第42話 月パート カルマナゴスとかクァチル・ウタウスの正確なスペルはCから始まるので要領、用法を守って正しくお使いください(間違えるとちょっと年取ります)
だから、私はあなたを憎み、殺すのよ。
メルは震えていた。
震えながら、どうすればこの状況を打開するか考えた。
考える。考える。考える。
しかし、答えはまだ出ない。
どうすれば自分は生き残れるのか?
どうすればススの怒りを消せるのか?
どうすればあの夢の続きを見る事は出来るのか?
それは、どんなに考えても分からなかった。
その数時間後。
縷々家学校、3F放送室内。
ルトーは一人、悩んでいた。
ルトー(分からない…分からないよ…)
ゴブリンズであるアイを裏切り、敵である筈の果心林檎に寝返り、これから自分はどうなるのか…ルトーは何度考えても分からなかった。
そして、それ以上に奇妙な現象がルトーの体を覆っていた。
ルトー(分からない…。
なんで僕は宇宙服を着ているんだ!?)
「しゅ~~~、こ~~~」
ルトーはいつの間にか宇宙服を着ていたのだ。
しかも、宇宙服の全身に難しい文字がびっしりと書かれている。
もし何も知らない人がいれば、確実に不審者扱いされて警察に捕まるだろう。
ルトー(まさか、ダンクのミイラ姿を越える不審者がいたなんて…。)
果心「しゅ~~~~~~~~~。(ルトー、何一人でブツブツ呟いているの?)」
ルトーのすぐ横で果心が尋ねる。
しかし、彼女も宇宙服を着ているために顔が遮光ヘルメットで覆われていて何も見えない。
しかし声は通信機を通して聞こえるために、しゅーこーで会話が成立する。
ルトー「こ~~~~~~~~(果心…様。
1つ聞いていいですか?)」
果心「しゅ~~~(何?)」
ルトー「こ~~~~~~~~(我々はいつの間にこげな服に着替えたのですか?)」
果心「しゅ~~~~~~~~~~~(ああ。それは私の魔法の早着替え術があれば一瞬で出来るわ)」
ルトー「こ~~~~~~~~~~~(魔法使い…つくづくズルいと思う)」
果心「しゅ?(?)」
ルトーは溜息をつきながら、ちらっと放送室の床の中央に目を向ける。
そこにはぽっかりと開いた、大きな穴があった。
ルトー(アイ…。
K・K・パーには会えたのだろうか?)
ルトーは穴を見ながら、先程のアイの言葉を思い出す。
果心(馬鹿ね。
不老不死にどうやってなるか、あなたが知っている訳無いじゃない。あなたの考えは向こう見ずの愚か者がする事よ)
アイ(馬鹿め。
俺には貴様がくれた資料がある。そこにちゃんと書いてあるぜ。『不老不死の研究者、K・K・パー』の名前が!)
現古(K・K・パー!?
それは、この学校の校長の名前じゃないか!
校長がこんな恐ろしい事を考えたのか!?
まさか…)
果心(…まさか、校長を襲って不老不死の方法を知る気なの!?)
アイは右足に思い切り力を入れて地面を踏み込んだ。ドンと大きな音が鳴り、砂埃が舞う。
アイ(当・然・だ!)
ルトー(あの時は、とてもアイがカッコ良く見えた。僕も、アイがいて良かったと、心の底から思えた。でも…。
でも、果心の考えを僕は知ってしまった)
果心(私はもう、不老不死だからよ)
果心(覚えなさい、少年よ。
『人に殺意を向けられる』とは、こういう事よ。
助けにも救いにもなりはしない。
ただ痛みが感染していくだけの、猛毒よ。
もし私が不老不死でなければ、即死するほどの猛毒…。
それを、決して忘れてはいけない)
果心(私はね。
不死不死になってから数百年もの長い間、ずっと一人で生きてきた。
私が信じた者、そして私を信じた者が百年以内に次々と倒れるのを何度も何度も体験したわ)
果心(ええ、長いわよ。永遠は。
あなたは枯れた川を見た事があるかしら?
その川の上を、どこまでもどこまでも歩き続けた事はあるかしら?
たった一滴の水のために、いつか海が見えると信じてたった一人で歩いて歩いて…。
その結果みつけたのが、枯れ果てた湖だった時の絶望感をあなたは知っているかしら?
誰もその苦しみを理解出来ない事が、どれだけ苦痛なのか、あなたは分かるかしら?)
果心(希望!希望の世界!!
私が…私が数百年求め続けて、未だ手に入らない大きな希望が、私の手に入るのよ!
そのためなら、私は学校を怪物の世界に変えたって構わない!
