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角が有る者達  作者: C・トベルト
太陽の命と月の命。
60/303

第61話 本当の太陽パート 再び降臨、魔法美少女!

ダンクの発動した魔法、『復元(リライア)』。

色の始まりである赤、青、緑の混合魔法。

空に浮かぶ3つの魔方陣から降り注ぐ粒子は、破壊された住宅街を復元し、ススの行動を全て無かった事にしていく。

そしてその粒子はある一体のアンドロイドにも降り注ぎ、その砕けた体を復元した。


黒山羊「メ...メェ?

何故、我、身体、復元...?」


黒山羊は辺りをキョロキョロと見渡すとそこは台所だった。

使い古した家電器具がずらりと並び、家主が料理好きだと一目で理解できる。

だが、黒山羊の主の姿は何処にもない。


黒山羊「メェ...主、何処?」

『……ぎ、...山羊……黒山羊、応答しなさい、黒山羊!!』


不意に黒山羊の頭の中から声が響く。どうやら緊急用の無線だ。黒山羊は急いで通信システムを起動させ、コール(応答)する。

相手が誰なのか、黒山羊は知っている。

自分と同じアンドロイド、白山羊だ。


黒山羊『メッ!白山羊、応答!』

白山羊『応答、じゃありません!

いきなり貴方が破壊されたという報告プログラムを送られて、

私が何度あなたに緊急コールをかけたか知っていますか!?』


それを聞いた黒山羊は頭部のコンピューターから通信履歴を公開し、読み上げる。


黒山羊『...不在着信、37件...』

白山羊『今のを合わせて38件です!よくも今まで無視できましたね!』


白山羊は緊急コール越しに怒鳴り、通信マイクが揺れ動く。

戦闘用アンドロイドである黒山羊には無いが、白山羊にはある程度人と話せるよう感情が備わっている。

それでも普段はあまり感情を出さないのだが、今日は存分に『怒り』という感情を出している。黒山羊は静かに頭を下げた。


黒山羊「白山羊…御免」

白山羊『……ーーーっ!!

あなた、私より感情が無い癖にズルい方法をとりますね!』

黒山羊「メ?」

白山羊『いえ、なんでもありません!それより早く記憶データを見せて下さい。』

黒山羊「メ!

記憶データ、送信!」


黒山羊は記憶データを白山羊の記憶回路に送信する。

データを受け取った白山羊は記憶を解析し、数時間の戦いを数十秒で理解する。


白山羊『……成程、今までに起きた事は理解できました。

...まさか、ススさんがあんなに主を憎んでるなんて...』

黒山羊「メ?」

白山羊『忘れましたか?

数ヶ月前私達の家に侵入した時、暴走したアイを止めたのはススさんなのです。

あの時は、『この人は優しい人だ』と印象付けられていましたが...そうですか、主を憎んでいますか...』


白山羊は何処か残念そうに、静かに呟く。だがそれはすぐに調子を取り戻しまた強い口調で黒山羊に命令する。


白山羊『黒山羊!

直ぐにメル、またはゴブリンズの一味を見つけなさい!』

黒山羊「了解!

『バフォメトの翼』、展開!」


黒山羊の背中に、蝙蝠のような翼が生える。

よく耳をすまして聞けば「ウィーン」という機械音が聞こえるのだが、その姿は完全に悪魔そのものだ。


黒山羊「メエェェ!!」


そして黒山羊は室内で翼をはためかせ、一気に壁に向かって飛び立つ。


バゴォン!!


