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角が有る者達  作者: C・トベルト
太陽の命と月の命。
43/303

第44話 月パート 彼の罪の名前は怠惰。

 二階・図書室


埃だらけで本が一冊もない本棚がズラリと並ぶ部屋の、中心に、人が4人入れる程の大きな穴が開いている。

 今、この部屋は血染め桜の加護により全体が白い輝きで包まれた彼らの光だけが、この埃だらけの世界に光を与えていた。


サイモン「一階に繋がる穴が出来ました!」

現古「遂に開いたな、校長室に通じる穴が。

 …聞きたい話が一杯あるギョ」

ハサギ「俺もだ。このふざけた世界を作り出し、なおかつ危険な怪物を召還しようとしている奴に、これ以上好きにはさせないぜ。」

アイ「…………」

ハサギ「アイ?どーした?」


ハサギが見ると、アイはじっと穴の奥を見つめていた。

暗い暗い暗闇の底に、何か希望があるのではと祈るように、じっと見つめていた。


アイ「あ、ああ…大丈夫だ」

ハサギ「そーか?」

現古(全く、あの馬鹿は…)

「サイモン、ちょっと待つギョ。

 儂は奴と話をしてくるウオ」

サイモン「え、ええ…」

現古「アイ!

 ち二人で話したい事があるギョ!

 こっち来いウオ!」


現古はアイを、部屋の隅に呼ぶ。

ここなら、ハサギに声が聞こえる事はない。

ハサギから充分距離を取ったのを確認した現古は、アイに話しかけた。


アイ「な、なんだ、現古?」

現古「悪いが時間がないから直球で聞くギョ。

アイ、お主迷ってるな?

 それもルトーの事で…ウオ。」

アイ「…この際、隠しても仕方ねえか…」


アイは、ちらりと穴の奥をみる。


アイ「ルトーは、今は果心側の人間だ。

 いつ俺達の前に現れ、敵として戦ってもおかしくない。

 …そして、俺はそうなった時、あいつを殴り飛ばす以外の方法を知らない…」


アイは銀色の腕を見た。日本刀を素手で握り潰せるこの腕で殴れば、間違いなく致命傷を与えてしまうだろう。


アイ「情けないな。

 鬼になると決めて「小鬼達ゴブリンズ」を立ち上げたのに、こんな時に鬼になれないなんてよ…」

現古「………。」

アイ「だが、大丈夫だ。

 自分の部下の不始末くらい、自分で付けられる。あいつを止めるくらい、アイスボムで簡単に…」

現古「…それは、やめた方がいい」

アイ「ッ!」


現古と呼ばれた半魚人は、大きな目でアイを見つめる。アイは少し怯んだ。


現古「子どもという生物は、自分の未来を選ぶ力を持っているギョ。

仮にお主がアイスボムでその場を凌いだ所で、奴はやっぱり果心についていくウオ」


アイは思わず現古を見つめる。だが現古は穴を見つめた。


現古「お主が計画を止めるためにルトーを止めても、果心についていく事は止められないギョ。

 そして、この問題は、ルトー自身が決めねばならぬ。決めなければ、

 奴は永遠に誰かの人形ウオ」

アイ「ルトーが、何をするか決めてから行動しろ…って事か?

 生徒を導く教師の癖にそんな事言っていいのか?」


アイは嫌みを込めて現古に尋ねる。

現古は、魚の顔をニタリとゆがませた。


現古「中学生は子どもと大人の境目で、

 初めて自分の目と耳で自分の大切な物を決める大切な時間だギョ。

 儂等大人は、良くも悪くもそのサポートしか出来ないウオ。

 一番大切な物は、ルトー自身に選ばせるしかないんだギョ」

アイ「………。

 だったら、あんたならどうすんだ?

 もし、あいつが、俺達の前に敵として現れたら!あいつを殴らず止める方法があるとでもいうのか?」



真剣なアイの問いに、現古はククッと笑った。


現古「儂か?

