第37話 月パート 色欲対氷鬼
アイが果心のいる放送室に入るより、時間はまたさかのぼり、
午後1時のここは警察署内G対策課。
ノリ「ハサギさん…ハサギさん!
おかしいッス。やはり連絡が無いッスよ。」
ペンシ「ダメだ、学校にも電話が通じない。
何故だ…?」
ケシゴ(…随分久しい気がするが、それを口にしたら負けだな、きっと)
ノリ、ペンシ、ケシゴの三人は慌てていた。
彼等の仲間であるハサギから、来るはずの定期連絡が来ないからだ。
ルトーは何度も何度もかけ直すが、答えは同じ「現在電波の届かない所にあるか、電源が入っておりません」
ペンシは受話器を下ろした。
ペンシ「くそ、何がおきたのだ?
まさか学校をハイジャックされた訳じゃないだろう?」
ノリ「まさか、ハサギさんがいるときに限ってそんな馬鹿な事がおきるわけないッスよ。」
ペンシ「ではハサギだけではなく何故学校からも連絡が来ないのだ!?
学校だけじゃない近隣の住宅からも電話が通じないんだぞ!
とてもただ事とは思えん…!」
ペンシは自分の机からカバンを急いで取り出した。そして中にある携帯を取り出す。
ペンシ「行かねば!
今ここでいかねば、何か大変な事になる!」
ノリ「ぺ、ペンシさん落ち着いて…」
ケシゴ「いいや。」
ケシゴは声を上げる。
二人同時にケシゴを見る。ケシゴは口にくわえた煙草を手に持ち、ふぅーっと煙を吐き出す。
ケシゴ「ここは急いで行くべきだ」
ノリ「なら何故そこでノンビリ煙草を吸ってるんスか!(--#)」
ケシゴ「む、これは電気煙草だ。
煙草の煙は動物が嫌うんでな」
ノリ「そこはどうでもいいッス!」
ケシゴは電気煙草を適当に灰皿に置く。
ケシゴ「ま、ともかく…俺が言いたいのは『早急に現場に向かわなければいけない』と言うことだ。ここから学校まで一時間はかかるぞ。
しかも俺達は前回の失敗のせいで車を取り上げられてしまった。
足じゃ到底間に合わん」
ノリ「そんな……」
ノリは顔が青ざめていく。
自分が急いでいる間に、ハサギや学校に何かが起きたら…。
ケシゴ「しかも、だ。
先程署の仲間に学校に向かうよう連絡したら、『今日はあそこにいってはいけない』らしいな。いったらクビになるそうだ。」
ペンシ「な!?」
ノリ「……どういう………ことッスか………?」
ペンシとノリは表情を硬直させる。
対してケシゴは皮肉な笑みを浮かべた。
ケシゴ「上層部の奴らが一枚噛んでるんだよ。仲間が消えてもどうでもいいような陰謀をな」
バン!
ペンシは壁を殴った。
ペンシ「ふざけるな」
ペンシは室内を睨みつける。
そして………………………………爆発した。
ペンシ「ふざけるなあああああああああああああああああああああ!!!!!」
怒声だけで室内がビリビリと痺れる。
ノリは思わず体を竦ませた。
ペンシはガラガラと窓を開ける。
ペンシ「クビ、クビだと!?
法を重んじ、人の安心を守り続ける我らが、ただ仲間の救助に向かっただけでクビ!!
そんな馬鹿な事があってたまるか!!」
ケシゴ「その通りだ、ペンシ」
ペンシ「ならば、尚更進むのみ!!
早急に向かい早急に行動し早急に悪を断つ!!
これが!
今!!
我らがやらねばならぬ行動はそれ以外にない!!!」
ペンシはそう言うと、勢い良く窓から飛び降りた。ノリが絶叫する。
ノリ「ええええええ!!!???
ぺぺぺぺ、ペンシさああああん!!!!」
ノリが急いで窓に駆け寄る。
すると、下に落ちた筈のペンシに殴られた。
ペンシ「うるさいぞ馬鹿者!」
ノリ「ガフッ!!」
ノリは勢い良く室内に吹き飛ばされる。
そのすぐ後ろでケシゴがほう、と呟いた。
ケシゴ「流石、『武術の天才』だな。
舞空術をマスターしているとは…」
ペンシ「うむ、まだ拙いが出来るぞ。
ケシゴも早く空を飛べ」
ケシゴ「ああ、そうしよう。来い、鳥達よ!」
ケシゴが叫ぶと、鴉や雀が何十羽も窓の前にあつまる。ケシゴはその鴉達の上に飛び乗る。
ケシゴ「さて」
ペンシ「いくとしますか」
そして二人は警察署から飛び出し、学校へと向かっていった…。
ノリ「…………え?あれ?
