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角が有る者達  作者: C・トベルト
太陽の命と月の命。
70/303

第71話 日食パート 怠惰&月龍VSゴブリンズ

光の繭がキラキラと輝きながら、崩れ落ちていく。

その中で銀色の義腕を振り上げ、アイという名の鬼が咆哮する。


アイ「ふっっかああつ!」

スス「リーダー!

復活したのね!」

メル「あれが、ゴブリンズのリーダー…Gチップの敵…」


ススは魚人の肩から飛び降り、アイの元に駆け寄る。メルもまたそれに従い、アイに近付いた。


アイ「スス!

助けてくれてありがとよ!」

スス「リーダー…良かった」


ススはアイをまるで神様を見るような眼で見つめていた。

アイにはその理由が分からず


アイ「な、なんだ、スス?

どうしたんだよ?

いつもなら、ほら、『何ドジ踏んでるのよバカアイ』とか怒らないのか?」

メル(え、この人リーダーなのにバカ扱いされてるの?)


メルは一抹の不安を抱えたが、それを口にはしなかった。

理由は、ススが泣きそうな顔をしていたからだ。


メル(スス…)


メルにはススの表情の意味が理解できる。

ススは戦争で仲間を救えなかった事に嘆いていた。

その彼女だからこそ、今、アイを助ける事が出来たのが嬉しいのだろう。


スス「抱き締めていい?」

アイ「は?スス、何を…」


言っている、と言い切る前に、ススはアイを力一杯抱き締めた。


アイ「!?」

メル「!?」

スス「良かった…本当に、助ける事が出来て良かった…」

アイ「スス。あのー、今、戦闘中だから…その…」


ゴブリンズのリーダーもまた状況が掴めず、銀色の義手をススの肩に止めようとしていたが…。

不意に、ススの体を抱き締めた。


スス「!」

アイ「スス、離すな!」


そして、アイは脚力だけで飛び上がる。

相当な力を込めて飛び上がったのか、ススを抱き締めた状態で2メートルは飛び上がった。

突然の行動に混乱するススの足元を、塵で作られた槍が高速で通り過ぎていく。


スス「!」

パー「ちぃ、避けたか!」


背後からパーの声が聞こえる。

どうやらススが抱き締めた瞬間を狙い攻撃を仕掛けてきたようだ。

見上げると龍の頭の上からこちらを忌々しげに睨み付けている。

そしてススがそれを理解した瞬間、ススの体がアイに持ち上げられる。


スス「え」

アイ「少年!パス!」


アイは何の躊躇いもなく、ススをメルに向けて放り投げた。


メル「え?え?うわ!

能力発動、『膨張(パンプアップ)』!」


メルが掌を巨大化させ、落下するススを受け止める。ススは掌から直ぐに降りた。


スス「リーダー!」

アイ「スス!

動くな、こいつは俺達の獲物だ!離れて見てろ!」

スス「………………」


アイも、パーもススを睨み付ける。

ススは何も言わず、柄に『smee』と書かれたナイフを仕舞おうとして…その動きを止めた。


アイ「?」

スス「スミーは……私の姉は1人で皆を守ろうと戦い、死んだわ。

そして私が1人残された」

メル「……」

スス「その私に、『離れろ』?『危険だから』?

ふざけないで!」


ススはナイフを更に二本取りだし、アイのすぐ近くにしっかりと立つ。


スス「私は仲間を助ける為に来た!貴方達みたいな奴に、これ以上私の居場所は奪われない!」

アイ「…リーダーに逆らう気か!?」


アイはススをギロッと睨み付ける。ススはアイに振り返り、その表情を見せた。


スス「私は…鬼よ!

戦いを決めたら絶対にそこから逃げない!」

ルトー(僕なんかで、いいのかい?

僕は皆みたいに凄い特技は無いし、また裏切るかもしれないんだよ?

それでもアイは、僕を仲間に入れてくれるの?)

アイ(当たり前だ。

お前はこの俺が選んだ最高の仲間だからな。たとえ何度でも裏切ったって連れ戻してやる)


真剣にアイを見つめるススの表情は、ルトーの表情と全く一緒だった。

それを見たアイは、フッと笑う。


アイ「なんだ…お前もか」

スス「?」

アイ「…いや、いいさ。

いいぜ、一緒に戦おう!」


アイは左手の掌をパーに向けて構える。そして、あの時と殆ど同じ言葉を言った。


アイ「お前はこの俺が選んだ最高の仲間だからな。

……一緒に戦おうぜ、スス」

スス「……アイ!

うん!」


とても楽しそうに、ススは笑った。そしてナイフをパーに向けて構える。


メル「…あ、僕も仲間だよ!

