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角が有る者達  作者: C・トベルト
第二章 悪魔から知恵を授かったソロモン
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第101話 氷鬼と色鬼の出会いの物語

〜アタゴリアン港町・住宅街外れ〜


パーは一人、住宅街を調べていた。

街の様子、人の気配、流通の有無…。

人が暮らした痕跡を必死に調べていたが、何も見えない。

パーは塵で言葉を作りつつ、一人呟く


パー「何じゃここは?

まるで廃墟みたいじゃないか」

『寂しい場所だな』『子どもがいない』『果心様とデートできんの』


パーは地面に耳を当てる。

ズリ、ズリと何かが蠢く音が聞こえてくる。

確実に何かが居るのだが、それを調べる気にはなれない。


パー「調べれば調べる程気味が悪い場所じゃの〜、果心様が心配じゃな。

朧は昼間は動けないし、なんか一気に老けた気分…」

『果心様は大丈夫だろうか?』『果心様の笑顔が見たいな』


パーはチラッと街の奥を見つめる。

果心はナンテ・メンドールの住居に案内されていった方向だ。


パー「…これは儂の勘じゃが、この街ナンテ・メンドールの策略でどうにかなっちまったんじゃないかな?

果心様泣くだろうな〜、あの人誰よりも優しい人じゃし」

『ナンテは一発殴られるべし、慈悲は無い』『果心様を泣かせる人は儂が許さない』


パーは立ち上がり、そして座り込む。


パー「やはり儂が付いていくべきじゃったか……いやいや、儂の細腕じゃ守りきれんか」『もうオジーちゃんだもんね』『果心様は永遠の17歳!異論は認めん!』


パーはポケットから何かを出す。

それは封筒だった。宛名には『大罪背負いし我が友へ』と書かれている。


パーはしばらく手紙を見つめていたが、やがて大きなため息をついた。


パー「アイツ呼ばなきゃ行けないよなー、あーやだやだ、アイツ自慢好きのお喋りだからなー」


パーはポイっと手紙を投げ捨てる。

しかし投げ捨てた手紙は宙に浮き、塵の力で何処かへ飛んでいく。


パー「……それでも、果心様の手助けにはなると思えば良いか。

行け、大罪の手紙よ」


パーが投げた手紙は塵に乗って海を越え、何処かへ消えていく。

パーはそれを見た後、街の中へ歩いていき……やがて路地裏へその姿を消していった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



〜ワールド・グレート・ピース号・プール〜


ユー「パパー!

見てみて、ユー泳げたよー!」

アイ「お、凄いなー」


水着に着替えたユーがベンチに座っているアイに楽しそうに話しかける。

アイはのんびり答えた後、上を見上げる。


アイ「……晴れてるなぁ」


アイの言う通り、天気は快晴だった。しかしアイの心は曇り続けている。…ダンクの事を思い出していたからだ。


アイ「…ダンク、今何をしてるんだ?

お前が初めて来た時も、こんな晴れの日だったなぁ」


アイは空を見上げながら一人呟く。

アイの心に、あの日の記憶が鮮明に思い出されていく。

あれはそう、今日と同じように空が綺麗な青に支配された綺麗な日の事だ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



〜ゴブリンズ・アジト〜



アイ(当時のゴブリンズは、まだ俺とススの二人だけだった。

何かできるか、何をやれば良いのか分からない俺達はとりあえずアジトの掃除をすることにしていた)


スス「リーダー、中庭の掃除終わった?」

アイ「いや、まだだなー……少しやってくるぜ」

スス「頼んだわよ。

あ、後で昼食作っておくわ」

アイ「期待して待ってるぜ」



アイは箒と塵取りを持ち、中庭に出ようと廊下を歩いていく。

後少しで中庭に着く、という所で奇妙な人影を見つけた。

暗闇の中で白く輝く人影だ。

俺は思わず身構え、話しかけてみる。


アイ「……!

あ、あれは一体何だ?