あ、ボクも連れて行ってよ〜〜〜」
そして時は戻り、今。
学校内、放送室。
アイ「また会ったな、果心林檎!!」
現古「お主には説教したい事がやまほどあるギョ!」
サイモン「私達の生徒を、返して貰いましょう!」
放送室の扉を蹴破り、三人が侵入する。
果心は全く焦る表情を見せずに三人に向き直る。
果心「あら、どうしたのかしら?
あなたは私より先にパー校長に会って、不老不死を手に入れるんじゃなかったの?」
アイ「ふざけるな!
校長室のある一階部分を溶岩で塞ぎやがって!」
果心「だって、そうでもしないとあなた達はパーにあってしまうでしょう。
パーは今、とても繊細な時期なのよ。
そんな簡単に、会わせるわけないじゃない。」
果心は楽しそうに笑みを零し、アイはギリリと歯を食い縛る。
互いは完全に対極の表情をしていた。
サイモン「そして二階では、全ての教室の扉が閉まっていて、あけようがありませんでした。溶岩も扉も、あなたが操っているのですね?
双方を消すことは出来るのですか?」
果心「そうね、あなたが諦めてさえくれれば溶岩を消してあげるわ。
最も、そのときはあなたの生徒が怪物化するのを止められなくなるわけだけどね。」
サイモン「…!」
アイ「そうは……させるかよ!!」
アイが果心に向けて左手の掌を向ける。
銀色の義手で出来た左手の掌には丸い射出口があり、そこから丸い球体が現れ、掌に収まる。アイの武器、アイスボムだ。
対象に向けて投げつけると、凍り付いてしまう氷の爆弾。
アイ「アイスボム!!」
アイはそれを、果心目掛けて投擲した。
果心「下らない真似を。障壁」
しかし果心は障壁をはって攻撃を守る。
アイスボムは障壁を氷漬けにしただけであった。
果心「何かと思えばそんなくだらないオモチャ」
サイモン「膨張!!」
サイモンの右腕が3メートルほど膨張する。
その腕を、凍り付いた障壁に向けた。
障壁ごと果心を殴り飛ばすつもりなのだ。
しかし……。
ルトー「え!?腕が膨張した!?」
果心「!!」アイ(馬鹿!)
ルトーの一声で果心がハッと気付いてしまう。
そして果心は凍り付いた障壁に両手を向ける。
果心「ちっ!」
バアン!
破裂音と同時に障壁が勢い良く飛び出す。
サイモンもまた、拳を振り下ろした。
ガキイイイイン!!!
拳と障壁がぶつかり、障壁が砕ける。
だが障壁の勢いが余りに強いため、サイモンの右腕はこれ以上進めなかった。
サイモン「…っ!!」
果心「危ないわね。
あなた達は、女性に手を上げる事を何とも思わないならず者だったのかしら?」
果心は微笑を浮かべ、サイモンはギラッと果心を睨みつける。
サイモン「私達の居場所を奪った人間を、無傷で許すほど甘い世界では生きていませんからね!」
アイ「覚悟しな、魔女!
尋問無しの裁判をやるからな!」
現古「わ、ワシは後ろで応援しとるギョ…。
頑張れ二人共。」
果心は微笑を浮かべたまま、右手を前に突き出す。
果心「それは無理ね。
だって私は、『サムライ』の血を引いているのだから。
そんな危険な裁判は切り捨て御免とさせていただきますわ。」
右手の前の空間がぐにゃりと歪み、日本刀が現れる。
刀の柄の部分には『七宝行者』という文字が彫られている。
現古「何!?
日本刀!?」
果心「私の父が愛用していた刀であり、果心一族の魔術と魔力が籠もった刀。
そんな簡単に私は殺されないわよ?」
果心は日本刀をアイに向けて上段で構える。
アイは思わず苦笑した。
アイ「おいおい、刀を使う魔女なんて聞いた事が無いぞ。
てっきり頭でっかちな魔術戦を繰り広げると思ったのだが…。」
果心「 力で押さず、智でおとす。
しかし、智に頼って、
勇を失ってもならぬ。 」
アイ「さっきまで人質とったりこそこそ隠れて溶岩使う奴のセリフかよ。」
果心「今は勇を使って戦う時なのよ。
さあ、私と一緒に永遠に戦いましょう♪」
果心は日本刀を構え、一番近くにいるサイモンに襲いかかる。
サイモンは逃げようとするが、丁度足を巨大化し始めた時だったので体を動かせない!
