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角が有る者達  作者: C・トベルト
太陽の命と月の命。
48/303

第49話 太陽パート 陽の下に照らされる本当の闇


空中戦艦の残骸が辺り一面に散らばり、至る所で火が燃えている。煙が青い空を黒く染め、鉄の臭いや油の臭いがあたりに充満している。

 まるで地獄に落ちたようだが、彼等の心臓はまだ動いている。

 その中で、セキタは敵兵に対しこう宣言した。


セキタ「俺は………悪魔だ。」


セキタは敵兵を睨み付ける。

生き残った兵士、40人近くがそれぞれ銃口をセキタに構えたまま距離をとっている。

兵士の一人がニヤリと笑った。


敵兵1「悪魔…だと?

 ふざけたセリフだな」

セキタ「そうか?

 俺達の事を散々踏み潰そうとしてきたクズみたいな貴様等には、相応しい相手だと思うがな」


セキタは全く笑わず、少しずつ相手に近づいていく。

一人の兵士が銃口を向けてセキタを狙おうとする。


天才は己の才を過信し敗北など考えない。

能力者は己の力を過信し退避など考えない。

40対1の激しい戦いが、今幕を開ける…筈であった。


敵兵2「止めろ」


一人の兵士が肩を軽くたたいた。


敵兵1&セキタ「?」

敵兵1「大佐…?」

大佐「銃を収めろ。

 俺達は投降する。早く捕まえてくれ。」

セキタ「!!??」


セキタは驚きのあまり、思わず一瞬口をポカンと開けそうになる。


セキタ「何…?」

敵兵1「貴様、何を考えている!」

大佐「貴様こそ周りを見ろ。

 この残骸は、『奴ら』が作った我々にとって重要な兵器だ。

 それを破壊されては、たとえあの男を殺しサイモンを捕虜にした所で我ら全員の無事が済む訳では無い」


敵兵1がサッと辺りを見渡す。

確かに辺り一面に散らばった兵器は全てトップシークレットの技術が使われている。

それを知られたくないからこそ能力者を執拗に潰していこうと思ったのに、

逆にこちらが潰されている。


敵兵1「だから、投降しろと?

 あんなたった一人に!?」

大佐「お互い、ここまで生き延びたのだ。

 貴重な命をわざわざ命を捨てる必要が何処にある?

 それよりは、ここで双方武器を納め、より生き残れる希望がある、収容所に入った方がいいだろう」

敵兵1「ぐ…」


敵兵は歯噛みし、大佐はフッと笑った。


大佐「全員、武器を捨て投降しろ!

 我々は今から奴らの門下に下る!!」


ガシャン!

ガシャガシャガシャガシャガシャン!!


その一声で、兵士のほとんどが銃を捨てる。

そして大佐はセキタの方に向き直った。


大佐「悪魔よ」

セキタ「!」

大佐「我々は抵抗を止める。

 今までの行為を反省し、後悔し、懺悔する。

 地に両手両足をつき、周りの者全てに頭を下げ、残り一生を反省と祈りの為に使う。

 だから、だから我々は悪魔に願う」


大佐は両足膝を挫き、地面に付ける。

両手で大地を叩き、頭を下げる。

後ろにいる兵士もそれに続いた。


大佐「我々を、助けて下さい。」


敵兵2「お願いします」敵兵3「お願いします」敵兵4「お願いします」「助けて下さい」「殺さないで下さい」「お願いします」「助けて」「お願いだ」「助けて下さい」「お願いです」「お願いします」「どうか殺さないで」


セキタ「あ……?

 な…?え?これは…?」

メル「い、一体何をしているの、この人達?

 敵に頭さげるなんて…」


セキタは只一人、状況が飲み込めずにパクパクと口を開けている。

 すると、後ろからエッグの声が聞こえてきた。


エッグ「セキター!

 助けに来た…ってなんだこいつら!?

