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角が有る者達  作者: C・トベルト
太陽の命と月の命。
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第68話 日食パート 怠惰が詠うカゴメカゴメ

パー「かーごーめ、かーごーめ♪

かーごのなーかのとーりーはー♪」


K・K・パーは子ども達と一緒に輪遊びをしていた。パーと子どもが手を繋ぎ、中心の人物を丸い輪で囲いながら「かごめかごめ」を歌っている。


パー「いーつーいーつーでーやーる♪

つーきーよーのーばーんーにー♪」

(ああ、子ども達と遊べるのはなんて素晴らしいんだ!

もっともっと遊んでいたい、もっともっと彼等の笑顔を見ていたい)


パーは歌を歌いながら、子ども達と一緒にくるくると回り続ける。


パー「つーるーとかーめがーすーべったー♪

うしろのしょうめん、だあれ…あれ?」


立ち止まった彼は気付く。

自分の左右にいる子ども達は皆大人になり、パーを見つめている。


パー「あ、あれ?子ども達…?」

大人1「パー校長、今まで有難うございました」

大人2「私達はこれから私達の夢に向かって歩いていきたいと思います」

大人3「ここまで育ててくれて、ありがとうございました」


そう言って、大人になった子ども達は皆パーの元から離れていく。

好きな人と共に進む者。

自分の夢に向かって歩む者。

まだ夢も何も決まらず、それでも広い社会に潰されないよう頑張る者。

みんなそれぞれ、何処かへ去っていく。そしてそれらの者達は皆誰一人として、パーに一度も振り返ろうとはしなかった。


パー「こ…子ども達…。

もう…儂と遊んでくれないのか…?もう、儂の事を見てくれないのか?

まだ君達に伝えたい事や話したい事はいっぱいあるのに、誰も儂を見てくれないのか?

わ、儂は…儂は、どうすれば…」


うしろのしょうめんだ・あ・れ?


「カルナマゴス・ノールド・パー!」


背後から声が聞こえ、パーは急いで振り返る。

先ほどまでうずくまっていた人物が立ち上がり、こちらを見ていた…それはパー自身だった。

しかし同じパーの筈なのに、その笑みという表情からは隠す気のないどす黒い感情がしっかりと見えていた。


パー『どうした、パー?

もう遊んでくれないのか?』

パー「か、彼等は大人になったのだ…もう、この遊びはできないよ。

…たった一人だけで、何ができるんだ」

パー『そうか、寂しいな』

パー「何を言う。また新しい子ども達がやってくる。

彼等の成長も見なければ…寂しいなんて言ってられないよ」

パー『だが君は昔遊んだ彼等の事を忘れられないのだろう?』

パー「…しかしそれは、素晴らしい思い出だ。

彼等から様々な者を貰った証だよ」

パー『それで?

その美しい思い出以外に彼等は何をしてくれた?

結婚した者は君を結婚式に招待したか?

夢を叶えた者は夢物語の中に君を登場させたか?

