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異世界料理道  作者: EDA
第四十一章 賑やかなりし黒の月
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大輪の蕾①~予兆~

2019.1/24 更新分 1/1

 ディアルの主催した食事会が無事に終わって、2日後――黒の月の19日である。

 その日の屋台の当番は、ラヴィッツとガズの血族であった。

 屋台の当番の人間は、朝方の下ごしらえにも参加するのが通例だ。が、その日、荷車から降りてきたかまど番の中に、マルフィラ=ナハムのひょろりとした姿が見当たらなかった。


「アスタ。非常に申し訳ないのですが、今日はマルフィラ=ナハムが仕事に出られなくなってしまったのです」


 と、小さなお地蔵様のごとき風貌をしたリリ=ラヴィッツが、深々と頭を下げてくる。そのかたわらでは、本日の当番ではないはずのミームの女衆が笑顔で立っていた。


「つきましては、こちらのミームの女衆に当番を代わってもらいたく思います。勝手な真似をしてしまいましたが、了承をいただけますか?」


「ええ、それはまったくかまいませんが……でも、マルフィラ=ナハムはどうされたのですか?」


「実は、いささか体調を崩してしまったのです。何も危うい病魔ではないのですが、とうてい町に下りられるような状態ではなかったので……本当に申し訳ありません」


「いえいえ、どうか頭を上げてください。それよりも、マルフィラ=ナハムの容態が心配です。本当に大丈夫なのですか?」


 ようやく面を上げたリリ=ラヴィッツは、いつも通りのゆったりとした表情で「ええ」とうなずいた。


「きちんと薬も与えましたので、今日か明日には回復することでしょう。ご心配は、不要です」


「そうですか。つい一昨日も、城下町での仕事を手伝ってもらったところですし……ちょっと最近、マルフィラ=ナハムを頼りすぎてしまったでしょうか?」


「とんでもない。このていどの仕事で音をあげるほど、マルフィラ=ナハムはやわな女衆ではありません。そんなこととは関係なく、ただ体調を崩してしまっただけなのです」


 そうは言われても、森辺の女衆が仕事を病欠するなどとは、ほとんどこれが初めての事態であったのだ。それを思って、俺がいつまでも心配げな顔をしていると、リリ=ラヴィッツはにんまりと微笑んで言葉を重ねた。


「アスタがこのようなことでマルフィラ=ナハムに仕事を頼むことを取りやめてしまったら、それこそ本人は大いに嘆き悲しんでしまうことでしょう。マルフィラ=ナハムが元気になったあかつきには、またこれまで通りに使ってもらいたく思います」


「そうですか。……はい、承知しました。マルフィラ=ナハムには、くれぐれもよろしくお伝えください」


 そのように答えてから、俺はミームの女衆に向きなおった。


「それじゃあ、今日はよろしくお願いします。昨日と連続で出勤になってしまいますが、大丈夫ですか?」


「もちろんです。普段から毎日手伝っているユン=スドラたちを羨ましく思っていたのですから、嬉しいぐらいですよ」


 ラヴィッツとミームはわりあい家が近在であるので、朝一番で代役を頼むことになったのだろう。義理堅いと言えば義理堅いが、ラヴィッツの家長の気性を考えると、ファの人間に弱みを見せまいとして手を回したのかな、とも思えてしまう。


 ともあれ、そんなささやかな一幕を経て、その日の仕事は開始されることになった。

 本日は、5日間の営業日の最終日である。つい2日前には城下町で大きな仕事を果たしたところであるが、べつだん疲れが溜まったりはしていない。それに同行したトゥール=ディンやユン=スドラも、元気そのものの様子であった。


