表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
角が有る者達  作者: C・トベルト
太陽の命と月の命。
59/303

第60話 本当の太陽パート 小鬼達は内に強さを秘めて。

誰もいない、閑静な住宅街。

平和そのものの世界に、メル、ノリ、ダンク、ススの四人が立っていた。


ノリは柄に『Sekita』と刻まれてあるナイフを持ちながら、メルに注意する。


ノリ「こらっ!

君はまだ子どもッスね?

こんな危ないモノ持っちゃいけないッスよ!」

メル「う、うん(なんだろうこの人、男の人にしては…少し違和感を感じるのは気のせい?)」


メルはノリの容姿に一瞬違和感を感じたが、すぐに忘れてしまう。

ノリは明るい口調でメルに話しかける。


ノリ「でも、もう大丈夫ッスよ。

ボク達がいる限りもう怖い思いはしなくていいッス」

メル「あの、ノリ...さん」

ノリ「なんすか?」

メル「聞きたい事があります。

あの、貴方はまさか...」


メルがノリに話し始めようとしたその時だった。

ノリの後ろに立っている包帯を巻いた人間が吹き飛んだのだ。






ダンク「……久しぶりだな、スス」

スス「だ…ダンク!?」


ダンクの胸部にはススが刺したナイフが深々と刺さっている。


ダンク「なんで?

『なんでここにいる』か?

『なんで貴方が刺されてる』か?

それは、俺が聞きたいな」


ダンクはススをじっと睨み付けた。ススは俯いたまま動こうとはしない。

ダンクは会話を続ける。


ダンク「なんで、お前はここにいるんだ?

急にアジトを抜け出して、皆心配したんだ...さっさと戻るぞ」


ダンクはススの胸にナイフを刺したままススの腕を引っ張ろうと手を伸ばす。

しかし、その腕はすぐに振りほどかれた。


ダンク「む?」

スス「違うわよ、ダンク」

ダンク「違う?

何が違うって」


いうんだ、と言おうとしたダンクの口をススが塞ぐ。


スス「黙れ。

私が『なんで』と聞いたのは、『なんで私の邪魔をするの』、よ。

貴方は私の部下でしょう?

私の邪魔をするんじゃないわよ...」

ダンク「?

スス、何を言って...」


るんだ、と言い切る前にダンクは自分が宙に浮いているのに気付いた。


邪魔だああああああああああああ!!!



ダンクの体が空を飛ぶ。

それがススに吹き飛ばされたからだとダンクが気付くのは、

自分のすぐ真後ろに道路が迫ってきた時だった。


ズドォォン!!


ノリ「!?」

メル「...ススさん...!」


二人は同時にススの方を見る。

ススは拳をわなわなと震わせながら、ノリをギロッと睨み付けた。


ノリ「え?」

スス「なんで...なんで、皆みんなミンナ、私の邪魔をするの!?

黒山羊が邪魔をして、

拍手部隊の能力を使って邪魔をして、

今度はゴブリンズが私の邪魔をする!そして次は貴方が邪魔をするわけ!」

ノリ「あ、いや、ボクは...いやいや敵に呑まれちゃだ」

スス「ダマレエエエエエエ!」


ススは思い切り足を踏みつける。

それだけで、コンクリートに大きなヒビが入った。


ノリ「ぎょえええええ!?」

スス「失せろ雑魚!

邪魔するなら貴様も殺してやるわ!」


ススはナイフを取り出す。

三本目のナイフの柄の部分には『Smee』という字が彫られていた。


ノリ「スス...!」

「ノリさん、離れて!」


ノリが急いで振り返ると、メルの肌が灰色に変化していた。

パキパキと音を立てながら、体を硬化していく。


メル「ススさんは僕が止めるんだ!

いや、僕でなきゃススさんを止めれな...!」


ガクリ、とメルの体が膝を付いてしまう。メルは立ち上がろうとするが、また体は倒れてしまう。


メル(え?)


何度体を動かそうとしても、体はいうことを聞いてくれない。

結果、メルは膝をつき首を前に垂らしながら動けなくなってしまう。


メル(ま、まだ電流のダメージが体に残ってて……体が動かない!?

いや、でも肌は硬化されている。

まだススの一撃を防ぐ事は出来る!)


スス「メル...貴様またセキタの能力を使う気なの!?

