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異世界料理道  作者: EDA
第三十四章 三つの縁
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宿場町の交流会②~期待と不安~

2018.3/13 更新分 1/1

 宿場町での商売を終えた俺たちは、下りの二の刻に森辺へと帰還した。

 ジョウ=ランたちは青空食堂での食事を終えた後、ユーミの先導で宿場町の人混みに消えていった。この後は、宿場町の流儀に従って、夜までぞんぶんに遊び尽くすのだそうだ。


 森辺の民にとっては、そもそも「遊ぶ」という概念が希薄である。それが許されるのは幼子までで、あとの人間はたいてい朝から晩まで働いている。ギバ狩りに励む男衆はもちろん、家を守る女衆でも、それは同様であるのだ。

 休息の期間であれば、男衆も家の仕事を手伝い、それで空いた時間はのんびり過ごして家族間の情愛を育む。それは幸福で、満ち足りた生活であると思えたが、やっぱり「遊ぶ」という行いが介在する余地はなかなかないように思えた。


 しかしまた、トトスと荷車が導入されたことによって、森辺の生活にいくばくかのゆとりが生じたというのも、確かな話である。

 これまでの森辺の女衆にとっては、宿場町への買い出しというのが、日々の仕事の中でけっこうな比重を占めていたのだ。

 森辺の集落から宿場町まではけっこうな距離であるし、人力では運べる荷物にも限りがある。トトスと荷車を使用すれば、その時間と労力を大幅に削減することがかなうのだった。


 逆に言えば、そうして生活にゆとりができたからこそ、料理の勉強会を開いたり、晩餐で凝った料理を作ることもできるようになったのだと言えるだろう。以前の生活のままであれば、そのような時間を捻出することさえ、難しかったはずであった。


 ともあれ、森辺の民の生活には、以前にないゆとりというものが生じることになった。

 また、フォウの血族であれば、金銭的にもかなりの余裕が生じているので、ジョウ=ランたちに「お小遣い」を与えることもできたのだろう。


 なおかつ、どれほどゆとりが生まれたところで、狩人たる男衆が1日を自由に過ごすことができるのは、休息の期間のみである。だからバードゥ=フォウも、これをいい機会だと考えて、ユーミからの提案を受け入れる英断を下すことに相成ったのだった。


 同じ西方神の子たる宿場町の民が、日々をどのように過ごしているのか。それを知るために、バードゥ=フォウはユーミの申し出を受け入れたのである。森辺の族長たちも、その決断に異を唱えることはなかった。もちろんこれでユーミたちに愛想をつかす結果になれば、宿場町で遊ぶという行いは禁じられることになってしまうのであろうが――それでも、試す前から頭ごなしに拒絶したりはしないという、森辺の民の心意気であった。


(だから俺も、この行いには大賛成だったんだけど……まさか、色恋の話がからんでくるとはなあ)


 ユン=スドラから裏事情を打ち明けられた後は、俺もいささかの懸念を抱え込むことになった。

 が、やっぱりそれでも、このたびの行いを否定する気持ちにはなれない。かつてはレイナ=ルウやシン=ルウなども、城下町の貴族たちと色恋がらみでややこしい騒ぎに巻き込まれてしまったが、なんとか乗り越えてみせたのだ。外の人間と絆を深めるならば、そういう騒ぎもひとつのリスクとして受け入れた上で、随時対処するしかないように思われた。


