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異世界料理道  作者: EDA
第三十二章 母なる森と父なる西方神
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緑の月の十四日①~懸念~

2017.12/22 更新分 1/1

 翌日、俺たちが屋台の商売に励んでいると、中天の少し前ぐらいの刻限に、ザッシュマが現れた。


「よお、昨日は大変だったな。メルフリード殿からの伝言だぜ」


「え? 俺あての伝言なのですか? ルウ家の方々にではなく?」


「ルウの集落には、正式な使者が向かうだろうさ。俺はどうせここの屋台で昼を済ませるつもりだったから、アスタあての伝言を受け持ったんだ」


 そう言って、ザッシュマは陽気に微笑んだ。


「べつだんアスタ個人に伝えるような話ではないんだろうが、もののついでというやつさ。アスタだって、関心がないわけじゃないだろう?」


「それは、王都の兵士たちがモルガの森に入るというお話ですよね? ええ、詳細がわかったのなら、俺も聞かせていただきたいです」


「そうだろう。こんな話、森辺の民だったら気にならないわけがないよな。……兵士どもが宿場町を出発するのは、今日の中天。兵士の数は、50名。指揮官は、昨日と同じく百獅子長のダグという男らしい」


 それならば、彼も指揮官としての身分を剥奪されたりはしなかった、ということなのだろう。

 それはそれでめでたい話なのであろうが、今回の任務に関してはそうも言っていられなかった。


「無謀ですよ。彼らがどんなに優れた兵士であったとしても、ギバ狩りなんて勝手が違いすぎます。彼らはあんな甲冑を纏ったまま、森に入るつもりなのですか?」


「そりゃまあ、そうだろう。甲冑も纏わずにギバの前に立ったら、それこそ牙の一突きで絶命しちまいそうだしな」


「でもあんな格好じゃあ、飢えたギバに出くわしても、木に登って逃げることもできません。仮に、あの甲冑でギバの牙や角を防げたとしても、体当たりの一撃で生命を落としてしまうかもしれませんよ」


「そういう話は、昨日ドンダ=ルウからもさんざん聞かされたって話だぜ。まあ、監査官たちは聞く耳を持たなかったようだがな」


 ザッシュマは、ターバンのようなものに包まれた頭をばりばりと掻いた。


「ちなみに監査官たちは、森辺の狩人の同行も拒否したそうだ。そういった話は、もう聞いてるのかな?」


「はい。昨日の夜、宿場町から戻った後に聞きました。王都の兵士たちは、森辺の民が狩り場にしていない場所に向かうそうですね」


「ああ。例の新しく切り開かれた街道を東に向かって、適当な場所から森に入るそうだ。一刻ばかりもトトスを走らせれば、もうどこの氏族の狩り場ともぶつかりはしないって話だったからな」


 その区域は、比較的ギバが少ないとされている。しかし、開通工事のさなかに飢えたギバが現れて、北の民や衛兵たちを襲ったりもしたのだ。普通は50名もの人間が固まって歩いていれば、なかなかギバも近づいてこないはずであるが、飢えたギバにはそういった定説も通用しないのである。


「だけど今回は、ジェノスの人間も見届け役として同行するそうだ。森の恵みを荒らしたり、まかり間違って山のほうに足を踏み入れたりしちまったら、それこそ大ごとだからな。ジェノスの人間にとって、モルガのお山のほうは立ち入り禁止の聖域だってんだろう?」


「ええ。モルガの山を踏み荒らせばジェノスが滅ぶ、とまで言われているそうですね。俺も伝聞で聞いたぐらいですけれど」


「モルガの三獣、ヴァルブの狼、マダラマの大蛇、赤き野人がお山の怒りを体現するってやつか。俺はお隣のダバッグの生まれだが、そいつらの話はおとぎ話として耳にしていたよ。そういえば、アスタはマダラマの大蛇と出くわしたことがあるって話らしいな」


