第41話 太陽パート 赦されない叫びを上げて彼女は怒り、赦されない正義を掲げて彼は命を燃やす。
サイモン「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
身長60メートルもある巨体のサイモンが、全長200メートル、直径40メートルはある円筒形の空中戦艦『モーセのステッキ』号を巨体で受け止め、両腕でがっしりと掴む。
円筒形の先は細い銀の円筒形の柱が出ている。
恐らくこれが彼等の兵器、『ステッキ』なのだろう。
だが、あまりの巨体に戦艦を支えられない。体が後ろに倒れそうになる。
サイモン(なんて、質量!なんて大きさだ!
能力者一の強さを持つ私でさえ、動かせないなんて!
だ、だが…)
サイモンはチラ、と後ろを見る。
そこには自分の部隊が乗った車4台が見えた。
もし、自分がその場にいなければもう潰されていた仲間だ
それを見たサイモンは足に力を入れ、倒れそうになる自分の体を支える。
サイモン(絶対死なせない!!
彼等を死なせるものか!俺は…誰よりも強い能力者なんだ!!)
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
サイモンは叫び、両腕に更に力を込める!!
空中戦艦・『モーセのステッキ号』
コントロール・ルーム内
その空中戦艦の中では、上下逆さまの状態になっていた。サイモンが強引に戦艦を掴んだせいで戦艦自身の水平装置が破壊されたためである。
ズパルとヘイグが両端の壁にもたれかかっていた。
二人の『天井』には、先程まで闘った跡が幾つか残っている。
入り口近くの大きな裂け目には、サイモンの姿が見える。
ヘイグ「ヒイイイ!!
あ、あんな巨大になれる能力者が、この世にいるのかよ!!」
ズパル「サイモン隊長……」
ズパルは亀裂の向こうにいるサイモンに話し掛ける。だがその声は小さすぎて、巨人に聞こえる訳がない。
ズパル「俺の力では、この戦艦を何とかする事が出来ませんでした。
…申し訳、ありません」
ズパルは巨人に向かって、頭を深く下げる。
それを見たヘイグは、笑った。
ヘイグ「あ…?、あひゃひゃひゃひゃひゃ!
何やってんだテメエ?
俺達は今、あいつに殺されそうなんだぞ?
何でそんな奴に頭を下げる?」
ヘイグはズパルに尋ねる。
ズパルは、フッと笑った。
ズパル「…。
お前には分からないだろうよ、ヘイグ。
仲間を簡単にゴミ扱い出来るお前には、一生分かるものか…」
ズパルは目線を変え、ヘイグの背中に取り憑いている首無し死体を見ながら答えた。
ヘイグは尚も笑い続ける。
ヘイグ「あひゃ、あひゃひゃひゃ!
じゃあ悩まなくてもいいな!一生分からない事なんて、理解する必要もない!」
そして、自分の近くにある赤いスイッチを押した。
ヘイグ「消ししちまえばいいんだ!!
目の前から消せば、何も悩む必要はない!」
ズパル「…?
ヘイグ、お前今、何を…?」
ビイーーーーッ!!!
ビイーーーーッ!!!
ズパルのセリフを、機械の音が止める。
機械『補助エンジン、発進シマス』
ズパル「え…?」
サイモン「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
サイモンは必死に空中戦艦をつかみ、動きを止めようとする。
その結果か、少しずつ戦艦の動きが遅くなる。
サイモン(よし、後少し…
後少しで、皆を助ける事が出来る…)
ガシャン!ガシャンガシャンガシャンガシャンガシャンガシャンガシャンガシャンガシャンガシャンガシャン!!!
突如、丸い戦艦の外部にエンジンの噴射口が現れる。その数は12。
サイモンは一瞬、眉を潜める。
サイモン「なに…?」
キュボ!!!
全てのエンジンが点火し、墜ちる戦艦にエネルギーが付加される。
そのエネルギーにより、戦艦は今ただの墜ちる鉄クズから、ミサイルへと昇華されたのだ。
サイモン「な!?」
ズドオオオオオオオオオオン!!!
