第39話 太陽パート ヒーローを助けに来た者
ドガガガガガガガガガカガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!!
それはとても長く強力な爆発だった。
クラスター爆弾から放たれた202発の子爆弾が、全てたった一人の女性を狙ったのだ。
スミーの体は一瞬で消し飛び、二つの車輪が爆風に弾かれて空を飛ぶ。
そして、メルも二つの車輪の内一つにくっついて空を飛んでいく。
メルはボロボロと涙を流していた。
そして、爆炎の中に消えたスミーに向かって叫ぶ。
メル「スミイイ!!
スミイイイイ!!!
ぼ、僕は絶対、あなたのことを忘れません!
忘れませんからあああああ!!!」
悪夢の世界の住人の死。
メルはそんな小さな世界の存在を覚えたくて。
少しでも彼女の存在に近づきたくて。
爆炎に向けて手を伸ばす。
しかし彼はまた不思議な力に引っ張られ、車輪と共に何処かへ飛んでいく。
そして、一つの車輪がススが気絶している車のすぐそばに、大きな音を立てて落ちた。
ガラン!!ガランガラララララ!!
車輪は地面に落ちて大きくバウンドし、二度目の着地でバランスを崩して転倒。
まるで目覚まし時計のようにけたたましい音を立てる。
そして今回、それはまさに目覚まし時計の役目を果たした。
スス「……………う………ここは…?」
ススが目を覚ましたのだ。
まず目に映ったのはぐしゃぐしゃに潰れたボンネット…。
そして誰もいない車内だ。
スス「あれ?ここは…そうだ、私はスミーを止めようとして、それで車の後ろが爆発して…。
少しの間、気絶したんだわ。
そうだ、スミー!!
スミーはどこに!?」
ススはハッとして辺りを見渡す。
先程も述べたように、車の中に誰もいない。
ススは急いで外に出ようとしたが、扉が変形していた。仕方なく何度も何度も蹴り飛ばして、ようやく扉を壊して外に出たその時、
ススの目に有る物が目に映った。
スス「………!
これは、スミーの車椅子の車輪!」
それはスミーの車椅子に使われた車輪だった。
ススが知っているそれは、磨かれた銀色でとても綺麗だったが、
今目の前にあるそれは煤で真っ黒に染まり、ぐしゃぐしゃに変形していた。
もう二度と元に戻る事はないだろう。
スス「何でこれがここに……ま、まさか………」
そしてススは目を横に向ける。
ススのいる所から約一キロ地点に、二つの大きな存在を見つけた。
一つは黒煙を上げながら、ふらふらと落下していく空中戦艦。
そしてもう一つは、そのすぐそばで轟々と吹き上げる、大きな黒煙の柱。
そして、目の前にある車輪。
その答は、誰にだって分かる。
しかしそれをすぐに受け止められる者は、あまりいない。
ススもまた、受け止められない一人だ。
スス「……。
嘘よ」
ススの目から光が消えていく。
スス「嘘よ嘘よ嘘よ!!
そんな、そんなわけない…スミーが、スミーが…お姉ちゃんが…!」
その先を、ススは言えなかった。
言えばそれを認めてしまう事になる。
そんなわけない。そんな事、あるはずがない。
ススの知っているスミーは誰よりも強くてたよりになるお姉ちゃんなのだから。
しかし、目の前には黒焦げの車輪。
そして、遠くには吹き上げる巨大な煙。
スス「い、イヤ…スミー…
私を置いていかないで……
……イヤ……。
イヤアアァァァアアアアアア!!!!」
ガラン!!ガラララララララララ!!
サイモン「うわ!これは…何だ?」
ズパル「これは…車輪だ!」
メル「わああああ!!
