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異世界料理道  作者: EDA
第五章 宿場町のギバ肉料理店
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宿場町のギバ肉料理店(上)①初日~開店準備~

2014.9/29 更新分 1/1

 出陣の準備は、整った。


 料理の詰まった鉄鍋には、大きな布の裏に防水用のゴムノキモドキの葉を縫いつけた蓋がかぶせられ、フィバッハの蔓草で厳重に封印が施されている。


 焼きポイタンとティノとアリアはそれぞれを清潔な布でくるんで、野菜用の袋の中。

 攪拌用の大きな木べらと、取りわけ用の小さな木べら、グリギの木で作ったまな板と、木皿が2枚、それに三徳包丁も同じ袋に封入している。


 もう一方の袋には、たっぷりの薪と、小さめの鉈、火付け用のラナの葉。


 それに、お釣り用にと両替しておいた赤の銅貨が30枚と、露店区域の責任者に支払う白の銅貨が2枚。そいつはすでに、腰の布袋に吊るしている。


 完璧だ。


 洗い物と、食糧庫の管理。刀の手入れと、薪やピコの葉の採取という朝の仕事もきっちり片付け、時刻はちょうど夜明けと中天のど真ん中。


 あとは、ヴィナ=ルウの到着を待つばかりである。


「いよいよだな」と、アイ=ファが言った。

「ああ、いよいよだ」と、俺は応じる。


「まずはこの10日間を切り抜けることだ」


「ああ。死に物狂いで、頑張るよ!」


「10日間も、この生活が続くのだな」


「10日間で終わっちゃったら、あんまり意味ないけどな」


「10日間、あのルウ家の長姉と半日を過ごすわけだ」


「ん?」


「まあ、頑張れ」


「おう、頑張る!」


「契の約束もあることだしな」


「ないよ! そんなもんは一切ない!」


 俺は、愕然とアイ=ファを振り返った。


「な、なんで今さらそんな話をほじくり返すんだよ? お前、お手伝いがヴィナ=ルウって決定したときも顔色ひとつ変えてなかったじゃないか!」


 アイ=ファはすました表情のまま、ぽんっと俺の肩に手を置いた。


「取り乱すな。冗談だ」


「あうう……」


「お前はお前の仕事を果たせ。私は私の仕事を果たす」


 そしてアイ=ファは、すました顔のまま、その瞳にとても柔らかい光をたたえた。


「……そうして、お前の無事な帰りを、待っている」



             ◇



 刻限通りに現れたヴィナ=ルウとともに、グリギの棒を使って鉄鍋を運搬し、恐怖の渓谷をも乗り越えて、俺たちは宿場町に到着した。


 まずは、《キミュスの尻尾亭》だ。

 店の主人ミラノ=マスの案内で宿屋の裏手に回り込み、これから10日間の苦楽をともにする屋台と、対面する。


「……くれぐれも、汚したり壊したりしないようにな」


 朝から仏頂面の親父さんに、俺は「はい」と愛想よく応じてみせた。

 ヴィナ=ルウは、素知らぬ顔でそっぽを向いている。


 車のついた、移動式の屋台である。


 高さは2メートル、横幅は1・5メートル。奥行は80センチほど。骨組みはもちろん丸太の造りで、頭の上には皮の雨よけが張られている。


 正面と側面は、腹の高さぐらいにまで割り板で壁が作られており、裏側の壁だけは、引き開け式の戸になっている。

 戸を開けると、中は空洞で、壁の裏側にはびっしりと粘土が塗りたくられていた。