せっかくダンクが直した家の壁をあっさり破壊し、ダンクはメルを探しに空へ飛ぶ。



そして、白山羊は通信を切り、我が家を見渡した。

綺麗に清掃された室内、天井にはナチュラル・ビジョンが自然の映像を映し出し、部屋の中にいないような錯覚を覚えてしまう。

それを見た白山羊は静かに呟いた。


白山羊「……もう、主は日常に戻れなくなったのですね。

もう、私に頼る事は無いのですね」


白山羊は黒山羊の記憶を見た。

その中で見た、主メルの姿。

彼は能力を使ったのを見て、白山羊は確信していたのだ。

もう主は日常には、この家には戻ってこないと。

核心した白山羊は家に向かって命令した。


白山羊「命令です。

ドリーム・メロディ・ゴート邸はただ今を持ってその機能を停止。

そして過去のデータを全て私の記憶データに。

そしてドリーム・メロディ・ゴート、メルヘン・メロディ・ゴート、白山羊、黒山羊の私物を全て箱に納め、家の外に出してください。

もうここは、必要ありません」


白山羊がそう命令した瞬間、ナチュラル・ビジョンは映像を止め、何処からかアームが延びていく。

それは白山羊の首の裏側にある接続口に接続され、過去のデータを全て送り込んでいく。


白山羊「……!」


白山羊はそれを全て取り込んでいき、記憶の一部に変えていく。

そして数分後、白山羊は自らアームを取り除いた。


白山羊「...読込完了(ダウンロード・コンプリート)

箱詰めも完了し、既に家の外に出してありますか...。

ならば、後はこれだけですね。」


白山羊はそう言って、踵で床を鳴らす。

すると床の隠し扉が開き、中に入っている黒い筒が白山羊の手元に収まる。

黒い筒、と記載したが正確にはその全長2060mm、重量59キロの重火器。

正式名称は『九七式自動砲』。

日本陸軍が開発した、日本軍唯一無二の対戦車ライフルだ。

普通ならば訓練された軍人が2人以上で運び、10人がかりでようやく使用可能となる兵器を、彼女は右手で軽々と持っていた。


白山羊「九七式自動砲。

日本軍が作り上げた最初で最後の対戦車ライフル...。

その凝った設定と使いづらさにより大した戦果こそ見られませんが、その実力は折り紙付きです。

さあ、いきましょう」


白山羊はライフルを肩に載せたまま玄関でたった1つ残った靴を履いて、外に出る。

そして扉の前では真っ白い大型トラックが白山羊を待っていた。

誰もいないのに勝手にドアが開き、主が来るのを待っている。


白山羊は誰もいない庭を通りすぎ、正面扉を開けてトラックの前まで真っ直ぐ歩く。

そしてくるりと振り返り、九七式自動砲の筒の先を家の玄関に向ける。

本来なら二脚を両手で持って銃を安定させなければいけないのだが、白山羊は左手で銃身を抑える事でそれを行っている。


それと同時に玄関の床が開き、2メートルはある大きな箱が出現する。

そして、箱の側面...玄関から見える面には赤い文字でこう書かれていた。



Shoot the Moon!



それを確認した白山羊は何の遠慮もなく引き金を引いた。


バァン!!


九七式自動砲から放たれた20×124mm弾薬は、速度750m/秒で庭を横切り、設置された箱を軽々と貫いた。

それと同時に箱の中に詰められた大量の火薬に引火し、家を吹き飛ばす程の爆発を引き起こす!


ドカアアアアアン!!!!


先程までただの家だった場所は吹き飛び、庭に破片が散らばるがそれ以上外には決して出ない。


白山羊「目標爆破。

破壊状況、予想内事態に収縮。

……これで、私達の戻る場所は消えた」


白山羊は九七式自動砲を分解し、トラックの荷台に詰め込ませる。


白山羊「私達はこれから、人の道を外れなければいけない。

全ては我が主のため…そして、『傲慢計画』のために!」


白山羊はトラックの助手席に乗り込むと、誰もいない筈なのにアクセルが踏み込まれ、ハンドルが動き、トラックは発車する。

その行き先を知る者は、白山羊と、トラックしか知らない…。













ビュウウ!


ダンクは学校に向かって空を飛ぶ。その背中にはノリがちょこんと座り、ダンクの後ろには2つの繭が飛んでいる。


ノリ「急いで...急いで学校に向かうッス!

ハサギさんが...」

ダンク「...ああ、そうだな。

だがその前に、見なければいけないものがある」

ノリ「?」


ダンクは右手を伸ばし、右側の繭…メルが入った繭を触る。

すると、ダンクの目の前に映像が流れ始めた。その映像には真っ暗な世界を見回すメルが映し出されている。


ノリ「え?