車が!車がすぐ近くにあるうう!!」
クックロビン「…」
もう一つの車輪は、サイモンが乗っている車のすぐ近くに落ちた。
ススの時と同じように一度跳ねたが、今度は上手くバランスをとって、車と併走している。
そして車輪と車の間にメルは宙に浮いていた。
たとえ触る事が出来なくても、すぐ近くにマックススピードで走る車があれば誰でも怖い。
その車に乗っているサイモン、ズパル、エッグはメルが見えないが、一人走り続ける車輪は見える。三人は思わずその車輪を見つめた。
しかし、セキタはそれを見ずに俯いていた。
俯きながら、涙を流していた。
セキタ「……そうか……。
スミー、お前も……………」
ガラン、ガランガランガラン…
車輪は力尽きたように大地に倒れる。
そしてあっという間に地平線の果てに消えていった。
サイモンは思わずその様子を見てしまったが、チラッと上を見上げると恐ろしい物を目にしてしまう。
サイモン「な……なんだあれは!!?」
全員「!!??」
モーセのステッキ号内。?????
ヘイグ「あ、あひゃひゃ…あの化け物、やってくれたなあああ!!
モーセのステッキ号はこれでお終いだちくしょおおお!!」
ヘイグはふらふらになりながら機械盤を操作していた。
部屋の中は煙が充満し、あちこちで爆発音が聞こえる。それでもヘイグは操作盤のレバーを離そうとはしなかった。
ヘイグ「だが、まだだあああ!!
貴様等も道連れにしてやるううう!!一緒にいこうぜえええ!!!」
艦内で生きている兵士は皆非難区に逃げ込んでいる。このコックピットに乗り込んでいるのはただの死体か、狂人しかいない。
そして今、この戦艦を動かしているのは狂人なのだ。
ヘイグ「あひゃひゃひゃひゃひゃ!!!
壊して壊して壊してやる!!
ぜ〜んぶ、吹き飛んじまえ!!!
あひゃひゃひゃひゃひゃ、あひゃひゃひゃひゃひゃあひゃあひゃあひゃひゃひゃひゃああ!!!」
そして、その狂人は車を狙っている。
一人の女性が命懸けで守った車4台を、纏めて潰そうと墜ちる艦をうごかしている!!
そして車の中では大騒ぎになっていた。
クックロビン「まずい。かなりまずい。」
ズパル「くそ!
スミーがあんなに頑張ったのに、これじゃ…!」
エッグ1「どうするんだよ!」
エッグ2「このままじゃ、皆は全滅だ!!」
エッグ「「なんとかしないと!!」」
ズパル「どうすんだ!?
俺達にスミーみたいな力はない!
俺は体がバラバラになるだけだしお前は分身が出来るだけだろ!!
あんな馬鹿でかいブツ、とめられねぇよ!!」
エッグ1「そ、それは…」
エッグ2「そうだけど、何とかするしか無いだろ!バズーカか何かで軌道を逸らして」
ズパル「出来るかアホォ!
あの戦艦、山のような大きさだぞ!!」
車内はエッグとズパルがずっと騒ぎ逢っていた。
その中で、サイモン隊長とセキタが黙っている。先に口を開いたのは………。
セキタだった。
セキタ「…。
隊長。俺が」サイモン「私が行きましょう。」
しかしセキタの言葉をサイモンが切り裂いた。
セキタが眉をひそめ、全員が驚愕する。
サイモン「私の能力ならば、あの兵器を食い止める事が出来ます。
クックロビン、あなたが運転を変わりなさい」
クックロビン「…了解」
助手席にいるクックロビンがこくり、と頷く。
しかし後部座席三人は納得しない。
ズパル「サイモン隊長!?
何を馬鹿な事をいってるんですか!?」
エッグ1「そうだそうだ!
隊長が出たら誰が部隊を指揮するんだよ!」
ズパル「今ここであなたが出ても、あんな馬鹿でかい戦艦止められるわけないじゃないですか! そんなのただの犬死にですよ!」
エッグ2「そうだそうだ!
犬死にしたって意味ないぞ!」
エッグ「「あなたのその考えは、馬鹿げてる!!」」
しかし。サイモンは首を横に振った。
サイモン「いいえ。
私は大丈夫ですよ。何故なら私は『最強の能力者』と呼ばれた存在ですからね」
ぴくり、とセキタが反応した。サイモンは尚も続ける。
サイモン「私は強いんですよ。
この中で、いや能力者内で私は誰よりも強い最強の能力者。それがあんなボロ船に負けるわけないじゃないですか」
セキタ「…ボロ船だと?」
セキタは思わず尋ねる。セキタとサイモンの瞳が一瞬交差する。
そしてサイモンはフッと笑い、
サイモン「スミーの戦いを見て確信しました。
あんな弱い戦艦なら、私一人で簡単に叩き潰せます。だから誰も心配する必要ありま」
せん。
そう言いきる前にセキタはサイモンに掴みかかろうとする。
もしズパルがいなければ、たとえ事故を起こす結果になったとしてもサイモンを殴っただろう。
しかし今はズパルがいたので、エッグが震え上がるだけの事件ですんだ。
セキタ「離せズパル!!
