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角が有る者達  作者: C・トベルト
太陽の命と月の命。
51/303

第52話 太陽パート これがメルヘン・メロディ・ゴートの真実の1つ。

ピッピッピッ


ダンク「発信機によるともう少し先だな。

 …っというか、本当に空飛べないんだな、お前は。」

ノリ「う、うるさいッス…」


ダンクとノリは住宅街の上空を飛んでいた。

ダンクは右手に発信機を手に持ちながら飛び、左手はノリの手を握っている。

ノリは顔を赤くしながらブツブツ呟いていた。


ノリ「なんでこんな飛行法しかないんスか…。

 手を離して空飛びたいのに…」

ダンク「はっはっは、それは無理だ。

 そう言う魔法もあるにはあるが…」

ノリ「なら早く使えッス!」

ダンク「そしたら俺の魔力がごっそり無くなってしまう。これが一番エコな飛び方なんだよ」

ノリ「嘘臭いッス…!」


ノリはじろ〜〜っと、ダンクを睨みつける。

ダンクはフッと笑い、


ダンク「ま、君の正体を考えると手を離した方がいいんだけど、さ。

 君は確か」

ノリ「ストップ!

 それ以上言うなッスよ!

 言っちゃダメッスよ!言ったら即逮捕ッス!」


ノリは怒った顔で素早く手錠を取り出す。


ダンク「はいはい、分かりましたよ、君の正体は言わないよ」


ダンクは苦笑しながら言葉を止める。


ノリ「約束ッスからね!」

ダンク「はいはい…。

 あ、そう言えば、何で周りの奴らにはバレないんだ?君が女だって」


ダンクはさらりとノリの正体を話した。

ノリはあまりに自然に言われたので気付かず、答えてしまう。


ノリ「分からないッスよ…。

 ボクは普段通りのスーツに普段通りの行動していただけなのに、誰もボクを女として見てくれなくて…。

 ………………………………。

 あーー!!」


そして、自爆。


ダンク「はっはっは」

(からかいやすいなこいつ。)

ノリ「よくも、よくも言ったッスね!!

 しかも考えている事まで分かるッスよ!!

 逮捕、逮捕ッス!!」

ダンク「わー、待て待て暴れるな!

 暴れたらダメだって…」


空中で激しく繰り広げられる、哀れな戦い。

しかし、それはすぐに止められる事になる。


ダンク「ん?」

ノリ「この…(ガチャン)よし、捕まえた!」

ダンク「あれは何だ?」

ノリ「時間稼ぎッスか?

 今更そんなの意味が無いッスよ!」

ダンク「いや、それよりこっち…」

ノリ「あー、一体何を…!?

 何なんスか!?

 これは!」


ダンクとノリが見たその先には、青い4メートル程ある大きな風船。

 そして、その上にあぐらかいて座っている派手な服を着た道化師。


バベル「ヒヒヒヒヒ!

 よーやく俺に気付いてくれたな、貴様ら!」

ダンク「誰だ、お前?」


道化師は風船の上でニヤリと笑う。


バベル「俺の名はバベル。

 バベル・エンヴィーだ!」

ノリ「……エンヴィー(嫉妬)?

 それはまた随分な名前ッスね。」

ダンク「なんか、へんな奴。

 不審者ヅラしてんなあ」

ノリ「あ〜、確かに不審者ッスね。

 …って、ダンクが言うセリフッスか?」

ダンク「ばれちったか、てへ」

ノリ「てへ、て…。

 ダンクさん、年は幾つなんですか?」

ダンク「心はいつでも17歳。」

ノリ「うわぁ…そのセリフは引くッスよ。」

バベル「おい!!」


イライラがたまりにたまったバベルがついに叫ぶ。


バベル「お前ら…なに俺を無視していちゃついてんだ!」

ダンク「あー、悪い悪い。

 なんか如何にも『怪しい人』なんで話し掛けない方がいいかなあと」

バベル「な、なんだと!?

 果心様から頂いたこの服を侮辱するとは許さん!

 これでも喰らえ魔法『バルン・クラック』!」


バベルが掌から取り出したのはまだ空気が入ってない風船が4つ。


それを空中高く放り投げると、一瞬で2メートル程の巨大な風船になる。

 しかも栓はしていない。


ノリ「?」ダンク「!」

バベル「レッツ、ゴー!!」


バシュウウウ!ブシュウウウ!

ボシュウウウ!ブシュウウウ!