僕も一応ゴブリンズに…」


メルが話しかけてきたその一瞬を狙い、アイはメルに向けてアイスボムを投げた。

銀色の球体がメルの目の前に来たその時に、メルは間抜けな声を上げる。


メル「え?」

アイ「あ、手が滑ったー(棒読み)」


カチン、という音と共にメルの体が氷の中に閉じこめられる。


メル【え?な、なんで…?】

アイ「新入り……お前はここで見ていな」

パー「死ね!!」


パーが叫んだ瞬間、塵の槍が空中に無数に出現する。

それは全て、アイとススを狙っていた。

しかしアイは全く余裕を崩さずにメルに話しかける。


アイ「ベテランの戦い方をな」


アイが言い切ると同時に無数の槍が二人めがけて襲いかかってくる。

アイは余裕の表情のまま、左手をかざした。


アイ「アイスボム!」


宣言と同時に銀色の球体が技術の掌の射出口から現れ、地面に放り投げる。

球体は地面近くで爆発と同時に爆炎が一瞬で凍りつき、壁を作り上げる。

その壁に無数の槍が突き刺さる。


パー「ち、だが…」


パーはアイの顔を見ようとする。

パーの能力は『素顔を見た人間の未来を見る事が出来る能力』。

アイの顔を見れば、次に何をするのかが直ぐに分かるのだ。

しかし他者が介入する事で見えた未来がすぐに変化してしまう脆さも孕んではいるが、

パーにとってはそれでも充分強力な能力だ。


パー「さぁ、顔を見せて…!?」


しかしパーの目論見は簡単に砕けてしまう。

何故ならアイはいつの間にか氷でできた仮面を着けているからだ。


パー「はぁ!?」

アイ「聞こえる!

天が悪を倒せと叫んでる!

地が悪を倒せと轟いている!

鬼が我らの力を見せろと喚いてる!

我こそは正義の鬼戦士!

かめ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」

スス「うるさい!」


妙なポーズと妙な口上を始めたアイの背中をススは蹴り飛ばす。


アイ「痛い!

せめて名前言わせて!」

スス「アホか!?

真面目にやれバカリーダー!」

アイ「真面目にやってるぞ!

アイツに素顔を見せると未来をみられるんだ!

だからお前もこれかぶれ!」


そう言ってアイは氷で出来た仮面をかぶらせようとする。

ススはギロッと睨んだが…リーダーの言葉に逆らう事なく面をかぶった。


スス「…これで、本当に、いいのね?」

アイ「勿論だ!

できればこれから「仮面コオニジャー」と名乗ってグホォ!」

スス「数分前の私の誓いを返して…覚悟を返して!」


完全に沈めるつもりでススはアイの腹に一撃を喰らわせ、アイは倒れる。


パー(アイめ、仮面で素顔を隠し、未来を見せなくしたか。馬鹿なフリして抜け目のない奴。

だが、今は…)

現古「キイイインンンメエエダアアアイイイイイ!!」


パーの背後から、魚人の怒声が聞こえてくる。見ると魚人がこちらに向かって拳を振り上げてくるのが見えた。

しかし、今度はその行動は読まれていた。


パー「あの語尾魚人から倒すのが先だな。月龍」


パーの一言で月龍の長い尾が動き、振り上げられた拳に絡み付いてくる。

月龍は全身が輝き続ける龍で、腕に絡み付いた事その光が直接目に入り込み、魚人は思わず月龍から顔を剃らす。


現古「ウオオ!!

マブシイイイイイ!!!」

パー「月龍、そのままこいつを絞め殺せ!儂はアイとススを始末してくる!」


パーは月龍から離れ、飛び降りる。

それと同時に無数の塵がパーの足元に収集され、塵の床を作り上げていく。

パーはその上に乗り、下に居る二人を見下ろした。


パー「アイ、果心様と敵対した貴様は許さない…」


アイとススの周囲360度に塵で出来た槍が無数に現れる。

一本一本の槍は70センチ以上の長さで細さは5ミリ程度。

刺されば骨髄まで到達するほどに先は尖っている。

それを見たパーはニヤリと笑い、パチンと指を鳴らす。

無数の槍が、二人目掛けて飛んでいく。パーが叫んだ。


パー「地獄の最後の住人となれ!」



突然現れた無数の槍が、恐ろしく早い速度でアイ達に飛んできた。

アイはススに命令する。


アイ「!