 儂なら、叱る。

 そして聞く耳もとうがもたなかろうが連れて帰る」

アイ「…おい、さっきのセリフと矛盾してねーか?」

現古「してない」


現古はキッパリ言った。


現古「なぜなら、儂は教師だギョ。

 奴が何を決めるかその前に、奴の安心を守る義務があるからだウオ。

 お主みたいな鬼の真似事している奴らとは違うんだギョ」

アイ「…鬼の真似事とは、言ってくれるな…。

 ま、あながち間違って無いがな」


アイはフッと笑った。

そしてすぐに真剣な表情を作り、


アイ「…『もしも』の時は、頼んだぞ、先生。」

現古「ああ。」


ハサギ「おーい、話しは済んだかー?

 済んだらさっさと行くぞー」


ハサギが二人を呼ぶ。

二人は、それに同時に叫んだ。


アイ&現古「「おお!!」」








一階、校長室


ドスン、ドスン、ドスン、ドスンと四人が室内に侵入し、辺りを見渡す。

……しかし、そこには何も無かった。

ただ、埃と塵だけが積もり、まるで雪のようになっている。


ハサギ「…あれ?

 校長は何処だ?」

サイモン「おかしいですね、ここに居る筈何ですが…」


その時、床がピシリと鳴ったと思いきや床全体がガラガラと崩れ落ちた。


アイ「!?」ハサギ「げ!」サイモン「罠!?」

現古「お、落ちるギョーー!!」


ワアアアアアアアアァァァァァ!!!!


全員が校長室の下にある部屋に向かって、落ちていった。



ズシイイィィィン!!!



サイモン「うわ!」ハサギ「いたあ!」現古「ぎゅむ!」アイ「あぶな!」


アイを覗く三人は、落下の際の衝撃で言葉が潰れていった。

アイはその三人に気を止める事なく、辺りを見回す。

 この部屋も周囲が埃だらけになっていたが、他の部屋と雰囲気が違うのが分かる。

 ーーーーーなにかが潜んでいるのだ。


アイ「…!」


アイは本能的に危険を感じ、身を屈める。

顔の前に埃が舞い上がるが、アイは完全に息を止めていた。


アイ(いる!何か、馬鹿でかい何かがいる!)

ハサギ「あ、アイ…」


アイが声につられて振り返ると、同じように身を屈めて前進するハサギの姿があった。


ハサギ「なんか、いるな」

アイ「ああ…。

 何だ、何がいるんだ、一体……ん?」


アイがちら、と下を見ると、床に文字が書いてあった。

アイはその文字を読みあげる。







アイ「きみには、

   ちからがある。

   がんばりがある。

   いのちがある。

   しあわせを、

   ねがえる……?

 なんだ、こりゃ?」


アイは下にある文字を読み上げ、首を傾げる。

その横で同じように文字を読み上げたハサギが呟いた。


ハサギ「恐ろしいな、これは…」

アイ「え?」

ハサギ「この文章、頭の文字だけ読むと、

 『きちがいしね』になるじゃないか。」

アイ「あ……!」


アイは再度、確認する。



『バレタ』『バレタ』『バレタ』『バレタ』『バレタ』『バレタ』『バレタ』『バレタ』『バレタ』『バレタ』『バレタ』『バレタ』『バレタ』『バレタ』『バレタ』『バレタ』『バレタ』


アイ「!!??」


アイは思わず立ち上がり、文字から離れる。しかし、『バレタ』と言う文字はいつの間にか部屋中の床や壁一面を覆い尽くしていく。



床に、天井に、更には空気中の埃までもが、

全て『バレタ』と言う文字に変化していく。


アイ「な」ハサギ「気持ち悪い…!」

サイモン「なんですか、この文字は!?」

現古「………!!

 そこにいるのは、誰ギョ!!」


現古が暗い部屋の中を指さす。

皆もそれに釣られて顔を向けると、そこには少年が立っていた。

 歳は14〜16くらいで、瑞々しい白い肌に茶髪の、どこにでもいそうな少年、だ。


「ようこそ!

 我が学園!我が世界へ!」


アイ「な、なんだ、こいつは…?」

「おいおい、君達は僕の事を忘れたのか?

 僕を捕まえるために果心様と戦ったというのにさあ!

 アハハハハハハハハ!」


少年はゲラゲラと楽しそうに笑う。

その明るい表情に、四人は一瞬震える。

 それをみた少年は更に笑みを深める。


「ああ、それじゃあ誰だか分からない人いっぱいいるよね。

 じゃーちゃんと自己紹介しないと…。

 僕の名前はパー。

 カルマナゴス・ノールド・パーだよ。」

現古「何!?