まだ十数年しか生きてない人間を怪物に変えたって構わない!
私と同じように希望を欲し続ける人間に嫌われ憎まれたって私は戦い続ける!
私には、それしか永遠の絶望を埋める方法はないのだから!)
ルトー(…こんな話を聞いた後じゃ、どうしても果心を敵だと思えず…僕はアイを、ゴブリンズを裏切ってしまったんだ)
後悔先に立たず…という言葉があるが、今のルトーには後悔する先すらない。
ルトー(僕はこのまま果心の側についてしまうのかな?ゴブリンズには戻れないのかな? …一体、僕の『先』はどこにあるんだろう?)
彼の頭にあるのは、不安だった。
未来が分からないという不安。しかしその不安も宇宙服のヘルメット越しでは伝わらない。
果心「しゅ~~~(それでは、下に行く際の注意する事を伝えるわよ。)」
ルトー「こ~~~(…うん。確か、クワチル・クワガタとか何とかがいるんだっけ?)」
果心「しゅ~~~(クァチル・ウタウス。またの名を『塵埃を踏み歩く者』。
まあ名前が長いから、クアちゃんでいいわ)」
ルトー「こ~~~(クアちゃん…。)」
果心「しゅ~~~(クアちゃんは時空を操る神様よ。クアちゃんがいるだけで周囲の時間は急速に進み、並の人間ならばあっと言う間に老化して死んでしまう。
…だからこの魔法装備を施した宇宙服を着ているのよ。)」
ルトー「こ~~~。こ!?こ~~~!(そうなのか…。
あれ?それじゃあアイは今ごろおじいちゃんに!?)」
果心「しゅ~~~。(…それはないわ。
忌々しいけど、間違いなくそれはない。)」
ルトー「?」
果心「しゅ~~~。(それより問題なのは、KKパー。
あいつ、私への忠誠心が高すぎるから、侵入者に対して何するかわかったもんじゃないわ)」
果心はちらっと窓を見た。
窓の外では果心の作り出した偽物の月が半月まで輝いている。
果心(あいつの儀式、もう準備はできているはずなのよね…。
これでまだ出来てないっていったら、私の計画は完全に潰れてしまうわ)
学校室内 2F 図書室
アイ「う~ん、なんだ?この部屋は?」
サイモン「すごい埃だらけの部屋ですね…」
現古「……ここは、図書室ギョ…。
なのに、何で本が一冊もないんだウオ…?」
アイ、サイモン、現古の三人が辺りを見渡したその部屋は、埃が異常に充満していた。
本棚の有るところには埃が有るだけで何もなく、壁も床もかなり老朽化している。
また明かりも付いてないので部屋の中は、穴のある部分以外とても暗い。
アイは深く考えずに部屋の窓を開けて換気しようとする。
アイ「窓開けるぜ。こんな環境じゃ肺が埃だらけになっちまう」
サイモン「それより、早く下に行く穴を開けてKKパー校長の所に行きましょうよ」
そういうサイモンは既に右手を膨張し続けている。一撃殴っただけで床に穴が開くだろう。
アイ「それもそうか」
アイは急いでサイモンの所へ向かおうと向かう。
しかし、そのアイの耳に、酷く乾いた低い声が聞こえる。
「ま………て………」
アイ「?」
アイはその声に振り返るが、暗くて見えない。
機械の右腕のボタンを押すと、右手の掌から明かりが付いた。
アイの右腕には明かりが付く仕掛けになっているのだ。その明かりで改めて声のした方に振り返る。
明かりに映し出されたのは酷く嗄れた老人だった。腕はとても細く骨が皮をかぶっただけにも見える。
アイ「誰だ!?」サイモン「!?」現古「?」
アイの言葉に他の二人も振り返る。
老人はしわだらけの顔を少しだけ歪ませた。
もしかしたら、笑っているのかもしれない。
老人「ぎ…ん…の…う…で…。
おぬ…しは…アイ…じゃな…ゲホッゴホッガホッ!」
アイ「お、おいじーさん大丈夫か!?」
老人「ふ…ふふ…。
おぬ…しは…老…体…に…や、さ、しい…な…
じゃが…しん…ぱい…むよ…う…」
老人は服のポケットから、何かを取り出す。
それは、手錠だった。これまた酷く錆びていて、使えそうにはなかったが。
老人「これ…で、き、きさ…まを…つか、まえる…までは……死ねんよ……」
アイ「じーさん…?
あんた、一体…?」
違和感を感じたアイは首を傾げる。
老人はニタリ、と…先程より力強く笑った。
そして、自らの正体を明かした。
老人「まだ…気づか…ないか…?
ワシは…ハサギ…じゃよ…」