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角が有る者達  作者: C・トベルト
太陽の命と月の命。
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第70話 日食パート 進撃の魚人

ズドオオオオン!!!


月龍が放った光線は、対象の時を異常に進めてしまう特性を持っていた。

そしてその光線は、無数ある光の繭の一つに直撃する。


逃げる術もなく、光線を浴びてしまった者は一瞬で数千、数万年の時が進んでしまう。

それを覆っていた光の繭も時の力には敵わず、あっさり消えてしまう。

そして、そいつは出てきた。


現古「う……う……」


現古文々斎。

彼は人間ではなく、「深きものども」と呼ばれた魚人だった。

高齢であった彼は先祖の本能が弱く、精神が飲まれる事はなかった。


現古「う……あ……アア……」


しかし、『深きものども』にはある特性が有る事に誰も気付かなかった。

それは、時の力は『深きものども』を殺す事は出来ず、寧ろ更なる力を与えるに過ぎない、という事をこの場にいる殆ど全ての存在が知らなかったのだ。


現古「アア……アア……アアアアアアアア…………」


現古の呻き声が大きくなる。無知なる者が不用意に時の力を与えてしまった為に、只の語尾魚人はその姿を劇的に、冒涜的に、その姿を歪めていく。

そして、現古が次に叫んだ時、彼の体は異常に巨大化していた。


現古「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」



人類にとっての絶望が、歩いてやってくる……。

その叫びにいち早く気付いたのは未来視を持つ男、パーだった。


パー「な、なんだ、この異常な叫びは……!?

ば、化物ォォォォ!!?」

メル「!?」

スス「何なのあれ!?

ああもう、ここに来てからおかしな事ばっかし!」


現古「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


巨大な半魚人が咆哮する。

三人は思わず耳を塞いだ。幸い、すぐに咆哮は止んだが…目の前の怪物は消える事はない。


メル「な、なんなんだ…あれは…」

パー「き、聞いた事がある…」


メル「パー…校長…?」

スス「…なんなの、あれは」


二人はパーに目を向ける。パーは目を丸くしながらまるで呻くように喋り始めた。


パー「『深きものども』は時間によって殺されない不老の種族…。

いや、歳が立てばたつほどその姿は巨大に、醜くなる…」『馬鹿なやつめ』『吐き気がする存在に成ってしまったなあ』


パーがふらふらと魚人に向かって歩いていく。


パー「そして、数千数万という時間を生きた『深きものども』の雄はこう呼ばれるのだ…。

『父なるダゴン』、と」『ヤバい…』『きた…来ちゃった!』『くるぞ!』


現古「ウウウウウウウウウウウウウオオオオオオオ!!」


魚人が咆哮と共に拳を握りしめる。

そして、パー目掛けて巨大な拳を降り下ろした。


パー「!

ちいい!」『危ない!』『殺される!』『守らなきゃ!』


パーの周囲にある塵が集まり塵のバリアを作り上げる。次の瞬間、作り上げられたばかりのバリアが轟音と共に砕け散った。


バアアアアン!!!


メル「うわ!」

スス「なんて威力なの…」


二人は思わず巨大な魚人に見とれていたが、不意に後ろが輝き始める事に気が付く。

振り返ると、金色に輝く、細長い体の龍が金色の輝きを放ちながら空を飛んでいた。


スス「龍…!?

魚人といい龍といい、一体どんなファンタジーよ!」


ススはナイフを構え、メルはぎゅっと拳を握りしめる。

しかしあまりにも龍が眩しく輝いているために、その顔を見る事が出来なかった。


月龍「ウワハハハハハ!!

やっと我も自由になれたぞ!『血染め桜』の結界も案外辛くなかったな!」

スス「血染め桜ですって…?

な、なんであの龍、血染め桜の事を知っているの?

あれは、ゴブリンズの秘宝の筈… 」


龍の言葉にススは思わず聞き返してしまう。それはとても小さな言葉だったが、

龍は答えてくれた。


月龍「ああ、小娘…まさか、ゴブリンズの仲間かぁ!?

ウワハハハハハ!こいつは滑稽だなぁ!!」

スス「な、何を笑ってるのよ、あの龍…?

あなた、まさかルトーとアイに何かしたの!?」

月龍「それに…小娘の横には…驚いたな!