 下ごしらえの仕事を終えた後は、ルウ家の人々と合流して、宿場町に下りる。

 すると、そこでもちょっとした驚きが待っていた。レビとラーズが、ついに本日からミソ味のラーメンを売りに出す、という話であったのだ。


「半月ばかりも頭をひねって、ようよう完成させることができやした。あっちで仕上げたら、まずはアスタに食べてもらえやせんかね?」


「もちろんです。うわあ、これは楽しみですね!」


 俺は子供のようにはしゃいでしまったが、にこやかな親父さんの隣で、レビは口をとがらせていた。


「だったら売りに出す前に、味見を頼めばよかったじゃねえかよ。これでアスタにまずいって思われても、もう引っ込みはつかねえんだぞ?」


「へえ。お前さんは、あの出来栄えに文句があるってのかい? ご主人やお嬢さんだって、タウ油のらーめんと遜色ないって言ってくれたろうがよ?」


「いやあ、だけどさあ……」


「俺たちは、手前の裁量で店を出してるんだよ? いつまでもアスタにおんぶにだっこじゃ、格好がつかねえだろうがよ?」


 言葉だけを聞くと乱暴なようだが、表情や口調はきわめて柔和なラーズである。それでいて、そこには自分の仕事に対する気概も強く感じられた。


(何だろうな。うちの親父とは、まったくタイプが違うんだけど……それでもやっぱり、どこか似た部分もあるように思えちゃうんだよな)


 それはやっぱり、父親と息子の明け透けなやりとりを見ているためであるのだろうか。

 何にせよ、そんなふたりの姿を見ていると、俺はいつも心が温かくなりつつ、ほんのちょっぴりだけ感傷的な気分になってしまうのだった。


 ともあれ、屋台の商売である。

 手早く準備を進めたラーズは、約束通りにミソラーメンをこしらえてくれた。


「さ、どうぞ。気に食わなかったときは、お客に聞こえないように文句をつけてやってください」


「絶対に、そんなことにはならないと思いますよ」


 木皿からたちのぼる香りを嗅いだだけで、俺はそのように答えることができた。

 やや大ぶりなお茶碗ぐらいの木皿に、ミソラーメンが盛りつけられている。サイズとしては半ラーメンぐらいの加減であるが、具材のほうはどっさりだ。内容はタウ油ラーメンのときと同一で、ギバのチャーシューが3枚に、ホウレンソウのごときナナール、モヤシのごときオンダ、キャベツのごときティノという取り合わせで、最初は麺が見えないぐらいであった。


 箸は持参していなかったので、木匙を改良した三つ又のフォークでそれをいただく。具材をかき分けて発掘すると、麺はいくぶんちぢれていた。タウ油ラーメンではストレート麺を採用していたが、このたびはちぢれ麺に変更されたらしい。俺はフォークとレンゲの慣れない作法で、それをおもいきりすすり込んだ。


 タウ豆のミソの、濃厚な味わいである。

 それに、ホボイ油とミャームーの香りも強い。それらがキミュスの骨ガラの出汁に支えられて、文句なしのお味であった。


 ギバのチャーシューは言うに及ばず、具材もスープにマッチしている。それに、中太のちぢれ麺も、格別であった。俺の故郷でも、このレベルのお味であれば、人気を博することだろう。俺の要望はただひとつ、「七味トウガラシが欲しい」というぐらいのものであった。


