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角が有る者達  作者: C・トベルト
太陽の命と月の命。
64/303

第65話 日食パート そして物語は混ざり合う

光も大地もない、真っ暗な世界。

何もかも全て闇に呑まれてしまったその世界の中で、一人の少女が歌を歌う。


♪しろやぎさんからおてがみついた♪

♪くろやぎさんたらよまずにたべた♪

♪しかたがないのでおてがみだした♪

♪『さっきのてがみのごようじなあに?』♪

♪くろやぎさんからおてがみついた♪

♪しろやぎさんたらよまずにたべた♪

♪しかたがないのでおてがみだした♪

♪『さっきのてがみのごようじなあに?』♪


ダンス『また その歌を 歌っているのか』


突然少女の側に道化師が現れる。

少女は驚いた様子を見せず、歌を止めて道化師のほうに目を向けた。


カスキュア『私ね この歌が大好きなの。

いつまでも歌う事が出来るし どこまでも同じ歌詞が続いているから 全く飽きない』

ダンス『同じ歌詞が続いたら飽きないか?』

カスキュア『考える事が楽しいのよ。

しろやぎさんは何を考えながら手紙を書いているのか?

くろやぎさんは何で手紙を食べてしまうのか?

最初の手紙は一体何だったのか?

歌えば歌うほど謎が増えて とっても楽しいわ〜♪』


楽しそうに笑いながら答えた後、カスキュアは鼻唄で「やぎさんゆうびん」の歌を再開する。


ダンス『 いいのか?

奴ら 結界の中に入り込んだぞ』

カスキュア『〜♪

気にしない気にしない。

気にしたって私達に出来る事なんてないでしょ?』

ダンス『 まあ それもそうか。

俺は少し地上が気になるから 水晶で覗いていよう』


ダンスはそう言うと、自分のポケットから水晶を取りだし中を覗き込む。

そこに映ったのは、倒れ伏したアイだった。





〜学校の中庭〜

和服に着替えた果心林檎は、中庭の中心でぶつぶつと呪文を唱えていた。その側でこの学校の校長であり怠惰計画の責任者、K・K・パーがしわくちゃの顔をニヤニヤと歪ませていた。その側では塵や埃がぐるぐると動き、パーの思考を言葉にする。



パー「流石果心様だ。

あんな強力な隠し札を持っていたなんて」『きれいだなー』『かたこいいなー』


パーが空を見上げる。

そこには金色の細長い龍が悠々と結界内上空を飛び、まるで月のように照らしていた。


パー「おーおー、美しい龍だ。

流石果心様が作り上げた龍ですなあ。

……それに引き換え、お前達は随分無様に落ちたものだ」『愚かだねー』『哀れだねー』


パーは目線を下に下ろす。

そこにはハサギと現古が倒れ、その横でルトーが地に伏している。

サイモンは皆から離れた所で大の字に倒れ、アイは果心の側で体を震わせつつも、動く事は出来なかった。


パー「クカカカカカ、こやつら本当に馬鹿ですなあ。

初めから面倒事に付き合わずさっさとここから出れば、こんな面倒な目に会わずにすんだものを…」『馬鹿だねー』『アホだねー』

アイ「だ…ま…れ…」


パーの言葉を、アイが遮る。


アイ「お、俺はまだ…戦えるぞ…」

パー「あー?

その状態で何いってる?」『死にかけの癖に』『ズタボロの癖に強がんなよ、バーカ』

アイ「だ…ま…れ…」


アイは機械でできた左腕に力を入れて立ち上がろうとする。

しかしその左腕は次の瞬間、

粛、という音と共に両断された。

果心林檎が日本刀でアイの左腕を縦一文字に切り裂いたのだ。


アイ「ぐ!!」

果心「大人しく寝ていなさい。

愚か者。

所詮貴方では私には勝てないのよ」

アイ「それは…どうかな…?」

果心「…」


アイは素早く右腕を果心に突き出し、掌の射出口から何かを発射した。

果心はそれを一瞬で切り捨てようと刀を振り上げて…止まった。

何故なら右腕から飛び出したのはアイ特有のアイスボムではなく、

ただの鬼のぬいぐるみだったからだ。

鬼のぬいぐるみは果心の目の前を通り過ぎ、足元に落ちる。

そしてそのまま、何もうごかなかった。


果心「…?」

アイ「……ヘッヘッヘッ、ゴブリンズアイ特製の、鬼のぬいぐるみだ。

どうだ、可愛いだろう?」

果心「…!」


果心はぬいぐるみを乱暴に掴み、適当に投げ捨てる。


アイ「…へへっ、マジになってやがる。ばーかばーか」


キィン!


果心は刀を鞘に収めた。

そして刀が入って重量が増した鞘を両手で持ち勢いよくアイの頭を叩きつける。反動で浮かび上がった鞘に更に力を込めて何度も何度もアイの顔面を叩きつけた。


グシャ!グシャ!バキャ!グシャ!バキャ!グシャ!


