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角が有る者達  作者: C・トベルト
太陽の命と月の命。
37/303

第38話 月パート 義理と人情の先にある悪夢

ルトー(分からない…分からないよ…)


ルトーは悩んでいた。 

彼の頭の中に、果心の言葉が響いてくる。


果心( あなたは枯れた川を見た事があるかしら?その川の上を、どこまでもどこまでも歩き続けた事はあるかしら?

 たった一滴の水のために、いつか海が見えると信じてたった一人で歩いて歩いて…。

 その結果みつけたのが、枯れ果てた湖だった時の絶望感をあなたは知っているかしら?

 誰もその苦しみを理解出来ない事が、どれだけ苦痛なのか、あなたは分かるかしら? )


ルトー(分からない…)


果心( 希望!希望の世界!!

 私が…私が数百年求め続けて、未だ手に入らない大きな希望が、私の手に入るのよ! )


ルトー(分からない…)


ルトー『 やめようよ!こんな事をしても、一番傷つくのは果心様なんだよ!?』

果心( たとえ偽物だと理解していても…私が希望を抱くにはそうするしかないのよ。

 私の大好きな月が、太陽の光を浴びてでしか見せられない偽物の光と同じなの。

 だから、あなたは私を裏切っても構わないわ)



ルトー(分からない…分からないよ!!

 果心、あなたの考えが全く分からない!

 僕はどうすればいいの!?)


ルトーは戦い続ける果心とアイの姿をじっと見つめ続けている。


ルトー(アイは戦っている。

 仲間のために、正義のために戦っている。

 いつもの僕ならそれを応援出来た。

 でも…果心は違う。

 自らを悪と認めた上で、殴られてでも自分の行いを止めようとしない。

 希望に対する渇望が、それを許さない。

 そんな人を僕は裏切っていいのだろうか?

 分からない…分からないよ。)


アイ「アイスボム!」

果心「業火弾ごうかだん!!」


バアアアアアン!!!


ルトー「!」


アイが放ったアイスボムと、果心が放った火球が衝突して、爆発を起こす。

サイモンとアイ、そして果心は爆発の衝撃で部屋の隅まで吹き飛ばされるが、すぐに体制を立て直す。

 二人とも必死の表情で戦い、敵を倒そうと次の手を思考し構築する。


ルトー(分からないよ。

 僕はどっちを応援すればいいの?どっちの仲間であればいいの?一体どうすればいいの?)


アイの『学校と仲間を救う』という義理か。

果心の乾いた性格を助けたいという人情か。


アイと果心が激闘している間、ルトーの心の中で誰にも知られる事のない戦いが繰り広げられていた。

一方、二人は戦いを中断し、話しをしていた。




果心「 …受け入れたのね、アイ。

 そうなのね?あなたは受け入れてしまったのね?あの呪われた忌々しい怪物を…。

 『血染め桜』の加護を!あなたは受け入れてしまったの!?」


果心は青ざめた顔でアイを見つめる。

アイもじっと果心を見つめていたが、左手の掌を果心に向ける。


果心「!」

アイ「今の俺にはどうでもいい話だ。

 消えろ、魔女」


そして、アイスボムを発射した。

アイスボムは果心目掛けて真っ直ぐ向かう。

アイスボムは対象物に衝突すると爆発し、特殊な薬を含んだ霧を出す。

 その霧は空気中の水分を瞬間的に凍り付けさせて、対象物を氷の中に閉じこめてしまう。

 そのアイスボムが果心にぶつかる直前、

赤い色の球体がアイスボムに衝突した。


BOM!!


アイ「!?」


赤色の煙が果心の目の前で部屋中に拡散し、

アイの視界を赤一色で埋め尽くす。


アイ「な!?

 『隠し玉』だと!?」


アイは義腕で目を隠しながら叫ぶ。

隠し玉は、対象物に衝突すると赤い煙を出す。

それは姿を完全にくらまし、いかなるレーダーの目にも写らない特殊な煙。

 そしてそんな武器を持っている人間を、アイは一人だけ知っている。

アイはその人物の名を、怒りと共に呼んだ。


アイ「ルトオオオオオオオオ!!!!

 貴様ァ、何をしているううううう!!??」

ルトー「ごめんごめんごめーーーん!!!」

果心「え?あ?

 う、うわちょっと!?」


煙りの中で果心とルトーの声が響く。

アイはそこに向けてためらいなくアイスボムを放つが、カチンという凍らせた音が聞こえない。

代わりに聞こえるのは、バタンというドアを開ける音。


アイ「ルトー!!果心!!

