六氏族の収穫祭④~棒引き~
2019.7/11 更新分 1/1
小休止を終えて、力比べの後半戦である。
次なる力比べは、棒引きであった。腕力ばかりでなく、反射神経や気配の読み合いなどといった、狩人の総合力が問われる競技だ。
ここからは個人と個人の競い合いとなるために、対戦相手はくじ引きで決められる。その末に、第1試合の出場者となったのは、なんとアイ=ファとジョウ=ランであった。
「うわー、いきなりアイ=ファかあ。あいつ、くじ運がないなあ」
ユーミが溜め息まじりにつぶやくと、リフレイアが「あら」と振り返った。
「この競技で、アイ=ファはそれほどの実力者なのかしら? 的当てや木登りといった競技では、ジョウ=ランというお人も負けていなかったようだけれど」
「ああ、うん。でも、アイ=ファって何でも強そうじゃん? 荷物運びの力比べ以外では、いっつもいい成績を残してるって話だし」
そんな風に答えてから、ユーミはいくぶん声を落とした。
「……ところでさ、あたしは本当にこんな喋り方でいいの? まあ、丁寧な喋り方なんて、最初っからできやしないんだけど……」
「かまわないわよ。わたしが好きで、あなたのそばにいるのですからね。誰にも文句をつけられる筋合いはないわ」
ユーミたちと行動をともにすることになり、リフレイアは至極満足げな面持ちであった。いっぽうユーミは眉のあたりに困惑の色を浮かべており、テリア=マスなどはすっかり縮こまってしまっている。
ちなみにボズルたち3名は、森辺の客人たちと行動をともにしているため、この場にはいない。これはべつだんリフレイアから逃亡したわけではなく、さきほどの小休止の間にレイナ=ルウやレイ=マトゥアといった人々と旧交を温めて、そういう話に落ち着いたためである。なるべくさまざまな相手と絆を深めようというボズルたちの気づかいが、結果的にユーミとテリア=マスの心労を増大させたようだった。
(だけどまあ、ユーミたちとリフレイアたちの交流が深まったら、俺としても嬉しいところだしな。ユーミたちには頑張ってもらいたいところだ)
それよりも、いまはアイ=ファとジョウ=ランの対戦であった。
広場の中央に進み出るふたりの姿を見やりながら、俺は客人たちに説明してみせる。
「あそこに、小さな木の板が準備されてるだろう? あの上に乗って、おたがいに握った木の棒を引っ張り合うんだ。棒を奪われるか、木の板から足を踏み外すかしたら、負けってことだね」
「なるほど。町でやってる棒引きと同じようなもんだね。体格がいいぶん、ジョウ=ランのほうが有利なのかなあ……」
「前々回の勝負では、ジョウ=ランがアイ=ファに勝ってたよ。前回は、ジョウ=ランが途中でゼイ=ディンに負けたから、アイ=ファとは対戦しなかったんだよね。……そうそう、それで、最後にはゼイ=ディンがアイ=ファを倒して勇者になったんだ」
なおかつ、たしかゼイ=ディンも前々回にはジョウ=ランに負けており、前回でその雪辱を果たすことになったのだ。
果たしてアイ=ファは、雪辱を果たすことができるのか。俺は1回戦目から手に汗を握ることになってしまった。
「始め!」と、ランの家長が号令をあげる。
木の板の上で向かい合ったアイ=ファとジョウ=ランは、たがいを牽制するように、まずは静かに棒を引っ張り合っていた。
ジョウ=ランは森辺で珍しいサウスポーであったので、左手で棒を握っている。
しかしアイ=ファも、ジョウ=ランと対戦するのは2度目であるのだから、意表を突かれることもないだろう。
次第に動きが大きくなっていっても、両者はバランスを崩すことなく、木の板の上に踏み留まっていた。
周囲からあがる歓声も、じょじょに熱を帯びていく。その声に背中を押されるようにして、ふたりの動きはどんどん激しくなっていった。
それでも、なかなか勝負は決まらない。
両方の足を踏まえたまま、膝の上からだけで躍動する姿は、まるで何かの舞踏であるかのようだった。
いったいどれだけの時間が過ぎたのか、両者の汗が地面にいくつもの黒いしみを作った頃、ジョウ=ランがおもいきり棒を突き出した。
それに合わせて身体をひねりながら、アイ=ファはぐっと腰を落とす。
