第47話 月パート 希望の月と絶望の太陽
今までの物語をおさらいしよう。
Gチップを利用した更なる計画、『大罪計画』の真相を突き止め、それを阻止するためにルトー、アイの二人は縷々家学園に侵入した。
しかしそこには、意識不明だった筈のメルヘン・メロディ・ゴートが生徒として通っていたり、
最強の能力者、サイモンが教師として働いていたり、
警察のハサギが学園に教師として潜入していたりと、
驚きがいっぱいの学園であった。
だがこの学園の影はそれらより遥かに巨大だったのだ。
果心林檎。
彼女が作り上げた結界が学園を覆い尽くす。
それと同時に生徒や先生の殆どが半魚人に姿を変えてしまった。
半魚人になった者達の殆どがアイ達に襲いかかってきたが、
半魚人だけど心はそのままだった国語教師、現古文々斎やサイモンを仲間に加える。
しかしルトーは果心に捕まり、無理矢理仲間にされていた。
アイは果心に怒りを覚え、彼女を止めようと学校に向かう。
果心もアイを殺そうと溶岩を使おうとするのだが、それはサイモンや現古の機転により脱出、果心の元へ向かう。
しかしそれと同じ頃、ルトーは果心から彼女の胸の内を明かされる。
それは、彼女の数百年の孤独と絶望。
それを止めるために彼女は、この学園で不老不死の法を手に入れ、全人類を不老不死に変える計画を作っているのだ。
ルトーは果心を止めようと説得するが、
それは途中に侵入してきたアイによって止められる。
そして、果心とアイの戦いの最中、果心の心を知ったルトーは再度アイを裏切ってしまう。
アイは激昂したが、現古の説得により拳を押さえ、道中でハサギと仲間になり、更に血染め桜の加護を得て先に進む。
校長室の地下室では、校長K・ K・パーが自らの『永遠に子ども達といたい』という願いを叶えるために邪神、クァチル・ウタウスを呼び出していた。
アイ達はそれを止めようとするが、パーの能力『素顔を見た人間の未来が分かる能力』に返り討ちにあう。
このままでは殺されると思った瞬間、
幸か不幸か、
クァチル・ウタウス対策に宇宙服を着た果心林檎とルトーがアイの前に現れる。
そして果心はクァチル・ウタウスを挑発し、黒い扇の女神を召還。
クァチル・ウタウスの不老不死の力を得るために女神の接吻でクァチル・ウタウスの内臓も知識も吸い尽くす。
黒い扇の女神を通して不老不死の力を理解した果心。
彼女が得た力に喜びを感じた瞬間、
今まで彼女の後ろにいたルトーが、前に立ちはだかりこう叫んだ。
ルトー「僕は絶対貴方を許さない!!」
様々な思惑と感情が渦巻く中、
この中で最も強い存在と、最も弱い存在が対決する。
『希望の月と絶望の太陽』
果心「許さない…ですって?
その言葉、そのまま返すわ。」
ルトーは果心の右腕を掴んだまま、じっと果心を見つめていた。
果心は左手をヘルメットから離し、闇の中で眼光を光らせる。
果心「貴方こそ何をやっている?
私に怯えて仲間を裏切り、殺意の向け方もろくに知らず、
皆の足を引っ張るような行動しかできない、
裏切り者の臆病者の役立たずめ。
早く私の手から離れなさい。」
ルトーは何も言わず、果心をじっと見つめている。
果心「それとも何?
私に殺されたいの?
いいわよ、その願い叶えてあげる。」
果心の左手に、『七宝行者』と彫られた日本刀があらわれた。
その刀を逆手に持ち、
ルトーの脇腹に勢い良く突き刺す。
ルトー「!!」
刀は、腹を貫通し、反対側の脇腹から刃が飛び出る。
サイモン「ああ!なんて事を!」
果心「コイツが馬鹿な反乱起こすから、粛清させただけ……あら?」
果心はルトーの脇腹に刺した刀を確認する。
その刀に血は付いていなかった。
そして自分の腕に違和感を感じる。
果心「刺した筈なのに、感触が全くない…?」
果心は左手で日本刀を引っ張ると、腹に刺さった筈の刀が簡単に抜けてしまった。
その刀身に血はついてない。
それを見た果心は急いで後ろに下がった。
掴まれた筈の右手も、何の抵抗もなく離れてしまう。
そして、気付く。
果心の右腕を掴んでいる『ような』格好で宙に浮いているルトーの姿を。
果心「!?