4つの巨大風船が高速でダンク達の方へ向かって来る。

 ノリはあまりに呆気にとられ、避ける事も出来ない…筈だが、ノリと風船の間に突如半透明なバリアが現れた。


バベル「!?」

ダンク「バリア!」


ドガアアアアバカアアアズガアアアボオオオン!


風船は次々とバリアに衝突し、大爆発を起こしていく。

ダンクはバベルを睨み付けた。


ダンク「貴様、何を考えているんだ!?

 こんな町中で、言われただけで魔法を使えない人間に対して攻撃魔法を使うなんて…!

 魔法使いとしての誇りは無いのか!?」

ノリ「だ、ダンク…?」

 

バベルはニヤリと、先程より殺意を込めて笑う。


バベル「ヒヒヒヒヒ!

 魔法使いとしての誇りだあ!?

 てめえがそれを言うか、ダンス・ベルガードオオ!!」


その言葉を聞いた瞬間、ダンクの体が硬直する。


ダンク「!!

 ダンス・ベルガードだと、何故その名を…!

 お前、まさか!」

バベル「隙有りイイイ!!!」


バベルが自身が乗っていた風船の栓を開ける。

すると、風船の中から強烈な風が現れ、ダンク達を吸い込もうとする!


ゴウ!!


風がダンクを包み、風船の中に吸い込もうとする。その中でノリはこんな事を考えていた。


ノリ「うわあああああ!!!」

(あいつ、ボク達をどうするつもりなんスか!?ハサギさん、助けて…!)













スス「あなたは、私達をどうするつもりなの?」

メル「え…?」


誰の家か知らない寝室の中。

ベッドの上には上半身だけ起こしたメルがいて、

ベッドの近くにはメルを冷たい目で見下ろすススがいて、

そのすぐ後ろで三メートルはあるアンドロイドの巨体の黒山羊が天井に角をひっかけないよう頭を屈めながら、ススを睨みつけていた。 

夢から覚めたメルは、夢の中で出会ったススに、現実で出会っていた事に気付く。

思わぬ再会の喜びもつかの間、ススから発せられた意外な言葉にメルは困惑する。


メル「ススさん、何を言って…わ!」


言葉を紡ぐより先にススはメルの胸ぐらを掴んでいた。


スス「この、しらばっくれて…!!」

黒山羊「メ!!」


黒山羊が急いでススを止めようと肩を右手で抑える…が、しかし、それより早くススは動き出した。


黒山羊「!?」

スス「こんな怪物引き連れて、何が「え?」よ!

 私を馬鹿にすんじゃないわ!

 もう私はとっくにキレてんのよ!!」


ススは黒山羊を一発蹴った。

少なくとも、メルにはそう見えた。

しかし、次の瞬間…………。



ドガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!



まるで、マシンガンを乱射したような爆音と共に黒山羊の頑丈な体に強力な攻撃が何度も入る。

そして黒山羊の体がどんどんズタズタに切り裂かれていのだ。

 アンドロイドという機械で出来た屈強な体にヒビが幾つも入り、腕や角を破壊し、足や腹がグシャグシャに凹んでいる。

 これが機械でなければ、間違いなく部屋は赤く染まっていただろう。


黒山羊「!!???」

メル「な……!!?」

スス「私の足は弾丸より速い。速さを生み出す力は踏み込む力。

 即ち私の足技は、弾丸よりも激しいのよ」


だが部屋は赤く染まらなかった。

彼が機械の体だからではない。

ススが静かに足を下ろす。

その足からは真っ白い煙が上がり、床は煤だらけ黒く染まり、黒山羊の体に刻まれたヒビが幾つも入っていた。

 まるで、爆弾が爆発したような凄惨な光景…。


メルは言葉を失った。

しかし、黒山羊は動いた。

ズタボロになり、配線や内部の機械を晒しながら、それでも前に進もうとする。



黒山羊「メ………エ………エ………」

スス「…まだ動けるの?

 流石はドリーム・メロディ・ゴートが自衛の為に作り上げたロボット、ね!!」


ススは黒山羊の腹に蹴りを入れる。

黒山羊の体がビクンと跳ね上がり、煤だらけの床に倒れ伏す。


メル「黒山羊!」

スス「動くな!!」


黒山羊に駆け寄ろうとするメルの首筋に、ススはナイフを逆手に持って首に突きつける。


スス「まだ私の質問に答えて貰ってないわ。

 もう一度しらばっくれたら、こんどはあなたの首を落とすわ」


ススはメルを睨み付ける。

その目には恐ろしい程の殺気と憎しみが込められていて、メルに反論の言葉を言わせない。


メル(本気だ!

