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角が有る者達  作者: C・トベルト
太陽の命と月の命。
42/303

第43話 太陽パート 血染め桜のカゴメカゴメ

老人「まだ…気づか…ないか…?

 ワシは…ハサギ…じゃよ…」

アイ「は…………?」


縷々家学校 2F 図書室


埃だらけで本が一冊もない図書室の、

入り口の近くにある受付に背を向けて倒れていたのは、ヨボヨボの老人であった。

その老人から放たれた一言。

それに一番反応していたのは、アイだった。


アイ「馬鹿に、バカにするな!

 貴様がハサギの訳ないだろう!!」


アイは老人の肩を掴み、強く揺さぶる。

 それを見たサイモンは急いでアイを止めた。


サイモン「アイ!そんな強く揺すっては…」

アイ「ふざけるな!

 ハサギはもっと若いだろ!貴様みたいな皺だらけの老人がハサギの訳…」

老人「ははは…あの女に…ここに…閉じ込め…られてな…………。

 そしたら……急に……年をとって………。

 そうだ………

これを…」


サイモンのセリフをアイは切り裂き、アイのセリフを老人は切り裂く。

 そして老人がアイに見せたのは、アイの全ての感情を止めた。

 老人の皺だらけの手に収まっていたのは、小さな袋だった。透明な素材で、中身がハッキリと見える。

 その中身は、一輪の花だった。

しかしそれはサイモンから見た限り、その花は見た事がない花だ。

 桜の花のようだが、花びらがとても赤いのだ。

まるで血の池に漬けたかのように真っ赤な桜。

サイモンは眉をひそめ、一瞬我が目を疑った。


サイモン「…!?

 な、なんだこの花は…?」

老人「ふふふ…。

 聞いて、驚け……。

 『血染め桜』の、一輪の花だよ……」

サイモン「『血染め桜』…?」

アイ「それを持っている、て事は…。

 おまえ、本当に……」


アイは老人の顔をじっと見つめ続けていた。

老人はまたニタリと笑みを零す。


老人「ああ……。アイ。また、おまえに会えて良かったぁ。

 おまえを…捕まえ…られず…人生を終えたら…どうしようか…考えていた……」

アイ「ハサギ!

 貴様、なんでこんな姿になっちまったんだ!

 何があった!誰にやられたんだ!?」


アイは先程より強く老人の肩を揺する。

もう力だけで肩の骨が折れそうだ。

しかし、老人は笑みを崩さず言葉を続ける。


ハサギ「ああ………。アイ……。

 また、おまえを捕まえて……ユウキの前に差し出して………。

 俺と…アイと……ユウキの三人で……一緒に…………バカ騒ぎを…………」

アイ「ハサギ!!

 し、死ぬんじゃない……!

 俺を見ろ!俺だ!ユウキだよ!!

 死ぬな!ハサギ、死ぬんじゃない!!」


アイは老人を…ハサギの体を、ぎゅうと抱きしめる。


アイ「おまえは俺を捕まえるんだろ?

 俺を捕まえるまで、お前は死なないんだろ!

起きろ!」

ハサギ「ふ、ふふふ…やっと……貴様を…捕まえた………。

 た……い……ほ………………………」



その時、アイは気付く。

皺だらけのハサギの目の光が、少しずつ輝きを失っていくのだ。


アイ「あ……ぁ………!」


アイの目が見開き、ハサギの瞼が閉じていく。


アイ「死ぬな…。

 ハサギ、ハサギ、死ぬなぁ!!」


アイは更にハサギの体を強く抱き締めた

しかし。ハサギの体は全く動かない。

サイモンと現古はアイに背を向けて、一度部屋をでようとする。


アイ「畜生、畜生!

 ハサギ、死ぬんじゃない!

 頼むから生きて…生き返ってくれ!!」


アイが大声で叫んだ瞬間、

………声が聞こえた。




 た  す  け  て  あ  げ  る  




アイ「え?」


ハサギの手に握られていた赤い桜が、風もないのに散っていく。

 その花びらは赤く発光し、ハサギの体と、アイの体、そして図書室全体を赤い光で覆い尽くした。


全員「!!!!????」


そして、赤い光は図書室の窓から外に漏れ出す。

校庭でウロウロと歩いていた半魚人は皆、そちらに目を向けた。


半魚人「?」半魚人「?」


図書室の中で、サイモンは叫ぶ。


サイモン「何です!?