そうしてアイ=ファが、たわめた力を一気に噴出させ、引いていた棒を鋭く突き出すと、体勢を崩したジョウ=ランの右足が板の上からはみ出した。
「そこまで! ファの家のアイ=ファの勝利である!」
歓声が、ひと息にボルテージをあげた。
アイ=ファは天を仰ぎながら、ぜいぜいと息をついている。両膝に手をやったジョウ=ランも、それは同様であった。時間にすれば3分ていどなのかもしれないが、それだけ力を振り絞った勝負であったのだ。
「今回は、勝てませんでしたね。でも、これでひとつずつ勝ちを取った形ですので……次は、俺が勝たせてもらいます」
歓声の向こうから、ジョウ=ランがそのように言っているのが聞こえた。
アイ=ファは視線を正面に戻すと、額の汗をぬぐいながら、「ふん」と鼻を鳴らす。
「せいぜい精進することだな。私とて、負けん」
「はい。次の勝負を、楽しみにしています」
歓声と拍手に見送られながら、両者は退いていく。
ユーミはテリア=マスの身体にしなだれかかりながら、深々と息をついていた。
「ああもう、見てるだけで疲れちゃったよ。……やっぱりアイ=ファは強いねー」
「うん。でも、ジョウ=ランもやっぱり強かったよ」
「ふふん。なんか、あんなに一生懸命な姿を見せられると、負けてもあんまり悔しくならないもんだね」
そう言って、ユーミはちょっと気恥ずかしそうに微笑んだ。
その間に、次の対戦は始まっている。第2戦目はラッド=リッドとフォウの男衆であり、ラッド=リッドの圧勝であった。
その次は、ライエルファム=スドラとディンの男衆で、勝者はライエルファム=スドラだ。総合力の問われるこの競技では、闘技の力比べで結果を残せる狩人が、たいてい勝ち進むものであったのだった。
(あれ? だけどそうすると、アイ=ファの次の対戦相手はラッド=リッドで、その次はライエルファム=スドラになる可能性が高いってことか。前回もそうだったけど、アイ=ファは強敵とばっかりぶつかるなあ)
なおかつ、これは36名によるトーナメント戦であるので、決勝戦に進むひとりは、余分に1回戦うことになる。第1試合に出場した人間は、自動的にその役割を担わされてしまうのだった。
(まあ、それで公平を期すために、くじ引きで順番を決めてるわけだけど……アイ=ファはくじ運がないのかなあ)
しかしまた、その運は母なる森の意思とされている。ならば、不平の言葉は呑み込んで、応援に徹するしかなかった。
試合は次々と進められていき、18名の狩人が勝ち進む。
名のある狩人は、やはりおおよそが勝ち残っていた。たまたま強者同士がぶつかる組み合わせにはならなかったのだ。
そうして行われた2回戦目の第1試合。アイ=ファとラッド=リッドの勝負も、また激戦であった。
前回の棒引きで、ラッド=リッドはアイ=ファに敗北している。その雪辱を晴らすべく、ラッド=リッドは大いに奮起していたのだった。
ラッド=リッドはダン=ルティムをほんのちょっぴりスマートにしたような体格の大男で、この6氏族では屈指の狩人とされている。たしかチム=スドラの見立てによると、ゲオル=ザザよりも力のある狩人だとされていたのだ。
また、リーチやパワーに優れているほうが、有利な競技であることに疑いはない。前回の試合と同様に、ラッド=リッドはその巨体と怪力でアイ=ファをぞんぶんに苦しめた。
が――勝利したのは、アイ=ファであった。
これも数分がかりの激戦で、ラッド=リッドの巨体が板の上から転げ落ちたときには、本日で一番大きな歓声があがったように思う。あのリフレイアまでもが、「うわあ」と上ずった声をあげていたのだ。
「すごいわね。あんな大きな身体をした狩人に勝ってしまったわ。……これじゃああなたが投げ飛ばされるのも当然ね、ムスル」
「わ、わたしなどを引き合いに出す意味はございません。アイ=ファ殿というのは、この中でも指折りの実力者であるのでしょう」
フォウの集落は、もはや興奮の坩堝であった。
ひとかたまりとなって観戦している余所の氏族の人々も、6氏族の家人に負けぬ勢いで歓声をあげている。ルド=ルウやゲオル=ザザや、それにラッツの家長なども、さぞかし昂揚していることだろう。アイ=ファの熾烈な戦いを2度も見せられて、俺自身もかなり心拍数が上がってしまっていた。