これは…!?」
ルトー「 驚いた。
今時立体映像の存在も知らないなんて、ね。」
ルトーの声が聞こえる。
果心が急いで部屋の中を見回すが、何処にいるのかわからない。
果心「何処?
ルトー、何処にいるの?」
ルトー「ここだよ!」
果心が振り返る。
その目に映ったのは火を噴出しながらこちらに向かってくる宇宙服のグローブの姿だった。
果心「!」
に、と答える前に果心のヘルメットに拳が命中する!
強力な威力と衝撃で、果心の体がひっくり返ってしまった。
しかしヘルメットにはダメージが無いようで、すぐ立ち上がる。
果心「く!?」
ルトー「僕の技術力なら宇宙服のグローブをロケットパンチに改造出来るよ。
ダメージは弱いけどね。」
ルトーの声が果心の耳に入る。
だが、果心には何処から聞こえてくるのかわからない。
ふらふらと立ち上がる果心には、ルトーの姿が見えなかった。
果心「く…!
卑怯者め、姿を現しなさい!」
ルトー「無理。
だって姿を現したら、1秒で殺されるもん。」
果心「…!
貴方は一体なんなの!?
何処にいるの!?」
アイ「それには俺が答えるぜ!」
アイは一歩、前に出る。
ルトー「アイ…?」
果心「なんだと?」
アイ「ルトーの通り名は、『隠れ鬼』。
我がゴブリンズ1弱く、小さく、生意気な鬼だ。
高鬼のように怖くもなく、
色鬼のように賢くもなく
ごっこ鬼のように速くもなく、
俺のように強いわけでもない。
弱いし、臆病だし、生意気だし……確かに、役立たず。
だが、アイツは意志が強い。
ゴブリンズの中で一番強い意志がある。
あんな小さな体の何処に隠してあるのか分からんさ。
あの恐ろしさはな。」
アイは銀色の拳をギュッと握る。
そして、果心の方に再度目を向けた。
アイ「お前はまだ、ルトーの恐ろしさを知らないんだ。
今からそれを味わいな。」
果心はアイを睨み付ける。
アイは果心を睨み付ける。
二人の主が、裏切り者の部下の為に火花を散らした。
果心「何を言うかと思えば馬鹿馬鹿しい。
ルトーが強い?ルトーが恐ろしい?
あんな、私に泣いて仲間にさせてとすがってきたルトーが?
あり得ないわ。
いやたとえ、真実でも……。
私には決して届かない!」
アイ「甘いんだよ。
やられそうになった時、お前を助けたのは誰だ?
不死の神を一度でも殺したのは誰だ?
今、お前と戦っているのは、お前の考えたルトーがするような事か?」
果心「それは……」
果心は言葉につまる。
アイ「少しでも違うなら、その考えは捨てな。
アイツは『機械いじりの天才』だ。もうアイツが着ている服はお前の着せた宇宙服とは全くの別物になっている。」
ビュン!!
アイの目の前を何かが横切る。
……ルトーだ。
彼の背中には、先程果心が使った飛行エンジンより遥かに高性能なエンジンが積んである。
果心「な!?」
ルトー「悪いけど、この宇宙服は改造させて貰った!
もう果心が着ている服とは全くの別物だよ!」
果心「この!」
果心は日本刀を構え、ルトーに狙いを定めようとする。
しかし、急に視界が暗転し、何も見えなくなった。
果心「!?
な、何も見えない!?」
ルトー「さっきアイと話している間に果心の宇宙服を改悪させて貰ったよ。
もう果心のヘルメットは役立たずだ」
果心「そんな!
私がここまで押されるなんて…!
何処!!
ルトー、貴方は今、何処にいるの!?」
果心は叫ぶ。
主は従者を探し、懸命に叫ぶ。
何処にいるのか、そして誰といたいのかを確かめる為に、大きく叫ぶ。
その叫びに、従者は……ルトーは静かに答えた。
ルトー「果心。
貴方から世界で一番遠い場所さ」
それは、果心が心のどこかで望み、ルトー自身が強く願わないと言えない言葉。
裏切りの宣言であった。
ザサザザザザザザザアアアア!!!