幽霊か?」


先ず、 最初に出てきた単語が幽霊だ。

ここは五十年戦争の基地だった。

その為いつ何処に幽霊が現れてもおかしくはないのだ。

しかも、その白い人影はこちらに近付いてくる。

俺は思わず冷や汗をかきながら白い人影を睨み付ける。

だが近付くに連れ、白い人影の正体が見えてきた。

包帯を全身に巻き付け、緑のズボンを履いた人間のような者だ。

人間のような者はペコリとアイに向けて頭を下げる。


「初めまして、少し聞きたい事が有るんだけど良いかな?」

アイ「……何だ?」

「俺はこんなナリしているが、オカルトハンターのダンクだ。

世界中の不思議な現象や魔術的現象を探し続けているんだ」

アイ「オカルトハンター?

それが何故こんな辺鄙な所に…」


アイは警戒を解かないまま尋ね、人間のような者は包帯で出来た顔を歪ませ余裕の笑みを浮かべる。


ダンク「一つ聞きたい事がある。

ここで不思議な現象もしくはオカルト染みた何かが起きてはいないか?」

アイ「…!」(ユーキ…!)


アイはさりげなく左手を人間のような者に向けていく。


アイ「生憎、お前に見せる現象は無いな」

ダンク「……攻撃する気なら止めとけ、お前じゃ俺には敵わない」

アイ「しゃらくさい!」


アイは怒りを露にしながら銀の左手の掌に取り付けられた射出口から銀色の球体を取り出す。

俺の得物、『アイスボム』だ。

それをダンクの顔めがけて投げつける。


アイスボムは衝撃と同時に炸裂し、中の冷凍剤が一瞬で相手を凍らせる。

これでダンクを簡単に氷漬けにさせられる…筈だった。

ダンクの顔に当たる筈のアイスボムが空中停止したのだ。


ダンク「フフフ、こんな玩具で何をする気…」


そう言う間にアイは跳躍し、ダンクのこめかみに蹴りを入れていた。

軽い衝撃が足に戻り、ダンクは壁際まで吹き飛ぶ。


ダンク「ぐ!」

アイ「悪いが喧嘩、始めさせて貰うぜ!」


ダンクはゆらりと立ち上がる。

そしてまた笑った。こめかみ蹴られて笑うとかどんな頑丈な体をしているのだろうか。


ダンク「ハハハハハハ、お前、中々強いな!

良いだろう、その喧嘩買った!

だが…」


ダンクは包帯に包まれた右腕を見せ、パラパラと包帯をほどかせる。

だがそこにある筈の右腕は、何処にもなかった。


アイ「!?」

ダンク「俺は包帯が本体なんでね!

殴っても蹴っても意味が無いぞ!

そしてこちらの攻撃は既に始まっている!」


それを聞いた時、ダンクの足元に何時の間にか魔法陣が出来ていて、それが桃色に輝いている。


ダンク「桃色魔法『ピンクレギオン』!」


魔法陣から現れたのは大量の豚達。

廊下を埋め尽くす豚の大軍が、アイ目掛けて走り出す!


アイ「何だと!?」

ダンク「貴様も豚のように走って逃げたまえ!」

アイ「お前が豚のように鳴け!

不成者格闘術(ナラズモノコマンド)

捷疾鬼香車(ランス・オブ・ショウシツキ)!」


アイは跳躍し、走り出す豚達の一匹の上に乗る。

そして一気に豚の背中を飛び乗りながら走り抜けていく。


ダンク「早い!」

アイ「豚のように鳴け!

