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角が有る者達  作者: C・トベルト
太陽の命と月の命。
47/303

第48話 太陽パート OVER TIME

三人の旅人が一つの穴を見つけた。

 その穴の奥には、あらゆる願いを叶える宝が隠されている。

一人は過去を繰り返さないために落ちる。

一人は現在を壊されないために落ちる。

一人は未来を取り戻すために落ちる。

落ちる。

落ちる。

落ちていく。

暗い深淵に向かい、三人の旅人は目を背ける事なく落ちていく。


これからの話は、その一人の過去を巡る物語。


その旅人も知らない。しかし知らねばならない物語。

 語り部は二人。

 登場人物は大多数。

 舞台は長年の戦いによって紅く染まった戦場。

 今、暗幕が開き、闇の舞台が始まる。


これは、光の中でさえ消えない闇を知る物語。

この先を知ろうとする者達に一度、警告する。


これより先は暗黒の物語。

希望はない、絶望だけの物語。

この先を知りたいのであれば、その事を僅かでも理解してほしい。



暗幕が開いた。

 闇の物語が今、動き出す。




暗い暗い深淵の中で、二人の人間が話をしていた。

 一人は、『自称』魔法少女カスキュア。

深淵の底から、水晶を通して何かを見ていた。


カスキュア『やはり 彼では ダメね。

 心が 幼すぎる』


もう一人の人間、『自称』ダンス・ベルガードと呼ばれたピエロが首を横に振る。


ダンス『確かに 彼の心は 幼い

 しかし だからこそ 我々より深く 

アイツ等を 理解出来る』

カスキュア『その分 あの心は 脆い

 慎重に 行動しないと 死んでしまう』

ダンス『死ぬ?

 あの少年は 死ねるのか?』


カスキュアは僅かに顔を伏せた。


カスキュア『    死ねるわ。

 私達と 違ってね』

ダンス『そうか それは興味深い

 だか おそらく 大丈夫だろう』

カスキュア『何故 そう 言えるの?』


ダンスは、わずかに笑みを浮かべる。


ダンス『彼が オーケストラの 孫だからね

 それ以上の 理由は ないさ』

カスキュア『       馬鹿みたい』


カスキュアは笑みを浮かべるダンスから目を背け水晶にふたたび目を向ける。


水晶の中では、空中戦艦の姿が見えた。

ぐしゃぐしゃにひしゃげ、あらゆる所から煙を噴き出し続ける空中戦艦の姿が、

 小さな水晶の中に写っていた。



エッグ1「見ろ!

 空中戦艦が落ちたぞ!」

エッグ2「やった!

 俺達は助かったんだ!」


エッグ二人組はワハハと楽しそうに笑っている。


ここは、第8888番隊の四台ある車の内のある一台の中。

 サイモン隊長もいない。ズパルもいない。

スミーもいない、たった5人しか乗ってない小さな車の中で、エッグ二人組は楽しそうに叫ぶ。


エッグ1&2「やった!やった!

 助かったんだ!俺達生きて帰れるんだ!」

メル「やめてよ!」


メルは叫んだ。

叫ばずには居られなかった。


メル「スミーが死んで、サイモン隊長を見捨てて、ズパルを見殺しにして…。

 それでどうして、そんなに喜んでいられるんだよ!!

 助けに行けよ!仲間なんだろ!?」



しかし、その声は彼等には届かない。

何故ならこの者達は夢の世界の住人だから。

何故ならメルはこの世界の住人ではないから。


メルの声も姿も見えない。

 それどころか、触る事さえ出来ない。

あまりにも無意味な言葉だった。

一方の夢の世界の住人は、喜んでいた。


エッグ1「やった!やった!

 戦艦が落ちたぞ!」

エッグ2「これでもう死ぬ心配はない!

 俺達は助かったんだ!

アハハハハハハハハハハハハ!!!」

クックロビン「…………………………」

セキタ「………………………………」


アハハハハハハハハハハハハ。

あまりにもばかげている笑い声が車の中に響く。

しかし、ほかの誰も笑ってなんかいない。


エッグ1「おいおい、なんで笑わないんだ?」

エッグ2「空中戦艦は墜ちた。

 もう死ぬ心配はないんだぞ?」


セキタ「…俺もお前みたいに笑ってみたいよ

 だけど…無理だ。」

エッグ1「妹さんの事か?

 大丈夫だよ、彼女なら一人で生きていける。」

エッグ2「なんてったって、空中戦艦を一撃でひしゃげる程の力があるんだものな。

 敵に囲まれたって逃げられるぜ、ありゃ」

エッグ1「それにあそこに行った所で、

 まだ生き残っている敵兵と鉢合わせになり、戦闘を行わないと行けないだけだ。」

エッグ2「皆が助けてくれた貴重な命。

 死にかけの奴を助けるためにすてたくないもんなー。

 アハハハハハハハハハハハハ!!!」

 


ケラケラと軽く笑う二人組。

セキタはそんな二人に唾をかけてやりたかった。

しかし、我慢するしかなかった。

それはこの車に乗っている自分も同じ存在だと認めたくなかったからかもしれない。

セキタはそっと横を見ると、ガラス越しに自分の顔が映る。


ズパル(ちぃ、湿気シケた顔をしやがって!!