 そう言って、ザッシュマは愉快そうに笑った。


「おとぎ話の住人に遭遇するなんて、ものすごい話だよ。つくづくアスタってのは、不可思議な運命を生きるように定められてるようだな」


「うーん、そうなのでしょうかね」


 ダン=ルティムなどは、ヴァルブの狼に二度までも生命を救われたと述べていたことがある。少なくとも、森辺の民にとってモルガの三獣はおとぎ話の住人などではないはずだった。


「まあ、いったいどんな結果になるかだな。兵士どもがたまたま弱っちいギバなんざと出くわして、そいつを見事に仕留めることができちまったら、ちっとばっかりややこしいことになるかもしれないぞ」


「森辺の民を森から下ろして、トゥランの領民にする、という話ですか。そんなことになったら、森辺の民は別の森に移住することになってしまいますよ」


「その件に関してはジェノス侯が断固反対のかまえだから、何とかなるだろう。そのためにも、兵士どもがギバ狩りに成功しないように祈りたいところだな」


 そうしてザッシュマは、たくさんのギバ料理を抱えて青空食堂のほうに立ち去っていった。

 嘆息を禁じえない俺に、隣の屋台からヤミル=レイが声をかけてくる。


「浮かない顔ね。アスタは兵士たちがギバに襲われることを心配しているのかしら?」


「え? ああ、はい。こんな無茶な命令で彼らが傷つくのは気の毒ですしね。かといって、ギバ狩りの成功を祈るわけにもいかないし……まったく、八方ふさがりです」


「王都の人間などに心をかけるから、そうなってしまうのよ。アスタのお人好しは際限が知れないと、うちの家長は笑っていたわよ」


 笑われるぐらいで済むならば、幸いだ。ルド=ルウなどは昨晩、「あいつらの味方すんのかよー」と、ひどくむくれてしまっていたのである。


(ルイドを始めとする兵士たちは命令を聞くだけの存在で、ドレッグもタルオンの手の平で転がされているだけ……となると、攻略するべきはタルオンひとりなんだ。この話はカミュアごしにジェノス侯まで伝えられてるはずだから、なんとか打開策をひねり出してくれないものかな)


 そんな風に考えながら、俺が日替わりメニューの『ギバの揚げ焼き』をこしらえていると、意想外な人物が屋台の前に姿を現した。


「おひさしぶりですな、アスタ殿。何やかんやと騒がしいようですが、お元気そうで何よりです」


 アルダスを彷彿とさせる、大柄な南の民である。それは、ヴァルカスの弟子であるボズルに他ならなかった。


「ああ、どうも、ご無沙汰しています。肉の仕入れですか?」


「はい。今日は珍しいバロバロの鳥を買いつけることができました。相手の到着が遅れて、こんな刻限までもつれ込んでしまいましたが……まあ、そのおかげでひさびさにギバ料理を口にすることができるわけです」


 南の民らしい豪放さと、城下町の住人らしい礼儀正しさを兼ね備えたボズルである。《銀星堂》での会食以来となる彼は、変わらぬ様子で大らかな笑みをたたえていた。


「先日は、城下町で料理をお作りになったそうですな。その場に立ちあえなかったことを、ヴァルカスがまた大いに嘆いておりましたよ」


「そうですか。あの日は、《セルヴァの矛槍亭》のティマロとともに厨を預かることになったのです」


「ええ、聞いておりますよ。ヴァルカスは、王都の方々に不興を買ったことがあるので、お声がかからなかったのでしょう」


「え、そうだったのですか? それは初耳です」


「以前に、ジェノス侯爵からの依頼で王都の方々に料理をお出しした際、こんな得体の知れないものを口にできるかと、皿を投げられてしまったのですな。ヴァルカスの料理は外見も香りも普通ではないので、それを嫌がる御方もいらっしゃるようです」


 そんな無体な真似をしたのは、あのドレッグなのだろうか。あの酔いどれ貴族様なら、やりかねない気がしてしまう。


「ともあれ、王都の方々には早々にお引き取り願いたいところでありますな。あの方々がジェノスに居座っている限り、アスタ殿を城下町にお招きすることも、我々が森辺の集落に出向くことも、難しくなってしまうのでしょう?」