 逃げんじゃねえ!」


アイはそう言って走り出そうとするが、目の前に透明な壁が現れる。

 それは先ほどアイが凍らせたサイモンだ。


サイモン【あ、アイ!!

 これは一体どういう事なんですか!?

 ルトーが何故果心を助けるのですか!?】 

アイ「サイモン、邪魔だああああ!!!」


アイは氷を思い切り殴り飛ばす。

氷はバリンと音を立てて砕け落ち、サイモンが氷から解放される。

 そうしている間にも現古が窓を開けて煙を逃がす。放送室に果心とルトーの姿はなかった。

 アイは扉の方に向かおうとする。


サイモン「うわ、氷が砕けた…。アイ!

 待ちなさい!どこに行くのです!?」

アイ「待てるか!

 俺の仲間をよくも洗脳しやがって!

 あの女ぶっ飛ばす!」


また動き出そうとするアイの肩に誰かの手が乗っかる。

 アイが振り返ると、緑色の半魚人の頭が見えた。そしてアイが何かいう前に、

 アイは半魚人の強力な頭突きを喰らう。


ガチイィン!!


アイ「☆*#℃¥@#♀○★§※◇●!!!」


頭突きを喰らったアイは床に倒れ落ち、悶絶しながらごろごろと床を転がり続ける。


現古「ワシの頭突きは痛いギョ。

 なんせ、学校一の石頭だからなウオ」

サイモン「現古先生…?

 あなたも一体何をしているんですか?

 アイを頭突きして…」

現古「黙れギョ。

 アイ!!」

アイ「く、現古先生…。

 テメエ、何やってんだ。早く果心を追って」

現古「…。

 そしてルトーを殴る、か?」

アイ「…目を覚まさせるだけだ…」


現古はアイをギロリとにらみ、アイはゾッとさせるような冷気を帯びた目で現古を睨み付ける。


長い間ー実際にはほんの僅かな時間だったがーの後に、最初に話したのは、アイだった。


アイ「あいつは、俺を裏切ったんだ。

 上司であり、育てた恩師である俺を!

 許せるものか…。」

現古「それでも許せねば、お主は一生人の上には立てぬギョ。全く、これだから教育者じゃないリーダーは大変なんだウオ」


現古はやれやれと呟きながら頭を横に振る。

アイは軽く舌打ちした後、扉に目を向ける。


現古「行っても無駄だギョ。

 今のお主じゃ果心も倒せずルトーも救えん」

アイ「ほざけ。俺があんな奴に負けるか。

 テメエみたいな口だけの教育者とは違うんだからよ」


アイは扉に向かって歩き出す。

歩いたまま、アイは呟く。


アイ「あいつはあの桜を怪物呼ばわりしたんだ」


そして顔を下に…自分の右腕に向ける。

その瞬間、アイの耳に懐かしい声がノイズと共に響く。


ザ…。


(この桜は素晴らしいだろう?

 この桜があるから、私はここに自分の夢を作り上げたんだ)


ザザ…。


(見ろ、ユウキ!

 あの桜を!

 あの桜は、もう何百年も花を咲かしているんだぞ!!凄いとは思わないか!?)


ザザザ…。


(桜よ!桜よ!

 お前か!お前の仕業なのか!?

 お前が、俺の腕を…俺の全てを奪ったんだな!!?)


ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!!!!


(ねえアイ。あの桜は、どうして血のように赤く咲くと思う?

 それはね……。)ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!!!!


ドガン!!!


アイは壁を勢い良く殴り飛ばし、頭の中に響くノイズを消した。

 一瞬でノイズは消え、静寂がアイの耳を包む。


アイ「あの桜を『怪物』と呼んでいいのは、

 俺だけだ。

 あの女がそれを言うのは、絶対に許さない」

現古「桜?

 まあいいギョ。それよりお主は、ルトーが裏切ったと考えているんだろウオ」


現古がげぱぱと笑いながら話し掛ける。

アイは無視したかったがしかし歩みを止め現古の方に振り返る。

 それはあの桜の事を、思い出したくなかったからかもしれない。


アイ「…?

 あれはどう見ても裏切り行為だろ?」

現古「ところが違うんだギョ。

 それどころか、お主の部下はワシ等を助けてくれた、大恩人だウオ」

アイ「?」


アイは首を傾げる。






小休止の間。





アイ達が話し合っている時より少し前。

 市街地上空。



ダンク「なんだ…?」

シティ「ダンク、どうしたの?」


シティは首を傾げた。

ダンクが頭を動かし、キョロキョロと辺りを伺っている。


ダンク「いや、なんか気配がするんだよな…

 それもとても懐かしい気配が……」


(ほう、ダンクはさすがに気づいたか。

 だがもう遅い。)


ダンク達の後ろで、全長4メートルもある巨大な風船に乗って道化師がふわふわと空を飛んでいる。


(何故って、果心様の一の子分であるバベルに目を付けられたんだからな!)