 この赤い光は!一体何が…!」

現古「グウ!

 目が痛い!開けられない!」


窓から漏れた赤い光は真っ直ぐ校庭の上空を突き抜ける。そして、果心が作り上げた暗闇の結界に穴を開けた。

 そして、それは3階にいる果心の目にも止まる。


果心「なに!?」

ルトー「赤い…光の…柱…?」


赤い光はそのまま赤い柱となって一直線に有るところへ向かう。

 そしてその光を、学校に向けて空を飛んでいたシティ、ケシゴ、ペンシは目撃した。


シティ「!?」ペンシ「なんだ!?」

ケシゴ「これは…一体…?」


赤い光は一直線に飛び続け…ゴブリンズのアジトに向かっていった。

 そして赤い光は、ゴブリンズのアジトの壁に穴を開けて侵入する。



ドッカアアアアアアアン!!!!



そして赤い柱が向かったのは、中庭。

 中庭には枯れ果てた桜が一本植わっていた。

その桜に、赤い柱は直撃した!!


パアアアアアア!


赤い光は桜を覆う。

すると、枯れ果てた筈の桜の枝から、蕾が一つ、二つ、八つと現れ、瞬く間に成長する。成長した蕾は花開き、

あっと言う間に枯れ果てた木は赤い赤い桜の花で覆い尽くされていった。


しかし、この幻想的な変化はまだ止まらない。

桜の花が風もないのにざわざわとざわめき、花びらがザーーーッと散っていく。

 散った花びらは桜の木の上に集まり、花びらの集合体となる。

 赤い花びらの集合体は一瞬で燃え上がり、全身を炎で燃やした鳥に姿を変えた!


ケエエェェェン!!


鳥は一鳴きした後、二度三度羽ばたき、中庭の上空を舞う。

 そして、先程開いた穴を通ってアジトの外へでていき、先程の赤い光より速く学校へ向かって飛んでいく。


ビュウウウウウウゥゥゥゥゥン!!!


『それ』は、シティ、ペンシ、ケシゴのすぐ横を通り過ぎていく。


シティ「なにあれ!?」

ペンシ「またきた!!」

ケシゴ「巨大な…鳥!?」


ゴオオオォォォオオオ!!!


そして、『それ』は、真っ直ぐ学校の結界に向かい突進していく。


ズウドオオオオオン!!!


結界は、まるで当然のように破壊されていく。

そして一直線に学校の二階部分に…図書室に向かって飛んでいく。


そして、図書室の窓を全て粉砕してアイの前に姿を見せた!


アイ「な…!?」

現古「鳳凰ほうおう!?」


『それ』は、アイの腕に抱き締められた老人を見つけると、それめがけて一気に飛び込む。更にアイは思わずハサギを手放してしまう。


そして、それはハサギの体を覆い尽くした。


アイ「うおおお!?

 なんじゃこりゃああ!?」

サイモン「ひ、火の鳥がハサギを飲み込んじゃった!!」


火の鳥はハサギを取り込むと、メラメラと燃える体を更に燃やしていく。すると火の鳥の背中から、グズグズと黒い煙が立ち上り、窓の外へと逃げていく。

 やがて煙が全て火から逃げると、火の鳥は一際激しく輝き…自らを燃え上がらせて消滅した。

サイモンがポツリと呟く。


サイモン「……………なん、なんだ、

 今のは?」

アイ「………。

 ハサギ!!」


しばらくポカンとしていたアイだったが、ハッとしてハサギの姿を探す。幸いにもハサギはすぐそこにうつぶせになって倒れていた。

アイは急いでハサギに駆け寄ろうとする。


アイ「ハサギ!

 生き返っ………!」

ハサギ「逮捕じゃーー!!」


ハサギはアイめがけて頭突きを喰らわせた!!

ガツンという、良い音が図書室に響く。


アイ「あだーーーー!!」

ハサギ「ふはははははは!

 警察署1頭の堅い俺の頭突きは痛いだろ!?