パー「えげつない…」

果心「…愚か者め…。

黙って寝ていればいいものを!」

アイ「が…………は…………」


ようやく鞘の攻撃を止めた時、アイの顔面は陥没、骨折、痣、たん瘤により酷い姿になっていた。

果心は更に鞘から刀を抜き、刃先をアイの首に突き立てる。


アイ「…………」

果心「私は今回の戦い、あくまで死人は出さないつもりだった。

だが、あなたは別だ。

血染め桜と繋がりのあるあなたは、殺さなければならない」

パー「果心様…?」


パーは不意に、果心の様子に違和感を覚えた。

果心様は死を憎み、誰よりも生きる事に執着していた。

たとえ自分を殺そうとする者が現れても殺意の恐ろしさを伝える事のできる、優しさという人間らしさを捨てられない女性。

だが今の果心は、アイを殺そうという意志を持っている。

あれだけ大事にしていた優しさを捨ててまで、果心はアイを殺そうとしているのだ。

しかしかといって、パーには敵を生かす理由などないため果心の行為を止めたくは無いが、違和感が彼の口を動かした。




パー「果心様、何故そいつを殺すのですか?

果心様の目的は全人類の死からの解放のはず。

薄汚い事なら儂がする。じゃから刀を納めてください」

果心「……駄目だ、こいつはここで殺す!」


果心は溜め息をついた後、勢い良く刀をアイの首めがけて降り下ろす。

その瞬間、果心が放り投げた鬼のぬいぐるみがひとりでに浮き上がり、アイと日本刀の間に飛び出す。


果心「!!」

パー「なに!?」


ガキン、と刀が弾け飛ぶ。

ただのぬいぐるみに日本刀が弾かれたのだ。

しかしそのぬいぐるみは次の瞬間、目映い光を放ち、あまりの目映さに全員思わず目を閉じてしまう。しかしパーは、体中に突き刺さるような痛みを感じた。


果心「なんだ、この眩しさは!?」

パー「い、イタイイイイイ!!」『ヤメテエエ……』『キエル、キエテシマ……』


パーの心を言葉に変えてきた塵や埃が次々に消えていく。

いや、塵や埃だけではなく倒れていった仲間や金色の龍や学校がすべて輝きの中に呑まれ、何処かへ消えてしまう。

ただ、その中でアイの口だけは下弦の月のように笑っていた。

そして、眩しさの中で女性とも男性とも取れる声が響いてきた。



み じゅ く も の



果心「うわあああああああ!!!!????」



しばらくーー果心にとっては長い時間の後ーーようやく、ゆっくりと目を開けた。


果心「……!?」


そこは真っ白い空間だった。

何処までも何処までも真っ白な空間。右にも左にも何もない、ただひたすらに真っ白い空間。

すぐ下で倒れていた筈のアイの姿もない。


果心「これは…この力は…この魔法は…『スコプツィのホワイトガーデン 』!?

こんな強力な世界具現化の魔術、見たことない!」


果心は両手で刀を持ち、真っ白い空間に向かって構える。


果心(スコプツィのホワイトガーデン…またの名を、『素晴らしすぎる理想郷』。

強力な結界で、使用者に仇なす者には白い空間の幻を見せ、更に使用者に味方する者には強力な結界と治癒を施される…強力な結界魔法)


果心は一度目を閉じて、意識を集中させる。


果心(こんな強力な魔法、そう易々と使える技ではない。

易々と使える奴は…あいつしかない )「血染めざくらああああ!!!」


果心はカッと目を見開き、日本刀で何もない空間を一閃する。


ピリッと、何もない筈の空間に亀裂が走る。

それは瞬く間に広がっていき、遂に真っ白い空間を切り裂いた。


ガシャアアアアン!!


アイ「!?」

パー「!?」『結界が…』『割れた!?』


まるでガラスのように粉々になって割れていく真っ白い空間を果心は一瞥したあと、改めて直ぐ下を見る。


そこにはアイが先程と殆ど同じ状態で寝転がっていた。

ただ二つ相違点があり、一つは先程の顔面の傷が治癒されている所。

もう一つは、全身を白い結界が覆っている所だった。

果心は何の躊躇もなくアイに向けて刀を降り下ろす。

しかし、今度は結界に阻まれ動きが取れない。


果心「……!!

また、結界が…」

アイ「へっへっへ…何とかなったみたいだな」

果心「黙れ!

おのれ、血染め桜め…私の邪魔をして!」

パー「お、落ち着きなされ果心様…」

果心「黙れパー!