まさかメルヘン・メロディ・ゴートかぁぁ!?」

メル「うわぁ!」


メルは龍が怖いのか、少し尻込みしていた。龍はニヤリと笑う。


月龍「ウワハハハハハ!まさか大罪計画の希望と呼ばれるメルヘン・メロディ・ゴートが来るとは思わなかったぞ!!

これは幸運!先は攻撃して悪かったなぁ、ウワハハハハハ!!」


月龍は魚人よりも何倍も大きな体をねじらせ、ニヤニヤと笑い続けている。


メル「大罪計画の希望…?

それってまさか…」


メルの心の中に魔法少女の言葉が聞こえてくる。


カスキュア(彼等は果心林檎が作り上げた『大罪計画』のメンバーなのよ)

カスキュア( 最初に言ったでしょう?貴方の知らない能力があるって。

もう貴方の体にはオーケストラ・メロディゴート、ナンテ・メンドール、ジャン・グール、果心林檎の四人が作り上げた二つの『後天性能力』と二つの『後天性天才』が埋め込まれている)




メル「オーケストラ・メロディ・ゴート、ナンテ・メンドール、ジャン・グール、果心林檎…。

四人の内の誰かが、ここにいるっていうの?」

月龍「ウワハハハハハ!良く知っているじゃないかぁ!だが一人忘れてるぞ。

なぁ、K・K・パー!」


現古「イイイイイワアアアアアアシイイイイイイ!」

メル「!」


突如聞こえた魚人の声に思わずメルは振り返ると、

塵を集めて作られた蔦のようなモノが魚人の体を縛り上げていた。


パー「全く…あの忌々しい語尾爺め…無駄にでかくなりやがって」『やはり奴はただの語尾』『尾ひれが取れないおたまじゃくしよ』


無傷のパーは縛り上げられた魚人の前でポリポリと頭をかいている。そして、メルを睨み付けた。


パー「『怠惰』計画のK・K・パーだ…といってもメルには校長パーとして知っていて欲しかったな」

メル「パー…校長…」

月龍「ふん。パー御自慢の子どもは最高理論、か?

自分は常に味方と思われたかったのか?

学校中の人間を魚人に変えといてよく言うな」

パー「魚人化するのはこの結界の中だけだ。それに計画が成功すれば、皆不老不死になれる。

…月龍、俺を頭に乗せろ!」

月龍「…ま、良いだろう」


月龍はゆっくりと頭を下げ、パーを乗せる準備をする。

パーはゆっくりと月龍に向かっていく。

しかしメルがそれを呼び止めた。


メル「ま、待って下さい、パー校長!」

パー「…なんだ?」

メル「不老不死って、どういう事なんですか…それに、この魚人にこの状況…一体、何が起きてるというのですか!?」

パー「メル…そんな事も知らずに ここに来たのか?

…いいだろう、授業してやる」

スス「……」


パーは月龍に向けた靴をメルとススの方に返し、まるで先生のように傲慢な態度で喋り始める。

ススはそんなパーの様子を見ていたが、ナイフを納めようとはしなかった。


スス(あいつは塵を自在に操る事ができる…たとえ丸腰であっても、たとえ一人対多数であっても…少量の『塵』さえあれば戦う事ができる。

そんな相手に、誰が油断するものですか)

パー「さて、授業を始める。

まず始めに…二人とも、大罪計画の事に付いては知ってるかね?」

メル「…僕が大罪計画のせいで改造させられた…って事くらいなら…」

スス「…私は、貴方達が大罪計画がGチップを使い更なる研究を始めようとしている位しか…」


二人はとりあえず、知ってる事を話した。隠すにしても誤魔化すにしても、あまりにも情報が少なすぎるからだ。


パー「ふむ、『復習』は出来ているようだな…。

では本題だ。

今回の大罪計画の内容についてを話そう…。

大罪計画は知っての通り、幾つもの小さな計画を積み上げて作られる計画だ。

儂はその中で『怠惰』の席を頂いている」

スス「…怠惰?

学校の教師が最も教えちゃいけない奴じゃないの、それ」

パー「ふむ、いい指摘だな…スス嬢。

ではその質問にはこう答えよう」


パチンとパーが指を鳴らすと、塵が集まりパーの背後に文字が作られていく。それはまるで黒板に字を書く教師のようであり、内容は以下の通りであった。


『なんでパー先生は学校の教師なのに怠惰の席を頂いているのかなぁ?』


パー「それは簡単な理由さ。

不老不老が欲しかった」


メル「!」

スス「!」


ススのナイフを握る手が僅かに震える。


パー「儂の先祖はある神を信仰していてね…。

時を操る力を持ち、不老不死をもたらす力さえある。

儂はその力を使い、不老不死の夢を叶えようとした。

…だがその為には、儂一人の力では難しいのだよ」

メル「…だから、校長は大罪計画に入ったのですか?