なんすか、この映像は?」

ダンク「俺がススの目を誤魔化すためだけに『ホワイトシェル』を使ったと思うか?」


ダンクはニヤリと笑い、空中で停止する。


ダンク「メルの話しでは、『ススの部隊が滅びる夢を見た』と言っている。

もしそれが意図的な夢であれば、今もまたメルの夢は誰かによって操られている事になる。

だが、この『ホワイトシェル』は対象者を回復させるだけでなく、術者はその時見た夢をリアルタイムで見る事ができるんだ。」


そして右手を離し、映像を触る。

すると、メルが「なんだ…?」という声が聞こえてきた。


ダンク「ならば、俺は意図的に彼を寝かせて夢を見させ、わざとまた意図的な夢を見させるんだ。

そして誰かが夢を操つった瞬間、それを逆探知し、誰がメルの夢を操っているのか調べるのさ」

ノリ「…そ、そこまで考えて、『ホワイトシェル』を使ったッスか!?

おっそろしい…犯罪者やめて警察入んない?」

ダンク「やだよ、俺パソコン使えないし」


メル『…ここは?』


夢の中のメルが呟き、二人はサッと映像に目を移した。






メル「……ここは?」


メルは辺りをキョロキョロと見回していた。

とても不思議な世界だった。

太陽は無いのに薄暗く、建物も、塀も、車も、木々でさえも金属の棒で形作られて構成されているのだ。


メル「なんだこれ、まるでジャングルジムじゃないか...うわ!」


メルは思わず倒れそうになり、そして足場もまた同様に金属の棒で出来ている事に気付く。

そして、こんな事は現実ではあり得ないという事にも気付く。


メル「...また、夢の中なんだね?

今度は何が出てくるのさ」


♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪


音楽が聞こえてきた。

何処かで聞いた事のある音楽だ。

振り返ると、何か大きな者がこちらに向かってくるのが見えていた。

それは大きなピンクの象だ。

ピンクの象がジャングルジムの世界を闊歩しているのだ。


メル「……は?」


思わず固まるメル。

ピンクの象の上には少女が歌を歌っていた。


チャララララ〜〜〜〜ン!チャンチャラチャラララ〜〜〜〜ン!!


♪ジャン・グールは欲しがり屋♪

全てを欲しがり何もつかめぬ♪

K・K・パーは暇が好き♪

休む間もなく生き続ける♪

ナンテ・メンドールはおこりんぼ♪

近付きゃ殴られて殺される♪

オーケストラは旅行好き♪

誰か彼を見つけられる?♪

果心林檎はお馬鹿さん♪

ブスで間抜けなお姉ちゃん♪


メル「歌...?

何処かで聞いた事があるような...」


メルは驚愕するが、少女は気にせず歌い続ける。

少女のすぐとなりに座っている道化師が呆れた表情で少女を見つめていた。


♪素敵な素敵な五人組♪

 そんな彼らに囲まれて♪

 素敵な素敵な生活を♪

毎日楽しく過ごしてます♪


少女の足元のピンク色の象は目玉がなく、代わりに暗い世界より更に黒い闇が広がっていた。

少女は歌を歌い続ける。


♪アタシは皆のメシア♪

皆に愛し愛され世界に貢献♪

皆が私に首ったけ♪


メル「……なんか変な歌だなぁ...」


メルは肩をがっくりと落とし、少女の様子を見守る事にした。

少女は楽しく歌を歌っている。


♪アタシからは誰も逃げず逃げられず♪ 永遠に楽しく暮らそう♪


十代前半の女の子だった。

長い黒髪を両端に結び、リンゴとイチョウのマークが入ったリボンを頭に巻き、

黒と黄色で作られたドレスを着た美しい…というより可愛いという言葉が似合う少女だった。

少女は歌を歌う。


♪アタシは誰?アタシは誰?

そんな素敵な素敵なアタシの名前は…♪

アタシの名前は…♪

アタシは…♪


ピンクの象の足元から、鼓笛隊の制服を着た象が達が何匹も現れる。

顔は象だが、人形の姿をとっており、ジャングルジムの大地の上を歩いている。

どの象も太鼓やシンバルを手に持ち、ドラムを持った象がダラララララララララ、と鳴らす。

その音に合わせて少女が歌う。


♪ア・タ・シ・の・な・ま・え・はぁ…♪


そして、象の一匹がシンバルを鳴らした。

ジャーン!!