「いやあ、美味しいです。タウ油ラーメンにまったく負けていませんよ。こっちのほうが好みだっていうお客さんも、きっとたくさん出てくるんじゃないでしょうか」


「そうですかい。アスタにそう言ってもらえりゃあ、百人力でさあね」


 ラーズは好々爺のように微笑んでいた。

 すると、屋台の向こうから「おいおい」と声を投げかけられてくる。


「俺たちを待たせて、何を美味そうに食ってやがるんだよ。準備ができたんなら、さっさと売ってくれ!」


「あ、すみません。他の屋台は、もう大丈夫ですか?」


 食べかけのラーメンを手に振り返ると、隣の屋台で『ギバまん』をふかしていたヤミル=レイがそっと唇を寄せてきた。


「こっちは、とっくに仕上がってるわよ。いま、食堂のほうからひとり呼びつけたから、食べ終わるまではその女衆にまかせなさい」


 それと同時に、ミームの女衆がてけてけと駆けてくる。俺の担当は『ギバ・カレー』であったが、開店時のラッシュをこなすには、やっぱり1台の屋台に2名が必須であるのだ。


「すみません! すぐに食べますので!」


「いいえ。あちらはしばらく皿洗いの仕事もないでしょうから、ごゆっくり」


 そんな心強いメンバーのサポートとともに、その日の商売は始められた。

 俺は大慌てで残りのラーメンをすすりこみ、すみやかにミームの女衆と交代する。本日も、お客の入りは上々であった。


「やあ、今日も賑わってるね!」


 朝一番のラッシュが落ち着きかけた頃、屋台にやってきたのはユーミのご一行であった。ベンにカーゴにルイアも顔をそろえており、そこに森辺の若衆もまじっている。横笛の修練に取り組んでいたジョウ=ランと、フォウやリッドの若い男衆だ。


「やあ、ジョウ=ランたちも宿場町だったんだね。横笛のほうはどうだい?」


「ええ。吹ける曲が、ずいぶん増えました。次の祝宴が楽しみです」


 ジョウ=ランは、無邪気に微笑んでいる。森辺の狩人が宿場町の民にまぎれている姿も、俺はすっかり見慣れてきてしまった。

 その横からは、ベンがラーメンの屋台を覗き込んでいる。


「お、何だか美味そうな匂いがするな。レビ、ついにミソのラーメンを売りに出したのかよ?」


「ああ。食いたかったら、銅貨を払いな。あと、横入りするんじゃねえぞ」


「何だよ、人を無法者みたいに。誰もただで食わせろとは言ってねえだろ」


 宿場町の若衆も、実に楽し気な様子であった。レビとラーズの商売が軌道に乗ったことを、ベンたちは心から喜んでいたのだ。


「そういえばさ、この前、うちのほうにも王都の連中がやってきたんだよ」


 と、ユーミが神妙な面持ちで、そのように述べてきた。


「もちろん、うちのボロ宿なんて見向きもしなかったけどさ。もっと危なっかしい区域にまで、ずかずか入り込んでいくんだもん。衛兵をぞろぞろ引き連れてたから、そっちにたむろしてた悪党どもは気が気じゃなかっただろうね」