 そして、その中に鎮座ましますのは、七輪のような形状をした底の深い鉢である。

 この鉢の中で火を焚いて、鉄鍋を温めるのだ。


 丸く穴の空いた天板に鍋をセットすると、上部の隙間はぴったりと埋まる。

 煙は、右側の足もとに通気口が空いており、そこから逃がす造りになっている。


 非常にシンプルな構造である。

 まあ、シンプルで困ることはない。


「よし。屋台の貸出料と場所代をいただこうか」


 俺はうなずき、白の銅貨2枚を引き渡した。


「それじゃあ、着いてきな」


 親父さんの先導のもと、通りに出る。

 中天の前に宿場町を訪れたのは初めてであるが、賑わい具合は、昼下がりの3割減といったところだった。


 それでも、俺とヴィナ=ルウがゴロゴロと屋台を押していくと、ものすごい量の目線が飛んでくる。


 何故に、森辺の民が屋台などを押しているのか、という、それらはすべて困惑と驚きと不審の目線ばかりであった。


 黄褐色の肌の人々。

 象牙色の肌の人々。

 黒い肌の人々。

 白い肌の人々。


 実にさまざまな色合いをした人々が、みな一様に俺たちを見つめやっている。


 森辺の装束を纏った異国人の俺と、森辺の民でありなおかつ色気の権化であるヴィナ=ルウの黄金コンビである。そんなふたりがよいしょこらしょと屋台などを押しているのだから、それを無視できる者などは、ひょっとしてひとりとして存在しなかったかもしれない。


「嫌ねぇ……何だか、いつも以上に注目されてるみたい……」


「いいんですよ。宣伝効果もばっちりじゃないですか?」


 これで少なくとも、「森辺の民が何か出店をするらしい」という評判が、宿場町の隅から隅まで伝達されることだろう。


 冷やかし半分でもいい、怖いもの見たさでもいいから、ひとりでも多くの人間が集まってくれることを祈るばかりである。


 宿屋のエリアを抜けて、露店区域に達すると、もうほとんどの店が商いを始めていた。


 それらの人々も、通行人と一緒になって、目線を飛ばしてくる。

 涼しい顔をして通りすぎていくのは、恐鳥トトスぐらいのものである。


「やあ。本当に始めるんだな」


 途中で声をかけられた。

 もちろん野菜売りの、ドーラの親父さんだ。


「はい。とりあえずは10日間、よろしくお願いします」


 ミラノ=マスが足を止めてくれなかったので、俺は屋台を押しながら頭を下げてみせた。


 親父さんの、だいぶひきつり具合の緩和されてきた笑顔に見送られながら、さらに北へ。


 そうして案内されたのは、まさしく露店区域のどん詰まりだった。

 露店のために、街道の左右の林が切り開かれている、そのスペースの最北端である。


 位置は、北向きに立って、右手側。

 あと2つか3つも露店を出したら、雑木林に行き当たってしまう。まあそうなったらどんどん林を切り開いていくのだろうが。何にせよ、現段階においては露店区域の端も端である。


 人通りは、だいぶん少ない。

 通りをはさんだ正面のスペースは、無人。


 お隣りさんは、何やらあやしげな装飾品を布の上に広げている老人で、俺たちの姿を見ると、子どもみたいにぽかんとしていた。


「決まりごとは、昨日説明した通りだ。声を張り上げて客を呼び込まないってのと、その鉢の外で火は焚かないってことは、特に厳重に守ってくれ。……そして、そんなことをしてるやつを見かけたら、必ず俺に報告すること」