♪魔法美少女、『Curse&Cure(呪いと癒し)』略してカスキュアだよーーー♪


その声を合図に、象達が楽器を投げ捨てて拍手する。

捨てられた楽器は空中ですぅっと消え、何一つ地面に落ちなかった。


ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち


メル(うわあ、なんて気の抜けた拍手なんだろ...)

カスキュア「ありがとー!ありがとね象さーん!

…邪魔だから消えていいよ」


カスキュアの一声で拍手は止み、小さな象達の姿が楽器と同じようにすぅっと消えていき、象が大地を踏み歩く音だけが響き渡る。

そこまで静かになってから、道化師はカスキュアに話し始める。


「...今度の世界はどうです、お嬢様」

カスキュア「ああ、とてもとても素晴らしいわ!

ありがとね、『ダンス・ベルガード』!」

ダンス「光栄の極み...」




ダンクの顔がキッと引き締まり、ノリの目が真ん丸に見開く。


ダンク「なんだと!?」

ノリ「だ、『ダンス・ベルガード』!?

それって確か…」

ダンク「…俺が、人間だった時代の名前だ…なんであの道化師、俺の昔の名前使ってんだ…!?

く、急いで逆探知だ!」






メル「カスキュア?ダンス・ベルガード?

なんか何処かで聞いた事があるような...」

カスキュア「あれあれあれれ?

あそこにいるのは、メルじゃーん!

ちょっとこっちへおいでよ!」


カスキュアが叫ぶと、象の鼻がカクカクと曲がり階段のようになる。


メル「え?」

カスキュア「さあさあ乗った乗った!」

メル「う、うん…」


メルは最初はそっと鼻の上に足を乗せたその瞬間、鼻がウネウネとうねりまるでエスカレーターのように勝手にメルを上に上に上げていく。








ダンク「よし、逆探知成功だ!

これで奴等の場所が分かる!」

ノリ「何処ッスか!?」


ダンクは包帯の端の部分を切り取ると、文字が浮かび上がってくる。

それはノリが見た事も無い言語で書かれていたが、ダンクは読み上げた。


ダンク「なになに、『この魔術の発信源はメルの魂の中に存在している』…?」

ノリ「メルの魂の中…?

それって、つまり…?」


ノリは首をかしげ、ダンクは目の部分の穴を真ん丸に広げる。


ダンク「…メルの魂の中に、他人が入り込んでいて、そいつがメルに夢を見せているんだ…」

ノリ「……!!

そ、そんなのありえないッス!」

ダンク「だが、魔術的には可能な話しなんだ…事実、俺自身が肉体から包帯に魂を移せたんだからな」

ノリ「そ、そんな…!」


ノリは顔を青ざめながら画面に目線を向ける。

そこではメルとカスキュアが対面していた。



メルはピンクの象の背中に乗り、カスキュア、ダンス・ベルガードと向き合っていた。


カスキュア「久しぶりね、メル!

まずはおめでとうと言わせて貰うわ、生還おめでとう!」

メル「あ、ありがとう、ございます…」

カスキュア「いやー、あんたが悪夢の続きを見るか見ないか、選んだ時はハラハラしてたけど、

まさかゴブリンズに入るなんてねー!本当驚いちゃった!」

ダンス「全くだ…。

人生はどう進むのか、まるで分からないな」


ピエロのメイクをしたダンスはフッと笑う。

とてもピエロには見えない行動をとっているな、とメルは思ったが口には出さなかった。

代わりにカスキュアに尋ねる。


メル「カスキュアさん…聞きたい事があるんだけど」

カスキュア「なになにー?」

メル「あの夢は、カスキュアさんが見せたの…?」


おずおずとメルは尋ね、カスキュアはにんまりと楽しそうに笑った。


カスキュア「もちろん、違うわよ」

メル「ええっ!?」

カスキュア「悪いけどアタシは果心と違ってネタを隠す趣味はないのよねー。

だから包み隠さず話すけど…」

カスキュア「あの夢を見たのはあなた自身の『能力』のおかげなの、あなた自身の知らない能力の、ね」

メル「ぼ、僕の能力…?」





夏の日は落ちていく。

ゆっくり、ゆっくりと時間をかけて美しい夕焼けを見せながら、下に下に落ちていく。


そして、少しずつ昇り始めていくのだ。

果心林檎が愛した、あの月が…。


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