お前に私の怒りがわか…!」


そこまで言いかけて、果心は二つの違和感に気づく。

一つは果心より少し離れた所で気を失っているアイの仲間達。

彼等にもまた、白い結界が施されていた事。

そして二つ目は上空。

果心がゆっくりと上を向くと、すぐにその違和感の正体に気付いた。


月龍『ぐ…お、お、おお… な、何だ…この…光…は…?』


月龍が白い結界に閉じ込められていたのだ。

果心にとって好きな輝きを見せてくれた月龍は今や、白い光に呑まれ身動きを取れなくなっていた。


果心「月龍!!

そんな…私の、私の美しき月の光まで、奴に奪われたというの…?

あの桜に!?」


驚愕する果心の心に、先程の声が頭を掠める。


み じゅ く も の



果心「〜〜〜〜〜ううううあああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


果心が吠える。

先程まで自分が完全に優位だった筈なのに、一瞬で全て覆された。

その怒りが、彼女を咆哮させたのだ。しかし、咆哮したのは果心だけでは無かった。


パー「果心様!!

落ち着きなされ、果心様!!」

果心「黙れパー!!あいつを…血染め桜を殺して」パー「果心様はもう血染め桜に勝っておられる!」


パーの再度の咆哮。

それは果心の怒りを緩めた。


果心「なに!?」

パー「果心様は既に勝っておられるのです!

我等の悲願は不老不死の法を手に入れ、世界中の人間を不老不死にする事!

その為にクァチル・ウタウスを捕まえたのではないですか!

後は我等の家に戻り、不老不死の法を調べ、それを世界にばら蒔かせるだけでいい!

奴等は所詮、嫌がらせしか出来ませぬ!」

果心「パー…だが、奴等は私が殺」パー「なりませぬ!

果心様、貴方はこれから世界の救世主となられるお方!

貴方の美しき姿に殺人の汚点など必要ありませぬ!

ここは部下であるパーにお任せ下され!」

果心「!?」


果心はパーを睨み付ける。

パーは恭しく果心に一礼した。


パー「我が名はカルナマゴス・ノールド・パー。

永遠の楽園を望み、永遠の主に忠誠を誓う者。

主よ、我がいる限り安心して眠りたまえ。

我は『怠惰』。永遠の安息を主に約束しましょう」

果心「パー…」


果心はしばらくパーを見つめていた。しかしその目に先程の怒りはない。


果心「…そう。その通りよ、パー。

貴方は私の為なら、自分が育てた学校すら捧げる事が出来る人間だもの。

次は私に『安らぎ』を頂戴」

パー「有り難き幸せ!」


パーはもう一度礼をしたあと、アイに向けて構える。


アイ「ま、待て果心!

俺との戦いの決着はついてないぞ!くそ、動け!」


アイが倒れたまま叫ぶ。

動こうとするが、白い結界が邪魔をして体が動かない。


果心は左手を翳すと、その先に真っ暗な空間が現れた。


果心「…それでは、任せるわよ、パー」

パー「はは、御」


グラグラグラグラっ!!


意、と言い切る直前に大地が大きく揺れた。ぐらぐらと大地がゆれ、アイは地面と結界に何度も叩きつけられる。


アイ「いででで!

また地震かよ!?」

果心「地震…?

いや違う、これは一体?」

月龍『!?

結界を誰かが攻撃している!

バベルと崑崙め、負けたのか!?』


そしてまた揺れ動き、月龍の上空で何かが爆発する音が聞こえる。



グラグラグラグラっ!

バァン!!


月龍『しまった!

結界に穴が…何者かが内部に侵入した!』

果心「何だと!?」


果心は穴を閉じて、上空を見上げる。パーもアイもそれに続いた。

暗闇の奥から、二人組の声が聞こえる。


「うわわわわわわっ!

落ちる落ちる〜〜!」

「バカ、貴方空飛べるんじゃないの!?」

「それが出きるほど、まだこの力を使いこなしていないよー!」

「イヤアアアアア!

私、まだ死にたくなああい!」

「とりあえず僕に捕まって!

硬化!!」


アイ「なんだ…何処かで聞いたような声が…?」

パー「はて、儂もこの声を聞いた事があるような…?」

果心「……」


上空から落ちていく何かは奇声を上げながら、近くの地面にズドンと音を立てて落下する。


砂埃が舞うが、パーは急いでそれを操り正体を確認する。


パー「!?

お前は…メルヘン・メロディ・ゴート!?」

メル「あ、あはははは…僕達生きてる…?よ、よかった〜!」

スス「く、くぅ…!

この前は上空200メートルから電柱に乗って落下…。

今度は、今度は男に抱きついて落下なんて…!

最悪だああああ!!」

アイ「スス!?

それに…メルヘン・メロディ・ゴート!?

なんで二人がここに!?」

果心「…メル…」



生と死。

怠惰と戦争。

現実と幻想。

サーカスと魔術師。

キーマンと元凶。

隊長と隊員。

教師と生徒。

鬼と桜。

過去と未来。


決して出会わない筈の白山羊(オヒサマ)黒山羊(オツキサマ)が出会ってしまった。


何が起きるか、それは誰にも分からない…。

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