「へえ、そうなんだね。何も騒ぎにはならなかったのかな?」


「うん。ひたすら歩き回ってただけみたいだね。まったく、人騒がせな話だよ」


 そう言って、ユーミは可愛らしく顔をしかめた。


「それであたしも、通りすぎる連中の姿を覗き見したんだけどさ。ありゃあ本当に、女みたいな面をした野郎だね! 話には聞いてたけど、予想以上のシロモノだったよ!」


「うん、そうだよね。俺も最初は、心から驚かされたよ」


「あんなやつ、絶対そばには近づきたくないなー。自分より綺麗な顔をした男なんて、まっぴらだよ。女のこっちが、引き立て役みたいになっちゃうじゃん!」


 ユーミがそのように言いたてると、ジョウ=ランが「そうなのですか?」と小首を傾げた。


「でも、ユーミのほうが魅力ではまさっているはずです。何も気にする必要はありませんよ」


 たちまちユーミは顔を赤くして、ジョウ=ランのことをにらみつけた。


「い、いきなり何言ってんの? 女の容姿を褒めそやすのは、禁忌でしょ?」


「容姿ではなく、魅力の話です。これならきっと、森辺の禁忌にも触れませんよね?」


 ジョウ=ランの目がこちらに向けられてきたので、俺は苦笑を返してみせる。


「俺に聞かれても困っちゃうなあ。そこは自分の判断でお願いするよ」


「そうですか。何にせよ、ユーミほど魅力的な人間はそうそういないのですから、誰が隣に立とうと関係ありませんよ」


 そのように述べてから、ジョウ=ランはふっと心配げな面持ちになった。


「ところで……ユーミは女衆のように見目の整った男衆に心をひかれたりするのでしょうか?」


「そんなわけないじゃん! あんた、馬鹿なんじゃないの!?」


「ユーミに馬鹿と言われると、悲しいです」


 ジョウ=ランは、しゅんとしょげた顔になる。ユーミは赤い顔をしたまま、両手で頭をかき回した。


「ああもう! 悪かったよ! でも、あたしがちょっとでもあいつを気に入ってるように聞こえた? あんなやつ、あたしは近づきたくもないって言ってるじゃん!」


「そうですか。それなら、安心です」


 相変わらず、素直の度が行き過ぎたジョウ=ランであった。

 しかしまあ、傍から見ている分には、微笑ましく思えなくもない。ベンたちも、苦笑まじりにふたりの様子を見守っていた。


「それでは、俺たちは森辺に戻ります。アスタたちも、仕事を頑張ってください」


 ジョウ=ランと他の男衆らが、人混みの向こうに消えていく。それを見送ってから、ベンが「なあなあ」とユーミに呼びかけた。


「お前らのやりとりを見せつけられるのも、いいかげんに飽きちまったからさ。そろそろ覚悟を決めて、くっついちまえよ」


「い、いきなり何を言いだすのさ! 滅多をことを言うもんじゃないよ!」


「だってなあ。お前みたいな跳ねっ返りにあんな尽くしてくれそうな男なんて、そうそういないんじゃねえの?」


 ユーミとジョウ=ランの間に存在するあれこれの話に関しては、まだ半分がた秘密の状態にある。むろん森辺では周知の事実であるものの、宿場町においてはごく限られた人々しか知り得ていないのだ。

 が、ユーミはともかくジョウ=ランは毎度あのような調子であるので、近くにいることの多いベンやカーゴならば内情を察することも容易であろう。ユーミはいよいよ顔を赤くしながら、ベンの背中をひっぱたいた。


「人の心配をするヒマがあるなら、あんたこそとっとと身を固めて、親を安心させてあげなよ! いつまでも、ふらふら遊んでないでさ!」


「それこそ、余計なお世話だろ。そういうところが、跳ねっ返りだってんだよ」


 ベンはひとつ肩をすくめると、カーゴをともなってラーメンの屋台に並んだ。ユーミは赤くなった頬をさすりながら、俺に向きなおってくる。


「ったく、あいつらときたら……ね、あの女みたいな王都の貴族とは、その後もうまくやってんの?」


「うん。いまのところは、平穏そのものだよ。いずれはまた、城下町で料理を作らされそうだけどね」


「それぐらいなら、いいけどさ。ま、あいつが何かおかしな真似をしようとしたら、あたしらも森辺の民と一緒に城下町まで押しかけてあげるよ」


 宿場町のごく親しい人々には、フェルメスが俺個人に強い執着を持っているという話も通達されていた。何も隠すような話ではないし、多くの人々に知っておいたもらったほうが、より安全であるだろうという判断である。


「もしかしたら、ユーミはそういう話を聞かされたから、フェルメスのことが気に食わないのかな?」


「べつに、そういうわけじゃないけどね。あたしはただ、取りすました男が気にくわないだけさ」


 もともと貴族に対して採点の厳しいユーミであれば、これが自然な反応であるのだろうか。まあ、フェルメスも凡庸ならざる容姿と人柄を有しているので、万人から無条件に好かれるタイプではないのだろう。


 そうしてユーミたちが青空食堂に引っ込むと、次に現れたのはディアルおよびラービスであった。

 ディアルは先日に劣らぬ満面の笑みで、「やあ!」と屋台の前に立つ。


「この前はありがとうね、アスタ! 期待以上の、美味しい料理だったよ!」


「そんな風に言ってもらえて、俺も嬉しいよ。ディアルにとっては、ずいぶん大事な食事会だったみたいだしね」


「うん! 本当は、バナームの若様と商いの話を進めている間に、立派なギバ料理をお願いしたいところだったんだけどさ。ま、アスタの力を借りなくても商談をまとめることができたから、何よりだったよ」


