第67話 日食パート 白山羊&黒山羊VS高鬼
結界の外、学園正面玄関前道路は今、白山羊、黒山羊とシティの戦いが始まろうとしていた。
ダンク「あーあ、あの機械女、シティを怒らせちまった。
どうなっても知らねーぞ?」
ダンクは呑気に言いながら自分達の周辺や民家に呪文で結界を張っていく。
ペンシはそんなダンクに対して吠えた。
ペンシ「止めろ…犯罪者の分際で私達を守るな!」
ダンク「憎まれ口にはなれてるから別にいいけどさ。
お前さん、あまり喋らない方がいいぞ?傷に響く」
ペンシ「な、何を言って…ぐ!」
言いながらペンシは腹部を押さえていた。
しかし押さえた右手も血で真っ赤に染まり、殆ど意味が無い事を現していた。
ダンク「ったく…わざわざシティが一人で戦うようにしたのは負傷したお前等を守るためだって、
まだ気付かねーのかよ」
ペンシ「…うるさい!貴様みたいな犯罪者に助けられたくなんかない!殺せ!」
ダンク「あー残念、俺は犯罪者だから他人が悔しがる顔見るのが大好きなんだよなー♪
というわけで治療魔法治療魔法っと」
ダンクは憎まれ口を言い続けるペンシやケシゴに魔法をかけていく。
魔法をかけながら、ダンクは背後に立っているシティを心配していた。
ダンク(シティ…本気で一人で戦う気なのか?
アイツ等は只の機械なんだぞ?
人を殺す事に何の考えも持たない怪物なんだぞ?
それでもお前は、一人で戦うのか?…コイツらを守るために)
白山羊「…本当に一人で私達と戦う気ですか?
たかが人間、僅か9mmの弾丸で命を落とせるというのに」
シティ「あなたこそたかが2対1で勝てると思ってんの?
今なら赤山羊青山羊ピンク色山羊を呼んで来てもいいのよ?」
白山羊「…そんな変な色の山羊はいません」
白山羊がそう言いながら構えたのはMP40、短機関銃と先程も使用した突撃銃AK−74Mだ。
短機関銃を左手に、突撃銃を右手に持っている。
対して黒山羊は拳をわしゃわしゃと動かしている。
あの拳で、虎や壁を破壊していたのをシティは知っていた。
黒山羊「メエエエ…」
シティ「パワーありそうねー。どこまで戦えるのかしら?
私の見立てではあなたは…」
白山羊「…」(バカな奴。
私が礼儀礼節を守って戦いの合図が出るのを守っていると思ってるの?)
シティが話している間に白山羊は静かに短機関銃を構えた。
そしてなんの躊躇いもなく引き金を引く。
カチャダダダダダダダダダダダダ!!!!
短機関銃の銃口が火を噴き、1ダース分の9mmパラメラ弾がシティの腰や足元に向けて飛び出していく。
機関銃は元々狙いがつけにくく正確な射撃には向いてない。
派手な銃声や足元に撃つ事で敵の動きを足止めしたり、遮蔽物を破壊するのに使われている。
そのため白山羊はシティが慌てて逃げる事を予測し、足元に向けて撃ち込んだのだ。
しかし足元に向けて撃ち込んだ白山羊は シティの表情がずっと鬼のように笑っている事に気付かなかった。
そして、弾丸とシティの体まであと数十センチという所で、突如現れた。
厚さ十センチ、大きさ3メートルのコンクリート板が出現し、弾丸はそれを貫く事ができずに僅かに壁を抉る事しか出来なかった。
白山羊の目が見開き、シティが壁の後ろから明らかに愉悦を含ませた声で喋る。
シティ「話している間に攻撃…流石は道具ね、容赦なし!
だけど残念無念…たかが10mm以下の弾丸じゃ私は殺せないよ」
白山羊(…。
やはり壁を造りましたか)
白山羊は冷静に対処する。
彼女はアンドロイド…その頭脳は機械で出来ているのだ。
彼女は黒山羊やメルに対しては人間的な性格を見せるが、それはあくまで対象が『主』であり『同種』だからだ。
その他の存在に対して彼女は完全に機械的な対処をする。
今回は『どうすれば壁を造る彼女を殺せるか?』だ。
シティ「でもねえ、私を倒すにはまだまだ温いわねえ。
怪物ならもっと強い攻撃を…」
白山羊(あの壁の出す速度は今ので判明した。
それならどうすれば…)
彼女の壁は硬く、厚いがしかし弱点もある。
それは壁が固定されていない事。
固定されていない壁はどんなに硬く厚くても、ほんの僅かな横の力で倒れてしまう。
白山羊(貫けないならば、衝撃を与えればいい)
白山羊は掌の特殊物質移動装置を起動させ、短機関銃と突撃銃を消す。
その代わりに登場させたのは、対戦車ロケット砲RPG−7。
別名スーサイドウェポン(自殺兵器)。
その名前の理由は一度使えばおしまいで、相手にバレてしまいすぐに撃ち殺されるから…であるが、白山羊はこの一撃でシティを確実に殺すつもりだった。
白山羊(RPG−7の爆風なら固定されていないコンクリート板を吹き飛ばし、後ろに立っているシティを自分の板で轢き殺す事ができる)
カチッ
バシュウウウウウ!!