こいつはスミーを侮辱したんだ!
ぶん殴らせろ!!」
ズパル「やめろセキタ!やめるんだ!」
エッグ1「あ、あわわわわ…」
エッグ2「み、皆落ち着いて…」
サイモン「いえ、落ち着く必要はありません。
あなた方は私に構わず、急いで逃げて下さい。戦いの邪魔ですから」
ぼご!
ズパルの頬をセキタが殴り飛ばす。
ズパル「ぐ…」
セキタ「アア!?
何言ってんだテメエ!
ヒーローになったつもりか!?」
サイモン「…………」
セキタ「テメエ…何が確信した、だ!
何が『最強の能力者』だ!!
スミーが必死に戦っていた時、尻尾まいて逃げる事しか出来なかったくせによぉ!!」
サイモン「……それはあなたも同じじゃないですか。あなたも、私と同じ車に乗って逃げるだけで、彼女を助けようとはしなかったじゃないですか。私もあなたも同罪なんですよ」
セキタ「な…!ぐ…!」
サイモンは前の道を見たまま誰も言えなかった事を喋る。
セキタは反論しようとして…口が動かなくなってしまった。
セキタ「…それは…」
サイモン「あなたが私を叱る権利はありません
あなたはただ、生きる事だけを考えればそれで良いのです」
サイモンはそっとブレーキペダルを踏み、車を静かに止める。
そしてバン、とドアを開けた。
サイモン「では頼みましたよ!
しっかり生き延びなさい!」
そして。
サイモンは車から飛び出した。
セキタ「あ…!」
ズパル「隊長!!」
サイモン「能力、発動!!
超膨張!!!」
ボコ、ボコボコボコォ!!!
サイモンの体が突然、巨大化していく。
服もまた同じサイズで巨大化していき、サイモンはどんどん大きくなっていく。
セキタ「え、ええ?
なんだ、あの能力は…?」
ズパル「セキタアア、テメエエエ!!」
驚愕するセキタを、
ズパルは思いっきり殴り飛ばした。
ピーーーッ!!!ピーーーッ!!!
機械「前方、巨大物体発生!!
衝突、シマス!!」
ヘイグ「ん!?
やっぱり出て来たな能力者!!
天才が作り上げた『ステッキ』の力、見せてやるよ!!」
そう言うと、ヘイグは赤いスイッチを押す。
機械「ステッキ、準備開始…。
発射まで、1分前…」
サイモン「うお、うおおおおおお!!!!」
サイモンの体がどんどん大きくなっていく。
サイモンの能力、それは『巨大化』。
身体の一部、または身体全体を巨大化させたり縮小する事が出来るのだ。
服もまたサイモンの能力に合わせた特別製らしく、全く破れる事なくサイモン同様に巨大化していく。
そしてサイモンは巨大化していく中でギロリと空中戦艦を睨み付けた。
そしてサイモンは初めて、その空中戦艦の姿をはっきりと見ることが出来た。
メルは頭をフラフラさせながら、車の上のボンネットの上に立っていた。
下ではセキタとズパルが喧嘩をしている。
メル「う、うう…酷い目にあった。
車輪に取り憑いたと思ったら、走る車に取り憑いて引きずられて…
それにしても、セキタとズパルは何をしてるんだろう?
車の中で殴り合って…え!?
殴り合ってる!?」
メルは急いで窓ガラスから車内に乗り込む。
ダイナミックな搭乗方法だが、彼の姿は誰にも見えず誰も触れない。
そしてメルは天井でフワフワと浮いていたので、誰も気にはしなかった。
おかげでセキタとズパルの殴り合いは止まらず、クックロビンは何も言わずに運転を代わり、サイモンの代わりに車を走らせている。
ズパル「セキタアア!貴様、よくも殴り飛ばしたなああ!!」
セキタ「く、ズパルさん!
