愛しき日々(三)
2019.8/27 更新分 1/1
*予定を変更して明日まで更新いたします。
翌日である。
シュミラル=リリンとヴィナ・ルウ=リリンは予定通り、ファの家に向かうことになった。
「それでは、行って参ります。なるべく、遅くならいよう、気をつけますので」
「なに、かまうことはない。家のかんぬきは掛けずにおくので、好きな時間に戻ってくるがいい」
家長のギラン=リリンは、笑顔でふたりを見送ってくれた。
その右足には長兄が、左足には長姉がへばりついている。シュミラル=リリンの顔を見上げながら、長兄は「ちぇーっ」と不満の声をもらした。
「ぼくもファのいえ、いきたかったなあ。アスタのかれー、たべてみたかった!」
「そんなに大勢で押しかけたら、シュミラルたちも落ち着いて話せぬだろう。俺たちは俺たちで、いずれお邪魔させてもらうとするさ」
「ほんと? みんなでいくの?」
「うむ。復活祭が、一段落したらな。もしくはアスタたちをリリンに招いて、かまど仕事をお願いしてみるか」
ギラン=リリンは笑いながら、幼子たちの身体を軽々とすくいあげた。
「さあ、行ってくるがいい。アイ=ファとアスタによろしくな」
「はい。それでは」
シュミラル=リリンはトトスにまたがり、ヴィナ・ルウ=リリンへと手を差しのべた。
ヴィナ・ルウ=リリンは意外な身軽さで、ふわりとトトスの背に飛び上がる。そのなよやかな外見からは想像がつかないぐらい、彼女は身体能力に優れているのだ。
幼子たちに手を振り返してから、シュミラル=リリンは広場の外へとトトスを動かした。
森辺の道に出て、足先で合図を送ると、トトスはたちまち颯爽と駆け始める。
「そういえば、トトスの力比べなんていう話が持ち上がってるのよねぇ……? あなたがそれに出たら、最後まで勝ち抜くことができるのかしらぁ……?」
シュミラル=リリンの身体をぎゅっと抱きすくめたヴィナ・ルウ=リリンが、背後から囁きかけてくる。
吹きすぎる風を心地好く感じながら、シュミラル=リリンは「どうでしょう」と答えてみせた。
「貴族、立派なトトス、所有しています。その力、未知ですので、わかりません」
「そう……シン=ルウが剣技の力比べで最後まで勝ち抜いたとき、ララはとても喜んでいたのよねぇ……わたしが同じ喜びを望むことは、おこがましいのかしら……」
余人の耳がないので、ヴィナ・ルウ=リリンの声には甘えるような響きが込められていた。
胸の中に温かいものを感じながら、シュミラル=リリンは「すみません」と応じてみせる。
「私、収穫祭、力比べ、勝ち進むこと、できないので、ヴィナ・ルウ、喜び、授けたいのですが……約束、できないこと、心苦しい、思います」
「あらぁ、そんなことは気にしないで……というか、あなたはなんでも真面目にとらえすぎよぉ……」
ヴィナ・ルウ=リリンはくすくすと笑いながら、いっそう強い力でシュミラル=リリンを抱きすくめてきた。
「わたしはこうして、あなたと一緒にいられるだけで幸せなんだから……まあ、この幸せもあとひと月足らずのことなのだけれど……」
「はい。ヴィナ・ルウ、冗談、意地悪です」
「ええ、わたしはもともと意地悪な女だからねぇ……」
しかしヴィナ・ルウ=リリンは、そうやってふたりに訪れる長きの別れを、冗談にまぎらわせてくれているのだ。
それはヴィナ・ルウ=リリンの優しさであり、強さであるはずだった。
「ところで、ずいぶん早い出発になってしまったわよねぇ……アスタはもう家に戻っているのかしら……?」
「はい。この時期、勉強会、取りやめて、下ごしらえ、集中している、聞いています。ファの家、戻っているはずです」
現在は、せいぜい下りの四の刻といったところであった。今日は早々に数多くのギバを仕留めることがかなったので、普段よりも早めに仕事を切り上げることになったのだ。