白山羊はなんの躊躇いもなく、引き金を引いた。
それと同時にロケットブースターが点火し激しい後方噴射を撒き散らしながら弾頭は発射し、真っ直ぐコンクリート板に向かって飛んでいく。
白山羊(これで終わり)
白山羊のコンピューターで出来た頭脳は100%の勝利を確信させた。
しかし弾頭がコンクリート板に直撃する前に、コンクリート板からコンクリートで出来た杭のような物が飛び出してきた。
白山羊(!?)
杭はコンクリート板を突き刺したまま弾頭に向かって飛び出し、
衝突する。
バガアアアン!!
そして、爆発した。
爆発したが、コンクリート板を突き刺した杭は止まらず、真っ直ぐ白山羊へ向かってくる。
白山羊(な…!?)
黒山羊「メエエエエエエ」
その瞬間、すぐ近くで立っていた黒山羊が白山羊と杭の直線上に立ちはだかる。
白山羊(!?)
黒山羊「エエエエエエエエエエエエエエ」
叫んだまま黒山羊は両足で地面を思い切り踏み抜き、両腕を胸の前で交差させ、杭に備える。
そして、コンクリート板を突き刺した杭が黒山羊の両腕を突き刺し、ズシャズシャという音が響いた。それでも黒山羊の叫びは止まらない。
黒山羊「エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」
地面がガガガガ、と音を立てて割れていき、白山羊と黒山羊の距離はどんどん近づいていく。
しかしここで黒山羊が更に全身に力を入れた。
黒山羊「エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」
バアアアアアン!!
黒山羊は持てる力の限りを尽くして両腕を降り下ろす。
杭の横に飛ぶ力はそれに対抗できず、真下に…地面に叩きつけられ地面のコンクリートもろとも粉々に砕け散った。
ダアアアアアアアン!!!
あまりの衝撃に砂埃が舞い、辺りの景色が見えなくなる。
しかし白山羊の視線には、両腕に穴を開けた黒山羊の姿が見えていた。
白山羊「黒山羊…大丈夫ですか!?黒山羊!」
黒山羊「メ…エ…両腕、破損…。
『シェロニアの蘇生』、起動」
黒山羊が宣言すると、腕の穴が少しずつ修復されていく。
黒山羊の持つ能力の一つ、自己修復能力が発動されたのだ。
パキパキと音を立てて修復されていく腕を見た白山羊は、
ほんの僅かに安堵した表情を見せた。しかしその表情は一瞬で消え失せた。砂埃の奥から敵の声が聞こえたからだ。
シティ「アハハハハハハ!!
無様ね、ほんっと無様!
礼儀礼節を知らないバカな道具じゃその程度の行動しか出来ないでしょ!
見なよ、あんたの相棒の惨めな傷をさ!」
白山羊「黙りなさい…」
白山羊は弾頭の無いRPG−7を仕舞い、対戦車ライフル九七式自動砲を取り出す。
60㎏はある化け物銃だが、白山羊は右手でそれを持つ事ができる程の握力を持っている。
一撃で戦車の装甲に穴を開けられるライフルが、砂埃に向けられた。
白山羊(砂埃で姿は見えずとも、今の高笑いのおかげで場所は分かる!今度こそ奴の体を撃ち抜いて)
シティ「まだ私を攻撃する気?
まあいいけど、もう私の攻撃は始まってるわよ。
…死にたくなければ上を見なさい」
白山羊「…?
死にたくなければ?」
白山羊はその言葉につられ、砂埃から上の方に目を向ける。
そして白山羊の視界に入ったのは、自分に向かって落ちてくる何十本もの電柱だった。
白山羊「!?!?」
シティ「電柱攻撃…『ハイイロノアメ』。
『道具』を名乗る愚か者よ、感情無き道具によって潰されて醜く死ね!」
シティの宣言と同時に数十本の電柱が次々に大地に突き刺さっていく!
ズドズドズドズドズドズドオオオオン!!!!
シティ「アハハハハハハ!たかが道具ごときが私を殺せると思ったの!?
私を殺していいのは怪物か大怪物だけよ!
アハハハハハハ!」
ダンク「大怪物ってなんだよ…」(まったく、ヒヤヒヤさせる戦い方をするな、シティは)
ダンクは治療魔法をかけながらも様子を見ていた。
その側では治療魔法を終えたペンシがシティ達の戦いを見ていた。
ペンシ「な、なんだアイツは…?
あんな一瞬で、なんて恐ろしい戦い方をしているんだ…」
ダンク「へぇ、お前は見えるんだ。
…ああ、『武道の天才』だもんな。
目はいいか」
ノリ「ぼ、ボクには何がなんだか分からないッス…」
ダンク「大丈夫だ。俺にも見えなかった」
ノリ「あんたも見えなかったンスか!?