「了解です。色々とありがとうございました」


「ふん。……あとは、看板だな。おい、看板には何て書けばいいんだ?」


「え? 看板ですか?」


 確かに屋台には看板が掛かっていたが、右下の隅に《キミュスの尻尾亭》の記号だか象形文字だかが刻みこまれているだけで、後は無地である。


「看板に何も書いてなかったら、何を売ってるかもわからないだろうが? 何と書けばいいんだ?」


 言いながら、親父さんは腰から下げていた小さな皮袋を手に取って、口の紐をゆるめ始めた。


 中身は緑色のどろりとした液体で、小さな筆らしき棒が突っ込まれている。


 ちょっと鼻につんとくる匂いだが、少し青くさい気もする。

 植物由来の塗料なのかもしれない。


「それじゃあやっぱり……『ギバ』ですかねえ?」


「……それしかないだろうな」と息をつき、親父さんはその筆と塗料ででかでかと大きな記号を書き始めた。


 楕円形と曲線を組み合わせた記号であり、なんとなく、上の方に伸びた4本の線の丸まり具合が、ギバの角と牙に見えなくもない。


「ああ。ギバっぽくていい感じですねえ」


「……屋台は必ず毎日店に戻してくれ。どこか傷んでないか確認をするからな」


「はい。夕暮れよりもっと早くには引き上げる予定ですので」


 最後にまた「ふん」と言い捨ててから、親父さんは立ち去っていった。

 お隣りさんのご老人は、まだぽかんとした目で俺たちを眺めやっている。


「さて。それでは準備に取りかかりましょうか」


 俺はヴィナ=ルウに手伝ってもらって、まずは鉄鍋を封印していた蔓草を解除することにした。


 そうして布とゴムノキモドキの蓋が取りのけられると、ヴィナ=ルウは「うわぁ……」と楽しそうな声をあげる。


「タラパの匂いがするとは思ってたけどぉ……これは、しちゅーなのぉ……?」


「いえいえ。そんなに時間も食材費もかけられませんので、これはタラパのソースに過ぎませんよ」


 それでもタラパをまるごと2個も使用しているので、巨大な鉄鍋の6分目ぐらいにまで真っ赤なソースが揺れている。


「じゃあ、火をつけます。ヴィナ=ルウは、そっちの袋を開けておいてもらえますか?」


「はぁい」と応じるヴィナ=ルウを横目に、俺はラナの葉で鉢の中に火を灯す。


 鍋はすっかり冷えてしまっていたので、まずはガンガンに燃やさせていただいた。

 この鉢の大きさと、口から鍋までの距離を考えるに、あの宴で使用した簡易型かまどより火力はさらに落ちるであろうから、鍋全体に熱が回るまでは、とにかく強火で攻めるしかない。


 持てるだけの薪を持ちこんできたが、たぶんこれでは最後までもたないだろう。その場合は、背後と横合いの林から薪を調達することになる。そのための、鉈だ。


 営業時間は、およそ5時間強ほどを予定していた。

 家を出発したのが夜明けと中天の真ん中で、家に帰るのは中天と日没の真ん中あたり。そこから移動に要する2時間を差し引いた数字である。


 俺の脳内時計によると夜明けが6時で、中天が12時、日没が7時であるからして。開店は午前の10時、閉店は午後の15時半、という感覚だ。


「ううん……今さらだけど、何だか不思議な感じねぇ……まさか自分が、宿場町でものを売る側になるだなんて、わたしは夢にも思ってなかったわぁ……」


「それは俺も同意見ですけど、まあ、森辺で過ごしてきた歳月が違うんだから、ヴィナ=ルウは余計にそう思うでしょうね」


 もしかしたら、ドンダ=ルウはヴィナ=ルウが森辺の外の生活に憧憬を抱いていることを知っていて、それで彼女を俺の手伝いに任命したのだろうか?

 いや、そんな心情を知っていたら、逆に外には出したくなくなってしまうか。


 だけどとにかく、本日のヴィナ=ルウの表情は明るく、普段よりも無邪気にはしゃいでいるように見えた。


「だけど、本当に売れるのかしらぁ……こっちは、全然人が少ないじゃない……?」


「そりゃあまあ、宿場町の端っこなわけですからね」


 北からやってきて宿場町に入ってくる者、そして宿場町を出て北の果てへと向かう者。そういった人々がちらほらと行き来する姿が見受けられるぐらいで、買い物目的の人間などはほとんど見当たらない。