ルウの血族の集落の前を通りすぎ、さらに北へとトトスを駆けさせる。
しばらくすると、ファの家の入口が見えてきた。
「到着です。トトス、降りましょう」
先にシュミラル=リリンが地面に降りて、またヴィナ・ルウ=リリンに手を差しのべる。
そうしてファの家の広場に足を踏み入れると、そこには何台もの荷車がとめられていた。
「あら……すいぶん多くの人間が集まってるみたいねぇ……」
「はい。想像より、多いです」
ファの家の商売に関しては、さまざまな氏族が力を添えているのだと聞いている。それにしても、これはなかなかの数であった。
それに、ファの家とルウの血族の他にトトスや荷車を購入した氏族はない、とも聞いている。ならばこれは、すべてファの家が購入した上で、余所の氏族に貸し与えているものであるはずだった。
(いまならば、どの氏族でもトトスや荷車を買えるぐらいの富を有しているはずだが……その前に、アスタがこれだけのトトスと荷車を買い集めた、ということなのだろう。余所の氏族から人手を借りるためには必要な投資であったのだろうし、そしてそれ以上に、トトスの利便性が森辺の生活を豊かにするはずだと考えたのだろうな)
そんな風に考えながら、シュミラル=リリンは愛する伴侶とともに歩を進めていった。
母屋の横手には、荷車から解放されたトトスたちが木に繋がれて、枝の葉を食んでいる。自分のトトスもそれに仲間入りをさせてから、いざかまど小屋のほうに向かおうとすると――頭上から、「おい」という声が降ってきた。
「お前は、シュミラル=リリンだな。ずいぶん早い到着だったではないか」
そんな言葉とともに、声の主そのものも木の上から降ってくる。
ヴィナ・ルウ=リリンは「きゃあ」と気の抜けた声を発しながら、シュミラル=リリンの腕に取りすがってきた。
「なんだ、ティアだったのねぇ……いきなり飛び降りてくるから、びっくりしたじゃない……」
「そうか。お前はびっくりしても、あまりびっくりしているように見えない人間であるようだな」
地面の上にちょこんと立ったティアは、真面目くさった面持ちで頭を下げてきた。
「お前とは、なかなか挨拶をする機会がなかった。もうずいぶん古い話になってしまうが、お前がティアの傷の手当てをしてくれたことを深く感謝している」
「いえ。あなた、アスタ、救うため、傷、負ったのですから、私、力を尽くす、当然です」
「そうか。ともあれ、お前がいなければティアは魂を返していただろう。それを感謝する気持ちに変わりはない」
ティアは、モルガの山に住まう聖域の民である。その小さな身体には、以前に見たときよりも遥かに強靭な生命力が蘇っているようだった。
「ティア、元気そうで、何よりです。傷、まだ、完治しないのですか?」
「うむ。右肩だけが、どうにも不自由であるのだ。それ以外は、ほぼ完全に力を取り戻したと思う」
そう言って、ティアは軽く右肩を回す仕草を見せた。
「何か、大事な筋を痛めてしまったのだろう。これでは、マダラマを相手取ることはできない」
「そうですか。生命、失うほどの、深手だったので、しかたありません。養生、必要です」
「うむ。なんとか狩人としての力を取り戻せるように、励もうと思う」
そう言って、ティアはふいに破顔した。
何か、見る者の心を動かしてやまない笑顔である。シュミラル=リリンは森辺の民と出会って、この世にこれほど純真な心を持つ一族があったのかと驚かされたのであるが、ティアはその上をいく存在であったのだ。
しかし、それも不思議な話ではないのだろう。
彼女は、聖域の民なのである。