ミサイルと化したエンジンがサイモンの胸部に直撃する。
エンジンの助力を得た空中戦艦は、真っ直ぐ突き進み、遂に先端に突いた『ステッキ』がサイモンの胸部を容赦なく抉る!
サイモン「!!
グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!???」
サイモンが着ている特殊な服が破け、皮膚が裂け肉が潰されていく。
それでも空中戦艦は止まらない。
ミサイル化した空中戦艦は、サイモンの体を突き抜けようと無慈悲に進んでいく!!
サイモン「ぐ………オオオオオ!!!!!」
(に、逃げ…)
空中戦艦から離れようとするサイモン。
しかし後ろにはまだ部隊の車がある。
サイモン(………逃げられない…。
このまま私が離れれば、部下が死ぬ!!)
ならば、どうするか?
サイモンは迷わない。自らの体にのめり込んでいく空中戦艦をしっかり抑えた。
自らの体を貫かないよう抑えるしか、
今のサイモンには選べなかった。
サイモン「…ぐ…!!」
ヘイグ「あひゃ!!
あひゃひゃひゃひゃひゃ!!!
やったぜ、ラッキイイイ!!」
コントロール・ルーム内では、ヘイグが高笑いしていた。
ズパル「サイモン隊長!!逃げて下さい!
このままでは死んでしまいます!!」
ズパルは切れ目から見えるサイモン隊長に呼び掛ける…が、当然聞こえる訳がない。
ヘイグ「見ろよあのバカ!
俺達を助けてくれている!!
あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
ヘイグはゲラゲラと狂ったように笑う。ズパルは切れ目の前で座っている。
ヘイグ「あのまま俺達を抑えてくれれば、サイモン隊長がクッションとなって俺達は助かる!」
ヘイグ「あひゃひゃひゃひゃひゃ!
死ぬ気でいたのに、助かるとは嬉しいねえ!」
ヘイグ「俺のように仲間をゴミ扱いすれば、奴はこんな目に会わずにすんだのに!!」
ヘイグ「馬鹿だ!馬鹿だ!貴様の隊長は大バカ者だ!!」
ヘイグ「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃあひゃひゃひゃひゃひゃ!」
狂ったようにヘイグは喋り続ける。
ズパルはじっと切れ目の向こうで苦しむ隊長を見ていた。
ズパル「確かに、バカだよ隊長は」
ヘイグ「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ………………………………………あ?」
ヘイグの笑いが止まる。
ズパルは切れ目の向こうを見つめたまま、立ち上がる。
ズパル「シンプル(マヌケな)サイモン。
誰より強いのを良いことに、誰より死地に向かって戦い続け、ズタズタになって帰ってくる。
シンプル(お馬鹿な)サイモン。
誰かが止めても聞く耳なし。
皆を助けるためと自ら銃口に向かってく。
シンプル(単純な)サイモン。
それでもそれでも、誰にも誉められず賞賛されず、たった一人痛みを抱えて生きていく」
ズパルはふらりと右足だけで立ち上がる。
ズパル「シンプル・サイモン…。
この俺を唯一助けてくれた、恩人」
ヘイグ「…。
へぇー、あそーかい」
ヘイグは手に持っている小さなコントローラーを取り出す。
そこには青いボタンが付いていた。
ヘイグ「大切な人を助けたいんだねぇ。
殊勝な事だ。
それなら、いい事教えてやる」
ヘイグはコントローラーを楽しそうに見せつける。
ヘイグ「これは緊急停止コントローラーだ。 こいつを押せばあのエンジンは止まる。
ま、当然…」
ヘイグは試験官を二本取り出し、投擲する構えを見せる。
ヘイグ「…俺から奪えられたら、の話しだけどな。
さあ、かかってこい!」
ヘイグはニヤリと笑った!
対してズパルは、深い溜め息をつく。
ズパル「…。
だるい」
ヘイグ「…。
は?」
ヘイグは投擲する構えのまま固まる。
ズパルは面倒臭そうに呟く。
ズパル「能力発動。
だらしない男」
自らの体をバラバラにする。
そしてフワリと浮き上がり、亀裂へと向かっていく。
ズパル「俺はテメエと戦うためにここまで来たんじゃないしー、
べっつにサイモン隊長助けるために来たんじゃないしー。
…だからこの戦いは放棄」
ヘイグ「な、何!?