何すんだいきなり!!」
ズパル「貴様が、貴様がサイモン隊長をせめんじゃねえええ!!
能力発動!
『だらしない男』!!」
ズパルの右手と左手が、手首の部分からブツンと切れた。
セキタ「!?」
しかし右手と左手は地面に落ちず、フワフワと宙に浮いていた。
そして2つの浮いた拳がセキタの頬、顎、体をボコボコに殴り始める。
セキタ「ぐわああああ!!!」
ズパル「痛いか!?痛いよなあ!!
全身ボコボコに殴られて、痛がらねえ奴は一人しか知らねえ!」
セキタ「ズパルさん…やめ…」
ズパル「隊長はな!
いつもそうやって殴られ続けていたんだ!
敵からも、味方からもなあああ!!」
セキタ「!…?」
不意に、ズパルの拳が収まる。 セキタがズパルを見ると、ズパルはギリ、と歯を食いしばりながらセキタを睨みつけていた。
ズパル「サイモン隊長はな!
『最強の能力者』なんて言われてるけど現実にやらされてる事は後ろの奴らの為の『弾避け』なんだぞ!」
『弾避け』。
実力の無い兵士、やる気の無い兵士、死んでも損害の少ない兵士をワザと前線に出させて、敵兵からの攻撃のバリケード代わりとして使わされる。
昔の戦争では、現地の民間人や子どもに銃を持たせて弾避けにし、敵の士気を下げさせた事もあるという。
セキタ「え…?
あの、『最強の能力者』と呼ばれた、シンプル・サイモン隊長が…弾避け?」
ズパル「馬鹿か!?
シンプル・サイモンのシンプルは『強力な』サイモンじゃなく、『単純な』サイモンって意味なんだよ!
確かにあの人の力は強いよ!
だが軍にとって、その力は『誰かを潰す力』ではなく、『誰かを守る力』として使った!
相手が強力な兵器や天才で戦闘を行う時、サイモン隊長は誰よりも先んじて戦っていき、いつも誰よりもズタズタになって帰ってくる!
医療班や仲間がいくらやめろといっても隊長は『私は誰より強いのだから、闘わなくては皆が死んでしまうのだ。』と笑って戦地に戻っていくんだ!」
私は強い。私は強い。強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い!!!
強いから闘わなくてはならない。
強いから守らなくてはならない。
強いから傷つかなくてはならない!!
ズパル「そうやってズタズタな体で隊長は毎日生きてたんだ!
今回、スミーが皆を守るって言った時、隊長がどんな気持ちで皆を逃がしたか分かるか!?
誰よりも先にスミーに加勢したかったのに、サイモン隊長は尻尾巻いて逃げたんだ!
どんなに辛かったか…お前にはわからないよなあ!!」
ズパルはセキタを睨み付ける。
セキタ「だ…だったら、何であの時行かなかったんだ!?
行けばあの時、スミーは助かったかもしれないじゃないか!!
そんな過去があるなら、なおさら…」
ズパル「スミーがこう言ったからに決まってるだろ!?
『大好きだ、お兄ちゃん』て!!
サイモン隊長は、あの時自分が加勢するよりも、テメェを守るために逃げたんだ!!
それなのに、それなのにテメェはよぉ!!」
『離せズパル!!
こいつはスミーを侮辱したんだ!
ぶん殴らせろ!!』
『 アア!?
何言ってんだテメエ!
ヒーローになったつもりか!?』
『テメエ…何が確信した、だ
何が『最強の能力者』だ!!
スミーが必死に戦っていた時、尻尾まいて逃げる事しか出来なかったくせによぉ! 』
ズパル「よくも、よくもよくもよくも!!!
そんなセリフが吐けたなテメェエエ!!!」
ドゴォ!!!
ズパルの放った一撃は、呆然としたセキタの顔を思い切り殴り飛ばした。
セキタ「ぐぁ!!」
セキタは思わず吹き飛ばされ、扉の窓に頭をぶつける。
そして頭を上げようと顔を上げると、右頬の腫れ上がった自分の姿が見えた。
セキタ「お…俺の…俺のせいで、サイモン隊長が……?」
ズパル「ちぃ、湿気た顔をしやがって!!