大神アムスホルンの眠りとともに、魔術の技を封印して、野の獣のごとき生を歩むことを選んだ、ほとんど神話の登場人物じみた存在であるのだ。その頬や手の甲や足の甲に刻まれた刻印がどのような意味を持つのか、それを読み解くすべも王国からは失われて久しかった。
(ラダジッドたちが驚くのも無理はない。あまり大きな声では言えないが……東の民にとって聖域の民というのは、ほとんど憧憬の対象であるのだからな)
魔術の文明が終焉を遂げて、鋼と石の新たな文明が訪れたとき、最後まで未練がましくしていたのが東の民たちであったのだ。
それゆえに、東の王国ではなかなか新たな文明が根付かず、ひとたびは滅亡の危機を迎えている。ラオの一族が再興の祖として石の都を築いていなければ、そのまま辺境の蛮族として生きるしか道はなかっただろう。王国の民でもなく、聖域の民でもない、自由開拓民よりも下賤の存在として、すべての人々から疎まれていたはずだ。
(しかし、もしかしたら……森辺の民が、それに近い存在であったのかもしれない)
最近のシュミラル=リリンは、そのように考えていた。
理由は、ルウやリリンの人々から聞き及んだ、《ギャムレイの一座》にまつわる逸話のためであった。
その一座に属する吟遊詩人が、アスタのために『白き賢人ミーシャ』と『黒き王と白き女王』の歌を贈ったというのだ。
東の民であったシュミラル=リリンは、それらの歌をどちらも知っていた。しかし、それを森辺の民と繋げて考えたりはしていなかったのだった。
特に衝撃を受けたのは、『黒き王と白き女王』の歌である。
あの歌に登場する雲の民ことガゼの一族が、森辺の最初の族長筋の氏と同一であるなどとは、考えが及ぶわけもなかった。
しかもルウ家の最長老ジバ=ルウは、白き女王の一族こそが聖域の民だったのではないかと指摘したと聞いている。
森辺の民の祖が、かつて東の王国を捨てたガゼの一族と、聖域の民――そのようなことが、一介の商人に過ぎないシュミラル=リリンに想像できるはずもなかった。
もちろん、何か証のある話ではない。すべてが憶測であるのだ。
それゆえに、森辺においてはこの話も重要視されていないのだと聞く。ジェノスの貴族たちにも、王都の外交官フェルメスにも、この話はまだ伝わっていないはずだった。
(だが……ラオの一族に数々の叡智をもたらしたミーシャが、本当に《星無き民》であったとすると……アスタとの関連性を考えずにはいられなくなってしまう)
森辺の民は、とても不安定な存在であった。それこそ、王国の民としても聖域の民としても不十分な、どっちつかずの存在であったのだ。
それが、アスタという特異な存在を受け入れたゆえに、王国の民としての安定を迎えつつある。
それは、ミーシャの存在によって新たな王国を再建したラオの一族と、あまりに相似した結果であった。
(やはり、アスタが森辺に現れたのは、偶然でなく必然だったのだろうか。それゆえに……王都の外交官フェルメスは、アスタの存在に執着しているのだろうか)
そのとき、ヴィナ・ルウ=リリンがシュミラル=リリンの腕をぎゅっと抱きすくめてきた。
「どうしたのぉ、あなた……? あなたが黙り込んでしまったから、ティアが困っているみたいよぉ……?」
視線を転じると、ティアはシュミラル=リリンの顔を見上げたまま、小首を傾げていた。
「ティアは何か、シュミラル=リリンに失礼な真似をしてしまっただろうか? そうであれば、詫びさせてもらいたく思う」
「いえ、そのようなこと、ありません。……あなたの存在、想像力、刺激されてしまうのです」
「うむ、よくわからない。とりあえず、お前たちが顔を出せば、アスタは喜ぶと思うぞ。昨日から、子供のようにはしゃいでいたからな」
そう言って、ティアはとことこと手近な樹木に近づいていった。
