第62話 本当の太陽パート かくて少年は強くなる。
メルの夢の中・『ピンクの象とジャングルジムの世界』
ズゥン、ズゥンとピンクの象が細いジャングルジムの上を歩いている。
そして、象の背中には自称『ダンス・ベルガード』と自称『魔法美少女カスキュア』、そしてメルの三人が乗っていた。
メル「僕の知らない能力?
僕の能力はコピー能力以外にもあるの?」
カスキュア「コピー能力?
ああ、ススと戦った時に使われた力の事ね。
あれはね、『後天性能力』よ」
メル「?」
カスキュア「うーん、ちょっと科学の授業をしないといけないわね。
チャンチャカチャーン!
魔法美少女カスキュアの科学教室の、始まり始まり〜♪」
カスキュアが歌うとダンス・ベルガードが適当にハンドベルを鳴らしていた。
カランカランカランカラン♪
メル(あのハンドベル何処から出したの?)
カスキュア「はい、突然ですが問題です!
『人間はどうして突然、超才能や超能力に目覚めたのでしょう?』」
メル「…僕の祖父が開発したGチップ…」
ピンポンピンポンピンポーン♪
ダンス・ベルガードが木琴を叩いている。どうやら彼は効果音担当のようだ。
カスキュア「はい、正解でーす♪
まあ、世間的にはゴルゾネス・トオルなんていう超おバカな奴の名前だけど、
あなたはそのひっかけに引っ掛からなかった!」
魔法美少女は楽しそうに笑う。
カスキュア「 そう、人間が今の科学力を手にしたのも超能力を手に入れたのも全てGチップのおかげなのよ!
Gチップは体内のDNAを調べ、その中で最も優秀なDNAを探し、それを育成させる。
それによって人は超能力や天才に目覚める事が出来るのよ!
開発者であるオーケストラは更に研究を進めた結果、ある事実に気付いたのよ!」
メル「ある事実?」
カスキュアはニヤリと笑い、掌を掲げるとススの姿が写し出された。
カスキュア「能力には『先天性能力』と『後天性能力』の二つが存在するということよ。
『先天性能力』は生まれつき備えられた能力。殆どの能力者がそれに当てはまるわね」
〜現実〜
ノリ「ふむふむ」
ダンク「へー、勉強になるな」
ノリは手帳に、ダンクは包帯にカスキュアの話した事を書き込んでいく。
そして夢の中のメルは、慎重に尋ねた。
メル「…『後天性能力』は?」
カスキュアが開いた手を握りしめると、ススの姿がフッと消えた。
カスキュア「『後天性能力』は違う。
これは他者がGチップを操作する事で意図的に創られた能力を刺すわ。 メルのコピー能力はそれに当たるわね」
メル「成る程…え?」
メルは一度納得して、そして首を傾げた。
メル「誰かに意図的に操作された能力…能力を操作するなんて、一体どうやって能力を操作できるっていうの?」
カスキュア「そんなの簡単よ、優秀なDNAを探すプログラムを変更させれば、好きなDNAを育てる事が出来るんだから」
カスキュアはニヤニヤ笑ったまま話し、メルはサァッと顔を青くしていく。
メル「ぼ、僕の能力が改造された能力…?ちょっと待ってよ、誰がそんな事をしたのさ!」
カスキュア「それはね、貴方のおじいちゃんよ」
メル「!!」
カスキュア「良かったね、メル。
貴方の人間を弄び続けた一族の遺伝子は、更に意地悪に歪められた!
おかげで全人類の能力を操る事が出来る!」
メル「…………!!」
カスキュア「なに顔を青くしているの?
貴方の体がどれだけいじくられていようが今更関係ないじゃん。
それに、こんなのはただの前座でしかないんだよ?」
メル「前座…?
何言ってるんだよ……僕の体をおじいちゃんが改造しただって?
ふざけないでよ。
そんな事出来る訳ないだろ!?」
カスキュア「あらら、今度は赤くなった。カルシウム足りないんじゃない?」
メル「だ…黙れ!
今すぐこの夢から出してよ!