今すっごい見えたような言い方してなかったッスか!?」
ダンク「だって俺文化系だもん。
あんなんついてけねえよ 」
ペンシ「…なあダンク、一つ聞いていいか?」
ダンク「なんだ?」
ペンシは高笑いするシティを見ながら訪ねた。
ペンシ「シティは…なぜ、ゴブリンズにいるんだ?アイツのあの力は全てGチップによるものだろう?
ゴブリンズはGチップを壊滅するために創立された組織…これでは、わざわざ自分の最強を否定しているものではないのか?」
ダンク「………さぁな。
そこら辺の理由は、シティを自力で捕まえた時に聞いとけ」
ペンシ「……私は、お前等が、ゴブリンズが分からない。
犯罪者の癖に、やたらと人の為に動きたがる。
…なぜだ、なぜなんだ…?」
ダンク「それは…簡単な理由さ」
色鬼はフッと笑った。
ダンク「『小鬼達』は、人間にちょっかいを出すのが大好きなんだ。
その人間がいなければ、イタズラなんか出来ないからな」
ペンシ「……そうか、なんだか、幼稚な理由だな…」
ダンク「俺もそう思う。
よし、これで治療魔法おしまい。
さっ、捕まえたけりゃ捕まえな〜」
ダンクはおどけた口調で話ながら立ち上がった。
ペンシはくくっと笑う。腹部の傷は癒え、血の跡や洋服の穴まで元通りになっていた。
ペンシ「…ああ、必ず捕まえるさ。
必ずな…」
ペンシはそう言いながら、シティ達の方に目を向けた。
白山羊「ぐ…!
あれ、生き、てる…?」
白山羊は思わず自分の体を見つめた。
確かに自分の上空から数十本の電柱が降り注いだ筈だ。
あの雨から逃れられる筈が…そう考えた所で、白山羊は気付いた。
自分を誰かが電柱の雨から弾き出してくれたのだ、と。
そしてそれができたのは、一人しかいない。
白山羊「…まさか」
白山羊は立ち上がり、辺りを見渡し、電柱の林を見つける。先ほどのシティの攻撃によってできたものだろう。
そして自分のすぐ側に電柱の林に向かって走り出す。
白山羊「!」
そして気づく。
電柱の林の中に隠れてしまった、黒山羊の腕を。
しかし、そこから先は電柱の林の密度が高過ぎて中の様子が伺えない。
だが、白山羊のコンピューターでできた頭脳は理解する。
黒山羊からの生体反応がない事に、無慈悲に気付いてしまう。
白山羊「く……ろ……や……ぎ……」
ボンっと音が聞こえて砂埃から鉄板に乗って空を飛ぶシティ。
シティ「アハハハハハハ!
どう、道具!!
あんたら程度の力で私が倒せるわけな…」
カチ!
カチカチカチカチカチカチカチ!
シティ「?
なに、この音…」
白山羊「シティ(カチカチカチカチ)」
白山羊は静かに立ち上がる…筈なのに、その体の何処からか何かがずれて、噛み合っていく音が聞こえてくる。
白山羊「さっきあなた言いましたね(カチカチカチカチ)私を倒したければ怪物か大怪物になりなさいと(カチカチカチカチカチカチカチカチ)」
シティ「…!」
白山羊「分かりました(カチカチカチカチ)なってあげましょう、大怪物に(カチカチカチカチ)」
カチン!
白山羊が言い終えたその瞬間、音は消えて、静寂が空間を支配する。
しかし次の瞬間…。
シティ「!」
ズパ!ズパ!ズパ!ズパ!ズパズパ!ズパズパ!ズパズパ!
辺り一帯の電柱が切り裂かれ、地面にまるで巨大な怪物の爪痕のような線ができる。
シティ「!?」
白山羊「山羊や羊の体毛は何故あんなに厚いか知っていますか?」
ズパ!ズパ!ズパ!ズパ!
白山羊が話す間にもどんどん電柱や大地が何もないのに切り裂かれていく。
そしてダンクが張った結界にどんどんヒビが入っていく。
ダンク「え?え?えええ?
なんだ、何で結界が壊れていくんだ?
きょ、強化、結界強化〜!!」
ノリ「な、なんなんスか〜!?」
白山羊「それは切り立った岩山で暮らす際、落石や急激な温度差から身を守るため…あの毛は鎧であり武器なのです」
シティ「へぇ…それで、その豆知識がどうして今出てくるのかな?」
シティは笑みを浮かべながら話す。
ガラガラガラガラ…
やがて、電柱や大地が粉々に砕かれていく。
黒山羊の腕もその瓦礫に呑まれ、消えていった。
白山羊の腰まで届く長い白い髪の毛がゆらりと浮かび上がった。
白山羊「そして私の白い髪も同じ武器なのです。
シティ、見せてあげますよ。
あなたが言う大怪物の力を…」
ざわざわざわざわざわ、と白髪が蠢くその中心で、白山羊はまるで悪魔のような笑みを見せた。