スス、伏せろ!」

スス「!」


ススは言われた通りに伏せるが、アイは伏せようとしない。それどころか、目の前の槍目掛けて睨み付けたと思った瞬間、

左足を後ろに後退、直ぐに前に押し出し体を回転させる。

槍は回転するアイの腹部をコンマ数ミリの単位でかわした。

しかし一本槍をかわしただけでは、無数の槍は防げない。

だからアイは回転させたまま軸足に力を入れ跳躍し、左手の義手の掌を構える。掌にはアイスボムの射出口があり、それは回転前に開いていた。

アイは回転しながら、アイスボムを射出する。


アイスボムは地面に衝突し氷の壁を作る。アイが1回転する間に氷の壁は作り上げられ、更にもう一回転する間に氷の壁にアイスボムが衝突、更なる氷の壁が作られる。


パー「なっ!?」


アイが空中で回転したのは4回転程。

その回転の間に、アイとススを槍から守る氷の塔が完成していた。

槍は氷の塔に衝突するが貫く事は出来ず、元の塵に戻ってしまう。


結果、アイとススを取り囲んだ54本の槍は一つとして二人に傷を与える事は出来なかった。

それを見たパーはニヤリと笑う。


パー「ふん、ならばこうだ」


その言葉と共に氷の塔の真上に塵が集まり、巨大な岩のような姿に変えていく。

氷の塔は上部が吹き抜けになっており上空の塵の塊はアイとススの二人にも見えていた。

二人のゴブリンズは何も言わず互いに頷く。

そして、アイは壁に背を向け両手を前に出した。

ススは両手の足を乗せ、一気に跳躍する。


スス「ふっ!」


そして、塔のへりの部分に手をかけ腕の力で体を持ち上げ、そのまま逆立ちした。


パー「!」


パーが目を丸くしたのとススが逆立ちしたまま勢い良く跳躍したのは同時だった。

そしてススは勢いを殺さず空中で回転し頭を上にする…が、右手にはナイフが一本握られていた。

ススはそのナイフをパー目掛けて投擲した。

投擲されたナイフにパーは動く事ができず、ナイフはパーの左足のふとももに刺さる。


パー「ぐあっ!」


パーが小さく悲鳴をあげ膝を付く…それと同時に空中で完成しつつあった塵の塊は消滅した。

そしてアイも氷の塔から姿を現す。


アイ「スス、ナイスコントロール!」

スス「ありがと!」


メルはその戦いを氷の中から見つめていた。


メル【あ、あの二人なんて凄い動きをしているんだ…。

まるでサーカスみたいじゃないか!】

パー「く、そ…!」


パーはうずくまり左足の太ももからナイフを強引に引き抜き、放り投げる。

パー刺さった箇所を見る血が滴り落ち、傷は酷くなっていた。


パー「ぐうぅぅ!」

アイ「諦めろ!

その傷じゃ何も出来ないだろう」

スス「おとなしく降参しなさい。

…引き際なら今よ」

パー「降参しなさい?」


パーは顔を上げる。その表情は苦痛に耐えながらも笑みを絶やしてはいなかった。


パー「降参しなさい?諦めろ?

ふざけるな…それは怠惰の専売特許だ。

貴様ら小鬼ごときが使うのは許さん」


パーは立ち上がり、アイに近づこうとする。血が歩く度に滴り落ち血の河が出来始めていた。

アイは左手をパーに向ける。


アイ「…まだ抵抗する気なら、アイスボムで凍らせて」


ボキィ!と何か堅い物が折れる音が空間に響き渡る。

三人が振り返って音の方に顔を向けると、そこには膝を屈している魚人の姿があった。

しかし右腕には龍の体が締め付けられており、右腕も良く見ると下側に異常な角度に曲げられている。


アイ「い!?

あの龍、現古の腕をへし折ったのか!?」

月龍「ふはははははは!!

我は太陽の力を吸収し作られた魔法生物!

魚臭いだけの魚人とは出来が違うんだよ!」

現古「フグウウウウウウウウウ!!」


現古が地団駄を踏み、腕に絡まった龍の体を取ろうと必死に左手で龍の細い体を掴むが、

龍は離れない。


現古「ウウウウウウウウ!!

マンボオオオオ!!」

月龍「踊れ踊れ!

だが、我は貴様の力じゃほどけられないぞぉ!」


ズシイイイイン!


