をしているのよ!誰か助けて…」

パー『それだけじゃない!

アイは何と君達と同世代の少年も洗脳し、犯罪者の仲間に加えていたんだ!

名前はルトー!そしてメルヘン・メロディ・ゴート!

我々も洗脳し仲間に加えさせようとしていたんだ!』


生徒1「ルトー君が!?」生徒2「あんな可愛いルトーきゅんまでゴブリンズの仲間だったなんて!」生徒3「最悪だ、きっと私達を誘拐するつもりなのよ!」生徒4「メルも犯罪者だったなんて、信じられない」生徒5「メル、本当にそうなのか!!」生徒6「メル、どうなんだよ!」

生徒達「メルー!メルー!!メルー!!!」


生徒の罵倒が、少しずつメルに向けられていく。

メルはアイの方に顔を向けるが、アイは痛みで動けない。

自分の元仲間達から浴びせられる恐怖と憎悪の目に、思わず怯えてしまう。


メル「み、皆、ち、違っ」

『ちがくないでしょう?

貴方は望んで、ゴブリンズの仲間に加わった…だから、貴方は彼等から嫌われてしまった』


メルの頭の中に、誰かの声が聞こえる。

それは先程、龍に襲われた時とは違う声であり、メルが知っている人の声だった。

メルは虚空にむけて話しかける。


メル「そ、その声は…まさか、カスキュア!?」

カスキュア(ピンポンピンポンだいせいかーい!

久しぶりねぇメル!)

メル「何処、何処にいるの!?」


メルが辺りを見回すが、何処にもカスキュアの姿が見えない。

しかしカスキュアの声はメルの頭の中に直接響いてきた。


カスキュア(アタシは何処にいるかって?教えてあげる…今、パー校長に変化して貴方達の目の前に居まーす!)


メルは生徒達の集団に顔を向ける。

生徒達がこちらに向けて罵倒するその奥で、パー校長がニヤリと笑い、マイクを下ろしたまま話し始める。

しかし、罵倒のせいで聞こえない筈のパーの声がメルに聞こえてきた。


パー&カスキュア(ハァイ!

『嫉妬』の魔法美少女カスキュアちゃんは今、おじいさんに変身していまーす!

凄いでしょ、この変身能力!

案外皆コロッと騙されるわー!)

メル「カスキュア!」


メルはパーの方に叫び、近付こうとする…が、ススがメルの肩を掴む。


スス「やめなさい、今無闇にとっかかっても彼等の疑問は晴れないわよ!」

メル「あ…ち、違う!

そうじゃなくて」カスキュア(おっと待ったぁ!)


メルの心の中に直接カスキュアの声が聞こえてくる。

メルはパーを睨み、そしてススにこの事を話そうと口を開く。


メル「ススさん、実は」

カスキュア(あ、アタシの事話したら生徒達殺すからね?)

メル「!」


パーは…カスキュアはニヤリと笑う。


カスキュア(最高だわ!やっぱり変装して隠れてた甲斐があったわ〜♪

守っていた生徒に殺されるなんて、良い絶望だと思わない?)


パーは生徒達の後ろからメルに見せるように拳銃を掲げる。

その事に気付いてない生徒達は顔を赤くしてメル達を罵倒し、真実に気付いたメルは顔を青くした。


メル(う、あ…)

カスキュア(いいわぁ、いい感じに絶望してきてるわ!

貴方は殺せる?何も自分の事を知らない、ただ日常を生きていただけの学生達を?

出来ないよねぇ、だってつい昨日まで貴方の友達だった人間だものねぇ!)


メルの心の中に、次々と罵倒する生徒達との思い出が蘇ってくる。

そして思い出す度に、メルは自分が悪人の仲間になったと痛感する。


生徒1改めカイル(メル、一緒に飯喰おうぜ!)

生徒2改めクルミ(メルー、この問題分からないの、教えて!)

生徒3改めイワンコフ(メルヘン・メロディ・ゴート、長い名前だなー、よし、今日からお前はメルだ!)

生徒4改めユラ(メル、今日こそはドッジボールで勝つからね!)

生徒5改めミユ(メールー、ごめんなさい、私好きな人がいるの!)

生徒6改めキード(いいかメル、この問題は簡単なんだからな!ちゃんと勉強しろよ!)


しかし現実では、全く違う事を叫んでいる。


カイル「メル、何でお前が悪人の仲間になってんだよ!」

クルミ「嘘だよね、洗脳されたんだよね!何とか言ってよ!」

イワンコフ「お前、まさか…俺達を騙してたのか!なんて奴だ!最低だな!」

ユラ「現古先生を傷つけたなんて…裏切り者、怪物、殺人鬼!」

ミユ「サイテー!メル、あんた死ね!死んじゃえ!」

キード「この悪人め!お前なんて地獄に行けばいいんだ!」


メル(あ…み…皆…!ち、違うんだ…違うんだよ…)


メルは必死に否定しようと首を振る。

しかし聞こえてくるのは友達の罵倒とカスキュアの声だ。


カスキュア(楽しい楽しい生徒の時間は無慈悲にも砕かれた。

何故?