 ススは本気で僕を殺す気なんだ!

 でも、なんで?何で僕を殺そうとしているの!?

 聞きたいけど怖くて何も聞けない!)


メルは怖くてススの顔から目をそらすが、そこには黒光りするナイフしか目に映らない。


メル「う、あ……あ?」


しかし、そこでメルは奇妙な点に気付く。

ナイフに文字が彫ってあるのだ。 そこには、『Sekita』、と書かれていたのだ。

 それを見たメルの目がどんどん丸く大きく見開いていく。


メル(セ…キ……タ……。

 セキタ!まさか!?

 …いや、もう言わずにはいられない!!)

スス「さあ、答えて……」

メル「セキタ!」


メルは思わず叫ぶ。ススは眉一つ変えようとはしない。


スス「何?私のナイフの名前を叫びだして、おかしく…」

メル「スミー!ズパル!」

スス「なった………?」


ススの言葉をメルは切り裂く。

しかし切り裂いたその言葉は、ススの表情を変えさせる。

 メルは更に言葉を続けた。


メル「シンプル・サイモン!クックロビン!エッグ・ミステリー!」

スス「そ、の名前、は…!8888番隊の…。」

メル「違う!」


メルはススを見つめた。

 その眼に涙をにじませながら、精一杯力を込めて見つめた。

 そして、叫ぶ。


メル「この部隊の名は、『拍手部隊』だ!

 命を賭けて手を叩き仲間を励ましあって戦った、誇り高き部隊だ!

 みんな心に自分だけの葛藤を持ちながら、それでも仲間を守るために戦った、強い部隊だ!

 ススさん!

 あなたも、その部隊の一人なんでしょう!?」

スス「なんで、それを…知っているの?

 私が黒山羊に話した時、あなたは夢の中にいたはずよ!」


ススはナイフを一瞬、緩めそうになるが、すぐに構え直す。再び首もとに当てられる黒い刃。

 それでもメルは叫んだ。力一杯叫んだ。


メル「僕は見たんだ!!

 その夢の中で、ススさんの過去を見てきたんだよ!!」

スス「!?」


ススは驚愕のあまり目を見開き、メルは涙を流さないよう目を細める。

 それでも涙は少しだけこぼれた。


メル「とても辛い過去だった………」




気付くとメルは話し始めていた…。

今まで見た、夢の全てを。

8888番隊、通称拍手部隊にススが入隊した事。

入隊させたのはセキタであると言うこと。

彼らは皆、ススやスミーやセキタの芸や歌を楽しみにしながら毎日を生きていた事。

そして、

それら全てが空中戦艦、『モーゼのステッキ号』によって潰された事。

それでも仲間は諦めずに戦い続けた事。

スミーが爆弾の雨の中で死んだ事。

ズパルがサイモンを助けるために命を賭けて戦った事。


ススはナイフをメルの首筋に当てたまま、じっと話しを聞いていた。


そしてセキタがジョン・ヘイグと戦った所まで話した時………。


スス「いい加減にして!!」

メル「あ……………」


メルはハッとして口を止める。

ススは先程のように怒りを込めた目でススを見つめた。


スス「もう、沢山!!

 あなたは私に何を伝えたいの!?

 私の知らない話しをして、私を混乱させる気なの!?」

メル「あ、いや………」

スス「あなたが見た夢を信じろとでもいうつもり!?

 そんな夢の中から出てきた話なんて誰が信じるの!?」

メル「で、でも僕は君の部隊の名を…」

スス「そんなの…!!

 私が黒山羊に自分の事を話した時、寝ているあなたの耳に入ったから、夢の中に出てきただけじゃないの!?」

メル「う…。」

スス「知っていようが知っていまいが私にはどうでもいいのよ!」


メルはこれ以上言葉を言えなかった。

確かに、ススは過去の中では途中で気を失い大部分の事実を知らない。

 ススの中では『みんな戦場の炎の中で死んでしまった』事実しか、知らないのだ。  

 だからメルが話した事が、その夢が現実に起きたかどうかを知ることが出来るのは、

 その時その場にいた者だけだ。


メル(そしてそれは、セキタか、ジョン・ヘイグのどちらかなんだ。

 僕が最後に見た時、二人は臨戦態勢だった)


果たしてどちらが生き残り、どちらが死んでしまったのか?

 そしてどうやってあの地獄のような戦場からススを助けたのか?