遂に、魚人が倒れてしまう。しかし月龍は右腕に絡み付いたまま空を飛ぼうとし、今度は肩を外そうとする。


アイ「ひ、ひでぇ」

スス「早く助けなきゃ」

アイ「…そうだな。

スス、手伝え!」

スス「ええ!」


アイとススはパーから離れ氷の塔まで走る。

そしてアイは4メートルはある氷の塔の足元に手を突っ込ませ、持ち上げる。


アイ「こいつを改造すれば…」


アイは急いで左手の射出口からアイスボムを取りだし、氷の塔にぶつけて凍らせる。

塔の内側に氷が詰まっていき、氷の外側に太いトゲのような物が出来上がっていく。

そして、まるで棍棒のような氷の武器が完成した。


アイ「よし、これを持って、と」


アイは巨大な氷の棍棒を片手で軽々と振り回す。

ススはアイの側に立ち、ナイフを構える。


アイ「さて、今度は怪物退治と行きますか」

スス「アイ…一応聞くけど、あの魚人、仲間なの?」

アイ「…仲間…だな。

あの魚人、元はただの教師だ。

頑固でありながら生徒思いの、普通の人間だ」

スス「…なら、助けなきゃね」

アイ「ああ…」


アイは巨大な氷の棍棒を、

ススは三本のナイフを持ち、

月龍に向かって走り出した!



pm 8:40 結界の外側




シティ「結界壊せないなー」

ダンク「魔法を幾つか試しているが…全然意味がないな」

ノリ「頑張って下さいッス」


結界の外側、ゴブリンズと警察は結界を破壊しようと頑張っていた。

だがシティが電柱やビルを結界にぶつけても結界に少し穴が開くだけで、しかもその穴も直ぐ修復されてしまうので何の意味もないと諦め、魔法、魔術に詳しいダンクに結界を解く方法を探して貰っていたのだ。


もう日は沈み、満月の光が夜を照らし、星が瞬きながら地上を見下ろしている。

ダンクは少しだけ夜空を眺め、こう呟いた。


ダンク「…白鳥が飛んでいるな」

シティ「白鳥?

今、鳥なんて飛んでたっけ」

ダンク「…いや、なんでもない」


ダンクは目線を結界に向け、結界を解く作業に戻る。

そこから少し離れた所では、目を覚ましたケシゴと白山羊が話をしている。

その横ではペンシが黒山羊の機械で出来た腕を好奇心の目で見ている。

そしてノリはシティと一緒にダンクの魔法を遠くから見ていた。


ノリ「魔法かぁ。

今は科学世紀なのに、何で魔法なんて出てくるンスかね」

シティ「でも、ワクワクしない?

私達が『幻想』と割りきった物が目の前に有るなんて、凄く興味深いわ」

ノリ「その気持ち、分からない訳でも無いっすが、『幻想』染みた物が実際に人を襲ってるとなると話は別ッスよ」

シティ「そうよねー。

月龍も結界の中に入っていったし…」

ダンク「今なんて言った?」

シティ「うわ!」


いつの間にかダンクは結界を調べる作業を止め、シティの話に参加していた。


シティ「だ、ダンク!

いきなり話しかけないでよ」

ダンク「龍?龍を見たのか?

どんな龍だ?」


シティは突然話しかけられ驚くが、ダンクは気にせずシティに近付いてくる。

ダンクの目の部分の穴と、シティの目が合いそうになり…シティは少しだけ目線を逸らす。


シティ「は、話す!

話すからそんな、近付きゅな!」

ダンク「きゅな?」

シティ「いいから離れろミイラ!」


シティはダンクを蹴り飛ばし、ぱたぱたと右手で団扇のようにあおいだ。ダンクは右手で頭をさすりながら立ち上がる。


ダンク「あー、悪かったよ。

それで龍を見たんだって?」

シティ「…ええ、そうよ。

全身金ぴかで細長いアジアの山に隠居してそうな龍よ」


シティは少しダンクから顔を背けながら話していた。

ダンクはシティの様子を全く気にする事なく、なるほどな、と一言だけ呟く。


ダンク「今のでこの結界の事が大体分かったぞ。

『月の食卓、太陽を食す』という呪術の一つだな」

シティ「…え?月の食卓?