コントローラーが欲しくないのか!?」
ズパル「…あー、ダルいダルいマジダルいわー」
ヘイグ「おい、せめて答えろよ!」
ズパルは何も言わずに、亀裂から外へ出て行った。
残ったのは、コントローラーと試験官を手に持った、ジョン・ヘイグだけ…。
ヘイグ「………………………………………………………
…………………………………………………。
………………………。
はあ!?
何だアイツ!!何考えてんだ!?
この流れで戦いを拒むか普通!!!???
あの××××××××(聞くに耐えない罵詈雑言)」
ズパル(くそ…!
何考えてんだあの馬鹿!さっさと逃げろよ!)
戦艦の外に出たズパルは壁沿いに向かって空を飛んでいく。
ズパル(いつもそうだ!
いつもあの馬鹿は自分の事を考えない!
いつだってそうだ!)
ズパルは自分のコートに着いている黄色いボタンをくるりと右に回す。
するとバラバラの体全てから、鋭いナイフが飛び出した!
ズパル(だから、俺が戦わなきゃ、あの馬鹿が死んでしまう!!)
ズパルはギロッと後ろを振り向くと、戦艦の先端が胸部に刺さり、呻くサイモン隊長の姿が見えた。
ズパル(あんたの事だよ!!サイモン隊長!!)
ズパルは再度前に睨み返す。
そこには巨大なエンジンが数機稼働し、炎を噴出し続けている。
ズパル(だから、だから俺が助けるんだ!
これほどダルくて馬鹿馬鹿しい事があるか!)
ズパルはそのエンジンに向けて、勢い良くナイフを突き立てた!
ザク ザク ザク ザク ザク ザク ザク
スス「……………………」
ススはふらつきながら、サイモン達に向かって歩いていた。
その表情は無機質で、目に光がない。
辺りは先程の戦闘により爆発の跡があちこちにあり、まるで月面を歩いているようだった。
爆発により地面が盛り返され、土はまるで雪のように柔らかく、歩く度にザクザクと聞こえる。
スス「……………」
ススがチラッと遠くを見る。
そこでは巨大化したサイモンと空中戦艦が衝突する姿が見えた。
そしてすぐに目線を下に下ろす。
スス(ああ、大丈夫かな?)
それが、ススの感想だった。
スミーが亡くなった今、ススにとって全てどうでもよくなっていた。ただただ、歩く事しか出来ない。
ススの心には絶望の一言しかなかった。
また、ザクザクと音立てながら歩き始める。
ザク ザク ザク ザク ザク カチン
スス(?)
何故か金属音が聞こえた。ススが拾い上げると、
それはナイフだった。軍用ナイフで、刃の部分は鞘が収まっている。
その鞘に文字が書かれていた。
内容は以下の通りである。
さあ諸君、楽しいサーカスの始まりだ!
楽しい奇跡の数々が今始まるぞ!
ネクストラウンドサーカスに大きな拍手を!
ーーーマダム・メラーリ
その文字を見たススの瞳に、光が宿る。
スス「これ、お母さんの文字だ…」
マダム・メラーリ。
ネクストラウンド・サーカスの花形芸人であり、団長ジャングランの妻であり、
スス、スミー、セキタの母である。
彼女達が能力に目覚める前、彼女達はサーカスで暮らしていた。ジャングランはジャグリングが上手で、マダム・メラーリはナイフ投げが得意だった。スミーも母がナイフを投げる姿に憧れて、ナイフ投げの練習をしていた。
ススも憧れていて、何度かスミーの練習に付き合っていたのを覚えている。
このナイフの鞘は、スミーがその時に母から貰った大切な鞘なのだ。
スス「…………………。」
しかし、もうスミーはいない。
仲間を守ろうと一人戦い、そのまま死んでしまったのだ。
スミーの中には「サーカスに戻りたい」という確かな信念があった筈なのに…。
スス「…………。
悔しい」
ポツリと言葉が出た。
その後それは確かな感情となって、ススの心を急速に支配していく。
スス(悔しい。悔しい!悔しい!!)