 それを知る者はあの夢の続きを見ない限り分からないのだ。


メル(結局、僕があの夢を通して理解出来たのは、ススさんの辛い過去だけだったんだ…

 首筋にナイフ当てられる状況だからって、夢の話しをここでするなんて…僕は何をしてるんだろう…)

スス「…。

 気が変わったわ」


ススはナイフを鞘に納め、メルを解放した。

それでもメルはあまりに唐突な出来事に対応出来ず、ベッドの上に倒れてしまう。


メル「うわ!」

スス「話してあげる。何故私があなたを憎むのかをね…」


ススはナイフをもう一本取り出した。

刃の部分には「Smee」と書かれている。

そしてくるりと振り返り、ナイフを後ろで倒れている黒山羊の掌に遠慮なく突き刺した!


ブスリ!!


黒山羊「メ!!??」

スス「どうせ邪魔は入らないしね」

メル「………!!!」


再度メルに向き直るスス。

その目はギラギラと輝き、まるで鬼のような表情でメルを睨み付けていた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





~ススの回想〜


スス「痛い………痛い………」


私が目を覚ました時、味方の部隊のベッドの中だったわ。

そして聞かされた。

『あなたの8888番隊はあなたを覗いて全滅してしまいました。』…とね。

 しばらくの間、私は私は痛い痛いと唸っていたわ。

そうすれば、痛みが消えると信じてね。

 でも、私は覚ました目を何度もえぐり取ってやりたい衝動に駆られたわ。


だって、死んだ筈の皆の姿が目に映るんだもの。

皆の無表情な目はいつも私に問いかけていた。

『どうして助けてくれなかった?どうして生きている?』…ってね。

 私はその問いに対していつも、『ごめんなさい、ごめんなさい』と謝るしかなかった。


それが嫌で無理矢理にでも体を動かすんだけれど、私を助けてくれた部隊は救護部隊でね。

毎日毎日重症患者や死体になりかけた兵士が送られてくる。

私はそいつらに薬を渡したり、包帯を巻いたり、頑張れ頑張れと応援していた。


でも、私に頑張れと言ってくれる人は、一人もいなかった。みんな、私を見て侮蔑の目で見ていたわ。


目の前には重症患者、血と薬の蒸せかえる匂いが私を恐怖に追い込む。

目を閉じれば拍手部隊の皆が私を追い詰める。


私は精神の医者に助けてと叫んでも、戦場の救護部隊の中でリラックスする方法なんてない。

しまいには、あの狂人達のなれの果てが巣くう恐ろしいオルゴール病院に送るしか手はないとまで言われた。

いつしか私は自分がサーカス生まれの人間である事を忘れ、天才の奴等に対する深い憎しみだけを覚えるようになっていったわ。

でも同時に、違和感も覚えるようになった。


「違和感…?」


ええ、違和感よ、メル。

何故私が能力を使えるんだろうという違和感に気付いたの。

『弾丸より速く走る能力』なんて、誰が欲しいといった?

そもそもこの能力はGチップによって開発された能力。

誰も使わなくていい力。何の役にもたたない力。

 ただこれがあるだけで私達は住む場所を追われ、戦場に駆り出され、死んでゆく。


 いらないじゃない、こんな力。

 ただの毒じゃない、こんな力。


私は仲間を殺した天才の奴等以上に、この力自身を憎んでいったわ。

だけどね、そんな腐った状況を壊してくれる、有る事態が起きたの。


それは、私が助けられて3ヶ月たった頃だった。


『第7459救護番隊に緊急指令!!

 捕虜の負傷者をそちらに搬送する!!

 数は250人!!

 死亡者、死傷者共に0人!!!』


部隊の皆は目を丸くしたわ。あれは滑稽だった。

もっとも、私もその中の一人だったけど。


送られてきた捕虜は皆、手足のどれかをへし折られていた。しかし、そのどれもが時間をかければ治る程度の怪我だった。

 部隊の一人が『誰にやられたんだ?』と聞くと、『隻腕の男にやられた、』と捕虜は揃って答えた。

 そして数時間前まで、彼等が前線基地の兵士だという事を初めて知った。

ちなみに、私の部隊に送られた兵士250人が同じ男にやられたといったわ。そして、基地にいた兵士、1000人近くが同じように骨を折られ、5つの救護部隊に送られた事を後で知った。