 みんな土下座しているぞ!?」

セキタ「エッグ…。

 お前、なんでこんなに分身連れてきているんだよ?」


エッグの後ろには、20人程のエッグの分身が並んでいる。


エッグ「え、まあ、激しいドンパチやると思ったから…。

 そうか、こいつら俺達の捕虜になった方が命をとられる心配がないから投降したんだな」

セキタ「お前、随分飲み込みが早いな…」


エッグはへへ、と笑った。


エッグ「ま、自分は命が大好きですから。

 あいつらも俺と同じなんだな」

セキタ「そうか…。

 だが、これで」

「これで、誰も死なずにメデタシメデタシ…。なんて素晴らしいハッピーエンドでしょう。」


セキタのセリフを、誰かが遮る。

それは、跪く敵兵達の後ろから聞こえてきた。


敵兵「ひっ!!」「あの声は!?」「まさか、」

セキタ「?」


「だああけど残念。

 そんな安い希望のある結末なんて、観客達はだあれも望んでないのでええした。」


大佐「な、何故だ!?

 何故奴がいるんだ!?」


エッグ「なんだ?

 あいつら、うろたえて……誰か、来るぞ」

セキタ「!」


エッグとセキタ、両者が構える。

土下座している敵兵達はどよめいた。


敵兵「や、やめてくれ…俺達は死にたくないんだ。頼む、構えを解いてくれ…」

敵兵「おまえらに俺の命をどうにかする権利はないはずだろ!?

 やめろ、やめてくれ…」


「観客達が望んでいるのは、哀れな者達の懺悔なんかじゃありませえええん。

 観客が望んでいるのはあああ、」


ボオオオオン!!!


後ろにいるものの近くで小さな爆発が発生し、炎が燃え上がる。

 爛々と輝く炎は、その顔をはっきりと映し出した。

一人の敵兵が叫ぶ。


敵兵「やめてくれ、ジョン・ヘイグ!!!」


ヘイグ「観客が望んでいるのはあああ、ヒーローがカッコ良く悪人をぶち殺すショーなのでしたあああ!!!

 あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」


まるで宇宙服のようなスーツを着た男…。

 ジョン・ヘイグの狂気に歪んだ恐ろしい顔が、炎に照らされて更に恐ろしい姿で全員の眼に焼き付いた。

 









クックロビン「ウオオオオ!」


クックロビンは走り続けていた。

本来、戦争で車に乗って退避する事は危険な行為とされている。

 人の姿が見えない状態では、敵側からすれば「ただ逃げているか反撃の準備をしているか」分からないからだ。

 それに車に乗った状態ではヘリから隠れるのも

容易ではない。

 車に乗って逃げるのは、安全な状態か反撃出来る状態かどちらかでしかない。

 しかし、今のクックロビンはどちらでもない。

ただただ逃げ続けているだけだ。

ヘリに乗っている兵士達はあの車をどう調理するか話している。


兵士1「あいつ、どうする?

 武器もないようだし、投降させるか?」

兵士2「だが、奴らは敵だぞ。

 潰すに限る」

兵士3「おいおい、そんな事言わなくてもいい…(ピュン)」


カチィン!


兵士3の前をなにかが通り過ぎ、天井から小さく火花を上げた。

 誰かが発砲しているのだ。


兵士達が見下ろすと、運転席から誰かの左手が見えた。手には小銃、M9が握られている。


兵士1「…投降は無しだな

 あいつらは敵だぞ」

兵士2「囮か、トチ狂ったか…?

 いずれにせよ奴らは危険だな」

兵士3「い、今俺の目の前を弾が…!

 あのやろうぶっ潰してやる!

 ガトリング砲準備しろ!バズーカ持って来い!」

兵士1(うわぁ怒ってる)

兵士2(怖い怖い)  



ボボボボボボボボボ!!


