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角が有る者達  作者: C・トベルト
太陽の命と月の命。
21/303

第21話 シンプル・サイモン

中学校・校庭



ルトー「アアアアアアアアアアア!!」


 四時間目の授業、ルトーは必死に走っていた。死ぬ気で走っていた。

 次の日は間違いなく全身筋肉痛だろうというほど全身の筋肉を使って走っていた。

 普通四時間目の体育はだるさや面倒臭さを考えながらやるものだが、ルトーは明らかに異常な奇声を上げながら、全力疾走している。

 理由は、ただクラスメイトに『給食の牛乳おかわり権』を巡っての事ではあるが、ルトーは至って真面目に必死に走っていた。


アイ「あのバカ、何であんなに全力疾走してるんだ?

 校庭の円の中をグルグルと回って・・アホなのか?」


 その様子を見ていたアイは思わず呟く。

 アイの目には、ルトーを先頭に女子、男子が必死に走っているようにしか見えない。


アイ(あいつ、なんだかんだで学校生活楽しんでるんだな、良かった)

「まあ、それが生徒ですよ。

皆ああやって、自分が持っているモノとそうでないものを見つけるんです」


アイの右横から声が聞こえる。

アイはその声の主の方に振り返り、 笑顔を作る。


アイ「サイモン先生!」

サイモン「どうも、アイ君」


 そこにはジャージを着た茶色の髪の毛を短くまとめた三十代の男性ーーサイモン先生が立っていた。

 柔和な口調でサイモンは訊ねる。


サイモン「実習の方は上手く言ってますか?」

アイ「まあ、ぼちぼちてとこかな?

 難しい難題も一杯あるけど、やりがいもありそうですし」


 アイは指でポリポリと頬をかきながら答える。 それから僅かに鬼のような笑みを浮かべながら話しかける。


アイ「しかし驚いたぜ。

 まさかこんな所で、昔の同僚に、それも『シンプル・サイモン』に会えるなんて」

サイモン「昔なんて…戦争が終わってから少ししか経ってませんよ? 」


 サイモンはフッと笑う。

 しかしそれは教師が生徒に見せる笑みではなく、死を嘲笑うかのような冷たい笑みだ。


アイ「純粋(シンプル)・サイモン。

 その能力は全能力者中ナンバーワンの力を持ち、あらゆる敵を一撃で薙ぎ倒す力に憧れる奴は敵味方双方にいた程だ。

 そんなあんたが、何で中学の教師なんてやっているんだよ」


 アイはジロリとサイモンを睨み、左手にアイスボムを持つ。


サイモン「あなたがそれを聞きますか?

 戦争を終わらせた、真の英雄であるあなたが」


 サイモンはフッと笑い、アイは目を泳がせる。


アイ「う」

サイモン「ほらご覧なさい。

 私達能力者は天才との戦争に勝利し、報酬として人間らしい生活と天才との共存を願った。

 そして私は昔の知識を元に、『人間らしい』生活が出来る所に転がり込んだ。

 ただそれだけなんですよ。

 君のように戦争が終了しても闘う事を忘れられない人とは違います」

アイ「そう言われると何も言い返せないな。まあ、俺はあんたが元気そうならそれで良いさ。

 ここに来たのだって、別に事を構える訳じゃないしな」


 アイは恥ずかしそうに答えながらアイスボムを隠す。 しかし直ぐに真剣な表情を取り戻し、サイモンを睨み付ける。


アイ「但し、俺のやっている事には手を出すなよ。 結構重要かつ危険な事なんだからな」

サイモン「当然ですよ。私は教師。

 悪い事をしないのと生徒に何もしないと誓えるならば、貴方の過去と今には目をつむりましょう」


 サイモンは教師が生徒に見せる、やさしい笑みを見せた。


アイ「俺も仮とは言え教師だ。 バカな事を生徒ヤツらに見せるような真似はしないぜ」


アイもまた、フッと笑う。

 その笑みは信用した人に見せる笑みだ。

 二人はしばらく笑みを浮かべた後、体育の授業をじっと眺めていた。

 ルトーが一番でゴールし、嬉しそうに叫んでいた。



▲    ▽     ▲



キーンコーンカーンコーン


 四時間目の終了を告げるチャイムが鳴る。

 数学の教師、壱弐参四イーアル・サンスー先生は顔を上げた。


サンスー「あ、もう授業が終わったアルね。それじゃあ皆起立するアル」


 サンスー先生がそう言うが、誰も頭を上げない。まるで眠ったように机に突っ伏している。


サンスー「みんなー、どうしたアルかー?」


 サンスー先生がキョトンと首を傾げる。

 しかしこの女教師は今現在、4つも見逃しがあった事に気付いてなかった。

 まず一つ目は生徒に生気が全くと言って良いほど感じられない事。

 二つ目はその生徒の頭の中から、カサコソと何かが這いずり回るような音が聞こえる事。

 そして三つ目は、サンスー先生の頭上から50センチはある巨大な蜘蛛が近づいている事。


サンスー「みんなー、どうしたある?

 ん?何か頭の上に落ちたアル?

 何アルか、これ…。

 い!?

 イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」




最後に、4つ目。

サンスー先生を水晶越しに楽しそうに眺めている果心林檎かしんりんごに気付かなかった事…。


 暗闇の中、サンスー先生の悲鳴が水晶越しでもはっきりと聞こえる。

 その様子を覗いてるのは果心林檎だ。


果心「かわいい悲鳴……」


 果心は水晶の光に顔を照らされながら、楽しそうに笑った。


果心「やはり若い女性の悲鳴は格別に良いわ。テープで録音して毎日聞きたい位。

 でも、そんな事したら悲鳴の価値が下がってしまうからやめましょう」


 果心は水晶の明かりを消す。

 途端に悲鳴は消え、辺りは暗闇に包まれた。


果心「これで準備は整った。

 後は、パーが何とかするわ。

 そうすればあなたも外に出られるようになるわよ」


 林檎は闇に向けて話しかける。

 すると、闇が少しだけ揺らめいた。

 それに対し果心は軽く笑みを浮かべる。


果心「今から楽しみ?

  私もよ……」


 そう言うと、リンゴは歌を歌い始めた。

 まるで子守唄のように安らかな声で、彼女は歌い始めた。


 ♪踊れ踊れ、蜘蛛よ楽しく踊れ

  自ら作った舞台の上で

  八本足をカチカチならして

  踊れ踊れ、蜘蛛よ楽しく踊れ

  一緒に踊る馬鹿な相手が

  来るまで踊れ、カチカチと♪



 リンゴは闇の中で、楽しそうに歌った。 


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