私の仲間の力を使って、私の復讐の邪魔をするな!」


ススはメルに向けてナイフを向けようとした...が、それは止められる。


ノリ「……ふ、ふざけるなッス!」

メル「!?」


何故ならメルとススの間にノリが割って入ったからだ。

そしてノリはススを睨み付ける。

もしススがナイフをひと突きすれば心臓を刺されそうな近い距離で、二人は向き直る。


メル「ノリさん!」

ノリ「ぼ、ボクはお前になんか絶対にひるまないッス!

ボクは、ボクは人を守るためにこの職業(警察)になったッス!

ここでひるんだら警察失格ッス!

お、お前こそ下がれッス!」


瓦礫の中から、ガラガラと音を立ててダンクが立ち上がる。


ダンク「あのバカ、武器も持たずに殺気立った奴の前に立ちやがった!」


ノリ「い、今すぐ武器を捨てるッス!こんな事をしても誰も喜ばないッスよ!」

スス「ダマレェ!!

邪魔するなら、纏めて殺してやる!」

ダンク「や、やめろスス!」


ススはそう言って、両足に力を貯めていく。


スス「能力発動!

黒う」


ブチン!!!


ススの足元で、何か太い物が勢い良く引きちぎれる音が聞こえた。

それが自分がの筋肉が千切れた音だとススが気付くのは、倒れる直前だった。


スス「え?」


ズシャッと音を立ててススは倒れる。そして全身に激痛が走る。


ズキズキズキズキズキズキズキ!!


スス「うわあああ!!?」

(これは...能力を連続使用した時に発生する、能力暴走(パワー・ヒステリー)!!

なんで、なんでこんな時に!)

ノリ「え、なんスか?

なんで急に倒れて...いや、今がチャンス!

今ならススを逮捕できる!」


ノリはススの両手に手錠をかけようと体を動か...せなかった。

何か壁のような物がノリの周囲を止めたのだ。


ノリ「え、あれ?なんなんスか?

なんでボクの体が動かなく...?」


ダンク「危ない危ない、俺の上司が捕まったら大変だった」


ゆらり、とダンクが三人に近付いてくる。

右手から、緑色の光が発光していた。


ノリ「ダンク...何をしたッスか!?」

ダンク「悪いが俺が動きを止めた。

...全く、どいつもこいつもせっかちすぎる。

これじゃろくに話も出来ない」


三人がそれぞれの理由で動けない中、ただ一人ダンクだけが動き出す。


メル(あの人、さっきススを止めていた人だ。あの人も能力者...?)


ダンクはそう言いながらススに近付いてくる。

しかしその胸にはナイフが刺さったままだ。


メル「え?」

ダンク「スス、大丈夫か?」

スス「ダンク...!」

メル「あ、あの人...ナイフが刺さっているのに、なんで平気なんだ?!」


思わず口に出た疑問だが、目の前にいるノリが答えてくれた。


ノリ「……あいつは、ダンク。

あいつの体にはある秘密があるッス」

メル「...ある秘密?」

ノリ「あいつはどういうわけか知らないッスけど、体が無いッス」

メル「ええ!?」

ノリ「しかも、様々な魔法を使える現代の魔術師ッス。

厄介極まりない存在ッスよ、あの包帯野郎は」


メルはダンクをギロりと睨み付ける。

だがダンクはそれを無視してススに話しかける。


ダンク「大丈夫か!?」

スス「だ、ダンク...ごめん、私は動けない」


ススは先程とはうってかわってすがるような目でダンクを見つめる。


ダンク「スス、お前どうしてあの少年を殺そうとして」スス「ダンク、命令よ」


ダンクの言葉をススは切る。

そして、恐ろしい命令を口に出した。


スス「あの少年を殺して。

邪魔するものも全部殺して。」

ダンク「!?」

メル「ススさん...」


メルはじっとススの目を見ていた。

その黒い瞳の中に写る憎悪の炎は、轟々轟々と燃え上がっている。


スス「アイツは敵よ。

私達の、いや世界の敵!

Gチップを量産し、戦争兵器を量産した怪物の一族!

アイツを殺さない限り、必ずまた世界が狂わされる!」

ダンク「...おいおい、何言い出してんだ...」

スス「もう一つ言うと、

そいつの名前は、『メルヘン・メロディ・ゴート』よ」

ダンク「なんだと...こいつが、あの!?」


ダンクはバッと振り返り、メルを睨む。

メルはダンクを見つめた。


ダンク「...にわかには信じがたい話だが、確かにそれならお前があんなに狙っていたのか頷けるな。

こいつは皆から恨まれたって仕方ない存在だし、

ゴブリンズはGチップを破壊するために作られた組織だ」

メル「...……」


メルは何も言わず、ダンクを見つめた。

ススは痛みを我慢しながら、ニヤリと笑う。


スス「私がアイツを殺そうとする理由は分かったでしょう?