次の試合ではライエルファム=スドラがランの男衆を下し、その次の試合ではバードゥ=フォウがリッドの男衆を下す。大きな番狂わせが生じることはなかったが、人々の興奮に陰りは見られなかった。
そんな中、2回戦目の最後の試合において、ゼイ=ディンがランの家長を下したときには、またいっそうの歓声がほとばしった。番狂わせというほどではないものの、ランの家長は家長らしい力量を有した狩人であったのだ。
遠くのほうでは、またトゥール=ディンとオディフィアが手を取り合っている。あまりはっきりとは確認できないのだが、オディフィアのほうがぴょんぴょんと飛び跳ねているようだ。それでもやっぱり無表情なのだろうかと想像すると、なんだか胸が温かくなってしまった。
(いや、だけど、たしか最後の組の勝者は、いつか最初の組の勝者とぶつかるんだよな。アイ=ファとゼイ=ディンがこのまま勝ち進んだら、いつかはぶつかることになるのか)
しかしそれも、母なる森の思し召しであるのだ。
俺としては、まず3回戦目の第1試合、アイ=ファとライエルファム=スドラの勝負を見守らなければならなかった。
ライエルファム=スドラは、言わずと知れた実力者である。闘技の力比べにおいては、2回連続でアイ=ファと優勝を争った人物であるのだ。
それにアイ=ファは、棒引きにおいても闘技においても、自分より小柄な相手を苦手にしている節がある。アイ=ファはおそらく、自分の父親としか力比べを行った経験がなかったためだ。
そんなアイ=ファとライエルファム=スドラの戦いは、予想に違わぬ大接戦であった。
リーチでは劣るライエルファム=スドラであるが、低い重心と敏捷な身のこなしを最大限に活かして、アイ=ファを翻弄する。それに対するアイ=ファのほうは、ジョウ=ランにラッド=リッドという強敵相手の連戦がこたえているのか、いくぶん反応が鈍いように感じられた。
しかし、勝利したのはアイ=ファであった。
最後には、見事にライエルファム=スドラの手から棒を奪取していたのだ。
ジョウ=ランやラッド=リッドのときよりも、試合時間は長かったことだろう。アイ=ファはその手の棒を地面につくと、それに半分体重を預けながら、大きく肩を上下させていた。
「アイ=ファもスドラの家長さんも、すごいね! なんかあたし、涙をこぼしちゃいそうだよ」
そんな風に言いながら、ユーミは朗らかに笑っていた。
次の組ではバードゥ=フォウが、その次の組ではリッドの男衆が、さらにその次の組ではチム=スドラが勝ち残っていた。
そうして最後にゼイ=ディンが同じディンの男衆を下し、3回戦目は終了と相成った。
「これで、5名の人間が出そろったな。ここからは、間に場つなぎの勝負を行うことにする」
これまでに敗退した狩人たちが、己の力を示すために、あちこちで勝負を開始する。その間に、残り5名の組み合わせが発表された。
最初の試合は、アイ=ファとゼイ=ディン。
その勝者と準決勝戦を行うのが、チム=スドラ。
そしてもうひと組の準決勝戦が、バードゥ=フォウとリッドの男衆。
残り4試合で、いよいよ勇者が決せられるのである。
その前に、人々に歓声をあげさせていたのは、ジョウ=ランであった。
自分よりも大柄なディンやリッドの男衆から、次々と勝利を収めている。やはり彼も、棒引きで卓越した力を持つ狩人であるのだ。
ユーミは何か、感情を押し殺しているような眼差しで、そんなジョウ=ランの姿を追いかけていた。
そうしてしばらくののちに、アイ=ファとゼイ=ディンの勝負が行われる。
これは前回の決勝戦と同じ組み合わせである。
あのときは、アイ=ファが激戦に次ぐ激戦で、手の平の皮を痛めてしまいそうになり、途中で自ら棒を手放すことになってしまったのだった。
今回も、それに負けない激戦続きであったことだろう。
それでもアイ=ファは最後まで戦い抜き、勝利を収めることになった。
ゼイ=ディンが地面に膝をつくと、ディンやリッドの人々が嘆きの声をあげる。しかしそれは、すぐに両者をたたえる歓声へと移り変わった。
「やはり、アイ=ファにはかなわぬな。しかし、お前のように力を持つ狩人を友と呼ぶことができて、俺は心から誇らしく思っている」
身を起こしたゼイ=ディンは、薄く笑いながら、そのように語っていた。
アイ=ファは激しく息をつきながら、「うむ」と応じる。