何も決められなかった者は君に何かを頼ったか?』

パー「…」


パーの姿をした何者かは、ゆっくりと、しかし確実にパーに近付く。パーは一歩一歩後退していくが…パーに似た何者かは言葉を止めない。


パー『君は、善き人…だが無知だ。

学校の外の事を君は何も知らないのだからな』

パー「…」

パー『学校、生徒…そして自分自身の事も…』

パー「…なに?」


そこで、パーは後退するのを止める。


パー『君は、君自身を…君の過去を知らない。君は預言者カルナマゴスの血を引いている君には、未来を知る力が秘められているのだよ』

パー「預言者…カルナマゴス…」


人の未来を導くパーにとって、預言者という言葉は彼の心を強く刺激し、身体中に染み渡っていく。


パー『これを渡そう』


パーのような何者かはパーに一冊の本を渡す。

古びた本ではあるが、その総称は未だに恐ろしい金色の光を見せていた。


パー『これは君の先祖、カルナマゴスが書き記した魔術や未来の事実が納められている。

先ずはこれを読み、様々な奇跡を理解するのだ』

パー「あ…ありがとうございます。

ですが、これでどんな奇跡を私に起こせるか…」


その光に吸い寄せられるように、パーはその本をまじまじと観察し、また顔をあげる。

そこに自分そっくりの影はいなかった。

しかし、誰もいない世界に影の声が響いてくる。


『その本の全てが理解できるようになった時、君はもう1つの本を見つけられるだろう。

その本にこそ、君が欲する奇跡が記されている。

人類全ての未来を決める奇跡が、な』


そして、それきり影の声を聞く事はなかった。

パーはしばらく佇んでいたが、やがて笑みを浮かべる。

それはまるで、新しい玩具を手に入れた子どものようであった。


パー「…ははっ……はははっ………ははははははははは、ははははははははは」


ハーッハハハハハハハハハハ!

ハーッハハハハハハハハハハ!


誰もいない世界で、一人の男が高笑いし、影は男の視界から姿を消した。

そしてK・K・パーは果心林檎や後に大罪計画の首謀者となる者達と共に不死を研究し始めた。


彼の能力は『未来視』。

素顔を見た人間の未来しか見れないが、永遠を生きる果心林檎の顔を見る事で、彼は何十年先の未来を知る事ができた。

しかし未来は不確定な存在であり、先を見れば見るほどその姿がぼやけていくのも確かだった。



そして、今。

多少不確定要素こそあったが、無事に不死の方法を手に入れたパーは、目の前に存在するススと言う名の小娘の顔を見た彼は、未来視で見た通りススのナイフを持った腕を大量の塵で切り裂いた……つもりであった。


パー「……な、ぜ、だ……?」

スス「っ痛……」


パーの目は真ん丸に見開いて呟く。目の前に未来視で見た通り、ススが倒れている姿であった。しかしそのナイフを持った腕は、傷1つ付いてない。

更にそこには、未来視には映っていなかった筈の人間の姿が映っていたのだ。


メル「く……大丈夫、ススさん?」

スス「……まさか、あんたに助けられるなんてね……」


ススはふらふらと立ち上がり、体についた砂を払いのけてからメルを睨む。


メル「う」

スス「あなたは、私が憎んでいる人間の一味には違いないの!

助けられたって、お礼の一つでも言うと思ったら大間違いよ!」

メル「ご、ごめんススさん…。

でも腕が切られると思ったから…」

スス「あのね、私は誰よりも速いのよ?あんな攻撃簡単に避けられたわよ!」


パー「ば…馬鹿な…?」

(今、確かに自分は未来を見て攻撃した筈だ。

未来を変える事は不可能ではない…が、数十秒先の未来なら、変える事は海の砂よりも小さな確率の筈だ…何故だ…何故私の攻撃は避けられたのだ…?)


パーは混乱しながらも、魔術を行使し手元の塵を集めていく。

そして彼はススの顔を見た。


バシュ!


スス『あんた、攻撃してきたって事は敵として見ていいのね!?』

パー『その通りだ。

最も、知った所で何も…』


パーはあらかじめ集めた塵をススに向けて放つ。

塵は一点に集中し、まるで槍のようになりススの膝に向かって飛んでいく。

ススは避ける事が出来ず、膝に塵の槍が突き刺さり動けなくなった。


スス『キャアアアア!』

パー『…何もできないがな!

ハハハハハハハ!』


バシュ!


未来視は閉じられ、現実の光景。

ススは未来視で見た通りの台詞を吐く。


スス「あんた、攻撃してきたって事は敵として見ていいのね!?」

パー「その通りだ。

最も、知った所で何も…」


パーはあらかじめ集めた塵をススに向けて放つ。

塵は一点に集中し、まるで槍のようになりススの膝に向かって飛んでいく。

ススは避ける事が出来ず、膝に塵の槍が突き刺さる直前、


メルが横からススを付き倒し、二人の足元を塵の槍が通り過ぎて、かわした。


パー「何っ!?」

メル「す、ススさん!