僕は現実でやらなきゃ行けない事があるんだ!」
カスキュア「あら、出たいの?でも貴方の改造は四つもあるんだから、それ全部説明しないといけないんだけど」
メル「!?
四つ!?」
メルはみるみる顔を青ざめさせ、
カスキュアはみるみる笑みを深めていく。
カスキュア「最初に言ったでしょう?貴方の知らない能力があるって。
もう貴方の体にはオーケストラ・メロディゴート、ナンテ・メンドール、ジャン・グール、果心林檎の四人が作り上げた二つの『後天性能力』と二つの『後天性天才』が埋め込まれている。
…あ、面倒だから教えとくけど、『後天性天才』は『後天性能力』の天才バージョンと考えていいわ。」
突然出てきた四つの名前に、メルは耳を疑った。
メル「え…?
今の名前、さっきの歌に出てた人ばかり…」
カスキュア「彼等は果心林檎が作り上げた『大罪計画』のメンバーなのよ」
メル「大罪計画…?」
次々と知らない単語が出てきてメルは戸惑い、対極にカスキュアは薄い笑みを浮かべている。
ダンク「大罪計画!?」
ノリ「わ、どうしたッスか、ダンク!」
ダンクは目線を一度学校の方に向けてから、静かに話し始める。
ダンク「…『大罪計画』…。
ゴブリンズが追っているのは、この大罪計画なんだ。
今から五十年も前にGチップを開発した、狂った科学者達による複数の計画の総称が、『大罪計画』なんだ」
ノリはそこで初めて気付いた。
自分が乗っているダンクが、とても焦っているという事に。
ダンク「あいつ…何を知っている…何者なんだ…?」
メル「…待って」
カスキュア「 何?」
カスキュアは首を右に傾げる。
メルはカスキュアを見つめた。
メル「今、大罪計画の事は後でいい…それより、僕の知らない能力について教えてよ。
僕は、どんな能力を加えられたの?」
カスキュア「あー、そうね。
アタシとした事がドジふんじゃったわ、テヘ☆」
ダンク「ああーー!
違う違う、仲間の事を聞けよ!」
ノリ「ダンクさん落ち着いて!」
現実で二人が叫ぶが、夢の中の三人には全く聞こえない。
メル「いいから教えて!」
カスキュア「うん。
まずは貴方のおじいちゃんから貴方にプレゼントした能力は、『一度見た能力を全て自分の能力にする事が出来る能力』。
…ま、これは自分で使ったから知っているわね」
メル「…!」
カスキュア「そして、夢の能力は『憤怒計画』のナンテ・メンドール。
彼が貴方にプレゼントした能力は『他人の最も刺激的な記憶を無意識に受信し、夢として見る事が出来る能力』」
ダンク「憤怒計画…怠惰計画じゃないのか」
ノリ「他人の最も刺激的な記憶を見る…それって、かなりヤバイ能力なんじゃないッスか?
眠る度に誰かのトラウマを見せられるって事じゃないッスか」
ダンク「…いや、トラウマだけじゃないな。
甘酸っぱい青春や楽しかった日々もまた、ある意味では刺激的な記憶だと言える…」
ノリ「それを、夢の中で見せられるッスか…?
しかも無意識じゃ、いつどこでその夢を見せられるか分かったもんじゃない。
そんなの、迷惑なだけじゃないッスか…なんて嫌な能力を…
メル「…おじいちゃんがくれたコピー能力と、ナンテ・メンドールがくれた他人の記憶を見る能力…この二つの能力があれば、
僕は過去の人間の力を再現する事ができるようになる…」
ピンポンピンポンピンポーン♪
カスキュア「正解正解だいせいかーい!
そう、貴方がススと戦えたのはその二つの力があったからなのよ!
良かったわね、メル!
おじいちゃんがくれた力のおかげで、貴方は生き延びられたのよ!感謝しなさい!」
ダンク「ふざけるな…メルはそいつらのせいで殺されかけたんだぞ!」
ノリ「誰が感謝するッスか!
これじゃ…メルは被害者じゃないッスか!