ダンク!」


ダンクの近くまで走り抜き、アイは豚の一匹から跳躍し、もう一度ダンクの頭目掛けて蹴りつける。

しかし今度は少し大振りの攻撃だった為に頭を屈んでかわされてしまった。

そしてダンクの後ろには壁だ。

アイは空中で一回転し、壁に垂直に足を付ける。

そして、魔法陣目掛けて飛び降り、足で消す。

すると豚の大軍が一瞬で消えてしまった。今度はダンクが驚愕する番だ。


ダンク「何!?」

アイ「不成者格闘(ナラズモノコマンド)

影鬼の(カゲオニウォーク)!」


アイが叫ぶのと同時に、アイがダンクの目の前から消えていく。


ダンク「何っ!?消失魔法か!?」

アイ「残念ながら違うぜ!」


ダンクは急いで振り返る。

そこには何度も蹴られたアイの靴がダンク目掛けて高速で向かっていた。

ダンクは強力な一撃を受け、吹きとばされる。


ダンク「がは…!」

アイ「お前と俺じゃ、実力の差がありすぎるんだよ」

(頼むから倒れてくれよ…!

コイツで殴りたく無いんだ!)


アイはチラッと金属の腕に目を向ける。

しかし、ダンクは直ぐに立ち上がり呪文を唱える。


ダンク「幾ら蹴っても無駄だ!

俺は体が包帯ででき」

アイ「殴る!」


アイは躊躇なくダンクの顔面を殴り飛ばす。

そしてダンクはかべまで吹き飛び、壁が破壊される。


ダンク「ぐおおおお!?

何だこの馬鹿力!?」

アイ「き、金属の腕で殴っても効いてねえ!

何なんだアイツは!?」


アイは壁に空いた穴から侵入し、ダンクに近付く。

その瞬間、アイの体が巨大な金魚鉢の中に閉じ込められる。


アイ「……は?」

ダンク「やれやれ、やっと広い所に出られたな」


ダンクはゆっくりと立ち上がる。

そこは綺麗な花が咲く中庭だった。

しかし、アイの目線はダンクや中庭ではなく、空だ。

空から何かが落ちてくる。

漆黒の巨体と大きな口を持つ海の巨大生物、鯨が落ちてきたのだ。


アイ「何っ!?」

ダンク「鯨よ、愚者を飲み込め!」


落ちながら鯨は大きな口を開ける。

あの口で金魚鉢ごと食べる気なのだ。


アイ(このままじゃ喰われる!)

不成者格闘術(ナラズモノコマンド)

鬼飛飛車(オニトビジャンパー)!」


アイは跳躍し、金魚鉢の上から飛び出す。

ダンクはハッとした。


ダンク「む!」

アイ「この程度で、逃げられないと思うなよ!

鬼飛飛車(オニトビジャンパー)!」


アイは空を蹴り上げ、一気にダンクに近付こうとする…が、不意に上空が暗くなる。

見上げると、先程は金魚鉢に向かって落ちてきた鯨が、今はアイ目掛けて落ちているではないか!


アイ「何っ!?」

ダンク「俺の魔法をナメるなよ!

その程度で逃げられるわけないだろ!」


アイはダンクの方に目を向けると、ダンクは金魚鉢の中で包帯で出来た顔で笑顔を作っていた。


アイ「……自分が狙われる可能性も織り込済みかよ!」

ダンク「まだまだ戦いは終わらせ無いぜ!

堕ちろ鯨よ!」


鯨は巨大な口を開けてアイの方に落ちていく。

アイは少し…正確には2秒思案した後に、鯨に向かって跳躍した。


アイ「鬼飛飛角(オニトビジャンパー)!」


アイは空中を蹴り上げ、鯨の口の下側に向かって飛ぶ。

そして鯨の腹の下で、アイは空中停止する。

そして、空中で回転を始めた。


ダンク「何をする気だ!?」


アイが空中で高速回転する。

あまりに早く回転するため、風が吹き荒れ、中庭の花が吹き飛ばされそうになる。

鯨はアイを押し潰そうと一気に向かってくる。

そして後少しでアイに届くその瞬間、アイが叫んだ。


アイ「…この技は、空中で無ければ使えない。

見せてやる、鬼の宝撃を!