 パー!!」


現古が急に叫び、皆が振り返る。

パーは機嫌悪そうに現古を睨み付けた。


パー「もー!

 人が折角考えたセリフ吐いてるのに、邪魔しないでよー!」

アイ「知ってるのか半魚人?」

現古「知ってるも何も…。

 カルマナゴス・ノールド・パーは校長先生、 K・K・パーの本名じゃぞ!?」

アイ「!」ハサギ「!?」

サイモン「ぅえ!?」


その言葉に三人が我が耳を疑う。

今の今まで追いかけていた『K・K・パー』は、齢七十を越えた老人なのだから、二十にも満たない少年がそれの訳がない。

ハサギとサイモンは、首を横にふった。


ハサギ「ば、馬鹿な…」

サイモン「…まさか、この少年が学校の校長、なわけないですよ、ね…?」


ここ最近、死人が復活したり火の鳥が出たりしたから驚きには慣れていた筈であった。

ただ一人、アイだけは平常心を取り戻していた。

50年以上生きて、全く老いを見せなかった人間を一人知っているからだ。


アイ「いや…。

 果心林檎、あいつも不老の力を持っていた…。

 もしあの女の仲間なら、自分と同じ力を持っていても何もおかしくはない」

ハサギ「なんだと…」


「果心様だ」


不意に、アイ達の会話を遮る。

四人が振り向くと、パーがギロリとアイを睨みつけていた。


パー「果心様、と呼べ。

 貴様等。彼女を侮辱する事は許さない!」


『ユルサナイ』『ユルサナイ』『ユルサナイ』『ユルサナイ』『ユルサナイ』『ユルサナイ』『ユルサナイ』『ユルサナイ』『ユルサナイ』『ユルサナイ』『ユルサナイ』『ユルサナイ』


壁や床にある文字が全て、『ユルサナイ』という文字に代わっていく。

 これには流石の四人も驚きを隠せない。


アイ「な……!?」

ハサギ「塵の文字が変わっていく…!」

パー「あ゛〜〜、もう!!

 果心様を呼び捨てにするなんて、なんて最低な連中なんだ!!

 彼女は我らが月の宮殿チャンドラ・マハド計画の象徴だぞ!!」

現古「チャンドラ・マハド計画!?

 アイが持っている、四つの計画の事か!?」

ハサギ「ん? 何だそれは?」


ハサギは首を傾げる。

パーはニヤリと笑った。


パー「貴様は知らないでここまで来たのか?

 まあいい、教えてやろう。

 『月の宮殿チャンドラ・マハド』計画。

『罪を希望に変える』という言葉の元生まれた、我らの崇高な計画さ。」

ハサギ「罪を希望に……?」


ハサギが眉をひそめる。


パー「ああ。

 我々は五十年の歳月をかけて、罪を希望に変える計画を作り上げ、研究を進めた。

 『強欲』という罪を実現するために 「他者の力を自分の力に変える研究を。

『色欲』を実現させるために 「世界中の人間が何も考えずに幸せにする研究」を。

『憤怒』を実現するために「世界中の人間が同じ事を考える」研究 を。

『傲慢』を実現するために「人間と 同一の能力を持つ新たな存在を生み出 す」研究を。

 そして私は『怠惰』の欲を実現するため に 「人間を不死に変える研究」をな。」

ハサギ「な、なんだ…?

 急に話しが難しくなってきたぞ…?」

サイモン「……つまり、あなたは果心林檎以外にも、仲間がいるという事ですね?

 そして、何故そんな事をしたいか不明だが、大きな計画を企てている…」


サイモンの問いに、少年はニィィィ、と笑みを浮かべる。


パー「そう、そうさ、そうなんだよ!

 儂には、果心様の目的を達成するために誓った仲間がいる!!

 儂は奴らと共に果心様の願いを叶えるためだけにこの学校を作り上げ、校長として生活しながら研究を続けていたんだ!

 アハハハハハハハハ!

 素晴らしいだろう!?」

現古「ふざけるなっ!!!」


パーの言葉と愉悦を、半魚人となった現古が切り裂いた。

現古は一歩、パーに近付く。


現古「パー校長!」

パー「!」

現古「お主は儂と共に長い間教師として、生徒達を見守ってきたギョ。

 親にもいえない苦しみを抱える子の苦しみを少しでも理解し、軽くしようと努力したり、訴えを聞いたりしたウオ!