 最後に、その男は能力を最後まで使わなかった事が1000人近い証人の証言から判明した。


私はその隻腕の男にとても惹かれたわ。

彼等1000人、殺そうと思えば楽に殺せた筈だった。しかし殺さなかった。

そして、一度も特別な力を使ってない。

ただの人間が、異能者軍団の巣くう基地を一つ壊滅させたのだ。

私は患者に何度も何度もその男の特徴を聞いていた。でも誰も、『隻腕の男』以上の情報を持っていなかった。


やがて戦争が集結し、能力者軍が解放された夜の事。みんなこれからの新天地に夢を膨らませていた時に放送が入った。

隻腕の男からの放送だった。

俺と一緒に来るものは来い。新生ゴブリンズは世界を駆ける者になるのだ、と。

この俺は左腕しかないが、それでも誰より前に進む力がある、能力に頼らない世界を俺と共に造らないか、と。

集合場所を伝えた所で、放送は途切れた。

私はその男に会いたい一心で集合場所である桜が植わっている中庭に向かう事にした。

そこにいたのは、

両腕を失った、氷鬼と呼ばれた男だった。


そして私は、新生ゴブリンズに入った。


〜ススの回想、終了〜


メル「ゴブリンズ…?

 あの、世界的に有名な義賊の?」

スス「ええ、私はその副首領よ。

 『ごっこ鬼のスス』…。

 それが、リーダーが私にくれたもう一つの名だった」

メル「…そうか…ススは結局、拍手部隊の仲間には、会えなかったの?

 その…遺体とか…」

スス「残念だけど…能力者の遺体はみんな秘密裏に火葬されるのよ。

 強い力を持つ能力者の細胞を盗んで自分の力にする、なんて天才がかつていたからね。

 …だから、私は誰にも会えなかった」

メル「…悲しいね…」

スス「…あなたに、言われたくないわ」

メル「…ごめん…でも、ススの話聞いていると、辛くて…」

スス「…ここまでが、私の話。

 そしてこれからが、あなたの話よ」

メル「…僕の…?」


メルは顔を上げる。

ススはメルを軽く睨んだ後、こう言った。



あなたの祖父は、世界を破滅に導くGチップを作り上げたのよ。









ダンク「ノリ。おいノリ。」 

ノリ「…ダンク。

 あ、あれ?ここは?」 


ノリは目を開けると、そこはなんと船の上だった。木製の船で、上に目を向けると帆を畳んだマストが上げられている。そのうえには、何か透明な膜が見えた。


ノリ「ほえ?

 船?あれ?ボク達、さっきまで空飛んで…それで変な道化師に絡まれて…」

ダンク「あいつらに吸い込まれた…か?

 あいにく、俺はそんなに親切じゃない」


ダンクはフッと笑う。そして向こうからバベルの声が聞こえてきた。


バベル「き、きき、貴様ァ!!」

ダンク「あいにく俺は貴様より魔法使いとしての誇りを大切にしてるんだよ。」

ノリ「船…?あの、ダンク、そろそろ状況を…」

ダンク「うむ。

 ここは俺の作り上げた魔法の船の上だ」

ノリ「え?」


ノリが辺りを見渡すと、それは木製の船の上だ。

しかしそのすぐ外側に、透明な膜がある。

 よく見ればそれがガラスで出来ているとすぐにわかった。

うろたえるノリのそばで、ダンクがニヤリと笑う。


ダンク「ガラス瓶の中の海賊船は男のロマン。

 透明色魔法、『閉じた世界の海賊船』!」


船体の大きさは30メートル。

ガラス瓶はそれより一回り大きく、海賊船を包み込んでいる。

そのすぐ横では悔しそうに歯噛みするバベルがいた。


バベル「畜生!

 俺の『ビッグバルン』で吸い込めない奴があるなんて…!」

ダンク「それだけお前の世界が狭いという事さ。一度は巨大な波に飲まれてみな、自身の小ささが良く分かる」

バベル「おのれええええ!!!」


ダンクはフッと笑い、前を向く。


ダンク「さて、これで奴はなにも出来まい。

 このままススを探しに行くか」

ノリ「ダンク…」


ノリはダンクを見つめた。

そして、勢い良くチョップを入れる。


ノリ「こんな飛び方あるなら最初からやるッス!!」

ダンク「あだぁ!!」

ノリ「これなら手を繋がなくても飛べるじゃないッスか!

 恥ずかしかった!あ〜恥ずかしかった!」

ダンク「助かったとかあいつは何なのかとか言う前にいうのはそれかよ…」

ノリ「当たり前ッス!