「ま、初日ですから気負いすぎずに頑張りましょう。今日と明日ぐらいは顔見せみたいなものですよ」


 森辺の民がギバ肉の料理などを売り出しているのだから、噂にならないはずがない。その内の何人が好奇心に負けて店を覗きに来てくれるか。まずはそこが最初の生命線だ。


 ぷすぷすとタラパのソースが可愛らしい音をたて始めたので、俺はヴィナ=ルウから受け取った木べらで中身を攪拌することにした。


「ヴィナ=ルウ。後でこの攪拌を代わってもらいたいんですけど、この中にはたくさんのハンバーグが沈んでいるんで、潰したりしないように気をつけてくださいね」


「わかったわぁ。……それにしても、いい匂いねぇ……こんな時間なのに、お腹が空いてきちゃいそう……」


「あ、もしも食べられそうだったら、あとで1個試食してみてください」


 俺の言葉に、ヴィナ=ルウが瞳を輝かせる。


「いいのぉ? ……だってこれは、売り物なんでしょう……?」


「いやあ、自分で売るものの味ぐらいは知っておいてもらわないとまずいんで。きちんとその分は多めに作ってきましたよ」


 屋台のかたわらにしゃがみこんで袋の中身をあさっていたヴィナ=ルウが立ちあがり、つつつと俺に忍び寄ってくる。


 とてもいやーな予感がしたのだが、ヴィナ=ルウは俺の腰あてのあまった布をきゅっとつかんでくるばかりだった。


「うれしいわぁ……ありがとう、アスタ……」


「い、いえ。これも仕事の内なんで」


 宴の準備のときもそうであったが、やはりこのヴィナ=ルウも、自分の仕事の最中には不埒な真似に及ぶ気はないらしい。そこはやっぱり、森辺の民なのだ。


 それならば――仕事のパートナーとして、上手くやっていけるかもしれない。


「よし。ぼちぼち温まってきたかな。それじゃあ、攪拌をお願いします」


 申し訳ていどに備えつけられた、鍋の横の作業台の上に、黒いグリギのまな板を敷いて、ティノとアリアと、そして木皿と三徳包丁も置く。


 ティノは、バラのようにふわりと葉っぱの重なった、レタスのごとき野菜である。

 ただし食感はキャベツのほうに近いので。俺はその大きな葉を1枚むしると、そいつを千切りに刻んでやった。

 タマネギのごときアリアは、薄く、薄ーくスライスする。


 切り終えたならば木皿に移して、ざっくりと混ぜておく。


 そして、布の包みから解いた焼きポイタンも作業台の上に広げれば、もう準備は万端だ。


「全然難しいことはないですけど、ヴィナ=ルウも作り方を覚えておいてくださいね」


「あらぁ……ずいぶん小さいポイタンねぇ……」


「はい。1枚にポイタンを半分ずつぐらいしか使っていませんから」


 普段はルウの家でも2個ずつポイタンを焼いているから、直径は30センチぐらいになっていたはずだ。

 で、その4分の1ていどの量しか使われていないこの焼きポイタンは、せいぜい直径14、5センチといったぐらいである。

 ギーゴを混ぜているので、以前よりはふんわりと焼きあがっており、厚さは1・5センチほど。

 クリーム色をしたイングリッシュマフィンのように愛くるしいお姿である。


「この小さなポイタンの上に、ティノとアリアをどっさり敷きつめます。目安は、ポイタンよりやや薄めぐらいですかね。で、さらにその上に、ハンバーグを乗せるわけです」


 言いながら、俺が平べらで鍋の中のハンバーグをすくいあげると、ヴィナ=ルウはまた「あらぁ……」と驚きの声をあげた。


 いつもは楕円形をしたハンバーグが、綺麗なまん丸の形をしていたからだろう。


 重量は、目算で180グラム。

 大きさは直径12センチていど、厚みは3センチていど。

 真っ赤なタラパソースにまみれたそいつを千切りティノの上に乗せ、さらに新たなポイタンを上にかぶせる。


『ギバ・バーガー』の完成である。


「簡単でしょう? さあ、どうぞ」


 ヴィナ=ルウから撹拌用の木べらを受け取り、代わりに『ギバ・バーガー』を差し出してみせる。


「……なんだか……」


「はい?」


「なんだか、すごく美味しそう……」


「美味しいですよ。俺は大好きです」


「……晩餐じゃないから、祈りの言葉は捧げなくてもいいのかしらぁ……?」


「いいんじゃないですか? 俺にはよくわかりませんけど」


 何だかヴィナ=ルウは、食べるのがもったいないとばかりに、しばらくまごまごと立ちつくしていた。


 が、やがて意を決したように、肉感的な唇を開き――

 ぱくりと、『ギバ・バーガー』にかじりついた。


「こぼさないように気をつけてくださいね? 横向きにして持ったほうがいいですよ」


 うなずきながら、ぱくぱくと食べていく。

 これはもうこの3日間ぐらいのアイ=ファとの試食会で判明していたことなのだが。森辺の女衆が両手でハンバーガーを握りしめて美味しそうに頬張っている姿は……実にその、愛くるしいものなのだった。