 『生徒にたくさんの世界を見せてあげたい』と儂等教師に教えていたのは誰だギョ!?

 『生徒のつらさも喜びも理解したい』と誰よりも教育に力を入れていたのは誰だ!!?

 それを、あなたは否定していい訳がない!!

 あなたが築き上げた人生を、なんであなたが否定するんだ!!」

アイ(現古先生…。

 段々、語尾が消えていってる…)


アイは現古の姿を見る。

緑色の鱗に覆われた気持ち悪いその姿が、少しずつ人間の姿に戻ってきているのだ。


アイ(戻ってきている…?

 半魚人化が、止まっているのか?)


しかし、主張するのに必死な現古は気付かない。

ただただ、教師として長年共に生徒達と戦ってきた友を取り戻そうと訴えていた。


現古「お主は、果心に騙されておるのじゃ!

 本来のお主は、もっと子ども思いの優しい教師だったじゃろうが!!

 誰よりも生徒と共に生きる事を望んだ、教師だったじゃろうが!

 もう、こんなばかげた事はやめてくれ……!

 儂等との絆を、断ち切らないでくれ…!」


怒り、悲しみ、羨望、希望、絶望…。

 それらの感情と、長い間の記憶が彼の口から懇願となってパーにぶつかっていく。

 現古は届いてくれ、とじっとパーを見つめ続ける。

そしてそれを聞いたパーは、静かに現古に向かって歩いていった。


パー「現古…。

 現古、文々ぶんぶんさい

 …そうだな、そうだ。

 お前の言うとおりだよ」

現古「パー校長…!」


現古は笑みを浮かべる。

パーもまた、先程とは違う、純粋な笑みを浮かべた。


パー「儂は誰よりも生徒を愛し、生徒の将来を心配しながら、何度も卒業式で涙を流し続けた…。あのときはとてもすばらしく、生徒達の拍手が心地良かったよ」

現古「そう、です…!

 まだ間に合います、今すぐこの計画をやめて」


どごぉ!!


現古の腹を、パーは勢い良く殴り飛ばした。

完全に不意打ちの衝撃に、現古は体をくの字に曲げて倒れる。


現古「ぐはあっ!!」

パー「その結果、どーなった!?

 奴ら、ただの一人でも我々に感謝の言葉をくれたかよ!

 我々と一緒に

 みんな……みんな、消えていった!

 有るものは家庭を持ち、

 有るものは仕事を極め、

 有るものは不幸の苦しみを味わった!!」


ドガ!ドガ!ドガ!ドガ!


倒れた現古の背中に、パーは何度も何度も殴った。

現古は起きあがる事もできず、ただただ頭を抑えている。


パー「だが…だが!!

 誰一人、儂に縋ろうとはしない!儂に頼ろうとはしない!

 当然だ!

 もう彼らは、我々の生徒ではないからな!

 もう彼らは、一人で生きていける立派な社会人なのだからな!!

 そして儂は、校長だ…。

 現古、貴様のように現場で生徒と会話していない教師だ!

 お主のように生徒とあまり話せぬ儂に、憧れも親しみも込める生徒はおらん!

 皆、皆儂から離れていく!

 お主に教育や勉強を教える場を作り、守ってきたのはこの儂なんだぞ!

 なのに何故儂に何も来ない!?」

現古「ぐうぅぅ!

 や、やめろパー校長!」

パー「儂は知りたかった!

 卒業し、立派に生きた彼らがどんな生活をしているのか!どんな人生を過ごしているのか!

 だが!奴等は!

 誰一人として儂に話しかけようとはしない!!」


そして、パーの首根っこをグイ、と引っ張る。


パー「現古、貴様はいいよなあ。

 現役教師として生徒の前に顔を出して!

 たとえ十字勲章をもらえずとも、生徒達から沢山の笑顔を頂けるのだからな!」


そして現古の顔面を思い切り殴り飛ばした。


現古「………!」

パー「儂は逆だ!

 様々な勲章を頂いても、生徒達から感謝の言葉、たったの一つもない!

 儂はこんなに生徒達を愛しているのに!

 奴等は儂を裏切り続けたのだ!!」


ブォン!!