思わず鞘をぎゅう、と強く握り締める。
ススの中で様々な考えが浮かびあがり、それらは全て怒りを残して消えていく。
スス「何故スミーは死なねばならない?
何故セキタは苦しまないといけない?
何故皆は敵から逃げないといけない?
何故サイモン隊長は戦わねばいけない?
何故敵は皆を殺さないといけない?
何故、何故、何故!!!」
何もかも理解出来ない。何もかも理不尽。
理解出来ない歯痒さから、この世全てに対する怒りへと変化していく。
だからススの中からこみ上げてくる感情を、言葉に変えて吐き出すしかなかった。
スス「悔しい!悔しい悔しい悔しい!!
うわあああああああああ!!!!!」
そして、暴走…。
ススは遥か向こうにいるサイモンたちの方へ、足に力一杯込めて走り出した。
ヘイグ「畜生!畜生畜生!
あのバラバラ怪物め!地獄の火で燃えちまえ!」
ジョン・ヘイグはコントロール・ルームを離れ、誰もいない上下逆さまの廊下を走っていた。
ヘイグ(俺は…俺はあそこでなら、死んでも良かったんだ!
あのコントロール・ルームの中でなら! 空中戦艦の艦長、ジョン・ヘイグとしてなら! 奴らに殺されたって良かったんだ…)
ギリギリギリ…と歯を強く食い縛る。
ヘイグ(奴は…俺を見てなんかなかった!
ただ仲間を救いたかっただけだ…。
俺は、眼中になかった…)
「馬鹿な!!
俺は猛毒英雄ジョン・ヘイグだぞ!?
俺を知るものは全て震え、俺を見るものは全て跪いて媚びへつらう、このジョン・ヘイグを!
奴は無視して逃げるだと!?
ふざけやがって!」
ヘイグは歩きながら毒を吐き、壁を殴る。
まだ毒液の残っている手で触った壁は、ジュワアと音を立てて溶けていく。
ヘイグ「おかげで俺は死ねなくなった!
あの艦の中で、殺されすに生きた…!
畜生が!」
ヘイグはピタリと止まり、『立ち入り禁止』と書かれた扉の前に止まる。
その扉は上下逆さまになったせいで、開くことが出来ない。
ヘイグ「………フン!!」
ヘイグはその扉を触ると、扉がジュワアと溶けて、侵入者を中に入れてしまう。
ヘイグ「ああ、生きてやるさ…。
『艦長』と『英雄』の誇りを捨ててでも、生き延びてやる!!」
そして侵入者はある装置の前に立ち、強引に装置を作動させる。
ヘイグ「だが…捨てた誇りが叫んでいる!
『俺達の仇をとれ』と吠えている!
そうだ!
殺してやる…能力者を全員、ぶっ殺してやる!!
あひゃ、あひゃひゃ、あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」
暗い暗い部屋の中、不気味な装置の前でジョン・ヘイグは壊れた玩具のように高笑いし続けた。
ズパル「くそお!くそお!
エンジンめ……ぶっこわれやがれ!!」
ズパルはエンジンを破壊しようと必死にナイフで切り続ける。
だが、5メートルもあるエンジンを小さなナイフで幾ら切りつけても、傷一つ付かなかった。
ズパル「畜生!畜生!畜生!!
さっさと破壊しないと、サイモン隊長が死んでしまうというのに!!
さっさと砕けろクソエンジン!!」
ガキィン!ガキィン!とエンジンを切る音だけが虚しく響く。
ズパル「くそ…」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
突如、耳を塞ぎたくなるような怒声が響き渡る。
声の正体は巨大化したサイモンが叫んでいるのだが、サイズがデカすぎる。
ズパル「ぐあ…」
その声だけで意識が飛びそうになるのを無理矢理抑えて、ズパルはまたエンジンを切りつける。
ズパル(く、くそ…このままじゃダメだ…。
なんか、エンジンを少しでも止める方法があれば…)
ああああああああああ、
ズパル(?)
サイモンの野太い怒声が響き渡る中、小さな叫び声が聞こえる。
ズパルが声のした方に振り返ると、そこにはこちらに向かって高速で走ってくるススの姿が見えた。
ズパル(スス!!?)
