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角が有る者達  作者: C・トベルト
太陽の命と月の命。
53/303

第54話 本当の太陽パート 猛毒英雄VS 悪魔の子

ズパル「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

セキタ「……」


ズパルとセキタが対峙している光景を見て、メルは思わず呟いた。


メル『…戦場に戻って来たんだ…』


メルは辺りを見渡す。

戦艦の残骸が辺りに散らばりあちこちで火災が発生している。

死体はあちこちに散らばり、あまり長居をしたい場所ではなかった。


メル(なんで僕はここにいるんだろう?

僕は、ススに殺されたからここに来たんだろうか?

ここはあの世?地獄?)


メルは自分の首をさする。

しかしどこにもナイフで斬られた跡はない。しかし自分の手首に手を当てて脈を測っても、脈の音は全く聞こえなかった。


メル(たとえここが天国であったとしても

彼等のやっている事に変わりはないだろうな。

ズパルは『英雄』の座を取り戻すために戦い、

セキタは『仲間』の仇を取るために命を賭ける)


メルはセキタ達に目を向けて、すぐに背けた。


メル(もう見たくない。

早くここから去ろう)


そして、何もない荒野に向けて静かに歩き始めた。

後ろでヘイグの声が聞こえる。


ヘイグ「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!

そこに転がっているサイモンを助けるのは、このジョン・ヘイグ様だ!

 俺がこいつを助けて英雄に返り咲く!」

メル(英雄か。

人殺しで英雄になって、何が嬉しいんだ。

僕の父も祖父もそうやって英雄になって……そして、息子の僕がススに憎まれて殺されるんだ。

……それじゃあ、あそこにいるのはジョン・ヘイグなんかじゃない)


ススは歩みを止めて振り返る。

ガスマスクを被り中身の見えない殺人鬼 を見つめた。


メル(あれは僕だ。

 人を殺して生きてきた癖に、それを反省もせずのうのうと平和に生きている。

……正に僕そのものじゃないか)


メルは視線を前に戻し、歩き始める。そして彼の心にススの声が響いてくる。



スス(あははははははは!!

 とっことんサイテーな親子よね!!

 二人揃って他人の人生をクズのようにしか見ていない!)

スス(あなたがおしめを換え、食事をし、楽しいおもちゃで遊ぶために、あなたの父は私達を殺す武器を作り続け、

 私達は改造され、住処を奪われ、憎まれ、武器をもたされ、殺し殺され続けて!

 あなたが生きるために私達の人生をズタボロにされて!

 挙げ句あなたの祖父は私達を実験体のマウスのようにいじくる事しか考えてなくて!

 そしてあなたはそれら全てを知らずにのうのうと生きて、平和の中で皆に愛され生きて!!

 そんな奴、生かしておくわけないでしょう!)



メル(僕は最低の人間なんだ。

生きていちゃいけないんだ)


いつの間にか拳を強く握り締めていた。その拳を誰にぶつければいいのか分からず、すっとほどいてしまう。

そして去ろうと歩みを強めて、


セキタ「驚いたなあ、お前の名前、ジョンて言うんだ。

実は俺もなんだよ」

メル(え?)


 歩みを止めてしまう。

 メルが振り返ると、そこにはどこか楽しそうに笑みを浮かべるセキタの姿。

 そしてメルは我が耳を疑った。


メル(セキタの名前はセキタ、じゃないの?)

セキタ(?)「俺の本名はジョン。

 ジョン・ウェイン・ゲイシー。

 まあ、皆は俺の事をセキタって呼んでいるから、どっちでもいいけどね」

ヘイグ「ジョン・ウェイン・ゲイシー?