こんなの、酷すぎるッス!
ダンク、今すぐメルを夢から解放させるッス!
もうこれ以上傷つけさせたくない!」
ダンク「わかってる!」(…が、いいのか!?止めて?)
ダンクの止めたいと思う心、それと全く同時に聞こえた、自分自身の別の声。
その声をダンクは聞いてしまう。
ダンク(いいのか?
ここで止めれば、お前のもう一つの名を使う道化師の存在がわからないままだぞ?)
ダンク(…いや、あれはただの別人だ。考えろ、『俺』は数百年も前の存在だぞ?
同姓同名の奴が何人存在したって不思議じゃないだろう?)
ダンク(だがそうじゃなかったら?
明らかにこの現象は魔術師しか引き起こせないモノだ。
その魔術師でダンス・ベルガードと言えば、それはもう『俺』しかいないな)
ダンク「………」
ノリ「ダンク?」
ダンク(……俺は……)
ダンクは動けなくなる。
後少し手を伸ばせば、メルを包む殻に手が届くという所で、彼の体は停止してしまった。
そして後ろの映像から、カスキュアの声が聞こえてくる。
ダンクはそれを聞こうと、思わず振り返ってしまう。
映像の中のカスキュアはニヤリと笑っていた。
まるで、翻弄する自分を嘲笑うかのように。
カスキュア「それからー、貴方に与えられた『後天性才能』はー」メル「ありがとう」
カスキュアの言葉をメルが止める。カスキュアは先程と同じように可愛く首を傾げた。
カスキュア「ん?」
メル「…やっと分かった」
ノリ「え?」
ダンク「…………」
カスキュア(ん?
なんか感じが変わった?)
カスキュアは更に首を傾げる。
45度曲がったメルの姿は、先程の弱々しさをまるで見せない。
メル「僕は知りたかったんだ。
あの夢が本当にあった事なのか、それとも偽物だったのかを。
やっと分かった」
メルはギュッと拳を握りしめながら、カスキュアに向けて答える。
メル「あれは全て本当にあった出来事だったんだね。
拍手部隊は本当に存在して、そして敵と戦い散った…」
メルは握りしめた拳を開き、じっと掌を見つめる。
メル「カスキュアさん、僕はね、夢の中で何度も手を伸ばしたんだ。
皆に生き延びて欲しくて…でも、ダメだった」
メルの脳裏によぎるのは、一生懸命戦って散っていった者達の姿だ。
メル「僕は誰も助ける事はできなかった。
自分は弱い存在なんだと、ただ弱い存在なんだと何度も思い知らされたんだ。
…だけど、彼等は決して諦めなかった。
どんなに苦しくても、どんなに辛くても精一杯頑張って生きたんだ」
メルは開いた拳をまたギュッと握りしめた。そして目線をカスキュアに向ける。
メル「だから僕は、貴方の言う真実に何の恐怖も感じない。
僕が彼等から教わった事は、そんな柔なものじゃないんだ。
僕があの戦場で感じた恐怖は、そんなものじゃなかった。
…だから、どんな事実だって受け入れられる」
カスキュア「!」
その一言に珍しくカスキュアがたじろいだ。
カスキュア「怖くないの!?
恐ろしくないの!?
貴方の人生はもう普通じゃないんだよ!?」
メル「僕はもう決意したんだ!
僕は僕自身の力で、助けられる人を助けたいって!
そのためにゴブリンズへ入ったんだ!」
ダンク「ノリ!」
ノリ「う、な、なんすか!?」
ダンク「俺を殴れ!
力いっぱい!」
ノリ「へ?
な、何を言ってるッスか?」
ダンク「いいから早く!」
ノリ「そ、それじゃ遠慮なく…え〜〜い!!」
ドガバキベキバキドコバコガスガス!!
空中でノリの遠慮ない拳の応酬を受けるダンク。
ダンク「い、一発だけで…良か…」
ノリ「それならそうと早く言って欲しかったッス!」
ダンク「だがおかげで気合いが入った!
よおおし!!」
メル「カスキュア、さぁ教えて!