大罪計画の彼等を不老不老にするため、世界中の人間はどうなっても構わないと?」


メルは怒りを孕んだ目でパーを睨み付ける。パーは悲しそうな表情をして首を横に振った。


パー「いいやその逆だ、メル。

儂等はどうなってもいいから、世界中の人間を不老不死にさせたかったのだ」

メル「……え?」


メルの体が硬直する。パーは悲しそうな表情のまま、くるくると回り始める。


パー「儂等は科学者だ。

世界中の誰よりも好奇心に溢れ、

その結果を世界中の人類に分配しなければならない。

…だから、君の祖父はGチップを世界中の人間に等しく与えたのさ。

儂も同じだ」


パーの周囲に塵が集まり、形を形成する。

それは子どもの姿をしていた。


スス「!」

パー「儂はいつも淋しかった。

儂が愛し、育てた子ども達はみぃんな成長し、何処かへ行ってしまう。

そして、誰一人儂には振り向いてはくれないのだ」


パーが塵の子ども達にそっと触るが、塵の子どもは姿を崩し、あっという間に塵に戻っていく。

しかし、パーの直ぐ側でもう一度塵の子どもが出現した。


パー「だが……不老不老にすれば、彼等を子どものままにしてしまえば……儂は何時までも大好きな子どもに囲まれた生活ができるのだ!」


パーがもう一度塵で出来た子どもを抱き締める。

今度は塵に戻らなかった。

メルは一歩退く。


メル「く……狂ってる!

そんなのおかしいよ!」

パー「それはお前が孤独を味わった事がないから言えるのだよ、少年。

お主はまだ未来を知らぬ、世界を知らぬ」『現実を知らぬ』『社会を知らぬ』『大人を知らぬ』『裏切りを知らぬ』『地獄を知らぬ』『痛みを知らぬ』『苦しみを知らぬ』『辛さを知らぬ』


パーの言葉に乗って、塵達が言葉を形成しながらゆっくりとメルに近付いてくる。


メル「う、わ、」『悲しみを知らぬ』『悲鳴を知らぬ』『殺意を知らぬ』『正義を知らぬ』『何も知らぬ』

パー「何も知らぬお前が、大人に意見するんじゃない。

儂が教えてやろう、世界中の様々な現実をな……」


パーの手がゆらりと動き、メルの肩を掴もうと伸びていく。


メル「あ……あ……」

パー「さぁ……儂と一緒に……」


伸びた手がメルの肩を掴むより早く、

横から出た誰かの手がメルの襟首を掴み体を引っ張りあげる。

結果、パーの手は空を切るだけだった。


パー「あ……?」

スス「はい、残念でした。

メルはもうゴブリンズの仲間よ。

貴方達には絶対渡さないわ」

メル「スス……!」


メルはススに引っ張られるまま後ろに下がり、


パー「スス嬢、悪いが席をはずしたまえ。

儂は今、授業で忙しいのだ。」

スス「貴方こそ黙りなさい、K・K・パー。

私は貴方達のせいで全てを奪われたのよ。

家族も、仲間も、人生も…その全てを奪われた。

これ以上、私から大切なものを奪わないで」

パー「…………」


パーは何が何だか分からない、というような表情をする。

ススはパーを睨み付けたまま、ナイフを構えた。


スス「私は貴方にナイフを向けるわ。

例え貴方がどんな歯の浮く台詞を歌っても、私の憎しみには届かない……今ここでその口縫い合わせてやるから」


ススはナイフを構えたまま、一気に走りだそうとする。

パーは慌てる事なく、やれやれと頭をふった。


パー「成程、復讐を持って儂を殺す、か。

だが残念な事に君の憎しみは儂には届かないよ、スス嬢」


ズザザザザザザザザザザザサ!!