「でも、彼らはいったい宿場町でどのように過ごすのでしょうね? 一の刻から日没までといったら、ずいぶん長い時間になってしまいますけれど……」


 ルウ家の人々に別れを告げて、ファの家へと荷車を走らせているさなか、そのように述べたてたのはトゥール=ディンであった。


「うん。俺もそれは気になったんだけど、ユーミは教えてくれなかったんだよね。何も知らないほうが楽しみも増すだろう、とか何とか言ってさ」


「復活祭などであれば、旅芸人の芸を見たりすることもできますが、今はそういう時期でもありませんし……わたしには、さっぱり見当もつきません」


 トゥール=ディンは、ちょっぴり不安そうな面持ちであった。もしも第2回目の交流会が開かれる際は、彼女も参加するように呼びかけられていたのである。


「だけどまあ、宿場町の人たちとじっくり言葉を交わすだけでも、十分に有意義なんじゃないのかな。商売の最中は、顔をあわせてもなかなかそんな時間は取れないからね」


 俺がそのように答えたとき、ファの家へと至る横道が見えてきた。

 荷車の速度を落として、ギルルをそちらに差し向けると、思わぬ喧騒が伝わってくる。ファの家の前に、ずいぶん大勢の人々が群れ集っているようだった。


「何でしょう? 女衆ばかりでなく、男衆も集まっているようですね」


 トゥール=ディンも、不思議そうに首を傾げていた。

 荷車をそちらに近づけていくと、人垣を構成していた女衆のひとりが「おや」と振り返る。


「お疲れさん。もうアスタたちが戻る時間だったんだね」


「はい、お疲れさまです。みなさんは、何をされているのですか?」


「狩人の鍛錬だよ。あたしらは、そいつを見物していたのさ」


 御者台の上から人垣の向こうを透かし見てみると、確かに狩人たちはおのおの鍛錬に励んでいる様子であった。

 木の棒を引っ張り合っている者もいれば、取っ組み合っている者もいる。また、木の棒を刀の代わりにして打ち合っている者や、木登りに励んでいる者もいた。


 そこに、おおっというどよめきが起こる。

 アイ=ファと取っ組み合っていたラッド=リッドが、地面に投げ飛ばされたのだ。若い女衆は、きゃあきゃあと黄色い声援をあげていた。


「ううむ、まいった! 三回挑んで、一回も勝てぬとはな! お前さんの力は大したものだぞ、アイ=ファよ!」


 豪快に笑うラッド=リッドのかたわらで、アイ=ファはぜいぜいと息をついている。アイ=ファは両方の膝に手をついた格好で、その頬からは何筋もの汗を滴らせていた。


「よし、それでは次は、俺の番だ。次こそはアイ=ファを地につかせてみせるぞ」


 そのように述べながら進み出たのは、ラッド=リッドの息子である、リッド本家の長兄であった。

 アイ=ファは身を起こし、額の汗をぬぐいながら、「待て」と応じる。


「さすがに私も、いささか疲れた。しばし休ませてもらいたい」


「何? 勝ち逃げは許さんぞ? 俺たちは、いまだに一回もアイ=ファに勝てていないのだからな!」


「しかし、これでもう20回や30回は連続で力比べをしているはずだ。これでは私も、本来の力を出すことは難しい」


 人並み外れたスタミナを有しており、柔よく剛を制すの戦法を得意とするアイ=ファでも、それではさすがに体力が尽きてしまうだろう。去りし日にはレム=ドムを相手に何時間も取っ組み合っていたアイ=ファであるが、この場に集まっているのは、みんな歴戦の狩人たちであるのだ。

 ラッド=リッドとその息子はちょっときょとんとした面持ちで顔を見合わせてから、ほとんど同時に「そうか」とうなずいた。


「言われてみれば、アイ=ファは一度も休みを取っていなかったのだな。これは申し訳ないことをした」


「ああ。弱ったアイ=ファを地に倒しても自慢にはならんからな。しばし呼吸を整えたのちに、お相手を願おう!」


「うむ」とうなずいてから、アイ=ファが俺のほうを見やってきた。

 俺はすみやかに荷車から降りて、アイ=ファのほうに近づいていった。


「いま、帰ったよ。これはいったい、何の騒ぎなんだ?」


「ああ。リッドとディンの男衆が、ともに鍛錬に取り組もうと願い出てくれたのだ。ひとりでは何かと不自由な面もあるので、私を思いやってくれたのだろう」


 そのように述べるアイ=ファは、全身が汗だくであった。顔にはりつく前髪をわずらわしそうにはねのけつつ、その青い瞳は力強く瞬いている。


「次から次へと勝負を挑まれるので、すっかりくたびれ果ててしまった。……しかし、リッドやディンの狩人たちと手合わせを重ねれば、私もさらなる力をつけることができるだろう。心から、ありがたく思っている」