何それ?」


シティは背けた目をダンクに向ける。

ダンクは自分の知識を引っ張り上げながら話を続けた。


ダンク「『月の食卓、太陽を食す』。

昔、中国では日食や月食を龍が食べたから起こる現象だと言われてたんだ。

…もちろん、根も葉もない迷信ではあるが、ある呪術師がその迷信を元に呪術を作り上げた。」

シティ「それがさっきの『月ナントカ太陽カントカ』ね。

長くなりそうだから座るわ」

ノリ「ボクも座るッス」

ダンク「呪術者はまず巨大な結界を張り、その外に龍の姿をした太陽電池を作る」

シティ「さっきの呪術、早口言葉で言ったら難しそうね」

ノリ「試してみるッス。月の食卓太陽を食すッス月のしょ痛、舌噛んだッス」

ダンク「龍が太陽の力を受け、その力を魔力に変換し呪術師の力を増大させる。

対人戦闘や強力な呪術を短時間で練り上げるには最適な魔法と言うわけだ。

しかし日が沈む前に術を解かねば龍は結界内部に沈み、呪術師を食い殺そうとする。

しかも呪術師が食い殺された場合、龍は単なる電池ではなく完全な1つの生物となるため危険な呪術として禁じられていた筈。

口伝でも伝えられない、完全に歴史から消えた呪術の筈なんだが、誰がこんな古い魔術を使いだしたんだろうな?」

シティ「きっと田舎臭い魔術師がいたのよ。

で、その龍はどれくらい強いの?呪術師が作り出した龍なら本人より弱そうな気がするけど」

ダンク「まさか。その反対だ。

龍は太陽の力を持って暴れる魔法生物だ。

下手な魔術は効かないし力は強力。結界を張ってるために逃げる事すらできない。

…アイ達は大丈夫かな?」

ノリ「ハサギさんがいるから絶対大丈夫ッス!

皆を助けてくれるッスよ!」


ノリは結界の外で叫ぶ。

しかし、その声が結界の中に届く事はないのだ。

そしてダンクは知っている。

『魔法生物』という存在の恐ろしさを彼は嫌という程知っているのだ。


ダンク(魔法生物は、魔法によって生まれた生物。そのエネルギーは魔法使いの魔力と太陽の魔力…。

学校を覆う程の強力な魔力に、太陽の力まで手に入れた魔法生物だ。

並大抵の…いや、仮に相手がシティの言う大怪物だって、相手になれるかどうか分からない存在だ)


ダンクも結界を見つめる。

真っ黒な結界の中にいる仲間の安否を願った。


ダンク(三角形を使いたいけど、今は7月だしなぁ…星と霊の力を借りる事は難しいだろうな…。

何か良い方法は無いものか)


しかし幾ら思考を重ねても結界は消えない。

ダンクはただただ、仲間の無事を祈る事しか出来なかった。





月龍が魚人の腕から離れ空を飛び、咆哮する。

学校の窓がビリビリと震え、アイ達が気迫で圧されそうになる。


アイ「バカでけぇ声だな…」

スス「完全に騒音ね…所でリーダー、何か策はある?」

アイ「うーん、とりあえず頭叩く。あのデカさじゃ弱点探す意味すらなさそうだ。

…スス、掴まれ!」


ススはアイの銀色の左腕をしっかり握る。金属特有の冷たさがススの手に伝わってきた。

右腕には巨大な氷のハンマーを持っているが、アイは重さを感じていないようだ。


スス(…)

アイ「不成者格闘術(ナラズモノコマンド)

鬼飛飛角(オニトビジャンパー)!」


アイが両足に力を込め、一気に飛び上がる。

そして上空でまた足に力を込め、空中で更に飛び上がった。

月龍は頭を上げ、長い胴体を空に高く持ち上げている。


スス(いつ見ても無茶苦茶なやり方よね…どうすればこんな事可能なのかしら?)

アイ「スス!このままあの龍の頭まで飛び上がる!

そしたら能力を使って足に力を込めろ!」


アイは空中を蹴りあげながら、月龍の頭に目線を合わせながら叫ぶ。


アイ「そしたらあいつの頭を踏み潰せ!あいつが地面に落ちた所を俺のハンマーで追い討ちする!」

スス「分かったわ!」


ススは言葉同時に両腕に力を込め、アイの腕の上に飛ぶ。

そして金属の腕に着地した。

もう月龍の体半分の所まで飛び上がっている。


月龍「なんだ…?」

アイ「行くぞスス!

思い切り、飛べ!」

スス「うん!」


アイが叫ぶと同時にススは勢い良く跳躍した。

その跳躍でアイの金属で出来た腕が少しひしゃげ、アイはバランスを崩して下に落ちていく。

一方ススは高く空を飛び、月龍の頭の上に飛び上がった。

ススの目から見た月龍はまだアイを見下ろしていた。


スス「うわああああああ!!」


ススは渾身の力を込め、月龍を蹴りあげる。

しかし月龍にはあまりダメージが無いようで、少し頭が下がっただけだった。


スス「げ、威力が足りなかった!?」

アイ「いや大丈夫だ!