ズパルは思わず、ナイフを二、三本落としてしまう。
スス「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
ススは叫びながらサイモン達の方へ走り出していた。
その時速は660キロ。
F1以上の速度だ。
ズパル(まさかあいつ、能力を発動しているのか!!?
あいつの能力は確か…)
ススの能力。
それは一時間に一度、弾丸より早く走る『超高速移動能力』。
彼女の異常強化された脚はコンクリートを破壊し、岩盤を砕き、真っ黒い焦げ後で出来た道を残す。
しかしススは、まだ本当に能力を発動していない。
スミーを失った悲しみと、何もできなかった自分と世界への悔しさと怒りを胸に秘め、ただ無意識に、ただ心のままに、ただ感情のままに、走り出しているだけなのだ。
スス「ああああああああああああああああああああ……………あ?」
そしてサイモンのアシの近くまできたススは始めて、意識を持って上を見る。
そこには、胸に銀の柱が刺さったサイモン隊長
の姿と、銀の柱で貫こうとする空中戦艦の姿が見えた。
瞬間、ススは悟った。
スス(サイモン隊長が危ない!!!
助けなきゃ!!!!)
「能力発動!!!
黒兎!!!」
その瞬間、ススは始めて意識的に自らの能力を発動させる。
彼女の脚に更に力が送り込まれ、膝を屈折させて更に力が圧縮される。
スス「うううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
そして、一気にそれを解放し、
ススはロケットエンジンより遥かに強力な力飛んだ。
ズドオオオオオン
反動で大地が凹み、クレーターが出来る。
ススは戦艦に向けて高速で飛んでいくが、すぐに体制を逆さに変えて脚を戦艦に向けて突き出した。
ズパル「え?」
スス「うううらあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
空中戦艦に今までで一番強力な衝撃が襲ったのは、この時だ。
戦艦の誰もいない部屋が幾つも潰され、廊下がぐしゃぐしゃになり、回線が何本も切断される。
その結果、
全ての補助エンジンが停止した。
ズパル(!!)
サイモン(!!
エンジンが止まった…今ならば!!)
「うううおおおおおおおおおおおお!!!!」
サイモンは力を込めて、胸に刺さった銀の柱を…空中戦艦を引き抜こうとする。
ズブ…ズブ…と、自分の胸から銀の柱が少しずつ引き抜かれ、血と肉が外に出て行く。
サイモン「ぐあああああ……こんな、杭に…殺されて……たまるか!
私は………皆を守るんだ!!
倒れるわけには…」
その頃、空中戦艦のコントロール・ルームでは機械アナウンスがこんな音声を出していた。
『エンジン、再起動準備完了。
エンジン、再起動準備完了。
エンジン、再起動、シマス。
10、9、8…』
12の補助エンジンの内部が熱を持ち始め、またサイモンの体を貫こうとする。
しかしそのエンジンの中一つ一つには、ズパルの肉片があった。
ズパル「ヒハハハハ!
銃口の中に石詰めて撃ったら、どうなるかなあ!?
答えは大爆発だ!!
ヒハハハハハハハハハ!!」
ズパルの頭が、エンジンの中で爆笑している。
その映像を見たメルは、思わずゾッと震えた。
メル「ズパル、やめて!!
そんな事したら、君は死んじゃうんだよ!?」
メルの頭の中に流れ込む映像に、誰もいないコントロール・ルームがある。
そこから機械のアナウンスが流れる。
『7、6、5、4、…』
その横で、エンジンの中で高笑いするズパルの姿が見える。
ズパル「ハハハハハ!!
吹き飛べクソエンジン!!!」
その映像を同時に見せつけられるメルは思わず呟いた。
メル「い………嫌だ………」
『3、2、1…』
ズパル「サイモン隊長!!!!
あなたに助けて頂いたこの命、今使う!! 」
メル「いやだあああああ!!
もう、誰かが死ぬのを見るのはアアア!!
死んじゃイヤアアアアアアアアア!!!」
メルが叫んだその直後、
空中戦艦『モーゼのステッキ号』の補助エンジンが全て大爆発を起こした。