「そうだったのか。それはよかったな」


 俺は心から嬉しく思い、にっこり笑ってみせた。

 アイ=ファは不意を突かれた様子で身をのけぞらせてから、ほんのちょっぴり赤い顔をしつつ、俺のことをにらみつけてくる。


「……お前はかまどの仕事であろうが? 私たちのことは気にせずに、自分の仕事を果たすがいい」


「うん、了解。そういえば、ティアは――」


「アスタ、戻ったのか!」


 と、頭上からティアの声が降ってくる。

 見上げると、ファの家の屋根の向こうから、ティアの笑顔が覗いていた。


「ああ、またそんなところに……危ない真似をしたら駄目だってば」


「何も危なくはない。邪魔にならないよう、ここから皆の姿を眺めていたのだ」


 そのように述べながら、ティアは前置きもなしに屋根から飛び降りてきた。

 左足と二本の腕で着地をして、何事もなかったかのように身を起こす。そんな真似をしたら右足の傷に響きそうなものであったが、ティアは着地の瞬間に膝と肘を深く曲げて、上手く衝撃を分散させたようだった。まさしく獣のごとき身のこなしである。


「アイ=ファは汗まみれなので、受け止めてもらうのはやめておいた。アスタ、何も災厄には見舞われなかったか?」


「うん、こっちは大丈夫だよ。それじゃあ、仕事を始めるからね」


 その場に集まった男衆に挨拶を返しつつ、家の裏手のかまど小屋に向かう。荷車はトゥール=ディンが引いてくれており、鍛錬のさまを見物していた女衆もぞろぞろと追従してきた。彼女たちは、もともと下ごしらえと勉強会のために集まっていたメンバーであったのだ。


 そうして母屋の横手に差しかかると、そちらでも棒引きの鍛錬をしている男衆の姿があった。

 その内のひとりが自分の父親であることに気づいて、トゥール=ディンが「あっ」と弾んだ声をあげる。


「ゼイ父さん。父さんも来てたんだね」


「うむ。今日もご苦労だったな、トゥール」


 ゼイ=ディンは、優しい眼差しとともにトゥール=ディンへと笑いかけた。

 トゥール=ディンもまた、嬉しそうに微笑んでいる。


「アイ=ファは、休憩か? よければまた、俺も手合わせを願いたい」


「うむ。のちほどにな」


 アイ=ファもひっそりと、俺たちに同行していた。きっとかまど小屋の水瓶の水で咽喉を潤すつもりなのだろう。

 無事にかまど小屋に到着した俺は、そんなアイ=ファに提案してみせた。


「なあ、よかったら、チャッチの茶でもいれようか? 常温の水よりは、心地好く咽喉を潤すことができるだろう?」


「……しかし、仕事のさまたげになりはせぬか?」


「そんなに大した手間ではないさ。ディンとリッドの人たちにも配ってあげたいしさ」


「そうか」と、アイ=ファは微笑んだ。

 俺はうなずき、さっそくチャッチ茶の準備をする。晩餐でこの茶を飲む機会も増えたので、最近では以前よりも美味しくいれることができるようになったという自負があった。


 他の人々には、下ごしらえの仕事を進めてもらう。明日の商売の下ごしらえと、数日置きに取り組んでいる乾燥パスタの作製である。今日も予定通りの人数が集まってくれていたので、そちらの仕事も滞りなく進めてもらうことができた。


 俺はみんなの邪魔にならないように、外のかまどでチャッチの皮を煮詰める作業に取り掛かる。ティアはぴったりと俺に寄り添っており、アイ=ファは手ぬぐいで顔や手足の汗をぬぐっていた。