 ……ふん、下らん名前だな」


ヘイグは鼻で笑い、ゲイシーもニヤリと笑った。


セキタ「確かに、この名前はあまり好きじゃない。

 だから、俺のことはセキタと呼んでくれ」


 バキッと何かが割れる音がした。

 ジョン・ヘイグの足元には大量の死体が存在する。

 その中の誰かの顔を勢い良く踏んだのだろう。


ヘイグ「ち、何を訳の分からない事をほざいてやがる。

 これから命懸けの死闘を始めるんだぞ!?」

セキタ「そうだ。

 ……だから、1つだけ祈らせてくれないか?」

ヘイグ「はあ!?」

セキタ「どうせこれから死闘を始めるんだ。

正々堂々とぶつかるためにも心残りは無くしたいしな」

ヘイグ「早く済ませろ」


 ヘイグはそれだけ言うと、死体の山から降り始めた。

 怒りを見せないようにしているらしいが、少し興奮してるのが言葉の端から理解出来る。

 セキタはフッと笑い、目を閉じる。そして両手を組んで、小さくこう祈った。

 それはとても小さな声だったが、メルにはハッキリと聞こえた。


セキタ「向こう側へ逝った拍手部隊に祈る。

どうかこの戦いは目を背けておくれ」

メル「え?」


 メルが思わず首を傾げる。

 あの人は、何故そんな事を祈ったのか分からなかった。

 その疑問はとても当然で、とても自然な考えで、メルは足を止めて彼の様子を伺った。


ヘイグ「……祈りは済ませたか?」

セキタ「ああ、大丈夫だ。

 君こそ何か祈ったか?」


ヘイグは首を横に降る。


ヘイグ「俺みたいな英雄が神に祈る事なんてねーよ。

 さあ始めようぜ、この下らない戦争の最後の戦いをよ」

セキタ(ゲイシー)「そうだ。

狂者の宴を始めようじゃないか。

……能力発動。『象男(エレファントマン)』」


 セキタが呟くと、グニャリと彼の体が歪んだ。

 褐色肌は灰色に変化し、彼の整った顔はどろどろに崩れ落ちていく。

 残酷、残忍で名が通ったヘイグもこれには怯んだ。


ヘイグ「な、なんだ?

 貴様の能力は……?」

ゲイシー「俺の能力は2つある。

1つは、自らの体を泥のように柔らかくする事が出来る能力」


 そう言うセキタの口は、どこにあるのか分からないほど彼の体はドロドロに変化していた。


ゲイシー「そしてもう1つの能力は、体を硬化させる能力」


ぱき、パキパキパキパキパキパキパキ……!


 ゲイシーのドロドロに変化した体が少しずつ硬化していく。

 灰色の体が露になり、両腕から腰の辺りには蝙蝠のような薄い膜が出来ていた。


ヘイグ「!?」

ゲイシー「この2つの力があれば、自分の姿を好きな姿に変化させる事が出来るんだ」


パキパキパキパキパキパキパキ!


 足は先程より太く力強くなり、靴からは鋭い爪が四本、靴を突き破って出てきていた。

 また、両手にも膜が張ってありそれで空を飛べそうだ。

 極めつけに、頭部には二本の角が生えている。


ゲイシー「さあ、これが俺の戦闘体型だ」


 そして、メルはその姿を見た。

 全身灰色で、両足の靴は破け鋭い爪が飛び出している。

 両腕は蝙蝠のような薄い膜ができており空を飛ぶ事が出来る。

頭部には二本の角が生えていて、灰色の顔はセキタが浮かべる笑みとはまるで違う。

 それはまさしく、悪魔と呼ぶに相応しい姿であった。


メル「悪魔……?

セキタが、あの優しいセキタが……なんて酷い姿に……」


 メルはへなへなと崩れ落ちていく。

 メルが知る限りセキタはとても優しい存在だ。皆から頼られ守られた存在だ。

 そんなセキタが、何故こんな姿になれるのか……この時のメルは、知る由もない。

 そして、セキタとは違うあの男の笑い声が響いてくる。


ヘイグ「あ……あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!

 こいつはいい!