道化師…バベルは、ニヤニヤと笑いながらダンク達に近付いていった。

 しかし、そのバベルの後ろで何かがキラリと輝く。


バベル(ん?何だ、あれは…?)


バベルが振り返ると、それは人影だった。

黒い人影が高速で真っ直ぐこちらに向かってくる。


バベル(だ、誰だ?空の彼方に踊るあの黒い影は…?

 誰だ?誰だ?誰だ!?)

ペンシ「邪魔だああああ!!!」


ドガアアアアン!!!!


ペンシは勢い良くバベルと衝突した。

風船に乗っていたバベルはその衝撃で勢い良く吹き飛ぶ。


バベル「ガッチャマン!!!」


バベルは衝撃のあまり、体が空に向かって飛んでいく。そしてそれと同時に意識も遠くなって…。


バベル(…………あるぇ?

 もしかして俺の出番、これで終わり?

 い、いやいや、そんな訳ないよね…。ほら、俺ってアイツにとっちゃ重要人物なんだしさ…………ほら……………………………………こんなのアリですか?)

「や〜〜な〜〜か〜〜ん〜〜じ〜〜…………。」


気を失ったバベルは空を飛んで飛んで、ばい菌男の如く空のかなたへ消えていった。

 キラリと綺麗な輝きを残して…。


シティ「わ、眩しい。」

ダンク「なんか今、空が輝いたような…」

ペンシ「ダンク〜〜〜〜!!

 シティ〜〜〜〜!!」


シティとダンクが振り返ると、ペンシが宙に浮かびながらこちらを睨んでいた。

 その後ろから、ケシゴとノリが鳥達の背中に乗ってやってきた。


ケシゴ「何かが飛んでいると思って見にきたら、貴様達だったのか」

ノリ「よ、良かった…。ボク置いてけぼりにされなくて、本当に良かった…」


シティとダンクは瞬間的に構える。

ノリはともかく、ケシゴとペンシの力を二人は知っているからだ。

 ダンクはそっとシティに話し掛ける。


ダンク(シティ、一応逃げる準備しておけ。

 またこいつの『恐怖の魔眼』に捕らわれたらかなわん)

シティ(…逃げるのは癪だけど、ススの安否が分からない今、無闇に戦うのは不味いものね。

 分かったわ。)

ダンク(…………。

こいつ、成長したな)


ダンクの最後のセリフは、心の中で呟いた。

以前だったら『戦い大好き☆』な行動を取ると思ったのに…。


シティ(確実に潰せるよう電柱を装填中よ。

 今度はぶっ潰す。負けてたまるもんですか)

ダンク(………。

 前言は…言わなくて良かった。

 撤回する必要がないからな。)


ペンシ「貴様等、ここで会ったが百年目!!

 今すぐ捕まえてやるぞ!」

ダンク「おっと、そうは行かない。

 俺達はこれから縷々ルルイエ学校に行かないと行けないからな。」(ルトーの様子を見に)

ペンシ「!!

 縷々ルルイエ学校だと!?

 ハサギを潰しに行く気か!?」

ダンク「?

 なんでそこでお前らの上司が出て来るんだ?」


ダンクは首を傾げる。ペンシはハッとして思わず口を塞いだが…出た言葉は戻らない。


ペンシ「え、いや、その…………。

 あれだ!今日は私の甥であるハ・サギ君の授業参観で」

ノリ「ペンシさん、その嘘はあまりにも…」

ペンシ「シッ!!

 ハサギと連絡が繋がらないと奴らにバレたら大変なんだぞ!黙っていれば大丈夫なんだ!」

ダンク「ほうほう。

 確かにこれはバレたら大変だな」

ケシゴ「ペンシ…」


この場にいるペンシ以外 全員が小さなため息をつく。ペンシはまたハッと気付き、


ペンシ「あ!!

 ………………今のは聞かなかった事にしろ!」

ダンク「いや無理」

シティ「わ、本当だ。

 ルトーにも連絡がとれないや」


シティがルトーに電話をかけるが、電話にでる気配がしない。シティは電話を切ると、ケシゴの方に振り返る。


シティ「悪い、縷々家学校に急用が出来ちゃった。今からそっち行くね。」

ペンシ「貴様何を」

ケシゴ「ちょっと待った!