「そうですね。ジェノス侯は普段通りに振る舞ってかまわないと言っていましたが、さすがに客人を招いて祝宴を開けるような状態でもありませんし……」


「残念なことです。わたしもシリィ=ロウともども、森辺の集落に招かれる日を心待ちにしておるのですよ。それに、最近シャスカが大量に届けられたので、それも森辺の皆様方に吟味していただきたいところですな」


「ああ、そうなのですか。それは、こちらも楽しみです。……ボズルたちを森辺にお招きできる日を、俺も心待ちにしておりますよ」


 そうして言葉を重ねる内に、時刻は中天に達していた。

 ダグたちが、森辺に向かう刻限だ。何をどのように森に祈るべきかもわからず、俺はまた溜息をつきそうになってしまった。


「では、料理をいただきましょう。器を持ってきますので、少々お待ちを」


 ボズルは、街道の脇に荷車を駐めていた。そこから持ち出されてきた大量の器に、俺は目を丸くすることになった。


「ずいぶん準備がいいのですね。今日はたまたまうちの屋台に立ち寄ったのだというお話ではありませんでしたか?」


「ええ。肉の仕入れで宿場町に出向く際は、いつもこれらの器を荷車に積んでいるのです。たいていは朝方か夕刻なので、なかなかこちらの屋台に立ち寄る機会もないのですが、今日のような日に備えておるのですよ」


 それは何とも、ありがたい話であった。

『ギバ・カレー』や『クリーム・シチュー』をその器に詰めては、またいそいそと新たな器を運んでくる。きっと《銀星堂》で待つヴァルカスたちのために購入しているのだろう。どんな形であれ、ヴァルカスたちにギバ料理を食べてもらえるのは嬉しい限りであった。


「もちろん、マイム殿の料理も買わせていただきずぞ。少し汁気を多くしてもらえるとありがたいのですが、いかがですかな?」


「はい、もちろん。ヴァルカスたちにもよろしくお伝えください」


 マイムも嬉しそうに微笑みながら、カロン乳ベースの煮汁をたっぷり器に注いでいる。俺としては、早くボズルも森辺にお招きして、ミケルに引き合わせたいところであった。


(それにはまず、王都の人たちを何とかしなくちゃな。俺でも何か力になれればいいんだけど……いったいどうしたものかなあ)


 その後はぞくぞくと新たなお客がやってきて、俺も忙殺されることになった。

 中には、今日も昨日も兵士たちが森辺のほうに向かう姿を目撃した人たちなどもおり、いったい何があったのだと心配げに尋ねられることになったが、俺も型通りの返事をすることしかできなかった。真実こそが一番の武器である、とマルスタインなどはのたまわっていたものの、俺の立場からどこまで実情を話していいものか、判断がつかなかったのだ。


 が、俺のそういった想念は、数十分ほどのちに晴らされることになった。

 それを俺に教えてくれたのは、ちょっと遅めの登場となった建築屋の人々である。


「中天ぐらいにあちらの広場で、城下町からの触れが回されていたぞ。王都の兵士どもは、ギバを狩るために森辺に向かったんだって?」


 聞くところによると、城下町からの使者が広場で布告を行ったのだそうだ。

 その内容は、昨日と今日の件についてである。昨日は森辺の集落の暮らしぶりを調査するために兵士たちを派遣したが、自治権について伝達の齟齬があり、王都の監査官が謝罪をする事態に至った、ということ――そして本日は、ギバの生態を調査するために、王都の兵士たちがモルガの森に派遣されることになった、ということである。


 森辺の民を町に下ろすだとか、自警団を編成してギバの対処をするだとかいう話は、まだ伏せられているらしい。それを布告すれば、ジェノスの民は激しく反発するだろうから、マルスタインも時期をはかることにしたのだろう。