パー「果心様!
従者であるパーが今、助太刀を致しますぞ!」『やってやる!』『果心様が危ない!』『叩き潰す!!』
パーが塵を操り、巨大な怪物を作り上げる。
そして、空を飛んでいるルトーを睨み付けた。
ルトー「!!」
パー「潰れろ!」
ルトーが潰される前に、塵で出来た巨大な怪物がそれより大きな拳で殴り飛ばされた。
ルトー&パー「!?」
二人が同時に横をむくと、右腕を膨張させたサイモンが立っていた。
サイモン「させませんよ…。
もう二度と、私の目の前で仲間を失うものですか!!
能力発動!膨張!」
サイモンの左腕がブクブクッと膨れ上がり、巨大な怪物を叩き潰す!
パー「ぬうぅぅ……ぬ!?
なんだ、この湿気は!?
塵や埃が湿って役立たずになってしまう!」
パーはハッとして辺りを見渡す。
この部屋は塵が舞い埃が絨毯を作る部屋。
しかし湿気があれば、それは全て水分の重みで役立たずになる。
現古「ゲパパパ………。
『深きものども』が持つ保湿性を嘗めるなギョ、 パー」
パー「現古!!」
現古「お主の塵を操る力は、この湿気では役に立たないだろウオ?
学校の校長でありながら、果心に寝返った罪、ワシが裁くサバ!!
覚悟しろマグロ!
今、粛正して…やる…タイ……」
全員「・・・・・・」
現古の言葉に全員ドン引きした。
現古「語尾いいい!!
進化しやがったワカメエエエ!!!」
パー「お前空気読めよ。」
現古「誰のせいでこうなったと思っているカジキマグロ!?
ああもう、一気に叩き潰してやるサンマアア!!
サイモン!お前も一緒に戦えハマチ!!」
サイモン「え、あ、はい!」
巨大な拳と塵の塊がぶつかり、機械仕掛けの拳が空を飛び、 魔法仕掛けの日本刀が大地を割り、宇宙服を着た少年が空を飛ぶ。
そんな中、アイは傍観していた。
ルトーの戦いを、じっと見つめていた。
そんなアイの元にハサギが近付く。
ハサギ「アイ」
アイ「…」
アイはハサギに見向きもしない。
ハサギはそんなアイの胸ぐらを掴んだ。
ハサギ「お前、何故ルトーを助けにいかないんだ?
アイツが果心の一撃で致命傷になるのは目に見えているだろうが」
アイ「……アイツは一度俺達を裏切った。
だから、アイツが俺に助けてと言うまで、俺は動かない」
アイは静かに答える。
ハサギは胸ぐらを掴んだ手を離し、それから思い切り顔面を殴り飛ばした。
殴られたアイは顔を反らすが、ハサギがまた胸ぐらを掴んだので倒れる事はなかった。
そして、殴られたにも関わらずアイの目は全く変わってはいなかった。
ハサギ「……。
正直、言いたい事は山ほどある。
あんな小さな子を何でゴブリンズに入れたとか、
お前の目的はそんな非道な事をしてまで叶えたい事かとか、
……俺はお前に正義を伝えたい気持ちで一杯だよ」
アイの胸ぐらを掴んだハサギの手がぶるぶると震える。
ハサギ「だが今は昔の相棒として言うぞ。
馬鹿な意地はってんじゃねえ!!」
アイの目がパチクリと開閉する。
ハサギ「ルトーはお前を裏切ってなんかないじゃないか!
だからああして果心と戦っているんだぞ!
それが何故分からない!」
アイ「……。」
ハサギ「ルトーは今なんで果心と戦っていると思う!?
永遠への魅力も、輝かしい栄光も、自らの命も投げ捨てる覚悟で果心と戦って、
何を得たいのかお前は分からないのか!?」
アイはようやく、ハサギの方に目を向けた。
アイ「……なんだ?
アイツは、何の為に戦っているんだ?」
アイの疑問に、ハサギは猛々しく吠えた。
ハサギ「絆だ!!
ルトーが最初に果心の仲間になった時も、アイツは真っ先にお前の心配をしたじゃないか!
そして今、お前が危険な目に会ったその時に奴は果心の前にたちはだかった!!