まさか、お前等の仲間も学校にいるのか?」  


ペンシのセリフをケシゴが遮る。

シティはコクンと首を縦に振った。


シティ「うん。」

ケシゴ「そうか…ますますあの学校が怪しくなったな。まさか貴様と同じ所に向かわないといけないなんてな」

ダンク「ちょっと待った」


ケシゴのセリフを今度はダンクが止める。


ダンク「悪いが、俺達は『スス』を探さないといけないんだ。

 ここで仲間を助けに行けばススはどうなるんだ?」

シティ「そうね、ススも放ってはおけないわ」

ダンク「そこで俺から一つ提案」


ダンクが人差し指を立てる。


ダンク「ここは二手に別れて行動するのはどうだ?学校にはシティがペンシとケシゴと一緒に向かう。

 そしてススの捜索には俺とノリが向かう」

全員「!!!!???」


全員の目線がダンクに集中する。


シティ「どういうこと?

 何故私が彼等と行動を共にしないといけないのよ?」

ケシゴ「それに我々が貴様等の人捜しに付き合う道理などないぞ」

ダンク「いやいや、それが2つとも理由があるんだよ。それも3つ」


ダンクは小指、親指以外の三本の手を広げる。

そして薬指を折り曲げた。


ダンク「一つ目。

 『互いの上司が学校に囚われているから』。

 学校で何かが起きているのはもう間違いない。だから、ここは団結して行動せずに一人一人バラバラに行動して情報を多く集めるんだ。

 そうでなければ、上司を捕らえた何かに俺達も捕まってしまうからな」


その話を聞いたシティとケシゴはにやりと笑う。


シティ(なるほど、確かにこの危険な作戦に囮は必要だものね。ペンシとケシゴなら、それに充分値するわ)

ケシゴ(なるほど、確かに危険な作戦に囮は必要だな。シティが囮になれば、俺達も行動しやすい)

ノリ「で、でもどうしてボクがダンクと行動を同行しないといけないッスか?」

ダンク「二つ目」


ダンクは中指を折る。


ダンク「学校の方から強力な魔力が感じられる。これははっきり言ってかなり危険だ。

 だから、力のある三人が行った方がいい」

シティ「膨大な魔力?

 …って事はダンクのほかにも魔術師がいるのかしら。

………。」

ケシゴ「何故そこで幸せそうな表情をする?」

シティ「し、してないわよ馬鹿!!」

ノリ「待つッス!

 それじゃあボクとダンクが行動を共にする理由は…」

ダンク「そしてここから少し離れた所に、小さな魔力を感じた」

ノリ「え…」


ダンクは市街地の方に振り返る。

静かな街、しかしそこに誰がどんな思惑で生きているのか、当人しか知り得ない。


ダンク「こちらは恐らく、学校に何らかの魔術的な術を施した奴だろうな。

 こいつはある種学校より厄介だ。隠れるのが上手いし、学校をどうにかする程の魔力を秘めているからな。

 そこで探すのが得意な警察のノリと、魔術に詳しい俺が向かう。」

ノリ「ぼ、ボクはお前に手を貸す気はないッス」

ダンク「それでいい。

 悪い奴を捕まえるのはノリ、お前の仕事だからな。俺は悪い奴を懲らしめる事しか出来ない」

ノリ「…………………。」


ダンクは人差し指を折りまげる。


ダンク「3つ目は、ススも恐らく魔術師の近くにいるかもしれないから。」

シティ「そ、そんなのどうして分かるのよ。」

ダンク「勘。

 …ではなく、あいつの携帯が街の方にあるからだよ」


ダンクは携帯を取り出し、マップを開く。

そこには「Susu」と書かれた文字が、市街地の地図に表示されていた。


シティ「!」

ケシゴ「貴様等は携帯を改造して、互いの場所が分かるようにしていたのか!?」

ダンク「ま、前回は誰かさんのせいでバラバラに行動していたからな。

 ルトーに頼んで改造して貰ったんだ」


ダンクは携帯をしまいながらケシゴを睨み付ける。


ケシゴ「むう…。」

ダンク「以上、これが俺の提案だ。

 何か異論のある奴はいるか?」

ペンシ(むむむむむ…。

 犯罪者の言うことを真に受けては大変だ…と言いたいが、何故かあいつの言葉に逆らえない)

ケシゴ(く…。

 あいつの言葉を否定したいが、何故か言葉が出てこない…!)