その次の準決勝戦では、バードゥ=フォウがリッドの男衆を下すことになった。
バードゥ=フォウが決勝戦まで進むのは初めてのことであったが、きっと番狂わせではないのだろう。この6氏族には、勇者の名に値する狩人が、それだけ大勢存在するということであるのだ。
またしばらくは場つなぎの勝負が繰り広げられたのち、アイ=ファとチム=スドラの準決勝戦が開始される。
なんとなく、誰もがアイ=ファの勝利を疑っていない様子であった。
チム=スドラとて、十分な力量を持つ狩人である。これまでの力比べにおいて、的当てや木登りのみならず、棒引きや闘技でも確かな力を示してきたのだ。
ただし、彼はライエルファム=スドラと似たところのある存在でもあった。
ライエルファム=スドラと同じように小柄な体格であるし、棒引きや闘技で見せる身のこなしも、どこかライエルファム=スドラに通ずるものがある。その上で、的当て以外の競技においては、ライエルファム=スドラに一歩及ばないという印象であったのだ。
その印象をはねのけるかのように、チム=スドラはこれまで以上の奮闘を見せた。
その敏捷さに、さしものアイ=ファが翻弄されているように感じられてしまう。アイ=ファは懸命にこらえていたが、どれだけの時間が経過しても、チム=スドラの動きが鈍ることはなかった。
人々の熱狂は、ぐんぐんとヒートアップしていく。
気づけば俺も、人目をはばからずに声援を送っていた。
「アイ=ファ、頑張れ! あきらめるな!」
両者の動きは、いつまでも止まらない。きっとこれまでのどの試合よりも、長きの時間がついやされたことだろう。
そうして結末は、唐突に訪れた。
チム=スドラが鋭く棒を引くと同時に、アイ=ファの身体がぐらりと倒れかかってしまったのだ。
誰もが、チム=スドラの勝利を確信した。
俺でさえ、無念の声を発する寸前であった。
が――次の瞬間、ふたりの身体は同時に地面へと倒れ込んでいた。
チム=スドラは仰向けで、アイ=ファは腹這いだ。どちらも、棒は手放していない。
何が起こったのかもわからずに、俺が言葉を失っていると、ランの家長の声が響いた。
「アイ=ファの勝利である! ……異存のある者はいるか?」
応じる者はいなかった。
すべての狩人が、アイ=ファの勝利を認めたのだ。
それを理解した人々が、一拍遅れて歓声をほとばしらせた。
アイ=ファとチム=スドラは倒れ伏したまま、その歓声を聞いている。どちらも精魂尽き果てている様子であった。
「いま、何が起きたのかしら? アイ=ファが倒れたと思ったら、その前に相手が倒れてしまったようなのよね」
リフレイアが小首を傾げながらつぶやくと、サンジュラがそれに答えた。
「アイ=ファ、倒れながら、棒を突き出しました。その勢い、押されて、相手、先に倒れたのです」
「倒れながら? でも、相手は体勢を崩してもいなかったわよね。それでも、こらえきれなかったのかしら?」
「はい。おそらく、棒、ひねりながら、突き出したのでしょう。一瞬の間隙、突いたのです。あれでは、こらえる、不可能です」
「ふうん。よくわからないけど、あなたの家長はものすごく力のある狩人だということね」
と、リフレイアが俺に笑いかけてきた。
俺は心からの喜びを込めて、「うん」とうなずいてみせる。
ようよう立ち上がったアイ=ファとチム=スドラは、何か低い声で言葉を交わしてから、引き退いた。
また場つなぎの力比べが行われて、いよいよ決勝戦である。
汗をぬぐったアイ=ファは、毅然とした面持ちでバードゥ=フォウと相対していた。
呼吸も、いちおうは静まっているようである。その青い瞳にも、最前と変わらぬ闘志が燃えていた。
そうして開始された決勝戦は、当然のように大接戦であった。
前回もアイ=ファはバードゥ=フォウと対戦しており、接戦の末に勝利を収めている。たとえ疲労困憊していなくとも、バードゥ=フォウは難敵であるのだ。
痩せてはいるが長身のバードゥ=フォウは、普段以上に力強く見えた。
それに、もしかしたら、実際に以前よりは逞しくなっているのかもしれない。小さき氏族には痩身や小柄の狩人が多かったが、それはきっと貧しい生活からもたらされたものであったのだ。