 さあ観念しろアイ!今すぐ貴様を牢獄に送ってやる!!」

アイ「さ………ざけんなテメー!!

 逆に俺が貴様を病院送りにしてやるー!」

ハサギ「やるか!?

 ここ最近、出番がなかったんでなぁ、たまったうっぷんを晴らしたくて仕方なかったんだ!

 ギッタンギタンにしてやる!」

アイ「やってみろよオラァ!!」


あっと言う間に始まる、大喧嘩。

それを教師二人は、止めもせずに呆然と見ていた。


サイモン「まさか、信じられない…」

現古「年老いて死ぬ筈の者が、生き返り、若さを取り戻すなんて…

 一体何があったというんだギョ?

 サッパリ分からないウオ…」 


サイモンと現古はあまりに理解出来ない状況にただただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

対して問題のハサギは全く元気に、アイと喧嘩していたが。


ハサギ「くたばりゃあああああ!!!」

アイ「でやあああああああ!!!」


アイとハサギ、両者は部屋の端から勢いよく走り全く同じタイミングでドロップキックを喰らわせようとする。

 しかしその瞬間、両者の体が白く発光した。


アイ「え!?」ハサギ「な!?」


その不可思議な現象に驚いた二人は足を僅かにずらしてしまい、ただ空中で交差するだけに終わる。そして見事に両者壁に激突する。


アイ「ぐぺら!?」

ハサギ「いた…くない…。

 なんだ?どうしてだ?

 ……この光のせいか?」


壁に激突したのに痛くない。

その事に首を傾げる二人に、サイモンと現古が呆れながら近付く。


サイモン「何をやってるんですか本当に…。

 あれ、二人の体が発光してますよ。」

現古「本当だギョ。

 …って、ワシらの体まで光っているウオ!

 どうなってんだギョ?

 これが噂のえるいーでぃー…」

サイモン「絶対違います」


しかし、二人のからだも白い光に包まれている事に気付く。それを見たアイはこう言った。


アイ「…この光、俺は見覚えがあるぞ。

 それに、さっきのハサギが蘇った事も合わせると……くそ、まさか果心の言うとおり、俺にはアイツの加護があるのか?」


果心(…受け入れたのね、アイ。

 そうなのね?あなたは受け入れてしまったのね?あの呪われた忌々しい怪物を…。

 『血染め桜』の加護を!あなたは受け入れてしまったの!?)


唐突に思い出される、果心の言葉。

アイだれにも気付かれないようギリッと歯噛みした。


アイ(俺だって、あんな化け物桜の加護なんて受け入れたくない!)

 「だが…今は、今だけは感謝してやる…。 ハサギを助けてくれて、ありがとうな…」

ハサギ「?

 どうした、ア…ぐは!」

アイ「サイモン、速く下へ行く穴を!」

サイモン「任せて下さい!

 一撃で床に穴開けてやりますよ!」

サイモン「お主ここの教師だって事、忘れてないかギョ?

 ま、いいウオ。

 血染め桜の加護のお陰で埃臭くないし、光ってるから暗闇でもみえやすいし……。

 血染め桜さまさまだギョ!」

アイ「………」

ハサギ「アイ、今は…」アイ「分かってる」


アイはチラッと左腕を見た。そこにはいつも通り、銀色の義腕が存在している。


アイ「『今は』、果心の考えをぶち壊す時だ。

 …それくらい、分かってるさ…」



ハサギに聞かせるというより、自分に言い聞かせるように、アイは呟いた。









果心「しゅ〜〜〜!

 しゅ〜〜〜!!(な、なんて事…。

 私の可愛い結界に、穴が開いてしまったわ!)」

ルトー「こ〜〜〜!?(な…なな、なんなの?

 いまのは!?)」


果心もルトーも、食い入るように窓を見つめていた。窓の外では結界に穴が開き、そこから夕日が見える。


ルトー(夕日?

 そういえば、今は何時なんだろう?