 そこに近づいてきたのは、さきほど別れたばかりのゼイ=ディンである。


「アスタよ、フォウの血族は宿場町に下りたのだな?」


「はい。予定通りに、宿場町の人たちと合流していましたよ」


「そうか。……それがどのような集まりであったかは、明日の内に教えてもらえるのだな?」


「ええ。今日の交流会の内容については、きちんとすべての氏族に伝達するという話でした。小規模ではありますが、これも今までの習わしにはなかった行いですからね」


「うむ……」とつぶやくゼイ=ディンは、何やらもの思わしげな面持ちであった。


「どうしました? 何か気にかかることでも?」


「ああ。その集まりにはトゥールも招かれているので、いったいどのような集まりであるのかが気になってな。むろん、森辺の民に相応しからぬ集まりであった場合は取りやめられることになるのだから、何も心配をする必要はないのだろうが……」


「ええ。そこのところは、今日の集まりに参加した6名が見極めてくれるはずですよ」


 その中には沈着冷静なるチム=スドラやイーア・フォウ=スドラも含まれているのだから、間違った情報が伝えられることもないだろう。彼らは町の人々と交流が薄かった分、客観的な意見を期待できるはずだった。


「自分の見知らぬ人間の集まる場に家族を送り出すというのは、不安なものであろう。しかし、次にその集まりが開かれる際は、私も同行させてもらうので、何も案ずる必要はないぞ」


 アイ=ファがそのように口をはさむと、ゼイ=ディンは「ああ」と口をほころばせた。


「チム=スドラとジョウ=ランにアイ=ファまで加われば、何も案ずる必要はなかろうな。そのときは、どうかトゥールをお願いしたい」


「うむ。必ずトゥール=ディンも無事に連れ帰ると約束しよう」


 このたびの集まりは、なるべく若い人間に参加させてほしいという要望が、ユーミから告げられていたのだ。いわく、ユーミの側にも若い人間しかいないので、年配の人間に楽しんでもらえるかどうかは心もとない、とのことであった。


(バードゥ=フォウも、なるべく若い人間が町の人たちと絆を深めるべきっていう考えらしいから、それはそれでちょうどよかったんだけど……送り出す親御さんとしては、確かに心配な面もあるだろうな)


 ましてやトゥール=ディンは、参加メンバーで最年少の11歳なのである。森辺において大人と見なされるのは、婚儀の許される15歳からであろうから、ゼイ=ディンの心配もひとしおであろうと思われた。


「だけど俺は、トゥールが招かれたことを嬉しくも思っているのだ。宿場町ばかりか城下町にまで招かれるトゥールは、きっと俺の知らないさまざまなものを見聞きして、豊かな生を歩んでくれることだろう。時には苦難に見舞われることもあろうが……母なる森が正しく導いてくれることを、俺は信じている」


「うむ。私も同じように考えているぞ。……きっとドンダ=ルウも、同じような気持ちであるのだろうな」


 そう言って、アイ=ファもやわらかく微笑んだ。

 アイ=ファがこのように表情を動かすというのは、ゼイ=ディンに対して心を開いている証であろう。


「宿場町の民というのは、ずいぶん森辺の民とはかけ離れた存在であるように思えるが……それを言ったら、城下町の貴族も同じことだ。貴族とも正しき縁を結ぶことのできたトゥール=ディンを、信じてやるといい。あの小さな娘には、きっとそれだけの力が備わっているのだ」


「……アイ=ファにそのように言ってもらえるのは、とても誇らしいことだ」


 ゼイ=ディンも、精悍な顔にやわらかい笑みをたたえている。

 きっとゼイ=ディンは、もともとアイ=ファと相性がよかったのだろう。他ならぬトゥール=ディンの父親とアイ=ファがこうしてゆるやかに絆を深めていくさまは、俺を温かい気持ちにさせてやまなかった。


(あっちの集まりは、ようやく中盤戦に差しかかった頃か。いったい何をして楽しんでるんだろうな)


 そんな風に考えながら、俺はほどよく煮えた鉄鍋をかまどから下ろすことにした。


                  ◇


 宿場町での交流会は、とても有意義な集まりであった――ファの家にその報が届けられたのは、翌日の朝方のことであった。


 それを告げてくれたのは、朝の仕事に出向いてきてくれたフォウ家の女衆である。昨日の夜遅くに戻ってきた家人たちは、みんな口をそろえて「楽しかった」と述べていたそうだ。