怪我はありまげふぅ!」

スス「お、女の子を押し倒すなバカ!」


顔を赤くしながらススは立ち上がり、パーを睨む。

しかしパーはススの姿は見えていなかった。


スス「…よくも、やってくれたわね!」

パー(バカな…一度ならず二度までも未来視と違う未来を見るだと!?

バカな…ありえん!何故、何故…!)


未来視が見えるパーは気付いていなかった。目の前にいるメルという少年がどんな力を秘めているのか、彼は知らなかったのだ。

だが闇の中で姿を隠していた果心林檎は気づいた。



果心(パーの能力が邪魔されている…そうか、メルはもう覚醒したのね、私達『大罪計画』が作り上げた、後天性能力…『傲慢』の能力)


果心は闇の中からメルを見つめる。メルはススにペコペコ頭を下げて謝っていた。


果心(『傲慢』がメルに託した力は『能力模倣』。

他人の力を自らの力に引き入れる強力な能力。

…その力で、パーの『未来視』を手に入れた…そして、その状態でパーの未来を視てしまった)


果心はギりッと唇を噛み締めた。


果心(パーがススの未来を視て行動するのをメルが未来視で見れば、メルは二人の未来を確認するが可能となる。

しかも、パーはメルの力に気付いていない)


果心は眉をひそめ、三人の様子を見つめた。


果心(もし未来を見る神様がいたら…これ程滑稽な戦いは無いでしょう。

未来視同士が一人の未来を中心に踊っているのだから)




そしてこの状況の中、三人のやり取りを見ていたのは果心だけではなかった。

光る繭の中で身動きが取れない彼等もまた、必死にこの状況を理解しようとしていたのだ。


アイ(な、なんだ…あのメルって少年…未来が見えるパーの攻撃を、二度も防いでやがる!

俺達は一度もあいつの攻撃を防げなかったのに…あいつも未来が見えているのか?)


アイはススとメルを見て、微笑んだ。


アイ(これは…)

ハサギ(行けるかもしれない!

ススとメルの力なら、パーに勝てるかもしれない!

たとえ果心を捕まえる事が出来なくても、パーを捕まえればそこから様々な情報を聞き出せる!

…だから、早く俺もでないと!)


ハサギは光る繭を睨み付けた。


ハサギ(早くあの二人の側に行きたいのに、邪魔だなこいつ!)

現古(何とかして出られないのかウナギ!

儂もあの二人の力になりたいタツノオトシゴ!)


現古文々斎は繭の中でじたばたと暴れるが、繭はびくともしない。


現古(パーもパーだクジラ!

子ども好きの癖に少年少女を傷つけようとするんじゃないイルカ!

あいつ、一発殴らないと気が済まないジュゴン!)

ルトー(その為にはまず力を蓄えなくちゃ!)


ルトーは繭の中で自分が着ている宇宙服を改造していた。


ルトー(僕は隠れ鬼ルトー!

僕は隠れてこそその力を発揮するんだ!

見てろよ、今にこんな繭を破ってやる!)

サイモン(そして…そして、今度こそ守るんです! 私の部下を!私の生徒を!私の仲間を!

私の手で、守って見せるんです!)


サイモンは何度も何度も繭を殴り続けた。


サイモン(彼等を守るなら、たとえこの身が砕けても構わない!)


繭の中にいる者達は皆、少しずつ希望を抱いていた。

そしてその希望が、彼等を動かしていた。

しかし、果心林檎だけは違った。



果心(…こういう時、普通の人は驚くんでしょうね。

『なんであんな事ができるんだ』『もしかしたらこの状況が変わるんじゃないか』『希望はまだある』…って。

でも、私は違う)


果心は自分の唇を噛み締めながら…涙を流した。


果心(悲しい…私が思うのは悲しみ。

これで、メルヘン・メロディ・ゴートは誰よりも強い存在となれるようになった。

…それは同時に、誰とも肩を並べる事が出来なくなったという事。

いずれ、私と同じ苦しみを背負う事になる)