ゴブリンズが学園に来たからだ!

あいつらがいなければ学校が酷い事になる事も無かった。

そして、君はその仲間になった。

確かダンクが言ってたよねー。

我々の仲間になるという事は、誰も助けてはくれないって!

こういう事なんだよ、良く分かったか、メルヘン・メロディ・ゴート!

アハッ、アハハッ、アハハハハハハハ!)


カスキュアの笑い声が、絶望したメルの心の中に響き渡る。

ひとしきり笑った後、パーはマイクを口に近づけた。


パー『さぁ、皆!

我々の手で悪人を倒してしまおう!

皆、拳銃を出しなさい!』


パーの言葉に反応し、全生徒170名が拳銃を取り出した。

それをみたススとメルの顔がサッと青ざめていく。


スス「嘘でしょ…なんで拳銃持ってるのよ!」

パー『拳銃の使い方は知ってるか?こうやって撃つんだ』


そう言いながらパーはススに向けて銃を構え、そして躊躇なく撃つ。

パァンと乾いた破裂音が響き渡り、ススの足元に穴が開く。


スス「…!」

パー『分かったか?

彼等を殺し…我々の学校を守ろうじゃないか!

皆、銃を構えろ!』


生徒達は最初、誰も構えなかった。

しかし一人が恐る恐る銃を構えると、もう一人が銃を構える。それをみたもう一人が銃を構え…少しずつ、170人の生徒が銃を構えていく。


メル「ヒッ!!」

パー『しっかり構えるんだ!

なぁにこれだけいるんだ…適当に撃っても誰かが当ててくれるぞ!』


パーは楽しそうに笑いながら、しっかりメルの頭に照準を構える。

170名の仲間達が、自分を憎み銃を向けてくる。

メルはその恐怖と絶望の大きさのあまり、体が動けなくなってしまっていた。


メル(あ…あ…ああ…)

「ごめんなさい、メル」


誰かの声が聞こえてきた。

振り返ると、ススが頭を下げている。


メル「え、ススさん、何を…?」

スス「…今になって、少しだけ分かったわ…。

私に殺されそうになった貴方の気持ちが」


ススは優しくメルに微笑む。


スス「こんな辛い気持ちだったのね…ごめんなさい、メル」

メル「す、ススさん…」


二人の下で腹部を抑えたアイが叫ぶ。


アイ「お前達、早く逃げろ!

早く逃げるんだ!」

スス「…いやよ。

私はもう誰かを置いて逃げないわ」

アイ「バカ、早く逃げろ…」

スス「絶対イヤ!

もう、拍手部隊と同じ体験はしたくない!」


ススは叫び、170人の生徒を睨み付ける。そして両手を広げた。


スス「殺したければ、私を殺しなさい!」

パー『お望みとあればすぐにでも殺してやる!

さあ生徒達、殺しなさい!』


パーの声に合わせ、生徒達の拳銃が一斉にススに向けられる。

そしてメルが思わず、スス!と叫んだ瞬間と、

ズドオオオンと、何か巨大な物が衝突するような音が聞こえたのは全く同時だった。


パー『な、何だ!?

この音は!』


パーが辺りを見回すと、またズドオオオンという音が響く。

それは、校庭にある光る繭の一つから聞こえていた。


パー『な、何だあの繭は?』

アイ「あれは…」


アイは思い出す。

あの光る繭の中には、アイと共に戦った仲間が閉じ込められているのだ。

恐らく危険を察知し無理やりにでも繭を壊そうとしているのだろう。しかし、アイは頭を横に降った。


アイ(ダメだ…今の奴は完全に場を支配している。

たとえ誰が出てきても、アイツを言いくるめる事なんて出来るわけがない)


ズドオオオン、ズドオオオンと繭は何度も響き渡り、遂にヒビが入る。

それを見たパーはニヤリと笑った。


パー『生徒達、あの中にはゴブリンズに洗脳された仲間が入っているぞ!彼等から殺すんだ!』


一斉に拳銃が光の繭に向けられる。

そして、繭が遂に砕け散り、中に居た人間が出てくる。

その瞬間、生徒達の誰かが叫んだ。


生徒「さ、サイモン先生!?」

スス「サイモン…え?

サイモン?」


ススは思わず見てしまう。

繭から出てきた人物は、この学園の先生として生徒を指導していた者であり、

かつてススの居た部隊で隊長としてススと仲間を指導してきた者。

ススの過去の物語と、現在の物語の2つの物語の間に存在した、大切な存在。


「パー!

私の大切な生徒に拳銃を持たせるな!

私の大切な部下を殺そうとするな!

そんなの、私が許さない!!」


学園でも、部隊でも、皆は様々な意味を込めて彼をこう呼ぶ。



シンプル(間抜けな・純粋な・強力な・単純な・唯一の)サイモンと。


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