「チムとイーア・フォウも、同じように言っていました。何もジェノスの法を破ったりはしなかったし、無法者に襲われることもなかったそうです」


 同じ時刻に集まったユン=スドラも、そのように述べていた。ランの家の女衆も、つけ加える言葉はないようだ。

 集まりに参加した6名全員が、同じ見解であったのである。これにて3日後には、第2回目の交流会が取りおこなわれることに決定されたようだった。


「……それで、ジョウ=ランとユーミに関しても、大丈夫だったのかな?」


 俺がこっそり尋ねてみると、ユン=スドラはいくぶん不明瞭な面持ちで「はい」とうなずいていた。


「わたしも心配だったので、イーア・フォウには気にかけてくれるようにお願いしておいたのですが……とりたてて、不穏な事態には至らなかったようです。ジョウ=ランに想いを寄せているフォウとランの女衆も、ユーミやベンたちと正しく絆を深めているようだった、とのことでした」


「そっか。それなら、よかったね」


 俺はそのように答えたが、ユン=スドラの表情は晴れないままであった。


「だけどわたしは、まだ安心できません。……何せ、ジョウ=ランのことですので」


「あはは。やっぱりユン=スドラは、ジョウ=ランを信用しきれていないんだね」


「それは、しかたのないことです。だって、ジョウ=ランなのですよ?」


 そうして作業を進めていると、かまど小屋の外から、アイ=ファがちょいちょいと手招きをしてきた。


「どうしたんだ? 昨日のことなら、アイ=ファも聞いただろ?」


「うむ。ただ、ジョウ=ランめの様子はどうだったのかと思ってな」


「やっぱり、アイ=ファもか。うん、今のところ、おかしな動きはないようだよ」


 ユン=スドラの懸念については、昨晩の内に報告済みであったのだ。

 アイ=ファは「そうか」と述べながら、形のいい眉をひそめている。


「アイ=ファもユン=スドラも、心配が尽きないみたいだな。俺としては、出会ったばかりのジョウ=ランとユーミがややこしい関係になることなんて、そうそうないように思えるんだけど」


「どうであろうな。ジョウ=ランのやつめは、さして口をきいたこともない私に対して、あのような思いを抱くことになった男衆であるのだぞ?」


「それはだって、アイ=ファぐらい魅力的な女衆だったら、しかたないさ」


 アイ=ファはうっすらと頬を染めながら、ゆっくり右腕を振りかぶった。

 それが振りおろされぬうちに、俺は「ごめんなさい」と謝ってみせる。


「それに、ジョウ=ランがことさら軽はずみなわけじゃないだろう? かつてはガズやラッツの男衆だって、ほとんど交流のなかったアイ=ファに婚儀の申し入れをしてきたぐらいなんだから」


 今度はノーモーションで、頭をはたかれた。

 しかし俺としては、多少のおしおきをされてでも、ジョウ=ランのフォローをしておきたかったのだった。


「あいててて……とにかくさ、こればっかりは本人たちの気持ちを尊重するしかないんじゃないのかな。あのふたりだって、そんな軽はずみに婚儀の話を持ち出したりはしないと思うぞ?」


「ふん。ユーミはともかく、ジョウ=ランのことをそこまで信用できるのか?」


「信用したい、とは思ってるよ。ジョウ=ランは本気でアイ=ファに想いを寄せているようだったから、そんな簡単に目移りしないと思うんだ。だからこれで、ジョウ=ランがユーミに想いを寄せるようだったら……それはもう、どうしようもないぐらい心をひかれたってことなんじゃないのかな」


 昨日の楽しげに笑い合っているふたりの姿を思い出しながら、俺はそんな風に答えてみせた。

 それが男女の友情であるのか、色恋に発展する前段階であったのかは、神のみぞ知るところであったが――何にせよ、ふたりの気持ちがすれ違わずに、ぴたりと一致することだけを、俺は強く望んでいた。

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