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角が有る者達  作者: C・トベルト
太陽の命と月の命。
45/303

第46話 月パート 色欲は邪神をも殺す。



校庭には怪物と化した生徒達がうろつき、

一階には溶岩が廊下や教室を占拠し、

二階の図書室と、三階の放送室には穴が開いていて、

そして地下室では一体の邪神が君臨していた…。


その横で、アイとハサギがこそこそと会話している。


アイ(今のうちにルトー連れて逃げられないか?)

ハサギ(だめだ、俺達が動けばあの3匹の怪物はこちらを簡単に潰してしまえる。

今は静かに様子を見守るしかない)

アイ(く、俺が…この俺が!

奴らの動きにビビってしまうなんて…情けねえ!)

ハサギ(落ち着け、今はチャンスを待つんだ。)


二人がそんな話をしているときに、中央の怪物二匹はこんな話をしていた。


クァチル・ウタウス{小娘、我に対して戯れ言をほざいた覚悟、あるんだろうな…?}

果心{当然よ。

でも、私を他の奴等と一緒にしないでね。

私はもう不老不死なんだから。}

クァチル・ウタウス{何?}


果心はヘルメットの奥で笑みを浮かべる。

その表情の恐ろしさは、対峙している邪神しか知らない。


果心{私はね。

もう不老不死なの。

でも、いつまでも私だけ不老不死じゃあ辛い事があるから、

神様に頼んで全人類を不老不死にしてもらうのよ。

そうすれば、私はもう苦しみを味あわずにすむ…}

クァチル・ウタウス{…実に愚かな理由だな。

自らの過ちを反省する事もなく、他人に同じ罪を背負わせようなど、なんと浅はか。

それでは、誰も救えないだろうなぁ…}

果心{………過ち?}


果心は眉をひそめる。

対してクァチル・ウタウスは顔のような物を歪ませ、ニヤリと笑う。


クァチル・ウタウス{そうだろう?

小娘の考えなど、簡単に解る。

さしずめ、永遠に対する幻想を現実にするために力をつけたが、

永遠の重みに耐えられなくなり、

周りを同じ存在に変えようとしているのだろう…?

実に幼稚で哀れで愚かで低俗な考えだ。}


その言葉を聞いて目を見開いたのは、パーだ。


パー{神よ!

幾らあなたでも、果心様を侮辱する事は…}

果心{やめなさい。パー}

パー{果心様!?}


動きだそうとするパーを、果心は諌める。


果心{私の行動に対する考察をしてくれて感謝します、クァチル・ウタウス様。

しかし、あなたの推理は間違えておられる}

クァチル・ウタウス{何…?}

果心{私は望んで不死になったのではありません。

修行してこの力を手に入れたのでもありません。

私が周りを私と同じ存在に変えるのは、理由があるからです}

クァチル・ウタウス{…なんだ、その理由は…?}


クァチル・ウタウスは尋ねる。

ヘルメットの奥にある果心の表情は暗闇のせいで見えない。


果心{…神様にだけは、決して理解出来ない理由ですよ。

地獄なんてものを作った、神様にはね}

クァチル・ウタウス{…?}


うっすらと笑みを浮かべた果心の表情は、目の前に対峙している邪神にも後ろで話しを聞いているパーにも、気付かれる事はなかった。


果心{…これ以上の話は止めましょう。

私は貴方を潰す。

今、その為の力をお見せしますわ}


果心は左腕をすっと上げて掌を開く。

すると、黒い球体が現れた。


ルトーはそれに見覚えがある。


ルトー「あれは、怪物化しなかった生徒や先生を捕まえていた球体…!」

果心「その通り。

この中には、私が捕まえた人が入っているわ。

今、そこから一人だけ解放する…。」


果心は右手を勢い良く球体の中に入れる。

そして少しした後、中から何かを取り出した。

中華服を着た女性のようだ。

果心が適当に放り投げると、人形はみるみる大きくなり、中華服を着た人間の女性に姿を変えた。


サイモン「あれは…?」

ハサギ「壱弐(イーアル)先生!

怪物になっていなかったのか!?」


学校の教師であるサイモンと、彼女と一緒に授業をしたハサギが叫ぶ。

それを聞いた果心はヘルメットをハサギ達にむけ、その闇の中でニヤリと笑う。


果心「そう、これは壱弐・参四(イーアル・サンスー)

あなたにとっては、親しい人でしょうね。

でも私にとっては…」

サンスー「…う…」


果心が話している間に、サンスー先生は目を覚ます。

そして、ほとんど反射的に果心に掴まれた手を離した。


サンスー「ひ…!?

何アルか!?」

果心「…あら、目を覚ましたの。」

サンスー「だ…誰アルか?

ここは、どこアル…?」


サンスーはキョロキョロと辺りを見渡す。

塵と埃だらけの室内には、ふらふらになったハサギやサイモン、そして自分の近くで倒れている半魚人と宇宙服を着た二人組。

…そして、


クァチル・ウタウス{こいつは…?}

サンスー「!?

な、なんなんアルか!?

ミイラの怪物!?」


そして、クァチル・ウタウスの姿を見てしまった。

サンスーの表情はみるみる青ざめていく。


サンスー「い、いや…!

なんなの!?これは一体、どういう事…!?」

サイモン「さ、サンスー先生…

これは…」


何とか説明しようと近寄るサイモン先生を、ハサギは右手を出して制する。


ハサギ「まて…何かおかしい」

サイモン「な、何がおかしいんですか!?

今は彼女を助けないと…」

ハサギ「良く見ろ、彼女の体を。」

サイモン「…?」


サイモンは改めてサンスー先生の姿を確認する。黄色い中華服に、とても美しい容姿で、二十代に見える筈なのに十代にも三十代にも見えるその姿。

それがサイモンの知る普段の彼女の姿だ。


ハサギ「おかしいと思わないか?

ここは今、時間が超加速している空間なんだぞ?

なのに、なんであいつはそのままなんだ?」

サイモン「あ…!」


ハッとサイモンは気づく。

今の自分は血染め桜の加護により、白い結界が常に自らを守ってくれている。

そうでなければ、皆もうとっくに塵になっているのだ。

果心やルトーは宇宙服を着ているから、そのおかげでこの空間の影響を受けていない事が分かる。

パーは、クァチル・ウタウスの召喚者だ。

召喚者であるパーは一時老化したが、クァチル・ウタウスと話した後は全く年をとってないことから彼も影響から逃れている事が分かる。


ハサギ「では、イーアル・サンスーは?

彼女は何故、そのままの姿なのだ?あいつは生身の人間なんだぞ?」

サイモン「……!?

ど、どうして…!?」

果心「あら、流石は『知略』の天才、ハサギ。

一瞬で推理しちゃったか」

ハサギ「こんなの、推理に入らん…。

お前、あいつに何をした?」

果心「何もしてないわよ?

彼女もまた、時の流れに流されない存在という事…。」


果心は不格好な宇宙服のまま、混乱するサンスー先生の元へ歩み寄る。


サンスー「あ…ああ…!!」

果心「ねえ。」

サンスー「ひぃ!」

果心「あなた、いつまで怯えたフリをしているの?」

サンスー「…あわわ、なんなんアルか…?」


突然、果心はサンスーに言葉をぶつける。

サンスーはまだ不安だらけの目で果心のヘルメットの奥にある表情を見つめていた。

サイモンやハサギに、その表情は分からない。


果心「あなたは私が用意した存在でしょう?

しっかりしなさいな。みっともないわよ。」

サンスー「な…に…を…。

何を、言っているアル…?

何を、考えているアル…?

何で、笑っているアルか…?」


サンスーは真っ青な表情で、そう尋ねた。

ヘルメットの奥で、果心は笑っている。

だが、その真意をサンスーは理解出来ない。



果心「あなたは私が用意した、対クァチル・ウタウスの策の一つ」

サンスー「…え?

何を…?」

果心「ああそうよね。

あなたはこれの封印を解かなければいけないわね」


そう言って果心はイーアル・サンスーの腰に手を差し出す。


サンスー「!?」

果心「ええと、これね」


そして、腰帯にある小さな黒い扇子を外した。

黒い扇には、六つの鎌が付いている。


サンスー「な…に……を……

………………………………………」

パー「?」

ルトー「動きが止まった……?」

クァチル・ウタウス{小娘…一体何をした?}


クァチル・ウタウスでさえ、傍観者と成り果てている。

その中で、果心は楽しそうに話している。


果心「分からなくて当然よね。

あなたはきっと、こんな怪異に関わらなければ死ぬまで自分の正体を知らなかったでしょう。

私に感謝しなさい」


果心が微笑む。

そのすぐ先で、怪異は起きた。


イーアル・サンスーの体がぶくぶくに膨れ始めたのだ。


ハサギ「!?」

サイモン「な……」


膨れ始めた体とは対照的に、両腕は細く、長く伸びていく。

そして、二メートルほど延びた辺りで急激に膨らむ。

ハサギも、サイモンも凍りついたようにその変化をまじまじと見つめている。

クァチル・ウタウスさえ、傍観者と成り果てたこの状況でただ一人果心はイーアル・サンスーだったものに顔を向けながら、

尚も笑みを浮かべ続けている。


果心「感謝しなさい、イーアル・サンスー。

いえ、こう呼ぶべきかしら?

『黒い扇の女神』よ」


ブクン…ブクブクブクブクブクブクブクブクブクブクブクブク!!


触手は急激に膨らみ、体のあちこちから触手が生える。


そして、彼女は変化した姿を晒した。


体重は600ポンド、身長は7フィートの女性の姿をした怪物。

腕のあるところに触手があり、さらに多くの触手が病的な灰黄色の皮膚からとぐろを巻いて生えている。

彼女の目の下に更なる触手が波うち、その横と下に膨れ上がった顎がある。

そのそれぞれに口があり、それぞれの口は完璧な薔薇色の曲線が牙の塊で見るも恐ろしくなっている。



ウワアァアアァァァアアア!!!



誰が、叫んだのだろうか?

そんな事、誰も分からない程に、部屋の中の人間達は恐怖に支配されている。

ハサギも、サイモンも、ルトーも、パーですら、

恐怖に支配されている。

そして、ハサギ達が動きだそうとした瞬間。

彼らの目の前に氷の壁が現れて、

動きを封じた。


ハサギ「だ…誰だ!?

何だこの壁は!

殺す気か!!」


ハサギが振り向いたその先には、アイが立っていた。

左の義腕をハサギ達に向けている。


アイ「震えるなバカ者!

今はそんな事してる場合じゃないだろう!」

ハサギ「あ……あ……アイ……。

あ、ぶ、ない…ところ、だった」

アイ「…で、何だ?

あの怪物は?」


アイはじろりと怪物を睨む。

しかし、その腕はかすかに震えていた。

ヘルメットの奥から果心の声が響く。


果心「これは、怪物であり人間であり化身である存在……。

人はこれを『膨れ女』と呼ぶけれど、私は『黒い扇の女神』と呼んでいるわ」

アイ「黒い扇の……女神?」

果心「ええ。

とある邪神の化身であり、クァチル・ウタウスに対抗できる存在。

とても美しいでしょ?」


五つもある口に無数の触手。

それだけでアイにはとても美しいとは思えなかった。

アイが果心を見ると、ヘルメットの奥で楽しそうに笑みを浮かべ、赤い舌で上唇を一舐めした。


果心「でも、美しいだけじゃ男は魅了出来ない。

情熱的で、官能的で、何より輝いていないとね。

そのために、私から彼女に一つだけプレゼントをあげる」

アイ「?」




縷々家学園 結界・外側


そこではシティ、ペンシ、ケシゴ、崑崙、バベル・エンヴィー、月龍が戦っていた。


崑崙「さあて、どうしてくれようか…ん!?

月龍、どうした!?」


喋る浮く戦うの三拍子が揃った岩、崑崙は後ろにいる月龍を見た。

月龍は結界の中の円に閉じ込められたような姿をした龍だ。

しかしそれは今、金色に光り輝いている。


月龍が叫ぶ。


月龍「果心様の合図だ!

遂に始まるぞ!」

バベル「なにぃ!」

崑崙「遂に…遂に始まるのかぁ!?」

シティ「…?」


月龍「そうだ…今こそ…我の出番だ…。

では…いくぞ……グウゥゥ…」



グオオオォォオオオオ!!!!



龍の咆哮。

それは、聞く者全てを威圧する!!


ハサギ「ぐぅあああ!!」

ペンシ「ぅぅわあぁ!」

シティ「………っ!

負けるか!」


そして、結界の内側。

こちらから月龍 の姿を見れば、十八夜の月に見えるだろう。

…その月から、金色の光線が大地目掛けて発射される!


ビュイイイイイイイン!!!



そして、光線は黒い扇の女神に命中した!!


アイ「うわっ!?」

黒い扇の女神{◆◎◇☆□!?}

果心「ウフフフ……」

輝け。」


光の柱の中で黒い扇の女神が悲鳴を上げて叫んでいる。

その言葉の意味は理解出来ない。

しかし、その悲鳴のおぞましさから、あの光の中で、何か恐ろしい出来事が起きているのは良く分かる。

そして宇宙服という、光を全く浴びていない状態の果心林檎は、闇の中で笑う。


黒い扇の女神{↑♪♯♭※γ♯γβ♪♭ΦΘβ♪♭ΦΘΨ↑ΦΘΨ↑※θΘ}

果心「輝け。輝け!

月よ、もっと輝きなさい!!

暗い暗い絶望の中で、私が希望の光りで輝く為に!!」



結界の外側で龍が更に咆哮し、輝きが強くなる。



グォオオオオオオオ!!!!



バベル「フフフハハハハハハハ!

ついに始まる!!

果心様の作り上げた計画が!!」

崑崙「夜よ謳え、歓喜の歌を!

昼よ叫べ、絶望の歌を!

今この瞬間、星々が我等を祝福する!!」

バベル&崑崙「「灯だ!

これは我等の希望の灯!!」」

ペンシ「な、何?

何が起きているの!?」




黒い扇の女神{♭♯ΨΦΘ※⊂※♪♭βёпзШЫЮлктржджеЯйЩШлескжрбЮЖЕВχΞΣΟΜ∽♭≡∫*◆●#¢¢♂★&″±∴÷】>∞〆―’‐、!`..?○△▲▽▼▼〓〓⊃⊇∋∋∈∪∀∧⊇∨⊂⊃⇒♪♭♭∝♯ゎゐ∫†ゑゎ♭♯♯‰∽ΓΔΕΖΖヵヴヰΒ◯ゎヵヶΡΦΨΣΛΦΥΥΥΞΙΔΛΛΣΜοοοξιδμδγγκρμεπυξПРКИЗУ⑭⑱┘┼┗┓$)) ̄仝〇^〃―=+》』×⊥⊥∫∵∵≒≒≒≒≒ΨΠΠΦХ!!!???}

果心「アハ?

なに話しているのか全然わかんなーい!

もっと叫ばないと、あなたの神様に届かないよ?

まあ、もうあなたにアイツの言葉は絶対聞こえないだろうけどねぇ!!

ウフフ、フフフ……アーッハハハハハハハ!!」


バァアアアアアン!


そして、光りが弾けた。

黒い扇の女神は、先程と全く同じようにその場に存在している。

だが、その光りは薄い金色の光に包まれている。


誰も動けなかった。

あまりの異常な光景に、行動を起こせない。

……たった一人を除いて。


果心「……成功だわ…」


その言葉を聞いて正気に戻ったのは、パーだ。


パー「…!?

か、果心様…あなたは、一体何を…?」

「教えてあげるわ、K・K・パー。…この私がね」


そう話したのは、果心林檎ではなく、その近くにいる、邪神…。

光に包まれた黒い扇の女神であった。


パー「!?」

黒い扇の女神「今の光は、果心と私の精神を繋げるための光…。

これで私は、黒い扇の女神であり、黒い扇の女神ではない存在となった」

ルトー「あ、あの…。

良く言葉の意味が分からないんだけど…?」


果心の言葉に尋ねたのは、

意外にもルトーだった。

果心は優しい笑みを浮かべる。


黒い扇の女神(果心)「簡単に言えば、黒い扇の女神をラジコンにしたのよ。

操っているのは向こうにいる私だけどね。

そして……」


黒い扇の女神は、クァチル・ウタウスの方に顔を向ける。


クァチル・ウタウス{!}

黒い扇の女神(果心)「後は、この体でクァチル・ウタウスを倒すだけ。{準備は出来た。

覚悟しなさい。}」

クァチル・ウタウス{ち……。

だが、我はまだ負け……うぉ!?}


クァチル・ウタウスの体が急にガクンと傾く。

邪神の細い足に、女神の太い触手が絡み付いたのだ。

そして、恐ろしい力で邪神を引きずり込む。


クァチル・ウタウス{やめろ!

やめろ!ヤメロォ!!

何故だ、何故我の力が通用しない!?}

黒い扇の女神(果心){素敵な素敵な邪神様!

貴方の唇はどんな味がするのか楽しみだわぁ!}


ズルズルズル!


女神に引きずられ、なすすべもなく引きずられる邪神。

そして、あっという間に女神と体が密着してしまった。

邪神の顔のような物がブルブルと震え、

女神の顔に邪悪な笑みが浮かぶ。


クァチル・ウタウス{ヒッ!?}

果心{あなたは知っているよねぇ……。

黒い扇の女神は接吻をして、脳髄を吸いとり、知識を得る事を。

……今から貴方の不老不死の秘密、貴方の時の秘密、貴方達の存在全て…全部全部私のモノになる}

クァチル・ウタウス{ヒィィ!

ヤメロォ!!

教える!全部教えるからやめてくれぇ!!}

黒い扇の女神(果心){ダ・メ。

私は五十年待ったんだから}


クァチル・ウタウスの体がガクンと動きだし、皺だらけの顔のようなものを黒い扇の女神の顔にくっつけられる。

その瞬間女神の牙だらけの口が開き、邪神の顔のようなものに噛みつく。


ぶちぶち、と皮膚と肉が切り裂く音が聞こえた。

クァチル・ウタウスは余りの痛さのあまり叫びたかったが、

人に理解出来ない言葉ではなしていたからか、はたまた口を食べられたからか、声を出すことも出来ず顔をガクガクと震わせる事しか出来ない。


ルトー「あ…あ…うわ!」


これから起こる惨劇から逃げたくて、ルトーは一歩ずつ後ろに下がる。

…が、何かに足を掴まれて倒れてしまう。

見ると、ずっと倒れていた半魚人、現古先生だった。


ルトー「う…うわ…!」

現古「見るな…」

ルトー「え?」

現古「お主はこれを…みちゃいかん…!!」


現古は更にルトーの足を握り、動きを止める。

更に左手がルトーの頭を抑えつけ、何も見えなくしてしまう。

ルトーはヘルメットをかぶっているから苦しくはないが、それでもじたばたと暴れようとする。

…が、半魚人の現古の方が遥かに力は上だ。

…そして、次の瞬間。



ギィィィィヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!



想像を絶する悲鳴が部屋中に響いた。

ルトーは見えなかったが、それ以外の大人は全員、この凶行を見ていた。


薔薇色の唇が開き、無数の牙がクァチル・ウタウスの顔のような物に噛みつく。

また、黒い扇の女神は、口が五つもある怪物だ。

残り四つの口が、クァチル・ウタウスの両手、両足に縫い付けるように牙が食い込まれた。


クァチル・ウタウス{わあ、わぁ、ワァ、ワァアアアアアアアアア!!!??ヤメテク}ズズ!!ズルズルズル!!!バキッ!!ボキッ!!ズルズルズルズルズル!!!グシャ!バキボキッ!ズルズルズル!ズルズルズル!ズズズズズズズズズズズズ!!!




先程とは、全く違うズルズルという音と共に、クァチル・ウタウスのしなびた体が潰されていく。

それが何を意味するか、彼等は全員理解した。


アイ「骨を砕いて…。

内臓を吸い付くしているんだ!」

ハサギ「な、なんて酷い…!」

果心「フフフ……まだまだ地獄は続く」


果心は楽しそうに話す。

その前で、クァチル・ウタウスの萎びた体が少しずつ膨らんでいく。


アイ「あれは…?」

果心「クァチル・ウタウスは不死の力を持つ神。

だから死なず、あれだけ恐ろしい目にあっても死なない。

でも、『私』の口づけは相手が死のうが生き返ろうがお構い無しの純・愛・よ」


ズズ!!ズルズルズル!!!バキッ!!ボキッ!!ズルズルズルズルズル!!!グシャ!バキボキッ!ズルズルズル!ズルズルズル!ズズズズズズズズズズズズ!!!


膨らみ始めた体が再度、黒い扇の女神に全てを吸いとられていく。

全身の内臓を吸われ、しかし蘇って、また吸われる。


吸引→復活→吸引→復活→吸引→復活→吸引→復活→吸引→復活→吸引……


果てしない地獄。

神はその無限の力故に、『死ぬ』という逃げ道を選ぶ事が出来なくなったのだ。

宇宙服を着た果心林檎が、ヘルメットの奥でとても楽しそうに笑う。


果心「地獄になんていかせない!

天国になんて逃げさせやしない!

あんたのいる場所は此処!

あんたの住む場所も此処ッ!!

私が飽きるその時まで、あんたは永遠に私のオモチャなんだよ!!」

クァチル・ウタウス{〜〜〜!!

〜〜!!〜〜!}


口を噛みつかれた状態で、邪神は叫ぶ。

だがその言葉の意味を、理解できる者はいない。


果心「苦しめ苦しめ!

苦しみ抜いた者のみが磨かれる!

私のオモチャとして、輝くのよ!」


アハハハハハハハ!!!


果心の狂った笑みが部屋に響き渡る。

それを聞いたハサギは顔色をみるみる青くしていく。


ハサギ「次から次へと恐ろしい事ばかり…嫌だ。

もうイヤダアアア!!」


ハサギは逃げ出そうと、体を巨大化させようとする。

だが、その行為をある者の声が止めた。

果心林檎だ。


「逃がしてあげると思う!?

そんなの絶対許さない!

『木花咲耶姫の紅富士』!」


バアァァァン!!


サイモン達の上にある一階の扉が破壊され、溶岩が侵入してくる。

サイモンは熱気に思わず手を引っ込ませる。


サイモン「…熱ッ!?

溶岩が、侵入してきただと!?」

果心「安心しなさい。

あれはあくまで逃げるのを防ぐための壁…。

貴方が無理矢理出ようとしない限り、地上に落ちる事はないから」


溶岩は雲のように空を浮遊し、こちらに落ちる気配はない。


果心「アハハハハハハハ!

分かる、分かるわ!

宇宙の法則、世界の真実、神々の力が!!

そして、不老不死の力の秘密を遂に掴んだ!!

これで、全人類を不老不死に出来る!

全人類が、私と同じ業を背負う事になる!」


バン!バン!


果心は両手でヘルメットを覆う。


果心「これで、私は地獄から解放される……。

もう、あの川に怯える事もなくな……」


果心の言葉が止まる。

誰かの手が、果心の手を抑えたのだ。


果心は、その手が誰かがすぐに理解できた。

静かに、言葉を吐き出す。


果心「……なんのつもり、ルトー?」

ルトー「果心…さん!

もう、もうこれ以上やめて!

これ以上、自分を傷つけないで!

あなたは、そんな事が出来る人じゃない!」

現古「あいつ、いつの間にあんな所に!」



ゾロリ、と果心の目が動き、宇宙服を着ているルトーの姿を捉える。

宇宙服なんて物を着ても、震えが伝わってくる。

果心はそれが無性に気にくわなかった。


果心「離せ、裏切り者の臆病者の役立たず。

お前に私の未来を変える力なんてないだろう?」

ルトー「……!

いやだ!」

果心「あ?」


ルトーはヘルメットの奥で涙を流しながら、それでも力強く叫んだ。


ルトー「いやだ!!

僕は絶対、貴方を許さない!」


そして、力強く大地を踏みつける。

ダン、と音が鳴って埃が舞う。


今、ゴブリンズ一小さな鬼、

『隠れ鬼』が動き出した。

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