その瞬間、3メートル程の塵の壁がススの目の前に競り上がり、ススは思わず動きを止める。


スス「!」

パー「儂は塵を操る魔法を知っていてね。

これが有る限り、君に儂を殺せる可能性は塵一つだって存在しない。

そして、月龍!」

月龍「やれやれ、やっと出番か」


ず、ず、ズズズ……。


塵の壁の向こうでなにかが起き上がる音が起き上がる音が聞こえる。


壁より大きな龍が、動き出したのだ。

その頭の上ではK・K・パーが仁王立ちしている。


パー「先ずは君達の動きを止める事にしよう」


パーの顔を見たメルはハッと気付く。

パーは塵の壁を四方に作り出し、動きを封じるつもりなのだ。


メル「スス、早くこの場から離れ……」

月龍「動くな!」


月龍の咆哮と共に、口から光線から放たれる。

それがメルの直ぐ側を通りすぎ、大地を焦がした。


メル「うわ!」

パー「もうメルの戦術のタネは明かされとる!

儂のやることが分かっても、月龍の動きを知る事はできんだろう!

『塵の(ダスト・コクーン)』!」


パーは魔法を行使し、塵の壁を四方から作り上げる。

そして塵の壁は空高く伸び上がり、繭を完成させた。


パー「ハハハハハ!

結局、儂の未来予知から逃れる事は出来なかったな!

何を言おうが、何をしようが、結局儂の見た未来からは」

スス「逃れられたよー♪」


パーの言葉を、壁の中に閉じ込めた筈のススが直ぐ側で遮った。


パー「!!?

な、なんで……」

スス「残念でした、私には超高速移動能力があるのよ!」

メル「使ったのは、コピーした僕の方だけどね!」


パーが見ると、自分の足元にメルとススが立っていた。

月龍の光によって、その後ろにある黒い線がはっきり見える。


パー「な、何故……!

そ、そうか、ススがメルに力を使うよう助言をしたのか…

だから儂の見た未来にはない行動をとれたのか!」


パーの視線はゆっくりと黒い線をおっていく。

線は繭を飛び越え、有るところで止まった。

それは魚人の足。しかし、何処にも塵はない。


パー「まさか……儂の塵の拘束を剥がしたのか!」

スス「正解♪」



パーの目がまるで月のように見開く。その目に映ったのは巨大な緑色の拳だった。


現古「シイイメエエサアアバアアアアア!!!!」


ズドオオオオン!!!


魚人の拳が、月龍の右頬に思い切り衝撃を与えた。


月龍「グオオオオオ!!」

パー「ウオオオ!

……っく!」


バアン、と月龍とパーの体が空中で停止する。

巨大な塵の山が出現し、何十メートルもある龍と小さな人間を止めたのだ。


パー「ちい……」『よくもやってくれたな!』『たかが魚人ごときが!』『ぶっ』ズシン!『やる!』


最後の文字を踏み潰し、魚人がズシン、ズシンと歩み寄ってくる。


パー「く…!

死ね、化け物め!」


ズズズ……!


パーは塵を操り、巨大な槍を出す。

そして魚人を貫こうと動き出したが、魚人が槍を踏み潰す。


バシン!


パー「ひっ!?」

現古「マアアアグウウウウロオオオ!!!」


魚人が咆哮し、ズシン、ズシンと音を立てながら歩み寄っていく。

そして魚人はパーのすぐ目の前を通りすぎていった。


パー「……え?」

スス「校長、一つ言い忘れていたわ!」

パー「!」


魚人の肩に乗ったススが叫ぶ。

その近くでメルが振り落とされないよう必死に掴んでいた。


スス「私はあんたを止めに来たんじゃない!

仲間を助けに来たのよ!」

パー「!」

スス「あともう一つ!

ゴブリンズは絶対貴方達に屈したりはしない!」

現古「タアアツウウノオオオ、」


現古は拳を振り上げる。

その下にいるのは、光の繭だ。


現古「オトシゴオオオオオ!!」


ズドオオオオン!!


魚人が光の繭を思い切り殴りつける。

そして繭にビシリ、とヒビが入った。


パー「!!

しまった!」

「……良く言ってくれたな、スス」


ヒビはビシビシと音を立てながら大きくなり、そして崩れ落ちる。


スス「リーダー!

助けに来たよ!」

メル「リーダー……?

ゴブリンズの!?」


メルはハッとしてススの方を見る。

そこにいたのは銀色の両腕の男だ。

彼は両手をあげ、笑顔をスス達に見せる。

そして、叫んだ。



アイ「ウオオオッシャアアアア!!!

ゴブリンズリーダー、『氷鬼』アイ、ふっっかああっつ!!!」

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