ダンク(ま、逆らえないようこっそり言霊つかったんだけどね。

 前回の『恐怖の魔眼』のお返しだ)


ダンクは皆にバレないようニヤリと笑う。


こうして、警察&犯罪者コンビはそれぞれの場所へ向かう事になる。

 そして、この時のダンクの会話こそが、後に更なる絶望と希望を招くことになるのだが…。

 それは、おいおい明らかになるだろう。

そして時間は現在に戻る。






小休止の間。







縷々家学校・3F廊下。


ルトー(ごめん!

 ごめん、本当にごめん!!)


ルトーはアイの叫びを背にして果心の手をひっぱりながら廊下を走り続けていた。

 そして、果心の声がルトーの耳に入ってくる。


果心「る、ルトー!?

 あなたは何をしているの!?

 裏切ってもいいといったのにこんな真似して、あなたが無事ですむわけ」

ルトー「そんなの知るかちくしょおおう!!

 うわあああああああああん!!」


ルトーは走りながら泣いていた。

ボロボロと涙を流しながら、その顔を決して果心に見せずに前を向いて走っていた。


果心(…。

 青いわね。ゴブリンズにはこういう奴しかいないのかしら?)


果心はルトーに見られないよう、小さなため息をついた。


果心(そういえば、アイは桜の話題を出した時、一瞬だけど動揺していたわね)


果心は意識の目を内側に向け、先程の記憶を思い出す。


アイ(… …お前、まさか、知ってるのか?

 あの桜の事を…)

アイ(今の俺にはどうでもいい話だ。

 消えろ、魔女)


その二言から、果心はアイについて探ろうとする。


果心(…アイもあの桜の事を完全に理解していないのね。もしあそこで私が『知っている』と言えば、アイは全てを投げ捨ててでも桜の事を聞こうとしたでしょう。

 …アイもまた、あの怪木に魅せられた哀れな男だというわけか)


果心の口の端が、僅かに上がる。


果心(もしそうなら、この情報はかなり強力な手掛かりとなるわ。

 どうしてアイがゴブリンズを作り上げたのか、どうしてアイがGチップを憎むのか、

 どうしてアイが両腕を失ったのか…。

 それら全ての答えが、きっとあの桜に関係しているのだから。

 …それを知れば、私の退屈な人生が少しは面白くなるのかしら?)


逃げている筈の果心、しかしそこに敵に対しての恐怖はない。

 あるのは愉悦。

 新しいオモチャを見つけた子どものような、純粋な喜びのみだ。


果心(さて、そうと決まれば早く放送室に行かないと。

 ルトーを説得して、放送室に…

 放送室?)


そこで、果心の思考は一度停止する。

そして、先程より倍の速度で思考が動き出した。

そうして、ハッと気付いた。

己の過ちに。

果心は走り続けるルトーに話し掛ける。


果心「ルトー!!

 戻るわよ!」

ルトー「え、何!?

 駄目だよ、今戻ったらアイに殺され…」

果心「もうアイは放送室にいないわ!

 だからさっさと戻りましょう!」

ルトー「え…?」


ルトーは思わず立ち止まる。

果心はルトーの手を話し、ふわりと空を飛ぶ。

 そして急いで放送室に向かった。


ルトー「あ、果心!」

果心(気付いていなければいいんだけど…)


やがて見えてきた放送室の扉は、何故か氷の壁で覆われていた。


果心(ちぃ!)「業火弾!!」


ボオオオオオオオン!!!!!


氷の壁があっさり瓦解し、果心が放送室に侵入する。

 そこにアイ達の姿はなかった。

 変わりにあるのは、床に開いた大きな穴。


果心「しまった!!

 私とあろう者が、なんて失敗を…!」

ルトー「か、果心〜!

 一体、どうしたんだよ!」


ようやく追いついたルトーが息を切らしながら果心に尋ねる。

果心はルトーを睨みつけた。


果心「…………。

 奴ら、気付いたのよ」

ルトー「え?」

果心「あいつらは気付いたのよ!

 放送室の下の下、一階の部屋が、校長室に繋がっている事に!!」

ルトー「!!」

果心「あそこにはK・K・パーがいる…。

 もしアイツ等に不老不死の儀式を邪魔されたらとんでもない事が起こるわ!」

ルトー「と、とんでもない事……?

 それって一体………?」


ルトーは思わず尋ねてしまう。

果心もまた、思わず答えてしまった。


果心「来てしまうのよ…。

 時を操る事の出来る怪物…」


塵を踏む者、クァチル・ウタウスが

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