 手を繋いで歩く事がどれだけ恥ずかしいか、小一時間説教して…」


バベル「ふざけるなあああ!

 呪法『母殺しの箱』!!」


バベルが右手から出したのは、赤い宝石で装飾された小さな箱。それがパカッと開いた瞬間、


ギギギギギギ……!!


なんと、海賊船が小さな箱に吸い寄せられていくではないか!!


ダンク「な、なんだ!?」

バベル「ヒヒヒ!

 こいつはありとあらゆる魔法、魔力を吸い取る強力な呪術だああ!

 てめえの造った船なんて、こいつで封じ込めてやるうう!!」


海賊船は持てる力の限りを尽くして前に進もうとする…が、船体はどんどん箱の方へ向かっていく。 


ダンク「ち…!

 脱出するぞ!掴まれ!」

ノリ「もう手錠で繋がれてるッスよ…」


ダンクとノリは海賊船の外に脱出した。すぐ目の前にはガラスの結界があった筈だが、一見硬く見えたガラス瓶は、まるでそこになかったかのように通り抜けられた。


ダンク「よし!」

ノリ「船が……」


バキバキバキと壊れる音を出しながら、30メートルはある巨大な船が掌サイズの箱に吸い込まれ圧縮されていく。

そして、ものの数秒と立たず船は完全に姿を消してしまった。


バベル「ヒヒヒヒヒ!!

 見たか、ダンス・ベルガード!!

 この呪法の力は凄いぞ!貴様の持つ魔法は全てこの箱の中に封じられる!

 ご自慢の魔法はもう使えねえなあ!」


ダンク「!!」

ノリ「そんな……ダンクが魔法を使えないなんて……!!」


困惑する二人の前で、風船に乗ったバベルが笑う。


バベル「ヒヒヒヒヒ!!

 これで終わりだな!さっきより倍の威力の魔法を喰らわせてやる!」

ノリ「そ、そんな……」

ダンク「…。

 ノリ、悪い」


ダンクは包帯をシュルシュルとほどく。

ノリが「?」と首を傾げるより速く、ダンクはノリの目を包帯で隠した。


ノリ「うわ!」

ダンク「これで良し…と。」

ノリ「何が良しなんスか!?

 速くこの包帯をほどけッス!!」

ノリ「わり。

 俺は情けない姿を見られるのは嫌なんだよ」


ダンクはノリの手を離す。

それと同時に数本の包帯がノリの体を包んだ。


ノリ「うわわ!な、何する気すか!?」

ダンク「いーから黙ってな」


そう言うと、ダンクはバベルの方へ向かう。

ノリは耳だけで状況を理解しようと、神経を集中させた。


ダンク「負けだ。俺の負け。

 負けたから、おとなしく帰りな」

バベル「はあ!?

 貴様何を言っている!?

 そんな事するわけないだろ!!」

ダンク「まあまあ。

 良いもの見せるから、帰りな」

バベル「ふざけるな、貴様から潰して…や…」

ダンク「ま、良いものといっても、

 俺の魂の部分の姿なんだけどね」

バベル「………あ?」

ダンク「俺ってさあ体が包帯で出来てるんだ。

 世界中の魔法を魂に封じ込めるためにね。

 でも、今まで誰にもその魂の部分を見せてないんだよ。ナンデダトオモウ?」


バラ…バラ…。


包帯が少しずつ解ける音が聞こえてくる。

しかし、ノリは目を封じられ何も見えない。

そして聞こえてくるのは、バベルの声と、…不気味に変質した声。


バベル「あ、あわ…なんだ……その姿は…?」

?「イッタダロウ?

 オレノタマシイノスガタヲミセテイルンダヨ。

 タダ、ナンビャクネンモイキスギタカラモウニンゲンノスガタヲシテイナイダケダヨ」

バベル「く、く、来るな…来るなあああ!

 魔法『バルンクラック』!呪法『母殺しの箱』!!魔法『ループ・ザ・ループ』!!

 …なんで、なんで効かないんだああ!?」

?「アハハハハハ!

 ドウシタばべる・えんヴぃー。

 オレハマダシネナイゾ?

 オレヲコロシテイナイゾ?

 ゴジマンノオモチャガツカエナクナッタラナクシカナイノカイ?」

バベル「あ…く…来る…な……!