「俺の力を借りるって? もしかしたら、それでウェルハイドの好感をあげようと考えてたのかな?」


「そうそう。あの若君は、アスタのギバ料理がずいぶんお気に召してたみたいだったからさ。懐柔するには、うってつけかと思ってたんだよねー」


 ディアルはイタズラが見つかった幼子のように、ぺろりと舌を出した。そんな表情も魅力的なディアルである。


「でもまあ、父さんがジェノスにやってくる日も迫ってたから、僕もさっさと勝負をつけることにしたのさ。それで何とか、ジェノスに居座ることが許されたってわけだね!」


「その話はまったく聞かされていなかったから、驚かされたよ。もしもウェルハイドとの商談がまとまってなかったら、ジャガルに帰ることになっちゃってたのかな?」


「うーん。それでも僕のほうが、ちょっぴり勝ってたとは思うんだけど……そんなていどの差だったら、父さんは強引にハリアスの勝ちにしちゃってたかもね。父さんは、できるだけ僕を連れ帰りたいと考えてたはずだからさ」


 そう言って、ディアルはまた天使のように微笑んだ。


「だけど、何とか勝つことができたよ。これからも当分ジェノスに居座らさせてもらうから、よろしくね、アスタ!」


「うん。こちらこそ、よろしく。……でも、もう1年以上も故郷に帰ってないのに、さびしくはならないの?」


「まあ、これからはたまに顔を出そうと考えてるよ。でも、ラービスがいてくれるから、さびしくはないかな」


 ディアルの笑いを含んだ目が、ラービスのほうに向けられる。


「だけど、僕ばっかりがラービスを独占しちゃって、妹たちに恨まれちゃうかな。妹たちは、ラービスにすっごく懐いてるもんね?」


「いえ。妹御たちはディアル様に会えないことこそを、心から残念に思っておられることでしょう。わたしなどは、そのついでに過ぎません」


「またまたー! 次に帰ったときは、朝から晩まで離してくれないだろうから、いまのうちに覚悟を固めておくといいよ!」


 ディアルは普段以上にご機嫌の様子で、ラービスのことを見つめている。ラービスは普段通りの仏頂面であったが、それほど不機嫌そうな様子ではなかった。まあ、ディアルにこれほど無邪気な笑顔を向けられれば、誰しも温かい気持ちになることだろう。


「妹さんがいるっていうのも、初耳だね。しかも、ひとりじゃないのかな?」


「うん! 妹はふたりだね。どっちも母さん似で、僕だけが父さん似かな。で、男の兄弟がいなかったから、僕が父さんの商売を引き継ごうと、こうして修行してるわけさ」


「なるほどね。ディアルだったら、立派な跡継ぎになれそうだ」


 ディアルは嬉しそうに目を細めながら、「ありがとう」と言った。

 こんなに幸福そうな笑顔を見せられて、俺のほうこそ御礼を言いたいような心地である。


「それにしても、アスタの料理はすごかったなあ! 森辺の祝宴と並んで、僕にとっては最高の晩餐だったよ!」


「ありがとう。ディアルの考えた料理の順番も、思惑通りの効果をあげたみたいだね」


「あんなの、浅はかな素人考えさ! どんな順番だったとしても、あの美味しさなら結果は同じだよ!」


 ディアルは夢見る乙女のように、うっとりとまぶたを閉ざした。


「本当に、どれもこれも美味しかったなあ。もともとアスタの料理は美味しかったけど、あの夜が一番美味しく感じられたんだよねー」


「毎日、修練を重ねてるからね。でも、そんな風に言ってもらえたら、俺も光栄だよ」


「うん、本当にね! 次は、ラービスも一緒に食べようね!」


「はあ」と気のない返事をしながら、ラービスの眼差しはどこか優しげなようにも見えた。なかなか感情を表さない彼としては、それぐらいでも珍しく感じられる変化である。


 そうして俺の胸に温かいものを残して、ディアルも食堂に引っ込んでいった。

 世はなべてこともなし。賑やかながらも、平穏なる日常だ。

 そんな中、ちょっと穏やかならざる騒ぎが巻き起こったのは、その翌日の話であった。

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