さっさと殺してよ」

ダンク「確かに、ヤバそうだ。

何故か肌は灰色だしな」


ダンクは左手をメルに向けて突きだそうとして、


ノリ「やめるッス!」


その手を止めた。

ダンクはノリを睨む。


ダンク「...なんか言ったか?」

ノリ「やめろと言ったッス!

どんな理由があっても、人を傷付ける事は許さないッスよ!」


ノリはキッと強くダンクを睨み付ける。


ダンクは目の部分の穴を閉じた。

そして弱々しく呟く。


ダンク「......ノリ、頼むから黙ってくれ。

長い付き合いだ、できれば傷つけたくない……」

ノリ「いやッス!黙らないッス!

あんた達は根はいい人ッス!

これ以上罪を重ねて欲しくないッス!

長い付き合いだ、いい加減ボクらの気持ちにも気付けッス!」


ノリは更に強く睨み付ける。ダンクの左手が、下を向いたまま動こうとはしない。


スス「ダンク!

私達の目的をわすれたの!?

今ここでそいつを殺さなければ世界がまた狂わされるのよ!」

ノリ「ダンク!

貴方は一度ボクを助けてくれたッス!

今その慈悲の心を持たないと、一生後悔する事になるッスよ!」


ノリとススの言葉、それはダンクの行動を確実に束縛し、封印していく。

だが二人はお構い無しに叫び、自分の行動を押し付けようとする。


スス「ダンク!」ノリ「ダンク!」スス「ダンク!」ノリ「ダンク!」スス「ダンク!」ノリ「ダンク!」スス「ダンク!」


ダンク「くそっ、お前らだま、」「ダンクさん!」


ダンクの言葉を誰かが制止させた。ダンクが目の部分の穴を開けて見ると、メルヘン・メロディ・ゴートがふらふらと立ち上がろうとしていた。


ダンク「メルヘン・メロディ・ゴート...」

メル「長いからメルでいいです。

ダンクさん、聞いてください」

スス「黙れ!」


メルの言葉をススは制止させようとする。

しかしメルはそれを無視してダンクに話し始める。


メル「僕はGチップを開発し世界中に広めたオーケストラ・メロディ・ゴートの孫です。

そして戦争兵器を開発し、戦争を激化させたドリーム・メロディ・ゴートの息子です。

...僕の一族は、世界をぐしゃぐしゃにしました。」

ダンク「...それがどうした?」


ダンクは立ち上がろうとするメルに一歩近付く。


スス「ダンク!こいつの話をきいちゃ」メル「そして、ススから聞きました。

僕は、その一族が残した計画に参加していると」


メルは立ち上がり、ダンクの空虚な目を見つめた。ダンクはメルの真っ直ぐな目を見つめた。


メル「僕はススからその話を聞かされる前に、ある夢を見ました。

ある部隊が、父の作った兵器によって全滅されていく夢です。

……名前は、8888番隊。通称、拍手部隊です」

スス「!!」


ススの目が見開く。メルは話を続けた。


メル「それは、ススの部隊です。

僕はススからその話を聞いた後も、その夢を見ました。

そして、祖父の開発したGチップのせいで苦しむ人々の姿を見ました」


メルは目線をダンクから外し、ノリの……ノリの手に収まっている『Sekita』と書かれたナイフを見つめた。

しかしそれは一瞬で、すぐに目線をナイフからダンクに目を向ける。


メル「そして、その夢を見て僕はある事を決心しました。

もう二度と、あんな悲劇を起こしてはいけない。

僕の一族に与えられた力で苦しむ人々を、僕は助けたい。」


そしてメルは、ダンクに頭を下げた。


メル「 お願いです。

僕をススの仲間に...ゴブリンズの仲間に入れてください」


スス「なに!?」

ノリ「ええ!?」

ダンク「……」


二人が驚愕の表情を表し、ダンクは真っ直ぐ見つめる……が、それはぐにゃりと歪む。


ダンク「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


それは、人間の出せる声ではなかった。

体が包帯でできているからこそ可能な、人間性を破壊した狂気の笑い声。

ススとノリの表情がサッと青ざめていく。


スス「ダンク……?」

ノリ「な、なんなんすか...貴方は...」

ダンク「そうか、そうなのか。

お前はそうするのか」


ダンクは包帯で出来た顔を歪ませる。それがニヤリと笑った事だと気付いたススは急いで叫ぶ。


スス「タンク!」

ダンク「黙れ!