だらしない奴め!!
………………俺はちがうぞ」
ズパルはガラガラと車の窓を開ける。
エッグ1「ず、ズパル…何を?」
エッグ2「あ、危ないよ…」
ズパル「テメェラはだまってろ!!
俺はサイモン隊長を援護する!
能力発動!!!
だらしない男!!!」
ズパルが叫ぶと、体に変化が起きる。
彼の体に幾つものの切れ目が現れ、分裂していく。
腕、体、足、胸、腹、腰、足首、 顔…。20のパーツに千切れたそれは、フワリと浮かび上がった。
エッグ1「う、うわあ…」
エッグ2「いつ見ても不気味だね、その力…」
エッグ二人組のセリフに、顔だけがくるりと振り返り、ズパルが喋る。
ズパル「け、俺から見れば同じ顔の偽物と一緒にいるお前の方が不気味なんだよ。
さて、行くか。」
ズパルの能力は『分裂』。
自らの体を分裂させる事が出来る上に分裂した体は空を飛ぶ事が出来るのだ。
ズパルは早速分裂すると、チラっとセキタの方に目を向ける。
セキタは何かを言おうとしているが、口がもごもごと動くだけで何も言おうとはしなかった。
ズパルは何かを言おうと口を開こうとして…すぐにその口を真一文字に結ぶ。
そして、何も言わずに窓から車の外に飛び出す。
行き先は勿論、サイモン隊長の所だ。
ズパル「絶対にあなたは死なせませんよ、サイモン隊長…!」
スス「え?あれ、もしかしてサイモン隊長…?」
ススは遠くで煙を噴き出し続けながら空を飛ぶ空中戦艦を見つめ続けていたが、やがて不思議な物を見つける。
何かがむくむくと大きくなっているのだ。
ススは急いで車の中から双眼鏡を取り出して再度覗いた。そして見えたのは、少しずつ大きくなり続けているサイモン隊長だ。
スス「え?サイモン隊長?
何であんな所で巨大化しているの?」
ススは双眼鏡を覗いて何度も確認するが、巨人はやはりサイモン隊長だった。
スス「あそこで何かが起きている…?
皆、逃げ切れなかったの?セキタは、ズパルは、ほかの皆は……?」
ススは確かめようと思った。
戦争が続いているのなら、助けにいかないといけないと思った。
自分が助けないと、皆死んでしまうのだ。
だから、自分が動かないといけないんだ。
自分の力が、皆は必要としているんだ!!
スス「行かないと…!
あそこに助けにいかないと!」
ススは何度も心でそう言い聞かせる。
何度も口に出して力をだそうと振り絞る。
しかし。そこまで。
スス「………………あ
れ……………………………?」
体が、ピクリとも動かないのだ。
まるで石化しているように体は動いてくれない。
スス「なんで、動かないの……?
助けないと、いけないのよ…。
だから、動いて、私の足!動いて、私の体!!」
体が…何度頭が動けと命令しても、体が動こうとしてはくれないのだ。
足がまるで凍り付いたように動かない。
腕がまるで縛られたように働かない。
拳を開くと、汗だらけになっている。
スス「動いて!!動いてよぉ!!
何で、何で私は動けないの!?」
ススは自分自身に何度も何度も命令する。
しかし、体は自分の命令に背き動こうとしない。そして、幾ら目をサイモン隊長に向けようとしても、目はまたグシャグシャに潰れた車輪に向かっていく。
ススの金縛りの正体は、恐怖だった。
スミーの死を受け入れきれなかった事から生まれた、自身を縛り付ける死への恐怖が、彼女の体を動かせなかった。
グシャグシャの車輪が目に止まる。
自分もグシャグシャなって死んでしまうのではないか?
自分も爆炎に呑まれて体を一瞬でとかされてしまうのではないか?
あそこにある車輪は、自分の姉がそうなった確たる証拠ではないか。
ここで動いて、自分に誰かを助けられるのか。
自分に何かが出来るのだろうか。
ろくに武器も使えない自分は、足手まといじゃないのか?
自分に一体、何が出来るというのだ!?