その姿に、ヴィナ・ルウ=リリンは「あらぁ……」と声をあげる。
「また木登りの修練……? わたしたちを案内してくれたりはしないのかしら……?」
「うむ。ティアはファの家の家人ではないからな。案内などをする筋合いはない」
そんな言葉を残して、ティアは木の上に消えてしまった。右肩が不自由とは思えない身のこなしである。
「そういうところは、愛想がないわよねぇ……あなた、大丈夫……?」
「はい、大丈夫です。アスタのもと、向かいましょう」
シュミラル=リリンが微笑を向けると、ヴィナ・ルウ=リリンもほっとした様子で微笑んだ。
そして、名残惜しそうにシュミラル=リリンの腕から離れていく。
「伴侶に触れるのは禁忌でないけれど、アスタたちが目のやり場に困るでしょうから、つつしまないといけないわよねぇ……」
「はい。残念ですが」
「ええ、とても残念……ファの家に出向くことは大賛成だったけれど、その一点だけが不満だわぁ……」
そう言って、ヴィナ・ルウ=リリンは一瞬だけ夜の顔を見せた。
「まあだけど、ファの家で夜を明かすわけではないからねぇ……アスタたちとの晩餐も楽しみだし、それを終えて家に戻るのも楽しみだわぁ……」
「はい。気持ち、同じです」
シュミラル=リリンはヴィナ・ルウ=リリンの身体を引き寄せて、その肢体を強い力で抱いてみせた。
「あ……」と、ヴィナ・ルウ=リリンは甘い息をもらす。
「もう……いきなり何をするのよぉ……」
「はい。晩餐、終えるまで、我慢、できるように、抱擁です」
「……家に戻るのが余計に待ち遠しくなる、とは思わないのかしら……?」
シュミラル=リリンから身を離したヴィナ・ルウ=リリンは、潤んだ瞳で上目遣いにこちらを見つめてきた。
「ヴィナ・ルウ、その眼差し、危険です」
「だから、それはあなたのせいでしょう……? ティアが覗いていたら、さぞかし呆れられるでしょうねぇ……」
ふたりはしばし気持ちを落ち着けてから、いざかまど小屋へと向かうことになった。
すでに気配は察していたが、かなりの賑わいである。小屋の外に設置されたかまどにも火が焚かれて、たくさんの女衆が下ごしらえに励んでいた。
「ああ、アイ=ファ……」と、シュミラル=リリンが声をあげかけたところに、いくつかの影が足もとにやってくる。それはファの家人たる3頭の犬たちであった。
「ようやく来たか。ずいぶん時間がかかったようだが、ティアとでも語らっていたのか?」
女衆のひとりと語らっていたアイ=ファが、そのように問うてくる。このように賑やかな中でも、シュミラル=リリンたちの気配に気づいていたのだろう。
「はい。ティア、挨拶していました。来訪、早くて、お邪魔でしょうか?」
「邪魔というなら、私も邪魔者だ。これだけ皆が忙しそうにしているのに、何を手伝うこともできんからな」
すると、アイ=ファのそばにいた若い女衆が「あら」と声をあげた。
「アイ=ファを邪魔だと思う人間なんて、いるわけがないじゃない。みんながどれだけ浮き立っているかもわからないの?」
「……私が突っ立っているだけで心を浮き立たせる人間がいるとは思えんが」
「それは、アイ=ファの心得違いね。もちろん、突っ立っているだけじゃなく言葉まで交わしてくれたら、みんないっそう嬉しいでしょうけれど」
その気安い口調で、シュミラル=リリンは思い出した。これはアイ=ファの幼馴染であるサリス・ラン=フォウであったのだ。
「おひさしぶりです、サリス・ラン=フォウ。元気そうで、何よりです」
「あら、わたしなどの名を覚えてくださったのですね。光栄です、シュミラル=リリン」
と、客人に対しては礼節を忘れない。彼女は元来、とてもつつしみ深い人柄であったのだ。