このまま一気に殴り飛ばす!」


アイは空を蹴って空を飛び、月龍の頭の上に飛ぶ。

そして思い切りハンマーを降り下ろした。


アイ「これでも喰らえ!!」


ハンマーは月龍の頭に直撃したが、その衝撃に耐えられなかったのか柄の部分が折れた。


アイ「げ!」

月龍「グオオ!」


月龍は大声で叫んだ後、頭を一気に下げる。長い胴体はそれに着いていくが、不意にその尾がアイとススの二人に襲いかかってきた。

しかし、次の瞬間アイはススを右に突飛ばしたので、アイだけが巨大な尾に叩きつけられる。

アイは小さなうめき声を上げた後、頭を下に一気に地上に落ちていく。


スス「リーダー!」

アイ「ぐ…」

現古「コオオオイイイイ!!」


現古が落ちていくアイとススに向かい左手を伸ばす。

二人は現古の掌の上着地した。受け身は上手くとれなかったが、魚人の肌が柔らかいためかダメージは無かった。


スス「た、助かった…?」

「まだだ!」


ススの疑問を切り裂いたのは月龍だ。巨体な細長い体を現古の左手に巻き付かせ、上に引っ張りあげる。

急に力を入れられた腕現古はバランスを崩し、左足を上げて倒れそうになる。


現古「ナアアマアアズウウ!?」

スス「ヤバイヤバイヤバイヤバイ!」


ススはアイの左手を掴むと同時に斜めに競り上がる掌から飛び降りる。

次の瞬間、ゴリ、という何かが外れた音が聞こえた。

それは、上に飛び上がった月龍のせいで現古の左肩が脱臼した音であった。巨大化した現古のけたたましい悲鳴が二人を襲う。


現古「カンパチイイイイ!!」


二人が鼓膜の激しい振動を感じながらも地面に向かい落ちていく。

しかし、地面に落ちる直前、気を取り戻したアイがススの体を掴み

空を蹴りあげ一度上空に飛んだ。

これで地面に落ちるダメージを軽減し、上手に着地することができた。


スス「リ、リーダー!」

アイ「頭が痛い…く、仮面を被っていてよかった…」


アイの言う通り、先ほどまで被っていた仮面はグシャグシャに砕けた状態でアイの掌に納まっている。

もし仮面を被っていなければアイの顔がああなっていただろうと想像すると、ススはゾッと体が震えたのを感じた。


アイ「不味いな、攻撃したのに全然怯まない」

スス「結構強力な攻撃なのに、効かないなんて…どうすれば月龍を倒せるのよ」

パー「ハハハハハハハ!

無様だなゴブリンズどもよ!」


パーの笑い声が聞こえる。

二人が振り替えると、足の傷口に布を巻いて一応の処置を施したパーが歯をむき出しにして笑っていた。


パー「所詮貴様等は小鬼よ!

小鬼が龍に勝てる訳ないだろう!」

アイ「ちぃ…」


アイはギロリとパーを睨んだ後、月龍の方に目を向ける。

月龍は現古の体を縛りあげようと巨大な魚人の周りをぐるぐると飛び回っていた。


現古「フナアアアアア!!」


現古が口をガバッと開けたかと思うと月龍の首の辺りにガブリと噛み付く。


月龍「む!?」

アイ「よし、動きを封じた…」

パー「無駄だぁ!」


現古の目がギョロリと月龍の体を見る。

すると、月龍の細い手が月龍の長い体の上を移動しているのが目に映り、それが最後に目に映った光景となった。

何故なら、体を移動した月龍の手の長い三本の爪が魚人の左目を貫いたからである。


現古「カニイイイイイイ!!」

パー「ハハハハハ!!

無駄だ無駄だ!月龍は命を持たない魔法生物!

月龍の体は太陽と果心様の純粋な魔力エネルギーで出来ているんだ!

幾らダメージを与えようが、エネルギーが有る限り月龍は存在し続け、しかも体を変化させる事ができる!

たかが人間ごときが、勝てる訳無いのだ!」


ブシュ、と音を立てて爪が現古の目から抜けていく。

現古は痛みに耐えられず、思わず口を離し倒れ込んでしまった。

月龍は倒れた

爪から血を滴らせながら、月龍がアイ達に訪ねる。


月龍「まだやるか、雑魚共」


その赤い瞳は蘭々と輝き、まるで太陽の炎のように見える。

金色に輝く肢体は見る者全てに屈服させるような圧力(オーラ)そのものであった。

それを見たススは恐怖を感じる。

数分前にリーダーの前で見せた喜びも覚悟も全て投げ捨て、逃げ出したい気持ちに駆られる。

…だが、ススの耳に入ってきたのはアイの笑い声だった。


アイ「ワッハハハハハ!

いいなぁ、流石ドラゴン!

伝説の怪物だ!