僕にはどんな改造がされたの!?
全部教えて!」
カスキュア「う、わ」
メルは立ち上がり、カスキュアに一歩近付く。
カスキュアはたじろぎそうになるが、ここは象の背中の上、逃げ場はない。
カスキュア「…………」
メル「後二つ、それは一体どんな才能なの!?
教えて!」
カスキュア「……アハハ」
カスキュアがニヤリと笑う。
しかしその笑みには、邪悪さが滲み出ていた。
カスキュア「アーーーッハハハハハハハハハ!
残念でした、もう何も教えてやんないよ〜!」
メル「ええ!?」
メルは驚き思わずたじろいでしまう。
カスキュアは笑みを浮かべたまま話を続ける。
カスキュア「だって、貴方はアタシの話を聞いても何の絶望も恐怖も感じないんでしょ?
だったら話したって意味ないじゃーん!」
メル「え?」
カスキュア「アタシはね、貴方の苦しむ顔が観たくて、話を始めたんだよ?
貴方の絶望を味わいたくて、ここまで教えたんだよ!?
なのに、そんなに希望を持ってたら意味ないじゃーん!
だから、もうこの話しはオシマイ。
アタシはもう今後、貴方に何も教えてあげません!
アハハハハハハハ!!」
メル「そ、そんな……」
メルが驚愕したその瞬間、世界が突然ねじれ始めた。
ピンクの象がグニャリと曲がり、ジャングルジムがまるでバネのようにぐるぐる巻かれていく。
メル「!?」
カスキュア「あ、もうダメかー」
ダンス「奴め、なかなかせっかちだな」
そんなダンスの言葉を皮切りに、メルの視界は一瞬消えてしまう。
そして次に見えたのは、自分の体を引っ張る包帯の腕だ。
ダンク「メル!大丈夫か!?」
メル「ダンクさん……」
メルは体を動かそうとして、非常に体がダルい事に気付いた。
起き上がろうとした体がそのままガクリと倒れそうになる。
その体を、ダンクが支えてくれた。
ダンク「メル…すまない!」
メル「?」
ダンクが必死に何かを謝っているが、メルには分からない。
すると、自分の体から何かがスゥッと抜けていく感覚がした。
その後、耳元であの声が聞こえてくる。
『一つだけ、教えてあげる』
メル「!」
『アタシはカスキュア。
果心林檎によって捨てられた計画、『嫉妬計画』のカスキュアよ。』
メル「え…?」
『また会おう。
アタシは呪いで癒し。
誰かの欲望を叶えさせて、絶望させるのがアタシの希望…♪』
そして、声は聞こえなくなった。
ダンクは暫く虚空を睨みながらはなしかける。
ダンク「いったな…」
メル「ダンク…さん…」
ダンク「さっきの夢、悪いが見させて貰った」
メル「!!」
ダンク「すまない…もう少し早く目を覚まさせていれば…あいつ、わざと情報をバラバラに話していたろ。」
メル「?
そうなの?」
ダンク「そうなの。
ああやって、俺達の気を引かせてたんだ。
最悪、お前の精神が崩壊しても情報を聞かせるように…」
メル「!」
ダンクは視線を虚空からメルに目線を向ける。
ダンク「ススにやったのと手口がにている。
あいつは復讐心を煽られ暴走した。
そして俺は、『知りたい』という気持ちを利用された…あの女、かなり危険だ」
メルはゾッとした。
あの会話の裏に、そんな駆け引きがあったなんて知らなかったからだ。
ダンク「…大丈夫、か?」
メル「ううん、僕は大丈夫。
それに色んな事が分かったし、敵の正体が見えてきた。
さあ、早く学校にいこう」
ダンク「…ああ、そうだな。
確か学校には先にアイツ等が…
ん?アイツ等…?
ああーー!!」
ダンクはそこで気づく。
学校に向かわせたのが、一体誰なのかを今まで忘れていたのだ。
そして、それと同時に、あの笑い声が聞こえてきた。
シティ「アーーーッハハハハハハハハハ!!!
破壊!破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊はかーい!」