第45話 月パート 邪神と宇宙服
パー「降臨せよ!!
神、クァチル・ウタウス!!」
塵だらけの地下室に降りたったのは、神とは、とても呼べない怪物だった。
一見すると小さな(子供くらいの大きさ)ミイラの様に見える。
肌はしわだらけで目鼻は無く、
無数の網目状の筋が付いているだけである。
手足は硬直しており、特に鍵爪の付いた手は 、手探りをしているかの様に前に突き出されている。
その姿を見たサイモン、現古、ハサギの三人は感じた事のない恐怖と戦慄に襲われる。
ハサギ「!!?」
サイモン「あ、あああああ………なん、なんだ…この化け物は…!!!」
現古「恐ろしいギョ…!」
しかし、アイは怯みこそしたが、他の人のように
感情に支配されず、左手の掌をクァチル・ウタウスにむけていた。
アイ「ち……」(普段ダンク見てるからあんまり怖くねえ…)
「パー!
おまえ、こんなミイラ呼び出して何がしたいんだよ!……!?」
アイがちらっとパーを見た時、始めて気付いた。
先程は少年の姿だったのに、今はまた老人の姿に変化しているのだ。
パー「がはっ!!
ふー、ふー、…ヒヒヒヒヒヒ!
また歳とっちまったぜ…」
アイ(変化…?
いや、違う…)
アイは辺りを見渡す。
そして、部屋の異変に気付く。
先程より、部屋の埃の濃度が遙かに濃くなっているのだ。
まるで、一瞬で何十年も時が経ったかのように。アイは一瞬理解出来なかったが、直ぐに気付く。
アイ(!
そうか…!こいつは、時を操ると言ったな。
だからこいつの周りは異常に時が進むのが早いんだ!!
俺達四人は血染め桜の加護があるから影響を受けないけど、生身のあいつは一気に歳を取ったんだ!)
パー「ふー、ふー、ふー……。
ふ、フフフフフ…。
ははははははは!!」
少年から老人まで一気に老化した。
当然体力が激減し、 本当なら老衰で死んでもおかしくはない。
だが、この男は声高らかに笑い続けた。
パー「素晴らしい!!
果心様に若返らせて頂いたこの体が、一瞬で元に戻る程の老化するとは!
神よ!貴方はここまで素晴らしいのですね!」
パーは皺だらけになった両手を見て、歓喜の表情を見せる。それはまるで、赤子を初めて抱き上げた父親のように。
だが、抱き上げたのは赤子ではなく、狂気。
パー「この力だ。
この力があれば、儂は時を操る事も可能だ。
この力があれば、果心様の希望になる事だって容易い…。
我が神、クァチル・ウタウスよ!」
クァチル・ウタウス「……………」
クァチル・ウタウスはずっと動かなかった。
ただただ、皺だらけの顔のようなものをパーに向けていた。
パー「む…このままでは伝わらないか。
それなら…。
{儂の言葉が分かるか?}
その言葉を聞いたクァチル・ウタウスはぐにゃり、と顔のようなものを歪める。
クァチル・ウタウス{!!
貴様、何者だ…?
何故、この言葉を…!?}
アイ「!?
言葉が…変わった!?」
アイは言葉の意味を理解しようと、聞き耳をたてる。しかし、全く理解出来ない。
ただ一つ理解出来るのは、このまま奴を喋らせてはいけない、という事だ。
パー{私はクァチル・ウタウス様を人々の目に晒させた、あの予言者の子孫です。
他の奴等とは全てに置いて違います。}
クァチル・ウタウス{…。
あいつの子孫、か。
なるほど、いわれてみれば確かに姿が似ている。だから我等の言葉も理解出来るわけか。
勉強熱心な子孫だな。
それで?
我を呼び出したのは、自身の自慢だけではあるまい?}
パー{はは、恐れ多くも貴方様に頼みたい事があります。
不老不死、の法をあなたはご存知ですか?}
クァチル・ウタウス{なんだ?
あの邪悪な予言者、カルナマゴスの子孫だからどんな闇を見れるのかと思えば、
たかが不老不死か?
実に下らん…}
パー{いいえ}
パーは皺だらけの顔をニヤリと歪ませる。
パー{少し違います。
私達が考えているのは、『全世界の人類を不老不死にする事』です。}
クァチル・ウタウス{…ほう、いいだろう。下らん考え、少し興味を持った。
話せ。}
パー{御意。
…いえ、少しお待ちを}
パーはそう言うと、直ぐ後ろまで来ていたアイに拳銃を向けた。
アイ「何!?」
パー「主の考えている事は分かるぞ!
ゆけ、塵どもよ!!」
『了解』『了解』『了解』『了解』『了解』
部屋中の塵が『了解』という文字を作り出す。
そして、全ての塵がアイをに襲いかかってきた。
アイ「な、なんだこ…………わぷっ!」
アイの体は、あっという間に塵の中に呑まれてしまった。
パー「ふははははは、儂の裏をかいて潰す事は不可能だ!
果心様から頂いた、『塵を操る魔術』を儂は使えるのだからなぁ!
{我が神、しばしお下がり下さい。
こやつらごとき、儂の力で充分でございます。}」
クァチル・ウタウス{いいだろう。
その言葉、受け入れよう}
そう言うと、クァチル・ウタウスはミイラのような体をふわりと浮かばせ、天井の近くまで浮いた。
クァチル・ウタウス{存分に戦え、カルナマゴスの子孫よ。}
パー{ははーっ!}
アイ「く…!
完全に気配を消したのに、なんでバレたんだ?
…ええい、邪魔だ!
アイスボム!!」
カチン!
アイの体を覆う塵が凍り付く。
それを破壊して、アイは塵の世界から脱出した。
パー「へー、ダメージを受けてないのか。
…その白い光、のおかげか」
アイ「まあな」
アイは今、白い光に包まれていた。
これは血染め桜の加護による光。
時が異常に進む中で生きていられるのも、この光のおかげだ。
だが、パーにとってそれは、邪魔な存在でしかない。
パー「…おかげで、貴様は私の能力まで披露しなければいけなくなったな」
アイ「!」
パー「喰らえ。」
ザバアアアァァァ!!!
アイの四方の塵が噴き上がり、まるで壁のようにアイの体を隠す。
そして、そのままアイの体を覆い尽くした。
アイ「!」
パー「ふははははは!!
儂の力を舐めるなあ!
そしてぇ!」
パーはまだフラフラしているサイモンに向けて塵を撃ち込む。サイモンの体はあっさりと吹き飛び、壁に勢い良くたたきつけられ、そのまま両手両足を塵で拘束させる。
サイモン「ぐわ!!」
パー「君が次に行動するのは分かっていた。
だから、先に止めさせて貰ったぞ。
そして、」
パーは右手の拳を握り締める。すると今度はハサギの頭の上に巨大な塵の固まりが落下してきた。
ハサギ「!?」
パー「貴様が儂の能力の正体に気付き始めた事もなあ!」
ズドオオオオン!!!
巨大な拳がハサギの体を踏みつぶす。
ダメージこそないが、息が出来ない。
ハサギ「ぐ……!」(という事は…当たっているのか?
ありえない…そんな能力、有るわけがない!)
現古「な…なんだギョ…?
皆、行動する前に潰されていくウオ…?」
現古の周りの塵が集まり、また言葉を作り出す。
『アハハ』『馬鹿だ』『馬鹿だ』『気付いてないんだ』『おかしい』『可笑しい』『アホなんだ』
『はやく消えればいいのに』『弱い』『のろま』『愚図』
パー「見たか、現古…。
私は、果心様から頂いた魔術は『塵を操る魔術』と『若返り』の魔術。
だが…これは儂自身の力ではない」
パーは倒れるアイの横を通り、現古に近づく。
そして、あと三メートルという所で歩みを止め、ニタリと笑う。
パー「儂の能力は『素顔を見た人間の未来が分かる能力』。
どんなに素晴らしい才能を持った人間も、
どんなに力が強く皆から人気を持つ人間も、
儂が顔を見れば、そいつがどんな人生を送るか良く分かる。
そして、貴様の人生もな」
パー「…!」
現古は目を丸くした。
パーが…泣いていたからだ。
パー「悲しいなあ。
貴様、これから悲惨な人生を送るんだもんなあ。
でも、
教える事は出来ない。そしたら人生が変わるからなあ」
現古「………」
現古は何も言わず、じっとパーを睨みつけていた。パーは涙を流しながら、それでも口元は笑っていた。
パー「悲しかったよ…。
この力のせいで、生徒の未来が見えてしまうのだから。
『教師』にとって、この力がどれだけ残酷か分かるか?
『結果』が分かっているのに、頑張れ頑張れと応援する虚しさがわかるか?
かといって未来を教えた生徒が心を砕き、倒れ伏す未来を見るのがどれだけ苦しいか、
分かるか現古。」
『悲しい 』『辛い』『ヤメテ』『ミセナイデ』『イワナイデ』『ネタバレしないで』『どうしてそんな事いうの?』『やだよ』『知りたくないよ』『いや、頑張る!』『そう言って何人未来を変えられなかった?』
『未来を知る程哀れな事はない』
『未来を変える事なんて、誰にも出来ない』
パーの周りの塵が言葉をつむぎ、現古の思いを消していこうとする。
現古「……同情はしないぞ。パー。
教師は『何を教えるか』じゃなく、『何を伝えるか』が大切ギョ。
未来だが何だか知らんが、そんな幻に幻惑されて、学校を無茶苦茶にして…今更、そんな奴の言葉、誰が聞き入れると言うんだウオ?」
パー「………悪いけど、お前の言葉も『未来』で言っていた通りだよ。
お前は結局、儂の見た『未来』通りにしか動けないんだな……」
どこか寂しそうに、そしてほんの僅か誇らしげにパーは呟いた。
その小さな言葉を、現古は返す事が出来ない。
パー「だが安心しろ。
お前はここで死んでも…生徒達は儂が守るからな。」
現古「永遠に……………………か。
やはり、お主は下らんな」
パー「それも『未来』で言っていた。
…もう、口以外の物を動かしてもいいよな?」
パーはパチンと指を鳴らす。
すると、現古の下にある塵が一気に動きだし、一瞬で現古の半魚人の体を覆い尽くしてしまう。
現古「っ!」
パー「『血染め桜の加護』でダメージは与えられないんだろ?
だけど、呼吸は出来る。
…そこを狙えばいいだけさ」
現古が何か動かす暇もなく、体中に塵が纏わりつく。そしてそれは確実に現古の口とエラの部分を押さえ込み、息を封じ込ませる。
現古は立ったまま、暴れる事すら許されない。
現古「……!……!……!……!」
パー「さよなら、我が同僚よ。
さよなら、我が敵よ。
もう誰も来ない地獄で、永遠に苦しみ続けておくれ。」『さよなら 』『さよなら』『さよなら』『さよなら』『さよなら』『さよなら』『さよなら』『さよなら』『さよなら』
薄れゆく意識の中、現古は塵のなかでじっとパーを見つめ続けていた。
見つめ続けて見つめ続けて…やがて、瞼を閉じた。
縷々家学園 結界の外。
シティ「…久し振りに、来たわね。
学校に。
出来れば、あんまり来たくなかったけどね」
鉄板に乗ったまま、シティは呟く。
その後ろで、気を操って空を飛んでいるペンシがフフッと笑った。
ペンシ「そこには同意するな。
学校に来ると、何かこう…恥ずかしい思い出が沢山出てくる。」
シティ「あ〜〜、分かるわその気持ち。
学校ってこう…色々やりたくなるわよね。
そして、後で恥ずかしくなるのよ…」
ケシゴ「…お前等、」
不意に、ケシゴが呟く。
目はじっと一点を見つめていた。
ケシゴ「あれが、学校に見えるのか?
俺には馬鹿でかい中華鍋にしか見えないが…」
烏達に載せて貰って飛んでいるケシゴの目線の先には、ドーム状の結界があった。結界は黒い色で中は見えない。
…はずだが、地図もGPSもこの場所は学校、と示している。
シティ「ふ、私には見えるわ。
高鬼さんには見えるんだから」
ペンシ「私も、心眼を使って中を確認した。
やはりここは学校のようだ」
ケシゴ「…そうか。
お前達がいうのなら、そうなのだろうな」
ケシゴはツッコミを入れることなく、やんわりと受け流した。この二人に常識なんて語るだけ無駄だと熟知しているからだ。
ケシゴ「で、どうする?
まさかベルを鳴らして入って貰うなんて考えてないよな?」
ケシゴはサングラスをかけたまま二人に尋ねる。
ペンシはフッと笑った。
ペンシ「そんな、まさか…
結界を壊すに決まっているだろう?
結界なんてデタラメな物質、一度でいいから壊してみたかったんだ」
ケシゴ「…確かに、壊して見たいよな。
実を言うと、俺も壊したいんだよ、そう言う無茶苦茶な存在」
シティ「珍しい…。
私と意見が合う事があるのね」
ペンシ&ケシゴ「「お前もか。
たまには気が合うな」」
ここで読者諸君に一つ悲しい事実を書かねばならない。大事な事なので、良く覚えて欲しい。
こいつらの中に常識人なんていねえから!
みんな破壊大好き戦闘狂だから!!
そして、ペンシは拳に力を込める。ケシゴはカラス達に合図する。シティは右手を振り上げる。
ケシゴ「鳥葬……」
ペンシ「一撃必殺……」
シティ「能力、発動……。」
世界が一瞬、静寂に包まれる。
しかしそれは、町中から集まるカラス達の羽音によって破られる。
カラス×一万「ギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャアギャア」
ペンシの腰まで届く、長い黒髪がふわりと浮かびあがる。
そして、何故かペンシが金色に輝き始めた。
ペンシ「はああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
更に上空からは電柱、鉄板、テトラポット、さらには廃バスから鉄筋ビルまでが、突如現れた。
もはや理屈も常識もありゃしない。
シティ「『コンクリート・ロード』!!
か〜ら〜の〜…」
そして、全てが動き出した。
ケシゴ「『食欲無限の黒き掃除屋』!!」
ペンシ「『弥勒様の一撃』!!!」
シティ「『反・天・世・界!!!』
縷々家学園 二階、図書室
果心とルトーは、アイ達が開けた穴から下に飛び込む準備を完了させていた。
果心「しゅ〜(よし、魔法セキュリティ『崑崙』に充分な魔力を抽出したわ。
これで何が来ても安心ね。)
しゅ〜(このまま行くわよ。)
ルトー「こ〜(う…うん。)」
果心「しゅ〜(せ〜の)!」
果心が飛び降りようとしたその瞬間、
ズドオオオオオン!
ズドオオオオオン!!
ズドオオオオオン!!!
学校中を三つの強力な衝撃が襲う。
大地は揺れ、学校の壁はゆらめき、床はまるでバネのように跳ね上がり…。
穴の側にいる二人は、バランスを崩してしまい、落下してしまう。
果心「しゅ!?(え!?)」
ルトー「こ!?(まさか!?嘘だろ!?)」
しゅううううううう!!!
こおおおおおおおお!!!
二人の宇宙飛行士が、謎の奇声を上げながら穴の中を落ちていった。
縷々家学園 結界の外側
ドーム状の結界周辺は悲惨な状況になっていた。
電柱や廃バスが衝撃で砕け、そこら中の道路が散らばっていたからだ。
これを取り除くために、一体何台のトラックが動き出す事だろうか?
しかし、三人はそれを気にはしない。
何故なら、目の前にはヒビが入りぐしゃぐしゃになった結界があるからだ。
シティ「よーし!
あと1、2回今のをやれば結界が壊せそうよ!」
ペンシ「なかなか頑丈だが…。
我々の敵ではなかったようだ」
ケシゴ「このままの勢いでもう一度やるぞ!!」
二人「おー!」
三人がもう一度動こうとしたその時、ある変化に気付いた。
破壊した筈の結界が、少しずつ修復されていくのだ。
シティ「え?」
シティが驚いている間にもヒビは直り、どんどん結界は回復していく。
ペンシ「自動修復だと!?
くそ、それなら回復しきる前に破壊し尽くして…!」
「そうは、させない!!」
三人の前に、不思議な物体が現れた。
それは『崑崙』と書かれた、1メートルはある岩であった。
そして、その岩は少年のような声でシティ達に語りかけてきた。
「この『崑崙』がいる限り、この結界の先を通す事は許さない!!」
シティ「い、岩が喋った!?」
崑崙「違う!
俺の名は『崑崙』だ!」
ペンシ「『コンロン』?
それにしては随分変な形をしているな。
火を付けるツマミはどこだ?」
崑崙「それは『コンロ』!
そうじゃなきて、俺は『崑崙』だ!
名前がちゃんと彫られているだろうが!」
シティ「分かった!」
シティの頭に電球が灯る。
シティ「あんたも魂を岩の中に閉じこめられたなんちゃらでしょ!
もーそんなので驚かないわよ崑崙!」
崑崙「違う!
俺は生まれた時から岩だ!
それと『崑崙さん』と呼べ!」
ケシゴ「なあ、そろそろどいて貰えないか?
俺たちは今この結界を潰すのに忙しいんだが」
崑崙さん「駄目だ!
俺はこの結界を護るために存在するのだ! 貴様達を通したら、俺は職を失ってしまう!」
ケシゴ「…ならば、戦うしかないようだな(こいつに『恐怖の魔眼』は通用しなさそうだしな)」
ケシゴ、シティ、ペンシはそれぞれ戦闘の構えに入る。
崑崙もまた、オーラを放出させる。
崑崙さん「面白い!
だが、1対3では勝てなさそうだ!
月龍!おい、月龍よ!」
「なあんだあ?」
空から、大きな声が聞こえてきた。
三人が上を向くと、結界の頂点に半分金色、半分黒色の龍が存在していた。
三人「「「な!!?」」」
崑崙「少しでいい、力を貸してくれないか!」
月龍「…今、内部で強力な力が幾つか発生している…。
だから、本当に少ししか力が使えないが、いいか?」
崑崙さん「それで充分だ!」
シティ「…………あの龍………」
ペンシ「ん?」
シティ「私、叩き潰したい。
『龍』なんていう怪物、倒したらカッコいいじゃないか」
ペンシ「…私も同じ事を考えていたぞ…。
どうやら、貴様と私は生涯ライバルのようだな」
ケシゴ「…………。」
「ちょぉっと待ったァ!!」
全員が声のした方に振り返る。
そこには道化服を着た、風船に乗って空を飛ぶ男、バベル・エンヴィーがいた。
バベル「崑崙!」
崑崙さん「崑崙さんと呼べ!
何だ!?」
バベル「俺も戦うぞ!
果心様に『結界に入りそうな奴は阻止せよ』と命令されているんだ!」
崑崙さん「そうか!
ならば共に戦おうぞ!」
ケシゴ「………。
もう、横やりはないか?
なら、行くぞ。」
ペンシ「3対3か…。
これで、数は互角ね」
シティ「うわぁ、壊しがいのあるのが三つもあるなんて、最高ね!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
しゅうううううう!!
こおおおおおおお!!
果心林檎とルトーは下に向かって落ちていた。
宇宙服は果心の魔法により重さを感じないようにはなっているが、実際は120kgもある超重量級の服だ。
そんな物着ていれば当然、重力の力で落ちる速さと威力も増す。
果心「しゅうううううう!(ヤバイいいいいい!)」
ルトー「こおおおおおおお!(しぬうううううう!)」
果心は急いで胸にある操作盤のボタンを押した。
すると、背中にあるタンクの両端から翼が展開され、その翼の先には小さな飛行エンジンが付いていた。
果心「しゅうううううう…。(機械オンチの私が作った試作ロケットだけど、上手く行くかしら…。
って、私は失敗しても死なないから気にしても仕方ないか。)」
果心は胸の操作盤にある点火スイッチを勢いよく押した。
バチッバチッ…。
ボボボボボボボボボボボボボボボボボボ!!!
すると、両翼に付いたエンジンから火花が二、三回散ったかと思うと火柱を上げて燃え上がる。
そして、果心は空中で飛ぶ事に成功した。
果心「しゅうううううう!(やった!やったわ!私、空を飛んだわ!
よし、ルトー!)」
ルトー「こおお!(果心さん!?どうして空を飛んでるの!?)」
果心「しゅー。(今飛びかたを教えるから、落ち着い…)
て、と答える前に、果心は気づく。
こちらを向くルトーの直ぐ下に、何者かが…クァチル・ウタウスが浮遊している事に。
果心「しゅ!(あ!)」
ルトー「こ?(え?)」
クァチル・ウタウス{………。
ん?}
ゴッキャアアアア!!!!
ルトーの頭とクァチル・ウタウスの頭のようなものが激突した。
しかし、この時ルトーは果心特製の魔武装宇宙服を着ていた。
それを装備した状態で彼は10メートル上空から、落下したのだ。
しかも宇宙服の重さは120キロ。
ルトー自身の体重を数えると170キロはある。
更に、クァチル・ウタウスも自らの「時の結界」をすり抜ける存在を知らず、頭のようなものにモロに直撃してしまった。
それらの要素を計算式に直すと、答えはこうなる。
170キロ+10メートル上空+ヘルメットの硬度+落下速度+奇襲=
即 死!!!!
クァチル・ウタウス{ぐはっ!?}
ルトー「ぎゃん!!」
クァチル・ウタウスとルトーは同時に短い悲鳴を上げた後、
一緒に地下室の床に落下していく。
悲鳴に気付いたパーが振り替える。
パー「く……クァチル・ウタウスサマアアァァァ!!!??」
パーは現古を絞め殺すために使った塵を全てクァチル・ウタウスに向けて飛ばす。
塵によって拘束させられた現古は倒れてしまうが、パーはそんな事気にはしない。
ざざざざざざあああぁぁぁ!!
塵は落下するクァチル・ウタウスの真下で球体を作り上げ、邪神ともう一人落下していた存在を受け止めた。
果心「ルトー!
ち……!!」
果心はエンジンを慎重に調整しながらゆっくり落下していった。
一方、パーは心の底から慌てていたために部屋中の埃や塵を集めだした。
その結果、塵に拘束させられたアイ、ハサギ、サイモンも拘束を解かれる。
アイ「ガハッ!」ハサギ「グ、ゲホッゲホッ、」サイモン「うぅ…た、助かった…?」
三人がふらふらと立ち上がった時、パーはクァチル・ウタウスの体に走り寄る。
パー「クァチル・ウタウス様!
ッ……!!」
だが、クァチル・ウタウスの頭のようなものはぐしゃぐしゃに潰されており、あまりに無惨な姿となっていた。
その直ぐ横でルトーがむくりと起き上がる。
ルトー「う、うーん…一体、何が起きたんだ…?
うわ、何これ!?ミイラみたい!」
上空から一部始終を見ていた果心は浮いたまま、あまりの急展開に頭がついていけてなかった。
果心「……え?
ちょ、ちょっと待って…どういう事?
今のは私達が五十年かけて召還する事を願った神、クァチル・ウタウスよね…………?
それが、それが…こんな馬鹿げた一瞬の事故で、死亡……。
邪神が、死ぬ!?
あり得ないわよ、そんなの!!」
パー「あ、ああ、あああああ……。
アァーーーーーーー!!!! アァーーーーーーーー!!!!!」
パーが叫んだ。
腹の底から、己の悲しみと絶望を謳い、地に頭を伏した。
何も気づいてないルトーは急いで塵の塊から降りる。
ルトー「こーー。(あ、あの、えっと、もしかして…………。
また、僕はなんかしちゃった?)」
アイ「ああ、な、何が何だか分からないが……つまり、奴らの目論見は、潰されたんだな?」
ハサギ「そこにいる謎の宇宙服のおかげで……。
あまりに、信じられない事だが、そういう事になる。」
サイモン「ば、馬鹿な…。
では我々は、助かったのか?」
アイ「そういう事になる!
俺達は、勝ったんだ!」
ハサギ「や、やったんだ!
そうさ、やったんだよ!
あの邪神が死ねば、奴らの目的は達成出来ないんだからな!!」
ルトー「こー!(あ、アイだ。
そっか、ヘルメットで僕が誰かわかってないんだな。
今ヘルメットを脱いで……。)」
ま て
ルトー「……?」
ルトーの動きが止まる。
そして、特に考えず振り返る。
振り返って……しまう…………!!
ルトー「……!?」
そこにいたのは、先程と同じ塵の塊。その下で先程と同じ泣き崩れている老人。
ただひとつ、先程と違うモノが塵の塊の上に存在していた。
それは子どもぐらいの大きさだったが、千年を経たミイラのように萎び、しわが寄っていた。
骸骨のようにやせた首の上にのっている、頭髪のない頭や目鼻のない顔には、網目状のしわが無数に走り拡がっている。
その醜怪な身体は、一度も呼吸する事なく流産した胎児の萎縮した姿に似ていた。
先端が骨のようなかぎ爪になっている管状の両腕がそこから、まるで恐ろしい手探りの姿勢で永久に硬直してしまったかのように突き出ている。
そして、小さな死体のものに似た足先を持つ両脚は、あたかも棺に押し込められているかのように密着したままそろって伸び、微動だにせずいかなる歩みを見せる事もなかった。
この恐ろしきもの…クァチル・ウタウスは、直立の姿勢で硬直したまま青灰色の死の光条の中に浮かび、パーの方へと素早く降りてきた。
ルトー「あ…………ア…………!!」
ハサギ「ありえない、さっきは確実にルトーの一撃で頭が粉々にさせられたんだぞ!?
それが、何で…蘇っているんだよ!!?」
サイモン「ま、まさか…。
あれが果心やパー校長の望んでいた、不老不死の力…!?
あんなの、勝ち目がないじゃないか!!」
アイ「ち…畜生…。
俺が…この俺が震え上がるなんて…!」
それを見た五人は見えていた希望が崩れ落ちる音を確かに聞き、
考えうる最悪の絶望的世界が頭の中に映し出されていた。
それは、泣き伏すパーに優しく声をかける。
パー「うわあぁぁぁあああぁぁぁあああ!!!」
クァチル・ウタウス{カルナマゴス・ノールド・パーよ。
何故、泣いているのだ?}
パー「そんなの、我が神が死んだからに決まっているから…あああああァァァァァアアアアア!!!」
パーは勢い良く立ち上がり、それの姿をしっかりと見つめている。
そして涙でぐしゃぐしゃに濡らした顔が笑顔に変わる。
パー「く、クァチル・ウタウス様アアアアアァァァァァ!!」『復活だ』『復活した』『万歳 』『神の再誕だ』『万歳』『万歳』『バンザアイ』
老人が泣き笑いながら、木乃伊のような怪物を崇拝し、周りの塵がその存在を祝福する。
その光景は不気味としか言い様がない…。
ハサギ「狂信者め…。」
ハサギは思わず呟く。
しかしその声はとても小さく、誰の耳にも入らない。
だが、クァチル・ウタウスは顔のようなものをハサギ達の方に向けた。
ハサギ「!!」
クァチル・ウタウス{それで…
誰だ?}
ハサギ「な、なんだ?」
クァチル・ウタウス{誰が、我の頭を叩き潰したのか? }
ハサギ「な、何だ…何を言っているんだ、こいつは?」
クァチル・ウタウスの言語は特殊で彼等には伝わらない。
後ろで恭しく控えていたパーが一歩前に歩き出す。
パー「神はこう仰っておられる。『だれが我の頭を潰したのか?』と。」
ルトー「!!」
ルトーはゾッと体を震わし、逃げ出そうとした。
しかし、ここは地下室…扉はどこに有るか分からない今、
逃げ場なんて彼には存在しない。
ルトーは諦めて、胸の操作盤にあるスイッチを押す。
これで、声は外側に聞こえる筈だ。
ルトー「ぼ、僕だ…!」
アイ「ルトー!
お前、ルトーなのか!?
なんだってそんなヘンテコな服着てるんだ!?」
ルトー「……」
アイが思わず叫ぶ。
ルトーはその声に振り向く事が出来ず、ただただ目の前の邪神を遮光ヘルメット越しに睨み付けていた。
クァチル・ウタウスがまたなにかを喋り、パーがそれを通訳する。
パー「『ほう、自ら名乗り出るとは、良い心構えだ。
だが神に刃向かった以上、報復を受けねばならないな?』」
ルトー「…!」
ルトーは唇を噛み、恐怖に耐え続けていた。
そして、クァチル・ウタウスは動き出そうとして…。
「しゅーーー!!」
全員「?」
不思議な音が上空から聞こえて、全員が上を向く。
そこには背中にロケット付きウィングを装備した宇宙服を着た何者かがいた。
ルトーが叫ぶ。
ルトー「果心…サマー!
マイクのスイッチ入ってないと何も分かりませんよー!」
アイ「果心だと!?」
アイが見ているその前で、宇宙服は静かに着地する。
そしてウィングを仕舞い、クァチル・ウタウスの方に向かって無言で歩み出す。
クァチル・ウタウス{……?}
果心「…………。
邪神は…邪神は…存在したーー!!」
ハサギ「はぁ!?」
果心は宇宙服を着たままガッツポーズをする。
果心「まさか、本当に邪神召還に成功出来たなんて!
信じられない!でも目の前にいるから信じちゃう!!
ああ、この一歩は小さいが、人類にとっては大きな一歩だわ!!」
クァチル・ウタウスの前で宇宙服を着た女性が狂喜乱舞する。
その光景は、シュール…。
果てしなく、シュール……。
アイ「……ああ、あいつ果心だ。
良くわかったよ……。」
サイモン「邪神が凍りついてますよ…。
恐らく、あんな対応する人今までいなかったんじゃないんですか?」
パー「か、果心様アアアアア!
あなた様にまた会えるなど、このカルナマゴス・ノールド・パー、光栄の極みにございます!」
果心「パー!
あなたも良くやったわ!
これで私達の願いが叶う!」
果心はパーに向けて楽しそうに笑いかける。そして、まだ背後に存在しているクァチル・ウタウスに顔を…遮光ヘルメットを向ける。
クァチル・ウタウス{何だ、こいつは?
おいパー、こいつに黙らせるよう伝えとけ。}
果心「あら、その必要はないわ。{あなたの言葉、理解出来るもの。}」
クァチル・ウタウス{!?}
パー「果心様!?
その言葉、どこで!?」
パーもクァチル・ウタウスの顔のようなものが完全に果心に向けられる。
この言語はクァチル・ウタウスを呼び出した張本人、カルナマゴスしか知らない言葉の筈だ。
そしてパーは果心にもこの言葉の事は話していない。
だが、彼女はいとも簡単にその言葉を使った。
果心{ふふ、私だって勉強したのよ。
カルナマゴス張本人からご教授頂けたわ。}
パー「え、儂……?」
果心「違うわ、預言者カルナマゴス張本人よ。」
パー「!?」
果心「まあ、今はそんなのどうでもいいじゃない。
{それより、私はクァチル・ウタウス様に話しがあるのよ。}」
クァチル・ウタウス{…何だ?}
遮光ヘルメットの奥で果心がフッと笑い、パーは眉をひそめる。
パー(ダメだ、能力で果心様の未来を見たくても、宇宙服で素顔を隠されては未来は見えない。)
パーの能力は『素顔を見た人間の未来が分かる能力』。
ヘルメット越しに見る彼女の笑みに何の考えがあるのか…パーには全く理解出来ない。
パー(何だ…?
果心様は、何をお考えに…?)
果心{クァチル・ウタウス様はそこにいる宇宙服を潰そうと考えておられるのですね?}
クァチル・ウタウス{当たり前だ。私を殺そうとしたのだからな。}
パー{そうですか、殺そうとしたから殺す…と。
ずいぶん心の小さい存在ですね}
クァチル・ウタウス{!?}
ぐるん、とクァチル・ウタウスの硬直した体が果心がの方に向けられる。
だが、果心は笑みを絶やさず言葉を止めない。
果心{仮にも邪神であるあなたが、ただの人間ごときに遅れをとるなんて、実に情けない。
私達は五十年かけてあなたを呼び出す努力をしたのに、
この程度の存在ではその努力、無駄になってしまいますわぁ}
クァチル・ウタウス{…随分語るじゃないか、小娘が。
それだけ言えるならば、当然覚悟もあるよな?}
その一言を聞いたクァチル・ウタウスの周りの塵がどんどん動き出す。
邪神は、一人の人間を殺すつもりなのだ。
パーは顔を青くした。
パー{お、お待ち下さいクァチル・ウタウス様!!
果心様、今の失言を取り消して下さい!
でないと死んでしまいます!!}
果心「死ぬ?私が?
何をほざく、K・K・パー」
果心はフッと笑う。
言葉は人の言葉に変わっていて、こちらの言葉は邪神には届かない。
果心「私は不老不死。
もうほとんどあいつと同じ存在なのよ。
むしろ、時の流れで私が死ねるかどうか試して見たいわ。
……それに、私としてはこの流れの方が理想的なのよ。」
パー「り、理想的ですと…?
果心様、あなたは一体何を企んでいるのですか?」
アハハハハハハハハ!
遮光ヘルメットの中で、果心林檎は笑う。
表情は見えずとも、自信に満ちた笑い声はよく聞こえる。
果心「企み?
そんなの、数百年前から変わってはいないわ。
世界を私の手で支配するのよ」