アイ、お前がルトーをどう思おうとな、ルトーはお前の事を裏切れないんだよ!
そんな奴が、お前に「助けて」なんて懇願すると思うか!?
否! 死ぬまで言わないぞ!」
アイ「!」
アイの目が見開き、ハサギの胸ぐらを掴んだ。
銀色の義腕で掴まれた体は、いとも簡単に持ち上がり宙に浮いてしまう。
ハサギ「!」
アイ「……そうだ、確かにその通りだよ。
だから俺は考えていたんだ。
どうすれば果心に強力な一撃を喰らわせる事が出来るか、な」
ハサギ「なに?」
ハサギは眉をひそめる。対してアイはニヤリとまるで悪役のように笑った。
アイ「お前の頭、警察1堅いんだよな?
なら、いけるよな?」
ハサギ「アイ?
お前まさか!」
アイ「いってこい!!」
アイは義腕の力でハサギを持ち上げ、そのまま果心に向かって投げ飛ばした。
ハサギ「ギャアアアアア!!」
果心「く、ルトーに刀が届かない!
一体何処に……ん?」
ハサギ「ワアア〜!」
ハサギと果心は正面衝突し、果心はあまりの衝撃に2、3メートル吹き飛んだ。
ハサギは目を回して気絶していた。
そして空に隠れていたルトーはアイの方に向き直る。
ルトー「アイ?」
アイ「ルトー……………聞くぞ?
もう一度、ゴブリンズに入る気はないか?」
ルトー「!!」
アイは真っ直ぐルトーを見つめる。ルトーはヘルメット越しに、アイの姿を見た。
その姿は、今までで一番怯えているように見えた。
アイ「そりゃまあ、俺はあまり強くないし世界で生きるには色々と条件が悪い。
……もし俺が捕まったらそれで終わりなんて、最悪な状況だ。
……それでも、お前は俺についてくるか……?」
ルトー「その言葉」
ルトーは静かにアイに話しかける。
しかしその言葉は強い意志と、僅かに震えた言葉だった。
表情はヘルメットのせいで見えない。
ルトー「そっくり返すよ。
僕なんかで、いいのか?
僕は皆みたいに凄い特技は無いし、また裏切るかもしれないんだよ?
それでもアイは、僕を仲間に入れてくれるの?」
アイ「当たり前だ」
ルトーの質問に、アイは即答した。その言葉に一切の迷いはない。
アイ「お前はこの俺が選んだ最高の仲間だからな。
たとえ何度でも裏切ったって連れ戻してやる。」
ルトー「アイ……。
僕もだ!
僕も何度でも、アイの仲間になってやる!」
ハハハハハハ!!
アイは笑った。
とても楽しそうに、愉快そうに笑った。
その笑顔は、アイが初めて見せた笑顔だった。
アイ「やっぱり、お前を選んだ俺の目は間違えていなかった!
お前はおれの仲間だ!」
ルトー「僕もだ!
はは、ハハハハハハ!」
アイ「ハハハハハハハハ!」
ルトー「ハハハハハハハ!」
今の状況を忘れ、ただただ笑い続ける二人。
その笑い声を聞いた果心は、さっとルトーの方に向き直り、刀を構える。
果心(そこにいるのね! )
果心はルトーの笑い声に向けて刀を構える。
その刀を投げれば、確実にルトーの心臓を貫けるだろう。
アイとルトーはそれに全く気付かず笑い続けている。
アハハハハハハ!!
アハハハハハハ!!
果心は刀を投げる体勢に入る。
アイとルトーは全く気づかない。
果心は刀を投げようと右手を振り上げて…………そして、力なくだらんと下ろした。
アイとルトーはまだ笑い続けている。
アハハハハハハハ!
アハハハハハハハ!
果心(……そこにいるのね、ルトー。
あなたは、本当に私のいる世界から遠くに離れてしまったのね)
果心は真っ暗なヘルメットでルトーの方に顔をむける。
……だが、見えるのは闇だけだ。
果心(羨ましいわ。
その笑い声は、貴方が成長した証。
貴方自身が自らの道で選んだ証。
闇の中から月を見るだけの私が選べなかった証……。)
果心はフッと笑い、 直ぐに口を結ぶ。
果心(だからこそ、私は奴等を許さない。絶対許さない。
これが醜い嫉妬というのは理解している。
しかし私は私の道の為、たとえ誰が相手であれ、立ちはだかる敵は叩き潰さないといけない。)
「私の道に、邪魔者などあってはならない。
『木花咲耶姫の紅富士』」
ズズズズズズ!!