 最高だ!

 『猛毒英雄』ジョン・ヘイグが戦う悪役に、相応しい姿じゃないか!!」


 ジョン・ヘイグは相変わらずハイテンションで笑い、

 ゲイシーはヘイグを見つめたまま動かない。


ヘイグ「怪物に変身とは成る程完全に英雄に倒される悪役に相応しい終わり方だな!!

 あひゃひゃひゃひゃ!!」


 ジョン・ヘイグは狂ったように笑い、

 ゲイシーはヘイグを見つめたまま動かない。


ヘイグ「さぁどうやって殺そうかなぁ!酸で溶かされて死ぬ?燐で焼かれて死ぬ?毒で苦しんで死ぬ?

 それとも、その3つ全てで死にたい??

 あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」


 ジョン・ヘイグは楽しそうに笑い、

 ゲイシーはヘイグの前から姿を消した。


ヘイグ「ひゃ……?」



ドゴオオオオオオオオ!!!



ヘイグ「ぐぼおおお!!?」


 次の瞬間、ジョン・ヘイグの脇腹に強力な一撃が入る。彼は勢いのまま吹き飛ばされそうになるが、全身に強引に力を込めてその場に立ち止まる。全身に着た特殊装甲『ポイズン・ヒーロー』によりダメージは少ない。

 そして逆に勢いを利用して右手を右脇に出し、仕込んだ強酸液の発射スイッチを押した。


カチッ ブシャアアアアアアア!!


ゲイシー「!」


 すぐ近くで蹴りの態勢をとっていたゲイシーは目を丸くする。

 軸足だけでは逃げる事が出来ないと彼は判断し、

 両腕に強引に力を込めて羽ばたき、軸足で軽く跳躍する。

 それだけで蝙蝠のような羽が彼の体を3メートル程跳躍させ、

 結果、ジョン・ヘイグのカウンター攻撃は失敗に終わった。


ヘイグ「……痛ぇな!

 まだ俺が話している途中だろうが!」

ゲイシー「あんまり長いから飽きちゃったよ。

 さっさと始めようぜ、英雄(ヒーロー)?」


 ゲイシーは何度か羽ばたき、上空へ舞い上がる。

 ヘイグはニヤリと笑った。


ヘイグ「あひゃひゃひゃひゃ!

空を飛べるっていいなあ!

だが、忘れてもらっちゃ困る!

ヒーローは空を飛べるんだよ!」


 ヘイグの言葉に連動してスーツの背中が開き、2門のロケットエンジンが飛び出る。

 更にエンジンの横から飛行機のような翼が展開されていく。

そして、ロケットエンジンが点火した。


ヘイグ「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!

最後の戦いに相応しく、空中決戦としゃれこもうぜえええ!!

ファイヤー!」


キュボ、ボボボオオオオオオ!!!


ジョン・ヘイグもまた、空を飛ぶ。そして右腕を前に出した。


ヘイグ「溶けろ!!」


 ヘイグは強酸液を発射する。

 強力な酸の柱が空を飛ぶゲイシーに向かっていくが、ゲイシーは直ぐに方向転換し攻撃を交わす。


ヘイグ「ちっ!

ん!?」


 しかし、ゲイシーは更に方向転換しなんと柱の周りをくるくると飛び始め、そのままヘイグに向かって飛んでいく。


ヘイグ「!」

ゲイシー「『硬化』!」


 ゲイシーの左腕が更に硬化し、まるで刃のようになる。

 ヘイグは目を見開き、飛行エンジンのスイッチを切った。


ボボオオオオ………………!


 スイッチを切った彼の体は重力に従って態勢を崩し、落ちていく。そのすぐ上をゲイシーが高速で通りすぎた。


ゲイシー(かわされた!)

ヘイグ「喰らえ!」


 背中を晒したゲイシーに向けて、再度ヘイグは強酸液を発射する。


バシャアアア!!