果心の手は震えていた。しかしそれは悲しさからではない。

これから自分が決めなければいけない事に覚悟する事への恐怖が、彼女の手を震わせていたのだ。


果心(出来れば私は、他人にこの悩みを背負わせたくは無かった。

だが…だが、こうなれば仕方ない。私は、パーがくれた希望を捨ててでも…メルの前に立たなければいけない…『罪は希望に変わる』…それを、証明する為に…… )


果心の手は自然と腰に差した日本刀の柄に触れていた。

いつでもメルを殺すために、果心は明確な殺意を抱いて、日本刀の柄を掴んでいた。





そして、肝心のメルは何を考えていたのかというと、ただ驚いていた。

理由は当然、急にパーの動きが読めるようになったからだ。


メル(な、なんで急に相手の動きが読めるようになったんだろう?

…そうか、これが『勝負の勘』という奴なんだな!

だから相手の動きが分かるようになったんだ!そうにちがいない!)


メルは何にも分かっていなかった。

だが、だからこそ目の前の敵に集中できた。

そして、敵の力に気付いていないのはパーも同じだった。


パー(何故だ、何故儂の未来が見えるんだ!?

分からない…だ、だが…)


パーはチラッと闇を…闇の向こうにいる果心林檎に目を向けた。


パー(果心様の希望…絶対に奴らに触れさせてはならない…絶対に…絶対にだ!)


パーはその身を奮い立たせ、拳に力を入れていく。

そして、メルの顔をハッキリと見た。




メル「勘が冴えている今なら、僕でも勝てるかも…、よし!

行けるぞ!」


そしてメルもまた、パーの顔を見た。

二人が顔を見たのは、全く同時。

二人は全く同時に、未来を見た。


バシュ!


メル『うわああああ!』

スス『きゃああああ!』

パー『があああああ!』


二人が見た未来の姿。

それは、光の線が三人を包む姿だった。


バシュ!


二人「!」


未来が見えた二人は同時に見上げると、そこには巨大な光の繭が存在していた。


メル「な、なんだあの繭は…!」

パー「あれは月龍が入った繭!」




月龍(ぐ…う…!

動けん、この繭から出られない…!

これでは果心様を助けられない!)


月龍は、太陽の力を蓄えた龍の事である。

その龍が存在するからこそ、暗闇に閉ざされるこの結界も明るく照らしているのだ。


しかし今、月龍は光の繭から出られない。

だが、その口には莫大なエネルギーが蓄えられていた。


月龍(たとえ…動けなくても…この光のエネルギーなら…奴等に一撃を入れられる筈だ…!)


パリパリ、と月龍の口からエネルギーが漏れ始めている。


月龍(くくく!

この光を浴びればその中は数千年分の時間が進む!

これで奴等を一網打尽にしてやるぞ!!)


そして、閉じた口がガパッと開いた。

と、同時に膨大なエネルギーが放たれ、光の繭に激突する!


バシイイイ!


月龍(我の全エネルギーを賭けた一撃だ!

こんな繭、すぐ壊してやる!)


そして、月龍の思惑通り段々繭にヒビが入っていく。


ピシッパシッピシパシッ


そしてその様子は下からも見えていた。



スス「え?

繭が壊れて…」メル「に、逃げろ!

強力なエネルギー波が来るぞ!」

スス「え?」


メルはススの手を掴み、急いで逃げ出した。

パーはもう遠くまで逃げている。


パー「あのドラゴン、何をやらかす気なんだ!?」



月龍「吹き飛べ!!」


バリイイイン!!


繭が割れ、強力な光線が大地に向かって降り注ぐ。


バアアアアアアアアアアアアア!!!


メル「うわああああ!」

スス「きゃああああ!」


二人は叫ぶ。

しかしそれは光線の衝撃のせいであり、光線そのものには当たっていなかった。

またもや未来は変えられたのだ。


しかしこの時、2つの恐怖が襲いかかってくる事に誰も気付かなかった。

一つは、月龍という強力な戦力が現れた事。

そしてもう一つは、今の光線が光る繭の一つに降り注いでしまったという事に…。

繭が、バリバリと音を立てて割れていく。


その中から出てきたのは…。


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