 来るなああぁぁぁぁ!!!」


バヒュウウゥゥン、と何かが遠くに飛んでいく音が聞こえる。

 しばらくして、あの声が聞こえた。


?「………イッタカ。

 もういいぞ。目隠しを外して大丈夫だ」


パラ、とノリの目隠しがとれて、ノリは目を開ける。そこにはさっきと同じ上半身包帯、下半身は緑のズボンを履いた、ダンクが浮いていた。

あのおかしな道化師の姿はどこにもなかった。


ノリ「……あれ?あいつは?」

ダンク「良いもの見せたから大人しく帰っちゃった。結構聞き分けの良い奴だったな」

ノリ「…そうッスか…。

 あの、ダンクさん…」

ダンク「痛み分け、だな」

ノリ「え?」


ダンクは包帯で出来た顔を歪ませ、笑顔を作る。

不気味に見える筈のそれに、ノリは悪意を感じなかった。

 しかし、まるで世界の果てに居るような不思議な感傷も覚える。


ダンク「お前は俺の秘密を知ったけど、俺もお前の秘密を知っている。

 だから、痛み分けだ」

ノリ「………。」

ダンク「さて、行くぞ。

 ススの携帯はもう少し先に」ノリ「何者なんですか?」


ダンクは口を止め、すぐ近くにいるノリに顔を向ける。ノリは世界の果てから少しでも近付きたくて、尋ねた。


ノリ「あなたは能力者でも天才でも、人間でもないッス。でもあなたは「ゴブリンズ」と言う枠に捕らわれようとしている…あなたは一体、何者なんですか?」


気付けばノリの口はとても軽くなっていた。

そしてダンクは静かに聞いていた。

ノリが言い終えて、長い時間がーー本当はほんの少ししか経っていないけどーー流れた後に、ダンクは口を開いた。


ダンク「俺か?俺は…」


そう言って、一度だけダンクは目の部分の穴を閉じる。

 そして彼の記憶に現れるのは、いつの日か自分が叫んだ言葉。


(美しい…!

 世界は、なんて美しいんだ!様々な色が織り混ざり、ただでさえ美しい世界を更に美しく仕上げている…!)

(それに比べて、自分はなんて醜く、みすぼらしく、小さいのだろう!

 世界中の魔法を手に入れたが、今はそれを全てドブに捨ててしまいたい!!)

(ああ、こんなに心が溢れているのに、もう体は涙も流せないんだ!

 俺は…!オレは……!!)


ダンクはそっと目を開けて、ノリに再度顔を向け、そして静かに答える。


ダンク「俺は…小鬼ゴブリンだ」

ノリ「小鬼ゴブリン?」

ダンク「ああ。

 世界中の色に恋をした、小さな鬼だよ。

 だから、ゴブリンズ(小鬼達)の仲間になったのさ」


ダンクは笑みを浮かべた。儚くもニッコリと笑微笑んだ。 













ススは微笑む。

 これから自分は人を完全に追い詰める、とても酷い事を話そうとしているのに、この口は歪んで直ろうとはしない。

 自分の中にこんなに憎しみがあったのかと驚きつつも、目の前の憎い相手に対して笑みを向けずにはいられなかった。

 それは目の前の相手は想像通り狼狽の表情をみせているからから、それが滑稽に見えるからかもしれない。


メル「え?お爺ちゃんが…Gチップの開発者?

 い、いやそんな訳ないよ!

 Gチップの開発者はゴルゾネス・トオルでしょ!?そんなの小学生だって知っている話だよ!」


ススはニィっと笑みを浮かべた。

それの真実を知るためにゴブリンズが情報会社のビルに侵入した事を、この少年は知らないのだ。


スス「私達ゴブリンズはね、Gチップの正体を突き止め、Gチップを排除するために作られた組織なのよ。

 そして私達はGチップの本当の製作者に辿り着いた。

 …ゴルゾネス・トオルは、ただの犠牲者だったのよ」


そこまで言って、ススは笑みを止める。

ゴルゾネスの日記の内容を思い出したからだ。


『私はオーケストラ・メロディ・ゴートの研究を盗み、世界に発表した。』

『そして私はGチップに影響ない人類の未来を喰らってしまった。』

『私は悪くない!私の口が悪いのだ!』

『私は私の口に対し罰を与えた。

 …もう何日も私は何も食べていない。』

『たとえ私が地獄に落ち、どのような恐ろしい責め苦にあったとしても私の口は開かないだろう』

『何故なら私は『暴食』の罪人だからだ』


それも知らないメルは健気に反論してきた。

それは、ススの予想通りの答えだった。


メル「ちょ、ちょっと待ってよ!