彼女とは、ティアの治療を任されたときに顔をあわせていた。あのときはアスタもティアにつきっきりであったため、彼女を筆頭とする近在の女衆が食事の準備などをしてくれたのだ。
「ともあれ、邪魔ではないが、アスタは仕事のさなかだ。それが終わるまでは、自由にくつろいでいてもらいたい」
「はい。挨拶だけ、よろしいですか?」
「うむ。そちらの入り口から呼びかけるがよい」
シュミラル=リリンはアイ=ファの示すほうに足を踏み出そうとしたが、その間も犬たちが足もとにまとわりついていた。
その姿に、アイ=ファはふっと目を細める。
「お前はずいぶん私の家人たちに好かれているようだな、シュミラル=リリン」
「はい。私の身体、猟犬の香り、ついているのでしょう。さきほどまで、ともに、仕事、果たしていましたので」
「同胞の香りがするだけで、そうも懐くとは思えんな。余所の犬はどうだか知らんが、私の家人たちは心清き人間を嗅ぎ分けられるはずだ」
すると、ヴィナ・ルウ=リリンがくすくすと忍び笑いをした。
「それじゃあ、この子たちがシュミラルにばかりまとわりつくのは、わたしの心が清くないことを嗅ぎ取っているからなのかしら……?」
「いや、そういう意味で言ったわけではないのだが……気分を害してしまったのなら、詫びよう」
「あなたも真面目ねぇ、アイ=ファ……わたしの軽口なんて、気にする必要はないわよぉ……」
アイ=ファは仏頂面で、前髪をかきあげた。その様子を見て、サリス・ラン=フォウもくすりと笑う。
そうしてふたりはかまど小屋の入り口から、内部を覗き込むことになった。
こちらでも、10名以上のかまど番が働いている。かまどの火と相まって、むせ返るような熱気であった。
その中で、アスタがてきぱきと指示を送っている。
女衆たちは、手慣れた様子でその指示に従っていた。
おおかたは若い女衆であったが、中には年のいった女衆もいる。さまざまな氏族から集った人々であるのだろう。
その光景は、シュミラル=リリンの胸に小さからぬ感銘をもたらした。
同じような光景は、ルウやリリンの家でも何度となく目にしている。
しかしそちらに集うのは、おおよそがルウの血族であった。例外は、アスタがこれらのかまど番を率いておもむいてきたときのみである。
血の縁を重んじる森辺の民が、このように氏族の区別もなく同じ仕事に励むというのは、やはり当たり前のことではないのだ。
シュミラル=リリンが家人として迎えられる前は、いっそうその傾向が強かったのだと聞いている。異国生まれのアスタが新しい風を吹き込んだことで、そういった垣根が取り払われたのだろう。
(これは、正しき行いだ。それだけは、動かし難い事実だろう)
アスタが、ふっとこちらを振り返った。
その顔に、まぶしいばかりの笑みが広げられる。
「シュミラル=リリンに、ヴィナ・ルウ=リリン! もう来てくださったのですか?」
「……はい。狩人の仕事、片付きましたので」
「そうですか! 下ごしらえの仕事はもうすぐ完了しますので、少々お待ちくださいね!」
すると、アスタのそばにいた小柄な女衆が楽しげに微笑んだ。
「でも、それが済んだら晩餐の支度でしょう? 仕事は山積みですよ、アスタ」
「うん、それはわかってるけど……」
「冗談です。下ごしらえが済んだら、後片付けはおまかせください。晩餐の支度の前に少しは語らっておかないと、気持ちが落ち着かないでしょうからね」
「ありがとう、ユン=スドラ」
アスタが笑顔を向けると、その女衆も幸せそうに微笑んだ。彼女は先日、ともに城下町まで出向いたユン=スドラであったのだ。
(私やヴィナ・ルウやアイ=ファばかりでなく、数多くの人間がアスタから幸福な気持ちをもらっている。もっとも肝要なのは、その一点であるのだ)
そのように考えて、シュミラル=リリンはいったんきびすを返すことにした。