これくらい強ければ、俺達も暴れがいがあるというものだ!」

スス「リーダー…」

アイ「…スス、」

スス「?」

一瞬。

たった一瞬だけ、アイはこう言いそうになった。

『俺が囮になるからお前は逃げろ』

だが、戦場で居場所を無くした彼女にその言葉がどれだけ傷つけるかを考え、

アイはその言葉を言わない事にした。

代わりに出たのはいつものジョーク。


アイ「……。

きっとシティがいたらこう言うだろうな。

『ドラゴンなんて伝説の怪物、私が一人で倒すわ!』なんて」

スス「確かに言いそうよね……むしろ本当に倒しそうな気がするわ」

アイ「俺よくあいつ仲間にできたなー」

スス「色々あったからねー」


ススは苦笑しながら、目線を月龍に向ける。


スス「さて、あれどうする?」

アイ「うーん、考えても難しそうだな。

いつも通りやるか」

スス「そうね。

……それでいきましょう。頼りにしているわよ、リーダー」

アイ「こちらこそ」


二人はそう言って月龍に向かい走り出した。


一方、メルは氷を割ろうと暴れていた。

しかし氷はメルの体を完全に封じ込め、動く事が出来ない。


メル【早く、早くしないと二人が死んじゃう!

僕も急いで抜け出さないと!このままじゃあの時と同じだ!】


メルの記憶に、ススの夢を体験した時の記憶が蘇る。

夢の中の自分は『夢の中の住人』ではないためにどれ程手を伸ばしても助ける事が出来なかった。

そして今、メルは動く事ができず、助けたい仲間はピンチに陥っている。


メル【またあの時と同じ事を繰り返すのか!!あの地獄を!?

そうはさせない、絶対に、絶対にここから出てみせるんだ!】

現古「オオオニイイイヒイイトオオデエエエ!!」


メルが氷の中で覚悟を決めた次の瞬間、現古が痛みで叫びながら膝を折り倒れていく。

折れた右腕が伸びる先は、メルが閉じ込められた氷があった。


メル「え?」


ズドオオオオオオン、と大きな音をたてて魚人が倒れ込む。

そして右腕は下に存在する氷の塊を潰した。

砕けた氷の塊から、赤い液体のようなものがドロドロと流れ出ていく。

右腕のすぐそばで液体のような物は震え出したかと思うと、ゆっくりと人の姿に変形していき、メルの姿になった。

メルは叫ぶ。


メル「セキタさんの能力、『自分の体をドロドロに溶かす能力』!

持ってて良かった…使えなかったら死んでた…絶対死んでた…」


氷の塊と同じようにバラバラになった自分を想像し、恐ろしさに震え上がった。

しかし震えてばかりもいられない。メルはすぐに気持ちを切り返しアイ達の方へ走りだす。


アイ「いくぜ、スス…」

メル「リーダーさーん!

加勢に来たよー!」

アイ「……え……?」


月龍に今飛びかからんとする勢いで体を屈めたアイは、驚きのあまりそのままの姿勢で動きを止める。ススもメルの方に振り返り、顔色をさっと青ざめていく。


スス「メル!?

後ろ!」

メル「え」


メルのすぐ後ろには月龍の巨大な顎が見えた。

そして次に見えたのは月龍の金色の顔。

その中でもメルが注目したのは金色に輝く顔の中で更に輝く真っ赤な瞳。

まるで太陽の炎のように爛々と輝く瞳に、メルの落ち着いた恐怖の感情が膨れ上がる。


メル「うわ…」

月龍「雑魚が!喰ろうてやる!!」

アイ「メル、逃げ」


月龍は巨大な口を開く。メルの体がそのまま飲み込まれそうなほど大きな口が開き、サーベルのように長く尖った歯がメルの目に映る。


スス「く!」


考えるより早く、ススは自分の能力、『高速移動能力』を発動しススに駆け出していく。

…しかしそれでも月龍の口がメルの体を喰い千切るのが早い事は分かっていた。


スス(駄目だ、間に合わない!)

メル(し、死ぬ…!死んじゃ)


彼 女 の 能 力 を 使 い な さ い

私 が 使 い 方 を 教 え て あ げ る


メルの心の中に、誰かの心が響き渡る。

メルはそれが誰なのか、何故聞こえたのか考える余裕など無かった。

心から聞こえる声に、メルは思わず返事をした。


メル(は、はい!)


右 腕 を 上 げ て と ま れ と ね ん じ な さ い


声の通り、メルは右腕を上げる。

月龍の口は閉じ始めており、サーベルのような歯がメルの体に触れれるその瞬間、メルは念じた。


メル(止まれ…)


その瞬間、月龍の口が動きを止める。サーベルのような鋭い前歯がメルの腹部に突き刺さる直前で動きを止めた。

高速移動で動き始めたススも思わず目を白黒させる。


スス(え、月龍が止まって…?