 仮に ゴルゾネス・トオルが犠牲者だったとして、何でお爺ちゃんが製作者になるのさ?

 それこそ確たる証拠でもない限り」

スス「あなたの家、調べさせて貰ったわ」

メル「!!」


メルの口がピタリと閉じる。

何故か知らないがその真剣な表情がススには堪らなく滑稽で仕方なかった。

 まるで下弦の月のように口を歪ませる。


スス「そして見つけたわよ。

 確たる証拠を」

メル「な!?」

スス「Gチップの設計図、Gチップの改良方法人体への埋め込み方、Gチップが人体にどんな影響を与えるか…全ての資料が、あなたの家から見つかったわ」

メル「僕の家に侵入したの!?」


メルは顔色を青くしながら、ススを睨みつける。

彼は知らないだろう。

その資料を手に入れるために、ゴブリンズと警察、そして白山羊と黒山羊がどんな戦いをしたのかを。

ススは笑みを隠して無表情で答えた。


スス「あなたの家じゃないわ。オーケストラ・メロディ・ゴートの家であり、今はドリーム・メロディ・ゴートの家よ。

 そこで私達は更なる計画を知る事になる」

メル「……更なる、計画……?」

スス「言ったでしょう。

 ゴルゾネス・トオルは犠牲者だと。

 彼が自らの罪に苦しんでいる時、あなたの祖父は仲間と共にGチップとは違う、人間の進化を促す研究をしていた。

 ……私達を苦しめたGチップより悪意たっぷりの計画を練っていたのよ!」

メル「そ、そんな…!

 う、うそだ…!」


メルは両手を伸ばしてススの言葉を否定しようとする。

 その手はあまりに細くて、儚くて。

ススが一度払っただけで引っ込んでしまった。


スス「まだ話は終わってない!

 その計画は幾つかの小さな計画を集めて大きな計画を作る複合計画だった。

 そして、その計画の一つ、傲慢計画の責任者にはオーケストラ・メロディ・ゴートとドリーム・メロディ・ゴートの名が記されていたわ。」

メル「お父さん……?」


メルの目からどんどん希望の光が消えていく。

まるで、昔のススのように。

それを見た今のススは……遂に笑みを堪えきれなくなった。


スス「あははははははは!!

 とっことんサイテーな親子よね!!

 二人揃って他人の人生をクズのようにしか見ていない!」

メル「……!」


対してメルは怒りの表情をススに見せる。

しかしそれは、ススの笑みを深めるものでしかない。


スス「知っている筈よね、あなたの父が何を作っていたのかを!

 …兵器製造よ」


ススはちらっと後ろに居る黒山羊に目を向ける。


スス「あなたが生まれたであろう15年前の戦争は、それはそれは酷い状況だったわ。

 新兵器に次ぐ新兵器の投入の連続で、何人の死ななくていい兵士が死んだか…」


次に、黒山羊の掌に刺さっているナイフに目を向ける。


スス「私の部隊を壊滅させた、空中戦艦『モーセのステッキ』号も…あなたの父が開発者だった」

メル「…!

 あれも、僕の父が…!」


メルの怒りの表情が、一瞬で青く染まる。

あの恐ろしい兵器を、父が作ったのだろうか。

ジョン・ヘイグの言葉を思い出す。


ヘイグ『このポイズン・ヒーローは、ドリーム・メロディ・ゴートが開発したんだ!』


メル「違う!違う!

 お父さんは、そんな怖いのを作っては…!」

スス「あなたはおめでたいわね、何も知らずに生きる事が出来て」

メル「え…?」


ススは、いつの間にか笑ってはいなかった。

怒り、憎しみ、妬み、哀れみ…様々な負の感情を込めて、メルを睨みつけている。


スス「あなたがおしめを換え、食事をし、楽しいおもちゃで遊ぶために、

 あなたの父は私達を殺す武器を作り続け、

 私達は改造され、住処を奪われ、憎まれ、武器をもたされ、殺し殺され続けて!

 あなたが生きるために私達の人生をズタボロにされて!

 挙げ句あなたの祖父は私達を実験体のマウスのようにいじくる事しか考えてなくて!

 そしてあなたはそれら全てを知らずにのうのうと生きて、平和の中で皆に愛され生きて!!

 そんな奴、生かしておくわけないでしょう!」


ススは鞘に納めたナイフを取り出す。

更に腰に隠してあった三本目のナイフも構えた。

ナイフの刃には『Susu』と書かれている。

そしてススは宣言した。




だから、私はあなたを憎み、殺すのだと。


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