 まだ7時になる前ならいいんだけど…)

果心「しゅ〜〜〜!(このままでは、7時に月を龍に変化させて学校を襲う実験が…不老不死の実験が、意味を為さなくなるわ!)」


ルトーは、その言葉にゾッとした。

そうだ、

果心はこの学校を龍で襲う事で、実験対象となった生徒が不死になったかどうか実験するつもりなのだ。


果心「しゅ〜〜〜。(速く直さないと大変な事になるわ。

 崑崙コンロン!!)」


ブン、と音を建てて二つの80センチもある二つの岩が果心の後ろに姿を現す。


ルトー「こ!?(うわ!?)」

崑崙「招…来…」

ルトー(岩が喋った!?)


驚き困惑するルトーを余所に、宇宙服を着た果心は命令を下す。


果心「しゅ〜〜〜!!

 しゅ〜〜〜!!(私の代わりにあの結界を直して来なさい!

 そして、また結界に向かう者がいれば容赦なく潰しなさい!!)

 しゅ!!(いけ!!)」

崑崙「オーン!!」


そして現れたと同様に、岩は忽然と姿を消した。

ルトーが部屋の中をキョロキョロと見回しても、どこにも姿はない。


ルトー(ど…どこいった…!?)

果心「しゅ〜(あっちよ)」

ルトー「こ〜?(え?)」


ルトーが窓の方に振り返ると、結界の穴が開いた部分の所に先程の岩が浮いていた。


果心「しゅ〜。(これで結界の修理は大丈夫ね。私の計画は滞りなく進めるわ)」

ルトー「…」

果心「しゅ〜。(さて、先へ進みますか)」


結界の外から、部屋の中央にある穴の中へ目を向けた。













バキャアアアア!!!


2階の床に穴が開き、四人はそこから校長室に入ろうとする。

 しかし、ハサギはそれを止めた。入る前に一度見せたい物があるといったのだ。

 

ハサギ「…みんな、これを見てくれ」


ハサギはポケットに入れてある手帳を取り出し、それをゆっくりと埃だらけの床に置いた。

 突然の行動に呆然とする全員。

 現古は尋ねる。


現古「ハサギ、何を…?」

ハサギ「し!

 黙って見てな!」


ハサギはじっと手帳を見つめ続けている。

みんなもそれに習って手帳を見て…ハッとした。

先程まではゴク普通だった手帳が、今は何十年も経ったかのようにボロボロになっていくのだ。


アイ「な」サイモン「え」現古「へ?」

ハサギ「やはり、な。

 この部屋と、その周辺は時間が異常に進んでいるんだ。俺達は『血染め桜の加護』があるから、大丈夫みたいだがそうでないのはあっと言う間に老化して死ぬだろうな」


ハサギが話している間にも手帳はボロボロになり、やがて風化して埃と同化してしまった。


サイモン「………!」

ハサギ「ハッキリ言うぜ。

 引き返すなら、今だぞ?」


一度老化して死にかけた者からの、最終警告。

それを聞いた三人はフッと笑う。


アイ「………。

 悪いが、俺は引き返さないぜ。

 あの女の考え、何がなんでもぶっ潰してやりたいからな」

サイモン「私も、同じです。

 二度も仲間を失う痛みを味わいたくない…」

現古「ワシもじゃ。

 ワシの半生をかけて築いた学校を、こんなばかげた事で潰されたくないからの」


そしてアイが一歩前にでる。


アイ「ハサギ、お前こそ引き返せ。

 また死んだらたまったもんじゃ…」

ハサギ「俺も、その気はないぜ。

 目の前に困っている人がいて、それを見て笑っている人がいて、黙っているなんて…お巡りさんがしていい事じゃない」


ハサギもまた、一歩前に出る。

そして、アイを睨み付けた。


ハサギ「何より…貴様を捕まえずに帰るなんて俺が許さない」


ハサギの力ある瞳は、真っ直ぐアイを見つめる。

老人になっても衰えなかったその力。

それを見たアイはフッと笑った。


アイ「それでこそ、俺(犯罪者)の敵だよ。 ハサギ」

ハサギ「…ふん」


そして、四人は穴の中へ飛び込んだ。

暗い暗い、闇の中へ…。








一階、校長室…の下にある、隠し部屋。


パー「おおお、おおおお!

 遂に来た!果心様!あなたのK・K・パーはやりましたぞ!!

 遂に、遂に、遂に…儀式は完成した!!」




クァチル・ウタウスの、降臨だ!

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