ゲイシー「ぐわああああ!!!」


酸はゲイシーの背中を焼き、彼の体を焦がしていく。


ヘイグ「ひゃひゃひゃ!溶けろ、悪魔めえ!」


 ゲイシーは落下し、急いで背中を大地にこすり酸を落としていく。そして、背中から煙を出しながら彼は近くに有る戦艦の残骸に姿を隠した。


ヘイグ「なんだ?

 空中戦をやると思ったら今度はかくれんぼか?

 つまらない事するんじゃねえよ」


 ヘイグは左腕を前に出す。

 こちらからは毒煙を吐き出す事が出来る。


ヘイグ「こいつでいぶりだしてやる!」

ゲイシー「その心配には及ばないぜ、ジョン・ヘイグ!」


 叫びと共にゲイシーは姿を現した。そして右腕を触手のように変化させ大きさ7メートルはある空中戦艦の残骸を掴む。


ゲイシー「空中戦はまだ続いている!」


 それを、軽々と持上げた。

 ヘイグはガスマスクから目が飛び出しそうなほど仰天する。


ヘイグ「なに!?

どんな腕力をしたらそんなの持てるんだよ!?

どうみても4〜5tはするぞ!?」

ゲイシー「『英雄』の癖に常識なんて気にしてどうする!?

化け物(俺達)は常識外れで当然だろ!!」


 そして、ゲイシーは勢いをつけて残骸を投げ飛ばす。  

 残骸は真っ直ぐヘイグに向けて飛んでいく。


ヘイグ「ち!」


 ヘイグは急いでかわし、強酸液をかけようと右手を地面に向ける。しかしそこにゲイシーの姿はなかった。


ヘイグ(!?)ゲイシー「ここだ!」


 飛んだ残骸の後ろから、ゲイシーは飛び出した。

 その先にあるのは背中を向けたヘイグだ。

 ゲイシーは左腕を刃のように変化させ、ヘイグの背中を切り裂こうとする。


ヘイグ「!」


 しかしヘイグは背中から来ている事に気付き、今度はエンジンの出力を上げて上昇する。

 しかし、今度は逃がさなかった。

 ゲイシーが勢いよく振った刃は、ヘイグの右足を足首から切り裂いたのだ。


ズバン!!


ヘイグ「!!

ぐわああああ!!!!」

ゲイシー「ここはお前のヒーローショーじゃないぞ、ジョン・ヘイグ!

 ジョン・ウェイン・ゲイシーの変幻自在のサーカスは、これから始まるんだ!!」


 ゲイシーは叫び、ジョン・ヘイグを睨み付けた。

 ジョン・ヘイグもまた、足を押さえながらゲイシーをガスマスク越しに睨み付ける。

 そして、地上では二人の戦いの様子をメルは静かに見ていた。


メル「…………なんで?」


 ぽつり、とメルは呟く。


メル「なんで、セキタはあんなに強いの?あれだけ強いなら、もっと前に戦えば……もしかしたら皆死なずにすんだかもしれないのに。

なんで今までそれを出さなかったんだ……?」

(それはね)


 困惑するメルの耳に、誰かの声が響いた。

 その声は、上空で戦っている筈のセキタだ。


メル「え……セキタの声……え?」

セキタ(俺は、あの時こう思っていたからだよ。

 『俺みたいな最低な奴が、生きていて良い訳がない。 

 俺の正体は余りに醜すぎるから、誰にも見せたくはない』……ってね。丁度、今の君と似たようなモノなんだよ。

メルヘン・メロディ・ゴート君)


セキタの声が、メルの耳に、頭のなかに響き渡る。





 少年は絶望していた。

 自らを存在してはいけない者と、決めつけていた。

 だが、少年は知らなかった。 

 セキタ……いや、ジョン・ウェイン・ゲイシーという青年が、どんな人生を歩んでいたのかを。

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