今まで空中で空を飛んでいた溶岩が少しずつ降下していく。
溶岩の大きさは部屋を覆い尽くすには充分な大きさだ。
それを見たパー、サイモン、現古の三人は戦いを止め、上を見上げる。
パー「!?
溶岩!?なんだあれは!?」
サイモン「また溶岩が降りてくるんですか!?」
現古「嫌だブリ……!
もうあの溶岩はトラウマだザメ!!」
ルトー&アイ「!!」
果心「溶岩に全て溶かされなさい!!」
ルトー「あ、アイ!」
ルトーは必死の表情でアイに尋ねる。
アイはフッと笑った。
アイ「悪い。
俺じゃあこれは無理だ」
ルトー「そんな……」
ルトーの表情が凍りついていく。
だがアイは笑みを浮かべたまま言葉を続ける。
アイ「だが、お前なら出来るだろう。
なあ、『元』相棒よ」
アイは果心の方を……正確には果心の近くにいる人間に対して声をかける。
ハサギ「当然だ。
流石『元』相棒、良く理解している」
ルトー「ハサギ?」
ルトーは目を丸くする。
彼の知っているハサギは、アイのライバルでいつもドジばかりする人……だったはずだ。
ハサギ「俺は『知略』の天才にして五十年の戦争を終わらせた男、ハサギだぞ?
そんじょそこらの天才、能力者とは格が違うぜ。」
ルトー「え?
そんなに凄いの?
僕てっきりドジの天才だと」
ハサギ「ルトー」
ルトー「は、はい!!」
ルトーの言葉を遮りハサギがルトーに話しかける。
ルトーは思わず硬直した。
ハサギ「今すぐ飛行エンジンを最大出力にしておけ。
……ここから脱出するぞ」
ルトー「わ、 分かった!」
ルトーは急いで宇宙服を改造し始める。
それを見たハサギはサイモンの方に目を向ける。
ハサギ「サイモン、お前はアレを上に放り投げてしまえ。」
サイモン「アレ?
……ああ、なるほど、理解しました」
サイモンは目をアレに向けて、納得した。
ハサギ「よし、それじゃあ(カチャカチャ)俺達はルトーの(カチャカチャ)改造が終わるまで(ガチャン)時間稼ぎを……」
ルトー「終わったよー」
全員「早っ!」
ルトーはヘルメット越しに笑う。
ルトー「えへへー、こんなの数秒で終わるよ。」
ハサギ「……そうか。
それじゃあ、サイモン!
アレを真上に投げ飛ばせ!」
サイモン「了解!!
膨張!!」
サイモンが叫ぶと、両腕がブクブク、と膨れ上がる。
そして、果心から離れた所に在る『黒い扇の女神』と『クァチル・ウタウス』を掴む。
黒い扇の女神{!?}
サイモン「うりゃあああ!!」
そして、真上に放り投げた。
そこにあるのは、降下していく溶岩だ。
そして、二つは衝突した。
黒い扇の女神が言葉にならない悲鳴をあげる……と同時にアイ達のそばで悲鳴が上がる。
果心「!?
アツイイ!!!
ヤケルウウウ!!??」
宇宙服に身を包んだ筈の果心林檎が、まるで火の中に入ったかのように苦しみ始めたのだ。
ルトー「え!?
なんで果心が!?」
ハサギ「アイツは不老不死の方を知るために、黒い扇の女神と精神的に繋がっていたんだ。
だから果心は黒い扇の女神を操れたし、不老不死の秘密を理解出来たんだろうが、痛覚まで共有させたのは不味かったな。
おかげで喰らわなくていい傷みまで共有するんだ。」
ハサギは果心を見下げ、
果心はもう立っていられないのか床にうずくまる。
果心「ハサギイイイイ!!!!」
ハサギ「自分の策で自分の首を抑えてりゃあ、策士失格だな果心!
さあ早く溶岩を消せ!!」
果心「アヅイイ!!」
果心は大地の上でゴロゴロと転げ回る。それを見たハサギは叫んだ。
ハサギ「今だ、ルトー!