いや、それより今はメルを助ける方が先!)


ススは高速移動で月龍の閉じかけた口の中に躊躇なく飛び込み、

メルの体を掴んで一気に飛び出す。

そのままメルは月龍の周りを一周しアイの方へ走り、アイのすぐ近くまで走った所で高速移動能力を止めた。


アイ「ろ!

あれ、メルがここにいる?なんで?」

スス「ハァーッ、ハァーッ…。

メル!貴方、何勝手にしゃしゃり出て…メル?」

メル「…止まった」

アイ「…え?」

メル「月龍の動きが、止まった…」


メルの言葉に、二人が目を向ける。

そこには月龍が空中で口を閉じかけた状態で、全く動けなくなっていたのだ。


月龍(な、何だ!?

何が起きた!?何で我は動けなくなったのだ!!う、動け…動け!

動けええ!!)


月龍は必死に体を動かそうとするが、体も指も口も目も、何一つ動かす事が出来ない。

そのそばではパーが口をあんぐりと開けていた。


パー「な、何故だ!!何故月龍が動きを止めたんだ!!?

動け、動くんだ月龍!」


しかしパーが幾ら叫んでも月龍はピクリとも動く事が出来なかった。


アイ「あ、あの巨大な月龍がピクリとも動かない?」

スス「一体なんで?

メル、何をしたの?」

メル「ぼ、僕はただ…彼女の能力を使っただけだよ」

アイ「彼女…?」


アイとスス、二人の目線がメルに集中する。


メル「うん、彼女。

シティの『2メートル以上の大きな単純な形の単純な物質を操る』能力を月龍に対して使ったんだ…」

アイ「…。

まてよ。

月龍は確か、魔術の力によって産み出された命を持たない『純粋な魔力エネルギー』の塊だ。

そして、月龍は生物にしては単純な『細長い体』をしている」


アイは自分の推理を皆に伝える。


アイつ「つまり、シティの能力の条件である『単純な形の単純な物質』をクリアしている事になる。

だから操れた?

…まさか、そんな、いや、幾らなんでもこれは屁理屈すぎる」

スス「そ、そうよ…そんなのあり得ない…」


自分で出した答えに、いまいち納得出来ないアイとスス。

しかし、目の前の月龍はその屁理屈じみた推理通りに動く事ができないでいる。


アイ「メル、ちょっと右腕下ろしてみろ」

メル「え?う、うん」


アイの指示通りにメルは右腕を下ろす。

すると次の瞬間、月龍の口が動きだしガチン、と音を立てて動き出す。


月龍「!?

動けた!?何で!?

…貴様らぁ!!」


月龍はギロリと三人を睨み付ける。そして勢い良く突進した。


月龍「我に何をしやがった!!

今度こそ噛み殺して」

アイ「メル、右腕上げて」

メル「うん」


メルは右腕を上げて、止まれと念じる。

すると月龍はまたピタリと動くのを止めた。

何とも言えない空気が空間を支配する。


アイ「マジか…こんな方法で月龍の動きを止められるなんて…」

スス「さ、さっきの戦いはなんだったの…?」

アイ「俺に聞くなよ…」


アイは頭をガクリと下げる。

しかしそのままフフフ、と笑い始めた。


アイ「ふ、フフフ、ワァーハッハッハッ!!

良し、これで月龍は動けなくなった!動けなくなったぞお!」

スス「そ、そうね!

私達は月龍を攻略出来たのよ!

で…後はどうすればいいんだっけ?」

アイ「決まってる」


アイは右に45度目線を動かし、片膝を付いているパーを睨み付けた。

パーもまた、睨み付けるが焦燥していることを隠しきれてはいない。


パー「………」

アイ「こいつから、色んな事を聞き出すんだ。

大罪計画、果心林檎、他の大罪計画のメンバーの居場所、Gチップの秘密!

全部聞き出してやるんだ!

メル、絶対右腕は下ろすなよ」

メル「う、うん」

アイ「それと……」

メル「?」

アイ「ありがとうな、メル。

おかげで俺達は助かった」

メル「う、ううん!

こちらこそ……」

(でも、さっきの声、一体誰の声だったんだろう…)

アイ「?……まあいい。二人とも、いくぞ」

スス&メル「了解!」


そして三人は、動けない月龍のそばを通りパーに向かって歩きだしていく。

しかし三人はまだ知らなかった。


『月の食卓、太陽を食す』。

…この呪文の真実の意味を。



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