サイモン「しま…」
果心「さよなら」
ブン、と勢い良く日本刀が振り下ろされる。
果心の刀はとてもよく磨かれていて、サイモンの体を真っ二つにする事などとても容易いだろう。
しかし、果心とサイモンの間にアイが割って入り、サイモンをかばう。
サイモン「あ、アイ!?」
アイ「させるか!」
アイは右手の拳を握ったまま肘を突き出すように右腕を果心に向ける。
その右腕に日本刀がぶつかる。その瞬間アイは膝を曲げて体を落とし、日本刀の力に逆らわずいなす。
結果として、果心の日本刀による一撃は、
アイの右腕の義手を斬る事が出来ず、シャリインと音をたてながら右腕以上の先に進めず、
床を数センチ切り裂くだけに終わった。
果心「!!」
アイ「やらせるかよ!果心!」
アイは左手を果心に向ける。
零距離でアイスボムを撃つつもりなのだ。
果心も日本刀を持つ左手を放し、アイに掌を向ける。
果心(金属の義腕で、受け止めた!?)
「ちっ、『業火弾』(ごうかだん)!!」
アイ「アイスボム!」
アイから放たれたアイスボムと、果心の掌から現れた火の玉が衝突し、爆発を起こす。
三人はその衝撃で少し吹き飛ばされる。
果心「くっ!」
サイモン「ぐ…っ!!」
アイ「ち、離された!」
果心は日本刀を下段に構える。
不思議な事に、日本刀の刀の部分がその瞬間燃えだした。
アイ「な!?」
果心「踊れ!
『業火剣』(ごうかけん)……」
その燃え上がる刀を、空に向けて一閃した。
果心「『乱』(らん)!!」
その瞬間、世界が暗転する。
アイ&サイモン「!?」
アイが辺りを見渡すが、何も見えない。
壁も、床も、敵の果心も見えなくなっている。
いや、火が、火だけが闇の中で輝いている。
闇の中で幾つかの火が輝いている。
一、二、四、八、十六…。
無数の火がまるで星のようにアイとサイモンの周りに散りばめられていく。
その火一つ一つの中に、日本刀の刀が銀色に輝いていた。
果心の声が闇の中に響く。
果心(踊れ不知火の剣。
闇の中で爛々と輝きながら命の炎を断ち斬れ)
その声に反応するように、燃え上がる刀が次々とサイモンとアイに襲いかかる。
アイは軽く舌打ちすると、
銀色の義腕で燃え上がる炎の刀を掴んだ。
アイ「斬られてたまるか!
逆に握り潰してやる!」
グシャ、と刀を握力だけで握り潰した。
刀は床に落ちる事なく、すぅっ、と闇の中に溶けて消えた。
アイ(幻…?
いや、質量はあった。なんか良く分からないけどヤバそうだな。)
サイモン「うわああああ!!」
アイ「サイモン!?」
アイがハッとして横を見ると、サイモンの四方八方から燃え上がる刀が襲いかかってくる。
サイモンは金属の義腕を持つアイと違い、生身で戦っている。
巨大化出来る能力を持つ彼にとって、武器や防具はあまり意味を為さないからだ。
しかし、今回はそれが裏目に出た。
燃え上がる刀はとても熱く、触る事ができない上に数はかなり多い。
サイモンにとって、この世界は悪夢以外の何者でもなかったのだ。
サイモンの周りに刀が幾つも幾つも妖しく輝きながら襲いかかってくる。
サイモンはそれを必死にかわしていくが、刀は消えず更に増えてくる。
サイモンは再度叫んだ。
サイモン「あああああああ!!!」
「サイモン隊長!
しっかりしてください!!」
不意に、聞き覚えのある声がサイモンの耳に入る。
それは数年前から一度も聞こえなかった声。
サイモンが数年前からずっと前から探し続けしかし一度も聞こえなかった声。
サイモン「ズパル?
今のは、ズパルの声なのか?」
サイモンが振り返る。
そこに立っていたのは……アイだった。
アイ「サイモン先生!
悪い!!」
サイモン「え……?」
サイモンが反応するその前に、アイは行動を起こした。左手の掌をサイモンに向けて突き出したのだ。
アイ「アイスボム!!」
アイスボムが左手の掌にある射出口から発射され、サイモンに命中。
彼の全身を一瞬で氷山の中に閉じこめられた。
サイモン【え?】
ガキイン!!ガキイン!!