エンジンを点火させろ!
そうしたら皆はルトーの体をしっかり掴むんだ!」
ルトー「うん!」
ルトーはエンジンを点火させ、全員がルトーの体を掴む。
ルトー「ファイア!」
キュボオオオオオ!!!
ルトーの体が、それに掴まる皆の体が宙に浮く。
そして勢いよく上に飛んだ。
果心「ウワアアアア!!
溶……岩……解除!」
果心はフラフラになりながらもそう叫ぶと、上空の溶岩が一瞬で消失した。
ハサギ「今だ、翔べ!!!」
轟、とエンジンは轟きながら
皆を空へつれていき、
溶岩があった場所を通過する。
そしてその上に在る二階、三階の床に空いた穴を次々に抜けていく。
ルトー「やった……!」
アイ「いや、まだだ!
まだ天井の穴が開いていない!」
サイモン「膨張!」
サイモンが右腕を巨大化させ、天井を破壊する!
グシャアと音を立てて破壊される天井の、僅かに空いた隙間から金色の光が見えた。
全員はその隙間に飛び込み、光目掛けて上昇し、遂に屋上へと抜けた。
アイ「…………抜けた…………?
あそこから…………出られた?」
ハサギ「ああ、脱出出来たんだ!」
現古「という事は、儂ら助かったのかイカ!」
サイモン「そうです!
助かったんです!」
ルトー「やった!
助かった!!」
どごん!!!
それは、全く突然だった。
全く突然に、金色の光が迫り、
全く突然に、金色の光に叩きつけられ、
全く突然に、屋上から校庭に落下していた。
アイ「………あ?」
アイがそう呟いた時にはもう、地面に大の字に倒れていた。
そして、体中に激痛が走る。
アイ「ガハ!!」
口の中を切ったのか、一度咳き込む度に大量に血が吹き出る。
血の味が口中に広がり、胃の中にある物全てを吐き出したくなる。
アイ(なんだ……?
何が起きた……?
皆は、皆はどこに……!)
アイが首を横に動かすと、誰かが立っている。
…………果心林檎がそこにいた。
ヘルメットは脱いでおり、余裕の笑みを見せている。
果心「残念だったわね、アイ」
アイ「てめ……なんで……?」
アハハハハ!!
果心林檎が高笑いした。
それだけでアイは絶望で心が折れそうになる。
果心「私は月が好きだから、月がそれに応えてくれたのよ。
見なさい、上を……」
アイは上空を見上げる。
そこには金色に光輝く細長い体を持った巨大な龍が黒い空を泳いでいた。
果心「あれは、月龍。
私の呪術によって作られた龍よ」
アイ「月龍……?」
アイはぼんやりと思い出す。
果心が最初に言っていた、『日が沈むと月の龍が現れ、全てを破壊する』という言葉を思い出した。
そして理解する。
あの龍に、皆叩きつけられてしまったのだ。
果心「あなたの負けよ、アイ。
もうあれは止められない。 私も止められない。
あなたの言葉も行動も、私には届かないわ」
アイ「ま……け……?」
アイはその言葉に対抗しようと、体を動かす。
だが、体は激痛に支配され、全く動かない。
果心「さようなら、アイ」
果心がアイに背中を向けて、何処かへ行こうとする。
アイは手を伸ばしたくても、動く事が出来ず、
こう叫ぶしか出来なかった。
アイ「ち……くしょ…!」
サイモン「イ、タ、イ……」
サイモンは胸を押さえながら呻く。
叩きつけられた衝撃で人工心臓に不具合が発生したのか?
体中が痛みで悲鳴を上げていた。
サイモン(なんで……こうなった!
どうして……私はこんなに苦しまないといけない!?
これなら、こんな事なら、あの日、あの時に、彼等と……拍手部隊と共に死んでいれば良かったのだ!
何故私は今まで生きていたのだろう?
何故私はこんな力を持っていたのだろう?
何もわからないまま、私は死ねば良かったのだ)
サイモンが首を動かすと、そこには皆がいた。
拍手部隊の皆が倒れていた。
サイモン(ズパル、スミー、エッグ、クックロビン、セキタ…スス…。
今、私も……い……く………)
サイモンはフッと笑みを浮かべ、
そして、瞼を閉じた。
月パート 完