スス(あ…あ…違う…。
私は…いか 、ないと…皆の元に…戻らないといけない…いけないのに…そんなの…考えてたら…ダメ…)
今現在、ススの体を支配していたのは、驚愕と恐怖であった。
驚愕とは、冷静にこの状況で自分が出来る事、出来ない事がわかる、自分自身への驚愕。
そして恐怖とは、それを考えさせるこの世界への恐怖…。
仲間を助けたいという思いも、それを実行に移せる勇気も、彼女の中には無かった。
スス(違う…考えちゃダメ…いけない…私は…行かないと…だから、動いてよ)
体は動かない。ススの弱々しい思考を嘲笑うように、体は動いてくれないのだ。
こうしてススは、自分自身に囚われて身動き一つ出来なくなっていた。
サイモン「な…あれが、この空中戦艦の正体ですか!!」
サイモンは驚愕していた。
戦艦下部に取り付けられた人工的な雲を発生する装置…。
それが故障した今、姿を隠す雲は取り払われ空中戦艦はその姿を晒しだしていた。
その空中戦艦は、SF漫画で見る船のような形をしてはいない。サイモンが見たそれはまるで、長い筒のような物だった。
筒の外側には大量の機械やエンジン装置が露呈されており、一見すると街のようにも見える。
しかし家の変わりにあるのは無機質な機械と高射砲、そして筒をぐるりと囲むように設置されたエンジン装置だ。
筒と表現した以上、底部には丸い大きな穴がある。穴の中は薄暗く、何が入っているのかわからない。
それを見たサイモンは、ワナワナと拳を震わせる。
サイモン「…これが、奴の空中戦艦ですか。
随分お粗末な作りなんですね
それでいて腹立たしい。」
(こんな機械に私の部下は殺されたのか?
こんな機械にスミーは殺されたのか?
こんな怪物に、私達は怯えていたのか!?)
許せない。許される筈がない。
人を殺して動き続ける機械なんて、存在さえ許されない!!
サイモン「それならば…私はもっともっと巨大化しないといけません。
そしてこのふざけた機械を塵芥に帰してやりま…おや、何かが飛んできましたね。」
ズパル「……ーーい、
おーい、サイモン隊長〜〜!!」
サイモン「え、ズパル!?」
サイモンが不意に後ろを見ると、そこにはバラバラになったズパルがこちらに向かって来るのが見えた。ズパルの声は巨大化した今では小さく聞こえる。
しかし長い間一緒に闘って来た仲間の声は、良くサイモンの耳に入っていった。
サイモン「ズパル!何故ここに来ているのですか!?早く車に戻りなさい!」
ズパル「い〜〜や〜〜だ〜〜!!
俺はサイモン隊長を援護するぜ〜!」
サイモン「何故…何故私の命令を聞かないでこんな所に来ているのですか!?」
ズパル「あんたと同じ理由だよ!!
『英雄』になってみたくなったんだ!!」
サイモン「え…英雄!?
ふざけた事を言わないでください!!
生きるか死ぬかの瀬戸際なんですよ!?」
ズパル「でも生きる事ができれば、そいつは間違いなく英雄だ!!
皆に褒め称えられて、美味い料理と豪華なメダルが貰えるんだ!
隊長、あんたみたいな英雄に俺はなりたい!」
ズパルはサイモンの顔のすぐ近くまで飛んだ。
サイモンはもう40メートル近い巨体となっており、ズパルの小さく分断された体はまるで耳に付けるアクセサリーのようだ。
そして、そんな小さな体をサイモンの体では止める事は出来ない。
ズパルはサッとサイモンの顔を通り過ぎると、空中戦艦に向かって一直線に飛んでいった。
サイモン「や、止めなさいズパル!!
戻ってくるのです!!死にますよ!?」
ズパル「や〜〜だ〜〜ね〜〜!!
俺は英雄になりたいんだ!