 だらしない奴め!)


そうやって自分を叱咤したズパルの声が響く。

しかしそう言って飛び出したズパルは、

 結局死んでしまった。

『生きた者が勝ち』が戦争のルール。

それなら、今の自分は間違いなく勝者。

何故今自分の心は喜びに満ちないのか、分からない。


セキタ(これで、俺達は助かる。

 だが、これでいいのか?

 ススを見捨て、サイモン隊長を見捨て、彼等の生を信じてどこか違う所で生きる…。

 果たしてそれで、死んだスミーとズパルに真っ直ぐ顔向け出来るのだろうか?

 なにか間違えてはいないだろうか?)

「俺は…………」

クックロビン「セキタ、黙っていろ」

セキタ「!」


セキタは目の前で車を運転しているクックロビンを見る。

 ずっと喋る事の無かった無口なクックロビン。それだけに彼の一言はとても重い。

 そしてクックロビンはバックミラー越しに、後部座席の三人を睨みつけていた。


クックロビン「エッグ、貴様等も黙っていて貰おう。

 私は貴様等の意志でこの車を運転している訳ではないからな」

エッグ1「な、なんだと!」

クックロビン「私が真っ直ぐ走っているのは、サイモン隊長の命令があるからだ」


サイモン( あなた方は私に構わず、急いで逃げて下さい。戦いの邪魔ですから )

サイモン(では頼みましたよ!

 しっかり生き延びなさい!)


クックロビン「サイモン隊長の命令は絶対。

 隊長の命を懸けた命令があるから、私は貴様等を乗せて車を動かしている。

 だがこれ以上彼等に対して何か言いたい事があるのであれば!

 即刻、車から降りて貰おう」

メル「……クックロビン……」


きき〜〜〜〜っ!!!


5人が乗った車が急停止する。

三台の車は最後尾の車に気にする事なく、真っ直ぐ走っている。

クックロビンは、顔を後ろに向け、緑色の目で後部座席に座る者達をじっと見つめた。


クックロビン「それでもお前は助けたいのだろう? 

 セキタよ」

セキタ「!」

クックロビン「少しだけ待ってやる。

 その間に貴様の妹と隊長と…ズパルを助けて来い」


クックロビンの眼はじっとセキタを見つめる。

セキタは何も言わずに車から降りて飛び出した。


セキタ(ズパル!サイモン!スス!

 待っていろ、今助けてやる!)


セキタは振り返る事なく、空中戦艦の残骸に向かって走り出した。


メル「ぼ、僕も行くぞ!」


メルもまた、ふわふわと飛びながらセキタと同行する。


後には、クックロビンとエッグ二人が乗った車が残った。


エッグ1「…………やっぱり行ったか」

エッグ2「あーあ、どうすんだクックロビン?

 隊長の命に背いちゃって。

 これは軍法会議モノだぞ?」

クックロビン「…構うものか」


クックロビンはまた顔を正面に向け、地平線の果てに消える三台の車を見つめていた。


クックロビン「これでもし、空中戦艦の生き残りがまた向かって来てもあの三台の車が生き延びれば、8888番隊は滅んだとは言わないだろうな。」

エッグ1「俺達はそのもしものための盾代わりか〜。」

エッグ2「まだ死にたくなかったな〜」

クックロビン「全く、本心をいえない者は大変だな…なんだあれは?」


クックロビンが右の方に眼を向ける。

バラバラバラと輸送ヘリが飛んでいくのが見えた。


クックロビン「………え?」


輸送ヘリから、何か細長い筒が出てきた。

細長い筒が縦続けに三度、何かを発射した。

何かは白い飛行機雲のような煙を噴き出しながら高速で移動し、クックロビン達の横を飛び越え、三台の車へ向かっていく。


そして、三台の車が大爆発を起こした。


ドカガカアアア〜〜〜〜ン!!!!


エッグ1「な…なんだ、今のは?」

エッグ2「み、皆、死んだ…?

 まさか、空中戦艦に乗ってた奴がSOSコールを出して増援を呼んだのか!?」



輸送ヘリ内。

そこには、二十人も乗り込んだ兵士達が敵部隊を破壊出来た事を祝っていた。


敵兵1「ヤッターーー!

 敵部隊を一つ、潰してやったぜ!」

敵兵2「へへ、仲間を殺されたお返しだ!

 消えろ能力者共!」

敵兵3「後は、あの止まっている一台の車、潰せ!潰せ!潰せ!」

敵兵4「ぶっ潰せーーーーーー!!!」





エッグ1「畜生!!

 後少しで…後少しで助かっていたのに!」

エッグ2「どうすんだよ!?

 あいつら、次は俺達をねらうぞ!?」

クックロビン「……………………。

 エッグ、こっち見ろ」


エッグ二人組は思わず言葉のままにクックロビンの方に振り返る。

 そしてエッグの目に飛び込んできたのは、クックロビンの拳が自分の腹に向かう所だった。


バキイ!ドカア!