車のすぐ後ろを砂柱が林立しては一瞬で瓦解する。

車の中ではクックロビンが必死に運転しながら一言呟いた。


クックロビン「…不味いな。奴ら俺と違って武器弾薬は大量にあるようだ。

 大人しく投降したほうがよかったか?」

(いや、それは出来ないか…)


クックロビンはチラッと空中戦艦の残骸の方に目を向ける。

 

クックロビン(今奴らに空中戦艦に向かわれたら、セキタ達が危険な目に遭ってしまうな。

 それだけは死んでもさせない)


クックロビン「とは言え、このままじゃ

 大した時間稼ぎは出来ないな…」


「おおーーーい!!!

 お馬鹿な小鳥ちゃん!こっちだーー!!」

クックロビン「!?」


クックロビンが声のした方、右側を見ると、エッグ『達』が手を振っていた。

 その数、30人。


クックロビン「なっ!!

 エッグ!?」

兵士1「なんだ、あいつは!?」

兵士2「どこから出てきやがった!?」

 

クックロビンも兵士も目を丸くする。

エッグはニヤリと笑うと、指笛を作る。


エッグ「エッグ隠し芸その4!

 『五段ピラミッド』!!」


ピーーー、と笛を鳴らすと20人近くが一斉に動き出し、素早く五段ピラミッドを作り出す。

そしてその上をバズーカ砲を抱えた一人のエッグが登り上がる。


クックロビン「な…!?」

エッグ「はあーーっしゃーーー!!」


ボウ!!!


バズーカ砲は弧を描いて宙を飛び、ヘリコプターのテイルローターに衝突、大爆発を起こす。


運転手「メーデーメーデー!!

 平行機能、消失!!

 やむを得ん、緊急着陸するぞ!!」


ヘリコプターがふらふらと地面に近付く。

クックロビンは車をエッグの近くまで走らせて停める。


クックロビン「エッグ!

 何故戻ってきた!お前が死んだら俺が戦う意味が」エッグ「貴様が戦う意味などどうでもいい!!」


クックロビンのセリフを、エッグが遮る。


クックロビン「な…!?」

エッグ「俺達、仲間だろう!?

 だったら、この楽しいパーティーに参加させろよ!!」

エッグ「俺達の半分ほどセキタの方に向かわせた!俺の本体が死なない限り、俺達は戦えるぜ!」

エッグ「お前一人に何もかも背負わせてたまるか!俺達も戦うぜ!!」

「俺も!」「俺だって!」「俺も戦うぞ!」「戦いだ!」「勝つぞ!」「勝つんだ!」「生きて…勝ってやる!!」


30人分のエッグの声援。

それは、クックロビンというたった一人の男を奮い立たせるには十分な力だった。


クックロビン「…お前等、馬鹿者だよ。

 最高の、馬鹿者揃いだ」


ヘリコプターが着陸し、銃を構えた屈強な兵士達がゾロゾロと降りてくる。

 

クックロビン「だからこそ信頼出来る。

 お前達の馬鹿力なら、どんな命令だってこなせるぜ。」

エッグ「そうだ、あいつら潰してやろう!」

クックロビン「そうだ、奴らに我らの力を思い知らせるぞ!もう逃げるのはおしまいだ!」


ブロオオオォォォ!!!


クックロビンは勢い良くアクセルを踏み込んだ!










セキタ「ジョン・ヘイグ…なんだ、あいつは?」

エッグ「俺、聞いた事あるぞ。

 確か『猛毒英雄』と呼ばれた、殺人鬼らしいな。」

セキタ「英雄?

 …今の俺には嫌なセリフだぜ」

メル(ジョン・ヘイグ…!!)


首を傾げる2人のそばで、メルは身を震わせる。


メル(空中戦艦『モーセのステッキ』号の艦長にして、酸を操って全てを溶かすシリアルキラー。

 空中戦艦が墜落した時に、死んだのかと思っていたのに…!)