おそらく身長だけの話であれば、バードゥ=フォウはダルム=ルウよりも秀でている。それに、痩身に見えるのは、面長の顔と手足の長さの印象が強いためのかもしれなかった。
とにかくその日のバードゥ=フォウは、とても力強く見えた。
そうして、数分もの時間が過ぎると――アイ=ファの動きが、がくりと落ちた。
その間隙を突くように、バードゥ=フォウが長い腕を振り上げる。
アイ=ファの手から、グリギの棒がすっぽ抜けた。
少し遅れて、グリギの棒は天高く放り出される。勢い余って、バードゥ=フォウの手からも離れてしまったのだ。
黒い棒がくるくると回りながら、地面に落ちる。
それを見届けてから、ランの家長は声を張り上げた。
「バードゥ=フォウの勝利である! 棒引きの勇者は、フォウの家長バードゥ=フォウとする!」
怒涛の歓声が、両者を包み込む。
アイ=ファは直立したまま荒い息をついており、バードゥ=フォウは汗をぬぐいながら、そちらに笑いかけた。
「前回のゼイ=ディンの気持ちがわかったように思う。組み合わせが違えば、きっと結果も違ったことだろう」
「……しかしそれは、母なる森の定めたことだ」
「うむ。俺はこれからも、母なる森にこの身の力を示してみせよう。お前のように力のある狩人を差し置いて、勇者の座を授かってしまったのだからな」
地面に転がっていた棒を拾いあげて、ランの家長もそちらに歩み寄った。
「本当に、息が詰まるほどの勝負だった。バードゥ=フォウを親筋の家長とし、アイ=ファを友とするこの身を、誇らしく思う」
そうして、棒引きの力比べは終了した。
狩人たちには、しばしの小休止が与えられる。その間に、ユーミはここぞとはしゃいだ声をあげていた。
「最後の最後まで、すごい勝負の連続だったね! この後にもまだ力比べが残ってるなんて、アイ=ファなんかは大変じゃない?」
「うん、まあ、そうだね。でも、次はアイ=ファの得意な闘技の力比べだから……きっと満足のいく結果を残せるはずさ」
「うーん、そっかあ。でもアイ=ファって、荷運び以外の競技では、ぜーんぶ最後まで勝ち残ってるんだよね! これで勇者になれなかったら、けっこう悔しくない?」
「……本音を言えば、俺はむちゃくちゃ悔しいよ。だから、せいいっぱい応援するのさ」
「なるほどねー。そう考えたら、あいつは最初に勇者になってくれたから、あたしはまだしも気楽なのかなー。あたしがアスタと同じ立場だったら、きっと気が揉んでしかたがないもん!」
すると、リフレイアがすうっと俺たちのほうに顔を寄せてきた。
「あいつっていうのは、ジョウ=ランという狩人のことよね? あなたはやっぱり、あのお人と婚儀をあげることになるのかしら?」
ユーミは一瞬で真っ赤になって、リフレイアのことをにらみつけた。
「ど、どうしてあんたが、そんなことを知ってるのさ? ……貴族には、そういう話も行き渡ってるんだっけ?」
「そこまでおおっぴらに広められているわけではないけれどね。でも、そもそも秘密ごとというわけではないのでしょう?」
「そりゃあまあ、森辺のみんなには隅々にまで知られちゃってるんだろうけど……でも、宿場町で知ってるのは、あたしの親とテリア=マスぐらいだよ」
「あら、そうなのね。それじゃあ、ディアルなんかはどうなのかしら?」
ユーミは、愕然と立ち尽くすことになった。
「そ、そっか。あんたはディアルとも仲良くしてるんだよね。もしかしたら……あいつにこのこと、言っちゃった?」
「いいえ。だからあなたに、確認しているのよ。ディアルだって、それを知るならあなたの口から聞くべきでしょうしね」
ユーミは、渾身の力で息をついていた。
「……いつかそのうち話そうと思ってるから、それまで黙っててもらえたらありがたく思うよ」
「そう、わかったわ。それじゃあエウリフィアなんかにも口留めをしておかないとね。あのお人も、ときたまディアルとは顔をあわせているようだから」
「そっか。ありがと。……あんたやっぱり、けっこういいやつなんだね」
「これぐらいは、貴族のたしなみよ。貴族の社会では、社交術というやつが何より重んじられているのですからね」
リフレイアは取りすました面持ちであったが、まんざらでもないように見えた。
そんな中、狩人の力比べは最後の競技を迎えることになったのだった。