少年とは思えない握力でパーは現古をつかみ、アイ達の元へ投げ飛ばす。


アイ「半魚人!」ハサギ「先生!」サイモン「大丈夫ですか、現古先生!」


アイ達三人は急いで現古の様子を確認する。

辺り一面に青あざが出来ていて、酷い怪我をしていた。


現古「パー……お主………!」

パー「面倒くさいわ!

 こんな生活!!

 精一杯頑張っても頑張っても、誰からも愛されない生活なんか、大嫌いだ!!

 歴代校長としての名も、学校を守り続けた事による名誉も、全ては時と共に塵となって消えていく!!

 ………儂は、こんな物のために、働いてきたんじゃない。

 ただ、子どもの笑顔が…子ども達からの信頼が…欲しかっただけなんだ……」


パーはぼろぼろと涙を流していた。

涙を流しながら、後ろに振り返る。

後ろには、深い深い闇が広がっていた。そこに何があるのか、アイ達は知らない。


パー「だから儂は、不老不死の研究を始めたのさ。

 生徒を汚れた社会になど出させやしない。

 儂の生徒は、永遠に儂の生徒で有り続けるために!

 儂の寵愛を受けて、永遠に学校の中で生き続けさせて貰うために!!

 だから!!儂は呼ぶのだ!!

 我が先祖が呼び寄せる事に成功した、時を操る神の名を!!!」


パーはもう、泣いてなんかいなかった。

狂気に満たされた笑みを浮かべ、ゲラゲラと楽しそうに、狂おしそうに笑った。

ハサギはハッと何かに気づき、三人に話しかける。


ハサギ「まずい!!

 みんな、耳を塞げ!!」

パー「 "exklopios Quachil Uttaus"」


パーがその言葉を呟いた瞬間、部屋中の雰囲気が変わっていく。

 ただでさえ埃だらけの部屋が、更に老朽化していくのだ。

 四人は耳を塞ぎながら、辺りの急激な変化に困惑していた。


アイ「な、なんだこれは?」

ハサギ「俺も知りたいよ!!」







縷々家学校 二階 図書室


宇宙服を着た果心とルトーは埃だらけの図書室に降り立っていた。

 本棚に本は一冊も置いておらず、代わりに埃が異常に積もっている。

 部屋の中央には穴が開いており、人の姿は何処にもない。

 


ルトー「こー!(ここにも穴が…!)」

果心「しゅー(奴等、パーを止めたのかしら、それとも…)」


二人が急いで穴に向かおうとした瞬間、ビシビシと何か嫌な音が聞こえる。

 ルトーが振り返ると、そこには本棚が異常な速度で劣化し、錆だらけになり、崩れ落ちていくという異常な現象であった。


ルトー「こーー!!!(ヒイイイ!!

 何これ!?何これ!?一体何が起きてるの!?)」

果心「しゅ!(これは…時の加速!!

 パー…やったのね!

 やって…しまったのね…)」


宇宙服の遮光ヘルメットの中で、果心は嬉しそうに、そしてほんの僅かに寂しそうに呟く。

しかしその顔は、遮光ヘルメットにより他の誰にも見えない。

 部屋の外では、部屋が急速に歳をとっていく。

そして、二人が入ろうとした穴に、灰色の光の柱が突き刺さった。









地下一階 


アイ「なんだ…この灰色の柱は!?」

ハサギ「くそ、何が起きるっていうんだよ…!」


アイとハサギはふらふらになりながら立ち上がる。

 そして、上にある穴から灰色の光が降り注ぐのが見えた。


アイ「なんだ…これ?」

ハサギ「灰色の光?」


アイとハサギは灰色の光から離れた。

サイモンと現古も、灰色の柱を見ながらアイ達にちかづく。


現古「な、なんじゃ…これは…?」

サイモン「分からない…。

 でも、おぞましい何かが来る…それはわかります。

 皆さん、用心して下さい」

パー「フフフフ…。

 我が神よ!!

 儂の元へ!」



パーの言葉に呼応するように、灰色の光の柱から何かゆっくりと舞い降りてきた。

様々な願いと野心を叶えるために、邪悪な神が今地上に降り立つ。

 その名はクァチル・ウタウス。

またの名を「灰燼かいじんを踏み歩く者」!

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