おい、お前自分が言った事が分かっているのか!?

お前は犯罪者の一員になるんだぞ!?」

メル「…………」


ダンクは楽しそうに話しかけ、メルはじっとダンクを見つめる。


ダンク「全人類に追い回され、世界の何処からも居場所がなくなり、完全な嫌われ者になるんだぞ!?

お前がどんなに泣き叫び喚いて助けを乞いても、誰一人見向きもしなくなるんだぞ!?」

メル「…………」


ダンクは楽しそうにメルを追い詰めるが、メルは何も言わずじっとダンクを見つめる。


ダンク「お前は自ら化物達の仲間になるということなんだぞ!?

もう2度と、人間の世界に戻れなくなるんだぞ!?

どんなに戻りたくても!!どんなに羨ましくても!!もう二度と人間にはもどれなくなるんだ!!

それでもお前は俺達の仲間に...化け物の仲間になるというのか!?」

メル「………………」


メルは何も言わず、じっとダンクを見つめた。ダンクの包帯でできた顔がますます歪んでいき、爆発する。


ダンク「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」


ダンクの笑い声は、もう完全に怪物のそれだった。

そして、たっぷり笑って満足したように包帯の顔が戻っていく。


ダンク「面白い」

スス「ダンク!」

ダンク「これはリーダーに報告しないといけないな!

七番目の鬼が今俺の前に立っている!

スス、行くぞ!」

スス「ダンク!待ちなさい!

私は認めないわよ!

なんで...なんでコイツを仲間に入れるのよ!!」


ススは叫ぶ。

意外な事に、ダンクはピタリと止まった。


ダンク「なんで...か。

なら言うがスス、お前は何故ここにいる?」

スス「え?」

ダンク「お前はこの少年を憎む事に夢中になっているようだがな、

リーダー達が大変な事に...いや、もしかしたら、もう死んでいるかもしれないんだぞ?」

スス「え...?」


ススの中で燃え上がる憎悪が、一瞬で凍り付く。


ノリ(このタイミングでそれを話すッスか...。

最初にそれを話せば良かったものを...)


ノリはちらり、とメルを見つめる。

メルは相変わらずダンクを真っ直ぐ見つめたままだ。


ノリ(『ゴブリンズの良心』と呼ばれているススが本気で憎んでいる相手がどんな奴か見極めるために、わざとボク達の動きを止めたッスね。

……狸め!)


メルはダンクを睨み付ける。

ダンクはそれにお構い無しにススに話し続けた。


ダンク「なんで俺達がここにいると思う?

それはリーダー達が向かった学校で、何かが起きたからだ。

スス、憎む事に夢中だったお前は気付かなかっただろうが、

今ゴブリンズがヤバい。ついでにハサギもヤバい」

ノリ「ついで扱いするなッス!」

ダンク「俺はてっきり、学校に向かったと思っていたのに、お前は何故かここにいて、この少年を殺そうとしていた。

そして、この少年は『ススの部隊が滅びる』夢を見た……何故か、な」


ダンクはちらり、とメルを見つめた。

包帯からでは表情が掴めないが、雰囲気から狂気を感じられない。


ダンク「どうも、誰かの意図が見え隠れしているな。まるでお前を学校に行かせたくないみたいだ。

スス...まんまと騙されたな」

スス「そ、そんな...!」


ススの顔がだんだん青ざめていく。

先程まで激しい怒りに呑まれた者とは思えない。


ダンク「だが完全に最悪な状況という訳でもない。

現にこの少年は仲間になると言ってくれた。

今からでもまだ間に合う筈だ」

スス「……!!

なら、急がないと..!

皆が危ない!」


ススは立ち上がろうとして、そして崩れ落ちる。


スス「...っ!!」

ダンク「落ち着け、その状態じゃ行っても何の役にも立たないぞ。

回復魔法を使うから、少し休んでろ」

スス「く...ごめん、ダンク」

ダンク「気にするな、俺はお前の部下なんだからこれくらい当然だろ?