不成者格闘術(ナラズモノコマンド)

金角王(ゴールデンホーン)芭蕉扇(キングバショーセン)!!」


アイが鯨目掛けて拳を振り上げる。

それと同時に風が巻き上がり、突然小さな竜巻が発生する。

竜巻はあっというまに巨大化し、鯨を飲み込んでしまう。


鯨「!?」

アイ「吹き飛べテガブツ!!」

ダンク「う、うおおお!?」


ダンクは必死に草を掴んで飛ばされないよう踏ん張るが、

直撃を受けた鯨はそうは行かない。

まるで栓の抜けた風船のように物凄い速度で空へ飛んでいき、姿が見えなくなってしまった。

ダンクを守る金魚鉢が消滅し、地上に降りたダンクが呟く。


ダンク「何だ、あの技!?

人間技じゃねぇ!」


アイもまた地上に着地し、ダンクを睨み付ける。


アイ「どうだ、包帯男!

次は、お前…だ……」


しかし、次の瞬間アイは倒れ込んでしまう。ダンクはしばらくアイを見つめていたが、

ハッと正気を取り戻し、回復魔法をアイにかける。

体力がいきなり回復したアイは素早く立ち上がり、ダンクを睨み付ける。


アイ「…お前、今俺に何をした?」

ダンク「……ただの回復魔法だ。

副作用は無いから安心しろ」

アイ「違う!

何故俺を回復させたんだと聞いたんだ!

今の今まで殴りあっていたんだぞ!?」

ダンク「…魔法使いはな、タダの喧嘩をした後は必ず相手に回復魔法をかける決まりになってるのさ」

アイ「…魔法、使い?

お前、魔法使いだったのか?」

ダンク「今まで何だと思ってたんだ?

まぁいい、俺はこの先の現象に興味が有るんだ、回復してやったんだから早くそこまで案内しな」

アイ「…そういう腹づもりか。

だが、無意味だ。

お前が見たかったモノは目の前にある」

ダンク「…?」


ダンクはアイから視線を逸らし、中庭に目を向ける。

中庭の中心に、枯れた桜が植えられている事に気付く。


ダンク「……あの桜、か」

アイ「人は、あれを『血染め桜』と呼んでいる」

ダンク「血染め桜…」


ダンクはじっと桜を見つめるが、近付こうとはしない。

ふと、アイはダンクの足が震えている事に気付く。


アイ「?」

ダンク「なんて事だ……この俺が震えるなんてな。

今までさまざまな怪奇を見てきたが、こんなのは初めてだ。

……もっと、コイツのことを知りたいな」

アイ「…俺はお前の事が知りたいな」

ダンク「?」


ダンクはアイの方に目を向ける。

アイは不適な微笑みを見せた。


アイ「お前、なかなか強いじゃないか。

それに面白い体もしている……どうだ?俺と一緒にゴブリンズに入らないか?」

ダンク「ゴブリンズ?

何をする組織なんだ?」

アイ「あー……組織と言う割にはまだ人数二人しかいないんだけどな、

そうだな、世界を歩き回ったり悪戯したり……まぁなんか自由な組織だ」

ダンク「自由?

俺は数百年、あらゆるものから自由だったんだぜ。

今さら自由なんて……。

いや……」


ダンクは包帯で出来た顔を歪ませる。そして、右手を差し出した。


ダンク「たまには、誰かと百年を過ごすのも楽しいだろうな。

なってやるぜ、お前の仲間に」

アイ「……へへっ、そうでなくっちゃ!」


アイもまた手を差し出す。

銀色の手と白色の手は固く繋がり、ここに新たなゴブリンズが生まれた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


そして、今……。

色鬼ダンクの姿は見えず、銀色の手は虚空を掴む。


アイ「…………」


アイはしばらく銀色の手を見つめていたが、やがて空に目を向ける。

ダンクと初めて出会った時と同じ青い空だ。

アイは青い空を見ながら呟く。


アイ「ダンク……俺は信じているぞ。

お前が必ず俺達の元に戻ってくる事を」


アイは握りしめた銀色の手を、更に強く握りしめる。

その言葉が必ず叶うように、祈りながら。

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