氷山に向けて何度も何度も炎の刃が斬りつけれる。しかし氷山はビクともせず、向かう刃を全て
弾き飛ばした。
アイ「よし、これでサイモン先生は守られる。 後は、この不気味な刀を何とかしないと」
アイは振り返り、辺りを見回す。
サイモンを守る氷山が砕けないのを知った刀達が、アイの方に刃を向けていた。
アイ(十…二十…四十…もっと多いな。
これは守りに入ったらやられる)
アイは両足に力を込める。刀はアイの周り360度全てをぐるりと囲み、逃げ場を無くしていた。
しかしアイは冷静さを失わない。
アイ(ならば、こちらから攻めてしまえばいいだけの話だ。)
「不成者格闘術
捷疾鬼ノ香車 」
そう呟いた瞬間、ヒュンと風が鳴ったかと思うとアイの姿が消えた。
バリン!グシャア!ギギギキキン!!
闇の中で不気味な音が響く。
アイが高速で移動し、刀が勢い良くアイに向けて振り下ろされるより遥かに早くアイは刀を破壊していく。
一、二、三、四…。
やがて、三十以上の刀をへし折ったあたりから、暗闇にピシリとヒビが入る。
果心(なに?)
アイ「はあああああっ!!」
バリイイイイイン!!!
暗闇が割れ、アイと氷漬けのサイモンが暗闇の球体から飛び出した。
アイ「う?うおおお!!?」
サイモン【暗闇が割れた?
今のは、一体何なんですか!?】
氷山の中でサイモンが目だけをキョロキョロと動かす。ちなみに氷山の中のセリフは【】と表記されるが、外の人間には聞こえない。
完全な独り言である。
果心「…驚いたわ。
まさか、私の創った結界を、こんなに早く破壊出来るなんて…」
果心がアイとサイモンの前でワナワナと震えている。現古先生が二人に駆け寄ってきた。
現古「はは、お主達すごいギョ!」
アイ「へ?
な、何が?」
現古「お主達は今まで果心の創り出した結界の中にいたギョ!!
しかしお主達はすぐに破壊して飛び出したんだウオ!!
いやーめでたいめでたいギョ〜〜♪」
アイ「結界の中に…?」
サイモン【どおりで理解不能な事態がいくつもえきたんですね。
所でアイ。いい加減この氷を解凍させてください額がかゆくなっているのに凍ってるからかけません。】
アイ「そうだったのか…。
果心め、許せない!」
二度書きますが、氷山の中のセリフは外には届かない。アイはサイモンを無視して果心を睨み付ける。
アイ「よくもふざけた世界に放り込んでくれたな、おかげで仲間を凍らせなければいけなくなったじゃないか!!」
果心「驚いたわ…。
全く持って、驚いた…」
対して果心はじっとアイを見つめ続けていた。
果心「最初にあなたにあった時も、あなたの罪を具現化させる結界に閉じ込めさせたらあなたは自力で脱出する事が出来た…。
まさかとは思うけど、あなた…昔なんらかの魔力干渉を受けたの?」
アイ「ああ?何を訳の分からんことを…」
果心「いえ、違う。
あなたは強力な魔力による加護を得ている。
ダンクの力ではない…。
それよりもっと強力な、何かの力…。
なに?何があなたを守っているの?何があなたを助けているの?
まさか…まさか…あなたは…」
アイ「来ないならこっちから行くぜ!!」
アイは一気に果心目掛けて走り出した!
果心は相変わらずアイを…いや、もっと遠くにいる何かを見つめている。
果心「まさか、あなたは受け入れたの?
あの桜を…」
アイ「!」
ビタア!
そんな音がはっきり聞こえる程、アイは果心の目の前で強引に止まった。
ルトー「…?」
サイモン【アイが、止まった…?】
現古「な、なんだギョ?」
先ほどまでの激闘が嘘のように、放送室内が静まり返る。先にその沈黙を破ったのは、
アイだった。
アイ「…お前、まさか、知ってるのか?
あの桜の事を…」
アイは果心の目の前で、果心を睨み付ける。
果心は顔を青ざめながら、話し始めた。
果心「…受け入れたのね、アイ。
そうなのね?あなたは受け入れてしまったのね?あの呪われた忌々しい怪物を…。
『血染め桜』の加護を!あなたは受け入れてしまったの!?」