白色魔法、『ホワイトシェル』」


ダンクが魔法を宣言すると同時に、包帯が飛び出す。

それは空中でくるくる回りながらだんだん大きくなり、やがて巨大な繭になる。


ダンク「さ、これに入ってしばらく休んでろ。

少し時間はかかるが、体力や怪我を完全回復してくれるぞ」

スス「ダンク...」


ススはダンクをしばらく見つめていたが、顔をそっと隠して繭の中に入り込んだ。

それを確認したダンクは、メルの方に振り返る。


ダンク「少年、次はお前だ。

お前も繭の中に入ってもらうぞ。白色魔法『ホワイトシェル』」


ダンクは先程と同じ繭を精製する。

メルはそれを一瞥したあと、ダンクの方に目を向ける。


メル「……ダンクさん……」

ダンク「なんだ?」

メル「僕を、信じてくれるんですか?

僕は皆に嫌われて当然な存在なのに……」

ダンク「あー、少年、自己嫌悪は止めときな。

俺はさっきお前の戦いを見ていた。

お前は一度もススに攻撃しようとしなかった。

最後にナイフを持った時だって、お前はススを刺そうとしなかった。

……だから危害を加えるような奴じゃないと思っただけだ。気にするな」

メル「で、でも……」

ダンク「あーったく、さっさと繭に入れ!話しは元気な時にしろっ!」

メル「う、うわわっ!」


ダンクは半ば強引にメルを繭の中に押し込めた。


ダンク「ったく、最近の若い奴は話し好きで困るな……さて、と」

ノリ「...もうボクは動いてもいいッスよね?」

ダンク「ああ、悪かったな」


ダンクが人差し指を軽く動かすと、ノリの体が自由になる。

そしてダンクはちらり、と右を住宅街の方を見つめた。

道路はぐしゃぐしゃに破壊され、何軒もの家が破壊され、あちこちで水が吹いたり火の手が上がっていたりしている。

メルは呟いた。


メル「これ、後でススが見たら凄いショックを受けるッスね。

『自分が悪いことしました、ごめんなさい』で済ませる問題じゃないっス」

ダンク「……そうだな。

だがあいつがあんなに爆発するのも始めて見たよ。

いつも俺達が暴走した時のストッパーだったからな、ススは」


ダンクはススの入った繭を見つめる。だがすぐに目線を街の方へ向けた。


ダンク「……この街の光景は、間違いなくススを必要以上に追い込ませる。

……そんな事、俺が絶対にさせないさ」


ダンクは屈み、右手を地面に着ける。

その瞬間、緑色に輝く巨大な魔法陣が現れる。


ノリ「!?」

ダンク「俺は魔法使い。

灰かぶりの少女を絢爛豪華な舞台に立たせて夢と希望を与える事こそ、魔法使い最大の誉れなり。

……だからこそ、俺の上司を絶望に追い込んだ奴を、俺は絶対に許さない」


緑色の魔法陣の右横に赤色の魔法陣が、

赤色の魔法陣の斜め上に青色の魔法陣が現れる。


ダンク「三原色魔法!!

復元(リストア)』!!」


ギイイイイイイイン!!


ダンクの魔法陣が眩しく輝きだし、三色の光の玉となり飛んでいく。


ノリ「あ、あああ!!」

ダンク「世界よ!

我が魔力を代償に、輝く日々を取り戻せ!!」


三色の玉は空中で弾け、小さな光の粒となり街中に降り注ぐ。

すると、破壊されていた家や道路や電柱が次々と元通りに修復されていくのだ。


ノリ「す、凄い...なんて綺麗な魔法なんスか!?」

ダンク「ははは、これが俺の体を代償に得た魔法の力だ!

……ま、ごっそり俺の魔力を持っていくんだけどな」


ダンクは少しふらつきながらも、修復されていく街を眺めていた。


ダンク(これでススが起こした問題は片付いたが、問題は山積みだ。

学校の膨大な魔力の感知、少年の見た夢、そしてあの化け物じみた力……。

どうも、俺以外にも魔法使いが存在するようだ。

しかもそいつは邪悪な意思を持っている。

アイの奴、無事だといいが……)


ダンクは自然と街から自分の胸に刺さったナイフへ向けていた。

ダンクはナイフを掴み、引き抜く。

包帯でできた体からは血が出ないものの、暗闇を覗く穴が一つ出来ていた。


ダンク「……俺には魔法以外、何もない。

痛みや怒りも、俺にはない。

……だから、このナイフに込められたススの気持ちは、誰よりも理解できる」


『Susu』と書かれたナイフを、ダンクはぎゅっと握り締める。


ダンク「...許さない。

俺の仲間を傷付けて、俺の仲間に殺意を持たせた奴を、俺は絶対に許さないからな」



ダンクの目の部分の穴には、赤い炎がチラチラと揺らめきながら覗いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