エッグ1「ぐ……!」

エッグ2「てめ、何を…!?」


完全に不意に殴られた二人は立つこともままならず、腹を抱え込んでクックロビンの足元にうずくまる。


クックロビン「俺の能力を知ってるか?

 『Animals,Network』(動物達のネットワーク)。

 俺は動物・昆虫・植物の心が読めるんだ。それのおかげで能力者軍の情報戦ではかなり重宝されていた」


その直ぐ上でクックロビンが話すが…エッグ二人組には聞こえない。


クックロビン「だがしかし、情報戦を制した後に待っているのは、奴らの悲鳴だけだ。

 俺はその声を聞くのが嫌で、能力者中最強のサイモン隊長がいる第8888番隊に入隊した。

 そんな強い奴の下でなら、たいして働かなくてもいいからよ」


クックロビンは足元の二人に背を向け、車に向かう。


クックロビン「だが、今、第8888番隊は消滅した。俺に出来る事は、あの輸送ヘリの弾薬を一つでも消費させる事だけだ。」

エッグ1「て、テメ…」

エッグ2「し、死ぬ……気…か……?」

クックロビン「いいや、お前等がいる限り、第8888番隊は決して滅びない」


クックロビンはフッと笑みを浮かべると、車に乗り込み、ヘリに向かって走り出した。


エッグはふらふらになりながら立ち上がる。


エッグ1「大丈夫か、お前…」

エッグ2「あ、ああ…。

 痛みまで感じる程精巧に俺を作ったのは、失敗だったな…」

エッグ1「仕方ないだろ、俺はこういう能力なんだから…」


エッグ1は戦艦の方を、エッグ2は車を見つめる。


エッグ2「あいつら、いっちまったな…」

エッグ1「馬鹿だよな、あいつら。

 何かのために命を捨てるだなんて。

 それで失敗したら、なんの意味もないのに」


エッグ1はギュッと拳を握り締め、近くにある岩に眼を向ける。


エッグ1「俺は違うぞ?

 俺は死にたくないから、第8888番隊に入隊したんだ。

 なのに皆死んだら、意味ないだろ。

 そうじゃないのかクックロビン!」


エッグ1はギロリとヘリに向かって走っている車を睨み付ける。


エッグ1「俺は死なない。俺は死なない。

 何が何でも死にたくない!!!

 だから…だから、俺がコレを使うのは貴様等を助けるためじゃないんだからな!?」


エッグ1は岩に向かって走り出し、岩に右手をつける。すると右腕が赤く輝き始めた。


エッグ1「能力発動!!

 Who am I(私は誰)!!?」


ビシリ、と岩にヒビが入り、あっさり瓦解する。

すると岩の中から、エッグと全く同じ姿の人間が現れた。

 エッグと全く同じ姿の何かは口を開く。


エッグ3「よし、俺達の出番だな」

エッグ1「ああ、お前は俺の『物質を媒介に分身を作る能力』で造られた、俺の分身だ。

戦いの時間を、始めるぞ!!」


そう言うとエッグは大地に手を付ける。

すると、大地から何人ものエッグが飛び出してきた。

 その数、50人。


ボゴ、ボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴボゴ!!!!


エッグ×50「ウウオオオオオオオオオオ!!」


エッグ1「叫べ、分身部隊!!

 蘇れ、我が軍隊!!」

エッグ2「命令は一つだ!

 仲間を助けるぞ!!

 我等の命を燃やし尽くしてでも、助け出せ!」

エッグ×50「ウウオオオオオオオオオオ!!」









スス「ぅ…………ぅぅ……………」


ススは気を失っていた。

先程、渾身の一撃を戦艦に向けて放った後、戦艦が大爆発を起こし、その衝撃に呑まれたススは気を失ってしまったのだ。


ススの近くには、ズパルが落としたナイフが三本落ちている。


そこから少し離れた所には、空中戦艦が墜ちて、残骸が辺り一面に散らばっていた。

その残骸の中に、胸に穴を開けたサイモンが横たわっている。


サイモン「ぐ………ず、ぱ、る…………」


そのサイモンの近くには、空中戦艦の生き残った兵士達が数人立っていた。


兵士1「これは…能力者中最強と呼ばれた、『シンプル』サイモンじゃないか。」

兵士2「こいつを捕虜にすれば、俺達はもしかしたら助かるかもしれないぞ…」

サイモン「ガフッ、ゴホ、ゴホ!!」

兵士1「不味いぞ、死にかけてる!」

兵士3「助けないと、俺達の首もヤバい…!」



「まてっ!!」



兵士達が一斉に振り返る。

そこには褐色の肌の男性が立っていた。

能力者軍の兵装を着ている。


兵士1「敵兵!」

兵士2「貴様、何者だ!」


兵士達が一斉に銃口を向ける。

男性……セキタは兵士を睨み付け、こう答えた。











セキタ「俺は……悪魔だ」




天才軍、残存兵力、合計62名。

対して能力者軍、分身を除けば、僅か3名。


62対3の戦争が、始まった。


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