(それでも、王都の人らがその提案を引っ込めなかったら、いつかはそいつも公表するしかなくなるもんな。それで非難されるのは、王都の監査官たちなんだろうけど……このままいくと、ますます溝が深まっていきそうだ)


 マルスタインがジェノスの領主として目指しているのは、王都の人々との和解であるはずだ。しかし、王都の人々のほうが次々と強行手段を取ってくるために、それがどんどん難しい状況になってきてしまっている。

 いったいどうしたものだろう――と、ギバのロースを揚げ焼きにしながら俺が思い悩んでいると、ライエルファム=スドラが「おい」と声をかけてきた。


「あのサンジュラという男がやってきたぞ。あいつは本当に、毎日顔を出すつもりであるようだな」


 中天から半刻ほどが過ぎて、ピークが一段落した頃合いに、サンジュラは姿を現した。

 その手には、四角い包みを手にしている。


「リフレイア、汁物料理を食べたい、言っていたので、器、持参しました。こちら、料理を入れてもらうこと、可能ですか?」


「ええ、かまいませんよ。……リフレイアはお元気ですか?」


「はい。ですが、北の民、処分するべきという話、耳にして、昨日はひどく動揺していました」


 そう言って、サンジュラははかなげに微笑んだ。


「しかし、ジェノス侯、反対していると聞き、心、持ち直したようです。シフォン=チェルの兄、処分されてしまったら、リフレイア、立ち直ること、難しいと思います」


「ええ。そんな話は、俺も許せません。そもそも、森辺の民をトゥランの領民にするという話からして、俺たちには容認できませんからね」


「……王都の兵士たち、モルガの森、向かったそうですね。彼ら、ギバを狩ること、可能なのでしょうか?」


 サンジュラの言葉に、ライエルファム=スドラが「馬鹿を言うな」と声をあげた。


「たとえあいつらが優れた兵士であったとしても、それだけでギバ狩りの仕事を果たせるものか。狩人には狩人としての技というものが存在するのだ」


「そうなのでしょうか? 私、兵士と狩人、どちらもよくわからないので……いささか、不安なのです」


「……あのような甲冑などを纏っていたら、ギバを追うこともギバから逃げることもできん。何人かの生命を引き換えにすれば、一頭ぐらいは狩ることもできるかもしれんがな」


 ライエルファム=スドラが仏頂面で答えると、サンジュラは「そうですか」と息をついた。


「その言葉、信じます。ギバ狩り、失敗すること、願います」


「わざわざ他者の不幸を願う必要はない。そのような性根をしているから、お前は駄目なのだ」


 ライエルファム=スドラは、ぷいっとそっぽを向いてしまった。

 それでも、サンジュラという人間の性根を見定めるために、こうして積極的に言葉を交わしているのだろう。言葉の内容は厳しいが、俺にはライエルファム=スドラの度量の広さが感じられてやまなかった。


「……ともあれ、リフレイア、懸命に、自分の運命、立ち向かっています。私、生命にかえて、支える心づもりです」


 外見は穏やかな表情を保ったまま、サンジュラはそう宣言した。

 リフレイアとて、監査官たちにはさんざん審問を受けているのだろう。過去の罪や父親たるサイクレウスの罪をもほじくり返されて、リフレイアはどのような心情であるのか。俺にとっても、それは大きな懸念のひとつであった。


「サンジュラ、俺からもひとつおうかがいしたいのですが……」


「はい、何でしょう?」


「……リフレイアは、俺のことを恨んだりはしていないのでしょうか?」


 サンジュラは、目をぱちくりとさせていた。

 容貌は東の民そのものでも、西の民である彼は表情を動かすことを厭わないのだ。


「リフレイア、アスタを恨む理由、ないと思います。アスタ、サイクレウスにさえ、安らぎ、もたらしたのですから」


「俺はただ、リフレイアの望み通りに料理を作っただけですよ。……でも、リフレイアが俺を恨んでいないのなら、幸いです」


「本来、恨むのは、アスタのほうではないですか? リフレイア、アスタをさらいました。恨む理由、あるはずです」


 しかし、リフレイアはいちおう禁固の刑を受けて、その罪をつぐなっている。もともと定められていた期間よりは大きく短縮されることにはなったものの、それはサイクレウスの罪を裁くために爵位を継承させる必要があったためであり、森辺の族長たちも渋々ながら合意した結果であった。