………………………………隊長、あんたをな」
最後のセリフはサイモンの耳には入らないよう小さく呟いた。そしてズパルは空中戦艦のすぐ近くまで飛んでいった。
空中戦艦の表面には機械がびっしりと取り付けられており、ごうんごうんと機械の脈動がけたたましく鳴り響いている。
ズパル「まるで生きているみたいだな、この戦艦は…。
さて、何でもかんでも壊して、少しでもサイモン隊長の負担を減らすとしますか」
ズパルがニヤリと笑うと、バラバラになった体のパーツ全てから刃物が飛び出して来た。
ズパル「こいつで戦艦を一部でも切り裂いて…ん?」
ふとズパルが右に目を向けると、壁の一部が破損しているのが見えた。恐らく先程のスミーの戦いで出来た亀裂だろう。
人が入れないような小さい隙間ではあるが、今のズパルには簡単に侵入する事が出来るようだ。
ズパル「……いや、それよりもっといい方法があるな」
ズパルはニヤリと笑うと、早速裂け目の中に分裂した体を入れる。
そしてそのまま、艦内の機材を滅茶苦茶に斬り始めた。
ズパル「コントロール・ルームに入って、この艦を少しでも制御させる!!
それで軌道をズラせば、皆助かる!!」
ズパルはバラバラの体を一度元に戻して辺りを見回すと、艦内の地図が壁に貼ってあった。
ズパルはそれを急いで確認し、コントロール・ルームまでの道のりを頭の中に組み込んでいく。
そして、ズパルはギロリと道の向こうを睨み付けた。
ズパル「…あっちだな」
ズパルは一直線にコントロール・ルームに向かって走り出していった。
コントロール・ルーム
機械「最新兵器『ステッキ』、発射準備、完了しました。」
ヘイグ「あひゃひゃひゃ!
これで準備は出来た…」
ヘイグは部屋の上部で一つだけ生きているモニターをチラリと見る。
そこには落ちてくる艦を体で受け止めようと仁王立ちしているサイモンの姿が映っていた。
ヘイグ「あいつ、馬鹿か!?
戦艦を体で受け止めようだなんて、随分アホな奴がいたものだ!」
ヘイグはニヤリと笑う。
そしてモニターに向かって歩こうとして、転がっている兵士の死体を踏みつける。
ヘイグ「!!
どけゴミクズ!」
ヘイグは兵士の死体を蹴り飛ばした。
死体はごろりと転がり、再び動かなくなる。
ヘイグはまたサイモンの方に目を向けた。
ヘイグ「あの馬鹿に、ピッタリのプレゼントを喰らわせてやる。
最新兵器、『ステッキ』だ」
最新兵器、ステッキ。
この空中戦艦、『モーゼのステッキ』号の中で最強の武器である。
この艦は縦長の筒のような構造をしている。
筒の周りにはエンジンや兵士が機械が住居するスペースが存在し、筒の底部にはこの艦を隠す為のステルス装置が搭載されている。
この『モーゼのステッキ』号は元々奇襲戦の戦艦として作られていた。
絶対にレーダーに映らず、また基地を見張る兵士が見ても只の雲にしか見えない。
そうして悠々と基地の真上に来たところで、この『ステッキ』が動き出す。
『ステッキ』の正体は100㌧以上の銀色の柱である。柱の上部にはロケットエンジンが搭載されており、一度動き出せば小銃の弾より早く真下に落ちていく。
この『ステッキ』の一撃で、基地の格納庫2つ分は潰せる程の威力があるのだ!
まるで、数百年続いたエジプトの権力が、ある老人の杖によって一週間で踏み潰されたように…。
ヘイグ「そのステッキで、奴の馬鹿な頭を踏みつぶしてやる…!」
ヘイグはステッキの発射スイッチである発射レバーをしっかり握る。
このレバーを下に降ろせば、ステッキはサイモンの巨大な頭に向かって発射されるだろう。
ヘイグ「失せろ!馬鹿者め!!!」
「馬鹿者はテメェだよ」
ゴツッ
鈍い音と強力な衝撃が、ヘイグの頭部を襲う。
ヘイグは一瞬意識を失って倒れそうになるが、直ぐに意識を取り戻して立ち上がる。
そして後ろを見ると、パソコンを抱えた兵士服を着た男が立っていた。
ヘイグは大声で叫ぶ。
ヘイグ「ああ!?いてえなあ!
誰だ!?何しに来やがったぁ!?」
兵士…いや、ズパルはパソコンを投げ捨て、ニヤリと笑ってこう答えた。
ズパル「俺か?
英雄を助けに来た者だ!」