メルはギリ、と歯ぎしりさせる。

対してジョン・ヘイグはニヤニヤと笑っていた。


敵兵「ヒイイィィ!!」


敵であるはずのセキタとエッグが首を傾げ、仲間である筈の兵士は体を震わせる。

 闇の中から、炎によって顔だけを照らし出されたジョン・ヘイグは楽しそうに笑った。


ヘイグ「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」


土下座していた大佐が立ち上がり、サブマシンガンを構える。


大佐「ヘイグ二等兵!!

 貴様、何故生きている!」

ヘイグ「ああ!?

 艦長と呼べ艦長と!

 …まあいい。今の俺はとても気持ちがいいから許してやる。紅茶を飲みたい気分なんだ。」

大佐「質問に答えろ!

 何故、貴様が生きている!あの爆発と衝撃の中で、どうやって生き延びたのだ!」

ヘイグ「あひゃひゃひゃひゃ……

 分からないか?

 そうだよなあ。お前大佐の癖にこの装備の事なにも聞かされてないんだもんなぁ」


ヘイグがニヤリと笑う、

他の兵士達も次々と立ち上がり、銃を構えた。


敵兵2「動くな、ジョン・ヘイグ二等兵!!」

敵兵3「もうお前ご自慢の船は落ちた!」

敵兵4「もう誰もお前等の言うことなんか聞かないぞ!!」


セキタとエッグは目を丸くした。

敵側の兵士が敵である我々に頭を下げ、味方であるはずの仲間に銃を構えている。


セキタ「な、なんなんだよこの状況は…?」

エッグ「俺が知りたい。

 まあ、敵が仲間割れしてるのは嬉しいが…。

 何かとても嫌な予感がするぞ」

エッグ(今の内に、ススと隊長を安全な場所に隠してこい。)

エッグ(OK)


エッグは分身のエッグ一人に命令を出して、ソロソロと倒れている二人の元に近付く。

 幸いな事に敵は誰も気付かない。


大佐「皆静まれ!

 …あの装備とはなんの事だ?」

ヘイグ「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!

 『月の宮殿計画チャンドラ・マハド・プロジェクト』の奴らは俺に二つ武器をくれたのさ。

 一つは空中戦艦『モーセのステッキ』号。

 そしてもう一つは…」


ガシャン!という音を立ててヘイグは一歩歩き出す。

 炎の灯りがジョン・ヘイグの姿を映しだした。


それはまるでブリキのロボットのような姿をしていた。

 全身銀色で、まるでロボットのように角張った両足に、ロケットのブースターのような物が装着されている。

 体には大量のボンベやパイプが巻き付かれており、ボンベ一つ一つに『毒』や『酸』や『空気』と書かれていた。

 そのパイプは両腕に装着された銃に連結されていて、ボタン一つで何が出てきてもおかしくはない。

 そして、ジョン・ヘイグは右手に持っていた顔を全て覆う黒いガスマスクを装着した。

 不気味な呼吸音が響いてくる。


ヘイグ「俺専用アーマー、『ポイズン・ヒーロー』。

 これは凄いぞ、なにせ『月の宮殿計画チャンドラ・マハド・プロジェクト』の重鎮の一人、ドリーム・メロディ・ゴートが自ら作り上げたアーマーだからな!」


その時、一人の人間が驚きのあまり大声を上げる。

しかしその声を聞いて誰も振り返る事はない。

何故なら声を上げたのは、メルだからだ。


メル「………なんで………?」


メルはジョン・ヘイグのアーマーをじっと見つめる。


メル「………なんで、ここで僕の父さんの名前が出てくるの……?」


メル………メルヘン・メロディ・ゴートは思わず呟く。

 しかしその声を聞くものは誰もいない。



少年は長い悪夢を見続けていた。

しかし悪夢である以上、いつかそれは覚めるのだと信じてしまっていた。

 

しかし、長い長い悪夢の果てに聞いたのは、あまりに残酷な真実……。


 今こそ少年は知らなければならない。


何故自分はこの悪夢を見なければいけないのか。

何故自分はこの真実を聞かなければならないのかを…。


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