 普段はクールぶっているアイ=ファの愛くるしさもとてつもなかったが、アダルティな魅力の塊であるヴィナ=ルウも、まあ、何というか、とてつもなさでは引けを取らないようである。


 やがて試食を終えたヴィナ=ルウは、またちょっとうつむきながら、俺の腰あてをきゅっとつかんできた。


「……美味しい……」


「そ、そうですか。それは良かった!」


 もしかしたらヴィナ=ルウは、流し目をくれたり身体をくねらせたりするよりも、ちょっと幼げに振る舞ったほうが魅力も倍増するのではなかろうか。


 まあ、俺がそのようなことを分析しても、誰も得はしない。


「どうでしょうかね。売れそうですかね」


「それはわからないけどぉ……これが美味しくないっていうんだったら、町の人間にギバの肉を食べる資格はないでしょうねぇ……」


 アイ=ファと同じような感想だ。

 だけど俺は、そこまでは思っていない。


 意外性をつくためにこの『ギバ・バーガー』を最初の武器として選択した俺ではあるが。これはいわゆる変化球である。


 ハンバーガーに類する料理がこの町に存在しないならば、それは驚きもされるだろうが。ギバ肉の本当の美味さを知ってもらうためには、やはりステーキや焼肉などのシンプルな料理の力も必要だと思う。


 それに、ハンバーグはパテ作りに時間がかかる上、この鉄鍋のサイズではせいぜい20個ぐらいしか持ち込めない。焼いたパテを別の容器で運搬し、減ったソースは現地で調理してしまえば、まあ何とか40個までは対応可能であるという計算は立っているが。あくまでこれは、宿場町を攻略するための第一投目であるに過ぎない。


 軽食と言えばハンバーガー、というのは極めて安易な発想であるが。キミュスの肉饅頭を筆頭に、この宿場町における軽食とは肉と野菜と炭水化物を組み合わせたものが主流であるようなので、その気風には沿っていると思う。


 そして、タラパはかなり香りが強い。強引な呼び込みが禁止されているというのなら、この「香り」というやつは通常以上に重要になってくる。香味野菜のアリアと果実酒とともに煮込んだこの香りは、道ゆく人々の食欲中枢を大いに刺激してくれるだろう。


 この『ギバ・バーガー』であるていどの評判を呼びこむことがかなったら、俺はメニューをステップアップ――というか、逆にシンプルなメニューへと切り替えていき、段階を踏んでギバ肉の美味さを伝えていく目論見なのだった。


 まずはこの10日間で、どのステップにまで進めるか、である。

 個人的には、最終日までに20食から30食ぐらいをさばけるようになり、次の10日間で新メニューをお披露目できたら上出来かな、と考えている。


 本日は、食材費の節約のため、わずか10個しか準備はしていない。

 実にささやかな量だが、初日にこれを完売できれば、まずは上等であろう。


「よし、それじゃあそろそろ戦闘開始といきますかね!」


 と、俺が宣言した、その瞬間。

 トン、と何かが皮の屋根を叩く音がした。


 そして。

 突如として、天が割れたかのような、雨。


「きゃあ」と緊迫感のない声をあげつつも、ヴィナ=ルウが素早く物入れの袋を屋根の下にかっさらってくれた。


 森辺でもお馴染みの、スコールじみた強雨である。

 それはまあ、徒歩で1時間ていどの距離しか離れていないのだから、このあたりだって同じ気象条件ではあるのだろう。


 しかし――


 降りだしたときと同様に、ぴたりと唐突にスコールが止んだ、その後は。

 ちらほらと通りを歩いていた人々すらも、俺たちの目の前からはきれいさっぱり跡形もなく消失してしまっていたのだった。

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