 よって、森辺の民も表面的にはリフレイアやサンジュラの罪を許している。まだ敵意や警戒心を捨てきれないアイ=ファたちでも、それは懸命にこらえているのだ。


(……それをさらにもう一歩進めることが、今回の騒ぎを収める助けになったりはしないだろうか?)


 王都の監査官たちは、トゥラン伯爵家が失脚してパワーバランスが崩れたことを危惧しているのだ。サンジュラを新たな当主に据えるという話は横に置いておくとして、現在の当主たるリフレイアを盛り立てることで、監査官たちに安心感を与えることはできないものか――この辺りのことは、カミュア=ヨシュにも意見を聞いてみたいところであった。


「……リフレイア、シフォン=チェル、アスタの話、たびたびしています。ふたりにとって、アスタの存在、大きいのでしょう。恨んでいたら、そのような話、しないはずです。むしろ、リフレイア、アスタに恨まれていないか、今でも心配している、思います」


「そうですか。俺はリフレイアを恨んだりはしていません。それだけは、はっきり伝えておいていただけますか?」


「はい、リフレイア、喜ぶでしょう。……その喜び、表には、出さないと思いますが」


 そう言って、サンジュラはふわりと微笑んだ。

 かつては、シュミラルを思い起こさせることもあった、サンジュラの笑顔である。とても危うい存在でありながら、俺がサンジュラを悪人ではないと思うのは――というか、善人であってほしいと願うのは、このやわらかい笑顔をたびたび目にしているためなのかもしれなかった。


「ところで、城下町の様子ですが……今日、ダレイム、サトゥラス、両方の伯爵、監査官と会合、するようです」


「ああ、そうなのですか。それはまた大物ですね」


 ダレイム伯爵パウドと、サトゥラス伯爵ルイドロス。俺はそれほど交流を持たない両名であるが、このジェノスにおいてはマルスタインに次ぐ権力者たちである。


(でも、森辺の民を森から下ろすなんて聞かされたら、あの人たちは猛反発するだろうな。特にダレイム伯爵領なんてのは、一番まともにギバの被害を受ける立場なんだから)


 ダレイムの田畑を守るための塀の作製も、わずかずつにだが進められている。しかしそれには多大な費用と労力と時間がかかるので、完成するのは来年あたりなのではないかと言われていた。


(それで塀が完成したところで、森辺の民がギバ狩りをやめたら、森はギバであふれかえっちゃうからな。せっかくの塀も壊されるか、宿場町のほうにまで被害が出るか、あるいは近辺の街道にまで危険が及ぶかもしれない)


 森辺の民の進退ひとつで、ジェノスの繁栄は大きく損なわれる可能性が高いのだ。それがわかっているからこそ、マルスタインも森辺の民との共存を望んだのだろう。それを根底からくつがえそうという監査官たちの提案など、最初から呑めるはずもなかったのだった。


(最悪、監査官たちがジェノスなど滅んでしまえばいい、なんて考えていたら、和解もへったくれもないからな。そうでないことを祈るばかりだ)


 どうにも、マイナスの要因ばかりが頭に浮かんでしまう。

 森辺の民は、どういった方向に力を注ぐべきなのか、俺にはその道筋がまだ見えていないのだった。


(とにかく監査官たちのほうが矢継ぎ早に問題を持ちかけてくるからな。こちらからもジェノスと王都の和解の助けになるような提案ができればいいんだけど……ガズラン=ルティムあたりと相談したいところだなあ)


 そんな風に考えながら、俺は思わず上空へと視線を転じた。

 俺の苦悩など知らぬげに、ジェノスの空は今日も青く晴れ渡っていた。

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